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28.この世界の結婚事情

 クラウゼ公の屋敷を訪問し、わずか十分程で診断を下した。


「分かりました。これ以上は見なくて結構です」

「え?もう、お分りになったのですか?」

「えぇ、応接室に戻りましょう」

 姉さま、ロベリアとその母と一緒に応接室へ戻った。


「もう、戻って来られたのですか。何か分かったのですか?」

「ロベリア殿は、アレルギー性の気管支喘息きかんしぜんそくですね」

「あ、あれるぎー?ですか?」


「はい。恐らく、馬の糞尿や敷き藁、飼葉かいばほこりニワトリの糞尿、それに裏山の杉の木の花粉。病気を起こす元がこの屋敷には多くあります。ロベリア殿は生まれつきそう言った動物の糞尿やほこり、植物の花粉に弱いのです」


「そう言ったアレルゲンと呼ばれる物質を吸い込むと、アレルギーを起こして気管支が炎症を起こし、咳や呼吸困難という発作を起こすのですよ」


「先日も城の舞踏会でお姉さまとダンスを踊って頂きましたが、二曲目で発作が出ていましたね」

「あ!お分かりになっていたのですか!」


「勿論、私は医師ですからね。その発作は城の大広間で沢山の男女がダンスをしてほこりを巻き上げていて、それをロベリア殿が吸い込んだためにダンスをしている内に症状が現れて来たのですよ」

「そう言えば、人が多い場所や舞踏会では必ず発作が起こっていました」


「では、その病気はどうしたら治せるのでしょうか?」

「治せる病気ではあるのですが、この屋敷に住み続ける限りは治りません」

「え!ここに居てはいけないのですか?」

「はい。アレルゲン・・・病気の元から離れなければなりませんので。例えば厩舎きゅうしゃを撤去できますか?できませんよね?裏山の杉の木を全て切ってはげ山にできますか?これも難しいですね」


「ですから、ここから出るしかないのです。そうですね。王都の屋敷には厩舎きゅうしゃうまやはありますか?」

「えぇ、うまやは御座います」

「では、そこも駄目ですね」


「例えば、月影姉さまの居る神宮。そこは動物も居ないし、周囲に杉の木もありません。常に清潔に保たれています。その様なところで暮らせば、発作は起こらず健康な状態で居られるでしょうね」

「え!それでしたら月影さまと結婚させて頂ければ・・・」

「え?」

「あ!し、失礼しました・・・」


 思わずロベリア殿は心の声を口に出してしまったようだ。それは好都合というものだが。


「ロベリア殿。それは病気を治したいからお姉さまと結婚するのですか?それともお姉さまと結婚したいのが一番目で、病気を治すのは二番目ですか?どちらです?」

「勿論、一番目に月影さまと結婚したい・・・と思います」

 おぉ!姉さまが耳まで真っ赤になっている。


「クラウゼさま、ハイリーさま。それは公爵家として許せるお話でしょうか?」

「月影さまにはご迷惑ではないのでしょうか?それに天照さまがお許しになるのでしょうか?」


「クラウゼさま。天照家は宮司の結婚を禁止してはおりません。それにお姉さまは元より、それを望んでおられる様ですよ」

「それであれば我々は祝福します。ロベリアは長年この病気で苦しんだのです。愛する女性と暮らすことでその病気が治るのであれば、こんなに良いことはないではありませんか」


「お父上!よろしいのですか!」

「うむ。ロベリアがそれを望むのだろう?」

「私も賛成ですよ。あなたの望みが叶い、しかも病気が治るなんて素晴らしいわ」

「お兄さま!おめでとうございます!」

「ありがとう。デイジー」


「おめでとうございます。お兄さま」

「アンドレア。この家を任せることになってすまない。よろしく頼むな」

「えぇ、任せてください」


「お姉さま。良かったですね。おめでとうございます!」

「お兄さま!ありがとうございます!」

 皆が見ている前だというのに飛付いて来てしまった。


「クラウゼさま、ハイリーさま。これで、私とは更に家族の絆ができましたね。今後ともよろしくお願いいたします」

「こちらこそ。よろしくお願いいたします。後ほど、正式な婚姻願いの書簡を天照家へお送りしたいと存じます」

「あぁ、それならば、ロベリア殿の病状を考えますと、早い方が良いと思います。書簡が出来ましたら、城へ一報ください。ロベリア殿と姉さまを連れて月宮殿へ参りますので」


「え!月宮殿で御座いますか?それは・・・」

「いえ、私は船ごと瞬間移動で行けますので、今から私たちはお父さまとお姉さまの母上に報告しに月宮殿へ行って参りますので」

「瞬間移動?で御座いますか?」


「えぇ、私は一度行ったことがある場所ならば、世界中のどこであろうと瞬間移動ができるのです。船ごとでもです」

「お、恐れ入りました」


「では、今日はこれで失礼します。ロベリア殿。結婚までは足繫あししげく神宮へ通ってくださいね。何なら逗留とうりゅうという名目でお姉さまの部屋に泊まっても良いのですよ」

「え!そ、それは・・・月影さまさえよろしければ・・・」

 はははっ!ふたりとも真っ赤な顔してる。初心うぶだな・・・


「では、今日はこれで失礼致します」

 三人で小型船に乗り込むと月宮殿へ瞬間移動した。

「シュンッ!」


「うわっ!消えた!」

「お兄さま!何が起きたのですか?」

「月夜見さまのお力で、ここから船ごと月宮殿へ瞬間移動されたのだろう」

「まぁ!なんてことでしょう!」


「これから、あの神さまが私たちと家族になるのですね・・・」

「信じられません・・・」

「ロベリア。でかしたな!」

「そ、そうなのでしょうか?」




 月宮殿へ月影姉さま、ステラリアと三人で瞬間移動した。


 と言っても、無理矢理に庭園の向こうの野原に降ろしたのだ。この船は小型船で、この月の都の高さまでは上昇できないからだ。扉を開くと三人で庭園の端から歩いて宮殿に入る。


「月夜見さま。私の様な者が月宮殿に足を踏み入れても良いのでしょうか?」

「え?ステラリアは生涯僕と一緒に居るのでしょう?それならいつかはここで一緒に暮らすことになるかも知れないではありませんか」

「え!そ、そんなことに?」

「それにこうやってちょくちょく戻りますから、侍従なら一緒に来て当然ですよ」

「は、はい。そうですね」


「ただいま!戻りましたよ」

「あ!お兄さま!」

 目聡めざとく僕を見つけた結月ゆづき姉さまが飛付いて来る。僕の頬に自分の頬をすりすりとこすりつけながら、月影姉さまを横目でちらりと見て、

「あら、お姉さままで!」


「まぁ!結月ったら。お兄さまにしつこくしては嫌われてしまいますよ!」

「そんなことはありません。ねぇ!お兄さま!」

 ステラリアに気付いた結月姉さまは動きを止める。

「うっ!・・・あ、あの。そ、そちらの方は?」


「あぁ、姉さま。こちらはステラリア。僕の侍従です」

「じ、侍従?そんなに綺麗な人が?嫁ではなくて?ですか?」

「えぇ、嫁ではありませんよ」


「それより、お父さまとマリー母さまは居ますか?」

「はい。すぐに呼んで来ます。応接室で待っていてください」


 応接室にすぐにお父さんとマリー母さまが来てくれた。

「まぁ!月影!どうしたのですか?あら?ステラリアまで!」

「おぉ、其方がステラリアか。月夜見が世話になっている様だな。ありがとう」

「あ!い、いえ、お世話になっているのは私の方で・・・あ、あの。改めまして、月夜見さまの侍従を務めさせて頂いております。ステラリア ノイマンで御座います」


「うん。私が天照 玄兎だ。知っていると思うが、妻のマリーだ」


「それで、月夜見と月影。どうしたのかな?」

「はい。つい先ほど、月影姉さまの結婚が決まりましたので、申込みの書簡が届く前にお知らせしに参りました」

「え!月影が結婚ですか?本当に?」

「どの様なきっかけで結婚に至ったのかな?」


「先日お話しした、お見合い舞踏会です。二回目を開催したのですが、かねてから神宮で面識のあった公爵家の長男と相思相愛であることが分かったのですよ」

「え?公爵家の長男?結婚できるのですか?どこの家なのですか?」

「マリー母さま。クラウゼ公爵家の長男ですが、既に次男が世継ぎになることが決まっていたのです」


 そして、長男の病気の話をして、神宮で暮らせば喘息ぜんそくの発作は起こらないことを伝えた。


「なるほど。そんな理由があったのだな。そうでなければ公爵家の長男と結婚できるはずはないからな」

「良かったですね。月影。あなたは本当に幸せね」

「はい。お母さま。全てお兄さまのお陰です。お兄さまにお膳立てして頂けなかったら、このお話はなかったと思います」


「月夜見さま。本当にありがとうございます。あなたには私の家族全員を助けてもらっていますね」

「えぇ、家族なのですから。当然です」


 その後、昼食を一緒に頂くことになり、ステラリアも僕の意向で同席させてもらった。

まずは、一足早いが月影姉さまの婚約を発表し、皆で盛大に祝った。


「月影姉さまが結婚できたのならば、私たちもできるのでしょうか?」

「結月姉さま。きっとできますよ」

「えー!でも私はお兄さまと結婚したいのですが・・・」

「だから、それは駄目です!」


「私ももうすぐ宮司になるのです。私は結婚できるでしょうか?」

「そう言えば、詩月しづき姉さまのラナンキュラス王国でもお見合い舞踏会をやることになっているのです。風月ふうげつ姉さまが行かれるカンパニュラ王国でも開催したら如何でしょう?」

「えぇ、是非、開催する様、お母さまにお話ししますわ」

「オリヴィア母さま、お願いします!」


「それよりも月夜見さま。そちらの方。聞いたお話より何倍も美しいではありませんか?」

「そうなのです。先日の舞踏会では、出席者の注目の的になって始まった途端に何人もの殿方がステラリアさまの元へ走って行かれたくらいなのですよ!」

「本当にそうでしたね。姉さま」


「まぁ!そんなに?」

「ドレスや宝石もお兄さまが全て贈っているのですよ」

「まぁ!何ですって!ドレスに宝石まで?私は何も頂いたことがないのに・・・」

「オリヴィア母さま。お父さまが居るではありませんか。普通は義理の息子から贈り物は差し上げないと思いますが?」


「えぇーっ!でも欲しいです。ステラリアがうらやましいわ。まだ若いし。これからずっと月夜見さまと一緒に居られるのでしょう?その上、贈り物まで頂くなんて・・・」

「は、はい。私などに勿体ないことだと存じております・・・」

 あ。ステラリアが下を向いてしまった。


「そうね。あなたももう分かっていると思いますが、月夜見さまはこれから成人されたら世界で指折りの美男子になられるのは間違いないのです。その横に立つ者が貧相ではなりません。もっと自分に磨きをかけるのですよ!」


「そ、それは剣術の腕前ということではなく。で御座いますか?」

「何を言っているのですか!剣術などどうでも良いのです。月夜見さまは守る必要のない程の能力をお持ちなのですからね。あなたがより美しくならねばならないと申しているのですよ」

「わ、私が・・・美しく。で御座いますか?」


「まぁまぁ!ステラリア。既にあなたは美しいわ。でもより美しくなるという気持ちを持ちなさいということですよ」

「そうね。まずは、その後ろに髪をまとめるのはお止めなさい」

「え?でも剣術の邪魔になってしまうので・・・」

「そういうところですよ。あなたは剣聖なのでしょう?」

「はい」


「剣聖であれば、髪が邪魔とか言うのではなく、髪を美しく保ちながらでも月夜見さまをお守りできる様に精進なさい」

「あ!はい。左様で御座いますね。かしこまりました」


「あとはそうですね。月夜見さまにまとわりつく虫が居たら排除するなり、近付けなくするのです」

「シルヴィア母さま、近付けなくするとはどういうことですか?」

「月夜見さま。あなたさまが成人されたら、世界中の女たちが一斉に群がる様になるでしょう。ひとり一人断っていたら外を歩くこともできなくなります。その様な女たちが近付けなくなる程に、月夜見さまの隣に立つステラリアが、美しくなければならないのですよ」

「え?僕って、そんなに?」


「えーえーそうですよ。恐らく、月夜見さまが一番分かっておられないのですよ」

 そこからは、七人の母さまと十人の姉から自分がどれだけ美しいか、いい男なのかを聞かされた。


「兎に角、月夜見さまならば、世界中の王家と貴族の娘たちから結婚の申込みが来ますよ」

「ジュリア母さま。それは大袈裟では?」

「月夜見。以前の世界会議で月夜見が成人するまでは無理な結婚の申込は控えろと、父上が通達したから申し込みが来ていないだけなのだぞ」


「え?そ、そう言えば、お爺さまが最後にそんなことを言っていたかも知れませんね」

「そうだ。恐らく、成人になった途端に申し込みが殺到するだろうな」

「お兄さまは、妻を何人お迎えになるのですか?」

風月ふうげつ姉さま。何人って・・・ひとりでは駄目なのですか?」


「駄目です!」

 十七人の女性に一斉に駄目出しされた。


「月夜見。良い機会だから話しておくがな。私の時も成人となる前、十歳くらいの時には結婚の打診は来ておったのだ。結婚適齢期の娘が居る王家は必ず申し込んで来る。私はまず七人と結婚し、それで世継ぎを授からなかったからアルメリアにも来てもらった。父上でも五人の妻が居るからな」


「王家には体裁ていさいがありますからね。それでも三人くらいは普通です。貴族になればもう、経済的に許す限りは欲しいだけ嫁にしていますよ」

「そうですか。僕には結婚のことは、まだ考えられそうにありませんが・・・」


「うん。すぐに決めることはない。そのためにネモフィラへ行っているのだからな。だが、それは知っておいた方が良いと思って話しておいたのだよ」

「分かりました。ありがとうございます」


 その後、神宮の二人の部屋の改築の進め方などを話して引き上げることとなった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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