27.お見合いの成功
月影姉さま待望の第二回お見合い舞踏会の日となった。
今回は初めから月影姉さまのサポートに徹する予定だ。
でも、ちょっとだけ問題があった。ステラリアがちょっと目立ち過ぎというか、もう主役の様だった。全ての出席者の視線が突き刺さる。
初めからステラリアはソワソワしていたのだ。明らかに美しさのレベルが違っていて、この城の王女さまの様だった。今日はお母さんが居ないから尚更だ。もう一人勝ち。って奴だ。
「月夜見さま。何だか視線が皆、こちらを向いている様に思うのですが・・・」
「それはステラリアが美しいからですよ」
「恥ずかしいのですが・・・」
「舞踏会なんてそんなものでしょう?」
すると男性が数名、近寄って来た。
「あ、あのステラリア ノイマンさまでしょうか?」
「え?えぇ、そうですが?」
「舞踏会に参加されていらっしゃるのですか?」
「あ、い、いえ、私は、月夜見さまの侍従としてお供しているに過ぎません」
「つ、月夜見さまの侍従!になられたのですか!」
「えぇ、そうですが。何か?」
「い、いえ、で、ではご結婚は?」
「私は生涯、月夜見さまの侍従ですので・・・」
「そ、そうですか・・・残念です」
皆、肩を落としてすごすごと戻って行った。
「ほら。ステラリア、皆、君にぞっこんではありませんか!」
「そんな!私なんて・・・」
本当に自信がないのだな。鏡見たことないのかな?
「まぁ、いいや、今日はお姉さまの補助に徹するのですから。どこに居るかな?」
赤いドレスを探す。何人か居るけれど、すぐに見つかった。今のところひとりで居る様だ。
ちょっと声を掛けてみようかな。
ステラリアと腕を組み、空中浮遊しながら引っ張って行く。
「お姉さま!」
「あ!お兄さま」
「お姉さま。そのドレス、素敵ですね。ネックレスもとても良く似合っていますよ」
「ありがとうございます。ステラリアさまも本当にお美しいです。注目の的ですよ」
「まぁ!そんな・・・」
「ところでお姉さま。まだおひとりですか?」
「そうなのです。まだ、どなたも声をお掛けくださらないのです」
「ご自分からは声を掛けないのですか?」
「えぇ!そんな!恥ずかしいではありませんか!」
「でも、声を掛けて頂けなければ、このまま終わってしまいますよ?」
「そ、それはそうなのですが・・・」
「お姉さまのお好みは、どの様な殿方なのですか?この会場に居ますか?」
「そ、それは・・・実は・・・」
「なんだ。居るのですね。どの人でしょう?」
その時、お姉さまが振り向いて真っ直ぐに見つめたその男は・・・壁の花になっていた。いや、それは女性に使う言葉だ。訂正。壁の前に突っ立っていた。
仕方がない。ちょっと偵察して来よう。
「お姉さま、ちょっと見て来ますね。ステラリア、行こう」
「はい」
「ちょっと、お兄さま!どうする気ですか!」
姉さまが僕の腕を引っ張る。
「え?何を考えてあんなところに突っ立っているのか聞いてきますよ。ところで、あの人の名前は?」
「え?聞いて来るのですか?あ、ロ、ロベリアさま・・・です」
「ロベリアですね。ふーん。顔がお好きなのですか?良い男ですね」
「お顔は・・・そ、そうですけど・・・」
姉さま、顔が真っ赤だな。
「姉さま、ロベリア殿は前回の舞踏会でも居ましたか?」
「はい。いらっしゃいました」
「そうですか。それではちょっと行って来ますね」
ステラリアとその男のところへ向かう。
「あの方はロベリア クラウゼさま。クラウゼ公爵の長男だったかと。私の二歳下です」
「え?ステラリアの二歳下って二十歳か。公爵家の長男?それが何故、その年で結婚していなくてこんなところに?」
「噂で聞きましたが、第二夫人が先に長男のロベリアさまを生んだのですが、小さい頃から病弱だったらしいのです。その後に第一夫人が次男を生んだので、そちらを世継ぎと決めた様です」
「では、公爵家の長男でありながら体調を理由に世継ぎから外され、結婚もままならなくなってこの場に居ると・・・」
「おおよそ、その様に聞いております」
「それは不憫なことですね。病弱とはどんな病気なのかな?」
「まぁ、心を読んで分からなければ直接聞いてしまった方が良いな。行ってみましょう」
「はい」
僕らはゆっくり近付いて行く。彼の心を探りながら。
『あれ、月影さまと話していた月夜見さまがこちらへ来るぞ。どうしよう』
『僕が月影さまばかり見ていたのに気付かれたのだろうか』
『僕の様な者は月影さまに相応しくないから見るなと言われるのかな』
うーん。何かかなり消極的な負のオーラが・・・どうしよう。
えーい、ままよ!時間ももったいないし、直接聞いてしまえ!
「初めまして。月夜見と申します」
「あ!あの。わ、私は、ロベリア クラウゼと申します。お会いできまして光栄に存じます」
「ロベリア殿。どうしてこんなところにひとりで立っておられるのですか?」
「あ。い、いえ、これは、その、特に理由はないのですが・・・」
「では、向こうに私の姉の月影姉さまが居るのですが、良かったらご一緒にお話ししませんか?」
「え?私がですか?ご一緒してもよろしいのでしょうか?」
「あなたは公爵家の長男なのでしょう?」
「は、はい。一応、長男ではありますが、世継ぎには選ばれておりませんので・・・」
「是非、その辺のお話もお聞かせください。では参りましょう」
半ば強引に引っ張り出してみた。なんか色々と自信がなさそうだが。
「お姉さま。こちら、ロベリア クラウゼさま。クラウゼ公爵家の長男だそうです」
「ロベリア殿。こちらが私の姉、月影です」
「私はフレディ クラウゼ公爵の長男でロベリア クラウゼと申します。以後、お見知りおきを」
「存じております。ロベリアさま」
「あ、はい。そうでしたね。月影さま」
「なんだ。お二人はお知り合いだったのですか?」
「あ、はい。神宮でお世話になっておりますので・・・」
「え?神宮で?ではどこかお身体が悪いのですか?」
「はい。子供の頃から病弱でして、今も神宮へ通っております」
「それで月影姉さまとお知り合いなのですね」
「それで、お姉さま。ロベリア殿はどういった病状なのですか?」
「胸の病気です。呼吸が苦しくなり、夜になると咳が止まらなくなるそうなのです」
「ふむ。それで、どの様な治療を?」
「はい。胸の炎症を抑える治癒をしています。前任の千月伯母さまから引継ぎ、長年続けているのですが中々完治しないのです」
「ロベリア殿、それはいつからでどの様な症状なのでしょうか?」
「はい。確か二歳位からで、夜寝静まった頃から咳が止まらなくなり、息苦しくて眠れなくなるのです」
僕はロベリアの胸。主に気管支と肺を透視して隅々まで検査する。
「あぁ、なるほど。眠ってしばらくすると呼吸がぜーぜー言い出すのですね。それで理由が分からず、子供の頃から神宮へ通ったと。では学校も満足に行っておられませんね」
「何故、その様にお詳しいのでしょう?」
「ロベリア殿の病気をよく知っているからですよ」
「え?お分りになるのですか?」
「えぇ、それは気管支喘息という病気です」
「きかんしぜんそく?そ、それは治せるのですか?」
「えぇ、治せますよ」
「ほ、本当ですか!」
「えぇ、ただし、今すぐには治せません。まずは、ロベリア殿の屋敷を見てみないといけませんね」
「私の屋敷が何か?」
「恐らくそこに病気の原因がある筈なのですよ。それを見極めないと病気は治せません」
「近々、月影姉さまと一緒にお休みの日に伺いましょう。では姉さま。この後、お二人で話して、いつ私と姉さまが屋敷へ伺うか決めておいてください」
「それとロベリア殿の今日の体調を確かめるために、ダンスを踊ってみてください。息が苦しくなったか後で教えてくださいね」
「え?あ、お、お兄さま!」
「頼みましたよ。ロベリア殿」
「月夜見さま?ダンスで病気が分かるのですか?」
「ステラリア。そんな訳ないではありませんか!」
「まぁ!騙したのですか?」
「そうでもしなければ、あの二人はダンスなんてどちらも言い出せないでしょう?」
「それはそうかも知れません。でも病気のことは本当なのですか?」
「えぇ、私の地球での専門は婦人科と産科それに呼吸器科ですからね。私の得意分野ですよ。この様な場所でダンスを踊ればどうなるのかも分かります」
「ステラリア。もし、ロベリアが世継ぎから外されているとしてですよ。公爵家から出るということはあり得るのでしょうか?」
「そうですね。次男が世継ぎで決まっているならば家を出ることは問題ないかと。でも病気が治るのであれば、やはり長男に世継ぎをということもあるかも知れませんね」
「それでは姉さまとの結婚は難しいですね。姉さまと結婚するためには神宮へ入ってもらわないといけませんからね」
「これはやはり、クラウゼ公の屋敷へ行かなければ分かりませんね」
その後、遠目で見ていたら、二人は仲睦まじく会話を楽しみ、食事をして、その後ダンスを踊っていた。一曲は普通に笑顔で踊っていたが、二曲目は途中で止めてしまった。恐らく、喘息の発作が始まったのだろう。
「やはり喘息だな」
ダンスは途中で断念したが舞踏会の最後まで会場の隅に二人で座り、楽しそうに話していた。あんなに幸せそうな姉さまの顔を見たら、応援しない訳にはいかないではないか!
数日後、クラウゼ家を訪問する日が決まった。
クラウゼ家訪問当日。朝から月影姉さまは落ち着きがない。
「お兄さま、今日、ロベリアさまのお屋敷へ行ってどうされるのですか?」
「姉さま。それは診察ですよ。まずはロベリア殿の生活環境を見て、病気の原因を見つけるのです」
「それで、ロベリアさまの病気は治せるのですか?」
「恐らく治せるでしょう」
「本当ですか!」
「それより、姉さまに聞いておきたいのですがロベリア殿と結婚したいですか?」
「え?」
「どうなんです?」
「そ、それは・・・できるならば・・・でも私は宮司ですし・・・」
「はいはい。したいのですね?」
「え?でも・・・できるのでしょうか?」
「僕に任せておいてください」
「お兄さま・・・」
月影姉さまと小型船に乗り、ステラリアの操縦で王都ではない公爵の領地の城へと飛んだ。公爵家なので王都から一番近い領地ではあるが広大だ。その城は山の裾野にあった。
「これは、ようこそお出でくださいました。当家の主、フレディ クラウゼ公爵で御座います。こちらは妻のローレン ハルトマン クラウゼ、その息子アンドレア、そして二番目の妻のハイリー クライン クラウゼ、その息子ロベリアと娘のデイジーです」
「月夜見です。初めまして。よろしくお願いします。こちらは、私の姉でネモフィラ王都の神宮の宮司、月影です。それに私の侍従のステラリア ノイマンです」
「月影です。よろしくお願いいたします」
「ステラリア ノイマンです」
「あの。ハイリーさま。クライン家とは私の伯母のシオン クライン ネモフィラと同じ辺境伯家のご出身ですか?」
「はい。シオンは私の異母兄弟で御座います。いつもお世話になっております」
「そうでしたか、シオン伯母さまは先日、私の指導で男の子を授かったのですが、クライン家の世継ぎにすると聞いていますが?」
「はい。その様に決まっております。重ね重ね御礼を申し上げます。ありがとうございました」
「そうですか。まぁ、今日はそのお話ではありませんでしたね。ロベリア殿の病気の件でお宅を拝見しに参りましたので」
「えぇ、私の実家をお救い頂いたばかりか息子までお世話になるとは・・・それで、この城のどんなものをお見せすれば良いのでしょうか?」
「えぇ、まずはロベリア殿の部屋ですね。次に一番多く行かれるところです。食堂とかサロンでしょうか?あとは、この城に居る時によく出向かれる場所があればそこも見ます」
「はい。では自分の寝室、食堂、応接室、サロンそれに厩舎でしょうか」
「あぁ、厩舎ですか・・・分かりました。まずは寝室からですね」
その部屋は十分に広く、そして一見、清潔に見えた。窓を開けるとそこは城の裏側となっていた。そこには城の裏側に沿って厩舎があり、その向こうは馬場になっている。
その先はすぐ山だった。山には杉と思われる木々が林立していた。厩舎の周りにはニワトリが闊歩していた。
「分かりました。これ以上は見なくて結構です」
僕はロベリア殿の病気の原因を突き止め、皆にそう告げた。
お読みいただきまして、ありがとうございました!