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26.女性への贈りもの

 月影姉さまに新しいドレスを贈るために服飾工房へやって来た。


「それで、本日はどの様なものを」

「私のお姉さまにドレスを贈ろうと思いまして」

「月影さまですね。かしこまりました。ではいくつか新しいドレスができておりますので、ご覧頂ければと思います」

「お兄さま!私にドレスをくださるのですか!」


「勿論ですよ。新しいドレスを着て舞踏会で目立って頂かないと」

「まぁ!ありがとうございます」

「良かったわね。月影」

「はい!」


「あ!そうだ。折角だからお母さまとステラリアのドレスも作りましょう!」

「私もですか?」

「お母さま。最近、ドレスを新調されていないのではありませんか?」

「それは・・・確かにそうですね」

「それならば、丁度良いではないですか」


「ステラリアもドレスを選んで来て!」

「え!私はもう十分に頂いています!」

「でも、今度の舞踏会も僕のパートナーになってくれるのでしょう?」

「それは勿論、お受け致しますが・・・」


「では、同じドレスという訳にはいきませんよ」

「私は大丈夫です」

「僕が駄目なのです。お願いします!ステラリア!」

「あっ、そ、そんな・・・わ、分かりました・・・」


「ステラリア。ありがたく頂けば良いのですよ」

「アルメリアさま。良いのでしょうか?」

「良いのです!さぁ、向こうで選びましょう」

「は、はぁ・・・」

 ステラリアは真っ赤になって抵抗していたな。でもあれくらい言わないともらってくれないしな。


 月影姉さまは赤いドレスにする様だ。胸が大きく開いていてアピール度が高い。流石に積極的になっている人は大胆だな。


「月夜見。ちょっと見てもらえますか?」

「はい。お母さま」

「こちらとこちらではどちらが好きですか?」

「僕がですか?お母さまのお好きな方で良いではありませんか」

「月夜見に選んで欲しいのです」


 ひとつはピンクにも見える紫を基調とした、レースのデザインが華やかなもので、胸も大きく開いている。もう一方は濃い目の青のドレスだが、一目で落ち着いているといったデザインだ。胸元も左程大胆ではない。


「僕なら、お母さまにはこちらを着て頂きたいです」

「まぁ!この大胆な方を?」

「お母さまの若さと美しさを引き立てるのはこちらですよ」


「私は母なのですよ」

「母である前にひとりの若い女性です。美しくあるべきです」

「月夜見。あなたって・・・」

 何か、お母さんが真っ赤になっている。


「流石は月夜見さま。お目が高くていらっしゃいます!アルメリアさまならば、こちらの方が、とお薦めしていたので御座います」

「そうですね。普段使いもして頂きたいので、あと二、三着。この若さを強調する方向で見繕ってください」


「ちょっと!月夜見ったら!」

「お母さま。お願いします!良いでしょう?」

「は、はい。では・・・」


「ビアンカ。ステラリアも遠慮がちでいけないのです。あなたのお薦めはどれなのですか?」

「まぁ!それでは、ステラリアさまはアルメリアさまと同じ様に身長がお高く、胸も大きくていらっしゃるので、こちらなんかが映えると思うのです」


 それは、輝く薄桃色のシンデレラの様なドレスだった。髪の色とシンクロする。


「これは素晴らしいですね。ステラリア。如何ですか?」

「これはちょっと派手過ぎるかと・・・」

「そうでしょうか?ステラリアはこれ位のドレスを着ないと、ステラリアの美しさにドレスが負けてしまいますよ」


「月夜見さまのおっしゃる通りです。ですから先程からお薦めしていたので御座いますよ」

「舞踏会で本当にこれを着るのですか?」

「嫌なのですか?」


「あーっ。その、いえ、嫌な訳はないではありませんか・・・その・・・」

「ステラリア。もう観念なさい」

「は、はい。アルメリアさま」


「ビアンカ、ステラリアと月影姉さまにも、あと二、三着、見繕ってください」

「かしこまりました!」


「えぇ!そんなに頂けません!」

「ステラリア。あなたは僕の侍従なのでしょう?違いましたっけ?」

「いえ、侍従で御座います」

「では、僕の隣に立つ者として相応しいドレスが必要ですよね?」

「は、はい。かしこまりました」


 お母さまが小さな声で僕に囁く。

「月夜見。ドレスだけでなく、宝石や靴も必要になってしまうのですが」

「そうですね。この後、参りましょう」


 舞踏会用のドレスの他にも普段着るものも追加で選び、ひとり当たり七、八着は購入した。

全て城へ届けてもらう様に頼んだ。


「代金はお幾らでしょう?」

「はい。まとめてお求め頂きましたので、勉強させて頂きます。白金貨三枚で結構です」

 僕は自分の部屋の金庫として使っている引出しの中から白金貨を引き出す。

「シュンッ!ちゃりんっ!」

 てのひらに現れた白金貨三枚をビアンカに支払う。

「ありがとうございました!」


「つ、月夜見さま。白金貨三枚って・・・私、初めて白金貨を見ました」

「ステラリアは見たことがないのかい?」

「はい。初めて見ました。存在を知らない人の方が多いのですよ」

「え?そうなの?そんなに高いの?」

「だ、大丈夫なのですか?」


「まぁ、大丈夫でしょう。さぁ、次は靴屋へ行きましょう」

「え?まだ買うのですか?」

「ドレスに合わせた靴が必要でしょう?」


 服飾工房から靴屋は数軒隣だった。

「デニス。元気でしたか?」

「こ、これは、アルメリアさま。ご無沙汰しております!」

「こちらは息子の月夜見とマリーの娘の月影、それと月夜見の侍従でステラリアよ」

「これはこれは、月夜見さまでいらっしゃいますか。お噂はかねてより伺っておりました。お会いできまして光栄に御座います。コンティ靴工房の主、デニス コンティで御座います」

「初めまして、月夜見です。よろしくお願いします」


「そちら様は、剣聖 ステラリア ノイマンさまでいらっしゃいますか?」

「えぇ、よろしく」


「さぁ、どうぞ、お入りください。今日はどの様なものをお探しでしょうか?」

「はい。こちらのご婦人方に舞踏会用と普段使い用で新しく靴を購入したいのです」

「五、六足ずつ見繕ってください」

「お、おひとり当たり五、六足で御座いますか!は、はい!かしこまりました!」

 デニスは熟練の靴職人でありながら一流の接客もこなす紳士だ。


 この世界の靴も既に色々な用途やデザインがある様だ。女性用ではハイヒールやパンプスにブーツだって普通にあることが分かった。次々に試着してポイポイと購入を決めて行く。代金は二十足で大金貨七枚だった。


「さぁ、最後は宝石店だね」

「ステラリア。デュモン宝石店へ行って頂戴」

「はい。かしこまりました」

 宝石店は城に一番近い一等地にあった。


「クレメント。お久しぶり」

「アルメリアさま!おなつかしゅう御座います。そちらは月夜見さまに月影さま、それにノイマンさままでお揃いで!」

「初めまして。月夜見です」

「初めまして。私のことが分かるのですか?」


「はい。月影さま。宝石店ではあらゆる王族、貴族とそのご家族を存じあげております」

「まぁ!そういうものなのですか?」

「はい。それが商売というものですので」


 こちらは生粋の紳士だ。その辺の下級貴族よりも貴族然としている。落ち着いていて品があって宝石でも人間でも一目でその質を見抜いてしまいそうな鋭い目をしている。


「ステラリア ノイマンさま。初めてお目に掛かります。クレメント デュモンで御座います」

「ステラリア ノイマンです。よろしく」


「本日はどの様なものをお探しでしょうか?」

「はい。こちらの女性たちが舞踏会で身に付ける宝石をお願いします。三人とも胸が大きく開いたドレスなのです」


「かしこまりました。ではネックレスに指輪とイヤリングをセットにしたものでよろしいでしょうか?」

「えぇ、そうですね」

「お兄さま。アルメリア母さまだけでなく、私も買って頂いて良いのですか?」

「勿論です。月影姉さま。ステラリアもですよ」


「え?私は宝石なんて頂けません!」

「どうして?だって、ドレスとセットでしょう?」

「月夜見さま。お値段が全然違うのですよ!」

「そんなに違うのですか?」


「その赤い大きな宝石の付いたネックレスはステラリアの瞳に似合うと思うのですが、お幾らなのですか?」

「はい。流石はお目が高い。こちら最高級のルビーとダイヤ、白金を使いましたネックレスで・・・白金貨二枚で御座います」

「なんだ。そんなものか。ほら、大丈夫でしょう?」


「え!だ、だ、だ、大丈夫では御座いません!アルメリアさま!」

「月夜見は少し、金銭感覚がズレているかも知れませんね」

「え?駄目なのですか?」

「そうですねぇ、その金額は王家か、公爵家の者が結婚の記念に贈るものでしょうか・・・」


「でもステラリアに凄く似合うのに!駄目ですか?」

「勿論、月夜見が良いならば構わないのですが」

「それなら良いではありませんか」

「そんな!わ、私がそんな・・・」

 ステラリアは顔が真っ赤になって声が出なくなってしまっている。


「お母さま。お母さまにはその隣の青い宝石のネックレスがお似合いだと思うのです」

「そ、それもかなり、お高いかと・・・」

「はい。こちらはブルーサファイアの質が最高級なのです。また、それを引き立てるダイヤが多く使われておりますので、白金貨三枚で御座います」

「ほほほっ!そ、それは素晴らしいお値段ですこと・・・」


「では、お母さまはそれで良いですね」

「つ、月夜見!そ、そんな。あなた、どれ程お金を持っているのですか!」

「そうですね。最近ではちょっと数えるのが面倒になったので分からないですけれど、白金貨なら百枚以上ありましたね」

「えぇーーーっ!」

「お、お兄さま!そんなに!」


「だから大丈夫でしょう?ね!」

「お姉さまはどれが良いですか?ドレスが赤でしたよね。この緑の大きな宝石は如何ですか?」

「え!こんなに大きな宝石のネックレス見たことがありません」

「そちらは、エメラルドで御座います。ここまで大きな石はそう滅多に出ないのです。勿論、多数のダイヤが散りばめられ、白金を使用しております。こちらは白金貨二枚となっております」


「では、その三つのネックレスとそれに合った指輪とイヤリングも頂きましょう」

「かしこまりました。すぐにお出し致します」

「こちらに、様々な宝石を使いました、指輪とイヤリングをご用意致しました」

「さぁ、お母さまから選んでください」

「え?で、では、そうですね。このダイヤモンドを」


「ステラリアは、どれが良い?」

「あ、あの、私にはこんな高価なものは選べません」

「では、ステラリアの瞳と同じ色のルビーが・・・あ!いや、こっちのこれは?」

「はい。ピンクサファイアで御座います」

「これって、ステラリアの髪の色みたいできれいだよね。これが良いな」


「お目が高い!この大きさはもう何年も出ないだろうと言われる最高級品なのです!」

「では、これで。あ。でもイヤリングはルビーにしてください」

「完璧で御座います!」

 あれ?ステラリアが遠い目をしている。大丈夫かな?


「お姉さまは?」

「私ですか・・・んーそうですね。やはりこの青い宝石が良いでしょうか?」

「はい。ブルーサファイアですね。かしこまりました」

「お姉さまの瞳の色と合っていて素敵ですね」

「お兄さま、本当にありがとうございます!」

「では、指輪の寸法を測らせて頂きます。こちらへどうぞ」


 全ての宝石を選び、寸法を測って帰ることとなった。

「全部でお幾らですか?」

「はい。白金貨十五枚で御座います」

「はい。十五枚ね。ちょっと待って」

「シュンッ!じゃらっ!」

 両手一杯の白金貨が現れ、そのままクレメントに支払う。


「確かに頂きました。ありがとうございます」


 店の前で小型船に乗ると、ステラリアが固まって動かない。

「あ、あの、月夜見さま。よろしければ城まで瞬間移動をお願いできないでしょうか?」

「え?うん。分かった。それじゃ、行くよ」

「シュンッ!」


 城の玄関に付くと、

「月夜見。ステラリアを連れて私たちの部屋へ瞬間移動して待っていてください」

「はい。お母さまは?」

「月影を送ってから戻ります」

「分かりました」


「ではお姉さま、また」

「お兄さま。今日はありがとうございました」

「お姉さま。舞踏会を楽しみにしていますね。ではステラリア、行きますよ」

 僕はステラリアを抱きしめて部屋へ飛んだ。


「シュンッ!」

「ステラリア。どうしたの?顔も赤いし。どこか具合が悪いの?」

「月夜見さまに買って頂いた宝石の値段があまりにも高価過ぎて・・・」

「あーそんなことか。僕はお金の使い道がないからね。一度使ってみたかったんだ」


「これから毎日、あんな風にお金を使う訳ではないよ。それにお母さまもお姉さまもステラリアも僕にとって大切な人だからね。贈り物がしたくなったんだ」


「駄目なことだったかな?」

「い、いいえ、そんなことは御座いません。でも、私にはもったいなくて・・・」

「どうして?ステラリアに相応しいドレスと宝石だと思ったから贈ったんだよ?」

「ほ、本当ですか?」


「僕が君をからかっていると思っているの?確かにベロニカのことはたまにからかうけど、でも僕はベロニカを本当に可愛いと思っているし、大好きだからね。ステラリアも心から美しいと思うし、大好きだよ」


「月夜見さま・・・うっうっううう・・・」

 ステラリアが泣き崩れてしまった。どうしよう!


「ステラリア!どうしたの?僕が悪いのかい?」

「月夜見さま。わ、私、今まで女性としてこんなに大切に扱われたことがなかったのです。それに宝石なんて初めて頂いてしまって、どうしたら良いのか・・・」


 床にひざまずくステラリアの首に腕を回して抱きしめた。ステラリアは子供の様に泣き出した。


 しばらく、そうしていたらお母さんが帰って来た。

「あらあら、そうなってしまったのね」

「お母さま・・・」

「ステラリアは嬉しかったのよね」

「は、はい・・・」

「それなら良かったわ」


 今日はまたひとつ勉強した。女性への贈り物って難しいのだね・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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