24.マリッジブルー
ニナたちの動画撮影が終わり、お母さんとステラリアの出番だ。
「皆、お母さまを連れて来るから、ちょっと待っててね」
「シュンッ!」
「お母さま。準備は如何ですか?」
「えぇ、今、できたところですよ」
衣裳部屋から出て来たお母さんを見て不覚にも少し動きが止まってしまった。
「あら、どうしたのですか?」
「あ!お母さまがあまりにも美しくて・・・驚いてしまいました」
「まぁ!月夜見ったら。ふふっ」
「では、お母さま行きましょうか」
僕は宙に浮いてお母さまに抱きついた。というより抱きしめてしまった。
そして、そのまましばらく動けなくなってしまった。この気持ちは何なのだろうか?
「月夜見?どうしたの?」
「あ。すみません。今、飛びます」
「シュンッ!」
「まぁ!アルメリアさま。とてもお美しいです」
「リア、ありがとう」
「では、ステラリアを迎えに行って来ます」
「シュンッ!」
僕は寄宿舎のステラリアの部屋の前に着いた。扉をノックする。
「ステラリア。準備はどうかな?」
「月夜見さま。どうぞ」
扉を開いて中に入る。すると初めに贈った青いドレスを着て髪を降ろしていた。
「あぁ。ステラリア・・・本当に綺麗だね」
「まぁ!月夜見さま・・・そんなこと」
「では、行きましょうか?」
「はい」
僕は宙に浮くとステラリアに抱きついた・・・いや、またしても抱きしめた。
「あ・・・月夜見さま・・・」
やはりそのまましばらく動けなくなった。
この気持ち・・・お母さんの時と同じだ。
「月夜見さま?どうされたのですか?」
「あ!い、いや、何でもないんだ。今、飛ぶね」
「シュンッ!」
「まぁ!ステラリアさま!なんて素敵なんでしょう!」
「お美しい!」
「素敵です・・・」
「さて、ではお母さまから撮影しましょう。そこに立ってこのカメラに向けて挨拶をして頂けますか?ここの丸いガラスを見ながらお願いします。続けてステラリアもね」
「分かりました」
「どうぞ!」
「ネモフィラ王国第二王妃ウィステリア リアトリス ネモフィラの娘、そして月夜見の母、アルメリア ネモフィラで御座います」
そう挨拶すると優雅に、そして美しく挨拶を決めた。
「ネモフィラ王国王宮騎士団剣聖、そして、フランク ノイマン侯爵の二女で、月夜見さまに生涯付き従う侍従、ステラリア ノイマンで御座います」
「なんか、硬いね。まぁ、いいか。では、僕も自己紹介しましょうか」
僕はお母さんとステラリアの間に浮かんで静止した。
「僕は、天照 玄兎とアルメリアの息子。前世では碧井 正道だった、月夜見です」
「天照家という神の一族に転生し、六年。この様に空中浮遊や瞬間移動」
「シュンッ!」
その場から五十メートル位後方へ瞬間移動し、またすぐに戻る。
「シュンッ!」
「これが瞬間移動です。いつも地球と物をやりとりしている力はこの様な念動力」
そう言うとステラリアの手を取って、その場で一メートル程持ち上げる。
「あとはそうですね。こんなこともできますよ」
ステラリアを降ろすと、また後ろに下がり右手から炎を出し、だんだん大きくしていき、最後は火炎放射器状態にして見せて、また戻って来た。
「更には治癒能力で骨折や炎症の治療、止血なんかもできるし、透視もできますよ。透視では女性の卵管を診て排卵を確認したり、妊婦の胎児を超音波診断器より鮮明に見ることができます。肺炎も肺胞の炎症を目で確認しながら炎症を治すこともできます。便利でしょう?」
「でもね。これができるのは、この世界でも私だけの様です。この様な超能力は天照家でも一部の者にしか遺伝しない様なのです。この辺はこれからも調べていくつもりです」
「地球の日本とこの世界は、同じ、天照大神が創った国と世界の様です。言葉が同じですからね。でも何故、日本的な文化が天照家にしか残っていないのかはまだ分かりません。これもこれから調べたいと思っています。また何か分かったらお知らせしますね」
「あと、難しいと思うけれど、こちらでは生理用品がなくて、今はアロエの様なサボテンの中身を乾燥させたものをガーゼに包んで使っています」
「それは界面活性剤が作れないために苦肉の策で私が考えて作ったものなのです。いつもの様に生理用品をそちらから購入することは不可能ではないだろうけど、世界の使用数を考えると現実的ではないよね」
「化学薬品が無い状態で界面活性剤を作る方法とか、電気式で界面活性剤が作れる機械とかはないものですかね?何か他に良い方法があったら教えてください」
「では、また欲しいものがあった時はお願いしますね」
これで撮影は終了した。ひとりずつ瞬間移動で部屋へと戻していく。
「ではお母さまから戻りましょう」
「シュンッ!」
すぐに戻って来てステラリアを。
「ステラリア行くよ」
「はい」
「シュンッ!」
ニナたちのところへ戻ると。いつも大人しいミラがもじもじして僕をチラチラと見ていた。
「ミラ。どうしたの?」
「あ、あの、わ、私も瞬間移動してみたいな。と思って・・・」
「あぁ、いいよ。ミラに抱き着くけれど良いかい?」
「は、はい。大丈夫です」
宙に浮くとミラの背の高さに合わせて抱きつく。怖いのか、ちょっときつく抱き返された。
「緊張しなくても大丈夫だからね。行くよ」
「はい。お願いします」
「シュンッ!」
「あ!本当に何も感じませんでした!」
「そうでしょう?では離してくれていいよ」
ミラは赤い顔をしたまま僕から離れようとしない。
「ミラ?どうしたの?」
ミラの顔を覗き込む様に見ると、
「あ!すみません」
やっと離してもらえた。そして、ニナたちのところへ戻る。
「シュンッ!」
「では、リアとニナも飛ぶかい?」
「え?私も良いのですか?」
「勿論だよ。抱き着くけど良いかな?」
「はい。構いません」
「リア。別に目は閉じなくて良いのですよ」
「あ!す、すみません」
「真っ赤な顔して可愛いね」
抱きしめるとすぐに飛んだ。
「シュンッ!」
「あ!もう着いたのですか!」
「瞬間移動だからね」
「シュンッ!」
「さぁ、ニナも行こうか」
「はい」
久しぶりにニナを抱きしめたことに気付いた。そしてニナの胸が大きくなっていることにも。
「ニナ、胸が大きくなったね」
「私、もう成人ですから・・・」
ニナは真っ赤な顔でそう言うと、僕を抱く腕に力を入れた。
「そうかニナ。ニナと瞬間移動するのはここに来た時以来、一年ぶりなんだね」
「はい。そうです」
「月宮殿とこことどちらが楽しい?」
「こちらの方が好きです」
「そう。それは良かった。では行くよ」
「シュンッ!」
僕はパソコンで撮影した動画を再生し、NGシーンをカットして動画ファイルを完成させた。手紙には今後は一か月に一度は何もなくても手紙を書くことを伝えた。山本が結婚でもして引越してしまうと、そこから連絡が取れなくなってしまうからだ。
そしてSDカードを同封し封筒を山本へ送った。
ネモフィラ王国に春が訪れると、ミラとリアが婚約した。秋には結婚するそうだ。
今日はニナがお休みの日だ。お母さんと一緒に二人と話していた。
「ミラ、リア。婚約おめでとう。何かお祝いをしないとね。何か欲しいものはあるかな?」
「そんな、お祝いなんて・・・頂けないです」
「私もお祝いは頂けません」
「お母さま。この世界ではそういうものなのですか?」
「そうですね。使用人へお祝いを出すことはしませんね」
「そうなのですか・・・つまらないですね。では、もし二人が望むなら男の子を授かりたい時は僕が力になりますよ」
「え!本当ですか?」
「勿論だよ。二人とも今から世継ぎを生まなければならないって心配しているのではないですか?」
「はい。お母さまから再三言われているので心配なのです」
「それならば僕が必ず授かる様に教えるから心配しないでね」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「結婚が近くなったら詳しく話すからね」
「はい!ありがとうございます」
リアもミラも凄く良い子だったからお別れは少しだけ残念だな。
今年もネモフィラの丘に花が咲く季節となった。今日は僕の発案で、お茶だけではなくお昼も食べようということになった。
小型船にはベロニカとステラリア、お母さんと月影姉さま、アニカ、ロミーとフォルラン、それに侍女三人と小白が乗り込んだ。
皆が小型船に乗った瞬間にネモフィラの丘まで瞬間移動した。
何も言わずにやったので、みんな何が起こったか分からなくなって驚いている。
「さぁ、みんな。着きましたよ!」
「まぁ!月夜見が瞬間移動させたのですね」
「早く着いて良かったでしょう?」
二人ずつ地面へと降ろし、最後に小白を降ろした。例によって思いっ切り走り回っている。
ニナ達が絨毯を敷いて昼食の準備をしてくれる。
ここは城ではないのでニナたちも一緒に座って同じ物を食べることにした。こんなことをする王家や貴族はこの世界には居ないのだろうな。
皆で美しいネモフィラの花を鑑賞しながらサンドウィッチの昼食を頂き、お茶を飲んでのんびりした。
「ベロニカ。舞踏会で出会った方とはその後どうなったのですか?」
「月夜見さま。実はまだ迷っているのです」
「迷うって、結婚するかどうかをですか?」
「はい」
「理由を聞いても?」
「はい。私もお相手も子爵家なのですが、お相手の親が騎士などに世継ぎが生めるとは思えないと言われているのです。フィリップさまは大丈夫だから気にするなと言ってくれているのですが、結婚する前からそれでは、もしできなかったらと思うと・・・」
「分かります!お相手はお優しい方でも親は違いますから」
うーん、ミラも同じ様な境遇なのかな。これはマリッジブルーというやつだな。
「では、ベロニカとしてはお相手には不満はないのですね?」
「それは勿論。私は・・・その・・・」
「愛していると!」
「わ!そ、そういうことになりましょうか・・・」
可愛いな。真っ赤になっちゃって!
「それでは、こうしませんか?ミラとリアも世継ぎを生むことに神経質になっているのです。結婚が近付いたら、ミラ、リアとベロニカのお相手とお互いの両親全員に城の応接室に来てもらいましょう。そこで私が世継ぎを授かるための指導を差し上げますよ」
「お母さま、城の応接室を使わせて頂いてもよろしいですよね?」
「えぇ、構わないわ」
「えぇ!月夜見さまが私たちだけでなく相手の両親にまでご指導をされるので?」
「今聞いた話からすれば、どちらかというとそちらの方が大切です。良いですか。あなた達とお相手がどれだけ愛し合っていても、そして私から指導を受けようとも、相手の親に理解がなく、毎日顔を合わせる度に世継ぎはまだか?男が生めるのか?と迫られたら、できるものもできなくなってしまうのですよ」
「そうなのですか!」
「はい。そういうものなのです。折角、良い人に出会って結婚できるというのに、相手の親のせいで子ができないなんて悲しいことですからね」
「月夜見さまにそんなご心配を頂けるなんて・・・」
「ベロニカ。間違ってはいけませんよ。相手のご両親はベロニカが憎くて言っているのではないと思います。自分の息子の将来が心配でそう言いたくなってしまうのだと思います」
「はい。それはそうなのだろうと思います」
「でも、私が指導するのですから必ず男の子を授かりますよ」
「月夜見さま。ありがとうございます!」
「可愛いベロニカのためですからね。お安い御用です。あ!ベロニカは結婚と同時に騎士は引退するのですか?」
「はい。そのつもりです」
「では、結婚の二か月前くらいからは訓練の量は減らして行ってくださいね。生理が毎月きちんと来なければ子は作れませんから。ステラリアも気に掛けてやってくれますか?」
「はい。かしこまりました。ベロニカのためにありがとうございます」
「良いのです。私はベロニカが大好きなので」
「えぇーーーっ!」
「月夜見さま。あまりからかっては・・・」
「あ!また!」
「ハハハッ!」
僕にとって、ミラ、リア、ベロニカは特別に可愛いのだ。
三人にはマリッジブルーを克服して幸せになってもらいたい。
お読みいただきまして、ありがとうございました!




