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23.甦る記憶

 山本から届いた荷物からパソコンとプリンターを取り出した。


 パソコンとプリンターか。でもまずは電源だな。

「ニナ。侍女長に言って、このランプの光について詳しい技師を呼んでくれるかな」

「かしこまりました」


 しばらくすると光の技師だという女性がやってきた。

「お待たせいたしました。どの様な御用でしょうか?」

「このランプと同じ様に光りを使いたいのですが、この線をもう一本引くことはできますか?」

「はい。光線ひかりせんですね。どちらに引きましょう」

「では、このテーブルまでお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 そういうと光技師の女性はランプのコードが出ている壁の蓋を外した。中にある金具を交換し、一本出ていたところから二本に分ける金具を取り付けて蓋を閉じた。


 そこから光線をテーブルまで伸ばすと、そこでペンチの様な工具で切った。まるで電気コードと一緒だ。中身がプラスとマイナスの二本あれば助かるのだが。


「それでこの光線には何を繋げるのでしょうか?」

「あぁ、ちょっとその線を見せてください」


「はい。どうぞ」

「あぁ、やはり二本出ていますね。先程の工具を貸してもらえますか?」

「え?お使いになれるのですか?」

「えぇ、恐らくできると思います」


 コードの端をめくり二本の線をペンチで引っ張ると少し出て来た。それを電圧計に繋いでみると電圧計は約二百ボルトを指した。コンバーターの入力表示は二百四十ボルトまでなので使えそうだ。早速、二本の線をコンバーターに繋ぐと緑のランプが点いた。


「よし、これで使えそうだ。ありがとう。助かったよ」

「は、はい。お役に立てて光栄です。では失礼致します」


 コンバーターにはコンセントの差込口が四つあったからノートパソコンのACアダプターとプリンター、それにデジカメの充電器がセットできた。


 早速、プリンターに写真用紙をセットすると説明書を読んでデジカメを接続し、先程の五人の写真をプリントした。


 プリンターはウィンウィン言いながら写真を印刷していく。皆がそれを食い入る様に見ている。そして写真用紙がプリンターから吐き出された。その写真を皆に見せる。


「さっき撮った写真がこれですよ」

「うわ!なんですかこれ」

「絵を描いたのですか?でもこれ絵ではない様ですね」

「凄くきれいです!」

「面白いでしょう?」

「はい。面白いです!」


 そしてパソコンの電源を入れる。すると全てセットアップ済みだった。液晶モニターに映し出された壁紙の写真は僕が所属していた医局のメンバーがナースセンターに勢揃いした写真だった。皆が笑顔でこちらに向けてピースしたり、親指を立ててポーズを決めている。


「あぁ、高島女史、木村先生、青木教授、岡本さん、五十嵐先生、渡辺さん、それに山本!」


 僕は彼らの笑顔を見て名前を呼び、思わず涙を流した。とめどなく溢れる涙は頬を伝いぽたぽたとテーブルヘ落ちた。そのまま動きを止め僕はただ涙を流し続けた。


 病院の映像、仲間たちの顔を見たら舞依と一緒の闘病生活の記憶がよみがえってしまった。


 お母さんが黙って後ろから僕を抱きしめた。侍女たちとステラリアはそっと席を外し、静かに部屋から退室していった。


「ごめんなさい。お母さま」

「謝ることなどないのです。思い出してしまったのですね。悲しい時は我慢せずに泣いていいのですよ」

「お母さま・・・」


 それからどれ位の時間が流れたのだろうか。僕はいつの間にかお母さんの膝の上で抱きしめられていた。僕は手でゴシゴシ顔を拭くとお母さんに向き直り、


「お母さま。もう、大丈夫です。ご心配をお掛けして申し訳ありません」

「月夜見。私はいつでもあなたを見ています。あなたのそばに居ますから」

「ありがとうございます」


 そしてノートパソコンの中身を再び確認し始めた。


 デスクトップ画面のアイコンを見て行く。すると写真のフォルダがあった。フォルダを開くと大変な数の写真が入っていた。中の写真を見て行くと、どうやら僕に関わりのある病院内の場所や活動風景の様だ。


 見て行くと山本だけが撮ったものではないらしい。高島女史や看護師が撮ったのではないかと思われる写真もあった。


 スライドショーにして見流していると、はっとした。スライドショーを止めて数枚戻る。

するとその写真には、僕と舞依が写っていたのだ。


 病室で撮った写真だ。いつの写真かは覚えていない。慌てて写真のプロパティを確認すると撮影日と思われる写真ファイルの日付は八年前のものだった。


 つまり僕らが二十三歳の時だ。僕は白衣姿だがまだ医師の卵で、舞依の病状はまだ最悪な状況にはなっていない時のものだ。だからなのか、まだ二人には明るさがある。でもこれを誰が撮ったのか全く覚えていない。僕はその写真を拡大して舞依の顔を久しぶりに見た。


 その時だった。僕の脳裏に何か映像が浮かんだ。広い野原と丘が見える。一面には黄色い花が絨毯の様に敷き詰められている。そこへ真っ白な馬がゆっくりと歩いて来る。


 その白馬には大人の女性と女の子が乗っていた。親子なのだろうか。見たことがない女の子。まだ大きくない。五歳か六歳位だろうか?


 ストロベリーブロンドの髪が背中まで伸び、瞳は赤い。その衣装から地球ではないなと感じた。この世界のどこかなのだろうか。そう考えているとどんどんと薄れていって見えなくなった。


 今のは何だったのだろう?でもそのお陰か、舞依の写真を見てもそれ程動揺せずに済んだ様だ。


「お母さま。これが前世の僕と舞依です」

「まぁ!これが!二人とも黒髪なのですね」

「えぇ、この国の人は基本、黒髪で黒い瞳なのです。若干色素の薄い方も居ますけれど」

「これは何歳の時なのですか?」


「恐らく、二十三歳だと思います」

「今の私より、ひとつ上の時なのですね。やはり頭の良さそうな顔をしていますね」


「それよりもあなた。マイの顔を見ても大丈夫なのですか?」

「あ。え、えぇ、実は今、この写真を見た途端に頭の中に知らない景色と女性の親子が浮かんだのです。それに気を取られてなのか、何故か大丈夫です」

「どんな景色だったのですか?」


「えぇ、この国のネモフィラの丘と似たような野原と丘なのですが、花がネモフィラではなく黄色い花が一面に咲いていて、そこへ白馬に乗った親子が歩いて来たのです」


「黄色い花?この春で丘一面の黄色い花ですか・・・ネモフィラ王国にはないですね。月夜見の前の世界でしょうか?」

「いえ、地球ではないと思います。その女の子の髪と瞳は、ミラやステラリアと同じでしたから。それは地球ではまず見ませんので」


「まぁ!それでは月夜見の好きな女性ではありませんか!」

「え?それはどういう意味ですか?」

「好きでしょう?その髪の色と瞳の色が」

「そ、そうなのでしょうか?」


 僕はミラやステラリアの髪と瞳の色が好き。なのか?気を取り直してパソコンのデスクトップ画面のアイコンをもう一度見直していた。


 動画と書かれたフォルダがあった。写真だけでなく動画もあるのか?そのフォルダをクリックすると各ジャンルに分けられたフォルダあった。その中には沢山の動画が入っていた。


 例えば宇宙のフォルダには、オービタルリングと低軌道エレベーターとか彗星の旅、太陽系の成り立ち、地球の成り立ち、宇宙ステーションのドキュメンタリーなんていうタイトルがある。


 乗り物のフォルダには、宇宙船、飛行機、新幹線、自動車、船、モーターサイクル、自転車まであり。その他、動物、植物、農業、料理に医学のフォルダもあった。最新の医療情報も科目別にまとめてあった。これは助かるな。


 これらの動画はこちらの世界で役に立つかも知れないと考えて集められたものなのだろう。ちなみに映画やアニメもあった。その内に皆で観ようかな。プロジェクターはこのためだったのだな。


 僕はパソコンで自分が撮って来た写真にタイトルを付けていった。写真は百枚以上あった。写真はパソコンにコピーを残してSDカードを手紙と一緒に山本へ送った。デジカメで使うSDカードは五枚も予備があった。


 手紙にはまずは衣料品のお礼だ。そしてパソコンやプリンターが無事に使えたことの報告をしてパソコンに保存してくれた数々の写真や動画のお礼も伝えた。


 またこちらの写真を見て、感想や質問もあるだろうからと、また一週間後に手紙を引き取ると書き、日時を指定して封書を送った。




 一週間後に手紙を引き寄せた。封筒の中には手紙は無く、SDカードしか入っていなかった。


 お母さんやステラリアたちが居る時にそのSDカードをパソコンに挿入して中身を確認した。中身は動画ファイルがひとつだけ入っていた。再生すると病院の仲間が映し出された。


 彼らは僕が送った写真の感想や質問をひとりずつ楽しそうに話していた。


 皆、口々に言うのは僕が美しく生まれ変わっていることへの感動とやっかみだった。

中にはズルいだの反則だのと言いたい放題言ってくれる。でも最後には応援してくれていた。


 次に多かったのはやはり空に浮かぶ月の都の写真への反応だ。信じられないとか、美しいは当たり前に皆が言っていたが、そのメカニズムをさも知っているかの様に話す山本だ。


 持論として、あれはこの星の磁力に反発する鉱石でできているとかもっともらしい御託ごたくを並べていた。それでも低軌道エレベーターにはかなり感動していた。


 是非そのエレベーターで宇宙まで行き、動画を撮影して来てくれと言われた。


 あとはお母さんが一番人気でダントツに美しいと褒め讃えられていた。お母さんは耳まで真っ赤にしながら聞いていた。こういう時に言葉が通じるって凄いことだなと思った。


 二番人気はステラリアだ。やはり格好良い、そして美しい。結婚したい。と褒めちぎられ、ステラリアも真っ赤になっていた。


 三番人気はなんとオリヴィア母さまだった。妖艶だとか、色っぽいとかやはり大人の女の色香に男どもがやられている様だ。


 侍女三人組もメイド喫茶だ、アイドルみたいだ、と可愛い可愛いの連発だった。


 動画の最後には山本からこちらのインタビュー動画を撮って送ってくれとリクエストされた。


「お母さま、地球の仲間が僕達家族の動画を送ってくれと言うのですが撮影しても良いでしょうか?」

「動画というのは先ほど観た動く絵のことですか?」

「そうです」

「私だけですか?」


「折角ですからステラリアとニナたちも一緒にと思うのですが」

「そうですね。一緒ならば良いでしょうか」

「お母さま。ドレスを着ませんか?ステラリアも」

「え?ドレスですか?」

「私もですか?」


「折角だから飛び切り綺麗な女性になって頂き、彼らに見せつけてやりたいのですよ」

「そんな・・・恥ずかしいですわ」


「観られるのは一緒なのです。それならば、より美しくあった方が良いでは御座いませんか!それに城が映る外で撮影しましょう。その方が明るくてより綺麗に映りますよ」

「え!外でですか?余計に恥ずかしいではありませんか!」


「では、こうしましょう。ニナたちと先に外で撮影の準備をしておきます、お母さまとステラリアは、ドレスに着替えたら僕と瞬間移動で外へ飛びます。撮影が終わったらすぐに瞬間移動で部屋へ戻れば誰にも見られないですよ」


「そうですか。それならば良いですけれど」

「で、でも私までドレスを着るのは如何かと・・・」

「ステラリア。お願い!」

「つ、月夜見さまにお願いされてしまえば、従うほか御座いませんけれど・・・」

「無理を言ってごめんね。ステラリア。ありがとう!」


「私たちはこのお仕着せで良いのですか?」

「ミラ。ごめんね。その姿はそれで需要があるのですよ」

「じゅよう?で御座いますか?」

「そう。可愛いってことです」


「まぁ!可愛いだなんて!」

「地球の男たちは三人みたいに可愛い娘が大好きなんだよ」

「ありがとうございます・・・」


 三人の侍女を引き連れて外へ出た。どこから見れば城が美しい角度で撮れるのだろうと考えながら、僕は宙に浮いてあっちへ行ったり、こっちへ来たりして、ここならばという位置を見つけた。


 三脚を立てカメラをセットし、城をバックにニナたちに並んでもらった。ニナから順に挨拶をしてもらう。


「月夜見さま、アルメリアさまお付の侍女、ニナで御座います」

 そう言って左足を後ろにずらし、スカートをつまんでお辞儀をした。

「ネモフィラ王国、テオ マイヤー侯爵の三女で、月夜見さま、アルメリアさまお付の侍女を務めさせて頂いております。ミラ マイヤーで御座います」

 これまた素晴らしい挨拶だ。


「ネモフィラ王国、ノア リヒター侯爵の二女で、月夜見さま、アルメリアさまお付の侍女を務めさせて頂いております。リア リヒターで御座います」

 うん。ばっちりだ。お堅い貴族バージョンはこれで良いだろう。


「では、三人にお願いが。三人並んでニナから順に、ニナです!ミラです!リアです!って元気よく言いながらさっきの挨拶ポーズを決めてくれるかな?」

「は、はい」


「では、3、2、1、どうぞ!」

「ニナです・・・ミラです・・・リアです・・・」

「あー、ちょっと表情が硬いな・・・もっとにこやかな笑顔でお願いできるかな?それで、もう少し速くしてもらえるかな」


「では、もう一度ね。3、2、1、どうぞ!」

「ニナです!ミラです!リアです!」

 そして三人揃って挨拶のポーズを決めた。

「よし!いいね。三人とも凄く可愛いよ!」


 三人共とっても可愛いから少し悪ノリしてしまったかな・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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