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20.シリンガの罪

 舞踏会の翌日と一週間後、相次いでトレニア伯母さんとシオン伯母さんが出産した。


 二人のお産に立ち会い無事に生まれた。二人とも元気な男の子だ。


 舞踏会から十日後、ステラリアからシリンガの情報が集まったと知らされた。城の応接室には、お爺さん、伯父さん、お母さん、騎士団長とステラリア、そして僕が集まった。


「それでシリンガの件だったな。どうだったのだ?」

「はい。まずは公式な情報を整理しますと、シリンガ ペリン子爵には貴族出身の妻が三人と商人出身の妻が三人居ます。それぞれに子が二人ずつ十二人の子が居り、その内男の子は商人の妻の子がひとりだけです」


「妻六人に子が十二人とはあきれたものだな。子爵家でそれだけの家族を十分に養えるのか疑問だな」

「はい。屋敷に出入りしている商人の話では、暮らし振りはかなり質素であるそうです」

「それはそうなってしかるべきであろうな」

「それで子を奴隷に売っているという話は?」


「はい。妻の子は売ってはいない様です。生存も確認しました。ですが商人の話の中でシリンガに娘を連れ去られたとか奪われたと話している者が居りました」

「何?それでは誘拐ではないか。本当なのか?」

「はい。四人の娘がその様にして連れ去られています。シリンガの屋敷に監禁されている可能性があります。その娘たちの子が売られているのかも知れません」


「奴隷商の証言は取れているのか?」

「いえ、今のところでは奴隷商の使用人からそれらしい話が聞けただけです」

「ふむ。つまり証拠は無いのだな」

「はい。そうです」


「だが、監禁されている娘を確保できれば誘拐の罪には問える訳だ」

「はい。ですが証拠がありませんと屋敷に踏み込んで捜索することはできません」

「それは確かにそうだな。さて、どうするか・・・」


「それでは私が屋敷に潜入し、探して出してここへ連れて来ましょう」

「え?月夜見さま?」

「月夜見!」

 あぁ、お母さんは心配してしまうよな。


「そんなことを月夜見に頼む訳にはいかんよ」

「でもお爺さま、王家の力を持ってしても屋敷には踏み込めないのですよね?」

「それはそうだが」


「あの男は先日の舞踏会でも、ある娘を連れ帰ろうと企んでいました。こうしている内にも新たな犠牲者が出兼ねませんし、監禁されている者の命も心配です。急ぐ必要があると思います」

「だがどうやって救い出すのだ?」


「僕は瞬間移動ができます。ステラリアに屋敷の前まで連れて行ってもらえれば、見える場所へならば瞬間移動できるのです」


「ですから屋敷の人の居ない部屋にまず入り、透視しながら全ての部屋を捜索します。監禁されている人を見つけ次第、ひとりずつここへ瞬間移動で運ぶのです」

「そ、そんなことができるのか!」

「えぇ、ひとりずつならば、いつもやっていることですからね」

「月夜見。危険ではありませんか?」


「お母さま。大丈夫ですよ。僕の力はご存知でしょう?」

「それは、そうですが」

「では、今夜の夕食後に出発しましょう」


 あの様な男の好きにさせてはおけない。さぁ、救出作戦の始まりだ。




 夕食後、ステラリアと二人で夜空を飛んだ。


 ステラリアに抱きしめられながら、夜空をシリンガの屋敷に向けて飛んで行く。今夜は月が出ていない。星空が息を飲む程に美しかった。


「ステラリア。怖くないかい?」

「はい。暗くて周りがよく見えないからか不思議と怖くはないです」

「空を見上げてごらんよ。星がとてもきれいだよ」

「本当に。空に居るから余計に近くに見えるのでしょうか?」

「そうだね。周りに遮るものがないからね」


 ステラリアの恐怖感を除くために他愛のない会話をしながら飛び、シリンガの領地の屋敷を目指した。その領地は王都からはそれ程、遠くはなかった。ウェーバー公爵領の向こう、リアの幼馴染のホーソーン伯爵領の隣にある狭い領地だった。


 静かに屋敷の外へと降り立つと周囲はひっそりと静まり返っていた。


「ステラリアは瞬間移動で送るね。城で待っていてくれるかな?」

「月夜見さま!駄目です。私はここに居ります。何かあった時にはすぐ踏み込みますので」

「あ!そうか。ありがとう。では、ここに居てくれる?」

「はい。お待ちしております」

「うん。行って来るね」

「お気をつけて」


 僕はまず三階の端の部屋にあるバルコニーへと飛んだ。窓は覗かずに壁を直接透視して部屋の中を見た。誰も居ないことを確認すると中へと瞬間移動した。

「シュンッ!」


 隣の部屋を透視すると子供部屋だった。一度、廊下へ出て廊下を歩かずに天井近くを浮遊して、全ての部屋の中を透視しながら進んで行く。


 子供部屋と妻の寝室。そしてシリンガの部屋もあった。シリンガはまだ眠ってはいない。書斎で執務をしていた。


 次に二階へ移動する。使用人に見つからぬよう慎重に移動した。二階は玄関があるので、応接室、サロン、大広間、食堂、厨房などがあった。次に一階へ降りると使用人の部屋や洗濯、工作室があった。どこにも監禁されている様な部屋はない。


 一階の廊下の奥まで行った時、鍵のかかった扉に目が止まった。中を透視すると地下へと続く階段があった。そう言えば月宮殿も地下室はそうなっていたな。

瞬間移動で扉の向こうの階段へ飛ぶ。そして浮遊したまま地下へと進む。階段下にも扉があった。


 その中を透視すると地下の部屋は牢屋ろうやになっていた。四つの牢獄ろうごくには、ひとりずつ女性が閉じ込められていた。四人とも寝間着姿で牢獄にはベッドと便器だけがあった。僕は扉の向こうへ瞬間移動する。


「シュンッ!」

「ひっ!」


 四人の内、二人がすぐに気付いて声を上げる。僕は口に指を当て「しーっ!」と言い、小声で話し掛ける。

「声を出さないで!怪しいものではありません」


「皆さんは、ここに誘拐されて来たのですか?そうなら黙ってうなづいてください」

 四人が揃って首を縦に振る。


「では、これから皆さんを助け出します。ネモフィラ王城に連れて行きますので、何があっても絶対に声を上げないでください。良いですか?」

 揃って頷いた。


 僕は瞬間移動してひとつの牢獄へ入った。それに驚いた女性が「ひっ!」と小さく声を出してしまったが、すぐに自分の手で口を押さえて我慢した。他の三人も口に手を当てている。


「では、ちょっと失礼しますよ」

 そういうと一人目の女性に抱きついた瞬間に王城の応接室まで瞬間移動した。

「シュンッ!」


 応接室にはお母さんと団長、それに侍女が数人、毛布を持って待ち構えていた。

「地下牢に四人監禁されていました。すぐに他の人も連れて来ます」


「シュンッ!」

 そう言って屋敷へ戻ると、続けて三人を城へと運んだ。そして最後に屋敷の外に待っているステラリアの元へと飛んだ。


「シュンッ!」


「ステラリア。お待たせしました。地下牢に四人監禁されていました。もう四人とも城の応接室へと送りましたよ」

 ステラリアが僕に抱き着いて来て大きく息を吐いた。


「良くご無事で!」

「うん。心配を掛けましたね。では帰ろうか」

「はい」

 いつもより強めに抱きしめられた。そして応接室へと飛んだ。


「シュンッ!」

「月夜見!お帰りなさい!」

「お母さま。ただいま」


 応接室では毛布を掛けられた女性が四人。席に座ってお茶を飲みながら事情聴取を受けていた。四人ともにまだ不安そうな顔をしていた。


 話を聞いて行くと彼女たちは全員十代だった。シリンガに強引に連れ去られ、以来あの地下牢で暮らし、性奴隷となっていたそうだ。それぞれが子をひとり生み、一番年上の女性ひとりが二人生んだそうだ。


 その子たちの行方は分からないそうだが、全員女の子で恐らくは奴隷商に売られたのだろうと話していた。子を取り返したいかと聞かれたが誰もそれには答えなかった。仕方がないかも知れない。


 これからシリンガを捕らえて誘拐の罪に問うが証言できるか聞いたところ、それには明確に証言すると答えた。


 僕はその間、女性の身体を透視して妊娠していないか、目に見えて分かる病気はないかを確認した。でも幸いなことに妊娠していなかったし、問題も見つからなかった。


 すぐにでも家に帰してあげたいところだが、シリンガを捕らえるのが先だ。遅くとも明日の朝には彼女達が居なくなっていることに気付くだろう。そうなれば実家へ取り戻しに行くかも知れないのだから。


 彼女たちにはお風呂に入り、ゆっくり休んでもらうこととなった。シリンガは明日の朝一番で王宮騎士団が身柄の確保に向かう。




 後日談としてステラリアから聞いた話では、ペリン子爵はすぐに有罪が確定し、お家取り潰しの上、全財産を没収。シリンガ本人は鉱山での強制労働を死ぬまでさせられることとなったそうだ。


 シリンガの妻達は、シリンガの横暴に逆らえなかったとして、子と共にそれぞれの実家に帰されるだけでおとがめなしとされた。


 そして誘拐された四人の娘たちは親元へ返され、ペリン子爵の没収された財産から賠償金が与えられた。その娘たちが生んだ子は調査の上、奴隷商から買い戻され、子を欲する貴族の家の養子となった。


 ペリン子爵の領地は、その隣のホーソーン伯爵家に移譲され、ホーソーン伯爵は侯爵へと陞爵(しょうしゃく)された。


 ペリン子爵の屋敷は地下に牢獄があるまま他人へ譲渡されるのは問題とされ取り壊された。まぁ、領主が居なくなるのだからその元領主の屋敷は不要だよね。


 全てが片付いた後の晩餐でお爺さんが唐突に言いだした。

「月夜見。此度のペリン子爵の事件解決に多大な功績を上げた其方そなたに褒美を取らせたいのだが、何か欲しいものはないかな?」

「お爺さま。僕は何も要りません。でもお願いできるならば、平民で生理用品が買えない女性のために神宮で無料配布できる様、予算を頂けないかと」


「それは、我が国民のためであって、本来は国が考えねばならぬことではないか。其方には欲というものがないのかな?」

「私は既に恵まれているのです。地球の下着を持って来たことで発案料がもう使い切れない程、毎月入って来ているのですよ。この上、何も望むことは御座いません。それで先程の生理用品のお話しになったのですが・・・」


「あぁ。分かった。それは予算を付けよう」

「お爺さま。ありがとうございます」

「また、今回のことで思ったのですが、奴隷という制度についてはお母さまからもお聞きして、全てが悪ではないと理解しています」


「ですが今回の様に誰とも分からない子を仕入れて売るのだけは止めさせるべきではないでしょうか?このままでは誘拐した子も売買され兼ねません」


「奴隷商には奴隷を買い付ける際、身元の確認とそれを記録することを義務付け、誘拐された子が売買されたことが判明した場合は双方に罰則を与えるべきと考えます」

「全くその通りだな。すぐに全土へ通達を出す」

「ありがとうございます」


「そう言えば、アルメリア。今回、陞爵(しょうしゃく)したホーソーン候より報告があったのだが、長男のオスカーがアルメリアの侍女のリアを嫁にとのことだ」

「まぁ!それは嬉しいことですね。月夜見。あなた何か知っていて?」


「お母さま。二人は舞踏会で出会い、お付き合いをしていた様です。今回、リアの家と同じ侯爵へ陞爵となったことで勢いが付いたのでしょう」

「早速、舞踏会の効果が表れたのですね」

「はい。嬉しいことです。あとミラもお付き合いを始めている様ですよ」


「では、私たちの侍女がニナだけになってしまいますね」

「また別の方に来て頂けば良いではありませんか」

「そうですね。二人の幸せの方が大切ですからね」

「はい。お母さま」


 やはりお見合い舞踏会をやって良かったな。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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