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19.シリンガの企み

 初めてのお見合い舞踏会も終わりに近付いて来た。


 僕とステラリアのパトロールは続き、別の既婚者を見つけた。この人はまだ二十歳代の様だ。同年代位の女性と話しているので聞き耳を立てる。必要なら心を読んでみようか。


「ディビッドさま。本当にお久しぶりですね。この様なところでお会いするとは」

「スザンヌさま。久しいですね。お変わりなくお綺麗なままですね」

「まぁ!綺麗だなんて。私はこの通り、未婚のままですけれど。でもディビッドさまは結婚されましたよね。今、ご婦人はお二人でしたか?」

「えぇ、二人居ます」

「では、三人目のご婦人をお探しなので?」


「はい。勿論、二人には満足しているのですが、私はこの国のこれからを考えています。まだまだ、人口も男性も足りません。私たち貴族にはその力と責任があると思うのですよ」

「では貴族の責任感で妻を増やすのでしょうか?」


「いいえ、それだけでしたら親に頼んで三人目をお願いすれば済むことです。私は今の妻二人とは親の言いなりで結婚しました。一人くらい自分で選んだ妻が欲しいのです」

「そうでしたか。でもご自分で選んだ愛する方と結婚されたら、今のお二人のご婦人は寂しい思いをされることにはなりませんか?」


「えぇ、そうならない様に二人の妻とも相性が良く、話し相手にもなれる方を探しています。スザンヌさまの様に聡明で物怖ものおじせずお話しができる方ならば・・・と思うのですが」


「まぁ!私でよろしいのですか?私の様な行き遅れの娘で・・・」

「スザンヌさま。あなたは美しい。今まで機会に恵まれていなかっただけなのです」

「ディビッドさま・・・」


 なるほど、複数の妻をめとることもあながち悪ではないのかな。このカップルは良い感じだ。


 結局、初めの勘違い暴君の辺境伯以外は、おかしな参加者は居ない様だった。その暴君も誰にも相手にされていなかった。恐らく既に噂は広がっていたのだろう。


 ミラもリアもお相手ができダンスも踊っていた。笑顔も見られた。この先、話が進むのかは分からないが、一回目としては上出来だったのではないだろうか。


 ただ、月影姉さまにはお相手が見つからなかった。やはり神の娘で宮司ということで敬遠されてしまうらしい。今回はあまり余計なお節介はせず、雰囲気だけ味わってもらうに留めた。


 全体で見てもやはり女性が多いので、あぶれてしまっている人が居たのも事実だ。そう簡単に全員にお相手ができる訳はない。まぁ、これを重ねて行くしかないのだろう。


 舞踏会が終わりステラリアを部屋まで送った。


「月夜見さま。部屋までお送り頂く必要など御座いませんのに」

「今日のステラリアは護衛ではなく、僕のパートナーなのだから当然だよ」

「本当にお優しいのですね・・・」


 王宮騎士団の寄宿舎、ステラリアの部屋の前まで送った。そこで僕は事前に用意して自分の衣裳部屋に置いてあったものを引き寄せた。


「シュンッ!」

「な!」


「驚かせてごめんね。これは明日ステラリアに着てもらうドレスだよ」

「え!明日のドレス?新しいドレスをお仕立て頂いたのですか?」

「そうだよ。明日の下位貴族の舞踏会でも僕のパートナーをお願いするのですから。今日と同じドレスで出席させる訳にはいかないでしょう?」

「そ、そんな・・・あ、ありがとうございます」


 ステラリアは小さく動揺し両手を口元へ当てると、一粒の涙をこぼした。


「あ!ステラリアどうしたの?」

 僕は慌ててハンカチを取出し、左手をステラリアの肩に置いて涙をぬぐった。


「う、嬉しいのです。今までこの様に女性として扱われたことがなかったので・・・」

「そ、そうなの・・・」


 その時、廊下の向こうから女性騎士が歩いて来てしまい、僕達の姿を見て「え!」と声を上げると慌てて戻って行った。この絵面えずら。一体どう受け止められたのだろうか・・・


「では、ステラリア。僕は部屋へ戻るよ。明日もお願いしますね」

「はい。月夜見さま。ドレスをありがとうございました」

「そのドレスを着た君を見るのが楽しみだよ。では!」

「シュンッ!」

 僕は瞬間移動で自室へと帰った。


 ステラリアは部屋に入るとベッドに座り、両手を胸に当て感動に浸っていた。しばらくはぼうっとしていたが、やがて気を取り直した。


「月夜見さまは誰に対しても気遣いが細やかで思いやりのある方。それは今日のミラやリアに対する行動を見ていても分かる。決して私だけに向けられたものではないわ」


「勘違いをしてはいけない。ただ、私を騎士ではなく女性として扱ってくださる。今はそれだけを感謝しよう」


 灯りも点けずにベッドに座り、月の灯りに照らされたステラリアは、ひとり自分に言い聞かせるのだった。




 今日は下位貴族の舞踏会だ。


 ステラリアのドレス姿を見て、余りの美しさに驚きしばらく動けなくなった。このドレスはオリヴィア母さまのものと同じだ。


 グロリオサ服飾店でステラリアのドレス姿を見た時、このプロポーションならばオリヴィア母さまと同じドレスが似合うに違いないと確信し、アリアナに注文しておいたのだ。


 色は桜色。とは言ってもピンクではなく、もっと濃い。ダークチェリーに近いかも知れない。ストロベリーブロンドの髪に合う色で。と注文したらこの色になった様だ。確かに合っている。騎士としての引き締まった肢体したいと相まって美しさが引き立っている。


 ただちょっと目立ち過ぎるかも知れない。

「ステラリア。今日のドレス姿は素晴らしいね。君に似合うと思って注文したのだけど、思った以上で驚いているよ。でもこの会場で目立ち過ぎるかも知れない。いつものことながら考えなしでごめんね」


「そんな!月夜見さまが私のことを考えて注文くださったものなのですから。謝罪を頂く必要などございません。それよりもこの様な素晴らしいドレスをありがとうございます」

「喜んでもらえたならば良かった」


 舞踏会の冒頭。昨日と同じ様に僕が挨拶と趣旨の説明をした。音楽の演奏が始まると昨日と違うのは開始早々、僕のところに既婚者の男性が四名やって来た。


「月夜見さま。お助けください!」

 四人ともに切羽詰まった表情だ。きっと世継ぎができないのだろう。


「世継ぎができないのですね?」

「はい。我々は貴族と言っても下位貴族で御座います。妻を多く養う余裕はないのです」

「あぁ、それでも世継ぎのためにと親からここへ行って来いと命じられたのですね」

「はい。その通りなので御座います」


 まぁ、すぐに僕の本の知識が広まるものでもないか。下位貴族では仕方がないことかな。


「では、あちらの席でゆっくりとお話ししましょう」

 そこからひとりずつ、家族構成や仕事の忙しさ、性交渉の状況を聞きアドバイスをして行った。そして彼らは今日からまた家族計画に向けて頑張ると笑顔で会場を後にした。勿論、会費は返金して差し上げた。


「ステラリア。では今日も見回りに参りましょうか」

「はい。月夜見さま」


 二人で腕を組んで歩く。するとあちこちから感嘆のため息や熱い視線を受ける。

あぁ、ステラリアのドレス姿があまりにも美しいのだな。皆の興味の的になってしまっている。


「ステラリア。皆の視線が痛いですね。君が美し過ぎるのです」

「まぁ!月夜見さまったら。そんなこと・・・」

 顔が真っ赤になってしまった。腕を組んでいない右手を頬に当てている。


「あ!月夜見さま。あの殿方。この前、リアが話していた疑惑の者、シリンガ ペリン子爵です」

「え?あの商人の娘を妻にして子を奴隷商人に売っているという奴か」


 その男の年齢は三十代半ば、金髪に青い瞳。でも顔は整ってはいない。中肉中背のまぁ、どこにでもいる普通のおっさんにしか見えない。


「よし。これからあの男の心を読むからね。近くに寄ってみよう」

「はい」

 シリンガは僕たちに気付いた。一瞬目を丸く見開いたがすぐにそっぽを向いた。僕はシリンガに意識を集中し心を読む。


『くそ、月夜見とかいう神の子供か。この舞踏会の企画は良いが、子作りのためだけに嫁をもらうな。などと余計なお世話をするものだ』


『私は女どものために子作りをしてやっている。みんな泣いて喜んでいるのだ。感謝されて当然なのに、それをめろなどとはおかしな話だ!』


『さぁ、そんなことはどうでも良い。今日は最低ひとりは見繕みつくろって帰らねばな。そろそろ下賤げせんな商人の娘にも飽きて来たところだからな』


 こいつ許せんな。どうしてくれようか・・・

「ステラリア。ちょっと・・・」

 僕は会場の端へ移動すると、ステラリアにシリンガの心の声を話した。

「この男、ちょっと許せないと思うのだけど」

「本当に酷いですね。ただ、表立って罪に問われることはしていませんね」


「何かしら悪事の証拠をつかまなければ。ということか」

「でも、家族や使用人の子を奴隷に売ることを禁じたのはついこの前です。もうしないかも知れませんし、するとしてもそれを待つのも何か・・・」

「ステラリアの言う通りですね。これ以上、新たな不幸を待つ訳にはいきません」


 今日のところは新たな犠牲者が出ない様に見張ることしかできないな。

戻ってみると、ひとりの気の弱そうな女性がシリンガに捕まっていた。まずいな。


「ステラリア。既にひとり捕まってしまっているよ。助け出さないと」

「あ!あの娘は確か、ベロニカの友人だったかと」

「今日はベロニカも出席していたのだっけ?」

「はい。子爵の娘ですから。ちょっと探してきます」


「いや。僕が探すよ。ステラリアはここに居て」

「はい。分りました」


 僕はススッと天井近くまで浮かび上がり、ベロニカを探す。あ!居た。赤毛で緑のドレスを着ていたので結構目立つのだ。騎士仲間とご馳走を食べていた。僕はベロニカの目の前にススッと降りた。


「ひっ!あ!月夜見さま」

「ベロニカ。食事中に申し訳ないのだけど、助けて欲しい人がいるんだ。ちょっと一緒に来てもらってもいいかな?」

「え?は、はい。勿論です」

「では、失礼するよ」

 僕はベロニカを抱きしめる。


「え?えーっ?」

「シュンッ!」


 瞬間移動で、ステラリアの目の前に移動した。

「うわっ!あ!ステラリアさま!ここは?」

「ベロニカ、あそこでシリンガに捕まっているのは、あなたの友人ではなかったですか?」

「え?そ、そうです。モニークです。でもどうして?あの子、人見知りなのに」

「大人しそうな娘を狙ったのでしょう。助けないと」


「ベロニカ。僕たちはここに居るから、モニークに声を掛けて月夜見が呼んでいると言ってここへ連れて来てください」

「は、はい。行って来ます!」


 ベロニカは小走りにモニークとシリンガのところへ行くと、モニークに話し掛け、シリンガに詫びるとモニークの手を掴んでこちらへ向けて歩き出した。


 シリンガはこちらをちらと見るや「ちっ!」と舌打ちをしてにらみつけてきた。

『クソッ!もう少しで連れ帰れるところだったのに!今日はツイてないな』


「モニーク。あなた大丈夫?」

「はい。ベロニカ。大丈夫です。月夜見さま。何か私に御用が?」

「モニーク。初めまして。月夜見です。先程の男ですがあなたに何を言って来たのですか?」

「えぇ、初めは私が美しいとか褒めちぎられて。それから家族の話とか続けられて逃げられなくなってしまったのです」


「そう、危なかったね。彼の噂は知っていたのかな?」

「はい。知っていましたので怖かったです」

「連れて行かれなくて良かった」


「え?私は連れ去られそうになっていたのですか?」

「えぇ、あの男はあなたを連れ帰るつもりでいた様です」

「恐ろしい・・・」


「この舞踏会は私の発案で開催したものです。その会で怖い思いをさせて申し訳ない」

「いいえ、私がぼさっとしていたのがいけなかったのです」

「でも無事で良かったよモニーク!」

「えぇ、助けてくれてありがとう!ベロニカ」


 それからは僕とステラリアでシリンガをきっちりマークし、ずっと離れずに付いて回った。それに気付いたシリンガはぶつぶつ言いながら会場を去って行った。


「ちょっと、あからさまでしたかね」

「それくらいしないと分からないでしょう」

「でも、あの男をこのままにはできませんね」

「どうされるのですか」


「あんな男です。きっと何かしらの罪を犯しているはずです。まずは証拠を掴みましょう。身辺を探るのです」

「分かりました。私の方で情報を集めます」


「ステラリアは直接動いてはいけないよ」

「何故ですか?」

「危険だからに決まっているでしょう!」

「私は剣聖です。あんな男のひとりやふたり・・・」


「いえ、剣技のことではありません。君は美し過ぎるから情報を集めようと動いたら目立ってしまってすぐに相手に伝わってしまいますよ」

「え!そ、そんな・・・」

「いいかい。誰かに頼むのです。商人に聞き回っても怪しまれない人物にね」

「はい。かしこまりました」


 その後は危険人物が去ったからか会場の雰囲気が良くなった気がした。


 ベロニカとモニークは僕と話していたことがきっかけで二人組の男性に話し掛けられ楽しそうに談笑していた。


 その向こうでは騎士服をまとった女性騎士の前にひざまずいている男性が居た。


 何事かと思ったら、やはりその凛々りりしい姿に一目惚れした様だ。あれではいきなり求婚しているみたいではないか。でも彼女もまんざらではないらしくそのままダンスを楽しんだ様だ。


 騎士服もありだ。との僕の助言が生きた様で何よりだ。ステラリアも微笑ほほみながらその光景を眺めていた。


 大商人の息子は結構な人気だった。特に男爵や騎士爵の次女や三女には好評な様だ。何にせよ親に売られる様にして嫁に行くのではなく、自分で選べることは良いのだと思う。


 こうして第一回目のお見合い舞踏会は好評の内に幕を閉じたのだった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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