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18.収穫祭と舞踏会

 収穫祭の日がやって来た。この日は平民のお祭りだ。


 僕はアベリアに、ニナ、ミモザ、プリムラ、アイビー、アミーを連れてお祭りを楽しんで来て欲しいと頼んだ。その間、うまやは僕とお母さん、フォルランで見ているからと。アベリアはアミーを妹の様に可愛がってくれているから快く引き受けてくれた。


 ニナはお見合い舞踏会に出席できないが平民として収穫祭を楽しむ権利はある。それに息抜きも必要だからね。


 フォルランの姉たちのアニカとロミーは、臨月に入っているトレニア伯母さんとシオン伯母さんに付いてもらっている。もういつ生まれてもおかしくはないのだ。


「月夜見、今日は何するの?」

「フォルラン。どうしようか。小白と何かしようか?」

「それじゃぁ、小白に乗りたい!」

「あぁ、オオカミ少年になりたいのか。小白に聞いてみよう」


『小白!フォルランが小白に乗ってみたいんだって。いいかな?』

『のる? ふぉるらん?』

『そうだよ。乗ってみてもいいかい?』

『いいよ』


「フォルラン。小白が乗ってもいいって言っているよ!」

「よし、乗ってみよう。小白。それじゃ、乗るからね」

 うんしょ。っとまたがった。すると、小白は元気に走りだした。フォルランは慌てて首に腕を回してしがみつく。


 流石は狼だ。かなりの速さでそこら中を走り回る。

「フォルラン!つらくなったら言いなよ。小白に止まる様に言うから」

「あ。あーもういいです!落ちる!」


『小白!もう戻って来て!』

『わかった もどる』


「はぁーっ、凄い速さだった」

「乗馬とどっちが楽しい?」

「速さは小白の方が速いと思う。でも乗り心地が悪いや」


「フォルラン。乗馬はもうお父さまに合格をもらえたのかい?」

「歩くだけならね。まだ走るのは駄目だって」

「早く、月夜見とアルメリア叔母さまと一緒に湖まで行きたいな」

「そうか。それじゃ訓練頑張って!楽しみにしているよ!」

「うん。頑張るよ!」

 フォルランは天真爛漫てんしんらんまんで本当に可愛い奴だ。


 小白やうまやの馬たちに昼ご飯をあげて掃除をしているとアベリアたちが帰って来た。

「アルメリアさま。月夜見さま。留守番をありがとうございました。あ!掃除なんて私がやりますのに!」

「あれ?もう帰って来たの?」

「いえ、十分に楽しんで参りました。美味しい料理も食べたし、お菓子も沢山もらえたのです」

 ニナやミモザたちが袋に一杯のお菓子を持って嬉しそうにしていた。


「ミモザ。楽しかったかい?」

「はい。森に居た時から知っていたのですが、前は人が多くて何だか分からなかったし、怖くて近付けなかったのです。収穫祭はこんなに楽しいものだったのですね」

「それは良かった。プリムラも楽しめたかな?」

「はい!神さま。こんなに楽しいのは生まれて初めてです」


「アイビーはどうかな?」

「素敵な洋服屋さんがありました」

「そう。きれいな洋服が見られたのだね。お給金を貯めて洋服が買えると良いね」

「はい。神さま」


「アミーはどうだった?」

「おいしいものいっぱい。おなかもいっぱいなの」

「そう、アミー。良かったね」


「ニナ。こういうお祭りは初めてかな?」

「はい。初めてでした」

「そう。何か嬉しかったことはあったかな?」

「私、月宮殿しか知りませんでした。でも月夜見さまのお陰で色々なところへ連れて行って頂けるのが嬉しいのです。見たことがない美しい景色や、今日みたいに沢山の人が楽しそうにしているのを見るだけで幸せです」


「そうか。ニナは旅が好きなのだね。では、また機会があったら色々な国へ行ってみようか」

「本当ですか!嬉しいです!」

 そうか、ニナは旅が好きなのだな。では今後はお母さんと出掛ける時はニナを侍女として連れて行くことにしよう。




 そして、お見合い舞踏会の日となった。城の大広間には立食パーティーの準備ができている。高位貴族が対象の今日は、料理も会費に合わせて高級な食材が使われている。


 出席者の名簿が作られ胸に付けるリボンも用意された。出席者には会場の入り口で名簿を確認してリボンを付けて行く。


 そして沢山の男女が大広間に集まっていた。その中には侯爵令嬢である、リアとミラも居た。騎士団の騎士も数名知っている顔があった。


 皆、ドレスを新調したのだろう、下着の効果もあり美しいシルエットを作っている。会場は色取り取りのドレスの花が咲き乱れていた。


 王家の者からは誰も出席していない。ルイーザ姉さまは婚約が決まったし、アニカ姉さまとロミー姉さまは未成年だからだ。


 第一回目の舞踏会なので、趣旨の説明も含めて発案者の僕が挨拶することとなった。


 僕は宙に浮かぶと舞台の方へと飛んで行く。会場がざわつき始め舞台に上がる頃には十分に注目を集めていた。


「皆さん。月夜見です。初めてお会いする方もいらっしゃると思いますので、まず、自己紹介を差し上げます」


「私は、この世界ではもうすぐ六歳になるところです。ですがこの世界に転生する前は別の世界で生きていました。そちらでは二十五年生きていました。その記憶があるまま転生したのです。そして今日これから開催されます舞踏会は私の前世の世界の制度です」


「この舞踏会は結婚を希望する男女だけが集い、自分に合ったお相手を親など誰にも干渉されずに選ぶことができる出会いの場です」


「自分で選ぶのですから、その後の責任も自分で持たなければなりません。ですからお相手とはじっくりとお話をして相手を知るところから始めてください」


「また、既婚者の男性にはお願いが御座います。現在妻を持ち世継ぎができないために産んでくれそうな人を探しに来た。という方はこの後、舞踏会には参加せず、私に直接相談してください。男の子が授かる様、指導を差し上げます」


「皆さん、良いですか。今後は世継ぎを作るためだけに結婚する時代ではありません。結婚相手は良き人生の伴侶はんりょでなければならないのです」


「人間の良し悪しは、家の裕福さや容姿で決まるものではありません。本当に心から愛し、信頼し、尊敬し合える相手を探してください」


「なお、今日のこの会が皆さんに好評でしたら今後も定期的に開催して参ります。ですから今日、必ずしもお相手が見つからなくとも、また次回があります。慌ててお相手を決める必要は御座いません。あまり気負うことなく舞踏会をお楽しみください」


「ではこれより、第一回目のお見合い舞踏会を開催致します。皆さん、楽しんでください」


「うぉーーっ!」

「きゃぁーーっ!

「月夜見さまーーっ!」

「私と結婚してーーっ!」

 会場に盛大な拍手が鳴り響き、音楽の演奏が始まった。


 僕はあらかじめステラリアに僕のパートナーをお願いしていた。


 この舞踏会の初めから終わりまでを見守るつもりだ。でも、ひとりでうろうろすると出席者も気になるだろうと考え、ステラリアと常に一緒に居て静かに監視をしようと思ったのだ。


「ステラリア。今日は僕のパートナーをお願いできますか?」

「はい。喜んで」

「ではステラリアの背の高さに合わせて浮遊するので、腕を組ませて頂いてもよろしいですか?」

「はい。どうぞ」


「ではこのまま、会場をゆっくり歩いて見て回りましょうか」

「はい。仰せのままに」

「ステラリア。硬いよ!そんなに緊張しないで。今日の君はとても綺麗なのだから。自信を持って!」

「は、はい。月夜見さま」


 今日の僕は普段は閉じている読心術を開放する。サーチモード全開だ。出席者の心を手当たり次第に読んで、よこしまな考えを持つ者をあぶり出すのだ。まぁ、余計なお世話なのだけどね。こういうのを老婆心ろうばしんって言うんだっけかな?


 特に男性の既婚者は注意深く監視している。白い線の入ったリボンの男性を見つけるたびに心を読んで行く。


 初めのお断りで世継ぎを生むだけの嫁欲しさで来ている人には遠慮を願うと話した。だが、誰も僕のところへ産み分け相談には来なかった。つまり、純粋に複数の嫁が欲しいだけ。ということになる。勿論、今はまだ男性が不足しているから一夫多妻は否めないけれど。


 さて、どんな理由で複数の嫁が欲しいのだろうか。興味がある。早速既婚者を見つけた。


『今日はこの私に相応しい女は見つかるかな?私ほどの男であれば妻は何人居ても良いのだ。私の能力、知性の高さ、そして財力。世界中の女が私の妻になりたがるであろうからな。ふふふっ』


 うわっ!いきなり、気持ち悪い奴だな。僕はステラリアに耳打ちする。

「ステラリア。あそこの男を知っているかい?」

「はい。あれは、フィカス ディアンサス辺境伯さまです。確か三十五歳を超えているかと」

「むむむっ」


「どうされたのですか?」

「ステラリアの気分を悪くさせたくないので伏せておきます」

 でも見ていると彼に声を掛けられた若い女性は早々に逃げている様だから、まぁ、良いか。


 気分が悪くなってしまったが、丁度ミラを見つけた。まだ若い男性と話している様だ。

ちょっとだけ盗み聞きしてみようかな。


「ミラさまは私のことを覚えていらっしゃいますか?」

「シュルツさまは確か二年先輩でいらしたと思うのですが・・・」

「そうです。よく覚えていてくださいました。エミールとお呼びください」

「は、はい。エミールさまは婚約されたと聞いておりましたが?」


「あれはもうお断りしました。親が勝手に決めたものなのです。勿論、そのご令嬢は悪くないのですが、私は月夜見さまが作られた本を読み感銘を受けました」


「そしてこの会の冒頭で月夜見さまがお話しされた通りだと思っています。自分が心から愛せる女性でなければ結婚したくないのです」


「まぁ!月夜見さまの本をお読みになられたのですね」

「はい。ミラさまは勿論、お読みになられましたよね?」

「はい。今、私は月夜見さまのお付の侍女なのですから」


「本当ですか!月夜見さまはやはり、救世主でいらっしゃるのでしょうか?」

「はい。その様に私は確信しております」

 良い雰囲気だが、僕の話になっていてちょっと気まずいな。他を見ようかな。


 あ、リアがひとりになっている。

「リア。どうしたの?」

「あ!月夜見さま。やっぱり恥ずかしくて・・・」

「そうか。でも慌てることはないからね。周りを見てみれば・・・」

 って、ふと振り返ると、こちらを見ているひとりの若い男性を見つけた。


「リア。あそこに立っている男性を知っているかい?」

「あ!は、はい。あれは、オスカー ホーソーン伯爵家の長男です」

「知り合いなのですか?」

「えぇ、学校の同級です。私の家の隣の領地の子息なのです」


「では、幼馴染なのですね」

「はい。そうです」

「彼がずっとリアを見ている様ですよ」

「そ、そうでしょうか?」


「ふむ、リアは彼をどう思っているのですか?」

「え!そ、それは・・・」

 その時、リアの心の声が聞こえた。


『私は昔からオスカーさまをお慕いしていますが彼の家は伯爵家。侯爵家の娘の私には声を掛けてはくださらないでしょう』

 ふーん。なるほど。僕はステラリアを少し引張って、リアから離れると子声で聞いてみる。


「ステラリア、侯爵家の娘と伯爵家の長男は釣り合わないのですか?」

「伯爵家としては遠慮するでしょう。でもリアは確か次女だったと思いますので問題はないと思いますが」

「なんだそうなのか」


 僕のお節介が暴発する。

「そこのオスカー殿。ちょっとこちらへ」

「え?わ、私で御座いますか?」

「月夜見さま!」

 リアが赤い顔になり少し慌てている。


「オスカー殿。リアと幼馴染だそうですね?」

「は、はい。リヒター様とは当家と領地が隣り合っており同学年ですので」

「オスカー殿、リアは私のお付の侍女をしてくれているのですよ。その可愛いリアに、何故か話し相手が居なかったところなのです。オスカー殿、幼馴染のよしみでこの後、リアとお話しやダンスをお願いできますか?」


「え?それは・・・私は伯爵家の息子です。侯爵令嬢のリアさまに失礼かと・・・」

「おや?リアは侯爵令嬢ですが、次女ですよ。伯爵家の長男が役不足であることはないでしょうに」

「そ、そうでしょうか?」


「オスカー殿。もっと自信を持って良いのですよ。今日は何をしにここへ来たのですか?」

「は、はい!」

「では、リアを頼みましたよ」

「か、かしこまりました!」


 僕は、ステラリアを引っ張って退散した。振り返るとリアは真っ赤な顔をしていた。

「ステラリア。僕は余計なお世話が過ぎるだろうか?」

「月夜見さまは本当にお優しいのですね」

「それって間違ってはいないと思って良いのかな?」

「えぇ、勿論です。あの二人はお似合いだと思います」


 僕ってお節介焼きだったのかな・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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