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17.お見合い舞踏会の計画

 お見合い舞踏会の話に皆が乗り気になってきた。ここは一気に決めてしまおう。


「では、やりましょう!」

「え?やるのですか?どうやって?」

「いや、簡単ですよ。その前に城の使用人は平民の収穫祭に参加しているのですか?」

「交代で行っていると思います」


「では、使用人が収穫祭に参加できなくなったら可哀そうですから、収穫祭が終わった後の日程で開催しましょう。一日目は高位貴族を招待し、二日目は下位貴族を招待します」


「舞踏会ですから、お酒や食事を提供します。出席希望者からは出席の届とともに会費を支払って頂きます。例えば高位貴族は金貨一枚、下位貴族は大銀貨五枚とかが妥当でしょうか」


「当日は例えば、王家は紫、公爵家が青、侯爵家は緑、辺境伯家が黄色などのリボンを胸に付けます。そして、男性の既婚者はリボンに白い縁取りを付けるのです。そして会場では立食での会食とし、常に音楽を演奏してダンスができる様にします」


「そして会食をしながらお相手を物色します。お好みの方を見つけたら声を掛け、お互いに自己紹介します。そしてお話しして気に入ればダンスを踊るとか、お酒を一緒に飲むとかするのですよ。如何でしょうか?」


「月夜見さま。女性から男性に声を掛けるのですか?私にはちょっと・・・」

「リア。自分から男性に声を掛けるのは恥ずかしいですか?」

「はい。恥ずかしいです」


「無理に話し掛けなくても良いのです。その場合は、相手を見つめ続ければ良いのですよ。じっと見つめられると結構気が付くものなのです。気が付いても無視されたら縁がなかったと思ってまた別の人を探せば良いでしょう」


「でもね、男性としても、そういうことに慣れていないとか元々鈍い人だと気付いてもらえないこともあるのです。黙って待っていてお目当ての男性が取られてしまって悔しい思いをするくらいなら、勇気を出して自分から声を掛ける方が良いとは思いますけれどね」

「そうなのですか」


「こういうことも経験なのですよ。初めは恥ずかしさが勝ってしまうでしょう。でも何度も舞踏会を経験して行けば、積極的になれるかも知れませんよ。このままではいけない!ってね」

「そうですね。何だか楽しそうに思えて来ました」


「これは新しい夫婦を作り出し、子を増やすことに繋がるのですから、国の政策として推し進めて頂ければ結果として国のためになると思いますよ」

「本当にその通りですね」

「えぇ、やってみて皆さんに好評でしたら、四か月に一度とか、二か月に一度とか定期的に開催すると良いでしょうね」

「是非、やるべきだと思います!」


「ただ、ひとつだけ心配していることがあるのです」

「まぁ!どんなことですか?」

「こういう会を催すとですね。必ずと言ってもよいくらい悪い奴が入り込むのです」


「例えば結婚する気はないのに女性と付き合いたいだけで参加する。とか、もっと悪いことを考えれば、沢山妻をめとって、どんどん子を産ませて奴隷として売ってやろうなどと考えるとか」

「貴族でそんなことをすれば噂になってすぐに世間に知られてしまうと思うのですが」


「でも、お母さまは成人してすぐに月宮殿へ行かれたので知らないだけ。ということは御座いませんか?ステラリア、リア、ミラ。その様な酷い貴族の話を聞いたことはありませんか?」

「あ、あの・・・私、聞いたことがあります」

「まぁ!リア。誰のどんなお話なのですか?」


「私の家、リヒター侯爵家の隣の領主で、シリンガ ペリン子爵なのですが、商人の娘を次から次へと嫁にして、できた娘を奴隷商人へ売っているという噂を聞きました」

「そ、そんなことを・・・相手が貴族でないから表にでて来なかったのですね」


「お母さま。そう言えば、ミモザたちを見つけた時にステラリアから聞いたのですが、この国では食い扶持ぶちを減らすために子を奴隷として売ることがあるそうですね。そもそも奴隷とはどの様な制度なのですか?」


「えぇ、奴隷はお金で身を売られるのですが、考え様によっては一生の仕事を得られるひとつの道でもあります。そのまま貧困家庭でまともに食べられずに命を落とすところを奴隷になれば衣食住と仕事が与えられるのですからね。それに有能な者ならば自分で保証金を払って自由の身になる者や、才能を買われて養子になる場合もあるのですよ」


「なるほど、では全てが悪いという訳でもないのですね。では、どれくらいの金額で売られているのですか?」

「女の子で大金貨一枚から三枚。男の子はまず居ないそうですが、白金貨一枚が相場の様ですね」

「安いですね。引き取ってやって衣食住を与えてやるんだという言い分なのでしょうか・・・それで女の子の値段の差は?」

「容姿で決まる様です」


「はぁ・・・そうなのですね。でも奴隷って仕事をさせるためにだけ買っているとは思えませんね」

「では、何のために?」

「そのペリン子爵などですよ。女性をなぐさみ者としているのではないでしょうか。そして子ができたら邪魔だから売り払う。といったところでしょうか」

「そ、そんな酷いことを・・・」


「そうですね。許せませんね。でもそういう男性はどの世界にも居るのですよ。それは動物のオスの本能ですからね」

「動物の本能?とは何でしょうか?」


「集団で生活する動物に多いのですが、力の強いオスが多くのメスを従えて集団で暮らすのです。オスは強さを誇示こじし、自分の子孫を残そうとします。メスもまた強いオスの子を欲するのです」


「それが動物の本能なのですけれど、たまに理性の動物である人間なのに理性よりも本能が強いオスの人間が居るのですよ。人間の女性にとっては厄介な存在なのです」


「あぁ、とても良く分かります。奴隷として売らないまでも沢山の妻をめとりながら女性の扱いがぞんざいな殿方はかなり居るかと・・・」

「動物の場合は集団できちんと子育てしますのでまだましなのかも知れません。人間の場合は、ただ強さを誇示したいとか、性欲だけの者が居ますからね」


「ですからその様な者をお見合い舞踏会に入れない様にしたいのですけれどね」

「昼食の時にその辺の話も含めてお爺さまへお話ししてみましょう」




 昼食を食べながら王へ舞踏会の話を提案してみた。やはりこの世界で合コンという言葉は馴染まないので、お見合い舞踏会と呼ぶことにする。


「月夜見は本当に素晴らしい知恵を持っておるな。この制度は全ての者に利がある。それは主催者である我々にもだ。会費とやらを取ることで利益も出るのだからな。その上、結婚できる者が増え、行く行くは子が増え、人口が増えれば税収も増えるのだ」

「父上、早速、全領主に対して招待状を送りましょう」


「その前に、ひとつご相談が御座います」

「うむ。どんなことかな?」

 僕は先程、リアから聞いた話を例に問題のある人物の排除に効果的な策はないものか聞いてみた。


「そ、それは酷い話だな。だが、ありそうな話ではある。しかもそのペリン子爵だが、全て嫁にはしていないだろう。嫁にすると言っておいて、実はめかけなのではないかな?妾や使用人だと言い張られたら言い逃れできてしまうからな」


「国の法律で貴族は妻や妾、使用人の子を奴隷に売ったり、捨てたりしたことが発覚したら厳しい罰を与えることにするのは如何ですか?」

「うむ。まぁ、それでも逃げ道を探す者は後を絶たんだろうが、ないよりは良いだろうな」


「いや、お父さま。その様な法律を作ると、不要な子を殺して隠すとか、病気で死んだなどと嘘を言って逃れようとするのではありませんか」

「それもその通りだな」


「地球では人が病院以外の場所で死んだ場合、必ず殺人を疑って死因を調べるのです。もし殺されていた場合は犯人を見つけ処罰されるのですよ。でもこの世界ではそこまでは求められませんね」

「うむ。やはり形だけになってしまうが、発覚すれば厳罰に処すとだけはしておいた方が良いだろうな」


「はい。あとは招待状に既婚者の出席希望者には、家の家族構成や財務状況など厳格な審査がある。と付け加えれば、やましい考えがある者は出席を諦めるのではないでしょうか?」

「あぁ、それは良いな。その一文は必ず加えよう」


「では、その方向で進めよう。他に何かあるかな?」

「伯父さま、下位貴族の方には厳選して大商人も入れると良いかも知れませんね」

「おぉ、そうだな、実際に下位貴族の娘は商人の家に嫁ぐ者も多いのだからな」


「ただ、商人については先程の話もありますので、男性限定としておいた方が良いと思います」

「月夜見は、そんなことにまで気が付くのだね。本当に有能だな。この国の宰相さいしょうになってもらいたいくらいだ」

「おめにあずかり光栄です」

 これ、どこかで聞いたな?




 数日後、午後の剣術の訓練の時間だ。いつも通りにステラリアに訓練を受けた。


 僕もじわじわと背が伸びて来て百二十センチメートル程にはなっている。体力も付いて動きだって良くなってきていると思う。最近では木剣ぼっけんではなく、訓練用の剣を素振りする様にもなったのだ。


 フォルランも僕に追い付こうと必死に食い付いてくる様になった。たまに僕と打ち込みの訓練もしている。彼もまた成長している。


 訓練が終わり汗を拭きながら雑談していると、

「月夜見さま!」

「はい?」

「月夜見さまの発案で結婚希望者の舞踏会が開かれるそうですね」


「えぇ、もう招待状が届いたのですか?」

「えぇ、届きました。これはどういうものなのですか?」

 僕は主旨と会の内容を詳しく説明した。


「それは素晴らしいことですね。私たちにも出会いがあるかも知れないのですね!」

「そうです。是非、良いお相手を見つけてくださいね」

「あ!ドレスを仕立てないといけないですね!」

「それでしたら騎士服で出席するのも手ですよ」

「え?騎士服で!何故ですか?」


「これは全ての方に当てはまる訳ではありませんが、騎士の方って性格的に男勝りな方っていらっしゃるのではないでしょうか。そういう方にはその騎士姿が好きだと言ってくれる男性が合うのではないかなと思うのです。だから騎士服姿を見初めてもらうのです」


「勿論、騎士であっても、乙女な方は沢山いらっしゃると思うので、そういった方はやはりドレスで出席されるのが良いでしょうね」

「月夜見さまって女心が良く分かっていらっしゃるのですね!」

「兎に角、思い切りよく意中の方へは声を掛けていってくださいね」

「はい!頑張ります!」


「ステラリアさまは出席されるのですか?」

「え?私は出席しません」

「良かった!ステラリアさまが出席されたら会場の男性が皆、ステラリアさまのところへ行ってしまわれますもの」

「そ、そんなことになる訳ないではありませんか!」


「いいえ。絶対にそうなります!だって、月夜見さまから贈られたドレスを着たお美しいステラリアさまが今でも忘れられませんもの」

「本当に。皆でいつも話しているのですよ」

「そ、そんな・・・」

 うーん。これは話に入ってはいけないやつだな。絶対。




 夜。ベッドに入ってお母さんと話した。

「お母さま。舞踏会の話なのですが、ミラとリアは出席でしょうか。でもニナはどうするのでしょう?」

「ニナは出席しないと思いますよ」

「やはり貴族ではないからですね。ニナは結婚できないのでしょうか?」

「このままでは難しいでしょうね。だれか平民の紹介がない限りは」

「ニナはつらくないのでしょうか?」


「実は今日、ニナと話をしたのです。ニナは結婚したくないそうですよ」

「そうなのですか。それは何故なのでしょう?」

「ニナは親に育てられていないからどうやって子育てすれば良いのか分からないそうです」


「そうですか・・・難しい問題ですね。ニナは他にどんなことが好きなのでしょう?」

「今度、月夜見から聞いてあげてください」

「分かりました」


「あと、ステラリアも出席しないそうです」

「彼女はそうでしょうね」

「何故でしょう?まだ自信が持てないのでしょうか?」

「いいえ、あなたを慕っているからですよ」

「僕を?本気なのでしょうか?」


「えぇ、本気です・・・でも、私もよ」

「お母さま・・・」


 僕は複雑な気持ちのまま、お母さんに抱きしめられた。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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