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16.恋の成就

 この世界の十五歳の恋愛事情に驚きを隠せなかった。


 まぁ、それでもルイーザ姉さまはこの貴族社会の中で恋ができて、しかもそれが実りそうなのだ。こんな幸せなことはないのだろうな。


 とりあえず、姉さまの恋の行方は問題なさそうなので、お母さんのところに戻ることにした。ステラリアも一緒にいるはずだ。僕は人の頭の高さより高い位置まで空中に浮かんで、お母さんとステラリアを探した。


 そして二人はすぐに見つかった。二人が段違いに美しいからだ。揃って身長も高い。恐らく百七十センチメートルを超えているだろう。


 あまりに美しくて神々しくさえある。そのせいだろう。あまり人が近付けないでいる様な気もする。僕は二人の前へと進み、目線の高さに浮かんだまま話をする。


「お母さま。ステラリア。お待たせしました。ルイーザ姉さまの意中の人を確認して来ましたよ」

「それで、どうだったのですか?」

「ロビン クリューガーという公爵家の長男だそうです。観察して心を読んだら、お姉さまにぞっこんでしたよ」


「まぁ!ルイーザはロビンが自分に気がないと思っていたのではなくて?」

「はい。そう聞いていました。ですが、どうやらお互いに好き合っているのに自信がないだけだった様です。先程は贈り物も渡してダンスの申込もできていましたから大丈夫なのではないでしょうか?」


「でも、お母さま。この世界で恋愛結婚するのってとても珍しいのではありませんか?」

「そうですね。特に貴族では少ないと思いますね。まだ結婚まで進むと決まった訳ではありませんが、お相手がクリューガー公爵家ならば問題はないでしょう。ルイーザは幸せですね」


 皆が、遠巻きにこちらをちらちら見ながら何かを話している様だが、誰も近寄っては来ない。と思っていたら中年の夫婦が近寄って来た。それはステラリアの両親だった。

ステラリアが身を固くしたのが分かった。


「これは、アルメリアさま。月夜見さま。先日は妻の命をお救い下さり、ありがとうございました」

「マーセルさま。その後の経過は如何ですか?痛みや出血などは御座いませんか?」

「はい。すっかり良くなり、以前より体調が良くなっているくらいで御座います。本当にありがとうございました」

「それは良かった」


「時に、ステラリア。今日のあなたは素敵ね。見違えたわ!」

「ありがとうございます。お母さま」

「うむ。ステラリア。私も驚いたぞ」

「お父さま。これも全て月夜見さまのお陰です」

「何?月夜見さまの?もしや、もうその様な?」

 おいおい、この身体でなにができるというのだ!


「な!何をおっしゃいますか!私はこのドレスをお贈りしただけですよ」

「まぁ!そのドレスは月夜見さまからの贈り物だったのですか!」

「はい。お母さま」

「本当に素晴らしいドレスね。ステラリア。あなたは輝いているわ。幸せになったのね」

「は、はい。そう、なのでしょうか・・・」

 ステラリアは少しうつむき、頬を赤く染めた。


「月夜見さま。娘を末永くよろしくお願いいたします」

「私からもお願い申します」

 ステラリアの両親は嬉しそうな笑みを浮かべて去って行った。


「何かお願いされましたが。お母さま」

「そうね。お願いされたわ。しっかりと」


「ちょっと、アルメリア!今のはノイマン候ではないの?どうしたの?あ!あなたはステラリアなの?」

「お姉さま。そうです。ステラリアよ」

「マリーさま。ご無沙汰致しております」


「まぁ!剣聖のステラリアがこんなに美しくなって!どうしたことかしら?」

「マリー母さま、ステラリアをご存知なのですか?」

「ふふっ。王女が自分の国の剣聖を知らない訳は御座いません。ステラリアはアルメリアと同期でもありましたからね。学生時代から剣の腕前は大変なものだったのよね」

「恐れ入ります。マリーさま」

「それで、どうしてこんな大変身を?」


「お姉さま。先程お見えになったステラリアのお母さまが不治の病だったのですが、ステラリアから相談を受けた月夜見が治療したのですよ。そうしたら、ノイマン候がお礼にステラリアを月夜見の侍従に捧げるって」

「まぁ!そんなことが!でも、侍従になることと美しくなることは関係ないのではありませんか?」


「まぁ、普通ならばそうなのですが月夜見のことですから。踏み込み過ぎると言いますか」

「あら。踏み込んで手を出してしまったのね」

「マリー母さま!またそんな人聞きが悪いことを!僕は手など出してはおりませんよ」

「ではどうしてこれ程までに美しくなれたのですか?」


「いえ、ステラリアは元々、美しい女性なのです。自分で自信が持てなかっただけなのですよ。だから下着とドレスを贈って自信を持って頂こうと思っただけなのです」

「まぁ!そのドレスは月夜見さまの贈り物なのですね!」

「はい。マリーさま」


「では、ステラリアが月夜見さまをお慕いすることで綺麗になったのですね」

「あ、あの・・・それは」

「大丈夫よ、ステラリア。私は月夜見さまの指導のお陰で三十五歳にして子を生めたのよ。月夜見さまが十五歳になられた時、あなたはまだ三十一歳なのですからね」

「は、はい」


「ちょ、ちょっと待って・・・勝手に・・・」

「お姉さま、そのくらいにしておいてあげて」

「あ、あら。そうね。では、ステラリア。お幸せにね」


 マリー母さまは言いたい放題言ってエーデルワイス家の集まりへと行ってしまった。

ステラリアが赤い顔をしてうつむいている。もう!余計なことを・・・


 それからダンスの時間となった。カップルが次々に中央へと集まりダンスを踊った。

流石に僕は踊れない。ステラリアもお母さんも相手が居ない。そうして知らない人達が踊っているのを眺めていると、舞台からお姉さまが降りて来ようとしていた。


 舞台下ではロビンが待っており姉さまをエスコートして舞台を降りると、そのまま中央まで歩み出てダンスを始めた。二人とも華やかな笑みを浮かべて幸せそうだ。


「この世界ではダンスは何歳から練習を始めるのですか?」

「学校で習いますよ。十歳からですね」

「あぁ、それであんなに上手く踊れるのですね」


「月夜見も練習しないといけませんね」

「前世ではダンスなんてしたことがありません。僕にできるのでしょうか?」

「誰でも練習すればできる様になりますよ。まぁ、上手、下手はありますけれど」

「やはりそうですか。自信ないですね」

「私が一緒に練習しますよ」


「でも身長が釣り合うのはまだかなり先なのではないでしょうか」

「あら、お父さまも玄兎さまも背が高いし、お父さまは学校に入る時はもう、大人の女性よりも大きかったと言っていましたよ。それならば月夜見もあと五年もあれば私と同じ位になるのではないかしら」

「え?十歳で?あぁ、でも確かに前の世界でも大きな小学生は結構居ましたね」


 そして、ルイーザ姉さまの成人のお披露目は、姉さまの幸せの内に幕を閉じた。


 僕はマリー母さま、ジュリア母さまとエーデルワイス国王と王妃を瞬間移動で送り届けて、ネモフィラへと戻った。


 部屋に戻るとすぐにルイーザ姉さまが侍女を引き連れてやって来た。

「お兄さま!全てお兄さまのお陰です。見てください。このネックレスを頂いたのです。それにダンスも!」

 胸に輝くペンダントトップを誇らしげに見せつけた。


「おめでとうございます!お姉さま」

「え!そ、そんな。おめでとうなんて。まだ結婚の申込は来ていないのですよ・・・」

 姉さまは顔を真っ赤にして両手を頬に当てている。


「お母さま。この場合、女性は相手からの申込を待つ他はないのですか?」

「基本はそうですね。親同士で決めてしまう場合もありますけれど」

「では、伯父さまからクリューガー公爵家に話して頂けば良いのではありませんか?」


「この世界で王家と貴族の者が恋愛結婚するなんて滅多にあることではないのではありませんか?貴族階級の障害などがないのであればどんどん話を進めるべきでしょう」

「それは、そうですね」

「お姉さまからお母さまやお父さまへお話ししては如何ですか?」


「ええ!私から結婚したいとお話しするのですか!」

「恥ずかしいので?」

「恥ずかしいです」

「そういうものなのですか。では僕から話しましょうか?ロビンが姉さまにぞっこんだと」

「え?それはどういうことですか。お兄さま!」


「あ!い、いえ、こちらの話でした。忘れてください」

「あーーっ!お兄さまっ!何かお隠しですね!お話ししてくださいーっ!」

「あぁ、これは口が滑ったな。仕方がない。今日、ロビンがお姉さまに挨拶する前、彼の心を読んだのですよ」

「まぁ!本当ですか?」

 お姉さまが手を口に当てて驚いている。


「そうしたら、今日のルイーザさまは一段とお綺麗だな。とか、贈り物を喜んで頂けるかな。とか。あとは、僕なんて相手にして頂けるかな。と心配もされていました。つまり、彼は既にお姉さまにぞっこんなのですが、少し自分に自信がない様だったのです」

 お姉さまの顔がどんどん赤く染まっていく。


「でも、お姉さまにネックレスを喜んで頂けたことで自信が付いたのか、ダンスに誘うこともできました。だから今日以降は彼の気持ちに勢いが付いて話が進むのかも知れませんね」

「お兄さまーっ!!嬉しいです!」

 ドーン!と飛びつかれてしまった。そんなに抱き着いたら苦しいって。


 ようやく落ち着いたお姉さまは、侍女と共に自分の部屋へと引き上げて行った。帰り際、侍女たちが揃って僕へ深々と頭を下げてから下がって行った。


 それから一週間後。クリューガー公爵家より、ルイーザ姉さまへ結婚を申し込む正式な書簡が届いた。


 めでたしめでたし。だな。




 ネモフィラ王国に秋がやって来る。この世界の暦は地球と全く同じだ。そして十月初週に秋の収穫祭があるそうだ。


 昼食前の部屋には僕とお母さん、今日は侍女が三人居り、あとはステラリアも居た。

「お母さま、アベリアから収穫祭があると聞いたのですがどの様な祭りなのですか?」

「二年に一度、国や領主がお金を出して平民たちに振舞うのですよ」

「振舞う?どんなものをですか?」

「主には料理や酒、食材ですね。街の料理屋では料理を作って無料で振舞うのです」

「へぇ~それは太っ腹ですね」


「ふとっぱら。ですか?」

「あぁ、度量が大きい。ということです。素晴らしいことですね。他には何か催し物とかがあるのですか?」

「皆、食べて飲んで、歌って踊って。大変な盛り上がりですから特に催し物はないのです」


「そうですか。では、王家や貴族向けには何かあるのですか?」

「それは特にありませんね」

「え?収穫祭なのに何もしないのですか?」

「えぇ、王家や領主は資金を出す側ですからね」


「あーなるほど。それはつまらないですね。では、合コンでもやりませんか?」

「ごうこん?ですか?それは何ですか?」

「男と女を出会わせる場を作るのです」

「男と女を出会わせる?のですか」


「えぇ、例えばですよ。月影姉さま、ニナ、リア、ミラ、ステラリアとか未婚の結婚適齢期の女性は普段、男性とどこで出会うのですか?学校を卒業してしまったら職場以外では出会う機会が少ないのではありませんか?」

「えぇ、普通は親同士の話合いや相手からの申込みで結婚は決まりますからね」


「それをですね。未婚女性と男性の方は未婚者と既婚者で複数の妻が欲しい方に参加して頂いて、舞踏会を開くのですよ」


「その中でお互いに気に入った相手を探すのです。気になる相手が居たら声を掛けてお話ししたりダンスをしたりして、良ければお付き合いに発展すればよいのです」

「それは社交界と何が違うのでしょうか?今までも貴族であれば、社交界での出会いはありますよ」


「そうですね。でも社交界ですと親も居れば、高齢者、軍人など、未成年以外の人が皆、出席しているのですよね?」

「えぇ、そうです」


「それでは親の監視の下でお相手探しをすることになりますよね。そこに子の自由は無いではありませんか。更に結婚に関係のない人や、結婚を望まない人も居るのです。その様な邪魔者は除き、結婚を望む本人たちだけが結婚相手を探すためだけに集うのです」

「そういうことなのですね」


「ただ、子がそういう会に出掛けるとなれば、親はあそこの家だけはやめておけとか注文は付けるのでしょうけれどね」


「まずは、今までの様に親に見知らぬ相手との結婚を勝手に決められるのではなく、自分で相手を選べる。というところが新しいのです」


「ただ、この世界では貴族の階級がありますからね。気に入ったからと言って身分がかけ離れていては結婚が難しい場合もあるでしょうから、初めから階級で分ける必要があるでしょうか」

「そうですね。高位貴族と下位貴族で分ければ良いかも知れませんね」


「あとは、初めて会うと相手の階級や既婚者かどうかが分からないでしょうから、色分けしたリボンを胸に付けるというのが良いと思いますね」

「月夜見さま。それは異世界にある制度なのですか?」


「はい。兎に角、地球は人間が多いですからね。こういうことをしないと中々、意中の人に出会えないのですよ。会う機会を増やすということです。リア。どう思いますか?」

「はい。凄く良いと思います」


「では、やりましょうか」

 この世界では男女比が同じではないのだから、少しでも出会いの場は増やすべきと思う。


 かく言う自分は、前世でそんな会には一度も参加したことが無いのだけれどね。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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