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14.アルメリアの想い

 何とかしてステラリアには自信を持ってもらいたい。


「うーん。ステラリアは自分に自信がないのですね。分かりました。では行きましょうか」

「はい」


 僕は宙に浮いてステラリアに抱きつく。

「行くよ」

「はい」


「シュンッ!」


「は?ここは一体どこなのですか?」

 カンパニュラ王国のグロリオサ服飾店へと飛んだのだ。


「ここは僕がブラジャーを作ってもらった、カンパニュラ王国のグロリオサ服飾店です」

「カ、カンパニュラ王国?あっ!あれは!」

「そう、あれが僕の家がある月の都だよ」


 海の上空に浮かぶ大地が見えた。午後の日差しを浴びて、川から流れ落ちる水しぶきで虹が掛かっていた。


「なんて、美しい光景なのでしょう・・・」

 ステラリアが乙女になっていた。そんなことをしていたら・・・

「もしかして!あ!月夜見さまでは御座いませんか!」

 店からでて来たのは店主のアリアナだった。


「アリアナ。久しぶりですね」

「まぁ!よくいらっしゃいました。月夜見さま。ご無沙汰致しております」

「その後、ブラジャーの販売は如何ですか?」

「それはもう、忙しくて目が回る様で御座います。それだけでなく、新しいドレスも次々と生み出されております」


「そうですか、それは良かった」

「月夜見さま。それで今日はどの様な。そしてそちらのお美しい女性は?」

「あぁ、これは失礼しました。彼女はネモフィラ王国王宮騎士団の騎士、剣聖ステラリアです」


「まぁ!剣聖さまなのですか!お目に掛かれて光栄に御座います。私はこの服飾店の店主でアリアナ グロリオサと申します。以後、お見知りおきをお願い致します」

「あ。あぁ。私はステラリア ノイマンです」


「今日はこのステラリアにブラジャーを贈ろうと思いまして」

「まぁ!女性に下着の贈り物で御座いますか。月夜見さまもとうとう・・・あ!こんなところで申し訳ございません。中にお入りください。すぐにお茶をお出し致します」

 最後に何か変なことを言っていなかったかな・・・


「アリアナ。ステラリアが今、使用しているブラジャーは寸法が合っていない様なのです。正しく測ってもらえますか?」


「採寸しましたら騎士用を七着、貴族のドレス用を三着お願いします。ステラリアは侯爵令嬢でもあるのですよ」

「まぁ!そうでしたか。道理で気品溢れるお方だと感じておりました。そうですね。新作のドレスに合わせてみるのは如何でしょうか?」


「それは良いですね。是非、お願い致します」

「つ、月夜見さま。ドレスまでなんて、そんな!」

「ステラリアは黙って寸法を測ってもらえば良いのですよ。さぁ、行って来て」

「は、はい」


 そしてアリアナに小声で話した。

「アリアナ。ステラリアは容姿に自信がなく、自分の美しさに気付いていないのです」

「分かりました。私が気付かせて差し上げますわ!」

 アリアナの闘志に火が点いたようだ。


 お茶を飲んで待っていると、ドレスを着たステラリアがアリアナにエスコートされて現れた。


「え!?」

 僕は目が飛び出しそうな程驚いた。それはブルーを基調としたワンピースのドレスだった。ドレスは勿論、きれいだったのだがステラリアの胸の大きさだ。


 恐らくFカップだろうか?そんなに大きかったの?という感じだ。今までは布を巻いて胸を潰していたから分からなかったということか!


「如何でしょうか月夜見さま。流石は侯爵令嬢でいらっしゃいます。この新作のドレスがここまで映えるとは・・・」


 そのドレスは胸元が大きく開き、つまり谷間が強調された上、ウエストも細く絞られておりくびれがはっきりと出ている。そして広がり過ぎない分、深いドレープの入ったスカートが足元まで流れる様に繋がっている。


 地球だったら結婚披露宴でのお色直し後のカラードレスといった感じだろうか。


 本当に素敵なドレスだ。いや、もしかしたらステラリアが美しいからドレスがこれ程に輝いて見えるのかも知れない・・・やはり、ステラリアが持っているものが素晴らしいということなのだと思う。


「ステラリア。本当に美しいですね。これ以上の言葉がでてきません」

「そ、そんな。月夜見さま・・・」


 あ!またやっちゃった。でも、まぁ、いいか。だって本当に綺麗なのだから。それにこれから一生僕に仕えるのなら、これからこういうドレスを着る機会だってどこかであるだろう。


「アリアナ。このドレスは今、購入できるのですか?」

「はい。ブラジャーの方も全てご用意できます」

「では、全て頂きましょう。僕の発案料から支払っておいてください」


「まぁ!ドレスも贈られるのですね。うらやましいですわ!」

「月夜見さま!そんな!頂けません!」

「ステラリア。良いのです。もらっておいてください」


「では、アリアナ。騎士服と商品をここにまとめてもらえますか?」

「はい。すぐにご用意致します」

「月夜見さま。私、騎士服に着替えませんと」

「折角、こんなに美しいのですからこのまま帰りましょう」

「え!それは!」


「月夜見さま。こちらにお品物のご用意を」

「ありがとう。まず、これを送ってしまいますね」

 念動力でネモフィラの城の訓練場へ送る。


「シュンッ!」


「では、アリアナ。とても素敵なドレスをありがとうございました。また来ますね」

「ありがとうございました。またいつでもお越しください」

「ステラリア。行くよ」

「はい」


「シュンッ!」

「きゃぁーーーっ!」


 訓練場の女性騎士が一斉に叫び声を上げた。先に送った商品が訓練場の真ん中に突然現れたものだから、なんだなんだ?と皆が集まって来ていたのだ。そこへ僕らが出現したために叫び声を上げられてしまった。


「つ、月夜見さま。そ、それに・・・え?もしかしてステラリアさまなのですか?」

ビフォーアフターの如くに変身したステラリアに一同が驚愕の表情で出迎える。


 そして少しずつ冷静さを取り戻すと、

「ステラリアさま。何てお美しい!」

「こんなにお美しいステラリアさまは初めて拝見しました!」


「ス、ステラリアなのか?ほ、本当に?」

「騎士団長。それはステラリアに失礼ですよ」

「つ、月夜見さま。これは一体どうしたのですか?」


「まずは報告ですが、湖の氷を溶かして水が水路へ流れ出る様にしましたので水源の確保は大丈夫です」

「ありがとうございました。これで一安心です」


「あと、このよそおいなのですが瞬間移動する時にステラリアに抱っこしてもらったのです。その時に胸の感触が硬かったので下着を着けていないのかと聞いたところ、寸法が合っていないとのことだったのです」


「それでカンパニュラ王国の服飾店へ行って、寸法の合ったものを購入したのですよ。その時に店主に新しいドレスを薦められたもので一緒に購入したのです」


「あぁ、なるほど。では、そこに先に現れたものは・・・」

「えぇ、購入した下着です。私の力で先に送ったのです」

「月夜見さまが、ステラリアに下着やドレスを贈られたので?」

「えぇ、この下着はカンパニュラ王国の服飾店で私が提案して作らせたものですからね」

「えぇーーーっ!」

 また、女性騎士たちが一斉に叫ぶ。


「あの下着は月夜見さま自ら作られたものだったのですか?」

「えぇ、あれは地球という私の前世のもの。異世界のものなのですよ」

「えぇーーーっ!」

「そ、そうだったのですか・・・」


「それにしても、ステラリアは美しいでしょう?」

「え?えぇ、それは確かに・・・月夜見さま。まるで自分の妻を自慢なさる様におっしゃるのですね」

「え?今のってそう聞こえましたか?」

 女性騎士たちが両手を胸の前で硬く結び、首がもげそうな程、首を縦にブンブン振っている。そしてステラリアは真っ赤な顔になって頬を両手で抑えている。


 あぁ、またやってしまった。僕はダメな男だな・・・


 訓練場の空気がおかしなことになってしまった。いたたまれずその場を逃げる。

「ステラリア、ちょっと僕の部屋に一緒に行ってくれますか」

「はい」

 城内の廊下を歩きながら話す。すれ違う人誰もがステラリアに振り返る。


「ステラリア。申し訳ありません。僕はこちらの世界の習慣に慣れないもので、何かおかしなことを言ってしまった様ですね」

「月夜見さま。分かっています」

「でも、ステラリア。あなたが過去に。誰に何を言われたのかは知りません。でもあなたは本当に美しいのです。もっと自分に自信を持ってください」

「月夜見さま。ありがとうございます」


 僕たちは部屋へと入った。

「お母さま、戻りました」

「まぁ!ステラリア!素敵なドレスね!とても綺麗だわ!」

「あ、ありがとうございます。アルメリアさま」

「月夜見。一体どうしたのですか?まるで花嫁を連れて来たみたいね」

「お母さままでその様なことを」


 お母さんに今日のことを始めからお話しした。

「そうだったのですね。そんな流れでドレスまで買うことになったのね」

「はい。でもステラリアが本当に綺麗で・・・」

「えぇ、そうですね。ステラリア。あなたは本当に美しい女性ですよ。生涯月夜見のそばに立つに相応ふさわしいほどに」

「アルメリアさま・・・」


「私、ステラリアとお話ししたいことがあるの。月夜見。あなた達も。少し席を外して頂いてもよろしい?」

「分かりました、お母さま。ニナ、ミラ。サロンに行っていようか」

「かしこまりました」




「ステラリア。そこに座って頂戴」

「はい。アルメリアさま」


「私はあなたがうらやましいわ」

「え?私が?で御座いますか?」

「えぇ、私はね。月夜見を愛しているの・・・母親としてではなくね」

「え?そ、それは・・・」


「おかしいでしょう?私はね。月宮殿へ嫁になんて行きたくなかったの。だって八人目の嫁なのよ。ひとり目はマリーお姉さまなのだしね。それって世継ぎを作りたいだけでしょう?」

 ステラリアは目を合わせず、困った表情になった。

「・・・」


「ごめんなさい。あなたに愚痴を言っても何も答えられないわね」

「月夜見は異世界から転生して来た、この世界の救世主です。自分の子がそんな素晴らしい人物で嬉しくないはずはありません」


「でもね、月夜見は・・・彼は子供ではなく、二十五歳の男性だったの。そして有能で多才、繊細で誰に対しても思いやりのある優しい男性。この世界では見たことがない本当に素敵な男性なの。ステラリア。あなたにも分かるでしょう?」

「はい・・・」


「私は、いつしか彼をひとりの男性として愛してしまったの。でも彼の心はこの世界にないのです。彼には前世で幼い頃から愛した女性が居たの。でもその女性は重い病におかされてしまったそうで、その病を治すために彼はお医者さまになったのだそうです」


「でも、彼女の病は治せず、二十五歳で亡くなったそうです。そして彼は絶望し、彼女を追う様に自ら命を絶ったのです。そしてそのままこの世界に転生したのです。彼の心には今もその悲しい記憶が残ったままなのですよ」

 ステラリアは両手を口に当て、目を見開いて驚いていた。


「そ、そんな・・・そんなことが・・・それでは月夜見さまは・・・」

「えぇ・・・この世界に転生しても月夜見の心は空っぽのままなのです。元気に見えるかも知れませんが、それは常に他人のことを考え世話を焼くことで気持ちをまぎらわしているに過ぎません。今でも、ひとりにしてしまうと人知れず涙を流しているのです」


「だから・・・今はひとりにはできないのです。そのためにこうして部屋も一緒のままなのですよ。でもね・・・幾ら抱きしめても、どれだけ愛しても、彼の悲しみは一向に埋まらないのです・・・」


「きっと、私では駄目なのでしょう・・・」

「アルメリアさま・・・」


「それでも、このネモフィラに来たのは彼の心を救うためなのです。少しでも彼の心を癒せる様にと考えてのことなのです」


「恐らく、彼は自分で自分を取り戻すしかないのだと思います。成人までの十年間で立ち直ることができなければ、世界に出て自分を探しに行くことでしょう」


「そうなれば私は彼について行くことができません。母親なのですからね・・・恋人ならば良かったのに・・・きっと私にはできないことなのです」


「でもステラリア。あなたにはそれができます。だからあなたにこの話をしたのですよ。どうか彼の助けになってあげて欲しい。私の分まで支えて欲しいのです。ステラリア。頼めますか?」


「そ、そのお役目は本当に私で良いのでしょうか?」

「月夜見は恐らく、あなたを生涯自分に付き添わせるという覚悟を決めています。だからこそ、あなたのことを考え、その様なドレスを贈り、自分に自信を持つ様に助言しているのだと思いますよ」


「それにね。これは女のかんなのだけど、彼はあなたの髪と瞳の色が本能的に好きみたいなのです。きっと大丈夫ですよ」


「わ、分かりました。私は生涯、月夜見さまに尽くす覚悟でおりましたが、今のお話しを伺って、更に決意を固めました。月夜見さまには必ず、自分を取り戻して頂き、幸せになって頂きます。そのお手伝いをアルメリアさまの分もさせて頂きます」


「ステラリア。ありがとう。月夜見をよろしくお願いします。でも十五歳になるまでは、添い寝はさせて頂きますからね。そこから先はあなたの番よ」

「え?あ!は、はい!え?添い寝?で御座いますか!」


 ステラリアは「ぼっ!」と音が聞こえそうな程に急に真っ赤な顔になった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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