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13.ミモザたちの適職

 四人の捨て子を保護し、王城へと向かう。


「さぁ、皆、行くよ!」

「シュンッ!」


「うわーっ!ここどこ?」

「急に景色が変わったよ」

「ここお城じゃない?」

「天国に来ちゃったかも」


 城の玄関には侍女が四名待ち構えていた。

「お風呂に入れましたら使用人の食堂へ通します」

「うん。それでいいですよ。お願いしますね」

「はい。かしこまりました」


 僕とステラリア、騎士団長は使用人の食堂へ行った。しばらくしてお母さんと侍女長が連絡を受けてやって来た。


「月夜見。森に捨て子が住み着いていたのですって?」

「えぇ、女の子が四人。狩猟の時に使う物置小屋にみついて身を寄せ合って生きていた様です」


「それで、その子たちをどうするのですか?」

「あのまま放置して熊の餌にすることはできません。この国の子なのですからこの城で使用人として使ってもらえるならばそれが良いでしょう。難しいならばお父さまにお願いして、神宮か月宮殿へ連れて行きます」


「マチルダ。この城の侍女に空きはあるのですか?」

「空きは御座いませんが四人くらいであれば、住まわせて教育することは可能です」

「では、お願いできますか?私から父上にお話ししておきますので」

「仰せの通りにいたします」


「お母さま。ありがとうございます。あの子たちがネモフィラから離れることにならなくて良かった」

「月夜見は本当に優しいのね」


 しばらくして彼女たちは侍女のお仕着しきせを着てやって来た。風呂が終わったら次は食事だ。とは言え、しばらくろくなものを食べていなかったのだろうから、まずはパンとスープだ。


「皆、お風呂はどうだったかな?」

「はい。初めて入りました。気持ち良かった!」

「きれいになってすっきりしました」


「さぁ、お風呂の次は食事だよ。お腹いっぱいお食べ」

「わーっ!パンだ!スープもある!」

「食べていいの?」

「夢を見ているのかな?」

「夢じゃないよ。神さまが助けてくれたんだから」


 彼女たちは幸せそうに口いっぱいに頬張って夢中で食べていた。僕はその姿を見ていたら何故だか涙が溢れて来てしまった。

「月夜見・・・」

 お母さんが僕の涙に気付いて僕の手を握った。


 食事が終わるとデザートがでてきた。特に高級なものではないが、クリームの乗ったケーキだった。彼女たちは目を丸くして驚いていた。


 流石にケーキは口いっぱいには入れず、一口ずつ味わって食べている様だった。

四人とも出された食事を全てきれいに平らげた。口の周りにクリームのひげを付けて皆、笑顔になっていた。


 ケーキを食べ終えてお茶を飲ませながら、ようやく話を切り出した。

「皆、まずは名前と歳を聞いても良いかな?」

「はい。私はミモザ、十歳です」

「私はプリムラ、九歳です」

「アイビー、七歳です」

「私アミー、五歳だよ」


 あぁ、皆、二、三歳は小さく見える。やせ細ってしまって明らかな栄養失調だ。よくこの寒い冬を乗り切ったものだ。


「皆、名前だけかな?苗字がある子はいないかな?」

「苗字?分からない」

 どうやら皆、平民なのかそれとも苗字が分からない程、小さい内に捨てられたかだ。


「ありがとう。ミモザ、プリムラ、アイビー、アミー。君たちが良ければ、これからはこの城に住んで城の仕事をしませんか?そうすれば、四人一緒に居られるし、毎日ご飯も食べられて、温かいベッドで眠れるんだよ。どうかな?」


「このお洋服もらえるの?」

「あぁ、それはもうアイビーの服だよ」

「本当!嬉しい!」

「毎日ご飯食べられるの?」

「勿論だよ。アミー。お腹いっぱい食べられるんだよ」

「わぁーい!」


「ミモザ、プリムラ。君たちならここで働くことがどういうことか分かるかな?」

「はい。私たちがお城で働くなんて本当に許されることなのですか?」

「うん。僕のお母さまが王さまにお願いして君たちがここで働ける様にしてくれるよ」

「え?神さまのお母さまは、王女さまなのですか?」

「うん。そうだよ」


「えぇ、あなた達は今日。神さまに助けられたのですよ」

「ありがとうございます。神さま」


 僕はこの世界の月の都とネモフィラ王国の王城しか知らなかったのだ。そして今日、この世界はなかなかに厳しい世界なのだと知った。




 翌朝、目が覚めるとすぐにミモザたちの部屋に向かった。

「皆、おはよう!よく眠れたかい?」

 既に着替えは済んでいた。その部屋には二段ベッドが二台あり、四人が一緒に寝られる様になっていて安心した。


「はい。神さま。お腹いっぱいになったからよく眠れました」

「こんなに温かい部屋で眠るのは初めてでした」

「沢山眠れました!」

「もうご飯なの?」


「そう、良かった。朝ご飯の前に馬たちにご飯をあげるんだ。一緒に見に行こうか」

「お馬さんが居るの!」

「沢山居るよ」


 僕はミモザたちを引き連れて、まずはうまやへ向かった。

「まずはこちらを紹介しよう。狼の小白だよ」

 小白には念話で脅かさない様に頼んだ。


「おおかみなのですか?大丈夫なの?」

「小白は賢いから僕とお話しができるんだ。とても良い子なんだよ」

「ふーん。可愛いね」

「白い毛がきれい!」

「おっきいね!」


 小白がミモザたちに近付いて行き、ひとりずつ匂いを嗅いで手をめる。

「きゃっ!」

「うわぁー」

「なめた・・・」

「可愛い!」


 アミーが小白に抱きついてしまった。顔をベロベロ舐められている。こうしていると犬にしか見えないな。


「皆、怖がらなくて良かった。さぁ、では馬たちに朝ご飯をあげようか」

 僕とお母さん、そしてアベリアで水と飼葉かいばを与えていった。それから、厩舎きゅうしゃにも行って、アルにも水と飼葉を与えた。四人の中で一番小さなアミーが、一番楽しそうにしていた。


 それから使用人の食堂へ行った。今朝も侍女長のマチルダが顔を出してくれた。

「さぁ、皆、朝ご飯にしようか。僕もここで頂くよ」

「月夜見さまがここでお召し上がりになるので御座いますか?」

「うん。まだミモザたちが慣れていないし、話したいこともあるからね」

「かしこまりました。すぐにご用意致します」


「ミモザたちと同じものを出してください」

「使用人の食事をお出しする訳には・・・」

「良いのです。気にしないでください」

「そ、そうですか?では、仰せのままに致します」


 使用人の食事は少しかたいパンと根菜やトマトが入ったスープだった。

特に問題はなく、美味しく食べられた。まぁ、僕は食通ではないし、こだわりもないからね。


「神さまも私たちと同じものを召し上がるのですか?」

「ミモザ。いつもは少し違うものを頂いているよ。でも今日は君たちとお話しがしたくてね」

「はい。何でも聞いてください」

「ミモザは賢いね。ミモザはここでどんなことをしたいのかな?」


「私は、みんなにご飯を作ってあげたいです。今までは酷いものしか食べさせてあげられなかったから」

「そう。どんなものを食べていたのかな?」

「はい。街に行って食ベもの屋で残り物や野菜の切れ端をもらっていました。あとは森で木の実や食べられる草を取って食べていました」

「大変だったね。ミモザが皆のお母さんだったのだね?」


「はい。だから皆にもっと美味しいものを食べてもらいたいです」

「それならこの食堂で働くのはどうかな?」

「はい!働きたいです」

「マチルダ。どうかな?」

「はい。仰せの通りに」


「プリムラはどんなことが好き?」

「はい。私はお花が好きです。だから森に住むのは好きだったのです。冬は嫌いでしたけど」

「あぁ、そうか。ではご飯を食べたら庭園に行ってみようか?お庭の花をお世話する仕事もあるんだよ」

「あ!私、それがいいです!」


「アイビーは何が好きなのかな?」

「私はお洋服が好きです。このお洋服も可愛くて」

「おぉ。なるほど、では服を作ったり直したりする仕事はどうかな?」

「はい。やりたいです!」


「アミーはどうかな?」

「私は動物が好き!お馬のお世話がしたい」

「あぁ、そうか。アミーはまだ小さいけれど、少しずつならばできるかな」

「はい。頑張る!」


「マチルダ。なんとかなりそうかな?」

「はい。月夜見さま」

「でも皆、今すぐに仕事を始める訳にはいかないよ」

「どうしてですか?私、働けます!」


「ミモザ。張り切る気持ちは分かるけど。君たちは長いこときちんとした食事をっていないから栄養失調という病気になっているんだ。まずは沢山食べて、しっかり寝て身体の調子を整えないと急に仕事を始めたら倒れてしまうんだよ」

「そうなのですか・・・」


「うん。だからあと二週間はゆっくり過ごすんだ。小白や馬たちと遊んだり、庭園で花を見たりするのは構わないよ。分ったかい?」

「はい。分かりました」


 食後は庭園を案内して回った。まだ春の花は咲いていないが、プリムラの顔は輝いていた。庭師にプリムラを紹介した。そして、うまやへ行き、アミーのことをアベリアに話して、皆で小白と遊んで過ごした。




 昼食後には騎士団のところへ行った。昨日、ミモザたちのことがあり水路のことを途中でほったらかしにしていたのだ。


「騎士団長、ステラリア。こんにちは!」

「あぁ、月夜見さま」

「昨日はミモザたちのことがあってその後、水路のことを放置してしまいました」

「えぇ、ステラリアから話は聞いています。何でも水路の氷を全て持ち上げて投げ飛ばしたとか」


「はい。でもその後がどうなっているのか確認していないのです。これからステラリアと見て来ますよ」

「それだけならば、私たちで見て参ります」

「いえ、僕ならば一瞬で飛べますから」

「一瞬なのですか?」


「えぇ、一度行った場所には世界のどこでも瞬間移動で行けますので」

「そ、それはそれは・・・」

「では、ステラリア。行きましょうか?」

 ステラリアは赤い顔をしながら僕ににじり寄って来る。なんだかなぁ。そのまま任せて抱っこされる。


「行くよ」

「はい」


「シュンッ!」


 僕たちは貯水池と水路の繋ぎ目のところに現れた。水路は空っぽになっているが水はちょろちょろ程度しか流れて来ていない。


「ステラリア。どこかで詰まっている様ですね。上流に向けて見て行きましょう」

 僕はステラリアの左手を取ると、少しだけ地面から浮き上がって水路に沿って飛び始めた。

「これくらいの高さなら怖くないでしょう?」

「はい。月夜見さま。お気遣いありがとうございます」


 水路には何も問題はなかった。そのまま湖に到着した。湖の水路への出口が凍っていて、ちょろちょろとしか水が流れていなかったのだ。湖面の氷はまだ薄く残っている状態だ。


「どうしようかな、湖面の氷を全て剥がすのは面倒だな。この水路の部分だけ溶かして一度流れができれば、この部分はもう凍らないかな」


「ごぉーっ!」

 火炎放射で水路の周辺の氷だけを溶かしていった。すると勢い良く水が水路へと流れ出した。


「これでいいね」

「はい。ありがとうございます」

「少し、散歩でもして行こうか」

「はい」

 二人で湖畔を歩く。


「小白はお母さまとソニアに乗って、ここへ来た時に出会ったんだよ」

「ここだったのですね」

「うん。つまり、この辺は小白の親たちの縄張りという訳だ。ステラリアはこの辺で狼を見掛けたことがあるかい?」


「いいえ、私は見たことがありません。出会っていたら大変なことになっていましたね」

「そうだね。こちらの数が余程多くないと襲われてしまうかも知れないね」

「気をつけないといけませんね」


「あ!そうだ。ところでステラリア。君はブラジャーを着用していないようだけど、ネモフィラ王国の騎士団では支給品になっていないのですか?」

「あ!そ、それは・・・支給品にはなったのですが二着だけなのです。私達の仕事は訓練で汗をかいてしまうので洗濯すると毎日は着られないのです」


「ステラリアは剣聖でしょう。お給金もそれなりにもらっているのでは?買えないのですか?」

「い、いえ、それがその。あれはちょっときつくて・・・それならば今まで通り、布を巻けば良いかと・・・」


「あぁ、きちんと寸法が測られていなかったのですね。それでは着用しても不快なだけでしょう」

「そういうものなのですか?」

「えぇ、あれは僕が作ったものなのですよ」

「え?月夜見さまが女性の下着を?」


「あれも医師の目から見れば、医療用具の様なものですからね。正しく使えば肩こりも和らぐし、その上、女性が美しく見える様になるのですよ」

「美しく・・・ですか。でも私なんて・・・」


 また始まってしまった。ステラリアはどれだけ自信を失っているのだろうか。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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