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9.初めての手術

 ローレル候の病名が確定した。男性不妊症だ。


「分かりました。ローレル候。あなたは男性不妊症という病気です」

「私は病気なのですか。それで子ができないのですか!」

「はい。では説明しましょう」

「シュンッ!」

「うわーっ!」

 自分の部屋から紙とペンを念動力で引き寄せたのだ。皆驚き過ぎだよ。


「絵に描きますね。精子とはこの精液の中にこの様な形をした子種が沢山泳いでいます。絵に描くとこんな感じです。この一回の射精で出る精液の中には精子が二億匹くらい居るのが普通です。この世界の全人口が五十万人ですから、二億とはその四百倍の数です」


「それが普通なのですが、ローレル候の精液を見たところ、精子は二千万程度しか居ません。つまり、普通の人の十分の一しか居ないのです。これでは妊娠させられません」

「な、なんと!そんなことに・・・」

 ローレル候は顔面蒼白だ。


「ローレル候。そんなに落胆しなくてもこの病気は治せますよ!」

「治せるのですか!どうすれば良いのでしょう?」


「そうですね。まずは、お父上に仕事に復帰して頂いてください」

「父上にですか?それが私の病気とどう関係するのでしょう?」

「ローレル候は働き過ぎなのです。過労という病気持ちでもあります。侯爵家の政務はひとりでは処理し切れない仕事量なのでしょう」


「それを無理して、休まずに、長時間働き続けることで身体の機能が麻痺しているのです。それで精子が作られなくなってしまっているのですよ」


「ちなみにですが、女性がその様に無理して長時間、重労働を続けた場合は、排卵が止まり、生理が毎月きちんと来なくなります。ステラリアやベロニカは身に覚えがあるのでは?」

「は、はい。おっしゃる通りです」

 ステラリアが神妙な面持ちで答えた。やっぱりな。剣聖なんて並大抵な訓練で成れるものではないだろうからな。


「よいですか。子がなかなか授からない場合の問題は女性側にだけある訳ではないのです。こうして男性側に問題が起こっている場合も多くあるのですよ」


「ですから、お父上に仕事を手伝ってもらって一日の仕事量を減らし、週に一日位は仕事をしないでメリッサと遊ぶ日を作ってください。そうして心を落ち着ける日ができれば、精子も徐々に多く作られる様になるでしょう」


「そうですか。しかし、父上が・・・」

「お父上は世継ぎができずに、この家が絶えても良いとお考えなのですか?」

「いいえ!決してその様なことは御座いません」

「では、ローレル候からお父上に今の話を全てお話するのです。世継ぎを得るために頼む。と」

「分かりました。話してみます」


「一日の仕事は朝九時から夕方六時まで、昼も一時間は休憩を取るのですよ。そして週に一日は休み。これができて一か月経ったら私を呼んでください。男の子が授かる方法をお教えします」

「お教えくださるのですか!」

「えぇ、勿論です。でも奥さま三人ともに男の子ができても大丈夫なのですか?」

「それはもう。男の子は何人居ても困りません!」


「だそうですよ、奥さま方。皆さんにも今まで世継ぎが授からないことで大きな不安感があったと思います。ローレル候が回復しても、今度は皆さんの気持ちに不安があると排卵はあっても受精や着床といった、妊娠まで進まないことがあるのです」


「あまり心配ばかりせず、ご自分が楽しくなることをすることも大切です。美味しい料理やお菓子を食べる、花を愛でるのも良いでしょう。そういった気分転換できるものを見つけて穏やかに過ごしてください」


「何かお分かりにならないこと、お聞きになりたいことは御座いますか?」

「あ、あの、ではこれから私たち妻三人は一緒に過ごした方が良いのでしょうか?」


「そうですね。できれば一緒が良いでしょう。三人でメリッサを可愛がり、三人でローレル候を支えるのが良いと思います」


「三人の内の誰かひとりだけが頑張れば済む話ではないのです。三人が仲良くなれば、今後の子育ても助け合いながらできるのではありませんか?」

「はい!ありがとうございます!」

「月夜見さま。ありがとうございます」

「月夜見さま。なんとお礼を言ったら良いか・・・」


「お礼は世継ぎを授かってからで結構です」


 帰りは瞬間移動で帰った。屋敷の前から忽然と消える船を見て全員が固まった。

「なんというお方なのだ・・・」

「やはり、救世主というのは本当だったのですね!」

「さぁ、お父上に連絡をしなければ!アンナもメリッサと共にここへ移るのだ」

「はい。旦那さま!」


 城に戻ると玄関でお母さんにお爺さんへの報告を頼み、僕はそのままアルを走らせるためにステラリアとベロニカと一緒に厩舎きゅうしゃへ向かった。


「ステラリア、ベロニカ。今日はちょっと刺激が強かったかな?」

「今日も!です。前回といい、驚きっ放しです。月夜見さまは本当に五歳ではないのですね」

「えぇ、三十歳です」


「えーーーっ!さ、さ、さ、さん、じゅうー!」

「ふふっ。ベロニカって本当に可愛いね」

「え!私が?え?か、可愛い?え?」

「からかい甲斐があるよねー」

「あー!からかっているのですか!」


「でも三十歳というのは本当ですよ。前世の世界で二十五年生きましたから。そしてこちらで五年。併せて三十歳です」

「その世界のお医者さまという仕事の知識は凄いものなのですね」

「そうですね。こちらの世界では宮司が治癒能力で癒すから、知識が付かなかった様ですね」

「その世界には治癒能力はないのですか?」


「ないのです。医学という学問で身体や病気の知識を学ぶのですよ。ステラリアは何か聞きたいことがあるのですか?」

「あ!いえ、私などがお聞きして良い訳が御座いません。大変失礼致しました」


「ステラリア、ベロニカ。僕は貴族ではないし、前世の世界にも貴族制度はなかったから、あまり身分の違いとか分からないんだ。何も気にしていないし、二人にはこれから剣術も教えてもらうのだから遠慮なんてしないでください」


「よ、よろしいのでしょうか・・・実は私の母のことなのですが、生理が月に何度も起こるのです。出血が酷いそうで最近ではめまいもするそうなのです」


「それはいけませんね。神宮には行っているのですか?」

「はい。通っていますが少しだけ痛みが治まるだけで良くはならないのです」

「お母さまは何歳ですか?」

「三十七歳です」

「お子さんは何人生みましたか?」

「私と姉の二人です」


「これからまだ、お子さんを作る予定はありますか?」

「いいえ、流石にもう三十七歳ですし、ないと思います」

「そうですか。明日。神宮へ来てもらうことはできますか?」

「え?母を診て頂けるのですか?」


「えぇ、構いませんよ。明日の昼食後にしましょうか」

「はい!ありがとうございます!」




 翌日、昼食後に神宮へ入った。ステラリアに付き添われて母親が来ていた。

「ステラリア。こちらに」

「はい」


 月影姉さまに話して分娩に使う部屋を使わせてもらった。勿論、月影姉さまも立ち会ってもらう。


「月夜見さま。こちらは私の母のマーセル バイス ノイマンで御座います」

「ステラリアがお世話になっております。母のマーセルで御座います。今日はありがとうございます」

「初めまして。月夜見です。では早速、診察しましょう」


 腹部を透視して子宮の周辺を診ていく。もう何の病気かは予想がついている。あとはその病状の程度だ。子宮を見ると、既に男性のこぶし大の大きさの筋腫きんしゅ子宮頸部しきゅうけいぶにできていた。


 うーん。子宮筋腫だけどもう大きくなり過ぎている。しかもまだ三十七歳では閉経まで年数があり過ぎる。


 もう、子を作ることがないのであれば、地球なら手術して子宮全摘しきゅうぜんてきする状況だ。そうしなければ生理の状態が続き、貧血でまともに暮らせないし、ここまで大きくなっていると膀胱も圧迫しているはずだ。


 子宮全摘か・・・いや、待てよ。地球の物をこの世界に引き寄せられるんだよな。そして、この前は赤ん坊も引っ張り出した。それなら子宮だって瞬間移動の様に引き寄せて取り出せるのでは?


 いや、失敗はできない。よく考えろ。子宮は身体の中で独立している訳ではない。膣や卵巣とも繋がっている。それに卵巣は女性ホルモンのことを考えれば残したい。


 子宮と繋がっている臓器をあらかじめ焼き切って出血を止めておく。それから子宮を筋腫ごと引っ張り出す・・・か。やってみるか?


 このままでは月影姉さまでは治せない。どの道、命はないのだ。やってみるしかないか。

「お兄さま。どうされましたか?」

「月夜見さま。相当悪いのですか?」


「えぇ、残念ながらかなり悪いです。このままではそう長くは生きられないでしょう」

「では、治せないのですね」

「はい。既に治すことはできない程、悪くなっています。でもあることをして成功すれば、命は助かるかもしれません。成功すれば・・・ですが」


「それは・・・難しいことなのですね」

「はい。成功するかどうか。この世界ではやってみたことがないので分からないのです」


「お兄さま。でもそれをしないと生きられないのですよね?」

「それは、そうです」

「月夜見さま。もし、それをやって頂けるならば、お願いできないでしょうか?きっと今しかその機会はないのだと思います」

 ステラリアのお母さんは、わらにもすがる思いなのだろう。


「ステラリア。良いのですか?」

「母上の言う通りだと思います。私からもお願い致します」

「分かりました。終わると同時にかなり痛みがありますが我慢してください。お姉さま。痛みを止める治癒を掛け続けて頂けますか?」

「はい。お兄さま」


「何か、大きめの口の広い壺の様なものはありますか?」

「はい。すぐに持って参ります」

 その場に立ち会っていた巫女のシエナが走って出て行った。


 僕はレーザーメスの練習をする。まず指先に火を出す。それをどんどん高温に上げる。炎が青白くなる。更にその炎を細くしていき、最後には雷の電気ショックの様なレーザーメスの光に変えていった。よし、これを体内で再現して切開するのだ。


 周りの皆が目を丸くし、声を出すのも忘れて僕の指先を見つめていた。


 巫女のシエナが走って陶器の深い鍋の様な土瓶を持って来た。

「ありがとう。ではそれを僕の足元に置いてください。始めます」


 子宮に透視の焦点を当てて見ていく。子宮に繋がる臓器や血管の繋ぎ目をぎゅっと絞る様に力を加えると、その部分をレーザーで焼いて止血しながら切っていくイメージで処置をする。膣と子宮の入り口や卵巣と卵管などなど。


 ステラリアのお母さんは、切る度に顔をゆがめ痛みに耐えている。月影姉さまがその度に治癒の力を絞る。最後に切った個所の止血を確認すると子宮を丸ごと足元の土鍋に瞬間移動させることを強くイメージする。


「べちゃっ!」

 足元で音がした。お腹の中の子宮が全摘出ぜんてきしゅつできた。内部の出血が気になる。急いで姉さまと一緒に炎症防止と止血のための治癒を開始する。


 かなり痛そうに顔をゆがめているが意識は保っている様だ。今夜から明日にかけて問題が起こらなければ成功したと言えるだろうか。


「なんとか成功したかも知れません。でも明日までは油断できません。このまま七日間はここで静養してください。今日の夜と明日の朝にまた診に来ます」

「月夜見さま。本当にありがとうございます」

「ありがとうございます。月夜見さまは母上の命の恩人です!」


「まだ、助かると決まった訳ではありません。少なくともあと三日は絶対に安静が必要ですよ」

「はい。ありがとうございます」


 ふぅー。本当にできるとは思わなかったが何とかなったみたいだ。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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