3.ネモフィラの家族計画
サロンへ移り、それぞれにお酒やお茶を楽しんだ。
「さて、月夜見。子供たちも居なくなったので例の話をしようか」
「伯父さま、例の話とは男の子を授かるお話でしょうか?」
「そうだよ」
「これが私たちの基礎体温表です」
「拝見します。そうですね。トレニア伯母さまは大変安定していますね。二十八日周期ですね。シオン伯母さまも二十八日か二十九日で安定されています」
「これならば妊娠できますか?」
「はい。お二人とも既におひとりは生んでおられますから全く問題ありませんよ」
「では、これからどうすれば良いのでしょうか?」
「その話を今、ここで進めて良いですか?とても突っ込んだ恥ずかしいお話をお聞きしてお答え頂くのですが・・・」
「お姉さま。皆の前では止めておいた方が良いかと・・・」
「まぁ!アルメリア。そんなお話なのですか?」
「はい。男の子を授かりたいとのお話であれば」
「では、私たちの部屋でお話ししませんか?」
「あぁ、アルメリアたちの部屋は広くなったからね」
「さぁ、参りましょう」
ステュアート伯父さん、トレニア伯母さん、シオン伯母さん、お母さんと部屋へ向かった。
「侍女たちはどうしましょうか?こんなに沢山の人たちに聞かれて良い話ではないですね」
「では、お茶を出してもらったら下がって頂きましょう。ニナ、リア、ミラ。今日はもういいわ」
「はい。アルメリアさま。失礼致します」
三人が声を揃えて挨拶し、下がって行った。
三人掛けのソファの中央に伯父さんに、その両脇に伯母さん二人に掛けてもらった。
「まず、幾つかの質問をさせて頂きます。内容はかなり恥ずかしいものですが、他に誰も聞いていませんし、僕も医師として秘密は守ります。質問は男の子を授かるために全て必要な情報なのです。ウソや見栄を張ることなく正直にお答えください。それができますでしょうか?」
「はい。分りました。お答えします。二人共良いね?」
伯父さんが両脇の妻に正す。
「はい。お答えします」
「はい。私もお答えします」
「では、お聞きします。世継ぎであるフォルランが生まれて以降に性交はされましたか?」
「いいえ」
「いいえ」
本当におかしい。普通は性欲があるのだから男の子が生まれたからもう性交しない。何てことにはならないものなのだけど・・・
この世界の人間は、性交は子を作るための行為としてしか認識されていないのだろうか?いや、あり得ないな・・・
「やはり、そういうものなのですね。分かりました。ではトレニア伯母さま。伯父さまとの性交で絶頂感を感じたことはありますか?」
「絶頂感とはどのような?」
「はい。医学的に説明しますと、呼吸が荒くなり、性器周辺の収縮や腰回りでの痙攣。それに脳で強い快感を得たりもしますね・・・で、その様な体験はございますか?」
「い、いえ、無いと思います」
「シオン伯母さまは如何ですか?」
「はい。私はあると思います」
「伯父さま、三人のご婦人と性交される時、どなたとでもいつも同じ様にされていましたか?」
「え?そ、それは・・・うーん。どうだろう?・・・そ、そうだね。同じだったのかも知れないね」
「そうですか。分かりました」
「では、トレニア伯母さまは十四日後が排卵日の様です。シオン伯母さまは二十日後ですね。今日から八日間だけ、お二人と性交渉を再開してください。四日ずつで良いでしょう」
「そして、いつもの同じやり方ではなく、特に絶頂感を感じたことのないトレニア伯母さまとは、お二人でよくお話しされながら、トレニア伯母さまがもっと気持ち良くなる様に練習してください。シオン伯母さまは、いつでも同じ様に絶頂感を感じることができるかを再確認してください」
「そして、七日後からは禁欲してください。十二日後からトレニア伯母さまの検診を朝から二時間毎に行います。排卵しているかを確認するのです。排卵は恐らく十三日後か十四日後だと思います。排卵が確認されたらすぐに伯父さまと性交して頂きます」
「性交の方法ですが、検診で排卵を確認しましたら伯父さまと伯母さまにはそれぞれ、お風呂に入って準備をして頂きます。性交をするのは伯母さまの部屋です。伯母さまは準備ができましたらベッドで裸になり待機してください。私がこのグリーンゼリーを性器に挿入します。終わりましたら伯父さまを呼んで伯母さまの部屋で性交して頂きます」
「その際は、伯母さまを絶頂感に達する様、導いて差し上げてください。ただし、これからの練習でも絶頂感を得られなかった場合は無理をするのは逆効果なので、ほどほどに気持ち良くなって頂ければ結構です」
「絶頂に達した場合は、その後に性器の奥深いところで射精をしてください。浅いところでは出さない様にご注意ください。そして射精をしましたら抜かずにそのままにし、萎えるまで待ってから抜いてください。伯母さまはそれから足を閉じて極力動かずに数時間はそのまま眠ってください」
「シオン伯母さまは十八日後から朝から二時間おきに検診をします。その後は同じ流れです。これで男の子を授かるための性交は全てになります。如何でしょうか。かなり大変だと思いますし、この様な初めて見るものを性器の中に挿入するのです。抵抗が強い様でしたら考え直して頂くのが良いと思います」
「そのグリーンゼリーとは何でしょうか?どこで手に入れたのですか?」
「女性には卵子という卵があります。男性には精子という子種があります。この子種に男の子になる精子と女の子になる精子があるのです」
「女性器の中は男性器という異物を受け入れるので、外から入って来る雑菌を殺すために常に弱酸性という状態になっています。これは身体を守る仕組みです。ですが男の子になる精子はこの酸に弱く、卵子に辿り着く前に弱ってしまう可能性が高いのです」
「でも女の子になる精子は酸に強いのです。それで普通に性交するだけですと若干、女の子の方が生まれ易いのです」
「ですが性交で絶頂感に達すると、この酸が中和される成分が分泌され、酸が弱まるのです。そうなると男の子になる精子が活発になり卵子に到達し易くなるのです」
「このグリーンゼリーは女性器の中を弱アルカリ性にするためのものなのですよ。だからこのグリーンゼリーを入れた上に絶頂感に導いてから射精する。となっているのです」
「もし、私がこのゼリーを注入するのに抵抗を感じる様であれば、ご自分でできる様にお教えしますよ。そしてこのグリーンゼリーは、私の前世の世界の友人から取り寄せたものです。この世界のものでは御座いません」
「前世の世界って、この世界ではない別の世界からどうやって取り寄せたのですか?」
「念動力です。鞄に金貨と欲しいものを書いた手紙を入れて、前世の友人の家に鞄を飛ばしたのです。友人が手紙を読み、金貨をその世界のお金に換金して、このゼリーを購入し鞄に入れたのです。それを私が力で引き寄せたのですよ」
「そ、そんなことが!凄いですね」
「それにしても男の子を授かるというのは、そんなに大変なことだったのですね」
「そうですね。でもたまたまとか、体質的に絶頂感を良く感じるご婦人は、男腹と言って男の子ばかり生む方も居るには居るのですけれど」
「これだけはお断りしておくのですが、これだけやっても必ず、男の子ができるとお約束はできないのです。ただ確率を高めているだけなのです」
「それと今までのお話はあくまでも技術的な方法です。月の都の神宮での会議の時もネモフィラ王城での講義の時にもお話ししましたが、奥様の精神状態が安定していることが一番重要です。伯父さまが伯母さま達を平等に愛し、大切にして頂けていなければ、これだけやっても妊娠自体ができない場合もあります」
「また、この産み分けという行為をしようとすること自体が精神的な負担となって、妊娠し難くなる場合も多々あるのです。つまり、男の子が生まれる可能性が高まる代わりに、妊娠できる可能性は下がるのです」
「では、子ができないこともあるのですか?」
「はい。あり得ます」
「そうか、そんなに難しいことなのだね」
「如何でしょうか。実行されますか?」
「私は、是非お願いしたい。トレニア、シオン。どうだろうか?」
「私も是非にお願い致します。全て月夜見さまの指示通りに致します」
「私もです。是非、お願い致します」
「分かりました。では、十二日後の朝からトレニア伯母さまの部屋に伺います。では今夜から性交の練習をお願いします」
「あ!そ、そうだったな。では。今日はどちらから始めようか?」
「日程上、トレニア伯母さまからで良いでしょう。では早速どうぞ!」
「う、うん。分かった。では、トレニア。行こうか」
「は。はい」
「では、私たちはこれで失礼致します」
三人が赤い顔をしながら退室して行った。
「月夜見。私の姉妹のためにありがとう」
「いいえ。これくらいのことは何でもありません」
「今夜はニナたちも下がらせてしまいましたし、もう、遅くなってしまいました。月夜見。一緒にお風呂に入りましょう」
「はい」
二人で湯船に浸かりながら話をした。
「今日は初日で慌ただしかったですね。ソニアに会いにも行けませんでした」
「明日で良いのですよ」
「あ!そう言えば。ニナはまだ十五歳だったのですね」
「えぇ、ニナのことはお話ししていませんでしたね。ニナや月宮殿の使用人は、親を何らかの理由で亡くした子、女は要らないと捨てられた孤児や奴隷になっていたところを買われた子など、不運な子が数多く居るのですよ」
「ニナは五歳の時に母親が神宮で病気の治癒の甲斐なく亡くなってしまい、月宮殿に引き取られたのです。月宮殿で引き取られた子は使用人として小さい内から訓練を受けるので、ニナは十歳から侍女として働いているのですよ」
「そうだったのですね。ニナにその様な過去があったとは。ニナはそのことを覚えているのですか?」
「えぇ、包み隠さずに話していますから」
「ニナは今、幸せなのでしょうか?このまま一生、侍女として働くしかないのですよね?」
「そうですね。ただ、王家や天照家で侍女の仕事に就くことは簡単なことではありません。望んでも簡単にはなれない仕事なのです。リアやミラが侯爵令嬢でありながら、私たちの侍女になっていることから考えれば分るでしょう?」
「それはその通りですね。人によってはなりたくてもなれない憧れの仕事なのかも知れません」
「えぇ、ですから不幸な過去は持っていますが、比べるものによっては幸せなのですよ」
「こればかりはニナに聞いてみなければ分かりませんね」
「また月夜見の優しさが暴走しそうですね。ニナをどうしてあげたいのですか?」
「いえ、どうしたいなどと僕が決めて良いことではありません。ただ、親が居ないと聞いて、自分の前世に重ねてしまっただけなのだと思います」
「月夜見は前世で親と別れたのですか?」
「お母さま。この世界に離婚はありますか?」
「はい。制度としてはありますが離婚した人の話はあまり聞いたことがありません」
「そうですか。前世の世界では男女比が同じだと言いましたね。そうなると結婚して当たり前の様になるのですが、そのせいか簡単に離婚することも多いのです」
「私の両親は、私が幼い頃に離婚しましたので僕には母親の思い出がほとんど無く、居ないも同然です。だからニナに同情したのかも知れません」
「そうですか。お母さまをほとんど覚えていないのですね?」
「前世の記憶に母は無く、父もその役目を果たして居らず、僕は孤独でした。その境遇から救ってくれたのが彼女だったのですが、その最愛の彼女を病気の苦しみから救うこともできずに僕は全てを失ったのです」
「そう・・・それであなたは自分を失っているのですね」
「自分を失っている?僕がですか?」
「えぇ、あなたには自分というものが見えません。いつもまず先に他人のことを考えて、その人のためを思って行動しているように見えます。そこにはあなた自身の主体的な意思が見えないのです」
「それは先程あなたが話した通り、前世で全てを失い自分で人生を終わらせたからでしょう。始めから自分の人生が無いのです。人のために生きることで、それを自分がしたいことなのだと言い聞かせているだけなのではありませんか?」
「お母さま・・・」
「ごめんなさい。言い過ぎてしまったでしょうか」
「いいえ。その通りなのかも知れません。では、どうしたら良いのでしょう・・・」
「このネモフィラの十年で自分を探すのです。それでも見つからなければ、成人してから世界へ出て探せば良いのではないですか?」
「そうですね・・・」
お風呂から上がってベッドに移動した。キングサイズのベッドは広かった。
「お母さま。どうしてそんなに僕のことが分かるのですか?」
「あなたがいつも私のことを見てくれて、私のためにって考えてくれるからよ。それが嬉しくて私もあなただけを見る様になっていったの。それで分かる様になったのよ」
「ありがとうございます」
「私もよ。ありがとう」
いつもの様にお母さんは僕を優しく抱きしめてくれた。
お読みいただきまして、ありがとうございました!