2.歓迎パーティー
僕達は晩餐の支度ができるまで一度部屋へ戻った。
「ニナ、リア、ミラ。今日は晩餐がパーティーになるので、悪いのだけど最後まで居てもらっても良いかしら?きっと皆にも振舞いがある筈だから」
「問題ありません」
「と、当然のことです」
「だ、大丈夫です」
「リアとミラはまだ緊張が解けない様ね。まぁ、王家の者が全員居る場を初めて見たのでしょうからね。緊張しても仕方がないわね。そうね。ではニナ、ここに全員分のお茶を用意してくれる?」
「全員とは、私たちを含めてのことでしょうか?」
「えぇ、勿論そうよ」
「かしこまりました」
「ちょっと休憩してお茶の時間にしましょう」
リアとミラが慌ててニナを手伝ってお茶を入れ、お菓子を皿に並べてテーブルにセットした。
「さぁ、全員席に着いて頂戴。もたもたしないで!」
「は、はい」
決まり悪そうな顔をしながら三人がソファに並んで座った。テーブルを挟んでこちら側にはお母さんと僕が座った。
「さぁ、まずはお茶を飲んでお菓子を食べましょう」
言われてから三人はおずおずとお菓子に手を伸ばし、クッキーを食べ始めた。
「今日は色々と、驚くことばかりだったでしょう。こういう時は少しでも食べると落ち着くものよ」
「リア、ミラ。あなた達のお姉さまは私と同期だったの。学校でも仲良しだったのよ」
「パウラ姉さまがですか?」
「アンナ姉さまもなのですか?」
「えぇ、そうよ。パウラもアンナもお友達よ。その妹たちがここに来てくれて嬉しいわ。それで、パウラとアンナは元気にしているかしら?」
「はい。パウラ姉さまは三年前に女の子を、そして先月、男の子を生みました」
「まぁ!それは良かったわ」
「アンナ姉さまは、二年前に女の子を生みましたが、まだ男の子は授かっておりません」
「そう、でもまだこれから授かることはできるでしょう」
「はい。そうだと良いのですが・・・」
ミラはとても暗い表情になってしまった。
「まぁ!どうしたのですか?アンナの嫁ぎ先で何かあったのですか?」
「い、いえ、それは・・・」
「そう。近々、会いに行かないといけませんね。ミラ。アンナに訪問の連絡をしておいてくださるかしら」
「は、はい。かしこまりました」
「さぁ、クッキーをもっと召し上がれ!」
貴族の家では色々とあるみたいだな。地球にはもう貴族なんて形くらいしか残っていないからな。そんな人種との付き合い方なんて分からないし、悪いけれどあまり興味もないな。
「ミラ。君の髪の色は地毛なのですか?」
「地毛?あ。は、はい。生まれた時からこの色です」
「金色?ではないよね。少し桜色っていうのかな?」
「月夜見。ストロベリーブロンドっていうのですよ」
「ストロベリーブロンド。ですか。初めて見ました。美しい色ですね!」
「ま、まぁ!美しいだなんて!」
ミラは両手を頬に当て顔を真っ赤にしている。
「月夜見。それは女性を口説いているのと同じですよ・・・」
「え!この世界では髪の色を褒めただけで口説いていることになるのですか!」
「えぇ、ミラとリアは侍女とは言っても貴族令嬢なのですから。言動には気をつけてくださいね」
「ミラ。月夜見はこの世界のことをまだ何も分かっていないのです。その勉強も兼ねてここへ来ているのですよ。ミラもリアも月夜見がおかしなことを言っていたら教えてあげてくださいね」
「そ、そうなのですか。分かりました」
「はい。分りました」
参ったな。髪の色も迂闊に褒められないなんて!
晩餐の時間となり食堂へと向かった。食堂に入って驚いた。月影姉さまが居たのだ。
「月影姉さま!お久しぶりです」
「お兄さま!本当にネモフィラ王国へいらしたのですね!」
「月影。元気でしたか?」
「はい。アルメリア母さま」
「お父さま。月影も呼んで頂けたのですね」
「この時間ならば神宮での診療も終わっている時間だし、月影は月夜見に会いたがっていたからな」
「ありがとうございます」
大きく長いテーブルの上座に王ヴィスカムが座り、その右手に第一王妃シレーノス。その隣が王子のステュアート、オードリー、ルイーザ、フォルラン、トレニア、アニカと並び、左側には、第二王妃ウィステリア、お母さん、僕、月影、シオン、ロミーと並んでいる。
「では、パーティーを始めよう。今日からアルメリアと月夜見が一緒に暮らすこととなる。皆で歓迎しようではないか!では乾杯!」
「乾杯!」
大人はビールかワインを飲んでいる様だ。子供はジュースかお茶だ。僕はお茶にしてもらった。
「ではひとりずつ、月夜見に歓迎の言葉とお願いしたいことや一緒にやりたいことがあれば伝えなさい。ではシレーノスからだ」
「月夜見。あなたを歓迎します。マリーと同じ様にトレニアとシオンに男の子を授けて頂ければと思います」
「シレーノスお婆さま。かしこまりました。ありがとうございます」
「月夜見。よく来てくれたね。歓迎するよ。そして僕の妻、トレニアとシオンをよろしく頼みます」
「ステュアート伯父さま。かしこまりました」
「月夜見。ようこそ。ネモフィラ王城へ。ここでの生活を楽しんでください」
「はい。オードリー伯母さま。ありがとうございます」
「月夜見。ようこそ!私はあと一年で学校を卒業するのです。だからあまり長く一緒に暮らせないかも知れないけれど、一緒の時には前の世界のお話を聞かせてください」
「ルイーザ姉さま。ありがとうございます」
「月夜見。僕と遊んでください!」
「はい。フォルラン。一緒に遊びましょう」
「月夜見。ようこそ。心から歓迎致します。男の子を授かります様、お導きください」
「ありがとうございます。トレニア伯母さま」
「月夜見。ようこそ!私はあと四年学校に通います!仲良くしてください!」
「ありがとうございます。アニカ姉さま」
「月夜見。アルメリアとともに来てくれて、本当にありがとう。これから十年、有意義な時間を共に過ごしましょう」
「ウィステリアお婆さま。ありがとうございます」
「お兄さま。ようこそお出でくださいました。お兄さまが来るのを心待ちにしておりました」
「月影姉さま。ありがとうございます」
「月夜見。ようこそ。心から歓迎致します。トレニア姉さまと同様に男の子を授かります様、お導きください」
「分かりました。ありがとうございます。シオン伯母さま」
「月夜見。ようこそ。小鳥とお話しできる様にお願いします」
「はい。たくさんお話ししましょう。ロミー姉さま」
「皆さま。私たち親子を歓迎してくださり、ありがとうございます。これから十年お世話になります」
「皆さま。歓迎下さり、ありがとうございます。十年間よろしくお願いいたします」
この城の食事は和食ではない様だ。勿論、王家の食事なのだから美味しくない訳がない。でも和食ではないのが今日だけなのか、ずっと続くのかはこれから分かるだろう。それにしても皆の衣装は地球の映画で観た中世の貴族の様だな。
僕にはちょっと馴染まない。お母さんは美しいから何を着ても違和感はないのだけど。
よく考えたら、この城だって中世ヨーロッパの城そのものだ。高い塔があり窓は縦長で大きい。基本は石造りで調度品もそれらしい趣のものだ。何故なのだろうか。
そして隣の神宮は日本の神社仏閣そのままで入り口には大きな赤い鳥居がドーンと構えている。それも中世ヨーロッパのお城の隣に。とてもアンバランスでおかしな風景だ。これではまるでテーマパークみたいだ。
でも、それを言ってしまったら僕や月影姉さまが欧米系の顔をしながら、日本風な名前なのも相当に変だ。まだまだこの世界は分からないことだらけなのだ。
食事が終わってデザートとお茶の時間に移り会話が弾んだ。
「月影。月影は月夜見よりも年上の姉なのに何故、月夜見をお兄さまと呼ぶのだ?」
「お爺さま。お兄さまとお話ししていると自分より、ずっと年上としか感じないのです。それで、月宮殿の娘たちは皆、お兄さまと呼んでいるのです」
「私もその方が良いです」
「私も」
「私もです!」
「あぁ、そうだな。うーん。どうなのだ?アルメリアよ」
「そうですね。戸惑いながら会話するよりも良いと思います」
「分かった。ではルイーザ、アニカ、ロミーは月夜見をお兄さまと呼んでも良いぞ」
「ありがとうございます!」
「そうだ月夜見。先程、剣術を習いたいと言っていたな?」
「はい。お爺さま」
「月の都では習っていたのかな?」
「いいえ、まだ何も始めておりません」
「そうか、ではまず基礎体力を作り、鍛えるところから始めねばな。その身体では剣を持ち上げることすら難しいであろう」
「では明日からフォルランと一緒に基礎体力作りをしようか」
「はい。伯父さま。是非、お願い致します」
「まだ、身体が出来ていないから少しずつだ」
「フォルランはもう鍛え始めていたのですか?」
「いや、まだ何もしていなかったから二人で始められて丁度良かったよ」
「月夜見は月宮殿でどんな暮らしをしていたのかな?」
「そうですね。一歳から毎日、力を使う訓練をしていました」
「力を使うとどんなことができるのですか?」
「ウィステリアお婆さま。念動力と言って物を動かしたり、飛ばしたりできます。あと空中浮遊に瞬間移動、念話、透視に治癒ですね。それからもし、雨が降らずに作物が枯れそうであれば雨を降らせますよ」
「あ、雨を降らせることができるのですか!」
「えぇ、如何様にも」
「ネモフィラ王国は北に位置しておるから、もうそろそろ雪が積もり始めるのだ。冬の間に山に積もる雪があるから夏でも水には困ることが無いのだよ。だが、雪の嵐が酷い時に嵐を止めることはできないだろうか?」
「それならば雪雲を晴らしてしまえば良いのでできます」
「では、危険な程の嵐になった時はお願いするかも知れんな」
「はい。いつでもご依頼ください」
「透視とは何が見えるのですか」
「トレニア伯母さま。部屋の壁を透視すれば部屋の中が見えますし、人の身体を透視すれば、身体の中も見えますよ」
「身体の中?それは何が見えるのですか?」
「お腹の中の赤ちゃんとか身体の臓器ですね」
「お腹の中の赤ちゃんが見えるのですか!」
「えぇ、だから男か女かも生まれる前から分かります」
「本当に凄いのですね」
「あ、あの・・・お兄さま。ドレスの中も透視したら見えるのですか?」
「え?あ!そ、それは、まぁ、見ようと思えば見えるでしょうね。でも僕は医師ですから、いつも身体の中を見ているのです。ルイーザ姉さまは僕が姉さまの裸を見ると思って心配になったのですか?」
「い、いえ、そんなことは・・・」
「姉さま。僕は医師なので人の身体を見ることは当たり前なのです。だから今までにも何千人という女性の身体を見て来ているので、透視をしてまで見たいとは思わないのですよ」
「月夜見。また言い過ぎていますよ」
「あ!お母さま、すみません・・・」
「お兄さまはそんなに沢山の女性の裸を見たのですか・・・」
「まぁ、事実としてはそうなのですが、ちょっと誤解を招く表現かと・・・」
「ルイーザ。月夜見に何か見てもらいたいものでもあるのかな?」
「あ、あの。今度、相談に乗ってください」
なんだろう?顔が真っ赤だ。なんか思春期がらみなのだろうか?
「いつでもどうぞ」
「お兄さま。以前、助けて頂いた親子がお兄さまに大変感謝しておりました」
「そうですか、二人とも元気なのですね」
「はい。でもお父さまとお爺さまから通達が来て、もうお兄さまに頼ってはいけないと」
「一応、表向きにはその様になっています。でも折角隣に居るのですから、何かあったら頼ってください。お母さま、良いですよね?」
「えぇ、月夜見の判断に任せます。でもここで無理はしないでくださいね」
「はい。お母さま。月影姉さま、久しぶりですから明日にでも神宮を見学させてください」
「お兄さま!ありがとうございます!」
月影姉さまがいつもの様に抱きついて来た。
「あぁー!月影姉さま、ずるい!お兄さまに抱きつくなんて!」
「あら。ルイーザもお兄さまが好きならば抱きつけば良いではありませんか」
「良いのですか?」
ルイーザ姉さまが赤い顔をして見つめて来る。
「え?そんな、良いとか悪いとかではなく・・・ですね。まぁ、兄弟なのですから問題はないと思われますが・・・」
「まぁ、微笑ましいですね」
「オードリーお姉さま。今は月夜見がまだ小さいですからその様に言っていられるのです。月夜見の前の世界では、兄弟での結婚は認められていなかったそうです。だから自分ではそんなことにはならないと思っているのですよ。でもこの世界では認められていますからね。ある程度は自制して頂かないと」
「まぁ!そうなのですね。兄弟での結婚は何故いけないのですか?」
「血が濃くなり過ぎるために子に問題が出ることがあるのです。それは親にとっても子にとっても悲しいことですから」
「それは恐ろしいですね・・・ルイーザ。分かっていますね?」
「はい。お母さま。勿論です」
「さぁ、そろそろ食事はお開きとしようか。子供たちは部屋へ戻りなさい。我々はサロンへ移ろうか」
僕は子供の枠ではなかった様で、そのままサロンへ連れて行かれた。
お読みいただきまして、ありがとうございました!