25.第三の星
お父さんの一族が月の都に集まってから一年が経った。
天照さまからの呼び出しはまだない。蓮は毎日、神星へ通い桜お母さまから剣術の指導を受けている。身長も桜お母さまと同じ、百七十五センチメートルに達していた。
リリアは一週間おきに地球の月の都と神星のプリムローズを行き来していた。
ただ、プリムローズに居る時は、昼食時には蓮に会いに月の都へひとり瞬間移動で飛んでいた。
つまり、会わない日はない。ということだ。夫婦なのだから当たり前なのかも知れないが、二人はまだ九歳だ。
蓮は剣術だけでなく、勉強にも力を入れている。蓮はひとつの星を統治するのだ。全ての学問を習得すると一生懸命だ。そしてそれはリリアも同じで、蓮に追い付こうと必死で勉強している。
今日はお父さんが地球の月の都を訪問する日でリリアも来ている。夕食後に皆で話し合いの場を設けた。サロンで大人はお酒を飲みながら、子供たちはお茶やジュースを飲んでいた。
リリアは蓮の隣に寄り添って座り、メイドのルーが淹れた珈琲をリリアが受け取って、蓮に渡している。常に甲斐甲斐しく蓮の世話を焼いている姿は見ていて微笑ましい。
「蓮、勉強は進んでいるかな?」
「はい。高校の勉強は終わり、今は大学の専門科毎に勉強を進めています」
「翼、蓮が全ての学問を習得するのはいつ頃になるのかな?」
「そうですね。あと二年もあれば終わるのではないでしょうか?リリアもあと三年あれば習得できるでしょう」
「え?リリアも?」
「リリアは優秀ですね。どの学問でもスポンジの様に吸収してしまうのです」
「そうか。蓮もリリアも凄いな。道理で天照さまからお役目を賜る訳だ」
「蓮、剣術の方はどうかな?」
「そちらはまだまだです。身体も出来切っていませんし、あと二、三年は掛かるかと」
「うん。そうだね。私や翼と同じ体格にならなければ、完成された剣術は身に付かないだろう。そちらは慌てずに一歩ずつだね」
「はい。そのつもりです」
「ところで、蓮は三つ目の星をどの様な星にしたいのかな?」
「それは文化や生活様式のレベルのことでしょうか?」
「そうだね。それもあるけど、まずは統治の仕方だね。地球と神星とどちらに似せるのか、ということかな?」
「それなのですが、リリアと話し合って、神星の王や貴族とか、地球の国王、大統領、首相を置く形にはしたくないと考えています」
「ほう。ではどの様な形を望むのかな?」
お父さんは少しだけ驚きながらも、優しさを湛えた眼差しを蓮に向けた。
「はい。中央政府に各省庁を置き、それぞれを大臣にまとめさせますが、それを取りまとめる大統領や首相の様な者は置かずに、まずは私が直接指導したいと思います」
「つまり神である蓮が指導者となるのだね?」
「はい。でもそれは初めの百年程度でしょうか。その後は僕の子に引き継ごうと思っています」
「では、国の形は取らずに地域毎に役所を置くということかな?」
「はい。そうなります。初めに中央政府で憲法と役所の形を作ってしまえば、後は誰が大臣になっても変わりませんから」
「なるほど。でもその制度の運用はかなり地球寄りの高度なシステムを導入する必要があるだろうね」
「はい。機械文明は初めから地球レベルのものを導入したいと思います。また、地球からの移住者も募ろうと思っています」
「そうだね。翼みたいに蓮が子を沢山作るやり方では、何百年も掛かってしまうよね」
「はい。それはもう時代が違うのですから。今の日本の生活様式や生活環境を初めから作って、人を移住させるのが良いと思います」
「初めの人口は何人くらいが良いと考えているのかな?」
「そうですね。できれば百万人くらいは欲しいところですが・・・」
「では、その星には神宮ではなく、病院を置くのだね?」
「はい。そうなります」
「他に考えていることはあるかい?」
「神星にある農業プラントは採用したいですね。そして、地球、神星、第三の星でそれぞれ、余剰としての十億人分の食料生産ができる施設を確保し、どこかひとつの星で食料危機に陥った際に他の二つの星で融通できる仕組みを作りたいですね」
「それは素晴らしいね。私と翼で協力して進めるとしよう」
「お爺さま、ありがとう御座います」
「では次回、天照さまと第三の星について提案をしてみようか」
「はい。お爺さま」
それから一か月後、天照さまへ呼び掛け、第三の星の運用について提案することとなった。神星の月の都に集まると、お父さんと僕、蓮とリリアは天照さまの月の都へ転移された。
「シュンッ!」
「あれ?ここは?」
「蓮、ここは私の月の都です」
「あ。天照さま。ご無沙汰しております」
「蓮、リリア。勉強に励んでいる様ですね」
「はい」
二人は天照さまを真直ぐに見つめ、真面目な顔で声を合わせた。
「さて、第三の星のことですね。どんなことでしょう?」
「はい。新しい星での統治、生活様式や文化レベルをどうするか希望をお伝えしたいのです」
「聞きましょう」
「ありがとうございます」
「まずは、中央政府を置きます。そこには財務省、国土交通省、農林水産省、法務省、文部省、厚生省、産業省、総務省の八つの省庁を置き、国王、大統領や首相は置かずに初めの百年程度は僕が直接統治をしたいと考えています。その後は子に引き継ぐつもりです」
「この八つの省庁の大臣も当初は私の妻がそれぞれ担当します。そしてこれらの省庁や全ての情報を繋ぐのは、今の地球のシステムを導入し、一元管理します」
「つまり、科学レベルは地球に合わせるのですね?」
「はい。そうです。工業製品は全て工業プラントで製造し、食料需給と貯蔵、流通と販売、病院と製薬会社、学校教育、生活コミュニティ、娯楽やスポーツ施設、交通システムを初めから創り上げておくのです」
「人はどうするのですか?」
「地球から移住者を募ります」
「マインドコントロールは必要ですか?」
「危険分子は排除したいですが、見分けは可能でしょうか?」
「既に罪を犯した者ならば判断は容易です。ですが、普段その兆候が無かった者がある日突然、罪を犯した場合、「魔が差した」という言葉を使いますね?人間は誰しもその危険因子を持っているものなのですよ」
「見分けは意味がないのですね」
「そうです。だからマインドコントロールが必要かと尋ねたのです」
「それはしないで結構です。まずは信じてみたいのです」
「蓮がそう思うのならば構いませんよ。移住者は何人募る予定ですか?」
「希望としては、百万人です」
「では、まずは百万人が暮らせる住居と工業と農業のプラント、役所、学校、病院、娯楽施設などの建設ですね。それに最大二十億人分のインフラ設備も初めに用意しましょう」
「それが整うのは何年後になるのでしょうか?」
「蓮が成人する時までに間に合わせましょう」
「では、僕が成人するまでのあと六年で、こちらでできる準備を進めれば良いのですね」
「そうですね。法整備、移住者の募集と人選、必要な製造業の選択。そして一番重要なのは嫁探しですよ」
「そうですね。嫁探しがありましたね」
「それと、あなた達四人には、第三の星の初めの姿を見せておきたいのです。一週間後の正午にアスチルベの月の都に集合してください」
「かしこまりました」
「では、戻しますよ」
「シュンッ!」
「蓮の希望通りになりそうだね」
「はい。お父さま」
「それにしても、蓮はよく勉強しているね」
「僕だけではありません。リリアが優秀なのです」
「そうだね。リリア。ありがとう」
「そんな・・・お父さま。私は当たり前のことをしているだけです」
「それが凄いことなんだよ、リリア。蓮もね」
リリアは真っ赤な顔になって照れていた。本当に可愛い娘だ。
一週間後、僕らはアスチルベの月の都へ集合した。
『皆、揃いましたね。こちらへ転移させますよ』
『はい。お願いします』
「シュンッ!」
「うわ!あれ?ここは?」
「宇宙船の中です」
「宇宙船!」
「この船には異次元空間移動装置が搭載されています。それでは第三の星へ飛びますよ」
「はい!」
「シュンッ!」
「うわぁーっ!」
「まぁ!なんてきれいなのでしょう!」
宇宙船の窓の外は薄紫色の星雲が広がっていた。星の数が多く、どこを見ても星で一杯だった。
「あ!こちら側の窓から惑星が見えます!」
「おぉー!なんて美しい星なんだ!」
その惑星は今、窓から見える部分だけだが、大地よりも海の方が広い印象だ。その海の色が地球よりも更に碧く光り輝いていたのだ。
「これからこの惑星の赤道上を一周しますよ」
そして一周回って行って分かったのだが、地球よりも陸地は少なく、ほとんどが海の様だ。
だからどこを見ても碧く輝いているのだ。
「天照さま、この星は地球と同じくらいの大きさの様ですね。でも、地球より陸地が少ない様に見えます。ここに二十億の人間が住めるのでしょうか?」
「確かに地球の方が陸地は広いでしょうね。ですが、地球で人間が暮らしている土地は全ての陸地のほんの一部に過ぎないのですよ。この惑星に二十億の人間が暮らすとしても、その十分の一にも満たない土地しか使いませんよ」
「そんなものなのですね」
「えぇ、心配ありません。ただし、二十億を超えない様にしなければなりませんけれど」
「それならば安心です。人口については注意して参ります。それにしても美しい星ですね」
「この惑星には元々、十分な水と大気がありました。大気の成分を微調整し、植物や生命体は一度リセットしたのです」
「え?生命体が居たのですか?そしてそれを全て殺したと?」
「生命体と言っても、細菌やウィルスの類しか居ませんでした。植物も食べられるものはありません。コケ類程度です」
「あぁ、そうなのですね」
「それよりも、これからこの星の自転速度と重力を調整しますので手伝ってください」
「え?自転速度を調整するのですか?重力も?」
「そうです。地球や神星と同じ自転速度と重力に調整するのです」
「ど、どうやったらそれができるのですか?」
「あれを見てください。この星には月が四つありますね」
「え?四つも?」
窓の外を探すと神星の二つの月と同じくらいに大きな月が三つ、やや小さな月が一つ浮かんでおり、小さな月は三つの月と少し離れたところに浮かんでいた。
「あの離れたところにある小さな月が自転を遅くしているのです。今からあれを三つの月の右側にある月に衝突させて破砕します」
「えーっ!破砕してしまうのですか!」
「そうです。神星でもそうして惑星の自転速度を調整したのですよ」
「え?ではあのおとぎ話は、天照さまが本当に月をぶつけて破砕した実話だったのですか?」
「そうですよ」
「えーっ!」
「さぁ、驚いていないで今からやりますからね。月同士をぶつけると大きな破片が地上に降り注ぎますから、皆でその欠片を地上に落下させぬ様に宇宙へはね返してください」
「それって、かなり広範囲に落ちて来ますよね?」
「えぇ、だから四人で分担してはね返して欲しいのです。大きな破片が地上に落ちてしまうと移住計画が遅れてしまいますので注意してください」
「それは、どうやるのでしょう?」
「まず、あの右側に見える月を三つある月の一番右側の月に衝突させます。すぐに三日後に飛び、後方にある格納庫へ行って五隻の小型船に分乗し、地上へ降ります。私が四人を船ごと瞬間移動させ配置しますので、私の合図に合わせて落下する隕石をはね返してください」
「本当にできるのでしょうか・・・」
「其方たちならば大丈夫です。ひとつだけ注意しておきます。この星の大気はまだ人間に有害なものも含まれているのです。生身で船の外に出ないでください」
「分りました」
「では、始めますよ」
「は、はい!」
僕は固唾を飲んで月を見守った。すると視界の右端にあった小さめの月がゆっくりと動き出した。
そして三つある月の一番右にある月に徐々に近付いて行く。緊張して手に汗を握った次の瞬間、小さい方の月が大きな月にめり込む様に衝突した。
小さい方の月は衝突の衝撃で幾つにも割れて飛び散って行った。その有様がスローモーションの様に見えていた。
「では、三日後に飛びます」
「シュンッ!」
「さぁ、三日後に飛びましたよ。間もなく月の欠片が大気圏に突入します。小型船に移りましょう」
「はい!」
僕たちは通路を後ろに進み、ハッチをくぐると格納庫に出た。そこには小型船が五隻あり、一人ずつ乗った。
『では、各々の配置へ飛ばしますよ』
『はい!』
「シュンッ!」
「うわ!もう地上だ。あぁ、大地には何もないのだな」
周囲を見回しても見えるのは、何もない大地と碧く美しい海が広がっているだけだった。
『さぁ、落ちて来ますよ』
『はい!』
空を見上げると月の欠片が地上目掛けて落ちて来た。成層圏に入ると大気との摩擦で火球となり、水蒸気の雲を纏いながら四方八方に落ちて来る。
「おおっと、のんびり見ている場合ではなかった!」
僕は慌てて目の前に現れた火球を念動力で押し返した。すると瞬間移動の様に火球は消えさり、遥か彼方へと飛んで行った。
「あぁ、これで良いんだな」
『蓮、リリア、大丈夫かな?』
『お父さま、大丈夫です。はね返せます!』
『お父さま、私もできています!』
『うん。ではしばらくは気を抜かずに集中するんだよ』
『はい!』
蓮とリリアは元気に声を合わせた。
二時間程、その作業を続けていたが、徐々に落ちて来る隕石が少なくなっていった。
そして一番右にあった月は、小さな月がぶつかった衝撃で押されたことで軌道が変わり、徐々に隣の月に接近していた。
『天照さま。ぶつけられた月が隣の月に近付いていますね。大丈夫なのですか?』
『まぁ、見ていなさい。これからあの二つの月は神星の月の様に双子月となりますよ』
『そうなのですか・・・』
するともうひとつの月も引き寄せられる様に近付いて行き、お互いに回転を始めた。
『あ、あれで落ちて来ないのですか?』
『えぇ、落ちては来ません』
『そう言えば、ぶつけた月の欠片は全て押し返してしまいましたが、何かに使える鉱石などは含まれていなかったのですね?』
『えぇ、あれはほとんどが岩石で使えるものはありませんでした』
『調査済みだったのですね』
『そうです』
そして、第三の星の月は大きな月が一つと双子の月の三つとなった。そして神星の双子月と同様にひとつはその周りに土星の様なリングが月の小さな破片によって形成された。
それから僕らは天照さまによって、母船の中へ小型船ごと転移させられ戻って来た。
席に座って皆でしばらく月を眺めていた。
「なるほど・・・始めの星、地球には月はひとつ。二つ目の星、神星には月が二つ、そして第三の星には月が三つだ。分かり易いね」
「お爺さま、本当ですね!」
「さて、この第三の星の名前は?」
「それは蓮が名付けると良いでしょう」
「え?僕が名前を付けても良いのですか?」
「えぇ、蓮がこの星の創始者なのですからね」
「分かりました。うーん。そうだな・・・では、望郷にします」
「ほう、何か意味があるのですか?」
「この星の始めの民は地球からの移住者です。この星に移住して来た時は希望に満ちていると思いますが、死が近付くに連れ、きっと故郷である地球を思い出すことでしょう」
「でも、地球のことなど思い出しもしない人も居るでしょうし、数百年経てば地球のことを知らない世代も生まれるのです。そういう人たちにもこの星の名前の意味を知ることで地球に思いを馳せ、互いに認知し、協力し続けて欲しいと考えたのです」
「素晴らしいですね、蓮」
「蓮、君は一体、何歳なんだい?」
「お父さま、ご存じの通り九歳ですが?」
「翼、蓮は千五百年前の月花と翼の子の生まれ変わりだ。きっとその時の記憶が無意識のうちに現れているのではないかな?」
「そうですね・・・それにしても良い名前ですね」
「本当に!素晴らしいですわ、蓮さま!」
「リリア。気に入ってくれたなら良かった」
「はい。とても素敵な名前です」
リリアはそう言って蓮に寄り添った。
「さて、そろそろ帰りましょうか」
「天照さま。この星にはまだ、オービタルリングと低軌道エレベーターが無い様ですが、この星の今は現代から何年前なのですか?」
「五百年前です」
「五百年も前の姿なのですね」
「そうです。これからオービタルリングと低軌道エレベーターを設置し、地下に電気と水道の設備を敷設後、植物を植え、その後段階を踏んで必要な昆虫や動物を放し、人間の暮らす街を造ります」
「五百年も掛かるのですね」
「まずは、この星の自転と気圧、大気の調整にまだ三百年は掛かります。それが整って初めて植物を移植できる様になるのです」
「え?では現代のこの星はどうなっているのですか?」
「見ておきますか?」
「えぇ、見せて頂けるのであれば是非にも!」
「分りました。では時代を変えるだけですから、同じ場所へ飛びますよ」
「シュンッ!」
「あ!オービタルリングと低軌道エレベーターがありますね!」
「大地には緑があんなに!更に美しくなりましたね!」
その時、海に大きな黒い生物が海面に飛び出した。
「あ!クジラがブリーチングした!この星にはクジラが居るのですか!」
お父さんが興奮気味に声を上げた。お父さんは動物好きだったな。
「そうです。この星の海は地球よりも広いのです。大型のクジラを入れることで食物連鎖の均衡を守るのです」
「お父さま、神星の海にクジラは居ないのですか?」
「あぁ、クジラということならば小型のものは居るよ。イルカがね」
「そう言えば、イルカは小型のクジラのことでしたね」
「神星の海は地球よりも狭いのです。大型のクジラを入れてしまうと均衡が崩れてしまいます」
「では、この星の陸上の動物では、熊とかライオンみたいな大型の肉食動物は入れられませんね」
「えぇ、そうなります。家畜と小動物が基本ですね」
「天照さま。私はこの星へ飛んでも良いのでしょうか?」
「月夜見と翼、その家族は構いませんよ。そうですね・・・翼と蓮には月夜見と同じ様に地球と神星、そして望郷を転移できる能力を授けましょう」
「え?よろしいのですか?」
「これまでの功績とこれからの働きに報いるものです」
「ありがとうございます!」
「それと、望郷には神星にあるアルカディアをふたつ作ります。翼の家族と蓮の家族で使うが良い」
「え?本当ですか!翼、蓮。良かったな!」
「お父さま、アルカディアって何ですか?」
「あれ?翼、知らないのかい?あ!そうか。天照さまの月の都とアルカディアには、意識を繋げられないのだったな」
「翼、蓮、五百年生き続けるお役目を担った神には、現世を引退できる様に、ひとつの国程の広さのある島に神専用のコミュニティを作ってあるのですよ」
「あぁ、子や孫が先に死んで行くのを見ないで済む様にということですね?」
「流石、蓮だ。察しが良いね」
「ただし、神星のアルカディアとは違い、その島で神のために働く者たちは全てアンドロイドにしています」
「あぁ、そうですね。現代の文化レベルの人間に小さな島に一生住まわせることはできませんね」
「えぇ、アンドロイドで十分です」
「アルカディアは、蓮が望郷へ移り住んだ後、いつでも使える様にしておきます」
「はい。ありがとうございます」
「では、今日はこの辺で戻りましょう」
「はい」
「シュンッ!」
「うわ!ここは?」
「アスチルベの月の都だね」
「あ!月夜見さま、翼。お帰りなさい」
「舞依、ただいま」
「視察は済んだのですね?」
「うん。終わったよ。蓮は成人してから第三の星へ移住することになる」
「そうですか、あと六年後なのですね」
「そうだね」
「お父さま、今日はもう地球へ帰ります」
「うん。お疲れさま。あとは蓮の嫁探しだね」
「はい。またご協力をお願いするかも知れません。その時はよろしくお願いします」
「勿論だよ。できることはさせてもらうよ」
「リリアも地球へ行くのだね?」
「はい。今週は地球へ行っておりますので」
「では、また」
「はい。失礼いたします」
「シュンッ!」
「あ!翼!蓮、リリアも。お帰りなさい!」
「結衣、ただいま」
「お母さま、ただいま帰りました」
「お義母さま。ただいま戻りました」
「疲れていない?先にお風呂に入りますか?」
「いや、大丈夫だよ。珈琲を飲みたいな」
「すぐに用意しますね」
「ありがとう。結衣」
ルーが珈琲を淹れてくれた。それをリリアが蓮に渡す。
「リリア、ありがとう」
それ、ルーが淹れたんでしょ?とは誰も突っ込まない。もしかすると蓮とリリアは古風な夫婦なのかも知れない。
「それで、第三の星はどんな星だったのですか?」
「うん。大地よりも海の方が多くて、地球よりも神星よりも碧く美しい星だったよ」
「まぁ!素敵ね」
それから皆に今日のことを全て報告した。やはり一番驚かれたのは、神星の月のおとぎ話が本当のことだったことだ。
「あのおとぎ話は、琴葉が月夜見さまに話して聞かせ、それを子供たち全員に聞かせたのよね」
「えぇ、僕もお父さまから聞いて、蓮や千五百年前の子たちにも話して聞かせました」
「それを今日は実体験して来たのね?」
「はい。僕は自分の子に僕の体験として話すことができますね」
「新しい星の名は望郷なのね。とても良い名前だわ」
「本当に!蓮、素晴らしいセンスね」
「いえ、それほどでも・・・」
「アルカディアも作って頂けるのね」
「お母さまはご存じなのですよね?」
「えぇ、だって私はアルカディアで生まれて十五歳まで暮らしたのですから」
「アルカディアは楽園なのですか?」
「神にとってはそうね。イメージとしてはスローライフができるリゾートって感じかしら」
「でもお母さまは、お父さまと神星のアルカディアへ行きますよね?」
「え?あ。そうね。それでも良いかしら?」
「当たり前ではありませんか。折角、五百年の寿命を頂いたのですから。お父さまと末永くお幸せに暮らして頂きたいです」
「翼、ありがとう」
お母さんは思わず立ち上がると僕に抱きついた。妻たちは皆、笑顔で僕たちを見守った。
お読みいただきまして、ありがとうございました!