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23.リリアの前世

 プリムローズの丘で、僕とセシリーは驚いて顔を見合わせていた。


「ん?」

 リリアは驚いた僕たちの顔を見比べる様に見て、きょとんとしている。


「リリアちゃん。今、秋月あきづきって言った?」

「あきづき?私がそう言ったのですか?」

「へ?」


 今度はこちらがきょとんとしてしまう。確かにリリアは秋月と言った。僕たちはここに来てから霞月かつきの名は出したが、ふたりの息子である秋月の名は出していない。


『セシリー、僕たちはこの国へ来てから一度も秋月の名は出していないよね?』

『はい。霞月の名は口に出して言いましたが、秋月の名は出していません』

『今、リリアは自分で秋月の記憶を話したのに、次の瞬間にはもう忘れていたね』


『三人でこの丘の景色を見て記憶の一部が瞬間的に引き出されたのでしょうか?』

『そうかも知れない。リリアは霞月の生まれ変わりで間違いないのだろうね』

『はい。そうなのだと思います』


「リリア、君はここに来たことはあるの?」

「はい。何度か王と王妃に連れて来て頂きました」

「それはバティストも一緒にかい?」

「はい。お兄さまも一緒です」


「お兄さまは、ここに来ている時はどうしていたかな?」

「そうですね。王妃さまに甘えたり、お菓子を食べたりしていましたね」

「そう・・・リリアちゃんはここで何をするのが好きだった?」

「私は、ひとりでプリムローズの首飾りを作ったり、二つの月を眺めたりしていました」


「お父さまとお母さまとの思い出は?」

「そうですね・・・お二人とも優しくしてくださいます」


『え?それだけ?』

『どうやらリリアは、本当にご両親と距離を取っていた様ですね』

『伊織兄さまとクラリス義姉さまが気の毒でならないな・・・』

『本当に・・・』


 三人はしばらく無言で、プリムローズの丘と二つの月を眺めてから王城へ帰った。




 夕食が終わり、リリアにお風呂を済ませてから僕たちの部屋へ来る様に伝え、その間、僕とセシリーはサロンで今日のことを伊織兄さんとクラリス義姉さんに伝えた。


「今日、最後に王城の裏手にあるプリムローズの丘へ寄ったのです」

「あぁ、あそこは丘全体をプリムローズが見事に埋め尽くしているからね。きれいだっただろう?」


「えぇ、僕らにとってもあの丘は思い出の丘だったのです」

「そこで、リリアが突然言ったのです。「秋月あきづきお兄さまはいつも走り回って」と」

「私たちはここへ来てから、一度も息子の名前を口に出していないのです」


「え?そ、そんなことが?」

「それでは、あの子は本当に、千五百年前の霞月の生まれ変わりなのですか?秋月のことを何と?」


「詩織お母さま、リリアは丘の景色を眺めていて、無意識のうちにつぶやいていた様なのです。後から聞いても自分が秋月の名を出したことを覚えていませんでした」

「そうなのですか・・・」


「では今夜二人と一緒に眠ったら、リリアは何かを思い出すかも知れませんね」

「お母さま、本当にそうだとしたらどうしましょう?」

「伊織、クラリス。本当に翼の娘だったとしても、それは千五百年前の話です。今のリリアの両親は紛れもなくあなた達なのですから。何も変わりませんよ」


「そうですよ。僕が詩織お母さまをお母さまとお呼びするのと同じです。それだけのことで何も変わりません」

「そうですね。ちょっと不安になってしまいました。私がしっかりしていないといけませんね」

「そうよ。伊織。あなたがしっかりしないとクラリスも不安になってしまうわ」

「はい。すみません・・・」


 伊織兄さんとクラリス義姉さんは、そう言いながらも表情は不安そうだった。それはそうだろうな。


「では、リリアを待たせるといけないのでこれで失礼します」

「リリアをよろしく頼みますね、翼」

「はい。お任せください」


 僕とセシリーは部屋に戻ると、先にセシリーにお風呂へ入ってもらった。

セシリーが出てから僕が入り、僕が風呂から出るとリリアが来ていた。


「やぁ、リリア。来ていたんだね」

 リリアは真っ白で可愛らしいドレスの様な寝巻を着ていた。

「お父さま、お邪魔致します」

「きちんと挨拶できるのだね。リリアは素敵なレディだね」

「ありがとうございます」

 リリアは嬉しそうに笑顔になり少し、顔を赤らめていた。


「リリア。何か飲むかい?」

「いいえ、結構です。それより早く一緒にベッドへ入りたいです」

「うん。分かったよ。リリアが真ん中で良いのかな?」

「はい!お父さまとお母さまに挟まれて眠りたいです」


 先にセシリーがベッドの奥に入ると、リリアは飛び上がってベッドに乗り、セシリーの隣に滑り込むとセシリーにピッタリくっ付いている。

「お父さま!早く!」

「え?あ、あぁ、分かったよ」


 僕はリリアに触れない様に少し離れて横になった。

「お父さま、もっとこっちに来てください!」

「え?う、うん」


 リリアはセシリーと僕と手を繋ぎ、ふたりの顔を交互に見ては嬉しそうにしていた。

なんて可愛いのだろう。そう言えば、僕にはまだ娘が居ない。こうしてセシリーと並んでいると本当のセシリーの娘の様だ。


「なんだか、セシリーとリリアって、瞳と髪の色も一緒だから本当に親子みたいだ」

「翼さまもそう思うのですか?私もさっきリリアが部屋に入って来た時、子供の頃の自分を見ている様で驚いたのです」

「だって、私は本当にお父さまとお母さまの子なのですもの!」

 そう言って、リリアはセシリーに抱きついた。


「リリア、小さい時のことで一番楽しかった思い出は?」

「小さい時・・・ですか?」

 そう言うと、リリアは目をつむった。少ししてからゆっくりと話し始めた。


「私が三歳の時、お母さまが空中浮遊を教えてくれたの。私の手を握って浮かび上がると、バルコニーからそのまま空へ飛び出して、プリムローズの丘まで行ったわ」


「プリムローズの絨毯じゅうたんの上をお母さまと手を繋いで飛ぶと、素敵な香りに包まれて、お母さまと顔を見合わせて笑ったの」


 話し終わるとリリアは目を開いた。でもまだ眠っているかの様にぼうっとしている。

「空中浮遊?リリア。クラリス義姉さまは人間だから空は飛べないよ」

「・・・」


「あ!その後、お父さまとも一緒に飛びましたね。私が夜に月まで行きたいと無理を言ったのです。お父さまは私を抱いて空高く飛んでくださいました・・・」


『翼さま、私、霞月と初めて飛んだ時のことを覚えています。それは今、リリアが言った通りでした』

『ではリリアが話したことは、リリアの話ではなく、霞月の体験だったんだね?』

『その様ですね。リリアは霞月で間違いないのでしょう』

『そうか・・・僕はまだ霞月が三歳になる時に行っていないから、その記憶が無いんだ』


 僕とセシリーでリリア越しに念話で話しているといつの間にかリリアは眠ってしまっていた。

「あら?眠ってしまったわ」


「リリアは無意識に前世の記憶を呼び戻しているのかな?そのせいで伊織兄さまとクラリス義姉さまが自分の親ではないと感じてしまうのだろうか?」

「もしそうなら、リリアはずっと寂しい思いをしてきたのですね・・・可哀そうに」

 セシリーはリリアの頬を愛おしそうに優しく撫でた。

「うん。親としても子としても寂しいことだね」


「リリアが霞月なのは間違いなさそうだけど、伊織兄さまとクラリス義姉さまを本当の親と認識できないのは困ったね。どうしたら本当の親と認識できるのだろうか?」

「やはり、私と翼さまが親であったのは、千五百年前の話だとはっきりと思い出さなければならないのではありませんか?」


「そうか。断片的にとか無意識の中で夢の様に記憶が見え隠れするからいけないのか」

「今日の様子を見ていると、そうだと思うのです」

「では、どうやってリリアの記憶を取り戻すかだな」

「翼さまにはできないのですよね?」


「うん。できないと思うけど・・・天照さまにお願いして記憶を戻してもらうしかないかな?」

「私たちは明日までしか滞在しないのです。このままではリリアが可愛そうです」

「そうだね。明日、天照さまに呼び掛けてみよう」

「えぇ、お願いします」




 早朝、セシリーはひとり目を覚ました。そして、ふとベッドの隣を見て、ぎょっとした。

リリアが翼の首に腕を回し抱きついていたのだ。翼の頬にキスしている状態で。


 とは言え、リリアはまだ子供だから決して生々しい姿ではなく、落ち着いて見れば微笑ましい光景ではあるのだが・・・


 セシリーは気を取り直してからベッドを降り、翼の側へ回ると翼の肩をトントンと叩いて起こした。


「翼さま・・・」

「う、うーん・・・あ、あれ?セシリーって・・・あれ?」

 僕は横に立つセシリーを見上げたが、僕の身体に絡みつく女性の感覚に気付き、左側へ振り返った。


「チュッ」

 振り返るとそこにリリアの顔があり、僕はリリアの唇にキスをしてしまった。

「あら!」

「うわっ。リリアか!」

「う、うーん」

 僕が大きな声を上げてしまったのでリリアが目を覚ました。


「うーん・・・あ!あぁ・・・頭が・・・」

 リリアは目を開いたと思ったらこめかみに手を当ててうめきだした。

「リリア?どうしたの?」

「リリア?あ、お父さま。お母さまも・・・あ、頭が痛いのです・・・あ、あぁ・・・」

「リリア!」


 リリアはそのまま気を失ってしまった。

「ま、まさか、これって・・・記憶を取り戻した?」

「さっき、翼さまの唇がリリアの唇に触れましたよね?そのせいでしょうか?」

「セシリー。冷静だね・・・」


「でも、これで記憶や神の力が戻るなら良いことなのではありませんか?」

「そんなに上手くいくかな・・・」


 それから一時間、僕らは着替えてリリアを見守った。するとリリアはゆっくりと目を覚ました。

「うーん・・・あ。お父さま。お母さまも。おはようございます」

「おはよう。リリア」

「リリア、おはよう」


「お母さま。私、夢を見ていたのです」

「夢?どんな夢かしら?」

「お父さまと一緒に沢山遊んで沢山甘えて・・・そしてさっき一度目を覚ました時、急に頭が痛くなってまた眠ってしまって・・・でもその時にまた、夢を見たのです」

「それは、どんな夢だい?」


「お父さま、お母さま。私、昔のことを思い出しました。そして、また同じこの城で新しいお父さまとお母さまのもとに生まれたことも」

「本当?リリア。ではあなたの昔の名前は?」

「はい。お父さまは翼、お母さまは雨月、お兄さまは秋月。そして私は霞月です」

「まぁ!はっきりと思い出したのね!」


「リリア。では伊織兄さまとクラリス義姉さまのことは?」

「はい。今のお父さまとお母さまです。私、今まで何度も、翼お父さまと雨月お母さまのことを夢に見ていて、どちらが本当の両親なのか分からなくなって・・・それで今の両親を本当の親と思えなかったのです」


「そうか。では、これからは今のご両親にも甘えられるね?」

「はい。今夜はお母さまと一緒に眠ります」

「良かったわ!」


「リリア。もしかしたら力も戻っているのではないかな?ちょっと力を向けてみるよ」

 僕はリリアに治癒の力をかけてみる。すると同じくらいの力で押し戻される感覚があった。


「うん。力が戻っているね。リリア。昔の記憶を辿って空中浮遊をしてみて」

「はい。できると思います」

 そう言うと、リリアはベッドから浮き上がり部屋の中を飛び回った。


『お父さま、お母さま!念話もできます!』

『うん。念話もできている。完全に力が戻ったのだね』

『良かったわ、リリア!』

『リリア。だけどね。バティストは力が強くないから、彼の前では力を見せつける様なことはしない方が良いかな?』

『はい。分かりました。お父さま。気をつけます』


「では、朝食前に伊織兄さまとクラリス義姉さまをサロンへ呼び出して、このことを話しておこうか」

「翼さま、記憶を取り戻した方法を説明されるのですか?」

「え?あ!そうか・・・」

 流石に伊織兄さまにリリアにキスしてしまったなんて言えないか・・・


「お父さま。親子でキスしてもおかしくはないでしょう?」

「え?あ!リリア。今、僕の心を読んだの?」

「シュンッ!」


「チュッ!」

「う!」

「まぁ!」

 リリアは僕の目の前に瞬間移動し、宙に浮いて抱きつくと同時にキスをした。


「お父さま!大好き!」

「リリア・・・大胆ね・・・」

「お母さまも!」

 リリアはセシリーにも抱きついて頬にキスをした。


「嬉しいわ!リリア。でも今のお父さまとお母さまにもしてあげて?」

「えぇ、勿論!」




 僕は念話で伊織兄さんにクラリス義姉さんとサロンに来てくれる様に頼んだ。

二人は不安そうな表情でサロンへ入って来た。


「やぁ、おはよう。翼、セシリー殿、リリア」

「おはようございます。伊織兄さま、クラリス義姉さま」


「シュンッ!」

「チュッ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 先程と同じ様にリリアは、伊織兄さんに瞬間移動で抱きつくとキスをした。


「まぁ!リリア!どういうこと?」

「シュンッ!」

「チュッ!」

 続いてクラリス義姉さまに飛び移り頬にキスをした。


「まぁ!」

「リリア。まさか・・・瞬間移動したのか?」

「お父さま、お母さま。愛しています!」


 リリアはクラリス義姉さまの肩に手を乗せて宙に浮かんでいる。

「く、空中浮遊も・・・」


『お父さま。念話だってできますよ!』

『うわっ!念話も?』


「翼、これはどういうことだい?」

「リリアは今朝方、千五百年前の記憶を全て思い出し、神の力も戻ったのです」

「今は、千五百年前の記憶と現在の記憶がはっきりと区別されて、伊織兄さまとクラリス義姉さまのことも真のご両親だと認識できています」

「まぁ!それでキスをしてくれたのね!ありがとう!リリア!もう一度、抱きしめさせて!」


「ムギュッ!」

「お母さま、そんなに力を入れたら痛いです!私は浮いていられるから支えなくても大丈夫なのですよ!」

「あら、ごめんなさい!それではリリアは伊織さまと同じことができるの?」

「そうよ、お母さま。手を繋いで」


「あ、あら、あらら・・・凄いわ!」

 リリアはクラリス義姉さんの手を握ると、そのまま空中浮遊を始め、天井の近くまで昇って部屋を一周した。


「翼、一体何をしたらこうなったんだい?」

「隠しても仕方がないから言うけれど、今朝、起きた時にリリアが僕に抱きついていたんだ。僕は寝ぼけていて、リリアの方へ振り向いたら丁度、唇が触れあってしまったんだ」


「そうしたらリリアは頭が痛いと言い出して、そのまま意識を失ってしまったの」

「それは、前世の記憶を取り戻す時の兆候なのです。一時間程、眠ってその間に前世と今世の記憶を頭の中で整理するのです。そして身体にも変化が起き、力も取り戻すのです」


「では、翼の妻たちも同じ様にして前世の記憶と神の力を取り戻したのかい?」

「えぇ、そうです。リリアは夢や無意識の中で前世の記憶を見ていたことで、自分の親が誰なのか混乱していただけなのです。今は、それが整理されたから伊織兄さまとクラリス義姉さまを真の親と認識していますよ」


「そういうことだったのか・・・」

「お母さま。お父さまも。今まで余所余所しく接してしまってごめんなさい」

「良いんだよ。リリア。今までは病気の様なものだったんだ。気にしないよ」

「そうよ。リリア。これからは私たちに沢山甘えて頂戴ね」


「えぇ、お母さま。今夜は一緒に眠りたいわ!」

「まぁ!嬉しい!楽しみだわ!」

「明日はお父さまよ?」

「え?私とも一緒に眠ってくれるのかい?」

「えぇ、勿論です!」


 嬉しそうに笑う三人を見て僕とセシリーは、ほっとして胸をなでおろしたのだった。


 それから僕はセシリーと詩織お母さまの部屋へ行き、リリアのことを説明した。当然だが、詩織お母さまは大層喜び、僕らに感謝してくれた。


 その後、皆で朝食を頂いた。バティストはまだ状況が理解できていなくてきょとんとしていたが、伊織兄さまにざっくり説明されて、理解すると笑顔になった。


 食事が終わり、お茶を頂いているとリリアが僕とセシリーに向き合い、真剣な表情で話し始めた。

「翼お父さま。お聞きしたいことがあるのです」

「うん?あらたまってどうしたの?」

「蓮さまというお方をご存じですか?」

「え?蓮?勿論。知っているも何も・・・蓮は僕と結衣の息子だよ」


「あぁ、やっぱり・・・私と同じ歳なのですよね?」

「うん。そうだね。蓮はリリアと同じ八歳だね」

「私、蓮さまと結婚します」


「え?」

 そこに居た全員が一斉に大きな声を上げた。


「け、結婚?・・・蓮と?リリアが?」

「まぁ!リリア。突然、何を言い出すの!」

 クラリス義姉さまが慌ててリリアをたしなめた。


「翼お父さま。私、夢で見たのです。私は蓮さまと結婚するのです」

「その・・・蓮というのは本当に僕の息子の蓮なのかな?」

「蓮さまは、翼お父さまに似ていらっしゃって、同じ瞳と髪の色をされています。私は蓮さまの一番目の妻となるのです」

「い、一番目?」


「それはいつのことなの?リリアちゃん」

「セシリーお母さま。それはもうすぐ先のことです」

「ほ、本当なの?でも、あなた達はまだ八歳なのよ?」

「はい。でもそうなるのです。お父さま、翼お父さま。なるべく早く、私と蓮さまを会わせてください」


「い、いや・・・会わせることに問題はないけれど・・・ねぇ、伊織兄さま?」

「そ、そうだね。会ってはいけないということはないけれど・・・ねぇ、クラリス?」

「は、はい・・・会うことは構いませんよ。そうですよね?詩織お義母さま?」

「え?えぇ、そうね。でも月夜見さまに聞いてみないと私は・・・」


「詩織お婆さま、月夜見お爺さまにお願いしてください!お願いします!」

「えぇ、分かったわ。今日、帰ったら聞いてみるわね」

「お願いします!」




 朝食が終わり、リリアは勉強の時間とのことで下がっていった。僕らはサロンに移り、協議した。


「翼、これはどうしたものかな?」

「僕も驚いてしまって・・・リリアには予知能力があるのだろうか?」

「予知夢を見るということでしょうか?」


「そうだね。能力が戻る前から、前世の記憶を夢に見ていたのだから、予知夢を見る能力を持っていても不思議ではないね」


「花音が予知夢を見る能力を持っているのだけど、確か五歳の時から五年後の夢を見ると言っていたわ」

「では、頻繁に見るわけでもないのですね?」

「そうね。花音の場合は五年毎に五年後の夢を見る様ね」

「リリアはその様な歳とか期間には関係なく夢を見ていた様ですね」


「蓮にリリアを会わせたら蓮も何か感じるのだろうか?」

「どうなのでしょうね。でも、何も感じなくてリリアのことを好きにならなかったら、リリアは傷付くのかしら?」


「でも、さっきの感じは結婚することになるという事実を淡々と言っていただけで、既に蓮に恋をしている風には見えなかったね」

「そうね。蓮と結婚することが決まっていて、それを受け入れている。といった感じでした」


「でも、蓮に会ったら変わるのかも知れないわね」

「詩織お母さま、変わるとは?」

「月夜見さまや翼、アネモネは魅了の力が強いのでしょう?蓮にもそれがあるのなら、リリアは一目惚れのように恋に落ちるかも知れないわ」


「詩織お母さまもそうだったのですか?」

「それは・・・そうね。落ちたわ」

 詩織お母さまは、一瞬にして女の顔になった。ドキッとする程、色っぽかった。

本当に綺麗な女性だな・・・


「あの・・・蓮とリリアは血の繋がりがあるのではありませんか?二人とも月夜見さまの孫。つまり従兄弟いとこ同士ですよね?」

「そうだね。でも孫同士の結婚は地球でも多くの国で可能となっていますよ」

「あ!リリアは蓮と結婚すると地球で暮らすということですか?」

「それはどちらなのでしょうね?」


「蓮は、結衣の息子だから継がなければならない会社がある訳ではないね。地球で暮らさなければならない理由は特に無いかな。そう言えば、蓮は剣術がやりたくて、桜お母さまに弟子入りするんだ。毎日、月の都へ通うことになっているよ」


「それなら、リリアは地球まで行かずとも、月の都へ行けばいつでも蓮に会えるのだね?」

「そうですね。あまり気負わずに、まずは月の都で会わせてみたら良いのではないでしょうか?」


「そうね。本当に結婚するかどうかは分からないのですものね。では、帰ったら月夜見さまに話しておきますね」

「詩織お母さま、よろしくお願いします」


 僕たちは、昼食を頂いてから帰ることとなった。リリアも午前中の勉強を済ませて食堂へやって来た。

「翼お父さま、セシリーお母さま。もう帰ってしまわれるのですか?」

「リリア、また遊びに来るよ」

「本当ですか?」

 そう言ってリリアは僕に飛びつく様に抱きついた。


「まぁ!リリアちゃん。伊織お父さまと翼お父さま、どちらの方が好きなの?」

「うーん。伊織お父さまも好きですけれど・・・翼お父さまの方が素敵です!」

「え?僕?ふふっ、なんだか嬉しいな」

「翼さま、顔がにやけていますよ」


「だって、こんなに可愛いに素敵なんて言われたら嬉しいに決まっているじゃない」

「私、本当は翼お父さまのお嫁さんになりたいです」

「え?」

「リリアちゃん。それは駄目ですよ・・・」

「はーい。分かっています!」


「リリア。蓮のことだけど、今はまだ好きとかそういうのは分からないのでしょう?」

「はい。まだお会いしていませんので、お顔くらいしか分かりません」

「結婚したいという気持ちはあるの?」

「それも分かりません。でも結婚はします」


「何故、そう言い切れるのかな?」

「その姿を見ているからです。そうなることは決まっているのです」

「ただの夢で終わるということはないかな?」

「いいえ。翼お父さまとセシリーお母さまも夢で見た通りにこうして来てくださいましたから」


「え?僕らがここに来ることも夢で見て分かっていたの?」

「はい。分かっていました」

「それはどれくらい前に見た夢なの?」

「三年位前のことです」


「他にも予知夢は見たのかな?」

「いいえ、他には見ていません」

「そうか。分かった」


 リリアは蓮と結婚するのか・・・蓮にはこのことは言わないでおいた方が良いかな?

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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