22.プリムローズ王国訪問
お父さんに相談し、セシリーを連れてプリムローズ王国へ行くことを許された。
そのことを他の妻たちに話したところ、皆、前世の自国を訪問したいとのことで、順番に巡って行くこととなった。だが、お母さんだけは光月の記憶が戻っていないので行かないのだが。
予め、プリムローズ王国の現王である、伊織兄さんと念話で連絡を取り、日程を調整した。今回は二泊三日で訪問することが決まった。
セシリーの前世の母である詩織お母さまは、現プリムローズ王の伊織兄さんの母でもあるので同行頂くこととなった。
まずは僕とセシリーで異次元空間移動装置の付いた船に乗り、神星の月の都へ移動する。
「シュンッ!」
月の都の庭園に出現するとクララが出迎えてくれた。
「翼さま、皆さまがお待ちです。サロンの方へどうぞ」
「クララ、ありがとう」
「翼さま。彼女は?」
「クララはアンドロイドだよ。ここでは彼女以外の侍女は皆、この星の人間だからね」
「そうなのですね」
サロンに庭から直接入ると、お母さま方が揃っていた。詩織お母さまがセシリーに駆け寄った。
「セシリー!よく来たわね」
「お母さま!」
「結婚式では色々あったけれど、もう落ち着いたかしら?」
「はい。大丈夫です」
ふたりは抱き合って笑顔になった。その時、お父さんがサロンに入って来た。
「やぁ、翼、セシリー。よく来たね」
「お父さま。今日からプリムローズ王国を訪問します」
「うん。それにしても不思議だよね?」
「月夜見さま、何が不思議なのですか?」
「セシリーの前世、私と詩織の娘が興した国、プリムローズの現在の王が、また私と詩織の息子なのだから」
「あぁ、そう言えば・・・そうでしたね」
「これも天照さまの策なのでしょうか?」
「いや、偶然だろう。全ての子が皆、そうなっている訳ではないのだから」
「そうですよね・・・」
「でも、私たち神の一家は、何かしら繋がりがあるみたいだね」
「神の数が限られているから回りまわっているということでしょうか?」
「翼、そうだね。神になれる者はそう多くない。ということかな?」
「私たちは神に相応しい行いをしなければならないのですね?」
「セシリー。そういうことではないと思うよ。神に相応しい者が神として生まれるのだろうね」
「努力して成るものではない。ということでしょうか?」
「そうだね。神として生まれる者は元より神なのではないかな?今まで見ているとそう感じるね」
「月夜見さまのおっしゃる通り、私たちの子も祖先も含めて、神として相応しくない者はいないと思いますよ」
琴葉お母さまは、そう言って柔らかな笑顔をセシリーに向けた。
「では私が再び、お父さまとお母さまの子として転生したことも偶然ではないのですね」
「そんなところではないかな?さぁ、プリムローズ王国へ行って確かめて来ると良いよ」
「はい。お父さま」
「では、行きましょうか。詩織お母さま、準備はよろしいですか?」
「えぇ、私が二人を伴って飛ぶわ」
「はい。お願い致します」
「では、月夜見さま。行って参ります」
「うん。楽しんでおいで」
「シュンッ!」
僕らはプリムローズ王国の王城の庭園へ出現した。
目の前には、現プリムローズ王国の王である伊織兄さんと王妃のクラリス、王子のバティストとその妹で王女のリリア、宰相でクラリス王妃の弟のフィンリーと妻のエレーヌ、更に前王ウィリアムと前王妃ミレーヌが立ち並んでいた。
「お母さま、翼。お久しぶりで御座います。お待ちしておりました」
「お久しぶりです。伊織お兄さま、私の妻でセシリーです」
「初めてお目に掛かります。セシリー オースティンと申します」
「初めまして。伊織 プリムローズです。こちらは王妃クラリスです」
「伊織、クラリス。セシリーは私と月夜見さまの千五百年前の娘の雨月の生まれ変わりです。そして、雨月がこのプリムローズ王国を建国した最初の女王なのですよ」
「セシリー、この城に見覚えはあるかい?」
「えぇ、勿論です。長年暮らした城ですから・・・」
「私は初代女王さまをなんとお呼びしたら良いのでしょうか?」
「伊織、セシリーで良いのです。普通、千五百年前のご先祖さまとこうして会えることなどあり得ないのですからね」
その時、伊織兄さんの娘、リリアの身体が震え、涙を零しているのが目に入った。
リリアはバティストの妹と紹介されたが、身長は兄より高く百六十センチメートル位ある。ただ、セシリーの様に線は細く、髪はストロベリーブロンドで瞳は赤い。とても美しく可愛い娘だ。
ここに居合わせた人で僕とフィンリーの妻以外は、皆同じ髪と瞳の色をしている。とても不思議な光景だ。あぁ、そんなことよりリリアだ。
「伊織兄さま。リリアが・・・」
「え?あ!あれ?リリア。どうしたんだい?」
「まぁ!リリア。どうしたと言うのです。お客さまの前で突然泣き出すなんて・・・」
クラリスがリリアの傍らに立ち、肩を抱いた。
「お、お父さま・・・お母さま・・・」
「どうしたんだい?」
伊織兄さんも近寄ると、リリアは首を横に振って、一層大粒の涙を流した。
そして、一歩、また一歩と僕とセシリーの方へ近寄って来る。
「うん?」
僕とセシリーは顔を見合わせて、首を傾げた。するとリリアはそのまま僕らの前まで来たと思ったら、セシリーに抱きついた。
「お母さま!」
「え?!」
そこに居た全員が同時に声を上げた。
「ど、どうしたの?」
「私の本当のお母さまです・・・そしてお父さま」
「えっ?」
今度は僕に抱きついてきた。僕は突然のことにどうしたら良いのか分からない。
「リリア!何をしているの!」
クラリスが少し大きな声を上げると、我に返ったかのようにリリアは僕から離れた。
「あ。わ、私・・・あの・・・」
「リリアちゃん。どうしたの?」
セシリーがリリアと目線を合わせて、微笑みながら優しく問い掛けた。
「あ、あの・・・お二人の姿を見た途端、お父さまとお母さまだって感じたのです。そうしたら涙が溢れ出てしまって・・・」
「それって、まさか・・・千五百年前の?」
「翼さま。そうだとしたら・・・霞月?」
「え?どういうことなのですか?」
「伊織兄さま。もしかしたら、リリアは僕とセシリーの千五百年前の娘、霞月の生まれ変わりなのかも知れません。彼女の神の能力は?」
「あぁ、それは・・・何故か全く無いんだ」
『え?神の子なのに?治癒と念話もできないのですか?』
僕はリリアを傷付けない様に念話に切り替えた。
『そうなんだ。聞いたことが無いだろう?』
『そうですね。でも、こうして何かを感じ取っているのですから、これから能力に目覚めるのかも知れませんね』
『そうなのかな・・・』
「リリア。他に思い出せることはあるかい?」
「いいえ。霞月という名前には懐かしさを覚えます。そしてお父さまとお母さまは感覚的にそう感じるのです」
「そうか。もしかしたら本当に霞月なのかも知れないね。でも、それだけで特に変わることはないと思いますよ」
「そうね。私が月夜見お父さまをお父さまと呼び、詩織お母さまをお母さまとお呼びするだけで、現在の両親との関係は何も変わらないの。だからリリアちゃんも私をお母さまと思ってくれても良いのよ」
「本当ですか?」
「えぇ、構わないわ。本当に霞月なら私は嬉しいわ。だって私は霞月をこの城で育て、一緒に暮らしたのですから」
「あ、ありがとうございます!お母さま!」
「あらあら。さっき、月の都で話していた通りになってしまったわね」
「お母さま。月の都で?どんなお話を?」
「伊織はもう知っていると思うけれど、翼の母も妻たちも皆、月夜見さまと私たち妻の千五百年前の娘だったの。そして、アネモネの夫である陽翔は、翼とアネモネの千五百年前の息子だった・・・」
「えぇ、妹の葉留は千五百年前の娘でしたから」
「そう言えば、そうでしたね」
「えぇ、神の人数がとても少ないから、私たち家族の中で転生し続けているのではないか。そう話していたのよ」
「なるほど。神は生まれ変わっても神。そういうことですね?」
「えぇ、今のリリアの様に何か繋がりを感じて、自然に引き合ってしまうのでしょう」
「つまり、来世では僕がお母さまの夫になったり、また弟になったりする可能性もあるのですね?」
「そうね。そういうことだと思うわ」
「それが神の世界なのですね・・・あ、あの。そろそろサロンへ移りませんか?」
クラリスのお父さんが申し訳なさそうに会話に割って入って来た。
「あ。いけない。こんなところで話し込んでしまって!皆さま、申し訳御座いません。どうぞ、こちらへ」
クラリスの案内で僕らはサロンへ通された。廊下を歩いている時もセシリーはきょろきょろと見回して、懐かしそうに微笑んでいる。
「どうだい、セシリー。見覚えはあるかい?」
「全て覚えているわ。壁の塗り直しをしているのでしょう。壁の色は多少変わっているけれど、それ以外はほとんど変わっていませんから、案内されなくてもサロンまで行けますよ」
そう言うと、セシリーはひとりで先に歩いて行ってしまった。
「サロンはその角を左に曲がって二番目の扉ですね」
「凄い!本当に初代女王さまなのですね!」
「そう言われると、少し恥ずかしいですね」
「我々のご先祖さまにお会いできるとは・・・本当に驚きました」
前王と前王妃は目を白黒させて驚いている。
「それにしても、お美しい!髪の色も瞳の色も・・・我が国の初代女王に相応しい!」
「ウィリアム殿。セシリーの千五百年前の姿は、私と同じ髪と瞳の色でしたよ?霞月もね」
「そうだったのですか!初めからではなかったのですね!」
「そうです。因みにこの国の名前を決めたのは私です」
「え?翼さまが?千五百年前の話なのに?」
「えぇ、初代女王の雨月は確かに千五百年前の人ですが、その時の翼は今のこの私なのですから」
「えぇーっ!ど、ど、どういうことなのですか?」
「私は異次元空間移動装置を創ったのです。今の私自身がその船に乗って、千五百年前の世界へ飛び、先代の月夜見お父さまの八人の娘と結婚して子を成し、それぞれが国を興したのです」
「そ、そんなことが・・・信じられない!」
「本当に凄い話ですよね。僕もその話を初めて聞いた時には信じられませんでしたから・・・」
驚愕の表情でわなわな震えているウィリアム殿に対して、伊織兄さんは初めて聞く話ではないので落ち着いている。
「と、兎に角ですな、この国をお創りになった神のご夫婦にお越し頂いたのです。今夜は最大限におもてなしをしなければ・・・」
「ウィリアム殿、そんなにかしこまることはありません。伊織兄さまの従弟が訪問した程度で良いのです」
「そ、そういう訳には参りません。伊織さまのお母さま、い、いや、女神さまにもお越し頂いたので御座いますから・・・」
「まぁ・・・適当にして頂ければ・・・」
僕は神星での神の扱いには慣れていないんだよな。
『詩織お母さま、神星では神の扱いは総じてこの様に丁重なものなのですね?』
『そうね。翼とセシリーは慣れていないわよね』
『私は前世の記憶がありますので、女王としての扱いには慣れていますけれど・・・』
『あぁ、そうか。セシリーは女王さまだ。現在だって公爵令嬢だものね』
『現代では公爵令嬢の扱いなんてないも同然ですけれど』
『そうか、慣れていないのは私だけでしたね』
『そうね。翼はお客さまとしてのんびりしてくれたら良いのよ』
『詩織お母さま、そうさせて頂きます』
『翼。そうだよ。ずっと忙しくしていたのだから、ここに居る間くらい、もてなされてくれたら良いのさ』
『伊織兄さま、ありがとうございます』
サロンに入ると、リリアは僕とセシリーの隣に座った。お茶を飲みながら話し掛けてみる。
「リリアは今、何歳なのかな?」
「私は八歳です。お父さま」
「え?八歳?八歳にしては大きいよね?」
「はい。いつも十歳くらいだと間違われます」
神の能力は無いのに成長が早い?おかしいな・・・
「お兄さまは何歳なのかな?」
「私の三つ年上です」
「そうなんだ・・・」
『翼、バティストは神の能力が巫女程度なんだ』
『分かりました。ではそれには触れないでおきます』
『そうしてくれるかな』
王である父と比べて能力が低いとなれば、それを気にしていることだろう。その辺には触れずにそっとしておいた方が良い。
「お母さま。後で城の中を見て回って、どこがどう変わっているか教えてください」
「そうね。それは私も楽しみだわ」
「では、お父さまも一緒に三人で回りましょう!」
「う、うん。分かったよ」
『伊織兄さま。何だか、もうすっかり親子の様に呼ばれているのですが・・・』
『その辺はちょっとあってね。今夜、夕食が終わってから話すよ』
『分かりました』
それから城巡りツアーが始まった。三人で端から歩き回り、扉がある度にリリアがセシリーに「この部屋は何の部屋でしたか?」と聞く。セシリーが記憶を辿って答える。
そしてリリアが扉を開いて答え合わせをする。それを繰り返した。
ある部屋の前に来た。セシリーが微笑み、懐かしそうに扉を見つめていた。
「この部屋は何の部屋でしたか?」
「ここは私の部屋でした。翼さまと私のお部屋」
「そうだったのですね!でも今、ここは一番豪華な客間です。お父さまとお母さまに使って頂くことになっています」
「まぁ!このお部屋を使わせて頂けるの?嬉しい!」
「お母さまに喜んで頂けて良かったです!」
「あれ?では伊織兄さまとクラリスお姉さまのお部屋は?」
「王と王妃の部屋は別々なのです。この廊下の奥にある部屋です」
「そうなのね」
そのまま奥まで行くと、王と王妃の部屋があった。
「こちらが王妃の部屋です。その奥が王の部屋です」
「リリア、何故、今のお父さまとお母さまをそのまま呼ばずに王と王妃と言うんだい?」
「そ、それは・・・」
リリアはとても小さな声になって俯いてしまった。
「あ、あの・・・両親には言わないでください。私・・・今の両親が本当の両親だと感じないのです」
「それは、今日僕らに会ってしまったから?」
「いえ、生まれた時からずっとです。何だか、本当の親ではないと感じていて・・・」
「今日、私たちに会ったら本当の両親だと感じたということかしら?」
「はい。そうです。やっと本当の両親に会えたって・・・そう思ったら涙が止まらなくて」
「そ、そんなに?もし、リリアが本当に霞月の生まれ変わりだとしても・・・そんなことあるのかな?」
「で、でも・・・本当にそう感じたのです・・・」
またリリアは泣き出してしまった。
「あ!ご、ごめん。リリア。嘘だと言っている訳ではないんだ。ちょっと驚いてしまってね」
「そうよ。リリアちゃん。あなたは悪くないわ。きっと霞月の生まれ変わりなのよ。そうだわ!明日の夜はこの部屋で三人一緒に寝ましょうか」
「え!お母さま、本当ですか?!」
「えぇ、クラリスさまがお許しになればね。後で聞いてみましょう」
「はい!お母さま!嬉しいです!」
おいおい。何だか妙な展開になってきたぞ。大丈夫かな?
その後も城を巡ってみたが、意外にも九割以上の正解率だった。つまり、千五百年前とほとんど変わらない使い方をしているということだ。それは城の中の人の数が変わっていないということでもある。
違う言い方をすれば、この国は進歩していないとも言えてしまう。まぁ、これから伊織兄さんが変えて行くことだろう。
豪華な夕食を皆で頂いた。リリアがセシリーの部屋当てがほとんど正解だったと大興奮して説明していた。ここでも前王と前王妃が一頻り感心して神を称えていた。
「伊織兄さま、この国の人口の推移は如何ですか?」
「うん。私がここへ来てから十年以上になるけれど、この十年で二倍以上に増えているよ」
「二倍以上!それは素晴らしいですね」
「いや、まだ遅い方だよ。七大大国は三倍以上に増えているからね」
「あれ?神星の今の全人口ってどのくらいなのだろう?」
「この前、お父さまが言っていたけれど百五十万人位らしいよ」
「あぁ、そうか。まだそんなものなのですね」
「うん。まだまだ増えないといけないよ。でも食料需給と居住地も同時に増やして行かなければならないからね。簡単ではないよ」
「そうですね。あと百年もあれば、今の百倍位にはできそうですね」
「いや、それでは遅いね。百年あったなら千倍にはしないと」
「凛月兄さまや伊織兄さま達ならできますね」
「あぁ、兄弟でそう話しているよ」
「詩織お母さま、頼もしいですね?」
「そうね。この子たちならば、きっと実現させるでしょうね」
食後、大人たちだけでサロンへ移り、お酒を飲みながら談笑していた。
「翼、昼間に言っていたリリアのことなのだけどね」
「えぇ、何か悩み事ですか?」
「うーん。悩みというか・・・リリアが僕たちに懐かない。というか・・・余所余所しいんだ。生まれてこの方ずっとね」
「余所余所しい・・・他人行儀ってことでしょうか?」
「そうだね。子供らしく甘えてくることが少ないんだ」
「子供たちには、乳母とか侍女が付いているのですよね?」
「うん。そうだね。僕たちもそのせいかなと思っていたのだけど」
「それ以上に懐いていない・・・と?」
「うん。そういうこと。だから今日、リリアが翼たちに会った途端、お父さま、お母さまって泣きながら抱きついているのを見て、正直言って胸が張り裂けそうだったよ」
クラリスも思い詰めた表情で俯いてしまっている。あぁ、これはいかんな。自分たちは懐かれた方だから、驚いたで済むけれど、本当の親からしたら泣きたくなる話だ。
「そうでしょう。私も人の親ですから。同じ立場だったら悲しくなりますね」
「セシリー殿は、どうやって前世の記憶を取り戻したのですか?リリアも同じ様に前世の記憶を取り戻したならば、はっきりすると思うのです」
「そうですね。今のまま、そう感じると言われるだけでは釈然としませんね」
「伊織兄さまとクラリス姉さまのおっしゃることは尤もですね。これは確定的な情報ではないのですが、天照さまからお役目を賜ったお父さまと私は、お役目を果たすために必要な妻を探す必要がありました」
「その妻の神の力を目覚めさせると同時に前世の記憶が戻っているのです」
「では、妻候補たちが力を目覚めさせる鍵がある。ということだね?」
「それはどんなことなのでしょうか?」
「実は・・・その・・・僕とキスとか・・・それ以上のことをする・・・のです」
「あ。あぁ・・・そ、そう、なのか・・・なんだ・・・」
「そ、それでは・・・翼さまはリリアの夫ではなく父親だから、リリアにその様なことは・・・できないですね」
伊織兄さまもクラリスお姉さまも意気消沈してしまった。
「そうですね。恐らく僕はリリアの鍵にはなれないと思います」
「あ、あの・・・これは想像というか、思いつきでしかないのですが、明日の夜、翼さまと私とリリアちゃんの三人で一緒に寝ようと話していたのです」
「も、勿論、翼さまと何かさせる訳ではないですけれど、リリアちゃんはあれだけ感の鋭い子です。私たちと一緒に眠ることで、夢で何かを見て分かる。なんてこともあり得るかな?と思うのですが・・・」
「あぁ、それは良い考えですね」
「では明日の夜、私たちの部屋で一緒に過すことをお許し頂けますか?」
「えぇ、是非、お願い致します」
「かしこまりました。もう少し、色々と話をしてみますね」
「私たちの娘のことでご迷惑をお掛けし、申し訳御座いません」
「迷惑だなんてことは御座いません。リリアちゃんは可愛いし、私たちも力になってあげたいと思います」
「ありがとうございます」
「ところで明日の日中はどうされますか?」
「そうですね。国の中を見て回りたいと思っています」
「では、リリアちゃんを連れて行っても構いませんか?」
「勿論です。リリアにご案内させましょう」
「ありがとうございます」
そして、翌朝、朝食後に小型船に乗り、プリムローズ王国を見て回ることとなった。
「さぁ、リリア。乗って。ここからはリリアに案内をお願いしようかな?」
「はい。お父さま。お任せください」
『セシリー。僕はもうすっかり、リリアのお父さんになってしまったね』
『良いではありませんか。突き放さないであげてください』
『うん。それは勿論、分かっているよ。大丈夫』
『ありがとうございます』
『セシリーが僕にお礼を言うのも何か変だね』
『ふふっ。そうですね』
リリアの案内で主要な街を上空から見て回った。神宮や古い建物はセシリーにも見覚えがあったが、新しくできた街や建物は当然ながら知らなかった。
「街が沢山増えているのですね」
「はい。私が生まれた後からできた街も多くあるのです」
「伊織兄さまがしっかり統治されているのだね」
「はい。そう思います」
一日かけて国中をくまなく見て回り、王城への帰り道、一面プリムローズで埋め尽くされた丘を見つけた。
「あ!あの丘って、私のお気に入りの場所だわ!」
「あぁ、本当だ。あそこでよくお茶を飲んで月を眺めていたね」
「ちょっと、寄って行っても良いでしょうか?」
「勿論だよ」
船を丘の端に停めると、リリアと手を繋いで降りた。少し離れた場所にプリムローズ王城が見える。空を見上げると二つの月が回転しながら浮かんでいた。
「あぁ、まさにこの場所だわ!千五百年前に戻ったみたい!」
「お母さま、嬉しそう!」
「えぇ、ここはね。翼さまとふたりでよく来ていたの。子供が生まれてからはいつも連れて来ていたわ」
「あぁ、そうですね・・・秋月お兄さまはいつも走り回って・・・」
「え?」
僕とセシリーは同時に声を上げ、セシリーを見つめた。
お読みいただきまして、ありがとうございました!