21.セシリーとの結婚式
セシリーとの結婚式は襲撃事件で幕を開け、今は中断している。
僕たちは一度控室に入り、落ち着くまで待機することとなった。この間に参列者は、全員警察とメイドたちからボディチェックを受けている。
控室のソファに座り、お茶を飲んで一休みしていた。イギリス首相、エディンバラ首相と警察本部の部長が僕らのもとへ謝罪に訪れた。
「この度は私たちの警備が行き届かず、天照さまご一家のお命を脅かす結果となったこと、誠に申し訳御座いません」
「参列者の荷物検査は実施したのですか?」
「今回は参列者が多かったため、身分を分けて実施しておりました。マードック家は荷物検査を免除されたので御座います」
「あぁ、元貴族であったからですか・・・イギリスらしいですね。ところで、イギリスではあの様に拳銃などの武器を所有したままの者はかなり居るのですか?」
「我が国では、新平和条約を批准した際に法律を改正し、所持も使用も固く禁じ、装飾用も含めて警察へ提出を求めました。ですが、全ての家を家宅捜査するまではしておりませんので、意図的に隠し持つ者が居た場合、見つけることは難しいのです」
「拳銃やナイフなどを使った殺傷事件は起きているのですか?」
「金品を奪う目的での武器使用は、以前と比べて激減しております。ですが、怨恨を理由とした犯罪は減っておりません」
「対処はされているのですか?」
「犯罪自体が激減したことで、警察組織は縮小の一途なのです。各家庭を回っての武器探しなどは人員の関係でできておりません」
「では、自分の身は自分で守るより他ないのですね」
「何か良い知恵が御座いましたら、ご教示賜りたいところで御座います」
「大きい武器ならば我々の力で感知できないこともないけれど、今回の様な小ぶりな拳銃やナイフは難しいですね」
「月夜見さま、神がこれから各家庭も対象に武器をスキャンし、もし見つかった場合は終身刑に処すとテレビで報じては如何ですか?」
「瑞希、それでも武器を隠したい者は家の外、森や洞窟の中に隠すかも知れないね。それにテレビでそう報じても、神が個人宅を一軒一軒見て回る訳はないと高を括る者も多いのではないかな?」
「そうですね。人間は自分に都合の良い様に解釈しますからね・・・」
「私たちは自分で身を守らなければならないのですね」
結衣は悲痛な表情で呟いた。
「結衣。大丈夫かい?お腹の子のこともあるからね」
「翼、結衣のお腹の子は大丈夫よ」
幸子お母さまが結衣についてくれている。アンジェラには紗良お母さまがついてくれていた。
「アンジェラも診察したわ。赤ちゃんは大丈夫よ」
「幸子お母さま、紗良お母さま。ありがとうございます」
「大丈夫よ。翼は蓮についていてあげて」
首相や警察の部長は退室して行った。蓮は地面に落ちた時に服が汚れてしまったので洗濯してもらっている。今は月の都から転移させた部屋着を着てソファでリラックスしている。
「蓮、それにしても銃弾の動きを見切っていたとは凄いな」
「はい。一発目の時に斜め上から見ていました。僕には銃弾がカンナに命中するまで、スローモーションの様に見えていたのです」
「では、二発目が自分に向かって飛んで来る時も目で追えていたの?」
いつの間にか桜お母さまが僕らの前に立っていて蓮に質問した。
「はい。それで念動力で止められるのではないかと思ってやってみたのですけど、思ったよりも勢いが強かったので後ろに飛んで力を逃がしたのです」
「まぁ!それをあの瞬間に判断してやったと言うの?」
「そうです。上手くいって良かったです」
「シュンッ!」
「うわっ!」
突如、葉留が出現し皆を驚かせた。
「蓮!大丈夫なの?!」
「葉留お姉ちゃん。僕は大丈夫だよ」
「テレビで観ていて驚いたわ!まさか、こんなことが起こるなんて!」
「葉留。今日はテレビで観ていたのか。それだと状況が良く見えなかっただろう?」
「えぇ、お兄さま。徹さんと一緒だったから・・・」
葉留は政治家の妻に徹しているため、今回も出席していなかったのだ。テレビの生中継で観ていて驚いた様だ。
「あれ?葉留。瞬間移動はできなかったよね?」
「お母さまに転移させてもらったのよ」
「あぁ、そうか」
「これからはもっと警備を厳重にしないといけないわね」
「そうだね。今後は考えないといけないね」
「ふぅ。蓮の元気な姿を見て安心したわ。では、お母さま。戻して頂けますか?」
「えぇ、心配を掛けてすまなかったわね。徹さんにもよろしく伝えて頂戴」
「はい。お母さま。お父さま、お兄さま、皆さま。私はこれで失礼させて頂きます」
「葉留ちゃん。またね」
葉留は妻たちに向かって手を振ると、お母さまが転移させた。
「シュンッ!」
「それにしても、蓮は私より優秀な動体視力を持っているのね。これは鍛えたら素晴らしい剣士になれるわね」
「え?剣士に?僕がですか?!」
「えぇ、剣士はね。視力が大切なの。相手や剣の動きを見切る動体視力がね」
「僕、剣士に憧れているのです!」
「え?蓮が剣士に?」
「はい。桜さま。僕の師匠になってください!」
「え?蓮!何を言っているんだ!」
僕は慌ててしまった。地球の今の時代で剣士を目指す若者など居ないのだ。それに僕やお父さんの様に人々を導きたいと言っていたではないか・・・
「蓮、今の地球で剣士になる意味があるのかい?」
「今回はっきりしたことは、神と呼ばれる僕たちは全ての人間から認められている訳ではないということでしょう。今回の様に命を脅かされることは、今後も起こり得るのです」
「そういった事態に対処するためには、剣術や武道を体得しておくことは大切だと思います。僕は自分だけでなく、家族も守りたいのです」
「蓮、それは素晴らしい考えだわ。神星では拳銃など無いからまだ良いのだけど、地球ではあの様な武器がまだ、かなりの数が残っているのです。またいつ、同じことが起こるか分からないのですからね・・・そうね、蓮は成長が早い様ね。今の身長と体格ならば、女性用の剣が振れるわね」
桜お母さまの言う通り、蓮は僕の時と同じで成長が早い。身長は既に百六十センチメートルを超えている。
「それでは僕を弟子にして頂けるのですか?!」
「そうね。月夜見さまと翼、それに結衣が良いと言うのなら・・・」
「翼、蓮はいつから学校へ通わせるのかな?」
「お父さま、僕と同じ高校からと話していました」
「では、高校入学まであと七年はあるのだね。それなら剣の修行は一日中という訳ではないのだから、毎日、朝食後に私たちのところへ来れば良いじゃないか」
「そうね。朝から日中は訓練をして、夕食前に帰れば良いわね」
「桜お母さま、よろしいのですか?」
「翼、蓮には才能があると思うわ。あなたが研究に没頭した様に、蓮にだって好きなことや打ち込めるものがあることは良いことだと思うわ」
「結衣、君はどう思う?」
「わ、私は・・・危険なことはして欲しくないけれど・・・」
結衣は蓮を見つめて少し辛そうな表情となった。それを見た蓮は、立ち上がって結衣の前に進むと、結衣の手を取って穏やかに話した。
「お母さま。自分と家族を危険から守るためです。決して戦争をしたい訳ではありません」
「えぇ、蓮の安全は保障するわ。それに蓮ならばきっと素晴らしい剣士になれるわ」
「そうですか・・・分かったわ。蓮。無理はしないでね」
結衣は蓮の手を握り、真っすぐに目を見つめて言った。
「はい。お母さま。約束します」
「あの・・・今更なのだけど・・・」
「どうしたの?アネモネ」
アネモネが珍しく遠慮がちに口を挟んだ。
「蓮って・・・翼と月花の息子、希月の生まれ変わりだわ・・・私としたことが、今日まで気付かなかったわ」
「えーっ!ホントに?!」
「あ!だから生まれてすぐに新奈に懐いていたのね!」
「それで千里眼の能力を持っているのか!」
「それなら、桜お母さまは蓮の前世のお婆さまなのね」
「では、桜に鍛えられたなら、蓮が剣聖になるのは間違いないね」
「そう・・・私の孫なのね?」
「桜お婆さま?」
「蓮、でもお婆さまとは呼ばないで頂戴ね?」
「は、はい!師匠!」
驚いたな・・・蓮は希月の生まれ変わりだったのか・・・だから神の能力を持っていたのか。
「それでは、蓮のことはそれで良いかな・・・ところで・・・セシリー」
「あ、はい。お父さま」
「僕は君の方が心配だよ。大丈夫かい?」
「わ、私は・・・大丈夫です。こんなことになってしまって申し訳御座いません」
「セシリー、やっぱり君はそうやって自分の責任の様に感じていたのだね」
「はい。お父さま」
「うん。君のせいじゃないよ。セシリー。君は何も悪くない」
「翼さま・・・」
「セシリーの性格ならば仕方がないけれど、皆無事だったのだし犯人も捕まったのだから、もう気にしなくて良いのですよ」
「はい。お父さま。ありがとうございます」
「そうよ、セシリー。悪いのはマードック夫婦なのですからね。気持ちを切り替えて」
「はい。アンジェラお姉さま。ありがとうございます」
「ごめんね。セシリー。君も相当なショックを受けていたよね。花嫁である君を放っておくなんて・・・僕は駄目だね」
「いいえ、翼さま。大変な目に遭った蓮を一番に気遣って差し上げるのは当然のことです」
「結衣、ごめん。少しセシリーとの時間をもらっても良いかな?」
「えぇ、勿論です。セシリー、主役であるあなたに気遣いができていなくてごめんなさいね」
「そんなこと・・・結衣お姉さま。私のことは・・・大丈夫ですから」
「さぁ、セシリー、君の部屋が見たいな。案内してくれるかな?」
「私の部屋で良いのですか?分りました」
「シュンッ!」
セシリーが瞬間移動で僕をセシリーの部屋へ連れて来てくれた。
セシリーの部屋は高校生の女の子の部屋といった華やかさがあり、僕たちのざわついた心を明るくしてくれた。
「うん。とても可愛らしい、セシリーらしい部屋だね」
「そうですか?ちょっと子供っぽいでしょうか・・・」
「とても良いと思うよ。この明るさのお陰でさっきまでのことが忘れられるよ」
「それならば良いのですが・・・」
「セシリー、あの夫婦のことは君とは関係無いんだ。僕たちがしてきたことに対する反発だからね」
「それならば、私も無縁ではありません。これからだって同じことはあるかも知れないのです」
「うん。そうかも知れないね。僕たちは人間たちの前に出る時は、もっと慎重にならないといけなかったのだろうね」
「どうだろう、セシリー。これから結婚式ができるかい?延期しようか?」
「私は大丈夫です。沢山の人が今日のために働いてくれたのです。もう一度、という訳には参りません」
「そう?セシリーが大丈夫なら良いのだけど。本当に無理はしていないのだね?」
「はい。大丈夫です・・・でも」
「うん?でも?」
「気持ちを切り替えるために・・・」
「うん。どうしようか?」
「キ、キス。してください・・・」
セシリーは真っ赤になって小さな声で答えた。
「セシリーは本当に可愛いな・・・」
僕はセシリーを抱きしめてキスをした。
「翼さま・・・そのキルト姿、本当に素敵です」
「ありがとう。セシリー。君のウエディングドレス姿もとても綺麗だよ」
そしてふたりはお互いを抱きしめ合い心を落ち着けた。
結婚式は一時間遅れで始まった。バグパイプ楽団の演奏が始まり、僕たちはガーデンに出て行った。参列者たちの前に並ぶと、お父さんが念話で挨拶をした。
『お集まりの皆さん、大変長らくお待たせしました。これより、私の息子である、天照 翼とセシリー オースティンの結婚式を執り行います』
お父さんは僕とセシリーの肩に手を置き、一度周囲を見回してから参列者に向かって宣言した。
『ここに天照 翼とセシリー オースティンの結婚を認めます』
僕はセシリーを抱きしめ、キスをした。
バグパイプの音が祝福する様に鳴り響いた。参列者も口々にお祝いの言葉を叫んだ。
「わーっ!」
「おめでとう御座います!」
「翼さまーっ!素敵!」
「セシリーさまーっ、おめでとう御座います!」
その後はアンジェラとの結婚式の時と同じ流れで、バグパイプでの伝統的な音楽が演奏される中、立食での食事が供され、スコッチウイスキーを始めとする飲み物が振る舞われた。
オーケストラが演奏するワルツでダンスも楽しんだ。僕はセシリーと踊った。
「セシリー、今日は色々あったけれど、こうしてダンスを踊っていると楽しいね」
「はい。色々な意味で思い出になりました。私、正直言って、この公爵家の城は古いし、あまり好きではなかったのです。でも、こうして結婚式をしてみると全く違った感じがして・・・」
「ふーん。それはどんな?」
「そうですね・・・言葉では言い表し辛いのですが、何だかお城やガーデンが全体で私たちを祝福してくれているみたいな気がするのです」
「そうか。暖かい気持ちに包まれているって感じなのかな?」
「えぇ、そうです。とても暖かな気持ちです」
「それは良かった。セシリーが幸せな気持ちになれたなら、良い結婚式になったのだね」
「はい。とても!」
セシリーの満面の笑みを見て、僕も幸せな気持ちになれた。
「翼さま、最後で良いのでジェイミーとも踊ってあげてくださいませんか?」
「あぁ、ジェイミーだね。分かったよ。失神しなければ良いのだけど」
「えぇ、気をしっかり持つ様に言っておきますね」
「うん。頼んだよ」
その後、僕は妻たちと踊った。結衣とアンジェラと踊る時はゆっくりと気を使いながら。
「結衣、もう落ち着いたかな?」
「えぇ、新たな心配の種は生まれてしまったけれど・・・」
「あぁ、蓮のことか・・・彼なら大丈夫だよ。桜お母さまがついているのだから」
「そうね。私も子離れしないといけないのね」
「ふふっ、そうだね。それに蓮が希月の生まれ変わりだったことには驚いたけれどね」
「えぇ、本当に・・・」
「アンジー、君は大丈夫かい?」
「私は大丈夫です。それより、今回の参列者の人選では意見すべきでした・・・」
「人選?マードック夫妻のことかい?」
「えぇ、マードック家は元貴族でしたが、世襲貴族の枠を減らされた時に議席を失ったのです。その後、没落してしまい、更に子供にも恵まれなかったのです」
「あれ?アンジーのお父さまとセシリーのお父さまは貴族院議員でもあるの?」
「えぇ、そうです」
「更に、エヴァンス家とオースティン家からは女神を輩出したのだものね」
「えぇ、だから逆恨みされていても不思議ではないのです」
「そうか・・・地磁気の喪失という未曾有の大災害を乗り越えて、僕たちは気を緩めていたってことだね」
「そうなりますね。それに千人以上も参列者が居たら警備し切れないのですね」
「うん。良い経験になったよ」
「今後は気を付けましょう」
一通り妻たちと踊ると、緊張した顔をしてセシリーと並んで立っているジェイミーを見つけ声を掛けた。
「ジェイミー、お待たせ。僕と踊って頂けますか?」
「あ、あ、は、はい・・・」
「ジェイミー、凄く緊張しているね。大丈夫かい?」
「あ、あの・・・必死です。少しでも気を緩めたら・・・」
「気絶しないでね?」
「は、はい!」
「ジェイミー、今日のドレスは素敵だね。アンジーの時と違って大人のドレスだね」
「え、えぇ、だってもう高校を卒業したのですから・・・大人です」
「とても似合っているよ」
「あ、あ、だ、駄目です・・・そんなこと言われたら・・・私!」
「あ、あぁ、そうか・・・ごめんね。ところで今日は怖くなかったかい?」
「だ、大丈夫です。皆さんの動きがあまりにも早くて・・・一瞬のことだったから何が起こっているのか良く分からなかったのです」
「そうなんだ。それならば良かった。それじゃ、ダンスを楽しんでね」
「お義兄さま。本当に素敵です・・・」
ジェイミーはとろんと蕩けた顔のまま、僕のエスコートで踊り続け、何とか最後まで意識を保った。ダンスが終わるとツーショットで写真を撮った。彼女の幸せそうな顔を見て笑顔になった。
「ジェイミー、セシリーと三人で撮ろうか」
「はい!お願いします!」
「翼さま、真ん中に立ってください!」
「うん、分かった」
沢山のカメラマンに三人は笑顔を向けた。
結婚式が終わり、僕たちは月の都へ戻った。今回はお父さん達も一緒に船に乗り、月の都へ寄って行くこととなった。
皆が大きい方のサロンに集まり、騎士服のままのメイドたちが忙しくお茶を配膳し終わった時、お父さんが皆に向かって呼び掛けた。
「皆、今日のことについて反省会をしようか」
「そうですね。今後、私たちが不特定の人たちの前に出る時の警備体制を考えておかないといけませんね」
「桜、そうだね」
「そもそも、今日の参列者数と警護対象人数に対して警備に当たる人数が合っていなかったと思います」
「ジンジャー、君は屋根の上から状況を把握していたね。その辺はどうだい?」
「はい。皆さまが到着されてから、参列者の中を移動されている時は、私たちが警備可能距離を保つことができていました。しかし、移動が完了し、参列者の前に広がった時には、私とジャスミンが全体への警戒と索敵のために隊列から抜けましたので、一人当たりの警備範囲が広がっていました」
「十分ではなかったということだね。ではあと、何人居れば良かったかな?」
「はい。あと四名で完璧な体制が整ったかと思われます」
「シュンッ!」
「うわっ!なに?」
ジンジャーがそう答えたと同時だった。サロンの壁沿いに六体のメイドが現れた。髪の色は結衣、蓮、新奈、望、アン、アンジーと同じだった。
すると、エリーが一歩前に出て話し始めた。
「皆さま、天照さまからの伝言が御座います」
『翼、今日は大変だった様ですね。これからは子供たちの行動範囲も広がることでしょう。一人につき一体のメイドを付けることとしましょう』
エリーは伝言を言い終わると会釈して後ろへ下がった。
「つまり、彼女たちは子供たちそれぞれに専属で付くということですね?」
「その様だね。葉留付きのカレンの様に、この月の都を出る時に一緒に行くということだね」
「六人ということは、アンジーと結衣のこれから生まれる子のメイドも居るんだね」
「では、蓮、佑瑚、尊、怜央。メイドに名前をつけてあげて」
「尊と怜央には、まだ難しいね。新奈とアナがつけてあげて。アンジーと結衣もこれから生まれて来る子の分を頼むね」
「はい。分かりました」
「僕が名前をつけても良いのですか?」
「そうだよ。蓮のお付きになるのだからね」
「それならば、ルーにします」
「ルー?」
「呼び易さ重視です」
「なるほどね。では、こちらに来る時はいつもルーと一緒に来るのだよ」
「はい」
「佑瑚はどうする?名前、自分で考えられる?」
「うーん。胡桃がいいな」
「胡桃?あら、良いわね」
望が意外そうな反応をし、笑顔になった。
「佑瑚は良い名前を付けたわね。尊のメイドはどうしよう?うーん。では、杏子にしましょう」
「杏子?とても素敵ね。下界に行った時のために漢字の名前なのね?」
「そうよ」
「怜央のメイドは、トゥイーディアにするわ」
「トゥイーディア!可愛いわね。アン」
「では、生まれて来る子のメイドは、菖蒲にするわ」
「結衣、素敵ね」
「私の子のメイドは、ココにするわ」
「ココ?まぁ!可愛い。アンジーとても良いわ」
「結衣、ありがとう!」
「皆、決まった様だね。では、各々のメイドを起動してくれるかな?」
蓮は空中浮遊して、佑瑚、尊、怜央は母親に抱かれて、そして結衣とアンジーがそれぞれのメイドの頭に触れて起動させると、メイドから名前をつけて欲しいと言われ名前を告げた。
「これでメイドの数は十分なのだろうけれど、今後の警備体制については遂次、検討して今日と同じ轍を踏まぬよう気をつけよう」
「はい」
「これで一安心かな。それでは僕たちは帰ろうか?」
「そうですね」
「では、蓮。お父さんと話し合ってこちらへ来る日を決めると良い。翼、来る日が決まったら連絡してくれるかな?」
「はい。お父さま、桜お母さま。蓮をよろしくお願いします」
「蓮のことは任せて頂戴」
「では、瑞希。また来るからね」
「はい。月夜見さま。お待ちしております」
「翼、また来るわね」
「うん。アネモネ。今日はありがとう」
「シュンッ!」
お父さんたちが帰った後、蓮は早速、ルーを連れ歩いて月の都の中を案内して回っていた。
そんなことはデータで分かり切っているとは思うのだが。自分専用のメイドというのが嬉しいのだろうか?
その夜は当然のことながらセシリーと過ごした。
お風呂に入った後、寝室のソファに座りスパークリングワインで乾杯した。
「初夜に乾杯!」
「初夜に」
「キンッ!」
「初夜なんて・・・少し恥ずかしいです」
「でも正式に夫婦になった初めての夜だからね」
「はい。それはそうなのですが・・・」
「そんな風に恥じらうセシリーが可愛くて堪らないね」
「また、翼さまはそんなこと・・・」
「でも、今日は驚いたね。もう大丈夫かい?」
「はい。さっきメイドに名前をつける様子を見ていたら、ほのぼのしていて落ち着きました」
「そうか、それは良かった」
「貴族社会というのも大変なのだね」
「はい。とても・・・」
「神星はいまも貴族社会なのですよね?」
「そうだね」
「地球の様に将来は貴族制度をやめるのでしょうか」
「そうなるとしてもかなり先の話ではないかな?現在では兄さまたちが文化については取り入れ始めてはいるけれど、社会システムを入れ替えようとしている訳ではないからね」
「それは、貴族社会でも上手くいっているということでしょうか?」
「セシリーが前世で女王をしていた時代から続いているけれど、近代化が急激に進まない様に調整されていたんだ。全てが良い状況な訳でもないけれど、民主主義にできるまでには社会が成熟していないかな」
「そうなのですね・・・」
「あと、貴族社会は人口が増え過ぎない様にするためにも必要みたいだね」
「それでも、私が居た頃よりはかなり増えているのですよね?」
「そうだね。あぁ、そうだ。セシリーだけでなく、妻たちを連れて前世で女王だった国へ行ってみようか」
「え?プリムローズ王国へ行けるのですか?行っても良いのでしょうか?」
「大丈夫だと思うよ。お父さまに聞いてみるよ」
「えぇ、お願いします」
「この春休みの間が良いよね」
「行けたら嬉しいです」
セシリーはお酒が入ったこともあり、この後、プリムローズ王国の思い出を語り始めた。
それは僕にとっても楽しい思い出となるものだった。
だって、僕はこれからそれらを体験しに千五百年前の妻たちが待つ世界へ通うのだから。
お読みいただきまして、ありがとうございました!