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19.特別な存在

 アンジーとセシリーの家族と一泊二日の宇宙旅行に来ていた。


 昼食後はセシリーとふたりでラウンジを回った。

「セシリー、午前中にジェイミーと全てのラウンジから景色を見たのだよね?どこが一番良かったかな?」

「私は宇宙側です。月が見えるラウンジでした。でも時間が経っているので、さっき見たラウンジでは、月はもう見えないと思うのです」

「では月が見えるラウンジを探そうか」

「はい!」


 今は皆、地球側に居るのか宇宙側のラウンジには誰も居なかった。

「翼さま、月ならばこの時間はこのラウンジから見ることができます」

「デージー、ありがとう。ではセシリー、ここで見ようか」

「はい」


 ラウンジに入るとふたりでソファに座り窓の外を見た。

「あ!月です。翼さま見てください!」

「あぁ、とても大きく見えるね」

「えぇ、大きくて明るいです」

「でも神星の月はもっと大きいよね?」


「はい。でも私はこちらの月の方が好きです」

「そうなんだ。僕もそうかな。神星の月はちょっと大き過ぎるよね?」

「えぇ、私は長年それを見ていたのですけど、地球の月の方が繊細な美しさがあると思うのです」


「そうだね。神星の月は派手だよね。地球の月はセシリーの様に奥ゆかしくて良いよね」

「まぁ!奥ゆかしいなんて・・・」

 セシリーは真っ赤になってうつむいてしまった。


 僕はセシリーを抱き寄せると、セシリーが僕を見上げるのを待ってキスをした。

「あぁ・・・翼さま・・・」

 キスをしただけでセシリーはとろとろにとろけてしまう。


「セシリー、今夜はどうしようか?」

「私、ジェイミーと一緒に寝ようって約束してしまったのです」

「そうか。分かったよ。では僕はアンジーと眠るからね。セシリー、これから僕の部屋へ来るかい?」


「え?それって・・・」

「うん。どうかな?」

「宇宙で・・・ですね。是非、お願いします」

 僕はセシリーと部屋へ入った。ベッドはデージーがベッドメイクをしてくれており、真新しいシーツに交換されている。


「うわぁ!地球が見えるのですね!」

「うん、地球からの照り返しで少し明るいのだけどね」

「あ。本当に・・・ちょっと恥ずかしいです・・・」

「セシリーは自分のプロポーションに自信がない様だね」


「はい。だってお姉さま方が・・・」

「セシリー、そんなことを言っていたら、地球には何十億という女性が居るのだからね。比べていたらきりがないよ。それにね。セシリーはとても可愛くて美しい。そうだな・・・例えるとしたら・・・うん。妖精の様に清らかで・・・無垢で・・・可憐だ」


「ほ、本当ですか?」

「勿論。僕はセシリーが愛おしくて堪らないよ・・・セシリー、愛しているよ」

「あぁ・・・翼さま・・・私・・・」

「そんなに涙をこぼすなんて・・・セシリー、僕は君を離さないからね。自信を持つのだよ」

「はい。翼さま・・・私も翼さまを心から愛しております」


「セシリー・・・」

 そしてふたりは抱き合い、愛し合った。地球の優しい光に包まれながら・・・




 夕暮れ時、再び食堂へ集まった。窓の外はここから見える地球が昼から夜に移り変わる時間を映し出していた。


「あぁ・・・宇宙から地球が夜になっていくところが見られるなんて・・・」

「今日はずっと幸せな時間が続いているわね」

「エヴァンス殿、オースティン殿。満足頂けている様ですね」

「はい。この様な素晴らしい時間を過ごすことができるとは・・・本当に幸せなことで御座います」

「これも全て、翼さまのお陰です。ありがとうございます」


 メイドたちが皆にスパークリングワインを注いでいる。

「皆さん、これは神星で作られたスパークリングワインです。私たちが月の都で飲んでいるものです。今夜はこれで乾杯致しましょう」

「あ。セシリーはまだ、お酒は飲んではいけない年齢だったかな?」

「いえ、イギリスでは十八歳から飲めます。スコットランドでは十六歳でも購入できる店はありますよ」

「では、セシリーはもう飲んでいたのかい?」


「いいえ、今まではあまり飲んでいませんでした。でもこれだけ身体が大きくなったので大丈夫だと思います」

「ジェイミーも飲めるのかい?」

「私は既に大好きです!」

 ジェイミーはどや顔で胸を張った。


「ふふっ、それなら心配要らないね」

「では、地球に乾杯!」

「地球に乾杯!」

「キンッ!」


「あぁ!見て!どんどん夜の時間に変わっていくわ」

「本当!そして暗くなった地域に明かりが灯っていくのね」


 地球を見下ろすと東から少しずつ暗くなっていき、暗くなったところには大きな街を中心に明かりが灯っていく。その光が淡く輝き、まるで蜘蛛くもの巣の様に光の糸が街と街を繋いでいく。


「でも・・・昔、テレビで観たのだけど、夜の地球を宇宙から撮った映像は、もっと光が強かったと思うのだけど・・・」

「ジェイミー、それはね。僕が各国政府に対して、夜間の過剰なライトアップや明るい看板を自粛して欲しいとお願いしているからだよ」


「無駄に電気を消費しない様にということですね?」

「それもあるのだけど、夜を本来の暗さにして、星を見易くするためだよ。星が沢山見えたら、地球の環境が回復して空気が澄んで来ていることを実感できるでしょう?」

「それは素晴らしいです!確かに昨日の夜、明日宇宙にいけるのだと思って、窓から空を見上げたら、今まで見たことがないくらい沢山の星が見えたのです!」


「そう。それが当たり前になって欲しいんだ」

「素敵なことですね・・・それがもう少しで実現するのですね」

「そうだね。一日も早く、植物が元の様に生い茂り、動物たちが戻ることを願っているよ」

「私も植物のことを研究して、美しい自然を取り戻すことに協力します」

「うん。セシリー、頼むね」


「あっ!あれ何?」

「ジェイミー、どうしたの?」

「今、上の方に青い光が真っすぐに飛んで行ったわ!流れ星かしら?」

「あぁ、ジェイミー。それはレーザー砲の光だよ」


「レーザー砲?」

 レーザー砲と聞いて、エヴァンス殿はいぶかしい表情となった。

「エヴァンス殿、戦争の道具ではありませんよ。このオービタルリングやステーション、低軌道エレベーター、更に地球に向かって飛んで来る隕石を破砕はさいしたり軌道を変えたりして守っているのです」


「レーザー砲って、漫画とかアニメに出てくるものではなかったかしら?」

「いえ、レベッカお義母さま。地球では兵器として既に数十年前に完成していましたよ」

「同じものなのですか?」

「それよりも数百倍威力の強いものです」


「そんなに?」

「地球で造られた兵器はミサイルやドローンを撃墜する程度のものです。でも、それくらいの威力では大きめの隕石は破砕できませんから」

「では、ここで隕石を破砕してしまうなら流れ星は見えなくなってしまうのですか?」


「セシリー。それは違うよ。レーザー砲で細かく砕いて、その欠片かけらが大気圏に突入する時に大気との摩擦で燃え尽きるんだ。その燃える様が流れ星として地上から見えるんだよ。だから流れ星は見えるよ」

「では、隕石が地上まで落ちて建物に被害が出たりすることは減るのですね?」

「はい。既にそうなっていると思います。そのために設置したものですから」


「あぁ・・・神は我々をあらゆる危機からお守りくださるのですね」

「えぇ、できる限りのことをしたいと考えています」

「ありがとうございます!」


 それからは美しい地球の夜景を目の前にすると自然に皆、口数が少なくなった。

料理を口に運び、スパークリングワインを飲む度に動きを止め、地球へ目をやってしまう。

そうしてゆっくりとした時間は流れ、夕食はお開きとなった。


 その後は、皆、思い思いにラウンジでお茶やお酒を飲み、会話をしながら夜の地球や宇宙の星々を眺めた。


 僕はアンジーとふたりで宇宙側のラウンジへ入り、アンジーを抱きしめたまま星の海を眺めた。

「素敵な夜ですね・・・」

「うん。アンジー、満たされているって感じだね」

「はい。とても・・・翼に包まれてとても暖かな気持ちなのです。それに・・・」

「それに?」

「きっと新しい命を授かったと思うから尚更です」


「まだ、着床はしていないはずだよ?」

「えぇ、でも翼の愛で満たされているから・・・そんな気になるのです」

「それなら良かった。愛しているよ。アンジー」

「私もです。愛しています」

 ふたりはソファで抱き合ってキスをした。




 その後、僕らは部屋へ入りベッドに横たわった。僕はアンジーを背中から抱きしめて、ふたりで宇宙の星々を眺めた。

「翼。私たちは五百年も生き続けるのですよね?」

「その様だね」

「それってどんな感じなのかしら?私たちの子も孫も先にってしまうのよね。それでも私たちは生き続けるのですものね」


「うん。それは僕にも想像がつかないよ。でもどうだろう・・・あまり悲観的に考えなくても良いのではないかな?」

「本当の意味で神にならなければいけないのでしょうか?人々の幸せを願い、人々を助け、そして導く・・・」


「そうだね。僕たちは自分たちを人間だと思っているけれど、人々からはそうは思われないよね。神の能力を持ち、それを行使して人々を守り続けるのだから・・・」


「でも、僕ら家族の中だけは普通の人間として暮らせば良いと思うんだ。特に子供たちは人間界で暮らすのだから、可能な限り普通の暮らしも教えて行かないとね」

「それならば、子供たちはなるべく早く、月の都を離れた方が良いのかも知れませんね」

「そうだね。アンジーの子はエヴァンス家に預けるのが良いだろうね」


「でも、蓮は少し違う気がしますね」

「蓮?何が違うんだい?」

「蓮だけ、神の力が強いではありませんか。それは特別なのではありませんか?」

「そうなのかな?」


「えぇ、神星ならば国王になる存在だと思います。地球ではどんな地位が合うのかしら?」

「自分のやりたいことをすれば良いと思うけどな・・・」

「いいえ、例えば国連議長とか・・・日本の首相を超えたワールドワイドな存在になるのではないかしら?」

「うーん。どうだろう?分からないけど・・・」




 翌朝、朝食で皆が集まった。心なしか皆、眠そうな顔をしている。


「皆さん、遅くまで地球や宇宙を眺めていたのでしょうか?寝不足の様ですね」

「えぇ、勿体もったいなくて眠れませんでした。特に地球が夜から朝になって照らされていく様は素晴らしかったのです」


「地球はまだ、こんなにも美しいのですね」

「これも全て、翼さまのお陰です。翼さまがこのオービタルリングや地磁気の発生装置を創ってくださらなかったら、既に生物は死に絶えていたのかも知れないのです」


「そうね。クリフォード。地磁気の逆転現象という未曾有みぞうの大災害だったにも関わらず、こうして生き延び、更にこれ程までに素敵な体験ができるなんて・・・本当に幸せなことです」


「エヴァンス夫妻のおっしゃる通りですね。翼さまに改めて感謝を申し上げます」

「そんな・・・エヴァンス殿、オースティン殿。私は自分のしたいことをしただけです。さぁ、朝食を頂きましょうか」

「頂きます!」


 朝食は女性陣には、サラダとふわふわなパンケーキだ。アーモンドクリームが掛けられ、生クリームとフルーツもたっぷり添えられている。

男性陣はオーソドックスなコンチネンタルブレックファーストのスタイルだ。


「うわぁ!なんて美味しいパンケーキでしょう!舌の上でとろけてしまうわ!」

「ジェイミー、美味しいでしょう?これはね、桃が作ってくれた特性パンケーキなのよ」

「まぁ!セシリーは月の都で毎朝こんなに美味しいものを食べているのね!」

「えぇ、お母さま」


「これを毎朝食べても太らないの?」

「ジェイミー、同じものを毎朝食べている訳ではないわ。でも何を食べても太らないみたい」

「あぁ・・・羨ましい!」

「本当に!その美しさがずっと続くのね・・・」

「その様です。月夜見お父さまの奥さま達もずっとお若く、美しい姿のままですから」


「月夜見さまは今、お幾つなのでしょう?」

「父は四十五歳、お母さま方で一番年上の方で六十一歳ですね」

「し、信じられない・・・アンジーの結婚式の時にお会いしたが、皆さまどう見ても十代の若さでした・・・」


「エヴァンス殿、そう思われるのは当然です。わたしたちの身体は遺伝子的に、十代の頃の一番健康で美しい姿が維持されるのです」

「まさしくそれが神なのですね・・・そうですね。アンジーも大学生の頃に戻った様ですから」


「では、セシリーはもう、この姿のままずっと変わらないのですね?」

「恐らく、そうだと思います」


「セシリーはとても大人になったわ。可愛くも見えるけど、美しい女神さまだわ」

「ありがとう。ジェイミー」

「早くセシリーの花嫁姿が見たいわ」

「もうすぐよ、ジェイミー」


「来年、パブリックスクールを卒業したらすぐに式を挙げるのですね?」

「えぇ、その予定です」

「オースティン殿、結婚式はどちらで?」

「エヴァンス殿、やはり我が城で執り行うのが良いだろうということとなりました」


「うん。やはり、そうでしょう。歴史あるオースティン公爵家から女神を輩出されたのです。その歴史ある城のガーデンで式を挙げることが良いのでしょう」

「はい。先祖もさぞかし喜ぶことと思います」

「翼さま、此度もキルトをお召し頂けるのでしょうか?」

「えぇ、勿論です。オースティン家のキルトを仕立てます」


「あぁ!楽しみだわ!」

「ジェイミー、あなたが一番楽しみにしているのでは?」

「お母さま!私、お姉さまの結婚式の時のお義兄さまのキルト姿が忘れられないの・・・」


「ちょっと、ジェイミー。翼は私の旦那さまだってこと、分かっているのよね?」

「ジェイミーの部屋はあの時の翼さまの写真でいっぱいなのよ」

「お母さま!それは言っては駄目よ!」

 ジェイミーは僕の顔をちらちらと見ながら真っ赤な顔で言った。


「ジェイミーの気持ちは分るわ・・・仕方がないわよ」

「セシリー!解ってくれるの?」

「ジェイミーの部屋で翼さまの写真を見ましたけれど、本当に素敵なのです!」

「そうよね!」

「そうね。結婚式が楽しみだわ!」


「さて、ではあと一時間程で帰りましょうか」

「私、時間一杯までサロンで地球を見ていたいわ!」

「私も!」

「では、荷物の整理ができたらサロンに集まりましょう」


 そして宇宙旅行は終わり、ステーションから宇宙船へ瞬間移動すると、次の瞬間には月の都の前に出現した。

「シュンッ!」


「あ!もう月の都の前だわ」

「宇宙旅行は終わってしまったのね・・・」

「ジェイミー、今度は地球に緑が戻った頃に行こうか」

「え?お兄さま、また行けるのですか?」

「えぇ、構わないですよ。また行きましょう」

「嬉しい!」

「良かったわね。ジェイミー」


 本当はオービタルリングのステーションまで瞬間移動で飛べるから、それこそいつでも行けるのだけど、一般人にとってそれでは有難味がないというものだろう。宇宙なんて簡単には行けないところが良いのだから。




 それから家族を順番に宇宙旅行へ連れて行った。まずは望の家族と行き、次は新奈、アナの順に行った。そして今日は結衣だ。


 結衣の家族は蓮と僕だけだ。親子三人の水入らずで出掛けた。

「お父さま!もう宇宙です!星があんなに沢山!」

 普段冷静で大人びた蓮も本物の宇宙には興奮している様だ。本来の年齢なりの喜び方をしていているのを見て安心する。


「良かったわね、蓮。念願の宇宙旅行へ来られて」

「はい!お母さま!あ!見てください!オービタルリングが見えて来ました!」

「蓮、地球をそらから見てどうだい?」

「大きいのですね!思っていたよりも大きく美しいです!」

「そうか、それは良かった」


 ステーションへ移ると早速ラウンジへ三人で入った。

「翼さま、お飲み物をお持ち致します」

「では、僕と結衣は珈琲をもらおうかな?」

「蓮さまはいかがいたしましょうか?」

「僕はお水をください」

「かしこまりました」


「お父さま、あれだけ自然が壊されたというのに地球はこんなにもあおく、美しいままだったのですね」

「そうだね。でも碧いのは海の色かな?大地の緑は相当に失われているよ」

「そうなのですね。それでもこれ程までに美しいとは・・・」

「蓮、口調が子供らしくないわよ?」


「え?お母さま、そうですか?」

「まぁ、それが蓮らしいとも言えるのだけれど・・・」

「僕は子供らしくないのですか?」

「そうね。お父さまと同じで、幼い頃から沢山の知識を吸収しているから、どうしても大人びてしまうのね」


「それは良くないことなのでしょうか?」

「悪いことではないわ。知識を得ることは良いことよ」

「蓮、お母さんはね。蓮にもっと甘えて欲しいんだよ」

「あぁ、そういうことですか」


「ほら、そういう口調が子供らしくないってところかな?」

「すみません」

「謝る必要はないよ。でももうお母さんに甘える歳でもないかな?」

「そうですね。これからはお母さまを守って行かなければと思っています」


「まぁ!蓮!私を守ってくれるの?」

「当然です。神は尊い存在なのですから!お母さまを危険から守るのは、息子である僕の役目です」

 蓮は両の腕を腰に当て、どや顔で言い切った。


「ほほう!蓮、頼もしいね。お母さんを頼むね」

「はい。お父さま。お任せください!」

「あらあら、蓮が私の騎士ナイトになってくれるのね?嬉しいわ!」

「はい!お母さま!」


「翼さま、結衣さま、蓮さま。お飲み物をお持ちしました」

「アイリス、ありがとう」

 僕たちは珈琲を飲みながら地球を眺め、話し合った。


「お父さま、この数年間で地球の極地の氷の量は、百年くらい前の水準に戻った様ですね」

「その様だね。赤道付近の水位も下がって来ているとのことで安心しているよ」

「これで地球温暖化も一服して、異常気象も徐々に収まって来るのでしょうね」


「蓮は良く勉強しているね。ところで蓮は将来どんな仕事をしたいのかな?」

「そうですね。僕もお父さまの様に人間を正しい方向へ導けるようになりたいです」

「え?」

 僕は結衣と顔を見合わせた。結衣も相当に驚いている様子だった。


「蓮!凄いわね。それって神になりたいってことかしら?」

「だって、僕は人間ではないでしょう?」

「そ、それは・・・」

「蓮、僕たちは天照さまから、この星を守っていくお役目を授かっているんだ。それで五百年という長い寿命となっているんだよ。でも蓮は普通の人間と同じ寿命だからね」


「では、僕も同じ様に天照さまから何かお役目を頂けば良いのですね?」

「え?」

「そ、そうね。蓮。では今度、天照さまにお願いしてみたらどうかしら?」

「はい。お母さま。そうします!」


『翼、蓮はこんなことを考えていたのね?』

『そうだね。驚いたよ。そういえばこの前、アンジーに蓮は何か特別な存在な気がするって言われたんだ』

『まぁ!アンジーは何か感じたのかしら?』

『さぁ?なんだろうね・・・』


『でもこの先、何か新しいお役目なんてあるのかしら?』

『それこそ、神のみぞ知る。だよ・・・』

『そうね・・・』


 僕と結衣は念話で会話しながらぼんやりと地球を眺めた。




 夕食を終え、蓮は星の観察をすると言い出した。僕はアイリスに蓮に付いていて欲しいと頼み、僕は結衣と寝室で過ごすこととなった。

ふたりでスパークリングワインを飲みながら星を眺めた。


「素敵な夜ね」

「うん。ふたりきりの夜は久しぶりだね」

「えぇ、嬉しいわ。それにね。今夜は特別なの」

「特別?なんだい?」

「予測はしていたのだけど、さっき排卵したの」


「え?それって二人目を作るってこと?」

「えぇ、そのためにアナと順番を代わってもらったのよ」

「そうなんだ。アンジーもこの前、ここに来た時に排卵していたんだよ。授かったかどうかはまだ、分からないけれどね」

「アンジーなら、受精卵が着床したそうよ」

「え?そうなの?」


「えぇ、今朝、そう言っていたわ。宇宙でも妊娠は可能ってことね」

「それでは今夜、結衣も?」

「えぇ、お願いして良いかしら?」

「勿論だよ。女の子が良いのだよね?」

「えぇ」


 そうか。僕にとって結衣との子、蓮が初めての子だったのだな。初めて愛した女性も結衣だし、今は結衣の姓の九十九に籍も置いている。結衣はやっぱり特別なのだろうか・・・


「どうしたの?私の顔をじっと見つめて」

「いや、思い返してみたら僕の初めてはいつも結衣だなって・・・」

「初めて?・・・イヤだ!今更そんな・・・恥ずかしい!あれ?ちょっと待って。翼の初めては私じゃないわ!新奈でしょ?」

「あぁ、それは時間差ではそうだね。気持ちのことだよ。初めて愛した女性は結衣だよ」


「まぁ!そうなの?新奈ではなく?私?本当に?」

「うん。本当だよ」

「嬉しい!翼!愛しているわ!」

 そう言うと同時に結衣は僕に抱きついてきて、ベッドに押し倒した。


 僕は結衣を受け止めてキスをし、そのまま愛し合った。


 結衣に子の種を授けると、そのまま結衣を抱きしめ夜の地球を眺めた。

「翼、私、とても満ち足りているわ・・・幸せよ」

「結衣が幸せなら嬉しいよ。結衣は僕の特別な人だからね」


「私が特別なの?どうして?」

「僕が初めて愛した女性だし、常に僕のそばに居て支えてくれる。その温かさがあるから僕は頑張れるんだ」


「そう・・・嬉しいけど・・・でも今は他に六人も妻が居るのよ。私だけではないのだから・・・」

「そうだね。勿論、他の妻には言わないよ」


 結衣に子の種を授けた時、何か特別な感覚があった。蓮と同じ様に力の強い子になるのだろうか?


 やはり、結衣は特別な女性の様な気がしてならない・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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