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17.地磁気の復元

 セシリーが女神となって十日が経過した。


 食堂に皆が集まっていた。結衣の隣には八歳になったれんが座り、皆と同じ食事を食べている。望の息子の佑瑚ゆうごは四歳、新奈とアナの息子のたける怜央れおは三歳になり、彼らはパンケーキを食べていた。


 アンジェラとの子作りは、地磁気の発生装置の初期登録でオービタルリングまで行かなければならないので、念のためそれが終わるまで妊娠は待ってもらっている。


 皆、以前の明るさを取り戻していた。子供たちも皆、よく話す様になり食堂は賑やかだった。


 セシリーは朝食の席には出て来ない。スコットランドとの八時間の時差の中を通学しているため、学校へ行くのは日本の夕方で、帰って来るのは真夜中なのだ。


 学校を卒業するまでは実家から通った方が良いのではと薦めたのだが、セシリーは僕と月の都で過ごすことを選んだ。


 昼食の時間となり、セシリーが食堂に現れた。

「ねぇ、セシリー、髪色がもうほとんどストロベリーブロンドになってきたわね」

「はい。この一週間でこうなりました」

「背も伸びたわね。まるでモデルさんね」

「はい、背が伸びて制服のサイズが合わなくなってきているのです」


「でも、細いから入らない訳ではないでしょう?」

「はい。でもスカートの丈が短くなってしまって」

「あら、本当!でも丈が短くなったのではなく、足が伸びて露出が増えたのね。ミニスカートみたいで可愛くて良いじゃない」

「で、でも・・・男子の視線が・・・」

「あぁ・・・そういうことね」


「モデルになったつもりになれば良いのよ。どっちにしても女神となったことで注目されることは避けられないのだから、人に見られることに慣れないとね」

「そうですね・・・新奈お姉さま」


「そういえば、学校ではどうなの?変に近寄って来る人とかは居ない?」

「はい、居ます。以前は私に見向きもしていなかったのに、私が女神になったと知ってから、急に友達になりたいとか、今度家に来て欲しいとかお誘いが増えているのです」


「桃、そんな時はどうしているの?」

「はい。私が介入する前にジェイミーさまが、その様な者たちを排除していますので、私は警護に集中しております」

「あぁ、そうね。ジェイミーが居たわね」

「それならば安心ね」




 セシリーが学校へ行く時間となった。制服を着たセシリーを見ると、確かにスカートがミニスカートになっている。いや、スカートは変わっていないな。セシリーの足が伸びたのだ。


「これは確かに魅力的だね・・・」

 僕はセシリーの制服姿を足から頭まで舐める様に見て言った。

「翼さま、この姿は如何でしょうか?」

「うん。とっても魅力的だよ。それでいて可愛らしさはそのままだ」

「翼さまがそうおっしゃるならこのままにします」


「セシリー、もう身長は皆と同じくらいになったね。顔つきも引き締まってきたかな?」

「体形は細いままなのです・・・」

 セシリーは残念そうにそう言った。


「セシリー。女性の魅力は胸の大きさとかプロポーションで決まるものではないよ」

「私で大丈夫ですか?」

「セシリーは、元々美しく可愛い女性だったけど、この二週間で大人の女性になったね。でも美しさと可愛らしさはそのままだよ」

「そんな・・・翼さま・・・」

 セシリーは真っ赤になってひとりでもじもじしている。


「うん。僕の可愛いセシリー。自信を持って」

「はい。翼さま。では学校へ行って来ます!桃、行きましょう」

「はい。セシリーさま」

「シュンッ!」




 セシリーは桃と一緒にジェイミーの自宅の居間へ飛んだ。

「シュンッ!」

「あ!セシリー、桃。おはよう!」

「おはよう!ジェイミー」

「おはよう御座います。ジェイミーさま、エヴァンスさま」


「おはよう。セシリー、桃。毎日、ジェイミーを迎えに来てくれてありがとう」

「大丈夫です。一瞬ですから」

「さぁ、セシリー、行きましょう!」

「えぇ!」


「シュンッ!」

「皆、おはよう!」

 教室に出現するとジェイミーが皆へ元気に挨拶する。


「おはよう御座います。女神さま」

「皆さん、おはよう御座います。女神ではなく、セシリーで良いのですよ」

「だって、たった二週間でどんどん綺麗になっていってしまうのですもの。やっぱり女神さまなのだわ。ねぇ、皆?」


「そうよ。それにしてもセシリー。そのお付きの人と同じ瞳と髪の色になったのね。どうしてなの?」

「こらこら!女神さまに根掘り葉掘り聞いては駄目よ。女神さまには答えられないこともあるの」


「あら、ジェイミーは知っているの?」

「私はお姉さまも女神だし、月の都へも行っているから知っていることは多いわね」

「では、あなたが教えてくれたら良いのよ!」


「神さまの生活は人間界の者に知られてはいけないことも沢山あるの。私が迂闊うかつにお話しして良いことではないのよ。ごめんなさいね」

「さぁ、皆さま。そろそろ授業のお時間ですので、お支度なさってください」

 桃がピシャリと会話を断った。


「あーん。もっと知りたいのに!桃さまともお話ししてみたいわ!」

「私は従者ですので、お話できることは御座いません」

「ふふっ、カッコイイ!」

 桃まで人気者になっている。


 既にセシリーは学校のアイドルになっていた。授業が終わると他のクラスからも生徒たちが押し掛けた。写真を撮ったり、何とか話をしたいと近寄ろうとしたり、手紙を渡そうとする者も居た。


 しかし、それらはほとんど、ジェイミーと桃にブロックされた。

セシリーには更に変化があった。教科書を読むだけで、スラスラと勉強が頭に入る様になったのだ。授業を受ければ聞いたことを全て記憶してしまう様だ。脳の全ての領域が活性化しているのだろう。


 そして体育の授業では、今まで運動音痴だと思っていた身体が思い通りに動かせる様になった。何をやってもクラスで一番になってしまう。


 走る、跳ぶ、投げる。視力も上がっている様で、球技をやっても今までできなかったことができてしまう。そうなると楽しくなって積極的にスポーツも楽しむ様になった。


「セシリー、凄いわ。もう何でもできるのね!」

「ジェイミー、自分でも驚いているの。こんなに自分の身体を思い通りに動かせるなんて」

「それも神の能力なのね」

「その様ね。でもこれは自分の実力ではないもの。楽しいけれど自慢はできないわ」


「やっぱりセシリーね。その奥ゆかしさが素敵なのよ」

「そうかしら。自分に自信がないだけかも・・・」

「それもこれから変わっていくのでしょうね」


 でもひとつだけ、前と同じ様にできなくなったことがある。それは学校帰りの寄り道だ。元々、平日は寮に入っていたから寄り道はできなかったのだが、週末はジェイミーの家でのんびりしたり、一緒に買い物に出掛けたりしていた。でも、今は早めに帰らないと日本は真夜中になってしまうのだ。


 だから、ジェイミーや家族と過ごすのは金曜日の早い時間か土曜日の午前中だけとなった。それでも週に一度、家族やジェイミーと過ごすのは楽しかった。


「セシリー、今度、宇宙へ行くのですって?」

「えぇ、そうなの。明後日の日曜日にオービタルリングへ行って、地磁気の発生装置に私たちの力を注ぐための設定をするそうです」

「まぁ!そのために宇宙まで行くのね。あの低軌道エレベーターで空へ上がるのね?」


「いいえ、お母さま。あれで昇ると何日も掛かってしまうそうなのです。私たちは月の都にある宇宙船で行くそうです」

「宇宙船?前に翼さまと乗って来たあのきれいな船のこと?」

「あれとは別に宇宙へ行くための船があるのですよ」


「それならば、速く宇宙まで行けるのね?」

「えぇ、翼さまがそれに乗ればあっという間だとおっしゃっていたわ」

「良いな・・・セシリーとお姉さまは宇宙へ行けるのね?」

「ジェイミーも行ってみたいの?」


「それは勿論、行ってみたいわ。宇宙旅行に申し込んでいるけど、今のところ抽選に当たっていないの」

「そうなのね・・・では、翼さまに聞いてみるわね」

「え?何を?」


「ジェイミーを宇宙に連れて行ってあげられないかって」

「え?本当に?良いの?」

「でも、連れて行ってもらえるかは分からないけれど」

「嬉しい!聞いてくれるだけでも嬉しいわ!」


「でも、セシリー。宇宙って怖くないの?」

「お母さま、オービタルリングは翼さまが設計して、日本の技術で建造されたものなのですよ?怖いことなど御座いません」


「これで自由に外へ出られる様になるのね」

「えぇ、そうですね。雲が晴れて日が降り注げば、畑で農作物を育てることができるのです。少しずつ以前の様な暮らしに戻していけるのでしょうね」

「これも全て、翼さまのお陰ね」


「そうです。でも、もっと早く私が翼さまの妻の候補に応募していれば、死なずに済んだ人も大勢居たのです」

「セシリー。それはあなたのせいではないわ!」

「そうよ。セシリー。仕方がなかったのよ。始めはストロベリーブロンドの髪って言っていたのだから、あなたは候補ではなかったわ」


「そう!それに条件が赤毛に変わってからはそれ程、時間は経っていないわ。大丈夫よ」

「そうよ。セシリー。それにもうすぐ、正常化するのですから。あなたは前を向きなさい」

「えぇ、お母さま。そうですね」




 日曜日、オービタルリングへ出発する朝を迎えた。

「さぁ、皆、いよいよ地磁気の発生装置を本稼働させる時が来たね」

「はい。どれだけこの日を待ち望んだことでしょう!」


 僕らの力をオービタルリングを介して地磁気へ送るためのネックレスをお母さんと妻たちが着用した。


「さぁ、行こうか。蓮。お留守番を頼むよ。エリーたちと一緒に、弟たちを見ていてくれるかな?」

「はい。お父さま。お任せください」

「蓮、ありがとう!待っていてね」

「はい。お母さま。気をつけて行って来てください」


 僕たちは初めて銀色の宇宙船に乗り込んだ。この船に出入口は無い。一体、どうやって作ったのだろうか?

船の翼の上に乗ると窓から中を見て、各々、船内へ瞬間移動するのだ。


「シュンッ!」

「扉が無いということは、気密性は保たれている気がしますね」

「アナ。その通りだね」

「でも、今は翼の上から船内が見えたからこうして中へ瞬間移動ができましたが、オービタルリングへ行った時はどうやって中へ移るのですか?」


「それなら僕が設計したのだから、どこがどうなっているかは全て把握しているよ。僕が皆を一緒に瞬間移動させるから心配要らないよ」

「分かりました」

「今日のことは世界に報じられるのですよね?」

「うん。そうだね。月の都の外には国営放送のドローンが、僕らが宇宙へ飛び立つのを撮影しようと待ち構えているよ」


「では、瞬間移動ではなく、普通に飛んで行くのですね?」

「そうだね。演出も必要だろう。人類の希望と期待が今回のミッションに懸かっているのだからね」

「ミッション・・・何だか格好良いですね」

「えぇ、映画みたいだわ」

 皆、席に座るや四点式のシートベルトを締めた。


「アメリカでは実録映画を作るらしいですよ。出演依頼がありましたから」

「え?出演依頼?新奈に?」

「えぇ、でも断りましたけど」

「それは・・・そうよね」


 先頭の席には僕とお母さんが座り、その後ろに妻たちが両方の窓側に一列に並んで座っている。

「では、行くよ」

「はい!」


 地下の格納庫の中から通路を進む、通路の壁にはガイドの青いライトが先へと導く。

速度が上がって行くと先に光が見えた。通路の先のハッチが上下に二分割で開いて行くのだ。


 速度は相当に速くなり、月の都を飛び出すとすぐに船首を空へと持ち上げ、一気に速度を上げた。すぐに厚い雲の中へ入ってしまったので、地上からはいくらも撮影できなかっただろう。


「地上を見る暇も無かったわ!もう雲の中に入って何も見えないわね」

「そうね、新奈」

「でも、すぐに雲を抜けて成層圏を飛び出すよ。見ていてご覧」

「宇宙はすぐそこなのね?」


「あ!もう星が見えるわ!」

「本当にあっという間に宇宙まで来てしまうのですね」

「この船って大変なスピードで飛んでいるのでしょう?何故、重力を感じないのかしら?」

「それは反重力装置を使っているからだよ。普通なら感じるはずの重力を打ち消してしまうから感じないんだ」

「素晴らしい発明ね」


「軍事利用されなくて良かったわ」

「流石、翼ね」

「さぁ、そろそろオービタルリングが見えて来たよ」

「え!もう?」

「早いわね・・・本当だ!もう星の海だわ!きれい!」


 皆、窓に釘付けとなって星の海を見つめている。そしてオービタルリングの高度に達すると、ステーションに向けて近付いて行った。


「どんどん近付いているわ。もうすぐね」

「それにしても巨大な建造物ね・・・あ!見て!低軌道エレベーターが見える!」

「本当!雲の中に伸びて行っているわ」

「でも、地上とか地球の美しさが全然見えないわね」


「今は仕方がないよ。地磁気が正常な状態になって雲が晴れたら、また皆で見に来ようか。今度は子供たちも連れてね」

「えぇ、そうしましょう」

「翼さま、その時、ジェイミーも連れて来ても良いですか?」

「勿論、構わないよ。皆のご両親も連れて来ると良いね」


「それは楽しみね。セシリー、良かったわね」

「はい。お姉さま!」


「さぁ、着いたよ。これから船をステーションへ固定するからね。ロックされたら中へ移るよ」

「あ!なんか機械の腕が伸びて来ますよ」

「結衣、あのアームがこの船を掴んで固定するんだよ」

「ゴーン!」


 アームが船に触れた鈍い音が船内にも響き、船はロックされ動きが止まった。

「さぁ、中へ移るよ」

「シュンッ!」


 移動した先はステーションの最上階のフロアだ。宇宙旅行の一般人は勿論、技術者もこの区画へは入れない様になっている。僕たち専用の滞在エリアとはまた別の区画だ。


「天照さまがいらっしゃるまで、宇宙を眺めていようか」

「うわぁ!素敵!これが星の海なのですね!」

「そうか、アネモネとアナ、アンジー、セシリーはここに来るのは初めてだね」

「私も初めてよ」

「そうか、お母さまも初めてでしたね」


「本当に美しいです!」

「美しい地球が見られないのは残念ね」

「それはまた、次の楽しみに取っておけば良いよ」

「そうですね。また来ましょう」


「シュンッ!」

「あ!天照さま!」

「待たせしましたね。やっと八人揃ったのですね」

 天照さまは、妻たちの顔を順に見て行きながら静かに言った。


「天照さま、そのお身体は生まれてまだ六年経っていませんよね?」

「そうですね。でも私の成長はあなた達とは異なるものですから」

 天照さまは、人間の年齢で言えば六歳になる歳だが、見た目は既に高校一年生くらい、十五、六歳に見える。美しい少年・・・いや少女?性別の見分けがつかない。


「さぁ、設定を済ませてしまいましょうか?皆は既にネックレスをしているのですね」

「はい」

「では各々、位置に着きましょうか?」

 初期設定をどの様に行うかは、昨夜の夕食後に説明済みで、皆の配置も図で説明しておいた。


 ポイントは八か所ある。このステーションとその丁度反対側。その二か所には、僕とセシリー、天照さまとお母さんが入る。その他の六か所に妻六人がそれぞれ入るのだ。


「皆、宇宙空間にひとりずつ配置されるから心細いと思うけど、怖くなったら僕に念話で話し掛けてね」

「はい」

「結衣、大丈夫かい?」

「はい。このお役目を全うすることで、初めて神と呼ばれる価値のあることができる気がするのです。怖いなんて言ってはいられません」


「そうですね。あなた方は、普通に人間の暮らしをしていたのに、突然、神として担ぎ上げられたのです。前世でも神ではあったのですが、このお役目を担うことで正真正銘の神となるのです」

「はい!」


「それともうひとつ、言っておきます。神となり五百年の寿命を持っていても、殺されれば死にます。そしてそうなればこの装置を維持できなくなるのです。その様な意味でもこれからは自分や家族の命を守ることも大切になりますよ」

「はい!」

 天照さまの言葉に皆は真剣な表情となった。


「では、ひとりずつ見送るよ」

「お母さま。お気をつけて。お願いします」

「えぇ、翼。私は大丈夫よ」


「望、長女としての思いもあるだろうけれど、気を張ることはないからね。気楽にね」

「ありがとう。翼。愛しているわ」

 皆の前だが、望を抱きしめてキスをした。


「アネモネ。神星と地球の行き来は大変だけど、よろしく頼むね」

「勿論よ。地球は私の故郷でもあるのだから。翼、愛してる!」

 そう言って、アネモネの方から抱きつき、キスをした。


「新奈。いつも皆が明るくなる様に振る舞ってくれてありがとう!」

「翼に感謝されるなんて嬉しいわ!でも私は翼と生きて行けるだけで嬉しいの!」

 新奈も自分から翼を抱きしめてキスをした。


「結衣。君には一番支えてもらっている気がするよ。僕はその想いに報いていないかも知れないね」

「そんなことない!私は翼に沢山のものをもらったわ。私はあなたが居るから生きられるの!」

 そう言う結衣を抱きしめ、キスをした。


「アンジー、子供のこと。待たせてごめんね。これが終わったらね」

「はい。お願いします!翼さま。愛しています!」

 僕はアンジーを抱きしめ、キスをした。


「アナ。君のお陰でこの地磁気発生装置を完成させることができたんだ。本当にありがとう」

「いいえ。私こそ、翼さまへの感謝で一杯です。暗闇から救い出してくれたのですから!」

 僕はアナを抱きしめ、キスをした。


「では、皆、船に乗って、持ち場へ向かってくれるかな?」


 オービタルリングのリング部は中がトンネルの様な空洞になっていて、その中を船で移動ができる。ステーションから二台の船に四人ずつ乗り、近いポイントからひとりずつ降りて行った。


 皆、各々のポイントに着くと船を降りてすぐ目の前にある小部屋に入る。そこには寝台の様な台があり、そこに身体を横たえ、右手の位置にある宝石に手を乗せてスタンバイが完了する。


 次々に準備ができたと念話で連絡が入った。僕はセシリーとステーションの更に上にある小部屋へ入る。そこには二つの寝台が並んでいる。

「セシリー、怖いかな?」

「えぇ、少し。でも翼さまが一緒だから大丈夫です」

「良く来てくれたね、セシリー。君のお陰で地球は救われるよ」


 僕は腕を広げるとセシリーを迎え入れ、抱きしめた。セシリーは一度大きく息を吐き、落ち着こうとしていた。僕はセシリーの顎に手を添えるとそのまま軽く持ち上げてキスをした。


「ん・・・ん・・・」

「どうかな?落ち着いたかい?」

「は、はい・・・ありがとう御座います」


 そう言うとセシリーは赤い顔をして、寝台に身体を横たえた。丁度その時、天照さまから念話で連絡が入った。


『皆、準備ができた様ですね。翼、始めてください』

『かしこまりました。では始めます。皆、右手の位置にある宝石に右手を乗せてくれるかな?では始めるよ』

『はい!』

 頭の中に皆の声が響いたのを合図にスイッチを入れた。


「ブゥーン!」

 低い電子音と共に皆のネックレスが光を放ち、寝台はうっすらと青く光った。


 僕はセシリーと手を繋いでいたが、セシリーは僕の手を握る手に力を入れた。僕もその手を強く握り返した。


 十秒程だったか低く唸っていた電子音が消え、青い光も消えていた。


『翼、もう良いでしょう』

『皆、ありがとう。では、天照さまとお母さまから順に船に乗ってステーションへ戻って来てください』

『はい!』


「さぁ、セシリー、下へ降りて皆を出迎えようか」

「はい」


 やがて二台の船が戻り、皆が笑顔で降りて来た。

「翼、これで元通りに地磁気が発生するのね?」

「うん。そうだね。皆、ありがとう!」

「翼、今回も良く働きましたね。これで地球は元通りになることでしょう」

「天照さま、ありがとう御座いました」


「では、私はこれで」

「シュンッ!」


「あぁ、行ってしまわれた。さぁ、僕たちも今日のところは帰ろうか」

「そうですね。今度は地球がきれいに見える時にゆっくりと眺めましょうか」

「えぇ、帰りましょう!」

「では、船に戻るよ」


「シュンッ!」


 そして、帰りは瞬間移動で月の都の目の前まで飛んだ。

「シュンッ!」


 格納庫へ入ると皆でサロンへ飛んだ。

「シュンッ!」

「お父さま!お帰りなさい!」

「蓮、皆を見ていてくれたんだね。ありがとう」

「お父さま、地磁気の発生装置の稼働は成功したのですね。おめでとう御座います」


「蓮、ここで地磁気の量をモニターしていてくれたのだね?」

「はい。お父さま。既に十分な量が測定されていますし、放射線も無くなりました」

「成功だね」

「おめでとうございます!お父さま!」

「ありがとう!蓮!」

 僕は蓮を抱き上げてくるっと一回転した。


「お父さま!僕も!」

「僕も!次は僕の番です!」

 僕は息子たちを順番に抱き上げ、くるくると回転した。皆、声を上げて喜んだ。

それを見ていた妻たちの瞳からは涙がこぼれた。


「お父さま、国営放送ではお父さまたちがここから出発して宇宙へ向かうところから、オービタルリングにドッキングし、そしてまた船が離れて消えるまで、ずっと放送していたのです。そして今は地磁気が元に戻り、放射線も無くなったことを全世界に向けて発表しました」

「本当に良かったですね」

「うん。あと数日でこの厚い雲も晴れることだろう」


 そして一週間後、地球を厚く覆っていた雲が晴れ、気温が上昇し始めた。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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