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14.雨月発見

 妻の募集サイトによる嫁探しが再会された。


 今回は非常事態ということで、アネモネが全ての応募者を一緒に見てくれることとなった。


 サロンに集まり、お茶や珈琲を飲みながら、モニターに応募者の写真とプロフィールを映し出していく。

「では、翼さま。おひとりずつ映して参ります。お一人当たり二十秒で次の方へ進みます。気になった方が居た場合は止めてください」

「うん。では、始めようか」


 画面の左半分は応募者の写真だ。顔の正面のアップ、横顔、全身の写真だ。

右側にはプロフィールが書かれている。年齢、ボディサイズ、出身地、家族構成、学歴、趣味、特技と超能力の有無だ。更に情報が見たい場合は、応募に対する意気込みなども見ることができる。


 二十秒の間にまず写真を見て、プロフィールを軽く流して見る。

「気になった人が居たら声を上げてくれるかな?」

「分かりました」

「でも、アネモネが見て雨月だと思うならもうそれで決まりよね」

「そうね。雨月でない人を嫁にすることはないのよね?翼?」


「それは、勿論そうだよ」

「使用人にしたいと思ったら?」

「嫁として応募して来ているのに、あなたは使用人で如何ですか?なんて、そんな失礼なこと言えないよ!」

「それはそうよね。愚問だったわ・・・」


「では、さくさく見て行きましょう」

「アネモネ、軽いな・・・」


 このペースで見て行けば二日で全て見終える計算だ。

「あ!」

「え?どうしたの?この娘が雨月なの?」

「いいえ、この娘は違うわ」

「あ、ごめんなさい。知り合いだったものだから、つい声を出してしまったわ」


「新奈、この娘を知っているんだね?」

「えぇ、モデル仲間だったの。最近会っていなかったわ。アパレル業界は今、沈黙しているからモデルも仕事は無いのよ」

「仕事を諦めて嫁に応募したってこと?」

「そんなつもりでもないとは思うけれど・・・」


「でも、この娘。赤毛と言われれば、まぁ、そう見えないことはない。という程度だし、瞳は茶色よね」

「それを言ったら、今のところ、赤い瞳と言える娘はひとりも居ないわ」

「うん。そもそも赤い瞳なんて、アルビノでないとあり得ないからね」

「あぁ、色素がほとんどない生き物のことよね?確か人間だと二万人に一人の病気ね」


「うん。僕らはアネモネや、桜お母さま、舞依お母さま、詩織お母さまで見慣れているからあまり意識していなかったね。地球ではかなり珍しい存在だよ」

「そうね。アルビノだったら赤毛はまず居ないわよね?」

「それって、地球人ではあり得ないってこと?」

「でも、天照さまは神星の人間とは言っていなかったわ。地球人で間違いないでしょう?」

「僕もそうだと思うよ」


「それでは、瞳の色にはあまりこだわらずに粛々と見て行きましょうか」

「そうだね。エリー、続けてくれるかい」

「はい。翼さま」


 一日目で千八百人の候補者を見たが雨月は居なかった。その夜はアネモネと過ごした。いつもの様に熱い時間を過ごすと一度シャワーを浴びてからベッドに戻り、抱き合ってまどろんでいた。


「アネモネ、雨月は地球に居ると思うかい?」

「えぇ、そう思うわ。恐らくなのだけど、雨月は夢月・・・アナスターシャの様に神の能力とか特徴が色濃く出ている娘なのだと思うわ。だからきっと赤毛で赤い瞳を持っているのだと思うわ」

「そうだね。それだとしっくりくるね。でもそうだとしたら一目で分かるはずだね」


「えぇ、だから明日は一人当たり、十秒も見れば十分だと思うわ。そもそも私は一瞬見ただけで判るのですから」

「そうだね。それなら午前中だけで見終わってしまうね」

「では、早起きするのね。ではあと二回だけにしておきましょうか?」

「分かった」


 翌朝、朝食を頂くと、直ぐにサロンへ移り昨日の続きを見始めた。

アネモネの意見を皆に話して納得してもらうと、一人当たり十秒で見て行った。


「あ。この娘!アメリカのアイドルじゃない?」

「そうね。可愛いわ」

「でも、髪は染めているわよね・・・」

「もう、何でも良いから応募しちゃえ!って感じかしら?」

「まぁ、仕方がないわね」


「でも、北欧系というか北の人ばかりね」

「赤毛なのだからそうなるでしょうね」


 スライドが突然終わり、真っ白な画面となった。

「あ!終わっちゃった!これで全部なの?」

「はい。望さま。これで応募者全員を見終わりました」


「あぁ!やっぱり応募してくれないのだわ!雨月は何をしているの?」

「本当に!どうしたら良いのかしら?もう分からないわ」

「困ったね・・・」


「翼、そんなに落ち込まないで」

「もう指名手配するしかないわね」

「指名手配?」

「そうよ。だって、雨月は自分からは応募してくれないのだもの。周りの人に密告してもらうのよ」


「密告?」

「そう。赤毛で赤い瞳の女性を知りませんか?ってテレビコマーシャルを打つのよ!」

「あぁ、なるほど。でももっと正確性の低い情報が集まるだけなのではないかしら?」

「そうね。本人を紹介できたら何か謝礼がもらえると思う人が沢山でそうな気がするわ」

「ごもっともね」


「なんだか煮詰まってしまったわね」

「ねぇ、気分転換に出掛けない?」

「出掛ける?どこへ?」

「東京の地下に大きなショッピングセンターができているそうよ。見に行ってみない?」


「そうね。気分転換は必要かもね。翼、どうかしら?」

「そうだね。じっとしていると悪い方向にしか考えないかも知れないね」

「そうと決まったら出掛けましょう!」

「あぁ、私、アルバートの服を買いたいわ!」

「アネモネ。今回のお礼に僕からプレゼントさせてもらうよ」

「ありがとう。翼。では行きましょう!」


 僕たちは各々、変装して小型船に乗り込み、ショッピングセンターの近くへ瞬間移動した。


 地下のショッピングセンターには映画館やカラオケ、スポーツ施設にゲームセンターも併設されており、大変な賑わいだった。


 今ではレストランは完全予約制でメニューも定食やコースで決められたものとなっている。カフェに入っても同じで予約していない限りは飲み物しか注文できない。


 食料不足によって色々な制約ができ、便利に慣れた日本人には厳しい世の中となっていた。


 映画館も新作は少なく、昔の映画のリバイバル上映がほとんどだ。屋外の景色が一変してしまったので通常の撮影ができないのだ。かと言って、世紀末的な内容の作品は人々の不安をあおるだけだと避難を浴びることとなるため創れないのだ。


 僕たちは昼食を済ませてから来たので、まずはアネモネの息子の服を買いに行った。

「アネモネ。好きなだけ買って良いからね」

「翼、ありがとう。やっぱり日本の洋服は品質が良いわね」

 アネモネは子供服を次々と手に取り、服選びに夢中になっていた。


 まだ子供が居ないアンジーは下着売り場へ行き、他の妻たちはアネモネと各々自分の子供の服を選んだ。


 僕はショッピングセンターの中をぶらぶらと歩き回り、人々の様子をうかがった。


 この様な商業施設へ出掛けている人たちに暗さはない様だ。特に変わった様子もなく、若者は元気な様に見えた。少し安心するとともに、重く考え過ぎていたのかと肩をすくめた。


 夕方となり、皆がショッピングを終え、船の乗り場へ向かっている時のことだった。

「あっ!」


 急にアンジーが大きな声を上げて立ち止まった。

一瞬、周りに居た人も足を止め、アンジーを見ていたが、すぐに元の流れに戻って行った。


「アンジー、どうしたんだい?大きな声を出して」

「ごめんなさい。ちょっと驚いたって言うか・・・あることを思い出したの」

「あること?アンジーなに?」

 アナがアンジーの肩に手を置き、顔を覗き込んだ。


「私、雨月の候補の容姿をした女の子をどこかで見たことがある様な気がしていたのだけど、思い出せなくてずっとモヤモヤしていたの」

「思い出したのかい?」

「えぇ、さっき前に歩いていた二人組の女の子のひとりが赤く染めた髪をツインテールにしていたの。その姿を見たら、その娘をどこで見たのかを思い出したの」


「恐らくなのだけど・・・妹のジェイミーの友達だと思うの」

「ジェイミーの友達?それなら歳はジェイミーと同じかな。顔とか名前は知っているの?」

「それが・・・分からないの。ジェイミーとは八歳離れているから、大学を卒業した時にはジェイミーはまだその娘とそれ程仲良くなかったと思うのです」


「それに私は休みがあれば動物関係の施設へ出向いていてほとんど家に居なかったから、ジェイミーの交友関係を知らないのです」


「では、どうしてその娘のことを?」

「ある日、お休みの日に家に帰った時、家の近くまで来たら二人が家から出て来て、私と反対の方向へ歩いていく姿を見送る様に見たのです。その友達が綺麗な赤毛でツインテールにしていたのです」


「ピンクのリボンをしていたのかい?」

「うーん。そこまでは記憶にないのです。だからかなりあやふやなのですけど」

「アンジー、ジェイミーに電話して聞いてみたら?」

「あぁ、そうね。聞けば良いのだわ」


「あ。今日は金曜日ね。この時間はスコットランドでは学校に登校する時間ね。ちょっとお母さまに電話して聞いてみますね」

 アンジーはその場で携帯端末からお母さんへ電話を掛けた。


「おはよう!お母さま。私よ。元気?」

「まぁ!アンジー。丁度、あなたの声が聞きたいと思っていたの。それも神の能力なの?」

「そんなことはないわ。偶然よ、お母さま。それよりも聞きたいことがあって電話したの」

「あら、何かしら?」


「ジェイミーの友達に赤毛でツインテールにしている娘は居なかったかしら?」

「えぇ、セシリーのことね」

「やっぱり居たのね?」

「あら?アンジーはセシリーのこと知らなかったのかしら?オースティン公爵家の娘よ」


「え?あのオースティン家の?私は会ったことがないの」

「そうね。あなたは忙しくしていたから・・・ジェイミーはお休みの時はいつもセシリーをうちに連れて来ているのよ」

「そうなのね。それでね、お母さま。そのセシリーなのだけど、彼女の瞳はどんな色なのかしら?」


「あぁ、それね。翼さまのお嫁さん候補の新しい条件にピッタリなのよ。とても美しい赤い瞳をしているわ」

「赤い瞳ですって?」

「えぇ、そうよ。赤毛もとても美しいの。でもまだ背も低くて可愛らしい女の子よ。お嫁さんには早いわね」


「そうなのね。今、二人は学校よね?」

「えぇ、そうね。そろそろ授業が始まる時間かしらね。今日は週末だからそのまま二人でうちへ来るのではないかしら?」

「そう。分かったわ。ありがとう。お母さま」


「ねぇ、今度はいつうちへ寄ってくれるの?」

「きっと直ぐに行くことになると思うわ」

「そう、楽しみにしているわね」

「えぇ、ではまたね。お母さま」


 アンジーは電話を終えると僕らに向かって満面の笑みで言った。

「もしかしたら、雨月が見つかったかも知れないわ!」

「え?雨月が?本当に?」

「えぇ、ジェイミーの友達だったのです。お母さまに聞いたら、美しい赤毛で瞳も赤いって、翼さまのお嫁さん候補の新しい条件にピッタリだって言っていたわ」


「え?それならどうして教えてくれなかったの?」

「あぁ、身長が低くてまだあどけない少女にしか見えないみたい。お嫁さんには早いわね。って言っていたくらいだから、候補とは結び付かなかったのでしょう」

「そうね。ジェイミーの姉であるアンジーが妻になったのですもの、今度は娘の友達がまた神の妻になるなんて思う訳がないわ」


「ねぇ、その娘の写真とかはないのかしら?これだけ期待して、会いに行って違ったら相手にも悪いことをしてしまうわ」

「アネモネの言う通りだね」

「そのセシリーという娘の写真は無いけれど、ジェイミーの顔ならば皆、一度結婚式で会っているから覚えているのでは?ジェイミーの意識に入れば、セシリーが近くに居るのではないかしら?」


「アンジー、それは良いアイデアだ。皆でジェイミーの意識に入ってみようか」

「えぇ、直ぐに入ってみましょうよ!」

 新奈の声を合図に、僕らは記憶の中からジェイミーの顔を思い浮かべ、意識の中へと入った。


 ジェイミーの視界に入るとそこは学校の教室の中の様だ。とても古めかしい建物であることが分かる。今は授業が始まる前の様で、生徒たちが友達同士でおしゃべりをしていた。


「セシリー!今日も放課後うちに寄って行くでしょう?」

「えぇ、ジェイミー」

 ジェイミーに振り返ったセシリーは、本当にまだあどけない少女だった。身長は百六十センチメートルあるかどうかで、綺麗な赤毛をピンクのリボンでツインテールにしていた。


 そのおさげ髪は肩よりも長く、胸の下くらいまであり、全ての髪を結っているのではなく、後ろ髪はストレートに後ろへ流していた。


 瞳はアネモネと同じ、ルビーの様に美しい赤色だった。色白で鼻は可愛らしく唇はピンク色だった。高校生ではあるが中学生くらいにも見える可愛らしさだ。


 これでは誰だって結婚の対象として考えることはないだろう。そんなことをぼんやりと考えていると、頭にアネモネの声が響いた。


『この娘が雨月で間違いないわ!』

『え?この娘が雨月?』

『良かったわね、翼。やっと見つけたわ』

『翼、おめでとう!』

『あぁ!やっと見つかったのね!本当に良かった!』


 皆の祝福の声が念話で頭に中に響いた。すると望が声を上げた。


「翼!早く迎えに行かないと!」

「あ、あぁ、そうだね。瞬間移動で月の都へ戻って船でスコットランドへ飛ぼう」

「学校へ迎えに行くのね?」

「それならば、授業が終わる頃に着けば良いのでしょう?一度月の都へ帰って着替えて行きましょう」

「では、ジェイミーには昼休みに私から電話しておくわね」


 月の都へ戻ると直ぐにお母さんへ報告した。


「お母さま。雨月が見つかりました!」

「え?本当なの?どこに居たの?」

「アンジーの妹の友達だったのです」

「まぁ!そんな近くに?それは盲点ね。それでこれから迎えに行くのね?」

「はい。ジェイミーたちの下校時間に合わせて迎えに行きます」


 妻たちは女神らしい衣装に着替えて船に集まった。結衣だけ、蓮を連れて来た。帰りはこちらの真夜中になってしまうため、他の子はお母さんやメイドたちに預けて行くこととなった。


「お母さま、それでは行って来ます。蓮だけ連れて行きますので、他の子たちをお願いします」

「えぇ、分かったわ。気をつけて行って来てね」

「はい。行って来ます!」


 皆で白鳥の様な船に乗るとエディンバラ城の上空へ出現した。

「アンジー、ジェイミーには電話したかい?」

「えぇ、下校時間に船で学校まで行くから、セシリーと待っている様に言ったわ」

「ジェイミー、驚いていなかった?」

「何故行くのかを言っていないから、きょとんとしていたわ」

「ふふっ、驚いてしまうだろうね」


 エディンバラ城から学校まではとても近いそうなので、ゆっくりと学校を目指して飛んだ。


「あそこに見える古いお城の様な建物が学校です」

「うわぁ!まるで魔法学校みたいなたたずまいだね」

「えぇ、魔法学校を題材にした映画のモデルに使われたのですよ」

「如何にもって感じだね」


 学校に近付くと、授業を終えた生徒たちが校舎の周りに出て来て、皆こちらを見ていた。

携帯端末で写真や動画を撮る者、指をさして大声を上げている者、皆大騒ぎだ。


 どこにジェイミーとセシリーが居るのか分からない。広くなっている庭の上に止まり、ゆっくりと降下して行って地上五メートル位のところで停止した。


 僕らは船の翼の上に出て行くと生徒たちを見渡した。するとジェイミーが手を振りながら、もう一方の手でセシリーの手を引いて船に近寄って来た。


「お姉さま!お義兄さま!」

「ジェイミー」

 アンジーが見つけて声を掛けた。僕たちは全員でゆっくりと地上へ空中浮遊しながら降りて行った。


 地面に降り立つとジェイミーがアンジーに抱きついた。

「お姉さま!どうしたのですか?」

 そのすぐ後ろには、セシリーがニコニコして立っていた。


「翼さまがセシリーに会いに来たのですよ」

「え?セシリーに?え?まさか!」

 それを後ろで聞いていたセシリーは驚いた顔になり、両手で口を覆った。


「私に?翼さまが?」

「え?セシリーはお義兄さまのお嫁さん候補なのですか?」

「そうよ。候補ではなくて、千五百年前の私の妹の雨月なのよ」

「本当に?」


「えぇ、ジェイミーもそしてセシリーも驚いたでしょう?」

「そんな・・・驚いたも何も・・・」

「さぁ、話は月の都へ行ってゆっくりお話ししましょうか」

「え?これから?月の都へ行くの?」


「お母さまとセシリーのお母さまには、私から電話しておくわ」

「セシリー!あなた翼さまの・・・お嫁さんに・・・女神さまになるのですって!」

「私が?ほ、本当なのですか?」

「本当ですよ。これから詳しくお話ししますね。一緒に月の都まで来て頂けますか?」

 セシリーは明らかに戸惑っている。


「あぁ、いけない。まだ挨拶していませんでした。僕は、天照 翼です。初めまして」

「は、はい・・・あ、あの・・・初めてお目に掛かります。私は、セシリー オースティンと申します。翼さまにお会いできましたこと大変光栄に存じます」

 そう言って、セシリーはイギリスの貴族令嬢らしく美しいカーテシーで挨拶した。


 挨拶の後、セシリーは一度僕の顔を見ると真っ赤な顔になり、消え入りそうな小さな声で「ど、どうしましょう・・・」とつぶやいた。


 そう、雨月だ。もう間違いない。僕に対するこの態度は千五百年前の雨月そのものだった。


 僕は戸惑うセシリーの手を握り、空中浮遊でゆっくりと上昇して行った。それに続く様にアンジーはジェイミーの手を取って宙を飛んだ。


 蓮は生徒たちの頭上を微笑みながら飛び回っていたが、結衣に呼ばれて僕たちを追いかけた。


 生徒たちは皆、興奮していた。

「セシリー!女神さまだったのね!おめでとう!」

「今度、月の都へ招待してね!」

「結婚式には呼んでね!」

「あぁ、何て可愛い天使なの!私、あの天使と結婚したいわ!」

 一人だけ蓮に夢中になっている娘が居た。


「セシリー!学校はどうするのですか!」

 先生と思われる大人が声を上げた。

「先生、セシリーには卒業まで学校に通って頂きますからご安心ください」

「つ、翼さま!ありがとう御座います!」


「来週からは普通に学校へ通わせますので」

 アンジーも先生に声を掛けた。


 船の翼の上に乗ると、生徒たちに向かって手を振りながら船内へ入った。

「さぁ、セシリー、ジェイミー。これから瞬間移動で月の都へ飛ぶからね」

「瞬間移動・・・凄いわ!私たち月の都へ行けるのね?」

「そうね。ジェイミー・・・でも少し怖いわ」

「私がついているから大丈夫よ。私はいつでもセシリーを守るわ」

「ありがとう。ジェイミー」


 船は学校の上空を一度だけ旋回すると、次の瞬間消えてしまった。


「シュンッ!」

「さぁ、着いたよ。日本はもう夜なんだ。暗いけど窓から月の都が見えるよ。今から一周回ってから入るからね」

「うわぁ!これが本物なのね!島が空に浮かんでいるわ!」

「あぁ、凄い夜景ね。これが東京なのね・・・」


 外からの景色を見せてから地下の格納庫に瞬間移動して到着した。

「さぁ、到着したよ。まずは庭園に出てみようか」


「シュンッ!」

「うわぁ!何?一瞬でお庭へ出たわ!」

「何も感じなかったわ」

「そうね。セシリー。あ!見て、あれが低軌道エレベーターね?」

「凄いわ・・・」


 二人とも言葉を失い、暗闇の中、月夜に照らされ天まで伸びる構造物を眺めていた。

「ジェイミー、セシリー。お城はどうかしら?」

「あ。お姉さま。素敵なお城ですね。お姉さまはここに住んでいるのですね?」

「えぇ、そうよ」


「エディンバラのお城はどれも古いものばかりです。でもこのお城は美しいわ。ね?セシリー」

「はい。とっても素敵です」

「セシリーが気に入ってくれた様で良かったよ」


 その時、城からお母さんが出てきた。

「翼、お帰りなさい。その方が雨月なのね?」

「はい。お母さま。ジェイミーは知っているね。セシリー、こちらは僕のお母さまだよ」

「初めまして。翼の母の瑞希です」

「は、初めてお目に掛かります。私はセシリー オースティンで御座います」


「まぁ!素敵な挨拶ね。とても可愛らしいお嬢さんね」

「あ、あの・・・翼さまのお母さまなのですか?と、とてもお若くていらっしゃるのですね」

「そうね。若く見えるでしょう?でも、もう四十二歳よ」

「え?よ、四十二歳?と、とてもその様なお歳には・・・」


「セシリー、お母さまと僕、それに妻たちは皆、五百年の寿命なんだ」

「え?それでは、セシリーも女神になったら寿命が五百年になるのですか?」

「そうよ。そしてあのオービタルリングから神の力を注ぎ、地磁気を発生させて地球の環境を守り続けるのよ」

「それが私たちのお役目なの」


「では、私がそのお役目に就かない限り、地磁気は元に戻らず人々は死んで行ってしまうのですね?」

「そういうことね」

 セシリーはその話を聞いて真剣な表情になった。思い詰めなければ良いのだけど・・・


「さぁ、サロンでお茶でも飲みながらお話ししましょうか」

「そうですね。お義母さま」


 真顔になったセシリーを促して、少しだけ庭園を見てから城に入りサロンへ向かった。


 さぁ、これからどうやって説得しようか・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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