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13.人口激減

 三か月前。ビオラ王国からアマリアを連れて帰った翌日以降も嫁探しは続いていた。


 しかし、毎日各国の王城に出向き、集められた娘たちが居る部屋へ入った途端、「ここに雨月は居ない」そう言うアネモネの声が念話によって頭に響くことが当たり前の様になり、僕自身も候補者に会う前から期待しない様にしていることに気付いた。


「翼、疲れているの?」

 結衣が心配そうに僕の顔を覗き込んだ。

「え?疲れることなんてないさ。でも・・・」

「ずっと見つからないから気持ちが沈んでしまうのね」

「う、うん・・・そういう感じかな」


「でも、まだ十四か国終わったところでしょう?あと十五か国あるから」

「望、そうだね。地球の命運が懸かっているのだからね。頑張らないと・・・」

「翼は妻を沢山欲しいと思っている訳ではないから余計に辛いわね」

「新奈、それはそうだけど・・・でも、雨月は好きだよ」

「早く見つかって欲しいですね・・・雨月はどこに居るのかしら・・・」


 そして、十五日間はあっという間に過ぎ、神星での嫁探しは失敗に終わった。

二十九か国で延べ五百人近い候補に集まってもらったのだが、その中に雨月は居なかった。




 葉留が大学を卒業し、徹との結婚式を迎えた。結婚式は月の都で行うことになった。


 新婦側からは神星からお父さんとお母さま達が、地球では僕の家族全員が参列する。葉留は友達を呼んでいない。徹の妻が神の娘だという事実は極秘だ。どこから情報がれるか分からないからだ。


 新郎側もそれは同じで、徹の家族と首相の秘書など側近だけが出席する。ただ、たくみと美樹先輩の夫妻だけは呼んでいる。


 葉留も本当なら友達を呼んで華やかな結婚式にしたいのだろうけれど、政治家の妻になる決意は固く、その様な不満は一切口にしない。


 そう言えば、高校生の頃は音楽大学に進むつもりだったのに、徹と付き合う様になってからは方向転換し、徹と同じ東大の経済学部を選んだ。


 僕の妻たちの時と同じ、天照さまから贈られたアクセサリーを身に着けている。

美しく輝くティアラや宝石で、葉留の美しさは引き立てられた。


 葉留のその姿は、千五百年前の僕の妻たちと同じ姿だ。彼女たちと結婚式はしていない。ウエディングドレスを着せたら、こんな姿になったのだろうなと思ったら涙が出てきた。


「お兄さま。どうしたのですか?」

「いや、葉留の姿が璃月りづきたちと重なってしまって・・・」

「あぁ、私たちとは結婚式をしていないものね」

「そうだわ。葉留ちゃんって私たちの千五百年前と同じ姿ですものね」


「望、新奈、そうなんだ・・・」

「お兄さま、ハグしてください」

「う、うん」


 葉留は立ち上がり、僕に向き合った。僕は涙を拭って葉留に歩み寄り、一度顔を真直ぐに見つめてから抱きしめた。葉留は耳元で僕にしか聞こえない声で囁く様に言った。

「お父さま、私、幸せになります」


 そう、千五百年前、葉留は僕と羽月はづきの娘、夕月ゆづきなのだから。

「うん。葉留。徹のことだから心配はしていないよ。幸せにね」

「はい。お兄さま」




 参列者が三十人にも満たないので、小ホールで結婚式を行う。

全員が着席すると、葉留と徹が上座に立った。お父さんが二人の間に進み、皆に向かって挨拶した。


「皆さま、本日は娘の葉留と榊 徹君の結婚式に参列くださり、ありがとうございます」


「現在、地球は未曽有の危機に晒されており、この様な状況から華やかな式を執り行うことができず残念です。ですが、このふたりはその様なことで不平不満を言う様な者でもありません」


「せめて、私たちでこのふたりを暖かく見守り、幸せな結婚式にしようではありませんか」

 会場の皆が笑顔で拍手を贈った。


「では、ここに私の娘、葉留と榊 徹君の結婚を認めます」

「徹!おめでとう!」

「葉留ちゃん!おめでとう!」


「皆さま、ありがとう御座います!」

 徹と葉留が笑顔で声を合わせた。


「さぁ、乾杯しようか」

 メイドたちが皆のグラスにスパークリングワインを注いでいく。乾杯の挨拶は僕だ。


「葉留、徹、おめでとう!葉留は僕の唯一の妹。そして徹は親友です。そのふたりが今日、夫婦になること、とても嬉しく思います。ふたりならば、どんなことも前向きに笑顔で乗り越えて行ってくれると確信しています」


「葉留、愛しているよ。幸せになるのだよ。徹、葉留を幸せにしてやってくれ」

「はい。お兄さま」

「分かった。約束するよ」

 葉留は涙をこぼした。徹はそんな葉留にそっとハンカチを差し出し、手を握った。


「では、葉留と徹の未来に・・・乾杯!」

「乾杯!」

「キンッ!」


 音楽が流れだし、メイドたちが料理を運んできた。僕は妻たちの待つテーブルに戻った。

僕の妻たちは大泣きし、皆、涙を拭っていた。


「皆、どうしたんだい?」

「やっぱり・・・葉留ちゃんの姿は、自分たちと重ねて見てしまう様だわ」

「うん。そうか・・・そうだろうね」


 望が静かにそう言った。僕は千五百年前の妻たちの姿を思い出し、言葉を噛みしめる様に答えた。


 少しだけ感傷に浸った後はスパークリングワインを飲み、食事をしながら明るさを取り戻して行った。


 食事を終えるとダンスの時間だ。まずは葉留と徹が踊った。徹は更に練習を重ねた様で、とても上手に葉留をリードして踊っていた。


 葉留はとても幸せそうに終始、笑顔で徹と踊っていた。お父さんは九人の妻と、僕は六人の妻と踊った。


 ダンスが終わると大サロンへ移り、紅茶や珈琲を飲みながら歓談した。

「葉留は明日から榊家の実家へ移るのね?カレンはもう榊家のご家族へ紹介したの?」

「望お姉さま、紹介はまだです。カレン!」


「はい。葉留さま」

「あなたを榊家の皆さんへ紹介するわね。こちらへ」

「はい、かしこまりました」


「お義父さま、お義母さま。こちらが明日から私と一緒に榊家に入る、メイドの月城カレンです」

「月城カレンで御座います。どうぞよろしくお願いいたします」

「カレンさんだね。そうぞよろしく」

「よろしくお願いしますね」


「それで、カレンさんは何をしてくれるのですかな?」

「お義父さま、カレンは私と徹さんの身辺警護と身の回りの世話をしてくれます」

「身辺警護?女性なのに?」

「お義父さま、カレンは人間ではありません。アンドロイドですので、SPよりも優れた警護能力を持っています。更に料理、洗濯、掃除、育児補助など家事全般もこなせるのです」


「まぁ!素晴らしいわ!どう見ても人間にしか見えないのに・・・」

「えぇ、お義母さま、そうでないと連れて歩けませんから」

「今の日本で危険な目に遭うことはそうそうないとは思うけれどね。でも、備えておくことは大事だ」

「はい。お義父さま。おっしゃる通りです」


「何だか、天照さまのご息女にお義父さまと呼ばれるのは慣れないものだね」

「はい。葉留と呼んでくださって構いません」

「い、いや、葉留さんと呼ばせて頂きますよ」

「はい。ありがとう御座います」


「ところで、榊首相」

「はい。天照さま」

「世界の食糧事情と餓死者の推移は如何ですか?」


「はい。かんばしくありません。日本は食料供給が追い付きつつあり、最低限の食料供給はできています。勿論、基本的な穀類は全て配給制ですが。しかし、特に人口の多い国では、食料生産が追い付いていても供給方法が上手くいかずに地方都市で餓死者が出ていると聞きます」


「それは、どの辺の国ですか?」

「はい。中国、インド、インドネシア、パキスタン、ブラジルで死者が出ている様です」

「基本的に人口の多い国ですね」

「月夜見さま、今日はそのお話は・・・」

「あぁ、すまない。瑞希。そうだね。おめでたい日だというのに・・・申し訳ない」


「すみません。私が雨月を見つけられないばかりに・・・」

「翼の責任ではないよ。でも本当に難しいことなのだね」

「もう!雨月ったら、どこで何をしているのかしら!」

「アンジェラは千五百年前でも、いつも雨月を気に掛けていたものね」


「翼、力になれなくてごめんなさい」

「私も責任を感じるわ・・・雨月ったら・・・」

「アンジー、アナ。二人とも責任を感じる必要はないよ。どうしたら見つけられるか、一緒に考えて欲しいな」

「えぇ、勿論です!」

 アンジーとアナは声を揃えた。




 それから半年が経ち、僕は二十六歳になった。

世界の食糧事情は増々厳しくなっていた。大都市の地下街では、食糧難への各国政府や天照家の対応を非難する集会が開かれる様になっていた。


 僕は徹に呼び掛け、首相と話をする時間を取ってもらった。今日は徹の実家に招かれ、夕食をご馳走になることとなった。

『葉留、聞こえるかい?そろそろ伺っても良いかな?』

『えぇ、お兄さま。居間へお通ししたいので、今からそちらへ移動しますね』


『お兄さま、こちらへお越しください』

『うん。分かった。飛ぶよ』


「シュンッ!」

「葉留、久しぶり。元気かい?カレンも」

「はい。お兄さま」

「翼さま。ご無沙汰しております」


「お兄さまは大丈夫なのですか?」

「う、うん。まぁ、何とかね・・・」


「おぉ!翼!よく来たな」

「やぁ、徹。お邪魔するよ」

 徹はリラックスした表情で努めて明るく接してくれた。


「翼さま、お食事の準備が整うまで、こちらでお酒をご用意しております」

「あぁ、カレン。ありがとう」

 居間のソファに三人で座り、首相の帰りを待ちながらビールを飲んだ。


「徹、日本の立場は悪くなっていたりしないかい?」

「それは表立っては無いな。でも陰では色々言う者は居るさ。それはどこでも同じだろ?」

「うん。そういうものだと思っているよ」

「お兄さまは、何を気にしているの?」


「結果として、神の導きによってこの状況となっている。そう思われるのは仕方がない。それは僕の考えの甘さの結果でもあるからね」

「お兄さま。全てを見通されているのは始祖の天照さまだけよ。お父さまやお兄さまは違うわ。責任はないのよ」


「そうだよ。この状況が翼や神のせいだと思っている人間なんて、ほんの一握りだ。気にすることなんてないさ」


 その時、カレンが一歩前に出て言った。

「榊さまがお帰りになられます」

「ガチャ!」

 かすかに玄関の扉が開く音がした。カレンは外の監視カメラとリンクしているから榊首相の帰宅を知らせてくれた。


 榊首相は自分の部屋へ行く前に居間へ顔を出してくれた。

「やぁ、翼君。いらっしゃい」

「首相、お邪魔しています」


「皆さま、ご夕食の準備が整いました。食堂の方へどうぞ」

「ありがとう、カレン」

「まぁ!翼さま。ようこそお越しくださいました」

「お母さま。今夜は夕食にお招き頂き、ありがとう御座います」


「今夜は贔屓ひいきにしている料亭から、板前さんに出張して頂いたの。だから私は何もしていないのよ」

「ふふっ、お義母さま。それは言わなくても良いのですよ」

「あら。でも聞かれたら正直に答えてしまうから・・・」

「母さん、そんなこと見栄を張ることはないんだから、正直に言って正解だよ」


 他愛もない会話をしていると、首相が準備を整えて食堂へやって来た。

「お待たせしましたね。さぁ、頂きましょうか」

「今日は懐石料理にしたのだね」

「えぇ、特別なお客さまですからね」

「そんなお気遣いは必要ないのですが・・・ありがとう御座います」


「さぁ、まずは乾杯だ。日本酒で大丈夫かな?」

「はい。頂きます」

「さぁ、葉留さんも」

「お義父さま、私がお酌しますのに・・・」


「いつもしてくれているではないですか。今日はお兄さまが来ているのですから、葉留さんもリラックスして過ごしてください」

「お気遣い、ありがとう御座います」


「では、我が家での初めての会食に、乾杯!」

「乾杯!」

 そして、日本酒を飲みながら会食は進んだ。


「それで、今夜はどんなお話ですかな?」

「えぇ、世界の食料危機で日本の立場は悪くなってはいないでしょうか?」

「そうですね。国連の場でも各国の首脳からも何とかならないのかと問い合わせはありますね」

「それは、神に対する要求・・・ということですね?」


「どの国も正面切ってそれを言って来る訳ではないのです。私もその度に言っていますが、地磁気の逆転現象は神の裁きでも御業みわざでもありません。神の導きは正しいもので、運悪くタイミングが重なっただけなのです」


「更にこの様な不測の事態に備えて来なかった、各国の首脳陣の責任でもあるのですから」

「そこです。神である我々は、環境改善を声高に叫び、フードロスを無くす様、導きました。勿論、このタイミングでこうなるとは思いもしませんでしたが・・・でもきっかけは神が作ったのです。その責任を感じずにはいられません」


「ですが、最悪の事態に陥っていないのも翼君が、我々に与えてくれたもののお陰ではありませんか」

「そうだよ。翼が、オービタルリングや水を使わない洗濯機、大気を汚さない冷蔵庫やエアコンを作ってくれたから、人類はこの事態でも何とかやって行けているんだ」

「えぇ、それ以前の太陽光発電だったら、ずっと曇り空の今では大変なことになっていたわね」


「それはそうなのですけど・・・僕は宇宙観光船をノアの箱舟としても使えると豪語してしまった。でもそれは叶わぬ夢でした。神星へ行っても彼らの食料を奪うことになるだけで、分け与えられるだけの食料は確保できないんだ」


「あぁ、そんなこと言っていたっけな・・・でもそれを覚えている人なんて居るのかな?」

「それよりも人間はいざとなったら、地球を離れたくなくなるのではないかしら?」

「お義母さま、そうですよね。お姉さま達の歌の動画で、神星の美しい自然は一時大変な話題となったけど、地球だって美しい星なのです。ここを捨てられる人は居ないと思うわ」


「葉留の言う通りだよ、翼。気にし過ぎだ。それに神星から穀物を沢山送ってくれているじゃないか!どれだけ助かっていることか。皆、神や翼には感謝している。そんなことで悩んでいる暇があるなら、早く残りの嫁を探し出してくれよ」

「こら、徹!それだって簡単に言えることではないだろう」


「あ、まぁ、そうだったな。すまない。何十億も居る女性の中から、たった一人を見つけ出すのだからな」

「うん。正直、参っているよ・・・」

 それからは徹の家族と葉留に励まされ、何とか気を取り直した。


「そうですね。今の僕にできることは、早く雨月を見つけ出すことですね」

「お兄さま、もう少し、気を楽に持ってください。きっともうすぐ見つかりますよ」

「そうだね。そうだと良いね。頑張るよ」

 そして会食を終えると僕は月の都へ帰った。




 地磁気の逆転現象が起こってから、地球の死者数は三十億人以上になっていた。高齢化による死者数増加も人口減少に拍車を掛けており、2047年の今日こんにちでは、世界人口は五十億人台までその数を減らしていた。


 それでも人口地磁気発生装置のお陰で、地表の放射線量は何とか人が活動できる範囲には保たれていた。でも、万が一に備えて、地上での農作物の生産は控え、地下施設を拡充させた。今では様々な商業施設が地下に建設され、活動の中心となっていた。


 そんな中で良い知らせもあった。巧と美樹先輩が学生時代に研究し開発した二酸化炭素の分解装置が天羽化学で完成したのだ。これから五年以内に全世界へ配置され、稼働を開始するとのことだ。




 今日はお父さんが地球へ来る日だ。最近ではアネモネもその日程に合わせて一緒に来て、一緒に帰る様になっていた。


「お父さま、そろそろ白旗を上げる頃合いかと思うのですが・・・」

「白旗?あぁ、天照さまに降参して雨月の居場所を教えてもらうということかい?」

「はい。そうです。もう地球の人口は五十億人にまで減ってきているのです」

「地球の人々は、我々の責任を追及し始めているのかな?」


「いいえ、表立ってそれを言う者は居りません。でも・・・」

「翼が耐えられないのだね?」

「すみません・・・」

「それが普通の反応だと思うよ。翼は良く耐えて来たと思う。私なら耐えられないと思うな」


「分かった。天照さまにお伺いを立ててみよう」

『天照さま!聞こえますか?』

『月夜見か?』

『お願いしたいことがあるのです』

『ふむ・・・』


「バサバサバサッ!」

 その時、サロンの窓の外に大きく白いフクロウが羽ばたいていた。

「あ!天照さまかな?」

 エリーが窓に駆け寄り、サロンの窓を開けた。


「バサッ!」

 白いフクロウはそのままサロンに入ると誰も座っていないソファの背もたれに留まった。


「天照さま。来てくださったのですか!」

「翼、久しぶりですね。随分と憔悴しょうすいしている様に見えますが?」

「はい。地球の人口が五十億人にまで減ってしまったのです。雨月を見つける手段も分からず、人が死んで行くのを私はただ指をくわえて見ているだけなのです」


「天照さま、どうか翼をお助けください!」

 お母さんは僕を助けるため、必死の形相で天照さまへ迫った。妻たちも全員立ち上がり、両手を合わせて握り、懇願した。


「ひとつお話ししておかなければなりませんね」

「え?何でしょうか?」

「地球の人口は二十億人まで減るでしょう。いえ、そうならなければなりません」

「に、二十億人?そ、それでは、現状の更に半分以下ではありませんか!」


「落ち着くのです。まずは座りなさい」

 妻たちは顔面蒼白となり、へたり込む様にソファへ腰を下ろした。


「翼、地磁気の変化がなくとも、放っておけばそうなったのです」

「そ、それは何故、そうなるのでしょう?」

「高齢化ですよ。日本や中国がその象徴的な例でしょう」

「た、確かに、日本では食料は不足していませんが、人口はどんどん減っています」

「そう、それは日本だけではないのです。日本の高度成長期と同じ様にどの国でも一様に成長期はあり、その時に継続して出生率が上がりました」


「しかし、それが落ち着いた時、出生率は落ち、高齢者が順に亡くなっていくのです。それは自然なことでしょう」

「でも、今は地磁気が無くなったことによる弊害もあるのです」


「翼、千五百年前の世界で二度目に翼が来た時、私は何と言いましたか?」

「そ、それは・・・地球の人口は多過ぎる・・・と」

「そうです。地球で生きられる人間の数は二十億が限界です。地球の自然はその程度しかまかなえないのですよ」

「では、地球の人口が二十億人になるまで、雨月は見つからないのですか?」


「いえ、それとこれとは話が別です。そうですね・・・翼がこれ以上、耐えられないと言うのならヒントをあげましょう」

「ヒント?雨月を見つけるヒントですか?」

「えぇ、聞きたいですか?」

「それはもう!勿論、聞きたいです!教えてください!」


「分かりました。翼のこれまでの功労に報いましょう」

「ありがとう御座います!」


「そうですね。千五百年前の記憶を取り戻した雨月は、ストロベリーブロンドの髪になります」

「なります?え?今の雨月はストロベリーブロンドの髪色ではないのですか?」

「誰か、雨月の今の髪色がそうだと言ったのですか?」

「う、うぐ・・・そ、それは確かに・・・言っていません。雨月のメイドの桃の髪色と同じだと推測したに過ぎません」


「そうですね。結果的にはそのアンドロイドと同じ髪色になるでしょう」

「では、今の髪色はどんな色をしているのですか?」

「ヒントはそこまでです。後は自分で考えなさい」

「え?教えてくれないのですか?あ。でも地球に普通に居て、ストロベリーブロンドに変色する可能性と言えば・・・」


「赤毛じゃないかしら?」

「そうね。赤毛は多いけど、ストロベリーブロンドはほとんど見ないわ。それに赤毛が薄くなればストロベリーブロンドになるのかも?」

月花つきか、良い推理ですね。では、私はこれで・・・」

「シュンッ!」


「あ!天照さま!」

「行ってしまわれた・・・」

「でも、赤毛が正解なのでは?」

「赤毛か・・・では、嫁の募集サイトの応募条件を赤毛に変更して世界へ発信しよう」


「ところで、翼。それが分かったのは良いことだけど・・・さっきの天照さまの話」

「あ!お父さま。そっちの方が重要ですね!地球の人口が二十億人になるって、本当でしょうか?」

「なると言うより、そうならなければならないと。そう言っていた様に聞こえたけどね」

「はい。そうですね」


「二十億人と言ったら、二十世紀初頭・・・今から丁度百年前の頃と同じですね」

「その頃は自然の方が多かったのは間違いないだろうね。やはり、産業革命後に化石燃料を多く使う様になった頃から爆発的に人口は増えたのだね」

「人間は間違ったということでしょうか?」


「そうなのかも知れないし、そういう増減を繰り返すものなのかも知れない」

「どちらにしても人口は減り続けるということか・・・」

「でも、神が介入してそうなる訳ではないのですよね?」

「瑞希。そうだね。天照さまはそうは言っていなかったからね」


「翼、それならば、今は私たちにできることを優先しましょう。雨月を探すのです」

「そうですね。お母さま。すぐにサイトの変更をしましょう」




 そして、雨月の募集要項を変更したところ、また応募が殺到した。カナダ、アメリカ、ロシア、イギリスと北欧からの応募がほとんどだ。


「また、大勢の応募者の中から探すのだね」

「闇雲に探すよりは良いのではありませんか?」

「それは・・・そうだね。今度こそ見つかると良いのだけど」

「きっと見つかりますよ!」


 アネモネにお願いして三千人近い応募者を一緒に見定めていくこととなった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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