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12.月の都の使用人

 僕はアマリアの兄、カルロを連れて月の都へと帰った。


「シュンッ!」


 庭園に出現すると、アマリアとダーリャ、それに妻たちとお母さんが待っていた。

「ただいま」

「お帰りなさい」


「アマリア、お兄さんを連れて来たよ」

「あ、あぁ・・・兄さん!」

「え?ア、アマリアなのか?」

「えぇ、兄さん。アマリアです」

「何て綺麗になったんだ・・・見違えたよ!」


「全て、翼さまのお陰です」

「あぁ、アマリア・・・元気で良かった!」

「兄さんも!」

「翼さま、どれ程のお礼を申し上げれば良いのか・・・」


 あれ?抱き合って泣いたりしないのだな・・・あ!そうか、アマリアが小さい時に分かれているから思い出が少ないのかな?


「カルロ、あなたもアマリアも幸せになる権利があるのです。ここで幸せを掴んでください」

「本当にありがとう御座います」

「カルロ、今、この月の都にはアマリアとダーリャしか使用人は居ないんだ。こちらが最初の使用人のダーリャです」


「ダーリャです。初めまして」

「兄さん、ダーリャさんは私のお姉さんになってくれたの。ここでのこと全部教えてくれたのよ」

「初めまして。カルロです。アマリアがお世話になり、ありがとう御座います」

「とんでもないです」


「カルロは今、三十三歳でしたか?」

「はい。私は三十三歳です」

「そうか、ダーリャは?」

「私は三十二歳です」

「そうか、歳も近いのですね。アマリア、お兄さんとお姉さんができて良かったね」

「はい。嬉しいです」


 カルロは身長百八十センチメートル程、木材商で働いていただけあって無駄な肉がなく胸板も厚く、がっちりとした身体つきだ。髪色は赤毛で緑の瞳をしていて、鼻筋の通ったイケメンだ。


 ダーリャがカルロを見つめる目が暖かい。これは期待が持てるだろうか・・・


 無粋に心を読んだりせず、成り行きに任せるのが良いのだろう。

「カルロ、ダーリャに部屋の案内を受けたら、お風呂に入ってください。ダーリャ、お風呂の入り方もアマリアと一緒に教えてあげて」


「え?私がお風呂の入り方を?」

「いや、服は着たままで使い方を教えるだけですよ」

「あ!そ、そうですね・・・私としたことが・・・」


 ダーリャは真っ赤な顔になってしまった。その顔を見て、アマリアが嬉しそうに微笑んだ。

「カルロ、服のサイズはいくつか用意してあるんだ。ダーリャと一緒に合うものを選んでくれるかな?」

「何から何まで全てご用意頂けるのですか・・・翼さま、ありがとう御座います。生涯、お仕えいたします」

「そんなにかしこまらなくても良いですよ。まずはアマリアと一緒にここの暮らしに慣れることだけを考えてくれたら」


 後のことはダーリャに全て任せて僕たちは退散した。

ダーリャはアマリアと共にカルロを寮に連れて行くと、カルロの部屋へ案内した。


「こちらがカルロさんの部屋です」

「こんなに立派な部屋が私の部屋なのですか?アマリアの部屋は?」

「独身男性の個室は二階と三階に、女性は六階と七階なのです。四階と五階は夫婦や家族が一緒に住む部屋となっています」

「夫婦?ここでは夫婦でも働けるのですか?」


「翼さまが、使用人同士で結婚した場合を考えてくださっているのです」

「結婚・・・」

「あ。私・・・何を・・・」

 そう言って二人は見つめ合い、黙ってしまった。


「あら、兄さんとお姉さまって、お似合いの二人なのかしら?」

「こ、こら!アマリア!ダーリャさまに失礼だろう!」

 ダーリャは真っ赤な顔になってうつむいてしまった。


「あ。もしかして・・・」

「あ!その・・・アマリア、違うの・・・ちょっと驚いてしまって・・・」

「でも、私は大好きな二人が結婚してくれたら嬉しいわ!」

「お、おい!アマリア!」

 今度はカルロが真っ赤な顔になった。


「あ、あの!服のサイズを測りましょうか」

「あ!そうですね・・・お願いします」


 メジャーを持つダーリャの手は震えていた。何とかカルロの服のサイズを測り終えると、倉庫に用意してあった男性用の服から、サイズの合うものを一通り引っ張り出し、アマリアと一緒に山の様に抱えてカルロの部屋へ運び込んだ。


「こちらが翼さまがご用意くださった男性用の服です」

「え?これ全部が私の服なのですか?靴もこんなに種類があるのですか?」

「兄さん、私の衣装なんてもっと沢山あるのよ?あとね、お姉さまが作る食事やケーキがとっても美味しいの!」

「ダーリャさまが食事も作ってくださるのですか?」


「この寮のことは使用人たちで全て管理するのです。まだ料理人やこの館を管理する人間が居ないので私が全てやっています。でもアマリアが来てくれたから楽になったのですよ」

「それならば私にできることは何でもお手伝いします」


「えぇ、是非、お願いします。あと、私にさまを付けて呼ぶことはありません。ダーリャと呼んでくだされば良いのです」

「え、それは・・・」


「まぁ!兄さんがまた赤くなったわ!」

「アマリア!からかうんじゃない!」

「はーい。ごめんなさい!」


「ふふっ、それではお風呂へ行きましょうか。部屋着だけ持って行きましょう」

「え?それが部屋着なのですか?そんなに立派な服が?」

「兄さん、こちらの世界は向こうとは全然違うのよ」


「そうですね。少しずつ慣れて行けば良いと思います。カルロさん」

「ダーリャ、私のこともカルロで良いですから・・・」

「わ、分かりました・・・カルロ」


 男性用の風呂に着くと、脱衣所の説明をしてから三人で中に入り、アマリアが事細かに説明を始めた。

「うーん。アマリア、ちょっと良く分からないな・・・そのシャンプーって奴は汚れを落とすのだね?」


「そうね、洗っているところを見せる訳にはいかないし・・・」

「ここに男性は翼さましか居ませんからね・・・あ!そうだ。お風呂をテーマにした映画がありましたね。それを観れば分かるのではないかしら!」


「えいが?それは何ですか?」

「では、こちらへついて来てください」

 ダーリャは二人を映画鑑賞室に連れて来た。席に座らせ、リモコンで観たい映画を検索して再生を始めた。


「な、何だこりゃあ!」

「す、凄いです!これ、どうなっているのですか?さっきまでそこには壁しかなかったのに!」

「そこに人が居るのですか?」

「うーん、どう説明すれば良いのかしら?携帯カメラで写真を撮って見せてからでないと説明は無理ね。まぁ、仕方がないからこのまま観ていてくださいますか?」


「はい。観ていれば良いのですね」

 ダーリャは大浴場のシーンに早送りし、男性たちが身体や髪を洗っているシーンを見せながら説明していった。男の裸をアマリアが真っ赤な顔をして食い入る様に観ていたのが印象的だった。


「カルロ、どうかしら?洗い方、分かりましたか?」

「はい、さっき言っていたことが分かりました。これで風呂に入れます」

「良かったわ。では、この世界のことを知ってもらうのに丁度良いから時間のある時は映画を観ましょう」

「はい。お姉さま。お願いします」

「ダーリャ、色々と教えてください」


 カルロはそう言って大浴場へ向かった。

「アマリア、カルロが風呂上りに飲む冷たい飲み物を用意しましょうか」

「はい!お姉さま」

 二人は厨房へ行くと、レモンを切って絞った。ドリンクサーバーに水とレモン汁、それにハチミツを入れてアイスレモネードを作った。


「アマリア、カルロはケーキとか甘いものはお好きかしら?」

「それは・・・私が小さな時に別れましたので分かりません」

「そうだったわね。ごめんなさい。後でカルロに聞いてみましょう」

「えぇ、好きだと良いな。お姉さまのケーキは凄く美味しいから!」

「まぁ!アマリア、ありがとう。あなたにも作り方を教えるわね」


「私も作れる様になるのですか?」

「作ってみたい?」

「はい!作ってみたいです!」

「分かったわ、今度から一緒に作りましょう」

「嬉しいです・・・」

 アマリアの赤い瞳から涙がこぼれた。


「まぁ!アマリア、どうしたの?」

「お姉さまが本当に優しくて・・・私、お母さんのこと、ほとんど覚えていなくて・・・でも、お母さんってこんな風に優しいのかなって・・・」

「そうね・・・私はアマリアのお母さんの代わりでもあるかも知れないわね。アマリア、私をお母さんみたいって思っても良いのよ」


「本当ですか?」

「えぇ・・・」

 ダーリャはアマリアを抱きしめた。アマリアはダーリャの胸に顔を埋めて泣いた。


 そこへカルロが風呂から帰って来た。カルロは二人が抱き合い、アマリアが泣いているのを見てぎょっとした。


「ア、アマリア・・・どうしたんだい?」

「あ!兄さん。ううん。何でもないの。お姉さまが余りにも優しくしてくださるから、お母さんを思い出してしまって・・・」

「そ、そうか・・・ダーリャ、本当にありがとう」

「いいえ、私は何もしていません」


「さぁ、カルロ、お風呂に入って沢山汗をかいたでしょう?冷たい飲み物をアマリアと用意したの。一緒に飲みましょう」

「あぁ、それは嬉しいですね」


 三人には広過ぎるサロンの一角に座ると、アイスレモネードとケーキを振る舞った。

「カルロ、甘いものは食べられますか?」

「あまり、食べたことはないのですが、遠い昔に一度だけ、お祭りでご主人さまから甘いお菓子を買って頂いたのを覚えていますね」

「では、食べられそうですね。どうぞ」


「兄さん、このケーキ凄く美味しいのよ。そのレモネードのレモンは私が絞ったのよ!」

「そうか、アマリア。ありがとう。ダーリャも本当にありがとう」

 そう言ってケーキを一口食べると、カルロも涙をこぼした。


「兄さん、泣くほど美味しいのね?」

「あぁ、美味しいな・・・こんなに美味しいものを食べたのは初めてだよ・・・」

「そうね。兄さん。私たちにとってここは、夢の世界なのよ・・・」

 二人の会話を聞いて、ダーリャも大粒の涙を流した。


「あ、お姉さま!」

 アマリアはダーリャに抱きつき背中をさすった。

「お二人はどれ程、過酷な人生を過ごして来られたのでしょう・・・」


「ダーリャ、向こうの世界では平民に生まれたら、生活が苦しいのは当たり前なのです。子供が口減らしのために奴隷として売られることも珍しいことではありません」

「そうなのですか・・・」


「はい。でも私などは、ご主人さまに目を掛けて頂いて不自由なく暮らすことができていましたから・・・」

「では、あまりつらいことはなかったのですか?」

「はい。仕事ができる様になるまでは大変でしたが、それは奴隷でなくとも同じですから」

「その通りですね」


「アマリアはどうだったんだい?」

「私は・・・」

 アマリアはうつむいてしまった。


「カルロ。今は聞かないであげて」

「そ、そんな・・・まさか?」

 ダーリャはカルロの目を見て、首を横に振った。


「あ、あぁ・・・そうか。うん。分かった。それにしてもこのケーキは美味しいね」

「さぁ、カルロ。レモネードをもう一杯召し上がれ」

「ありがとう御座います。この飲み物も本当に美味しい!」

「カルロ。あなたはどんな仕事ができるのですか?」


「私は木材商の職人でしたから、木を切り、皮をはいで木材にすることと、新しい木を育てることが仕事でした」

「まぁ!林業ね。それならば山の管理ができるのですか?」

「えぇ、できます」

「良かった。山や森、川と池の管理をする人が必要だったのです」


「それなら私にお任せください」

「必要な道具は揃っていると思うけど、足りなかったら言ってください。翼さまに相談して取り寄せて頂きますので」

「道具はどこにあるのですか?」

「この裏側に倉庫があるのです。道具類は全てそこに保管されていますよ」


「後で見せて頂けますか?」

「えぇ、喜んで」

 夕食まで時間があったので三人で倉庫を見に行った。


「この辺が林業の道具なのではないかと思うのですが」

「あぁ、のこぎりの種類が豊富ですね。見たことがない形のものもありますね」

「サロンに本棚があるのですが、専門の知識が書かれた本が沢山ありますので、道具の使い方も記されているかも知れません」

「全て新品の道具です。どれも素晴らしいですね」


「カルロ、庭園や山を案内しましょうか?」

「はい。お願いできますか?」

「お姉さま、私は夕飯の下ごしらえをしていますね」

「あら、アマリアも一緒に行かないの?」


「私は夕食の下ごしらえをしています」

「それは後で一緒にやりましょうよ」

「ううん。いつもお姉さまに準備してもらっているでしょう?でも今日は、兄さんが初めてここで食事をするのですから、私が準備したいのです」


「あぁ、そうね。アマリアが張り切っているのならお願いしようかしら。でも三人分だから、いつもより多いのよ。大丈夫?」

「はい。お姉さま。できます!」

「では、お願いするわね」


 ダーリャとカルロは二人で庭園を歩き、山へ向かった。

「ダーリャ・・・アマリアの今までの暮らしのことなのだけど・・・」

「カルロ、落ち着いて聞いてね。アマリアのご主人は、使用人の食事を朝食だけしか与えていなかったの。それでアマリアは栄養失調になっていてね。翼さまが見るに見兼ねてここへ連れていらっしゃったの。来た時には骨と皮だけの身体だったわ」


「そ、そんな・・・酷い。酷過ぎる・・・」

 カルロは涙を流しながら悔しそうに口を真一文字に結んだ。

「翼さまの兄であるビオラ王国の王子殿下が、その主人に罰を与えたそうよ。今では使用人の扱いが良くなっていると聞きました」


「それで・・・アマリアの今の具合はどうなのですか?」

「安心して。今はとても元気になっているわ。ここに来た時は生理もなかったのだけど」

「あの・・・せいりって何でしょうか?」


「あぁ、それは女性が赤ちゃんを産む準備のことです。普通は遅くても十三歳から十五歳位までには準備ができて、赤ちゃんを産める身体になるのだけど、アマリアは二十三歳なのに栄養が足りてなくてそれができていなかったの」

「だ、大丈夫なのですか?」


「えぇ、ここに来てから毎日、栄養価の高い食事を摂ったから、一週間前に初めてその生理が来たのよ。もうすっかり元気になっているわ」

「そうですか!ありがとう御座います!何てお礼を言ったら良いのか・・・」

「カルロ、総ては翼さまのお考えよ。アマリアを救ったのは翼さまなの」

「ありがたいことです。私は生涯、あのお方にお仕えする所存です」

「それは私もよ、カルロ。一緒に尽くしていきましょう」


「一緒に・・・」

 カルロの熱い視線がダーリャに突き刺さった。

「あ!そ、その、一緒にって言ったのは、その・・・ここで暮らす使用人は皆、翼さまのご家族に仕える者だからです」

「そ、そうですよね・・・すみません」

「良いのです。一緒に頑張りましょう」

「はい!」


「それにしても美しい景色ですね。あの大きな柱はどこまで続いているのでしょう?」

「あれは宇宙・・・空の彼方まで続いていますよ」

「何のためにあれはあるのですか?」

「あの中を通って空へ昇れるのですよ。そこから他の星へ行くこともできるのです」


「凄いのですね。私には良く分かりませんが・・・」

「これからこの星のこともお教えしますよ」

「はい。お願いします」


 一通りの案内を終えた二人は寮に戻るとアマリアの居る厨房へ入った。

「アマリア、ただいま」

「あ、お姉さま、兄さん。お帰りなさい」

「アマリア、準備は進んでいるかしら?」

「お姉さま、確認してください」


 野菜や肉を切り、シチューの下地となるスープの準備も終わっていた。


「まぁ!とても上手にできているわね。アマリア。凄いわ」

「アマリア、もうそんなことができるんだね」

「兄さん、私、もう二十三歳なのよ?遅いくらいだわ」

「あぁ、そうか。二十三歳か。そうだね。でもできることは料理だけじゃないだろう?」


「えぇ、勿論、掃除や洗濯、庭の手入れだってできるわ」

「うん。よく一人で頑張って来たね」

「えぇ、兄さん。そして今までの苦労がここで報われたの」

「うん。そうだね。本当に良かった」


 それから、ダーリャとアマリアは二人で料理を完成させ、三人で夕食を食べた。


「カルロ。さっき翼さまが、ワインを届けてくださったの。今日は兄弟の再会を祝うと良いって」

「え?お酒を?私は飲んだことがないんだ」

「あら?そうなの?アマリアも?」

「はい。私もお酒を飲んだことはありません」

「大丈夫かしら?それでは少しだけにしておきましょうか」


 料理を並べ、グラスにワインを注いだ。

「それでは、アマリアとカルロの再会を祝って、乾杯!」

「カンパイ!」


 三人は乾杯し、グラスを合わせるとワインを一口飲んだ。

「これがワイン!お酒なのですね!美味しいです!」

「うん。美味しい。でも喉がカーッと熱くなる感じがするね」

「飲み続けると今度は頭がボーっとして来ますよ」

「それは危険なのかな?」


「人によって、お酒に対する強さが違うの。少しのお酒で立っていられなくなってしまう人が居れば、いくら飲んでも平気な人も居るのよ」

「お姉さまはどうなの?」

「そうね。強い方だと思うわ」

「お酒が好きなのね?」


「そうね。一緒に飲む人次第かしらね。一人では飲まないから」

「好きな人と一緒に飲みたいのね?」

「うーん。そうかしらね」

「兄さん、お酒に弱かったら駄目よ」


「え?そんなの飲んでみないと分からないよ」

「そうね。カルロの身体の大きさなら、一杯飲んでみて顔が赤くならない様なら多く飲めるのではないかしら?」

「では、まずは一杯飲んでみよう」

 そう言って、カルロは一気に飲み干してしまった。


「あら。もう飲んでしまったの?少し食べてからにして欲しかったわね。さぁ、食べて」

「今日は牛肉の煮込みシチューと野菜の炒め物、それとパンよ」

「こんな豪華な食事は初めてだよ。こんな食事を毎日食べられるのですか?」

「えぇ、食材は神星から沢山送られてくるの。いっぱい食べてね」


「あぁ、美味しい!アマリアも一緒に作ったのだよね。本当に美味しいよ」

「兄さん、良かったわ。沢山食べてね」

「これからは四人分作ると良いわね」

「四人分?あとひとり誰か居るのですか?」


「カルロは身体が大きいのだし、力仕事をするのですから、二人分食べなければ駄目ですよ」

「え?そんなに食べても良いのですか?」

「えぇ、どんどんお代わりしてくださいね」

「ありがとう御座います」


「お酒はどうかしら?一杯飲んでみて大丈夫そうですか?」

「はい。何ともありません」

「それなら、もう一杯飲んでください」

 ダーリャはカルロのグラスにワインを注いだ。


「ダーリャも飲んでください」

 今度はカルロがダーリャのグラスに注いだ。

「私ももっと飲みたいわ!」

「アマリアも大丈夫そうね。でもアマリアはまだ、身体が成長し切っていないから、あと一杯だけにしておきましょうね」

「はい。お姉さま」


「アマリアはダーリャの言うことなら何でも素直に聞くのだね」

「えぇ、だって、お姉さまが大好きなのですもの!」

「ふふっ、そうか。アマリア。本当に良かった・・・」


 カルロはしみじみと、まるで自分に言って聞かせる様にそう言うと、ワイングラス越しにダーリャを見てからワインを飲み干した。




 それから二週間程した頃から、毎日の様に新しい使用人が入り出した。

皆、地球の住人だ。声を掛けていた求人に応募して来たのだ。当然、信用できる人にお願いしたのだから、紹介されたからには信じて採用するのみだ。


 ただし、僕とお母さん、葉留や妻たちと面接はしっかりと行った。僕とお母さんが質問をし、他の皆が一斉に心を読むのだ。帰宅させた後も意識に入り込み、家族や友人との会話を見聞きして問題がないか見定めた。


 人種も国籍も様々な人が応募して来たが、皆、日本語の話せる人だった。まぁ、お父さんが初めて地球に降臨してからというもの、日本ブームが起きていて日本語を学ぶ人も爆発的に増えていたから何も不思議ではないけれど。


 年齢も十八歳から上は三十歳位と若い独身者ばかりだ。全てこちらのお願いした通りに探してくれた様だ。


 仕事の経歴も和食、中華、フレンチ、イタリアンの料理人、パティシエ、パン職人、掃除の専門家、庭師、農業研究者など、必要な人材が揃っていた。


 そして新たに男性が十四名、女性が十三名入った。これで男女が丁度、十五名ずつ三十人が使用人となった。


 ダーリャとカルロ、それにアマリアは新しい使用人に月の都を案内し、仕事の割り振りをし、仕事を教えるので大忙しとなった。


 初代の使用人の責任者はダーリャとなり、寮の管理全般を担当した。年齢はカルロが一番上だが、地球人ではないので、ダーリャが責任者となったのだ。アマリアは寮の掃除と洗濯、そして料理補助の担当となった。


 それから一か月もすると、皆仕事に慣れてきてきちんと仕事が回る様になった。

ダーリャも余裕ができてきて落ち着いて皆の世話をし、新しいパティシエとアマリアと共にケーキ作りをする時間も取れる様になってきた。


 カルロは、あと三人と一緒に山と森、川と池の管理を担当した。カルロは熟練した職人だが、地球式の道具の使い方が分からなかった。そこを若い職人が教え、お互いに補い合って良いチームとなった。


 アマリアが地球に来てから三か月が経ち、月の都は落ち着いた。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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