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11.奴隷のアマリア

 僕は奴隷のアマリアを放っておくことができず、使用人にスカウトしてしまった。


 アマリアは突然のことに酷く驚いた表情で只々、真直ぐに僕を見つめている。


「わ、私が・・・か、神さまに・・・お、お仕え・・・するのですか?」

「えぇ、そうですよ。アマリアは今、どんな仕事をしているのですか?」

「は、はい。掃除、洗濯と厨房の洗い物、そ、それと庭の手入れもします」


「そうか、何でもできるのだね。それならすぐに役に立つと思います。来てくれたら美味しい食事が三食しっかりと食べられるし、さっき差し上げた服を着ることもできます。お休みの日もあって、自由な時間には何をしても良いのです。如何ですか?」


「わ、私が行っても良いのですか?あ!で、でも・・・私、ご主人さまにお金を・・・返さないといけません」

「お金なら私が支払うから大丈夫。それに私のところに来たらもう、アマリアは奴隷ではなくなるんだ」


「ほ、本当・・・ですか?」

「うん。本当だよ。どうかな?」

「ほ、本当なら・・・行きたいです」

「では、決まりですね」


蒼羽あおば兄さま。あとはお任せしてもよろしいでしょうか?」

「勿論だよ。外ならぬ翼の頼みなのだからね」

「アマリア、あなたの他に奴隷となっている兄弟は居ますか?」

 お母さんがアマリアに聞いた。

「あ、あの・・・兄が居ます。奴隷で売られました」


「今、どこに居るか分かりますか?」

「た、確か・・・ビアンキ木材店のご主人に・・・か、買われたまま・・・だと思います」

「アマリア、お兄さんの名前は?今何歳か分かるかな?」


「カ、カルロです。わ、私とカルロ兄さんは・・・十歳離れていましたから」

「今、三十三歳か。当然、結婚は・・・」

「奴隷は結婚などできません」

「そうか、分かったよ」


「翼、一緒に連れて行きたいのだね?」

「えぇ、できれば」

「え?カ、カルロ兄さんも・・・い、一緒に行けるのですか?」

「そうなったら嬉しいかい?」

「はい!」


 アマリアは元気良く返事をし、笑顔となった。良かった。まだ笑顔になるだけの余裕が心にあったのだな・・・


「アマリア、やっと笑顔になったね。笑うと可愛いね」

「え?わ、私なんて・・・」

 アマリアの頬は真っ赤になった。

「ちょっと、翼?」

「あ!アネモネ。勘違いしないで。可愛いと言っただけだよ。他意はないんだ」

「もう。優し過ぎるのも考えものね」


「では、翼。カルロを見つけて話をつけたら連絡しようか。まず先にアマリアは連れて帰るだろう?」

「そうですね。アマリア、屋敷に持って行きたいものはあるかな?」

「い、いいえ、わ、私のものなど・・・何もありません」


「それなら、身の回りのものは全て向こうで準備しよう。では、蒼羽あおば兄さま。今日はありがとう御座いました。カルロのことは分かりましたら連絡をお願い致します」

「うん。分かったよ。任せてくれ」


「では、皆、帰ろうか。アネモネはここで」

「えぇ、皆、また明日」

「アネモネ、またね」

「えぇ」


「シュンッ!」

 アネモネが瞬間移動でグースベリーへ帰ったのを見送ると、僕たちはアマリアと共に船に乗り、地球の月の都へと帰った。




「あ!こ、ここは?」

「アマリア。ここが私の住まい。月の都だよ」

「あ!あ、あれは・・・何ですか?」

 アマリアは低軌道エレベーターを見て驚いている。ビオラ王国からは御柱みはしらは見えないから初めて見たのだろう。


「あれは、神星にもある御柱と呼ばれているものだよ。あれで空と地上で行き来ができるんだ」

「そ、空へ・・・」

 アマリアは驚き過ぎて絶句している。


「あ、あの地上に沢山ある、し、四角いものは・・・何でしょう?」

 アマリアは地上に見える、ビルや高層マンションが何だか分からない様だ。

「ほら、そこにもあるでしょう。人が住む建物だよ。あ。丁度、ダーリャが居るね。紹介しよう」

「ダーリャ!」


「あ。翼さま、皆さまお揃いで」

「ダーリャ。新しい使用人を神星から連れて来たよ。彼女はアマリア、二十三歳だ」

「左様で御座いますか。アマリアさん、初めまして。ダーリャです。よろしくお願いいたします」

「あ、あの・・・ア、アマリアです。よろしくお願いいたします」


「ダーリャ、寮へ行こうか。まずはアマリアにお風呂に入ってもらおうかな」

「そうね。私と結衣でアマリアとお風呂に行って来るわ」

「新奈、ありがとう。お母さま、その間にアナと一緒にダーリャにアマリアの事情を説明してもらえますか?」

「分かったわ」


 使用人の寮には、個室以外に食堂、サロン、映画鑑賞室、カラオケ、大浴場も完備されている。僕とお母さんとアナはダーリャとサロンに行き、新奈と結衣はアマリアを大浴場へ連れて行った。


「アマリア、私は翼の妻で新奈よ。新奈って呼んでね。よろしくね」

「私も翼の妻で結衣よ。よろしくね」

「は、はい・・・新奈さま、結衣さま。よ。よろしくお願いいたします」

「アマリア、緊張しているのね。ここは怖いところではないわ。安心してね」

「あ、ありがとう御座います。結衣さま」


「ここのお風呂は変わっているの。説明しないと分からないと思うから、一緒に入りましょう」

「あ、あの・・・」

「どうしたの?」

「わ、私・・・お風呂に入ったことがないのです」

「え?」

 新奈と結衣は絶句し、しばし固まってしまう。


「お風呂に入ったことがない?え?汗をかいた時、どうしていたの?」

「ぬ、布を濡らして・・・か、身体を拭いていました」

「まぁ!え?でも生理の時はどうしていたの?」

「せ、せいり?わ、分かりません」


「え?どう説明したら良いのかしら?結衣どうしよう?」

「あのね、アマリア。月に一度、ここから出血するでしょう?」

 結衣はアマリアの下半身に手を当てて言った。

「え?ち、血がでるのですか?そ、そんなこと・・・い、今までない・・・です」

「あら、生理がない?二十三歳よね?」


「あ!栄養失調でまだ身体が出来ていないんだわ!」

「嘘!そこまで?」

「あり得るわ。だって、どうみてもアマリアの身体は小学生か中学生くらいだもの」

「なんて酷いことを・・・」

「では、全て教えていかなければいけないわね」


 新奈と結衣はショックを受け、念話で話した。

『新奈、私、お義母さまへ念話でこのことを伝えておくわね』

『えぇ、お願い。お風呂に入りながら暴力を受けていないかも見ておかないといけないわね』

『そうね』


「さぁ、アマリア、お風呂の入り方を教えるわ。まず、ここで服を脱ぐのよ」

「は、はい」

 アマリアの裸体を見て、更にショックを受けた。その身体は二十三歳の女性だというのに胸にあばら骨が浮いて見えた。腕や足も骨と皮の様に細かった。

結衣は思わず涙をこぼし、口を手で覆った。アマリアに見られない様に背を向けて涙を拭った。新奈は必死に耐えていた。


 そして、蛇口カランとシャワーの使い方、身体の洗い方、シャンプーとコンディショナーの使い方を一通り教え、温泉の大きな湯船に三人で入った。


「アマリア、初めてのお風呂は如何かしら?」

「はい。とても気持ち良いです。あ、あの・・・私、ここに入って良かったのですか?」

「アマリア。ここは使用人が、皆で使うお風呂なの。毎日、仕事が終わって晩御飯を頂く前に入るのよ」

「え?毎日お風呂に?ご主人さまでも毎日はお風呂に入らないのに・・・本当によろしいのですか?」


 アマリアは身体が温まってきたからか、やっと落ち着いてきたからなのか、どもる様な話し方が治ってきた。


「えぇ、必ず、毎日入るのよ。あなたは髪も栄養不足で痛んでいるわ。必ず、さっき教えた様に髪を洗うのよ」

「はい。新奈さま」

「アマリア、言いたくなければ答えなくても良いのだけど、前の主人には夜伽よとぎもしていたの?」


「いえ、それは担当の娘が居ましたから、私のこの身体はお好みではない様で・・・」

「それは良かったわ」

「でも、まだそういう娘が居るってことね・・・」


「神星ってそういう世界なのね」

「結衣、それは仕方がないわ。地球でいうところの中世くらいの文化レベルなのでしょう?」

「そうね。まだ、奴隷が居るのですものね」

「アマリア、他につらいことはあった?」


「いいえ、そういうものだと思っていましたから辛いとは思っていませんでした」

「そうだ。落ち着いたら地上へ降りてアマリアの服を揃えましょう」

「そうね。最低限のものは明日、葉留ちゃんに買ってきてもらいましょう」


「私の服をご用意頂けるのですか?」

「勿論よ。素敵な服を買って、お兄さまを迎えないとね」

「ありがとう御座います。何故、奴隷の私にこの様な施しを頂けるのでしょうか?」


「人の人生ってね、決して悪いことばかりではないの。良いことも必ずあるのです。アマリアの人生はここで報われるのです」

「そうね、それがあなたの運命なのですよ」

 新奈と結衣はアマリアに優しく微笑み掛けた。


 十分に温まり、三人はお風呂を出た。お土産としてあげた下着とワンピースを着せ、髪をドライヤーで乾かしブラシで整えると、可愛い女の子になった。女性ではなく、やはり女の子にしか見えない。ブラジャーは必要ない状態だが、つけ方を覚えてもらうためにしてもらった。




 サロンでは、ダーリャに事情を説明していた。

「ダーリャ、アマリアは神星から連れて来たのだけど、彼女は奴隷なんだ」

「奴隷?神の世界に奴隷が居るのですか?」


「ダーリャに向こうの世界のことを詳しく話したことはなかったね。神星はね、地球から人間を移住させて千五百年程しか経っていないんだ。しかも環境破壊をさせないために意図的に文化の発展を遅らせているんだ。だから地球の歴史で言えば、中世のヨーロッパの様な文化レベルなんだよ」


「そうだったのですね。それで奴隷制度が・・・」

「うん、それでも奴隷制度はもう終わろうとしていて、奴隷商も無くなったんだ。でも最後に売られた奴隷が残っているんだ」

「アマリアはその中でもかなり劣悪な環境の中で働いていた様なんだ。家事全般と庭の管理とか一通りのことはできるみたいだね」


「ここでは何をさせれば良いでしょうか?」

「うん。それはダーリャに任せるよ。彼女のやりたいことを聞き取って、あとは適性を見て仕事を与えれば良いと思う。でも当面は、人数も少ないからダーリャの助手として、何でも一緒にやれば良いのではないかな?」

「かしこまりました」


 その時、アマリアと一緒にお風呂に入っている結衣から念話が届いた。話を聞いて驚いた。

僕とお母さんたちは絶句し、しばし沈黙した。そしてお母さんが口を開いた。


「ダーリャ、今、結衣から念話で連絡が来たのだけど・・・アマリアはまだ、初潮を迎えていないそうよ」

「え?二十三歳と言っていませんでしたか?」

「そうね。恐らく栄養失調だと思うわ。朝食しか与えられていなかったそうよ」

「まぁ、何てことでしょう・・・」


「ダーリャ、ごめんなさい。もしかしたらアマリアには、何もかも教えてあげないといけないかも知れないわね」

「かしこまりました。でも変に色が付いている人間よりも素直に吸収してくれるのではないでしょうか」

「ダーリャ、そう言ってもらえると助かるよ。よろしくお願いしますね」

「はい、承知いたしました」


 風呂を終えた三人がサロンへ入って来た。皆はアマリアを見て笑顔になった。

「アマリア。可愛いわね」

「少女の様ね。まずはこれから、沢山食べないと」

「うん。まずは食べることがアマリアの仕事かな?」

「あ、私、働けます!」


「そうね。まずはダーリャに付いてお手伝いをしてね。まだ二人だけだからちょっと寂しいかも知れないけれど」

「アマリア、先程紹介したダーリャ。彼女はここの最初の使用人なんだ。今はまだ、ダーリャ一人だからやることが沢山あって大変なんだ。手伝ってあげてくれるかな?」


「アマリア、よろしくね。分からないことは何でも聞いてね」

「ダーリャさま。よろしくお願いいたします」

「アマリア、私も使用人だからダーリャと呼んで良いのよ」

「え?でも・・・」


「では、お姉さんって呼んだら?」

「あ。そうですね。私も妹ができたみたいで嬉しいです。アマリア、私があなたのお姉さんでも良いかしら?」

「は、はい!お姉さま。よろしくお願いいたします」


「では、ダーリャ。アマリアはさっき話した通りだから、全て一から教えるつもりでお願いするよ。それとじきにアマリアのお兄さんも来るからさ」

「え?アマリアのお兄さまがここへ来るのですか?」

「その予定だよ。三十三歳で独身だそうだ。木材商人のところへ奴隷として売られたんだ。木に詳しい様なら、山や川の管理を任せようと思っているよ」

「かしこまりました」




 二日後、蒼羽あおば兄さんから念話が入った。

『翼、聞こえるかい?』

『蒼羽兄さま、こんにちは』

『アマリアの件は主人に奴隷の扱いが酷いことを理由に罰を与えると共に、アマリアを差し出すことで収めたよ』

『それでは、まだ残っている奴隷の処遇は改善されるのですね?』


『そう約束させたし、今後は定期的に奴隷の健康状態を見て約束を守っているか確認させることにしたよ』

『ありがとう御座います』


『それとカルロの方も、一か月後に開放させることとなったよ』

『すぐではないのですね』

『すまない。こちらは不当な扱いはされていなかったんだ。職人としてきちんと働き、衣食もきちんと与えられていたからね』


『カルロ本人は、そこを離れることを望んだのですか?』

『うん。それはアマリアが行っていることを知ったら、二つ返事で行くと決めたよ』

『それは良かった!アマリアも喜びます』

『では、一か月後に迎えに来てもらえるかな』

『お兄さま、ありがとう御座いました』


 それから一週間、アマリアには栄養価の高い食事とデザートを毎食しっかりと食べてもらった。初めはまだ胃が小さく、沢山は食べられなかったけれど、徐々に一人前は食べられる様になったし、デザートは別腹で嬉しそうに平らげていた。


「さて、アマリアは元気になった様だから、一度下界へ行って必要なものを買い揃えようか」


 今日は放射線量が低く安全だ。付き添いはアナとアンジーだ。僕たち三人は帽子とサングラスで軽く変装して行った。


 小型船に乗ると瞬間移動で、東京湾の月の都と低軌道エレベーターが見渡せる場所に新しく出来たショッピングセンターへ向かった。


「さぁ、アマリア、ショッピングセンターに着いたよ」

「ここは・・・何ですか?見たこともない建物です。お城なのですか?」

「いや、買い物をするところだよ。さぁ、一緒に見て行こう」


 アナがアマリアの手を引いて四人で買い物を始めた。

「翼、どんな服を買いますか?」

「そうだね。お仕着せはあるから、庭園の作業がし易い、Tシャツとか、ジーンズ、長靴とか、あとは部屋着だね。こうしてたまにダーリャと下界へ降りることもあるだろうから、カジュアルな服もいくつかあった方が良いかな?」


「そうね。では似合いそうなものを選んでいきましょう」

「アマリア、着てみたいなって思う服があったら言ってね」

「え?これって全て売っているものなのですか?」

「そうだよ、アマリア。どれでも好きなものを買ってあげるよ」


「え?そんな・・・私なんかに勿体ないです」

「まぁ、そう言うだろうね。アナ、アンジー、どんどん選んじゃって良いからね」

「えぇ、任せてください。妹のジェイミーの服選びと同じですから!」

「あぁ、そうだったね。アンジーには妹が居たのだね」

「アマリアは可愛いから選び甲斐があるわ!」


 そして二時間程で大量の服や靴を買い付けた。

「さて、これで一通り揃ったかな、ちょっとカフェに寄って休憩してから帰ろうか」

「えぇ、そうですね。あ、あそこにパンケーキのお店がありますよ」

「良いね!行こう!」


 パンケーキが売りらしいカフェに入り、東京湾を見渡せるテラス席に座った。メニューを開くとメニューは限定されていた。まぁ、当然か。


「アマリア、どれが食べたい?」

「あ、あの・・・これは何でしょうか?分からないです」

「そうよね。私が選んであげるわ。アマリアは甘いものは好きよね?」

「はい。毎日、デザートを頂いていて・・・お姉さまの作るケーキがとても美味しいのです」


「ダーリャにそんな才能があったのか!今度、頂いてみたいね」

「えぇ、ダーリャの作るケーキは絶品ですよ。私はレオと寮へ行ってよく食べていますよ」

「あ!ずるい!アナだけ?今度、皆を招待してね?」

「お姉さま、分かりました!」


「あれ?まだアナはアンジーをお姉さまって呼んでいるの?」

「あ。つい癖で」

「前の記憶が強く残っているんだね」

「えぇ、アンジーでいいって言っているのですけれど・・・」

「二人とも、まだたまに僕を翼さまって呼ぶものね。仕方がないか」


 パンケーキと珈琲を注文し、まずは飲み物を飲んでパンケーキを待った。

「あそこに浮かんでいる島は何ですか?」

「え?あぁ、あれが月の都だよ。アマリアはあそこで暮らしているんだよ」

「え?あそこに?どうやって、ここへ降りたのですか?」

「さっき、船に乗ったら一瞬で景色が変わったでしょう?」


「はい。アナスターシャさま」

「あそこからここへ瞬間移動したのよ」

「凄いです!」

「そう。翼は神さまですからね。人とは違うの。だからあの月の都と呼ばれる空に浮かぶ島に住んでいるのよ」

「私、あそこで暮らしているのですね・・・美しいです」


「あの、この世界は今までのところと全然違うのですね」

「うん。違う星だからね。月の大きさも違うでしょう?」

「はい。驚きました。月が一つしかなくて、それもとても小さいのですね」

「うん。見える星も違うよ。そして住む人も文化もね」


「アマリア、少しずつ、こちらの世界に慣れていってね」

「そうよ。まずは身体を健康な状態にしないと赤ちゃんを産めないですからね」

「え?私が赤ちゃんを?だって結婚なんて・・・」

「アマリア、これから使用人をどんどん増やしていくからね。好きな人が見つかったら結婚して子を産んでも良いんだよ」

「私が結婚・・・」


 アマリアは思ってもみなかったという風でポカンとしていた。そこへパンケーキが運ばれてきた。

「お待たせしました。パンケーキをお持ちしました」

「ここのメイドはアクセサリーをしているのですね。それに爪に色が付いていました」

「あぁ、メイドか・・・説明が難しいな」


「アマリア、彼女たちはメイドではなくて、ここで働いているのよ」

「メイドの仕事ではないのですか?」

「あ。メイドと同じね・・・うーん。本当に説明が難しいわ」

「まぁまぁ、それは追々ってことで。暖かいうちに食べましょう!」


 異世界の者に別の文化を教えることの難しさを痛感しながら、甘いもので癒された。


「あぁ、何て美味しい・・・」

 アマリアはうっとりした顔で思わず声を上げた。

「そうね。美味しいわ。アマリア、まだ一週間だけどこちらに来て良かったかしら?」

「はい!お姉さまはお優しいし、食事もお風呂も全て・・・幸せ過ぎて・・・」

 アマリアはそう言うと感無量になって言葉を詰まらせた。


「アマリア、本当の幸せはこれからじゃないか。お兄さんも来て、そのうちに結婚して子を儲けたら、本当に幸せと言えるのではないかな?」

「はい。夢の様です。私、毎朝起きる度に、これは夢なのではないかって確認してしまうのです」

「そうか。早くアマリアにとって、当たり前の暮らしになると良いね」

「ありがとう御座います」


 そして、アマリアが来て三週間目にアマリアは初潮を迎えた。ダーリャが丁寧に教え、不安を払拭して安心させたが、初めてのことなので三日間はお休みとし、部屋でのんびりさせた。その頃にはAカップのブラジャーが丁度良い位に胸も成長し始めていた。


『翼、聞こえるかい?』

『蒼羽兄さま、こんにちは。カルロの準備が整ったのですか?』

『うん。三日後に迎えに来られるかな?』

『分かりました。伺います』


 僕は当日、一人でカルロを迎えに行った。ビオラ王国の王城へ着くと、庭園には既にカルロが待っていた。

「蒼羽兄さま、この度はありがとう御座いました」

「良いんだ。翼のお陰で奴隷の扱いについて正すことができたのだからね。こちらとしても助かったよ」

「そう言って頂けると気が休まります」


「その後、アマリアはどうかな?」

 カルロはアマリアの名を聞いてぴくっと身体が硬直した。

「えぇ、アマリアはもうすっかり向こうの暮らしに慣れました。健康状態も良くなって元気に暮らしていますよ」

「それは良かった。カルロ、こちらは月夜見さまの息子の翼だ。前にも説明したが、地球という他の星で暮らしている神さまだ」


「カルロ、翼です。初めまして」

「あ、わ、私はカルロで御座います。妹を、アマリアをお救いくださり、本当にありがとう御座います」

「えぇ。アマリアが大きな病気になる前に救い出せたことは良かったですね。カルロは木材商の家で問題なく働いていたのですよね?そこから離れても良いのですか?」


「勿論です。アマリアと一緒に暮らせるならば・・・それにいつまで経っても私は奴隷のままですから・・・」

「そうですね。カルロがそう思うならば良いのです。では、行きましょうか。アマリアが待っています」

「はい」


「カルロ、向こうの世界へ行っても仕事に励むのですよ」

「はい。殿下、ありがとう存じます」

「ではカルロ、行きましょう。蒼羽兄さま、それではまた」

「うん。嫁探し、引き続き頑張って!」

「はい!」


「シュンッ!」


 そして僕はアマリアの兄、カルロを三人目の使用人として地球へ連れ帰った。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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