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8.アンジェラ

 アンジェラたちが去った後のエヴァンス家は大騒ぎだった。


「お母さま!どういうことですの?お姉さまは翼さまの妻の公募に応募されていたのですか?」

「いいえ、応募はしていなかったわ。今日、タンザニアの自然保護区で偶然会ったみたいね」

「偶然!?それって、運命ってことね?」

「そうね。運命としか思えないわね。まさかアンジェラが女神さまだったなんて」


「でも、思い返してみたらあの子が女神だったとしても何も不思議ではないね。僕たちが教えなくとも彼女の行動は全て、神の様に品行方正だったじゃないか」

「本当にそうね。あの子の思いやりは神のそれだったわ。人だけでなく、小さな動物や虫、草木までも愛していたわね」


「ちょっと美化し過ぎていないかしら?まぁ、でもそうね。妹の私から見てもお姉さまは美しく正しい人だったわ」

「あら?ジェイミー、あなた今日はセシリーを連れて来ていないの?」

「えぇ、今週末は家で行事がある様なの」

「そうなのね」


「あ!そんなことより、早く部下に連絡しておかなければ!」

「そうよ。一日も早く式を挙げるのですものね」

「それもそうだが、明日中に全世界へ向けて発表しなければならないのだからね。こんなことはエディンバラ市でも初めてのことではないかな?」

「そうよね。歴史的な事件よね!」


 それからクリフォードは電話を掛け続け、次々に部下へ指示を出して行った。


 その翌日、グリニッジ標準時の午前十時には、世界へ向けてあらゆるニュースソースで発表を行った。


 タイトルは「天照 翼さまが、エディンバラ市の市長、クリフォード エヴァンスの長女、アンジェラ エヴァンスを六人目の妻に迎える」と発表された。




 昼休みのパブリックスクールは騒然としていた。ジェイミーの所属する寮のカフェテリアには、ジェイミーを取り囲む大きな輪ができていた。


「ジェイミー、あなたのお姉さまが女神さまになるのね?」

「えぇ、お姉さまはもう昨日既に女神さまに変わっていたわ」

「女神さまに変わっていた?どうなっていたの?」

「瞬間移動や空中浮遊ができるの。居間に居たのに急にシュンッ!って消えてしまって、次の瞬間また現れたと思ったら私のぬいぐるみを抱いて現れたの」

「え?それって?」


「居間から私の部屋へ瞬間移動して、ぬいぐるみを持ってまた瞬間移動で戻って来たのよ。それが驚くことに瞬間移動で地球上のどんな場所にでも一瞬で飛んで行けるのですって!」

「まぁ!魔法ね?」

「魔法なのかどうかは分からない。だって神さまなのですもの。神さまは魔法使いではないでしょう?」


「そうよ。この学校はそういった映画の撮影にも使われた、いわくつきの学校だから、私たちはすぐに魔法に結び付けて考えてしまうのよ」

 学友たちは好き勝手に興味本位の質問をしては感想を述べていく。


「ジェイミー、女神さまは他に何ができるんだい?」

「そうね。念動力、読心術、念話・・・あ!あと動物と話せるって!」

「動物と?良いなぁ!それは楽しいだろうね」


「ねぇ、お姉さまはこれからどこで暮らすの?」

「昨日から月の都へ移ってしまわれたわ」

「え?あの東京にある、あの月の都のお城に住むの?」

「素敵!あんなに大きくて美しいお城は地球上には他にないわよね!」


「ねぇ、ジェイミーも月の都に行ったの?」

「私はまだ行っていないわ」

「でも、姉妹なんだから連れて行ってもらえるのでしょう?」

「そうね・・・昨日、翼さまからはお兄さまと呼んで構わないって言われたわ」

「キャーッ!」

 そこに居た女子たちが一斉に叫んだ。


「翼さまをお兄さまって呼べるの?あぁ・・・羨ましい!」

「あの美しいお方・・・あぁ、翼さまに抱かれたいわ」

「ちょっと!下品なことを言わないで!お兄さまは神さまなのよ!」

「ジェイミーったら、もう妹気取りなのね」

「だって義理とはいえ、お兄さまになったのは事実なのですもの」


「でも、これで奥さまは六人目なのでしょう?私も妻にしてもらえないかしら?」

「それならお嫁さんを募集しているじゃない」

「だって、私はブルネットだし、瞳も栗色だし・・・って、ちょっとセシリー、そう言えばあなた、お嫁さん候補と似ているのでは?」


 皆がジェイミーの隣にちょこんと座ってニコニコしているセシリーに注目した。

「赤い瞳・・・そしてAカップ・・・でもそれは・・・赤毛?」

「そ、そうだね・・・その赤毛がもう少し薄かったらピッタリ当てはまっていたね!」


「ちょ、ちょっと!女性の胸のサイズを人前で言うなんて!失礼でしょう?セシリーは公爵令嬢なのよ!それに、セシリーは赤毛なのだから応募条件からは外れるわ」

「それは大変失礼しました。レディー。では応募はしないと?」

「えぇ、そうよ。セシリーはレディーとしての教育も受けているから資格は十分にあると思うけれどね」


「セシリーはそれで良いの?」

 セシリーはその問い掛けに、小さくこくんとうなづいた。


「まぁ、そりゃそうか。だってさ。天照さまの九人の妻も翼さまの六人の妻も皆そうだけど、信じられないくらいの美人だよ」

「ちょっとフレディ、失礼でしょう?お姉さまは勿論美人だけど、セシリーだって負けてはいないわ!」

「おっと、これはまた大変失礼致しました。レディー・・・」

 フレディはおどけた表情で紳士の様に胸に手を当て、膝を落として謝罪した。


「セシリーは翼さまをどう思っているの?」

「・・・それは・・・素敵なお方だと・・・思います」

「それはそうよね。あのお方を一目見て恋に落ちない女子は居ないでしょう?」

「そうよね!皆、好きに決まっているわね。誰でも奥さんになりたいわ!」


 一通り皆の興味を誘い盛り上がった後、生徒たちは午後の教科へと散って行った。

「セシリー、私のために下品な会話に巻き込まれちゃってごめんね」

「ううん。大丈夫」

「私たちはまだ十六歳だもの。結婚なんて考えられないわよね」

「えぇ、そうね。ジェイミー、いつも私を守ってくれてありがとう」


「ふふん。オースティン家のご令嬢をお守りするのは、代々、エヴァンス家の務めですから!なんて・・・そんなことはどうでも良いの。私はセシリーが大好きだから守りたいの」

「本当にありがとう、ジェイミー」

「気にしないでセシリー、私たちはずっと友達でいるんだから!さぁ、午後の授業へ行きましょう!」

「うん!」


 そう答えて微笑むセシリーはジェイミーの後を追いかけた。

ピンクのリボンでツインテールにした髪を揺らしながら。




 月の都へ戻った翼とアンジェラは、サロンに集まった皆に報告していた。

「皆、アンジェラのお父さまは、エディンバラ市の市長を務める貴族だったんだ」

「まぁ!貴族?名家のお嬢さまなのね」

「お義母さま、家は侯爵家ですが、今は形だけの様なものです。父はその名残で政治家をしているのです」


「エディンバラ城で結婚式を挙げることになりました」

 葉留がネットで検索してモニターへ映した。

「あぁ、これがエディンバラ城!世界遺産ですよね。歴史のあるお城で挙式なんて素敵ですね」

「お兄さま、伝統衣装のキルトを着るのですか?」

「キルト?」

 葉留がまたネットで検索してモニターへ映した。


「これがスコットランドの民族衣装、キルトよ」

「あぁ、これか。見たことあるな。タータンっていうんだっけ?」

「結婚式の時も着るのかい?」

「今は着る人は減っていますけれど、エディンバラ城の様な古式ゆかしい場での式の時は着用する様ですね」


「アンジェラは僕にあれを着て欲しいかな?」

「え?着て頂けるのですか?」

「構いませんよ」

「本当ですか!」

 アンジェラは口に手を当てて喜んでいる。そんなに嬉しいことなんだな。


「それでは仕立屋へ行かないといけませんね」

「では、明日にでも行きましょう」

「大変!お母さまに電話して予約して頂かないと!」

「それなら今、行って話して来れば?」


「いえ、翼さまから離れたくありません。ここから電話します」

「まぁまぁ・・・お熱いこと」

「流石、宇月お姉さま・・・翼さまからひと時も離れたくないのね」

「アナ、宇月は千五百年前もこうだったの?」

「はい。翼さまが来ている時は、常に一緒に居ようとしていましたね」


「まぁ、しばらくは仕方がないでしょうね。でもそのうちに自分のやりたい仕事も放っておけなくなりますから・・・」

「そういうものね」


「あ、そうだ。アンジェラ。君に専属のメイドが居るんだ。紹介するよ」

「え?私に専属のメイドですか?」

「ジンジャー」


「アンジェラさま。ジンジャーと申します。何なりとお申し付けください」

「は、はい。よろしくお願いいたします」

「アンジェラ、ジンジャーたちメイドは皆、アンドロイドなんだ」

「アンドロイド?人間ではないのですか?翼さまがお創りになられたのですか?」


「いや、これは始祖の天照さまだよ。そしてアンジェラの姿が分かっていたから、君の部屋にサイズや色の好みに合う衣装が揃っていて、お世話するアンドロイドも君の髪や瞳、肌の色に合わせてあるんだ」

「何故、私に合わせる必要があるのですか?」


「それは、ジンジャーが子守りをするからだよ。例えば、アンジェラが子を置いてアフリカの保護区へ赴く時、ジンジャーがアンジェラと風貌が似ていた方が子は落ち着くでしょう?」

「あぁ!そこまで考えてあるのですね!」

「天照さまは全てを見通していらっしゃるからね」

「でも、それだと何だか私が仕事に全てを捧げて家に居ない女みたいな・・・」


「アンジェラ、それは違うわ。私はご存じの通りアーティスト活動もしているし、神代重工の仕事もあるの、だけど瞬間移動できるから、本当に自分が必要な時だけ飛んで行って仕事をして、終わったら直ぐに帰ることができるのよ。だから、その間だけ子供を見ていてもらえるのは助かるのよ」


「ニーナお姉さま。そうですね。皆さん、何かしらお仕事をお持ちなのですね」

「えぇ、そうよ。皆、仕事をしながら育児もしているのよ。そしてこのメイドたちはとても優秀なの。子供たちの感情を読み取り理解して、やりたいことを伸ばす様に導いてくれるの」


「望の言う通りよ、子供たちには決して怒らないし、してはいけないことをしようとすると否定はせずに別のことに興味を惹かせて優しく誘導するの。そして上手くできると褒めるのよ。見ていると子育ての勉強になるわ」


「結衣お姉さま、それは素晴らしいですね!それなら、私もすぐに子を作りたいです!」

「え!もう?まだ、初夜さえ迎えていないというのに・・・」

「初夜!翼さま、今夜お願いしますね?お姉さま、よろしいですか?」

「え、えぇ、良いわよ。アンジェラってグイグイ来るわね」

 新奈もたじたじだ。


「えぇ、だからお姉さまは、三人姉妹の中で一番積極的だって・・・」

「あら?アナ、なーに?」

「いえ、何でもありません。どうぞ、今夜は翼さまとお過ごしください」

「では、翼さま。今夜はよろしくお願いいたします」


 アンジェラが僕の右腕にしがみ付き、その豊満な胸を押し付けながら妖艶な上目使いで言った。うわー、なんて色気なのだろう!アネモネの魅了に匹敵するな・・・


「う、うん。よろしく」

「お兄さま、たじたじね」

「い、いや・・・その」


 その夜は賑やかな夕食となった。その席には徹も呼んだ。

「お招き頂き光栄です。初めまして、アンジェラ エヴァンスさま。私は日本国内閣総理大臣、榊高臣さかきたかおみの息子で、榊 徹と申します。翼とは高校時代の友人で、葉留の婚約者です」


「初めまして、アンジェラ エヴァンスと申します。葉留さんの婚約者なのですね?それに日本の首相の息子なのですね。それでは将来、首相を目指すのですか?」

「えぇ、そのつもりです。現在は父の秘書を務めながら勉強中です」

「素晴らしいわ。もうその才覚が見える様ですわね」


「はぁ~、アンジェラお義姉さまって社交的なのですね!流石、侯爵令嬢だわ!」

「ふふっ、葉留ちゃん、ありがとう」


「ところで翼。これであと一人見つければ良いんだね?」

「うん。そういうことだよ。でもその一人が難しいんだ」

「雨月ね。どうやって探していくか家族会議をしておくと良いわね」

「そうね、お母さま。ただ、待っていても見つかりはしないのでしょう?」


「でも、どうすれば雨月を見つけられるのか見当もつかないな」

「まず、今の六人の妻に共通点はあるのかしら?」

「共通点?」

「えぇ、容姿の見当はついているのだから、七人に共通することがあれば、そこから絞り込みができると思うの」


「葉留、冴えているね」

「ありがとう。徹さん!」


「共通点か・・・何だろう?背は高いよね。何故か皆、百七十五センチメートル位で揃っていたね」

「あ。そうね。私だけ小さかったわね。今は私も百七十五センチメートルになったけど」

「あれ?そうか、お母さまは大きくなかったですね。では共通点ではないかな?」

「でも私は、始祖の天照さまから直接生まれているから、ちょっと微妙なところね」


「家柄とかは?神代重工、一ノ瀬電機、九十九家電の社長令嬢、王女、大統領令嬢、侯爵令嬢でしょう?皆、名家のお嬢さまってことでは?」

「徹さん、素晴らしいわ!」

「ふふっ、それほどでも・・・」


「あぁ、でも家柄というか、身分の高い人の家に生まれているのは、やはり神の持っている力に通じるのかな?」

「あり得ますね」

「でも月夜見さまの奥さま方は身分にバラつきがありますけれど」


「それでも王女や貴族令嬢が多いですよね」

「でも花音と陽菜は平民でしたね」

「いや、花音お母さまはアスチルベの出自ですよね?それって僕の子の子孫である可能性は高いですよ」


「そうね。陽菜お母さまだって、どういう経緯いきさつで親と生き別れたのかは分からないのですから、どこかの王とか貴族の婚外子の可能性もありますよね」

「うーん。想像していても切りがないから、お父さまと比べるのは止めておきましょう」

「そうね。大体、地球と神星では世界が違うのだから・・・」


「あ。そうか、神星に居る可能性をあまり考えていなかったのでは?」

「あぁ、どこかのお姫さま?」

「なるほど・・・」

「一度、当たって見て頂きましょうか?」

「ちょっと待って。月夜見さまのことだから、既にすべての国へ打診しているのではないかしら?ちょっと聞いてみますね」


『月夜見さま。聞こえますか?』

『瑞希かい?どうしたの?』

『あの雨月のこと、神星の国々へ既に当たりをつけて頂いていましたか?』


『勿論、子供たちにストロベリーブロンドで赤い瞳、Aカップの娘が貴族に居ないか探してもらったよ。何人かは居たのだけど、アネモネに見てもらったら、皆、違ったよ』

『流石、月夜見さまです。そうですか。では引き続きお願い致します』

『分かったよ。そちらでも何か分かったら直ぐに教えてくれるかな』

『かしこまりました』


「既に全ての国へ連絡して、探してもらっているのだけど該当者は居ないそうよ」

「うーん。これはやはり、地球に居るのだね」

「でも、条件に社長令嬢とか貴族令嬢に限るなんて、入れられないよね」

「確かにそうね。それは駄目ね」


「これは行き詰ったな・・・」

「まぁ、あまり思い詰めても仕方がありません。今はアンジェラとの結婚に向けてやることをしてしまいましょう」

「そうですね。お母さま」


 徹と一緒に少し酒を飲みながら、僕らの学生時代の話に花が咲き、アナとアンジェラは楽しそうに聞いていた。


「ところで徹、日本の食料事情はどうだい?」

「うん、まだ大丈夫だけど、酒類の製造に制限をしているだろう?その企業や社員への補償も大変だけど、酒の値段が上がっていることへの不満の方が大変かな?」

「あぁ、菓子類も制限しているのだよね」

「うん。まぁ、小さな子へ向けたお菓子は作らせているけれどね」


「翼にアイデアをもらった、地下鉄の跡のトンネルを使っての農業は非常に上手く行っているよ。電気を通すのは簡単だったし、線路で収穫物を運び出すのも楽だからね」

「地下は気温や湿度が安定しているし、地下水も使えるから水田も作り易かったわね」

「日本では二十年位前から着目されていて、使われていない共同溝なんかでレタスなんかを自動栽培していたんだよ」


「世界にもすぐに技術を伝えたから、大都市では地下鉄跡地農業は既に盛んになっているな」

「あ。それロンドンでも取り入れています!スコットランドでもグラスゴーでやっていますね。イギリスでも二十年前から地下の防空壕で試験的に地下農業を研究していたのです」


「ニューヨークなんて、今までただの都会だったのに、今では地下鉄跡地農業で大変な量の農作物が収穫されているそうですよ」

「あぁ、あそこは無数にトンネルが掘られていたからね。更に増やしているらしいじゃないか」

「アメリカ人は元々、石油を掘ったり穴掘りが得意なんじゃないかな?」

「それはどうだか?でも、世界中でこれは使えることだよね」


「この地下農業は、例え地磁気が元通りになったとしてもとても有効だよ。台風や長雨の被害も受けない。勿論、日射量不足もね」

「うん。これで全て賄える訳ではないだろうけれど続けるべきだね」


「アンジェラ。僕は次にアフリカに動物用の地下シェルターを創りたいな」

「まぁ!それはどんなものですの?」

「うん。地下に大きな体育館の様な広い空間を作るんだ。天井にはLEDの疑似太陽光を備えて植物を植える。そこに種を保存すべき動物を種類別に保護するんだよ」

「ちょっとイメージが湧かないのですが、もし動物園の延長の様なものだったら・・・」


「いや、そんなものなら動物の保護というより虐待に近いじゃないか。人間の欲を満たすものではなくて、動物がそこで暮らしたくなる様な施設ができればと思っているよ」

「はい。是非、一緒に考えさせてください!」

「うん。アンジェラが認めないものは創らないよ」

「嬉しい!翼さま!」

「チュッ!」

 アンジェラが勢い余って僕に抱きつき、キスして来てしまった。


「まぁ!」

「あらあら・・・」

「アネモネが居なくて良かったわ」

「さぁ!もう待ち切れないみたいね。今日はお開きにしましょうか。徹さん、お家へ送るわね」

「はい。お義母さま、いつもありがとう御座います」

 サロンから皆、各々の部屋へと散って行った。


「新奈、結衣、アナも温泉に行かない?」

「望、いいわね、行きましょう。それじゃ翼、アンジェラ。良い初夜を!」

「う、うん。皆、ありがとう。おやすみ」

「あ。お姉さま、ありがとう御座います。おやすみなさい」


 僕はアンジェラと手を繋いで彼女の部屋へと飛んだ。

「シュンッ!」


 アンジェラは直ぐに抱きついてきてキスをねだった。それに応じて立ったまま、長く熱いキスが続いた。二人の呼吸が荒くなって来たところで一息ついた。

「お風呂へ行こうか」

「はい」


「アンジェラ、千五百年前の初夜を思い出すな・・・覚えているかい?」

「勿論です。恥ずかしいわ。私、子供だったからお母さまや巫女から聞いたことを鵜呑うのみにして一生懸命だった」

「ふふっ、それも全部、僕に喜んで欲しくて頑張ったのでしょう?」

「伝わっていましたか?」


「とっても。それが愛らしくて・・・止められなくてね」

「あ!ちょっと待って、それ以上は言わないでください!」

「う、うん。そうだね。今また、同じことができるかい?」

「翼さまがお望みでしたら・・・」


「いや、今日は僕に任せてもらえると嬉しいな。だって、君は既に僕の身体の隅々まで知っているでしょう?」

「はい。鮮明に記憶に残っています」

「うん。でも僕は今日、初めてアンジェラの身体を拝見するからね。色々と堪能させて頂かないと」

「ちょっと、恥ずかしいです」


「僕の予想では恥ずかしがるより、自慢すべきプロポーションなのではないかと推測しているのだけど?」

「そうだと良いのですが?」


「では、見せて頂こうかな?」

 そう言って、僕はアンジェラの服を脱がしていった。下着も全て取ると新奈と結衣を合わせた様な完璧なプロポーションだった。


「そ、そんなに見ないでください」

「アンジェラ。君は美しいね」

「本当ですか?」

「うん。他の妻も皆、美しいのだけど・・・」

「比べないのですね」


「翼さまの身体も久しぶりに見せてください」

「うん。構わないよ」

 アンジェラに服を脱がされ、お互いに裸の身体を見つめ合っていた。

「あぁ、懐かしい・・・何一つ変わっていないのですね」

「だって同一人物で、しかも会っていた時期が一緒だからね」


「時期が一緒?」

「うん。宇月と初夜を迎えたのは、つい先日の僕だからね」

「え?どういうことですか?」

「つい先日、タイムマシンに乗って、二日に一度、十六日間、二十年分まとめて、君たちに会いに千五百年前の世界へ行っていたんだ」

「嘘でしょう?」


「嘘じゃないよ。だから宇月と初夜を過ごした記憶は僕にとっては、まだ一か月も経っていないんだ」

「そ、そうなのですか・・・なんだか、理解がまだ追い付きません。でも、私も神の力のせいなのか、とても鮮明に覚えているのです」


「それならお互いに二つの人生がずっと続いているってことだね」

「あぁ、何だか良く分からないけれど嬉しいです」

「さぁ、お風呂へ行こうか」


 アンジェラを念動力で持ち上げると、お姫さま抱っこでお風呂へ向かった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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