7.六人目の妻
僕らはアンジェラの部屋でふたりきりになった。
そして、アンジェラが宇月であるかの確認作業をする。
「アンジェラ、結婚の話だけど・・・もう一度、確認しても良いかな?」
「はい。私は翼さまと結婚したいです」
「本当に?」
「はい」
僕はアンジェラの目の前に立ち確認した。
そして黙ってアンジェラの腰に手を回し抱き寄せた。アンジェラは察した様で瞳を閉じた。僕はアンジェラと唇を重ねた。そこには愛もムードも無かったのかも知れない・・・
するとアンジェラは瞳を見開き、「うっ!」と声を上げた。
「あ、宇月?君は宇月かい?」
「はい。翼さま・・・あら?どうして?あ!う、うぅ・・・」
次の瞬間、アンジェラは気を失い、僕は念動力で支えてそのままベッドへ寝かせた。
『皆、アンジェラにキスをしたら、一瞬宇月に戻って気を失ったよ。一時間後には宇月の記憶が戻っていると思うよ』
『そう、良かったわ。おめでとう、翼』
『良かったわ!』
皆に祝福され、僕はそのまま宇月の傍らで彼女を見守った。それにしてもアンジェラは美しい。身長は百七十五センチメートル位ありそうだ。身体の線は細い。ウエストの細さは抱いてみてビックリする程だった。それなのに胸はGカップだ。どうしたらこんなプロポーションになるのだろう?
顔は顎のラインがシャープで鼻筋が通っている。でも鼻は高過ぎず低過ぎず、可愛く美しい。肌は透き通る様に白く、まつ毛が長い。唇は薄く全体的に上品な顔立ちだ。
僕は穴が開く程アンジェラの顔を眺め、柔らかい頬や唇に触れてみた。一時間程、そんなことをしていたらアンジェラが目を覚ました。
「う、うん・・・」
「アンジェラ?宇月?」
「あ!翼さま・・・私・・・」
「うん。昔の記憶を思い出したかな?」
「はい。私は宇月。月夜見お父さまと朧月夜お母さまの娘でした。そして翼さまの妻です」
「思い出したのだね」
「はい。嬉しいです。またあなた様と共に過ごせるのですね?今度は一年に一度でなく、あなた様のお傍でずっと・・・」
「そうだよ。そしてそれは五百年続くんだ」
「五百年?そんなに長く?」
「うん、お役目なんだ。地磁気の発生装置に僕たちが五百年に渡って力を供給し続けるんだよ」
「お父さま達と同じお役目なのですね。それが神の使命ですものね。かしこまりました」
「嫌ではないかな?」
「嫌などということはあり得ません。翼さまと共に過ごせるのですから、こんなに幸せなことは御座いません」
「ありがとう。ではアンジェラ。念話ができるか試してみようか?」
『アンジェラ。僕の声が頭の中で聞こえているかい?』
『はい。聞こえます。昔と同じです。今、全てを思い出しました。他の能力も全て使えると思います』
『では、空中浮遊もできるかな?』
『はい。やってみます』
するとアンジェラはその場で空中に浮かび始めた。
「アンジェラ、力は戻ったみたいだね」
「はい。翼さま。これで元通りです。言葉も力も昔の通りに使えます。動物と話せることも思い出しました」
「あぁ、そう言えば、目覚めてからは日本語で話しているね。完璧だ。アンジェラ。嬉しいよ」
アンジェラは積極的に僕に抱きついてきた。僕もアンジェラをきつく抱きしめた。
「あぁ、翼さま。またこうして抱きしめて頂けるなんて!」
「翼さま、このまま抱いてください!」
「あ、いや、ちょっと待って。急ぎ過ぎだよ。アンジェラ」
「あ。私ったら・・・ごめんなさい」
「いや、良いんだ。でも、まずはアフリカへ戻って船を片付けて、ご両親へ挨拶にも行かないとね」
「あ!そうでした。レンジャーの船を放置したままでしたね」
「うん。では妻たちに会ってから行こうか」
「はい」
僕たちはサロンへ行き、改めてアンジェラを皆へ紹介した。
「皆、アンジェラは宇月の記憶を取り戻したんだ」
「アンジェラ、私は璃月だった、望よ」
「璃月お姉さま?今は望お姉さまなのですね、よろしくお願いいたします」
「アンジェラ、私は月花よ。今は新奈。よろしくね」
「月花お姉さま、ニーナってあの有名な!お姉さまになるのですね。嬉しいです」
「アンジェラ、私は月代よ。今は結衣って言うの。よろしくね」
「月代お姉さま、結衣お姉さまですね。よろしくお願いいたします」
「宇月お姉さま、私は夢月よ。今はアナスターシャです。また、よろしくお願いいたします」
「まぁ!夢月なの。あなたロシアの英雄ね?立派になって!また会えて嬉しいわ」
「アンジェラ、グースベリー王国で会った王女のアネモネが羽月だよ」
「まぁ!アネモネさまが羽月お姉さまなのですね」
「え?千五百年前の姉妹が、また全て翼さまの妻になっているのですか?」
「いや、全てではないんだ」
「アンジェラ、翼の母である私は、千五百年前光月だったのよ」
「え?光月お姉さまが、今の翼さまのお母さまに?」
「驚いたでしょう?」
「はい。とても不思議です・・・あら?それだと雨月は?」
「今、探しているんだ。彼女の生まれ変わりが見つからないと、地磁気の発生装置が完全な出力を出せないんだ」
「え?それは・・・大変ですね・・・だって、雨月は・・・」
「そう。あの性格だからね。僕の妻を公募したところで応募する訳がないし、推薦されても断るだろう。目立つ性格でもないから見つけ出すことは困難なんだ」
「えぇ、そうでしょうね・・・でも雨月が見つからないと地球の生物は滅びてしまうのですね・・・」
「そうなんだ」
「さぁ、ここで考えていても始まらないね。アンジェラ、一度タンザニアへ戻ろうか」
「はい」
「それからアンジェラのご両親に挨拶に行って来るよ」
「アンジェラ、実家はどこなの?」
「はい、スコットランドのエディンバラです」
僕とアンジェラは月の都の船に乗り、タンザニアへ飛んだ。象の死骸の下へ戻ると、アンジェラはまた悲痛な表情となった。
「アンジェラ、この象の親子はアンジェラが世話をしていたのかい?」
「はい、この仔は一年前に生まれたばかりだったのです。なんとか守れないかとこうして水と食べ物を運んでいたのですが・・・」
「十分な量が用意できなかったのだね」
「はい。今は全て人間が優先ですから・・・それにこの気温では」
「アンジェラ、申し訳ない。もっと早く地磁気の発生装置を造っていれば・・・責任を痛感しているよ」
「いいえ、翼さまの責任ではありません。人類全体で考えていかなければならない問題です。それに私や雨月が見つからなければ同じことでしたよね?」
「それは・・・そうだね。アンジェラ、これから動物のこと、いろいろ教えて欲しいな。神星から地球へ転移させる動物を選ぶ時も協力をお願いするよ」
「えぇ、喜んで!」
「アンジェラ、お父さまはね、前世で医師だったのだけど、本当は獣医になりたかったのだそうだよ。だから動物に詳しいんだ」
「まぁ!そうなのですか!お父さまが?あ!でも、私、お父さまに酷いことを言ってしまったわ。お父さまもきっと辛かった筈なのに・・・」
「大丈夫、あの時は皆、君の心を読みながら会話をしていたから、君の思いは全て伝わっているよ」
「え!そうなのですか?」
「今の君なら、念話も読心術もできるでしょう?」
「はい。できます」
「では、そろそろ行こうか?」
「はい。これで私のここでの活動もしばらくお休みです」
「そうか・・・一日も早く、この環境が元に戻ると良いね」
「そのためには雨月を探し出すのですね?」
「うん。そうだね」
片付けを済ませると、小型船をレンジャーの事務所へ戻し僕らはエディンバラへ飛んだ。
「アンジェラ、自宅の周囲の風景を思い浮かべてみて」
「自宅の周囲ですか?それなら家の前が大きな公園なのです」
「うん。見えた。そこへ飛ぶよ」
「え?」
「シュンッ!」
「まぁ!家が目の前に!」
「あれ?あっちに見えるのはお城なのかな?」
「えぇ、エディンバラ城。世界遺産です。有名な観光スポットですよ」
「こんな時でなかったら、ゆっくり観光してみたかったな」
「まだ、五百年近く生きるのですから機会はいくらでもありますよ」
「そうだね、アンジェラ。さて、どうやって自宅へ行こうか。突然家の中へ僕たちが瞬間移動したらご両親が驚いてしまうよね。とは言え、既に下界は人の海だね。歩いて行くことは不可能な様だ。お家へ電話してみてくれるかな?」
「はい。今日は日曜なので二人とも家に居ると思います」
そう言って、アンジェラは携帯端末からお母さんに電話を掛けた。勿論、英語で話している。
『お母さま?私よ』
『あら?アンジェラ、何だか元気そうね。動物たちはどうしているの?』
『それはまた後で話すわ。それよりも窓の外を見て!公園側よ』
『窓の外?何なの?』
『え?あれ何?飛行機?でも浮いたまま止まっているわ!』
『お母さま、それは天照さまの船よ。私が乗っているの』
『え?アンジェラが乗っている?何故?天照さまって神さまのことでしょう?』
『今からその神さまとそちらへ行くから驚かないでね』
『今から?分かったわ。お父さまへ伝えるわね』
『クリフォード!大変よ!』
『シェリー、どうしたんだい?そんなに慌てて』
『まず、外を見て頂戴!』
『うん?え?あれは何だ?』
『天照さま、神さまの船ですって!アンジェラも乗っていて、神さまと一緒に今からここへ来るって!』
『何だって?それってまさか?』
『きっとそうよ。言っていたじゃない。神さまが探している妻の条件はアンジェラにピッタリだって!』
『それじゃ、本当に?』
「シュンッ!」
『うわぁ!』
アンジェラの両親は飛び上がって驚いた。無理もない。
『アンジェラ!来るって玄関からじゃないのね!』
『ごめんなさい。瞬間移動するって言わなかったわね』
『初めまして。私はアンジェラの父、クリフォード エヴァンスです。こちらは妻のシェリーで御座います』
『突然の訪問をお許しください。私は天照 翼と申します』
『あ、あの、神さまなのですね・・・』
『本物の神さまが我が家へいらっしゃるなんて・・・』
『お父さま、お母さま、心の声が口から出ているわよ!』
『あ。しまった・・・私としたことが・・・』
『突然のことで驚かれると思うのですが、アンジェラを私の妻に迎えたいのです。そのお許しを頂きに参りました』
『やっぱり!』
『もう、ご存じでしたか?』
『いえ、神さまが妻の公募をされているのを拝見したのです。その条件がアンジェラにピッタリだと思っていたのです』
『はい。アンジェラは探していた千五百年前の神の娘の生まれ変わりでした』
『では、アンジェラは女神となったのですか?』
『はい』
『お母さま、見て』
そう言ってアンジェラは空中浮遊を見せた。
『凄いわ!娘が女神さまだったなんて!』
『おぉ!なんということだ!』
お母さんは涙を流している。お父さんも目頭を熱くし、胸の前で十字を切っている。
ちょっと宗派は違う様だけれど・・・
『それで、ひとつだけ言い難いことがあるのですが・・・』
『はい、どんなことでしょう?』
『アンジェラは神の力が発現したことにより、寿命が五百年になりました』
『え?五百年。そんなに長く生き続けるのですか?』
『はい。私たちで地磁気の発生装置に力を与え、地球を守り続けるのです』
『お父さま、お母さま、それが神のお役目なの』
『アンジェラはそれで良いのかい?』
『お父さま、私は千五百年前の記憶も戻ったの。千五百年前にも翼さまと夫婦だったのよ』
『まぁ!千五百年の時を経て再び巡り逢えたのね!なんて素敵なことでしょう!』
『そうなの。だから私は翼さまと一緒に地球と動物たちを守って行くわ』
『分かったよ。アンジェラ。幸せになるのだよ』
『お父さま、あと一人、千五百年前の私の妹の生まれ変わりが見つかれば、地磁気発生装置で地球の環境は戻るのです。そうなれば神星に保存されている動物たちを地球に戻して下さるのです』
『それならアンジェラも安心ね』
『その時は、どこへどの動物を戻すのかをアンジェラに指示してもらうつもりです』
『アンジェラの知識が役に立つのね?』
『えぇ、お母さま。それにね。動物と話もできる様になったのよ』
『動物と話が?神さまとは本当に・・・』
「バーン!」
その時、もの凄い勢いで玄関の扉が開いた。
『お母さま!大変です!』
『ジェイミー!そんな大声で!』
『公園の上に神さまの船が浮かんで・・・って、え?』
どうやらアンジェラの妹らしい女の子が部屋へ入って来て僕を見るなり固まった。
『あ。お姉さま!そ、そちらの方は・・・まさか・・・』
『翼さま、この娘は妹のジェイミーです。ジェイミー、その神さまの翼さまよ』
『どうして神さまがここに?え?まさか・・・』
『ジェイミー、そのまさかよ。アンジェラは神さまがお探しになっていたお嫁さんだったの』
『えーっ!嘘でしょう?』
『ジェイミー、本当なの。私はさっきまでタンザニアに居たのよ』
『そうよね。二週間は行っているって・・・』
『あの外にある翼さまの船で瞬間移動して来たのよ』
『嘘みたい・・・信じられない・・・』
『でも、これからは私一人でも瞬間移動はできるわ』
「シュンッ!」
『あ!お姉さまが消えた!』
「シュンッ!」
アンジェラは熊のぬいぐるみを抱えて戻って来た。
『あ!それ、私のじゃない!』
『そうよ、ジェイミーの部屋へ瞬間移動して戻って来たのよ』
『え?瞬間移動ってどこへでも行けるの?』
『そうですね。地球上ならどこへでも行けますよ』
『凄い!お姉さまは女神さまになったのね!』
『ジェイミーは学生なのですか?』
『はい。エディンバラのパブリックスクールに入っています』
『あら?ジェイミー今日は?』
『学校の行事で連休になったから帰って来たのよ。そうしたら大きくてきれいな飛行機が公園の上に浮かんでいるのですもの。驚いたわ!』
『ジェイミーは何歳なのかな?』
『はい。十六歳です』
『そうか、立派なレディーですね』
『レディー?そんな・・・』
ジェイミーは両手を頬に触れて照れている。ジェイミーもアンジェラと同じ緑の瞳だが、髪はブロンドに近い様だ。まだ、身長は伸び切っていないのか百六十五センチメートル位に見える。まだ少女と言える風貌だ。
『失礼ですが、お義父さまのご職業をお伺いしてもよろしいですか?』
『はい。私はこのエディンバラ市の市長をしております』
『市長ですか。つまり政治家なのですね?』
『そうですね。代々、家門が貴族でしたので・・・』
『あぁ・・・それでは、今の食糧難には苦労されていることでしょう。私に未来を読む力があれば、この様な事態にはなっていなかったと思います。申し訳ありません』
『と、とんでもない!翼さまは多くのものを人類に与えてくださいました。そこまで神のせいにできる者など居りますまい』
『神さまは先を見通せるのではないのですか?』
ジェイミーは純粋無垢な瞳で僕を見つめ、確信的な質問をぶつけてきた。
『ジェイミーそうですね。神さまと言っても僕はその息子の息子みたいなものです。始祖の天照さまは全てを見通していらっしゃる。そして神星を創ったお方でもあるのです』
『人間に住む世界を与えて、どうするのか見ているだけで口出しはしないのです。でも、人間は間違える生き物だから、そのために保険を用意しているのです』
『始祖の天照さまも僕のお父さまも同じ立場で、神星から地球の人間たちを見守っているのです。でもね。僕は妻たちと地球で生きて行くと決めたから、地球の環境を元に戻したい、友達を見殺しにしたくない。そう考えて色々なものを作り備えて来たのです』
『しかし、どこかに甘い考えがあったのです。地磁気の逆転現象など直ぐに起こるものではないと考えていた。それで発明が遅れた。その結果がこれです。だから僕の責任なのです』
『それは違います!地磁気の逆転現象がいつ起こるかなんて分かる者は居ないのです。地質学者も地球物理学者も誰も予想さえしていませんでした。それは神さまのせいではありません』
『それに今、逆転現象が始まっても被害がこの程度で済んでいるのは、翼さまがお造りになったオービタルリングのお陰で世界に電気が供給され続けているからではありませんか!』
『そうです!屋内での農作物の栽培を進めていたから自給自足ができているのです。我がエディンバラ市もまだ、あと二年は持ち堪えられます』
『そもそも新平和条約が結ばれていなかったら、今頃、食料の奪い合いで戦争が勃発していたことでしょう』
『翼さま。大丈夫です。私たちはこの危機を乗り越えられます!』
『そうか・・・ありがとう。アンジェラ。お義父さま、お義母さま』
『それで・・・なのですが・・・アンジェラとの結婚式はどこでどの様に行いましょうか?』
『アナスターシャの時は確か、クレムリンでしたね?』
『基本的には妻の母国でと考えているのです。どこか結婚式ができる会場はありますか?』
『それでしたら、エディンバラ城の教会で結婚式は可能です』
『え?エディンバラ城は世界遺産なのですよね?市長の特権を使うのですか?』
『いいえ、誰でも結婚式はできるのです。それにエディンバラ城で結婚式をして頂ければ、スコットランド人の名誉でもあります。更に警備もし易い場所なのです』
『アンジェラはそれで良いのかな?』
『私はどこでも構いません。前は結婚式なんてやっていないのですから』
『お姉さま!前は、ってどういうことですの?』
『ジェイミー、私の古い前世は翼さまのお父さまの月夜見さまの千五百年前の娘なの。その時にも翼さまと結婚して子を成したのよ。でも千五百年も前のことでしょう?結婚式なんて無かったのよ』
『まぁ!本当に神さまの娘だったのですね?』
『えぇ、そうなのよ。だから昔は日本で生まれたの。だから今は日本語も話せるのよ』
『日本語!凄いわ!お姉さま!』
『ふふっ。ジェイミーも結婚式に参列してくれるわね?』
『勿論です。お姉さま、それに・・・お兄さま?それとも神さま?』
『ジェイミー。お兄さまで構いませんよ』
『え?神さまをお兄さまとお呼びしても良いのですか!』
『まぁ!ジェイミー、良かったわね』
『お母さま!私、明日、学校で自慢します!』
『あ!そうか・・・翼さま、このことは内密に進めた方がよろしいのでしょうか?』
『いいえ、逆に大々的に宣伝して頂ければ助かります』
『やった!それでは明日、学校でお話ししても良いのですか?』
『ちょっと待って、ジェイミー。明日はまず、市長であるお父さまから発表して頂きましょう。その知らせが無ければ、突然あなたがその話をしても、噓だと思われてしまうわよ』
『そうよ、ジェイミー。神さまと結婚できるなんて奇跡的なことなのよ。信じてもらえる訳がないでしょう?』
『あ。そうですね・・・お父さまの発表の後にします』
『それがいいね』
『では、結婚式の日取りは決めて頂いて構いません。式の時間になりましたら、城の上空にあの船で家族と一緒に参ります』
『アンジェラの衣装は、こちらの伝統の衣装が御座いますか?それともこちらで用意しましょうか?』
『それなら、私たちで衣装は用意させて頂きたいです』
『かしこまりました。ドレスの色はやはり白でしょうか?』
『はい。純白のドレスです』
『では、宝石はこちらで用意致します』
『あ、あの奥さま方がされているあの宝石・・・ですか?』
『アンジェラ、知っていたのですか?』
『はい。アナスターシャの結婚式は世界に放送されました。皆、あのアナスターシャがしていたネックレスやイヤリング、ティアラが恐ろしい程にゴージャスだって・・・』
『そうですね。値段は知らない方が良いでしょう。あぁ、でも地磁気の発生装置をフル稼働させる時からは、更にゴージャスなネックレスを常にして頂くことになりますけれど』
『まぁ!そんな大変なネックレスをして、レンジャーの仕事をしても良いのかしら?』
『構いませんよ。でも少しだけ重いかも知れません』
『宝石が・・・重い?』
アンジェラの家族は皆が顔を見合わせ、生唾を飲み込んだ。
『あ。大事なことをお伝えしていませんでした』
『はい。何でしょうか?』
『結婚式なのですが、きっと司祭さまがいらっしゃると思うのですが、それは私の父が役目を果たすことになるのですが、構いませんでしょうか?』
『はい。人前式ということですね。それを踏まえて式次第を決めさせて頂きます』
『それと妻たちがお祝いに歌を披露してくれると思います。できるならばオーケストラを用意頂けますと、より華やぐかと』
『かしこまりました。一週間以内に段取りさせて頂きます。式次第は娘からご連絡差し上げる様に致します』
『難しいかも知れませんが、お義父さま。お義母さま。私にはもっと砕けた口調でお話くださって構いませんので』
『え?い、いや・・・そ、それは・・・しかし』
『神さまなのですから・・・』
『でも義理ですが息子になるのですから』
『お兄さまって呼んで良いのですよね?』
『ジェイミー。良いんだよ』
『いぇーい!』
『では、善処致します』
『よろしくお願いいたします。アンジェラ、準備で忙しくなるだろうから、しばらく実家に居ることになるかな?』
『いいえ、私は今日から月の都で暮らします。用事があれば携帯端末で連絡し合い、瞬間移動でここへ飛んで来ますから』
『そうか』
『はい。では、お父さま、お母さま、ジェイミー、連絡は携帯にお願いね』
『ちょっと、アンジェラ、着替えとか必要なものは無いの?』
『お母さま、必要なものは既に向こうに全部揃っているの。下着までね』
『まぁ!なんてこと!』
『では、失礼致します』
『またね!』
「シュンッ!」
僕とアンジェラは船に瞬間移動し、船ごと月の都へと転移した。
お読みいただきまして、ありがとうございました!