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6.宇月発見

 そうして嫁探しは、当てもないまま一年が経過してしまった。


 マントルの動きは緩慢で、地磁気も弱いままだ。地磁気の発生装置は完成し、一応稼働させてはいるが、必要なだけの磁気は発生させられずにいる。


 そのため太陽風の強い日には地表に放射線が降り注ぎ、空は厚い雲に覆われ冬の気温が続いた。草木は枯れ果て、野生動物は弱いものから死滅し始めていた。そしてあり得ない地域でオーロラが観測される様になった。


 屋外で農作物が育てられなくなったため、世界的に穀物が不足し始めた。米や麦で作る日本酒やビール、蒸留酒は製造禁止となり食料へと回された。勿論、お菓子もだ。


 神星で作られた穀物が収穫される度に大型船で輸送されて来た。一度、国連本部へ入り、危機的な状況にある国から配給されて行った。


 その大型船はお父さんが転移させたのだ。穀物を降ろすと、月の都に接岸する様に出現した。今回はお母さま達も全員地球へやって来た。皆、心配してくれているのだ。


「翼、宇月うづき雨月うげつは、いよいよ見つからないみたいだね。地磁気の発生装置は完成したのだろう?」

「はい。完成して一応稼働はさせています。ですが出力が小さくて無いよりはマシと言ったところです」


「うん。それでも大地に降り注ぐ放射線が少しでも減らせるなら続けた方が良いね。地表に放射線が溜まってしまうと、全て取り除くことは至難しなんわざだからね」

「地表に放射線が溜まることは防げていますが、日が当たらず気温も低いので作物は育てられない状況です」


「それにしても、地球の動物たちが心配だな・・・絶滅してしまった種もあるのではないかな?」

「そうですね。特にアフリカは酷いと聞いています」

「そうだね。元々、生きるだけで過酷な環境なのだからね。これで草原が無くなれば、まず、草食動物が死ぬ。そして次には肉食動物も・・・」


「うーん。ちょっと見に行ってみたいな・・・」

「お父さま。アフリカへ行くのですか?」

「翼はどうする?」

「そうですね・・・行きます」


「船はどうしようか。あの大型船で行くのもね。エリー、ここの新しい船は空気の除染はできるのかな?」

「はい。月夜見さま。両船とも自動で除染されます」

「では、ここの新しい船で行こうか」

「はい」


 皆で地下二階へ行き、大気圏内用の船に全員で乗った。子供たちはメイドたちに見ていてもらうこととなった。

「翼、では私がアフリカへ飛ばすよ」

「はい。お願いします」

「シュンッ!」


「翼、ここはタンザニアのンゴロンゴロ保全地域だよ」

「あぁ、聞いたことがありますね」

「低空を飛んで状況を見て行こうか」

「はい」


 空は見渡す限り、どんよりと熱い雲に覆われている。地表は乾燥し、水溜まりすら見られない。木々は枯れ果て背の高い木はちらほら残っていても既に枯れている。計器で外気温を確認すると八度程しかない。赤道に近い地域だというのに・・・


 そして地表に動くものがない。鳥も飛んでいない。生物の気配が無いのだ。


「無残な光景だね・・・生き物が見当たらないな・・・ここは動物の楽園と呼ばれていたのに・・・」


 お父さんは悲痛な表情だ。そう言えば、お父さんは前世で医師だったけど、子供の頃は獣医になりたかったのだという話を聞いたな。そうであればこの光景は辛いだろう。


 あちらこちらに動物の白骨化した死骸が散らばっていた。皆、ハイエナや禿鷹はげたかに肉を食われたのだろう。


 しばらく低空を飛んで地表の状態を観察していると、先頭の席に座っていた桜お母さまの声が響いた。

「前方に小型船が停泊していますよ!」


 目をらして見てもうっすらと何か浮かんでいる様にしか見えない。そう言えば、桜お母さまの視力というか、千里眼の能力は凄いと聞いたことがある。


 お父さんはその小型船に向けて船を近付けて行く、するとそれは自然保護区のレンジャーが乗る小型船の様だった。


 船が自然の色に溶け込む様に迷彩色となっている。その船から縄梯子なわばしごが降ろされ、地上にはアフリカ象の親子の死骸が横たわっていた。


 その象のかたわらで、ひとりのレンジャーが膝と両手を地面に着いて悲嘆に暮れている様だった。そのレンジャーは外部被曝がいぶひばくを避けるための防護服を着ており、男女の区別は付かなかった。


「翼、あれはこの自然保護区のレンジャーみたいだね。ちょっと話を聞いてみようか?」

「はい。お父さま」

「今、この辺りの放射線量は分かるかい?」


 僕は船の計器の中から外気の状況をモニターしているものを見て答えた。

「今は、ほとんどありません」

「ではこのまま、船から降りても大丈夫だね」

「はい。長時間でなければ」


 真っ白な白鳥の様な船は音もなく地表に近付き地上三メートル程の高さで停止し、扉を開けた。

「シュイーン」


 僕らは扉から出るとそのまま弧を描く様に地表へと一人ずつ降りて行き、最後はお母さんが葉留の手を取って一緒に降りた。


 レンジャーは、そのもの音に気付いてこちらに振り返った。

『え?』


 そのレンジャーは心で小さく叫び、後ろにひっくり返りそうになるのを耐えていた。お父さんは、そのレンジャーが何語を話すのか分からないので念話で話し掛けた。


『こんにちは。私は天照です。あなたはこの自然保護区のレンジャーでしょうか?』

『は、はい。あなたは・・・天照さま?神さまなのですか?』


 レンジャーは英語で話している。頭からすっぽり防護服を着ているので男女の区別も分からなかったが、声を聞く限り、どうやら若い女性の様だ。僕らは皆、彼女の心を読んでいる。


『そう呼ばれていますね。少し、お話を伺ってもよろしいですかな?』

『はい。どうぞ』

『この自然保護区の動物はどのくらい生存しているのでしょう?』

『私が知る限り、大きな動物はこの子たちが最後でした。身体の小さな動物はもうほとんど残っていません。水も食べ物も無いのです』


 そう言うレンジャーの傍らには象の親子に与えようと思って持って来たのか、水のタンクとサトウキビ何十本かが無造作に置かれていた。その声は今まで泣いていたのか、涙声で震えていた。


『ここへ何をしに来られたのですか?』

『野生動物がどうしているのか視察に来たのです』

『視察?少し・・・いえ、大分遅かった様ですね・・・』


 あぁ、悲しみが怒りに変わっていくのが見える。彼女の心の中では、燃える様な怒りが沸き起こっていた。

『今更、見に来たって動物たちは生き返りはしない。神さまならこうなると分かっていたはずなのに、何故、今頃見に来たのかしら?』

 あぁ、彼女の思いは察して余りあるな・・・これは僕の責任だ・・・


『動物を保護する仕事をしているあなたにとってこれ程、つらいことはないでしょう』

『はい』

『私たちにとっても動物の死は辛いものです。ですが地球のこうした状況変化は何十万年に一度は必ず訪れることです』

『それは・・・そうなのでしょうが・・・』


『前にも言ったと思いますが、私たちは保険を用意しています。人間だけでなく、動物の保険もね』

『では、私たちは死滅するのが運命なのですか?』

『それを何とかしようと、私の息子である翼が地磁気の発生装置を創ったところです』


『見捨ててはいないと?』

『タイミングの問題です。今回は確かに野生の動植物までは守り切れなかった。でも人間はなんとか絶滅を逃れるかも知れません』

『まだ、助かるとは言えないのですね?』

『えぇ、諸事情がありましてね。簡単なことではないのです』


 レンジャーの怒りが徐々に収まっていくのが見て取れた。

『あぁ、私、神さまに向かってムキになってしまったわ。地磁気の逆転現象は神さまのせいではない・・・それに翼さまが地磁気の発生装置を創ってくださっていることはテレビで観て知っていたのに・・・』


『申し訳御座いません。私、神さまに向かって失礼なことを・・・』

『良いのです。あなたは動物を守ることで必死だったのでしょう?息子の翼も人間の未来を守ることで必死だったのです。でも地磁気の逆転現象はあまりにも突然だった』


『あ、あの・・・先程のお話・・・動物にも保険があると・・・』

『えぇ、あります。あなたはレンジャーであり、動物学者でもあるのですか?』


『あ!大変失礼致しました!私、自己紹介もしていませんでした!』


『私はスコットランドのエディンバラ大学で獣医学の研究をしております、アンジェラ エヴァンスと申します』

『獣医学ですか・・・それは素晴らしい!アンジェラ。私は天照、そしてこちらは私の九人の妻たち、こちらが息子の翼と五人居る内の四人の妻と妹です』


『あの、皆さまは神さまだから放射線は大丈夫なのですか?』

『いえ、今、この辺りの線量が少ないことを確認したので防護服を着ていないのですよ』

『あ!そうなのですね!あ。それなら私もこの格好では失礼でしたね。申し訳御座いません!』


 そう言って、アンジェラは慌てて防護服を脱いだ。レンジャー服を着たその姿を見て皆が驚いた。


『ちょっと!あの娘!』

 新奈が念話で叫んだ!

『まさか!ジンジャーと同じアッシュブロンドの髪に緑の瞳、それに胸が!』

 そう、胸がレンジャーの色気も何もない制服のシャツのボタンが弾けそうな程に大きかった。しかも、化粧を一切していないのに大変な美人だ。


『あの娘、宇月うづき雨月うげつの生まれ変わりなんじゃないの?』

『これは・・・可能性はあるね』

『なんでこんな時にアネモネは居ないのかしら?』

『そうだね。アネモネが居ないから確認はできないね。でもどちらかと言えば宇月なんだろうな。彼女の性格から考えて、転生したら医師とか看護師、学者になるかなと思っていたんだ』


『学者で獣医師なのね』

『紗良も看護師だったね』

『そうね・・・でも私にはあの娘が私の前世の娘かどうかは分からないけれど・・・』

 お父さんと紗良お母さまが冷静につぶやいた。


『あ!もうひとつ、決定的な証拠があるよ!』

『え?証拠?宇月の?』

『ほら、髪をポニーテールにしていて、緑のリボンで結んでいる』

『あ!本当!あれって、私の青いリボンと同じね』

 アナが嬉しそうに言った。どうやらかなり可能性が高い様だ。


『アンジェラ。神星に動物の保険もあります。ここと同じ環境の地に動物保護区があるのです。ここに居た動物はほとんどの種類が保存されていますよ』

『天照さま、それでは地球の地磁気が戻って環境が回復したら、そこから動物を戻してもらえるのですか?』

『えぇ、そうです。アンジェラ、良かったら一度、その保護区を見に行きますか?』

『え?私が神の星へ行けるのですか?』


『アンジェラが望むならば構いませんよ』

『それは・・・是非、行きたいですけれど・・・』

『行きたいけれど?何か不安ですか?』

『またここへ帰って来られるのでしょうか?』


『えぇ、私たちが二つの世界を行き来している様に簡単に行き来できますよ。そして翼の地球の友人も連れて行ったことがありますが、ちゃんと戻って来ていますよ』

『それならば行きたいです!』

『ところで、アンジェラ。女性に聞くのは失礼ですが、年齢を伺っても?』

『はい。二十四歳です。確か翼さまと同じ歳だと思います』


『やっぱり!』

『え?何がやっぱり、なのですか?』

『ねぇ、アンジェラ。あなた交際している男性とか夫は居るの?』

 新奈が笑顔でずけずけと質問をぶつける。


『い、いえ、私は動物の研究に明け暮れていますし、暇さえあればここへ来ていますから、彼どころか友人も少ないのです』

『そう。では翼を見てどう思うかしら?』

『え?翼さまですか?』

 アンジェラの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。


『な、なんでそんなことを聞かれるのかしら?どういうこと?どう思うって、こんなに素敵な人・・・実物を見たら・・・でも、私がそんなこと・・・』

 アンジェラは心の中で動揺し、己と葛藤している。が、恋の話には慣れていないのか言葉にはできない様だ。


『ほら、もう翼が好きじゃない!決まりでしょう?』

『でも、実物の翼を目の前にして恋に落ちない女子は居ないのでは?』

『それはそうだよね。だから、神星に連れて行って保護区を見せるついでにアネモネに会わせようよ』


『お父さま、それが一番早いですね!』

『そうと決まれば、一気に畳み掛けてしまおうか』


『アンジェラ。では今から神星へ連れて行くよ』

『え?今からですか?』

『動物の保護区を見に行くだけですからね。瞬間移動だから全部で二時間くらいしか掛からないですよ。それ位の時間なら大丈夫でしょう?』

『はい。二時間なら・・・構いません』


『では、皆、船に乗って』

 僕らは船に乗った。アンジェラは僕が手を取り、船まで空中浮遊した。彼女は怖いのか恥ずかしいのか分からないけど真っ赤な顔をしていた。


「シュンッ!」


 瞬間移動した先はフロックス王国のサバンナのサンクチュアリだ。

『うわぁ!動物たちがあんなに!』

 アンジェラが興奮して大きな声を上げ立ち上がった。


『あぁ、象が群れで・・・シマウマやキリンも!水牛やインパラ、カバもクロサイも居るわ!』

『アンジェラ。ここの動物はノアの箱舟の様に地球から種の保存のために移住させ、増やされたものだ。地球の環境が戻ったら、このファミリーの中から選りすぐって地球へ転移させれば良いんだ』

『なんて美しく、素敵な世界でしょう!』


『アンジェラ、しばらくここに残りたいのではなくて?』

『はい。許されるなら一日中眺めていたいです』

『今はこの保護区をゆっくり一周するだけで我慢してくれるかな?』

『はい。神さまの世界に来られただけでも凄いことなのに贅沢を言ってはいけませんね』


『アンジェラ、この保護区を見た後で会って欲しい人が居るんだ』

『私がお会いするべき人が神の世界に居るのですか?』

『僕の妻だよ。ここに居ない妻だ』

『翼さまの奥さま・・・こちらに住んでいらっしゃるのですか?』

『うん。神星のグースベリー王国という国の王女なんだ』


『王女さま!私が王女さまに謁見するのですか?』

『王女さまと言っても、僕の妻だからね。ここに居る四人と何も変わらないよ』

『あ。そうでした。皆さまは神さまなのでした・・・』

 アンジェラは真っ赤な顔になっている。


 サンクチュアリを一通り見て回ると、グースベリー王城の庭園に飛んだ。

「シュンッ!」


『あ!ここは?急に景色が変わったわ!』

『アンジェラ、瞬間移動したのよ。ここはグースベリー王国の王城の庭園よ』

『まぁ!なんて素敵なお城!』


 僕らが庭園に降り立つと、城からアネモネと陽翔はると兄さんが二歳になるアルバートを抱いて出てきた。


「まぁ!地球の船で来たのね?あら!宇月じゃない。見つかったのね」

「え?アネモネ。彼女はやっぱり、宇月で良いのだね?」

「えぇ、間違いないわ。宇月よ。本当に髪と瞳の色がメイドと同じだったのね」

「あぁ、良かった。宇月が見つかったのね。これであとは雨月だけね」


『アンジェラ、ありがとう。ここへ来てくれて』

『え?翼さま。何故、私にお礼を?』

『まだ、記憶が戻っていないのだから無理もないわね。アンジェラ。あなたは千五百年前、そこにいらっしゃる紗良お母さまの娘だったのよ』

 望は微笑みながらアンジェラに説明した。


『え?それって、翼さまが探しているという、お嫁さんの候補のことですか?』

『なんだ、知っていたんじゃない。そうよ。あなたが翼の妻になるのよ』

『え?私が?』

『アンジェラ、妻の公募は知っていたみたいね。候補の特徴とあなたは全て一致しているじゃない。そのアッシュブロンドの髪、緑の瞳、Gカップの胸。その応募基準は見なかったの?』


『それは・・・一応見ましたし、知っていました。でも私のはずがないと思って。それにアフリカの動物たちのことが心配で・・・それどころではなかったのです』

『それはそうだよね。動物たちの一大事の時に自分の結婚なんて考えている場合ではないよね?それにまだ結婚を急ぐ歳でもないのだから』

『翼は優しいわね』


「お父さま、ありがとうございました。お父さまにアフリカへ行くと言って頂かなかったらアンジェラを見つけることができませんでした」

「流石、月夜見さま!嫁探しが得意ね」

「琴葉、私の嫁ではないのだけどね」


「宇月でこれ程難しかったのですから、雨月はもう絶望的です」

「翼、そんなに内向的な娘なのかい?」

「はい、お父さま。雨月は自分で決めることをしない娘でした。どんなことでも人に決めてもらってニコニコして従う娘なのです」


「それでは自分から応募はして来ないだろうね。人の推薦があれば別だろうけど」

「推薦でもきっと、自分なんてと遠慮するでしょうね」

「それは大変だ!」


「ところで翼、アンジェラとはどうやって進めるの?ここでプロポーズする?」

「アネモネ、それはちょっと性急過ぎるかな・・・」

 アンジェラは日本語が分からないので僕らの会話が分からず、きょとんとしている。


『アンジェラ、突然のことで戸惑うと思うけれど、どうやら君は神の生まれ変わりの様なんだ。そして今、地球を守るためにどうしても必要な人なんだよ』

『私が?神の生まれ変わりなのですか?』

『うん。そうなんだ。それはこれから前世の記憶を取り戻せば分かることなのだけどね』

『どうしたら記憶が戻るのですか?』


 僕はアンジェラの耳元に顔を寄せ、英語で伝えた。

「僕とキスをするかそれでも戻らなければセックスするんだ」

「本当に?」

「嫌かな?」

「あ!それは・・・い、いいえ」

「では、地球に戻ってからお願いしても良いかな?」

「は、はい・・・」

 アンジェラは真っ赤な顔になり、両手を口に当てて驚いていた。


「あ!でも!」

「でも何だい?」

「翼さまの妻になって、あの月の都で暮らす様になったら、動物たちのところへ行けなくなるのではありませんか?」

「アンジェラ。神の力が戻ったら、アンジェラは好きな時にスコットランドの実家やアフリカのサバンナへ瞬間移動できるんだ。いつでもどこへでも行けるんだよ」


「まぁ!それなら動物の研究を諦めなくても良いのですか?」

「勿論だよ。それだけじゃないよ。神の力が戻れば、動物と念話で話をすることもできるんだ」

「動物と会話が?嘘でしょう?」

「嘘じゃないよ。ここに居る全員が動物と会話ができるんだよ」

OH MY GODなんてこと!」


「翼さま。私、翼さまと結婚します!いいえ、結婚させてください!」

 アンジェラの凄い圧で圧倒されてしまう。そんなに動物が好きだったのか・・・


「分かったよ。アンジェラ。落ち着いて。動物と会話ができるのは本当のことだからね。でも結婚は本当に良いのかな。もっと考えた方が良いのでは?」

「だって、こんなに素敵な男性なのですよ。考える必要なんてあるのでしょうか?」


『翼、あなた慎重過ぎるのよ。宇月がそう言っているんだから、さっさと頂いてしまいなさい』

『アネモネ。それで良いのかな?』

『この非常事態に何を悠長なことを言っているの?宇月が良いって言っているんだから良いのよ』


『そうよ、翼。宇月は必ず幸せになるわ。心配は要らないわよ』

『翼、私もそうだったから分かるのです。宇月お姉さまは絶対に後悔しません。大丈夫です』

『アナ。君がそう言うなら大丈夫かな・・・』


『ちょっと、翼、私の言うことは信用できないの?』

『アネモネ。違うよ。一緒に育ったアナの言うことだからそう言ったんだ』

『良いわ、分かったわよ。それじゃぁ、アンジェラでしたっけ?翼と結婚するのね?』

『はい。是非!』

『これでめでたしめでたしね』


「アネモネ、ありがとう。それでは今日はこれで失礼するよ」

「はい。お父さま。翼、雨月も頑張って探してね」

「ありがとう、アネモネ。またね」


「シュンッ!」

 僕らは一度、地球の月の都へと戻った。


「ここはどこですか?」

「日本の月の都だよ」

「あ!あれが低軌道エレベーターですか!」

「そうだよ。実物は初めて見るのかな?」


「はい。初めてです。あぁ、素晴らしいお城ですね!」

「僕と結婚したらここに住むことになるんだよ。実は君の部屋は既にあって、衣装も揃っているんだ」

「え?衣装まで?」

「うん。見て行くかい?」


「え?見ても良いのですか?」

「勿論だよ。君のために用意されているのだからね」


「翼、それでは私たちは帰るよ。雨月のことで何かあったらいつでも言ってきなさい」

「はい。お父さま。ありがとうございました」


「シュンッ!」

「あ!天照さまが消えてしまいました」

「うん。あそこに見えている大型船で穀物を運んで来てくれたんだ。神星へ帰るんだよ」


「シュンッ!」

「あ!船が消えてしまいました!」

「さぁ、アンジェラ。城の中を案内するよ」

「はい」


 一階から順番に見せて回り、四階のアンジェラの部屋へ入った。

「こんなに広いのですか?ここを私一人で?」

「広いけれど動物は連れ込まないでね」

「そ、そんなことは致しません!」

「ここが衣裳部屋だよ。ドレスを見てご覧」


「まぁ!素敵な衣装!どれも私の好きな色ばかりだわ?翼さま、私の好みを知っていたのですか?」

「いいえ、これは始祖の天照さまが用意してくださったんだ。始祖の天照さまは何でも知っているんだよ」

「私の下着のサイズまで?」

 アンジェラが真っ赤な顔をして、ブラジャーを手にしていた。


「う、うん。何故かね・・・」

「でも、それも素敵なものばかりです」


 気付くとアンジェラの部屋には、僕とアンジェラの二人だけになっていた。いつの間にか妻たちは瞬間移動して消えていた。それって、キスしろってことか・・・


 そんな急展開で良いのだろうか?でも緊急事態なんだものな・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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