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4.驕りと慢心

 テレビを使って全世界へ向けての公開嫁探しが始まった。


 メインキャスターが打ち合わせ通りに質問をしてくる。

「天照さま、今いらっしゃる奥さまの他にあと二人、奥さまの候補がいらっしゃるということですね?」

「はい。そうです」

「そのお二人は今、どこにいらっしゃるのか、天照さまでもお分かりにならないのですか?」


「えぇ、残念ながら。ここに居る五人の妻も私と知り合ってから千五百年前の記憶を取り戻し、そして神の能力も復活しているのです。私に出会うまでは普通に人として暮らしていましたから」


「それではお探しのお二人は、今は何も知らずに普通の人間として暮らしていらっしゃるのですね?」

「えぇ、そうです。しかも年齢も分かりません。可能性としては、下は五、六歳から上は四十歳位まであり得るのです」


「奥さまの候補の手掛かりがあるとお聞きしたのですが・・・」

「はい。ではここに私の月の都でメイドをしているアンドロイドを呼び寄せましょう」


「シュンッ!」

「まぁ!なんて美しいお嬢さん方でしょう!」

「天照さま、このお二人は月の都でメイドをされている方々なのですか?」

「はい。二人はアンドロイドです」


「え!?アンドロイド?え?人間ではないのですか?」

「え?どう見ても人間にしか見えないのですが・・・」

「えぇ、これが神の世界の科学技術です」


「話が逸れましたね。この二人の特徴が妻と共通するのです」

「奥さまになる方のお姿が、このお二人と似ているのですね!」

「お一人は、ストロベリーブロンドに赤い瞳で白い肌。もうお一人は、これは・・・アッシュブロンド?の髪に緑色の瞳で白い肌。ですね」


「それでは、白人である可能性が高いのですね?」

「そうですね。恐らく日本人にこの髪と瞳の色の人は居ないでしょう」

「他に分かっている特徴はあるのでしょうか?」

「そうですね。それは、グリニッジ標準時で今夜0時から公開されます、公募サイトに応募基準として掲載されますので、そちらを参考にして頂ければと思います」


「そのサイトで天照さまの奥さま候補に応募することができるのですね?」

「はい。そうです」

「応募できる年齢に制限はあるのですか?」

「年齢に制限は御座いません」


「でも、誰でも応募できる訳ではないのですよね?」

「応募条件に当てはまる方であれば、まずはプロフィールを登録できます」

「一次審査を通過した方は、二次審査で面接と身体測定を受けて頂きます。それをパスした方は私と面会することとなります」


「でも・・・天照さまの奥さまに・・・女神さまになるお方ということですよね?」

「えぇ・・・そういうことです」

 その時、後ろの大型モニターにお父さんと八人の女神の映像が映し出された。


「ご覧ください。天照さまと八人の女神さま・・・そしてここにいらっしゃる五人の女神さま・・・皆さま揃って絶世の美女でいらっしゃいます。当然、あと二人の奥さまも大変な美女であることは間違いないですね・・・」


「私は容姿でお相手を選ぶ様なことはありませんよ」

「あなたなら、応募できますか?」

「そんな!滅相も御座いません!」

 キャスターとアナウンサーが滑稽こっけいなやりとりをしている。だが、これも決まった演出だ。


「女神さまは皆さま、大変な美女ばかりです。応募を躊躇ちゅうちょされる方が多いのではないでしょうか?」

「それは日本人的な考えというものでしょう。謙遜は美徳など、日本の古い考えです。今は違うと思いますよ」


「それに、妻を全世界に向けて公募するなど、普通に考えてあり得ません。しかしそんなことを言っていられない緊急事態なのです。その二人が現れない限り、地磁気は安定せず、地球の生物は絶滅する可能性もあるのですから・・・」

「はい。おっしゃる通りですね。これは地球の命運を握る、大変重要なことなのですね」


「皆さま、お知り合いの方に奥さま候補に相応しいと思われる方が居らっしゃれば、推薦という制度も設けておりますので、公募サイトをご確認頂ければと存じます」

「天照さま、本日はありがとう御座いました。一日も早く、奥さまが見つかることを願っております」


「ありがとう。皆さま、よろしくお願いします」


 番組が終わり、キャスターとアナウンサーと雑談を交わした。

「翼さま、このシナリオは応募者のハードルを少し上げているのですか?」

「そうですね。地球の人口から考えれば女性の数は三十億人以上居るのです。いくら髪の色や瞳の色を指定したとは言え、まだ相当な数が対象になるでしょう」


「それだけの応募者から見つけるだけでも大変な作業になってしまうのです」

「そうですね。それで敢えてハードルを上げたのですね」

「でも、絶世の美女だと自分でも自信を持っている人でないと応募はできないのではないでしょうか?」


「いえ、それは日本人の考え方ですよ。欧米の女性はそんな風には考えません。ただ、チャンスだと思うだけですよ。もしかしたら赤毛でなくても染めれば良いんだと思ってしまうのではないかな?」


「勿論、地毛でないと駄目なのですよね?」

「はい。髪色も地毛ですし、瞳の色もカラーコンタクトではNGです。その辺は応募条件に示しますし、身体検査もそのためにするのです」


「でも、年齢に制限が無いというのには驚きました」

「えぇ、例え四十歳の方でも、本物ならば神の能力が発現すれば十代後半の姿に戻っていくのです。問題は子供だった時です」


「例えば五歳の候補が出てきた時、どうやって本物かどうかを見分けるのですか?」

「それはアネモネに頼みます。彼女は千五百年前の姉妹を見分けられるのです」

「まぁ!それならば、最終面接でお会いすれば分かるのですね?」

「えぇ、そうですね」


「天照さま、一日も早く見つかることをお祈りしております」

「えぇ、ありがとう」

「本日はありがとう御座いました」


「では、帰ろうか」

「はい」

「シュンッ!」


 僕らは月の都へと帰り、サロンに集まった。

「お兄さま、お帰りなさい」

「ただいま、お母さま、葉留。テレビを観ていたかい?」

「えぇ、ネットの情報も同時に検索しているのだけど、早速、ストロベリーブロンドとアッシュブロンドのヘアカラーに注文が殺到しているみたいですよ。赤と緑のカラーコンタクトもね」


「かわいそうに。ネットで応募条件を見たらそれじゃ駄目だと分かるのに。テレビで言っておくべきだったかな?」

「言ったとしても同じじゃないかしら、きっとお兄さまの奥さま候補の気分に浸りたいのでしょう・・・」

「そうね。それが女心ってものね」

 望がもっともらしく同調している。


「え?でも、それだと応募条件の「Gカップ」を見たら豊胸手術の希望者も増えるのでは?」

「あぁ、それは条件に大きく注意書きしてあるよ。ヘアカラー、カラーコンタクト、豊胸手術、乳房縮小術はNGだし、審査が進めばその個人の意識に入って心を読むこともあり得るので嘘は通用しません。ってね。そのために身体検査もするのだからね」


「そうね。それくらい厳しくしないと候補者が多過ぎて一次審査だけでも大変よね」

「うん。僕も地磁気発生装置の設計が全て終わっていて、あとは現場からの問い合わせ対応くらいだから審査ができるけど、応募件数次第では眠る時間も取れなくなりそうだよね」

「私たちも手伝うわ。しばらくはそれに掛かりきりになりそうね」

「地球の命運が懸かっているのだから、頑張りましょう!」

「そうね!」




 その翌日、応募件数は十二万人を軽く超えていた。

「思ったよりは少ないかしら?」

「いや、それでも多いよ。世界中のストロベリーブロンドとアッシュブロンドの女性が応募したんじゃない?」


「ところで、ストロベリーブロンドってどの辺に多いのかしら?」

「いや、ストロベリーブロンドの定義自体が曖昧みたいだね。本物のストロベリーブロンドは、地球ではそう居るものではないみたいだね」


「確かに、神星ではお母さまに三人もいらっしゃるから特別な感じがしないのだけど、地球で見たことはないわよね?」

「そうね。ストロベリーブロンドと言うより、ピンクに染めちゃった!みたいな感じしか見たことはないわ。桜お母さまやアネモネだって、ブロンドに少し色がついているというか光の加減でそう見える時があるって程度ではないかしら?」


「そうね。どちらにしても色素は薄そうだから、寒い地方の人でしょうね」

「アッシュブロンドも同じね。どちらもヨーロッパ全般に分布するのでしょうね」


「さて、片っ端から見て行こうか」

「そうね。皆で分担していきましょう」

「それで、どうやって選別すれば良いのかしら?」

「まずは髪と瞳の色をチェックして本物でなかったら不合格で。分かり難い時は、写真からその人の意識に入って確認してみて」


「そうね。まずは分かり易い偽物を落とすのね」

「そういうこと。落とさない場合は、何か特技とか美しさとか惹かれるものがあれば、星マークでも付けておこうか」

「分かったわ」


 それからひと月。応募者は五十万人を超えた。最早、神星の全人口を超えた数だ。後の方から応募してくるのは、いわゆる偽物ばかりだ。

このひと月で一次審査を通過したのは、僅か五十三名しか居なかった。


 その中でも二次審査へ進み、身体検査で豊胸手術がバレたり、胸がCカップあるのに無理にAカップで抑え込んでいたりする娘が見つかって落とされた。

結局、僕と面談できたのは十名だけだった。


 五十万人中の十人だけあって、結構な美人が多かった。ただ、身長はまちまちだった。中には無理にダイエットしたのか体調が悪くなっている娘も居た。


 超能力が使えると言う娘には期待したのだが、結局はただの手品だった。でも、性格が可愛い子だったので笑顔で接してあげたけど・・・


 他には歌が上手いとか、ダンスが得意とか、十か国語が話せるとか、最早、何かのコンテストの審査みたいだった。


 それら十名も、審査後にアネモネに写真を見てもらったら、あっさり全員不合格となった。


 初めからアネモネに見てもらうのが一番早くて確実なのだが、余りにも応募数が多く、一歳の子の子育てをしていて、たまにしか地球に来なくなったアネモネに全部見てくれとは言えなかったのだ。


 仕方なく、国営放送に情報を流して、まだ候補者が見つからないと放送してもらうと、一週間位はまた応募者がぽつぽつと上がって来ていた。でも、応募者の質は落ちる一方だった。


「翼、千五百年前の世界へ行って、二人と会って来たら?」

「新奈、それも必要なことだとは思うのだけど・・・今の地球を放置して向こうの世界でのんびりするなんて考えられないな」

「今まで何回、向こうの世界へ行っているのですか?」

「アナ、向こうには一度だけだよ。一年居て帰って来たんだ」


「もしかして、一年間向こうに行っていて、地球の一年後に戻ったのですか?」

「それはそうだよ。そうしないと僕だけ一歳多く歳を取ってしまうでしょう?」

「でも、タイムマシンなのですから今日出発して、向こうに何日滞在しようとも、再び今日に戻って来ることは可能ですよね?」


「でもその分だけ、僕は余計に時間を過ごしていることになるよ」

「この前、天照さまから翼が千五百年前に行くスケジュールを頂きましたよね?あれを見る限り、時間にして三年分位しか向こうで過ごす時間はありませんでしたよ」

「あぁ、八人の妻に対して二晩ずつ過ごす様にして一年に一度程度しか行っていないからね」


「五百年の寿命の中で、三年なんて大した時間ではないのではありませんか?」

「つまり?」

「今、集中して向こうの世界の二十年分位をまとめて訪問してしまえば良いではありませんか」

「あぁ、十六日間滞在して戻って、を繰り返す訳だね?」


「例えば、夜、眠る前に出発して、同じ時間に戻って来れば、こちらは何も変わっていないのです。でも、翼には向こうの世界の情報が蓄積されているのです。身体は疲れ難いのですから問題ないですよね?」


「そうか・・・アナの言う通りかも知れないね。今は少しでも宇月うづき雨月うげつの情報が欲しいものね」

「そうね。アナの意見に賛成するわ」


「では、今晩から向こうの世界へ行って来るよ」

「えぇ、向こうの私たちによろしく伝えてね」

「それ、何だか変だな・・・」


 僕はそれから、スケジュール通りに千五百年前の世界へ飛んだ。まずは初めに行った時の一年後だ。五人の妻たちの子に再び会えるのだ。お土産はチョコレートだ。

「シュイーン!」

 青い光の粒に包まれながら千五百年前の世界へと飛んだ。


「シュンッ!」


 屋敷の上空に現れると、ゆっくりと庭へ降りて行った。僕を見つけた巫女たちが走って奥へ知らせに行った。すると、わらわらと屋敷の奥から人が出て来て、廊下に立ち並んだ。

「皆さん、お久しぶりです」

「翼さま!」

「翼さまがいらっしゃったわ!」

「翼さま!」


 廊下には、月夜見さまと八人の女神たち、それに五人の娘が各々、子を抱いて立っていた。

璃月りづき羽月はづき月花つきか月代つきしろ光月みづき。皆、元気だった?」

「はい!翼さま。あなた様のお子ですよ!」


 一歳になった、颯月そうげつ希月きづき優月ゆづき秋月あきづきと生後二か月の月翔つきとと対面した。

すると、三人の子が空中を浮遊しながら僕に近付いて来た。それは宇月と夢月、雨月だった。

「君たちは、宇月、夢月、雨月だね。よろしくね」


 三人は「あー」とか「うー」とか言いながら僕に抱きついてきた。皆、僕の頬にキスしたり、頬擦ほおずりしてくる。僕は思わず笑顔になってしまった。


「まぁ!この娘たち、もう翼さまのことを分かっているみたいね」

「羽月、未来の旦那さまになることを?」

「えぇ、そうよ。分かっているみたいだわ」


「翼さま、今回は何日滞在できるのですか?」

「十日間滞在するつもりだよ」

「ひとり二晩なのですね?」

「うん。少なくてごめんね」

「良いのです。来て頂けるだけで幸せなのですから!」

 璃月が笑顔で答えた。ちょっと心が痛い・・・


「月夜見さま、天照さまに謁見できないでしょうか?」

「うむ。聞いてみよう。部屋で待ちなさい」

 一年前に滞在した時と同じ部屋へ入ると、前と同じ巫女たちが泣きながら待っていた。


「翼さま!」

「あぁ、皆、元気だったかな?子供たちも元気かい?」

「はい。翼さま。皆、元気です」

 五人の巫女が僕を取り囲む様に抱きついている。


「それは良かった!」

「また、子を授けてください!」

「うん。分かったよ」


 それからしばらくして、僕は天照さまの謁見の間へ入った。天照さまは以前と何も変わらない姿で僕に柔和な笑顔を向けていた。

「翼、久しぶりですね」

「ご無沙汰しております」

「私がこちらに移った後、何かあったのですね。報告を聞きましょう」

「はい。天照さまがこちらへ立たれてから三年後、地球の地磁気は失われてしまいました」


「おや、早かったのですね?」

「天照さまはご存じなかったのですか?」

「私はこちらに来るまでのことしか知らぬのでな。その後のことは私の記憶を引き継いだ次の者が知ることです」

「困っているのです。地磁気を発生させる装置は完成したのですが、宇月と雨月が見つからないのです」


「あぁ、あれは十人の神の力で磁気を増幅させる仕組みでしたね」

「何故、それをご存じなのですか?」

「神星の地磁気発生装置は、翼が創り出したものだからですよ」


「え?あれもなのですか?」

「あれが無ければ、神星のテラフォーミングはできないのですからね」

「あぁ、そうでした・・・」


「それで・・・今の天照さまは、宇月と雨月のことも、この事態をどう打開すべきかも、何も教えて下さらないのです。このままでは地球の生物は危機に晒されてしまいます」

「人間が死に始めているのですか?」

「いえ、人間はまだ大丈夫です。でも野生動物や植物は死滅し始めています」

「それで、私に聞きに来たのですか?」


「天照さまを頼って来た訳ではないのです。宇月と雨月の生まれ変わりを見つける手立てはないものかと考えて、こちらの二十年分を見に来ることとしたのです」


「ふむ。なるほど・・・それは大変なことですね・・・」

「天照さまは地球の生物が、ある程度間引かれた方が良いとお考えなのでしょうか?」

「ふむ・・・それもあるかも知れませんね・・・翼は八十億人という地球の人間の数は適正だと思うのですか?」

「いえ、多過ぎるとは思っていますが・・・」


「でも、目の前で死なれるのは気分が悪い・・・ということですか?」

 天照さまの美しい顔から、氷の様に冷たい言葉が投げ掛けられる。


「いえ、そんなことは思っておりません。命は軽んじられてはなりません。簡単に間引かれても良い命など無いのです」

「命か・・・では、翼にとって人間と動物の命は同じ重みなのですか?」

「それは・・・今はやはり、人間を優先してしまいますね・・・」


 頭がじりじりと焼けつく様な焦燥感しょうそうかんに襲われる。自分でも稚拙ちせつなことを言っているのが分かっているから・・・


「うむ。既に動物や魚、昆虫の命は考えていないのでしょう?」

「そこまでの余裕は・・・無い、ですね・・・」

「では聞くが、翼は大型船を沢山造って、いざとなったら神星へ逃がそうと考えていましたね?」

「はい。そのために異次元空間移動装置を創ったのですから・・・」


「では、誰を神星へ逃がし、誰を地球で見殺しにするのですか?」

「いえ、それは・・・その様な選別はできません」

「ほう。では神星に八十億人の人間が生きて行けるだけの食料があると思うのですか?」

「それは・・・ありません」

 僕の思考は完全に停止した。自分の考えの甘さに我ながら呆れる。


「天照さま、私の考えが浅はかだったのです。心のどこかで地磁気の逆転現象など直ぐに起こるものではないと軽く考えていたのでしょう・・・」

「うむ。そうですね。翼は人間たちから神と呼ばれる存在となった。だが、所詮はひとりの人間だ。未来を見通し、全てに備え、間違わずに人間たちを導くなどできるものではないのです」


「それをするということは、全ての責任を負うということでもある。だがそれは人間にとって都合の良い神というものであろう?」

「そ、そうですね。昔から人間は神にすがって生きて来ました」

「そう。人間は普段は神のことなど考えもしないのに、困った時だけ神に縋るのです。だがな、神も人間の望に応えて来たかな?」


「いえ、必ずしもそうではないと思います」

「うむ。私は人間の健康や願いなど、聞きもしなければ叶えたこともない。今回も同じです。人間の世界は創ったがな。どうするかは人間に任せている」


「そして、人間は間違う生き物だ。その時のために保険は用意している。でも、直接助けはしない」

「私はどうすれば良いのでしょう?」

「今のままで良いのです」

「今のまま?」


「翼にできることをできる限りやれば良いのです。できないことはやはり、できないのですよ。翼の父も同じことで悩みましたよ」

「お父さまが?」

「そうです。目の前の病人を助けたいと。しかし、たった一人の人間が、全世界の病人を全て救うことはできないのです」


「そうですね・・・つまりそれは、全てを助けることは不可能だ、と」

「そうなのかも知れません」

「そうですね。僕は少し増長していたのかも知れません。慢心もあったのでしょう」


「人間とはそういう生き物です。翼は重要な役割を担うため、大きな能力や高い知識を持って生まれたのです。そしてできることをした。そのお陰で地球と神星のふたつの世界は大きく救われたのです」


「例えあなたがおごりや慢心から間違いを犯したとしても、これだけの功績を打ち立てたあなたを、褒めたたえることはあってもさげすむ者は居ないでしょう」

「そうでしょうか・・・」


「えぇ、そうですよ。翼。切り替えなさい。璃月たちに暗い顔を見せてはなりませんよ。あの娘たちには希望を授けてください」

「はい。そうですね。ありがとう御座います」

「良いのですよ」


 僕は謁見の間を出ると、そのまま海岸へと瞬間移動した。

「シュンッ!」


 砂浜にひとり座り込み、美しい海を眺めた。


 僕は己の未熟さを知り、恐怖に震えた。


 僕は今まで、もの作りの視点でしか事を考えて来なかったのだ。あれがあれば便利、あれなら環境を回復できる。その延長でこれがあれば人の命も救える。


 でも、その考えは上辺だけだった。真剣に細部まで計画を立てた訳ではない。自分が作りたいものを作る正当性のための理由付けをしていたに過ぎないのだ。


 確かに天照さまに操作され、創ったものもあるだろう。その成果として神星のテラフォーミングは成功し、保険の星は生まれた。


 でも、それは僕が望んだものではない。僕が望んだのは破壊された地球の環境を元に戻すこと。そして万が一への備えだ。


 そしてその備えが間に合わなかった。それは僕の考えの甘さだ。


 でも、起こってしまった地磁気の逆転現象は止められない。天照さまの言う通り、もうどうすることもできないのだ。


 あとは悲観することなく、投げやりにならず、今自分にできることをするしかない。それだけだ。


 僕は十日間を笑顔で過ごし、璃月たちや巫女たちに新たな命を授け、現代へと帰った。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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