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2.アナとの結婚式

 大きな月の都に移って一週間が経過した。元の月の都は世界を回遊し始めた。


 今日は友人たちを招待している。徹と榊首相夫妻、巧の家族と美樹先輩の家族、更に新奈と望、アナの家族。それに早苗お母さんの家族も全員呼んでいる。


 妻たちは自分の衣装部屋に用意されていた、この城に相応しいドレスを着て出迎えた。

皆で各々の家族を庭園へ、次々と転移させた。


「翼、とんでもなくデカい島を浮かべたものだな!」

「徹、そうだね。僕も驚いているよ」


「おいおい、あの美女たちは?」

 城の玄関にアンドロイドのメイドが十二人立ち並んでいる。

「巧、見ての通りのメイドだよ」

「やっぱり、アンドロイドなのか?」

「そうだよ」


「それより、翼。あのお方って、この前テレビで観たロシアのお姫さまなんじゃ?」

「うん。アナスターシャだよ。婚約したんだ」

「何?ロシアのお姫さまと?!」

「それじゃぁ、あれは本物のロシアの大統領か?」

「うん。そうだよ」

 その時、アナのメイドのカレンデュラが大統領夫妻の傍らに行き、挨拶した。


「うわ。ロシア語で何か話しているぞ」

「あれは、アナ専任のメイドなんだ。通訳を買って出ている様だね」


 そして、ヴォルコフ大統領は榊首相とカレンデュラの通訳を介して話し始めた。思わぬところで日ロ首脳会談となっている。


「とっても素敵なお城ね!前のお城も可愛くて素敵だったのだけど」

「美樹先輩。今日は楽しんでいってくださいね」

「ありがとう!それにしても皆、元気そう!ドレスもお城に合っていて素敵ね!でもドレスのせいでなく、何だかみんな綺麗になったみたい!特に翼君のお母さまが・・・」

「あぁ、美樹には言っていなかったわね。実はね、私たち寿命が五百年になってしまったの」


「え?五百年?望。それ、どういうこと?」

「始祖の天照さまから新たなお役目を授かったのよ。そのために寿命が五百年になったの。だから、私たちの身体は十代後半の状態をずっと維持し続けるのよ」

「それじゃ、あの翼君のお父さまやお母さま達の様にずっと若い姿のままなのね?」

「そうなの」


「え?それって、子供はどうなるの?」

「えぇ、私たちだけが五百年の寿命なの。子供たちは先に逝ってしまうわね」

「そ、それは・・・」

 途端に美樹先輩の顔は妹を心配する姉の様な表情になり、庭を飛び回っているれんを見つめていた。


「これもお役目だから。でもね、私たちの子孫や地球がどうなっていくのかを見守ることができるのだから・・・」

「私の様な凡人には理解が追い付かないわ」

「美樹さん、それが神になるということなのでしょう」

「巧、そうね・・・」


「それで、お役目って何なの?」

「それは・・・翼。言っても良いのかしら?」

「ここに居る人だけになら構わないよ」

「わかったわ。美樹、地球には地磁気があるでしょう?」


「まさか!無くなるのか?」

「巧。それは分からないよ。直ぐにということはないだろう。備えとして人工的に地磁気を発生する装置を造りたいんだ」

「なんだ、そういうことか。もう出来ているのかい?」

「それがね。結構難しいものだったんだ」


「まだ、出来ていないんだね?やっぱり出力の問題かい?」

「流石、巧だね。そうなんだ。必要な出力を得るのに苦労してね」

「問題は解決したのかい?」

「手法はね。僕と天照さま、それにお母さま。あとは七人の妻の持つ能力で出力を増幅するんだ」


「七人の妻?アナスターシャさまが五人目よね?あと二人は?」

「これから探すよ」

「探す?どこで?」

「良い人居ないかな?」

「良い人?いえ、決まっているのでしょ?ただの妻になるのではなく、女神さまになる人なのだから!」


「そうだね。千五百年前の世界で今の五人の妻たちは姉妹だったんだ。その姉妹はあと二人居るんだよ」

「現代に転生しているってことね?どこに居るのか分かっていないの?」

「そう。居場所は分からないんだ」

「なぁ、そんな悠長なことを言っていて大丈夫なのか?」


「巧。大丈夫って?」

「地磁気は徐々に弱まって行っているんだ。でもそれはまだ何百年かの猶予はある。でも、逆転現象はいつ起こるか分からないだろ?」

「うん。地磁気の発生装置の設計にはある程度目途は立ったし、建造にそれ程時間は掛からないと思う。でも嫁を探すのは簡単ではないんだ」


「そうね。結婚適齢期の女性に限っても世界には何十億って女性がいるのですものね」

「更に、地球だけではなく、神星に居るかも知れないからね」

「特徴とか何か分かっていることはないの?」

「あぁ、それはね。あそこに居るストロベリーブロンドとアッシュブロンドのメイド二人は、まだここに居ない妻二人と同じ髪と瞳の色である可能性が高いんだ」


「何故、メイドの髪と瞳の色が妻と同じなの?」

「それは、妻たちの子供がメイドを見た時に同じ髪色だと安心するからさ」

「なるほど・・・皆、妻の髪色に合わせているのね?」

「あ。でも葉留のメイドは黒髪にしているよ」

「え?葉留にもメイドが?」


「そう。徹と結婚した後も付いていくよ」

「え?家にアンドロイドのメイドが?必要かな?」

「政治家の妻は忙しいだろ?それにメイドは万能なんだ。警備もできるんだよ」

「警備も?」


「うん。家の外の監視カメラとリンクするし、実際に格闘もできる。人間相手なら敵無しだよ」

「それは凄い!本当にもらっても良いのかい?」

「葉留のためだからね」


「あ!ちょっと待ってくれ。葉留の寿命は五百年になったのか?」

「いいや。葉留は徹と同じだよ」

「そうか、良かった・・・」

 徹は吐き出す様にそう言うと、心から安心した顔になった。


「ところで、ストロベリーブロンドとアッシュブロンド・・・つまり、あと二人の妻はアジア系ではないということね」

「そうだね。あと、ストロベリーブロンドの妻はAカップ。アッシュブロンドの妻はGカップみたいだ」

「何故、胸のサイズが分かるの?」

「あの城には、既に七人の妻の部屋と衣装が用意されているんだよ」

「下着のサイズを見たのね!」


「では、その条件で探せば良いなら、何万人かには絞れるのでは?」

「いや、それがさ。十七歳位は歳の差があってもおかしくないんだ。だから三十七歳もあり得るし、まだ三歳くらいの子も対象である可能性があるんだよ」

「それでは胸の大きさだけで探すことはできないのね」

「そう。だから大変なんだ」


「でも、急がないとね」

「うん。そういうことさ」

「大変ね」


「さぁ、城の中へ案内するよ」

「うわぁー!楽しみ!」

 早苗お母さんの娘、菜乃葉と七海がスキップして城へ向かう。


「早苗お母さん、菜乃葉姉さんと七海姉さんはまだ、独身なんだよね?」

「そうね。三十歳と二十九歳なんだけど・・・仕事が楽しくて仕方ないみたい。困ったものね。今の世は結婚を望む人と望まない人で両極端になっているのよ」

「社会が安定しているから?」

「えぇ、そうだと思うわ。考え方、捉え方は人それぞれですものね」


「このままでは、人口は減るばかりだと懸念されている様ですね」

「それって、人間はあまり手厚く保護されると生殖能力が落ちるっていう話?」

「それを証明することは難しいよね。それは早苗お母さんの言った仕事の話と同じでしょ?」


「そうね。どっちの考えもあるから・・・」

「まぁ、本当に出生率が壊滅的になってから考えることなんだろうね」

「それこそ、保険の星から人間を移住させることになるのかも・・・」


「天照さまはそこまで見通しておられるのかも知れないね」

 そう、未来のことは誰にも分からない。僕らの生きているうちならばできることをするつもりだ。そこから先は天照さまに任せれば良いと思う。


 それから三階までの城内を案内していき、最後に大サロンでお茶をした。

「外も中も本当にお城なのですね!」

「調度品や絵画が素晴らしいわ!」

 菜乃葉と七海は終始、大興奮だ。


「菜乃葉姉さん、七海姉さん、この城が気に入った様ですね?」

「翼!凄いわ!こんなに素敵なお城に住めるなんて羨ましい!」

「そんなに気に入ったなら、この城で結婚式を挙げたら?」

「え?良いの?!」

「菜乃葉姉さんと七海姉さんなら使って頂いて構いませんよ」

「それなら、私。結婚するわ!」


「え?菜乃葉。お相手が居るの?」

「お母さん、私にだってそれくらいは居るわよ。でも、仕事が忙しくて延び延びになっていたの」

「ちょっと!どこの誰よ?」

「神代重工の技術者よ。オービタルリングからの送受電のプロジェクトで一緒だったの」

「まぁ!いつの間に・・・」


「ほう!うちの技術者ですか。それは誰なのか伺っても?」

 新奈のお父さん、神代重工の社長は興味津々の様で笑顔で聞いてきた。


「あ。社長・・・は、はい。第二開発部技術一課の伊集院 豊さんです」

「おぉ、伊集院課長か!彼は素晴らしい才能を持った男で、社内でも一目置かれているのです。実に喜ばしいことですね。おめでとうございます」

「あ、ありがとう御座います」


「菜乃葉姉さん、式の日取りが決まったら教えてください」

「ほ、本当にここで式を挙げても良いの?」

「勿論ですよ。ここの大ホールを最初に使うことになりますね」

「え!それはちょっと、気が引けるわね・・・アナスターシャさまとの結婚式は?」

「それはクレムリンで行いますから」


「菜乃葉。気にしなくて良いのよ。是非、ここで式を挙げて頂戴」

「瑞希伯母さま・・・ありがとう御座います」

「ありがとう。お姉さん・・・それにしても・・・どんどん綺麗になっていくのね?」

「私?寿命が延びて、体細胞が常に最適化されている様ね」

「背も伸びたし、肌なんて十代の娘みたいね。本当に女神さまだわ」


「そうね。でも葉留は普通の人間と同じ寿命なの・・・」

「それは・・・辛いことね。でもお役目なのでしょう?」

「えぇ、そうね」


「ところで翼とアナスターシャさまの結婚式はいつなのかしら?」

「三か月後ですね」

「月夜見さまはいらっしゃるの?」

「えぇ、月夜見さまの宣言で結婚するのですから」


「それって、全世界にテレビ中継されるの?」

「翼、それって決まっているのかしら?」

「お母さま。放送される予定です。ただし、録画放送ですけれど」

「そうなのね。それは初めてのことね。神との結婚を地球で見せるなんて」


「まぁ、今後のことを考えて・・・ですね」

「今後のこと?もしかして、残り二人の嫁探しでテレビを使うの?」

「どうにも行き詰ったら・・・という最後の手段ですね」

「全世界へ向けて嫁候補を公募するのね」

「それは大騒ぎになりそうね」

「そうですね。できれば避けたいですが・・・」




 それから三ヶ月後。ロシアでアナスターシャとの結婚式の日となった。


 お父さまとアナの千五百年前の母である陽菜お母さまとアネモネの到着を待ってから、月の都をクレムリン宮殿の上空に瞬間移動させた。

「シュンッ!」


 そこでは既に、とんでもない数のドローンが周囲を飛び回り、広場や道路には人が溢れ返っていた。皆で船に乗り込み、月の都を出るとゆっくりと降下し、ロシア大統領府である、元老院の直上で停止した。


 見下ろすと玄関には大統領親衛隊が立ち並んでいた。

僕はお父さんとお母さん、葉留と陽菜お母さま。それに妻四人と一緒に船の翼から地上へと降りて行った。


 地上からは民衆の歓声が上がっている。どうやらお祝いの言葉を叫んでいる人が多い様だ。アナスターシャは中国の侵攻事件で注目され、その不遇な幼少期も紹介されたことで、国民の間でも英雄視されている。今回の結婚は国を挙げての祝い事となったのだ。


 玄関に降り立つと、中国との一件でアナの身辺警護に当たっていた兵士たちが立ち並んでいた。その向こうにアナの両親である大統領夫妻が待ち構えていた。


「天照さま。この度は我が娘のために、遠路はるばるお越し頂きまして誠にありがとう御座います。私はロシア連邦大統領、イゴール ヴォルコフで御座います。こちらは妻のイゾルーダで御座います」

「天照さま。アナスターシャの母、イゾルーダ ヴォルコフで御座います。この度は娘を翼さまの妻にお迎えくださるとのこと、これ以上の幸せは御座いません」


「はじめまして、ヴォルコフ殿、イゾルーダ殿。翼の父、天照です」

「さぁ、控室へご案内差し上げます。こちらへどうぞ」


 大統領の案内で控室へと向かった。

廊下も控室と呼ばれた部屋も大変な豪華さだ。月の都の城に負けていない。


 僕は自分の着替えを済ませると、アナの控室へと入った。

「アナ。準備はできているかい?」

「はい。翼さま」

 僕に振り返ったアナの姿を見て、一瞬、動きが止まってしまった。息を呑むとは正にこのことだ。


「アナ。驚くほど美しいね。一瞬、言葉を失ってしまったよ・・・」

「まぁ!そんな・・・翼さまもとても素敵です!」

 アナのウエディングドレスはアナの両親から贈られたものだ。宝石は天照さまから他の妻たちと同じものが贈られた。


 ロシアのウエディングドレスは、特に国の特色などはない様だ。日本や欧米で見られるものと変わりはない。Aラインでシンプルなデザインだが、アナの顔や髪色とのバランスが良く、上品で美しい。天照さまから贈られたティアラや宝石も輝いている。


 結婚式の内容もロシアではとてもシンプルだ。人前式が多く、結婚の宣言をしてから披露宴で豪華な食事をし、歌やダンスを楽しむ様だ。


 アナの傍らで侍女のダーリャが幸せそうな笑顔でアナを見守っていた。

「ダーリャ、今までアナを支えてくれてありがとう」

「そ、そんな・・・私になど、勿体ないお言葉です」

「いいえ、ダーリャ。私はあなたのお陰で今があるのよ。あなたが支えてくれたから頑張れたの・・・本当にありがとう」

「そんな・・・お嬢さま・・・おめでとう御座います。どうかお幸せに」

 ダーリャは大粒の涙を流しながらも、何とか気を張って僕たちに笑顔を向けた。


「ダーリャ。あなたはこれからどうされるのですか?」

「私ですか?私は・・・いえ、私のことなど・・・」

「翼さま、ダーリャはここでの仕事を辞めてお国へ帰ると言うのです」

「お国?それはどこなのですか?」


「いえ、地方の小さな田舎町です」

「そこへ帰って何をされるのですか?」

「何もない田舎ですから・・・畑仕事でもします」

「ご両親を支える必要があるのですか?」


「いいえ、両親はまだまだ元気です」

「それならば月の都へ来ませんか?」

「え?」

「え?翼さま、ダーリャを連れて行っても良いのですか?」


「えぇ、城の中の仕事は専任のメイドが居るのでできないのですが、月の都には他にも仕事は沢山あるのです。寮もありますよ」

「私などが、神の住まう月の都へ行っても良いのでしょうか・・・」


「アナとダーリャが望むならば」

「ダーリャ、是非、来て頂戴!私の子を抱きたいでしょう?」

「そ、それは・・・そんな嬉しいこと・・・本当なのですか?」


「えぇ、本当ですよ。月の都では多くの人を雇わなければなりません。そこで良い人と出会えたならば結婚しても良いのです」

「まぁ!ダーリャが結婚?そうよね!結婚したって何もおかしくはないのだわ!」


 その時、部屋のドアがノックされ、使用人が入って来た。

「アナスターシャさま、そろそろお時間で御座います」

「あ!はい!では、ダーリャ。この話はまた後でね」

「はい。お嬢さま」

「うん。では、アナ。行こうか」

「はい!翼さま」


 大広間に案内されステージ横の控室に入った。大広間には、既に大勢の参列客が着席していた。ステージ脇のオーケストラが式の開始を告げる音楽を奏でた。


 ステージ中央にはアナの両親が立っている。アナは僕の腕につかまると登場の音楽と共にステージ脇から歩み出た。僕らが中央に立つと、アナの両親の反対側に僕の両親が瞬間移動で転移し、現れた。

「うぉーっ!」

 客席から驚きの歓声が上がる。


「皆さま、はじめまして。私は天照です。こちらは翼の母、瑞希です」

「翼の母、瑞希です。本日は翼とアナスターシャの結婚を見届けることが出来、嬉しく思っております」

 お母さんは会場を見渡し、美しい笑顔で語った。会場はお母さんの美しさにしばしどよめいた。お父さんはそれが収まるのを待って静かに宣言した。


「ここに、翼とアナスターシャ、ふたりの結婚を認めます」


「うわぁー!おめでとう御座います!」

「おめでとう御座います!姫さま!」

「ロシア万歳!ウラー」

「ウラー!」

「女神さま!お幸せに!」


 結婚の宣言の後、望、新奈、結衣、アネモネの歌のプレゼントだ。オーケストラの演奏で四人が歌った。彼女たちは日本語で歌っているのだが、参列客には念話でロシア語に変換され頭の中に直接歌声が届いている。皆、感動し涙を流していた。


 それから食事が供された。宮廷料理の様な豪華な料理が次々と出てきた。食事が終わり、デザートが出されるとダンスが始まる様だ。オーケストラがワルツを演奏し始めた。


「では、アナスターシャ。踊りましょうか」

「はい。翼さま」

 アナはこの三か月で一生懸命ダンスを練習してきた。今日はその成果を披露できる。


 練習でも上手に踊れる様になっていたから心配はしていなかったけれど、これだけの人の前でも堂々と踊っている。


 ただ、気になるのはテレビカメラで撮られていることだ。これは流石に初めてのことだ。何か変な汗が出る程に緊張してしまう。


「アナ。とても上手だよ。こんなに沢山の人の前なのに緊張しないのかい?」

「あ。私、一切、周りを見ていませんでした!」

「なんだ。僕だけを見ていたんだね?」


「はい。今日のこの日が嬉しくて・・・翼さましか目に入りません」

「ふふっ、可愛いことを言ってくれるね」

 それならばテレビカメラのことは言わないでおこう。


「アナ。まだ僕のことは、さまを付けないと呼べないかな?」

「え?だって・・・昔はずっと翼さまって呼んでいたから・・・」

「あぁ、そうなんだ・・・確かに千五百年前は皆からさま付けで呼ばれていたか・・・」

「はい。そうなのです」


「でも、今は皆、翼って呼んでくれているんだ。アナも慣れてくれないかな?」

「そ、そうですか・・・努力致します」

「さて、そろそろお父さまに代わらないとね」

「お父さまも踊られるのですか?」


「うん。お母さまがこういう場で踊ることは滅多にないことだからさ」

「そうですか。それは是非、踊って頂かないと!」


 僕たちのダンスが終わり、アナの手を取って席へ戻った。代わりにお父さんがお母さんの手を取り、ダンスフロアへ出た。参列客が息を呑むのが伝わって来た。皆がお父さんの一挙手一投足を見守っている。


 カメラマンが手に汗を握っているのが伝わって来る。折角、頑張って撮ってくれているけど、ダンスシーンは放送させないんだけどね。


 お母さんが家族以外の人前で踊ることはかなり珍しい。お母さん自身も緊張しているのが分かる。お父さんはもう慣れっこなのか堂々としたものだ。


 ふたりが踊りだし回転する度に、参列客の中からひとり、またひとりと気絶するご婦人が出た。まぁ、いつものことなのだが、お父さんの美しさは息子の僕から見ても別格だ。更にお母さんまで十代の若さになった。お母さんの美しさも大変なものなのだ。


 あぁ、そうだ!あの姿は・・・千五百年前の天満月あまみつつきお母さま以外の七人の女神と同じ容姿だ。


 急遽、大統領親衛隊が呼ばれ、気絶したご婦人たちを担架に乗せて運び出して行った。可笑おかしいのは、何とか気絶しないでお父さんを見続けようと、自分の顔をつねったりハンカチを噛んだりして耐えているご婦人たちの姿だ。


 お父さんの魅了は増々、磨きが掛かっている様だ。


 あ。そう言えばアネモネは?と思って、アネモネを見たら、彼女は参列客に背を向ける位置に座り、意識的に気配を消す様に静かに座っていた。もう自分で十分に理解して、座る位置や皆から見える角度まで考えている様だ。大変なんだな・・・


 その後、お母さんと陽菜お母さまが交代したのを合図に、僕も望たちと踊った。

アネモネと踊ると何故かアネモネは僕に向けて魅了を全開にした。


「ア、アネモネ。ちょっとその眼差しは・・・」

「ふふっ。ちょっと意地悪しちゃった。てへっ」

「もう!抱きしめたくなっちゃうじゃないか!」

「ちょっとだけ、アナにやきもち焼いちゃったの」

「ふっ、可愛いな」


 ダンスの時間が終わり、そろそろお開きとなる時、僕とアナで舞台へと上がり挨拶をすることとなった。


 先に僕が宙へ舞い上がり、空中でアナに手を差し出すとアナは自ら空中に浮遊した。

「おぉー!」

 参列客からどよめきが起きた。


 ふたりは手を繋ぎながら舞台へ飛び、中央へ着地した。僕はロシア語で挨拶する。

「皆さま。本日は私とアナスターシャの結婚式にご参列くださり、誠にありがとうございました」


「ご覧頂きました通り、アナスターシャには神の力が宿っています。これは千五百年前にさかのぼった昔、アナスターシャは神の娘だったからです」


「そして今世に転生し、私と出会ったことで古い記憶を呼び戻され、神の能力がよみがえったのです。今後は私と共に月の都で地磁気の発生装置の開発に携わって頂きます」


「ウラー!」

「アナスターシャさま!ウラー!」

「ロシアから神が!」


 ウラー!の声が響き渡った。それは日本語の万歳って感じだ。それを受けてアナは、皆へ丁寧に挨拶を返し、笑顔で手を振った。


 アナは全てのロシア国民に祝福されながら正式に僕の妻となった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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