30.五人目の妻
アナスターシャを送り届けた後、家族で会議となった。
「皆、どうする?」
「どうするって?」
「寿命が五百年になったんだよ?」
「急にそうなってもピンと来ないわね」
新奈が淡々と答えた。でも顔つきは普通ではない。頭の中で整理がつかないのだろう。
「お母さまは嬉しいですよね?」
「えぇ、そうね。月夜見さまと共に生きて行けるということではね。でも、葉留のことを考えると・・・」
「お母さま。私は大丈夫です。徹さんと同じ寿命で生きられるのだし、私たちの子孫が将来首相になるかも知れないでしょう?それをお兄さまやお母さまに見守って頂けるのですから、嬉しいことだわ」
「そうね・・・葉留。ありがとう」
浮かない顔をしているのは結衣だ。きっと蓮のことを考えているのだろうな。
「結衣。蓮のことを考えているんだね?」
「えぇ、蓮やこれから生まれて来る私たちの子は、普通の人間の寿命なのですよね?」
「そう・・・なるね」
「・・・」
僕は結衣の隣に座り肩を抱いた。結衣の膝に座っていた蓮が僕の顔を見上げた。
「そうだね・・・それは・・・辛いことだね」
「でも、これもお役目ですものね・・・」
「うん。僕たちには普通の人間にはない力がある。それはこのお役目のためだったのかも知れないね」
アネモネも悲嘆に暮れた表情となって考え込んでいる。陽翔お兄さまも先に逝ってしまうこととなるのだから・・・
「アネモネ、大丈夫かい?」
「えぇ、大丈夫よ・・・でも・・・そういうことならば・・・陽翔さまが生きているうちは、翼との子は作らなくても良いかしら?」
「うん。アネモネの心のままにすると良い」
「翼、ありがとう・・・」
「望と新奈は大丈夫?」
「私は神代重工の跡取りを産まないと・・・でも、その子が先に逝ってしまうのね」
「私もそうね。一ノ瀬電機の跡取りは必要ね」
「望、新奈、結衣も一緒に支えるから・・・」
「私、月夜見さまにお伝えしてくるわ」
お母さまは自室へ戻っていった。
「ねぇ、翼。五百年生きるってどんな感じなのかしら?」
「僕もそれを考えていたよ。どうなるのだろうか?」
「お兄さま、まずは少し若返るのでしょう?そしてその若さのまま、健康な状態で四百五十歳まで生き、それから老けていくのですよね」
「え?今よりも若返るの?」
「お父さまから聞いたわ。十代後半の若さに戻るのですって。体細胞の新陳代謝が一番活発な状態を保ち続けるのではないかって言っていたわ」
「だからお母さま達はあれほど美しくなったのね?」
「でも、皆、もう十分に美しいからこれ以上は変わらないのでは?」
「まぁ!翼ったら!」
「ねぇ、そうしたらアナの目の病気は治るかしら?」
「あ!そうだね。治るかも知れないね。念話で伝えておこう」
「翼、急にこんなことになったけど、翼はアナをどう思っているの?」
新奈に問い質され、僕は改めて考えた。
「うーん。正直言って、アナにはまだ何の感情もないんだ。悪いのだけど、目を閉じている状態だと表情も心も読めないからね。念話で話して良い娘だとは思っているけれどね」
「それならば、もっとアナとの時間を作った方が良いわ。このまま愛もない状況で結婚するのはアナにも失礼よ」
「そうね。運命は避けられないと思うの。お役目もね。それならばちゃんと心が通じてから結婚して欲しいわ」
「新奈や望の言う通りだね。僕もこのまま結婚することには釈然としなかったんだ。これから時間を作って彼女のことを知っていくよ」
それから三日後、僕はアナに念話で呼び掛けた。
『アナ、聞こえるかい?』
『あ!翼さま。おはようございます!』
『おはよう、アナ。その後、変わりはないかい?』
『それが・・・』
『どうしたの?』
『あの・・・目が見える様になって来たのです』
『あぁ、やっぱり!天照さまが封印を解いたから、身体の細胞が遺伝子レベルで変化していっているんだ。これから十代後半の若さに戻り、それが四百五十歳まで続くそうだよ。勿論、細胞が最適化されるから、病気も全て治ってしまうし、今後は病気に罹ることもなくなるんだ』
『本当ですか?!では、私の目は完全に治るのですね?見える様になるのですね!』
『そうだよ。でもね。寿命は五百年という長さになってしまうんだ』
『それは・・・辛いことなのですか?』
『例えば、子ができたら、その子は五百年の寿命とはならない。普通の人間の寿命なんだ。だから僕らよりも先に逝ってしまうんだよ。それは悲しいことだよ』
『あ、あぁ・・・そうですね・・・』
アナの声は沈んでしまった。これはいかんな。
『アナ、僕は君のことをもっと知りたいんだ。これからデートしないか?』
『え?デート?』
『うん。今からこちらへ呼ぶから、東京でデートしよう』
『あ、あの!三十分だけお待ち頂けますか?』
『女性の支度だものね。三十分で良いのかい?一時間後にしようか?』
『え?時間が勿体ないです!三十分で支度します!』
『ふふっ。分かったよ。では三十分後に声を掛けるよ』
「キャー大変!」
「うわ!な、何だ!どうしたんだ、アナ!」
「アナ!びっくりするじゃない!急に大きな声を出して!」
「あ!お父さま、お母さま、ごめんなさい!翼さまがこれから東京でデートしようって!」
「え?デート?」
「アナ、もしかして?」
「三十分で支度しなきゃ!ダーリャ、手伝ってくれる?」
「はい!お嬢さま!」
それから三十分後、アナを月の都へ転移させると、ふたりで結城邸へ飛んだ。
「シュンッ!」
「アナ。ここは東京の僕の家、お母さまの前世の妹の家だよ」
「あら?翼。どうしたの?あ!あなたは!まさか・・・ロシアのお姫さま?」
「早苗お母さん、そうです。ロシア大統領の娘、アナスターシャです」
「アナスターシャです。はじめまして」
「初めまして、地球での翼の母代わりの早苗です。アナスターシャさん、日本語が上手なのね?」
「まだ、あいさつ、だけです。いま、にほんご、べんきょうして、います」
「そうなのね。翼・・・もしかして?」
「え?まぁ・・・そんな感じです」
「ふーん。そう・・・」
早苗お母さんが何やらにやけている。
「アナ、出掛けようか」
「はい。翼さま」
「それじゃぁ、お母さん、行って来ます!」
「行ってらっしゃい!楽しんできて!」
僕らは小型船を呼んで街へショッピングに出掛けた。
小型船にふたりで乗り込むと並んでシートに座った。アナは瞳を開いている。その初めて見る瞳の色は鮮やかな青だった。
「アナ、初めて君の瞳を見るよ。僕と同じ様な色だね」
「あぁ・・・こんなに近くで・・・自分の目で翼さまを見ることができるなんて・・・」
アナの瞳からは涙が零れ落ちた。
「アナ、目の病気が治って良かった」
「ありがとうございます。これから翼さまの様に神の能力も授かるので御座いますか?」
「そうだね。でもそれは前世の記憶が戻ってからではないかな?」
「どうしたら記憶が戻るのでしょう?」
「そ、それは・・・」
「大変なことなのですか?苦しいことなのでしょうか?」
「い、いや・・・僕と・・・その・・・キスとか・・・セックスをするんだ」
「え?キス?」
アナの真っ白な頬がみるみるうちに赤く染まっていった。そして、自分の口を両手で覆って、目をまん丸にして驚いている。
「驚くよね?」
「い、いつ、してくださるのですか?今日ですか?」
「え?そんなに急ぐの?」
「そ、それは・・・あ!私ったら・・・何を言っているのでしょう!」
アナは完全に真っ赤になり、俯いてしまった。
「あのね。記憶が戻ると一時的に混乱して意識を失ってしまうんだ。その後、一時間程眠っている間に脳の中で前世の記憶が整理されて目を覚ますんだよ」
「あぁ、なるほど・・・それで、キスをして記憶が戻らなかったら・・・次は・・・」
もう我を忘れたのか、心の声が駄々漏れになってしまっている。
「で、でもさ、そういうことはお互いに好きになってからでないと・・・」
「あ!」
アナは真っ赤だった顔が、生気を失う様に急に真っ白になっていった。
「ごめんなさい!私・・・早合点してしまって・・・そうですよね・・・翼さまは私のことを好きだとは・・・」
「アナ、だからこうしてデートしているんだよ。僕はアナのことを何も知らないからね」
「そうですよね。これからですね・・・」
「うん。君は勇敢で優しく、有能だ。とても素敵な人だと思うよ」
「ありがとう御座います。私も翼さまに教えて欲しいことが沢山あります」
「うん。今日は沢山、話をしてお互いを知ろう」
「はい」
表参道に着くと僕たちは船を降りてウインドーショッピングをしながら歩いた。
アナの服装はモデルの様にスタイリッシュだ。僕は・・・というと相変わらずの白いワイシャツにカーキ色のパンツだ。
アナの身長は新奈たちとほぼ同じ、百七十五センチメートル位ある。僕と並んで歩いていても違和感はない。
「アナ、まだ完璧には見えていないのだよね?」
「はい。視野が少し狭い状態ではありますが、ピントは合っていますので、見たい方へ顔を向ければ大丈夫です」
「では、足元は少し見え難いね。転ぶといけないから僕の腕につかまって」
「あ。は、はい。ありがとう御座います」
「アナ、まだ固いね。もっと普通に友達と話すみたいな口調で構わないからね」
「良いのですか?でも、まだちょっと緊張してしまいます」
「うん。少しずつ慣れていってね」
「あ、あそこのカフェに入ってみようか」
「はい。とても素敵なお店ですね」
カフェではテラス席の一番奥に座った。ふたりとも珈琲とアーモンドクリームがたっぷり乗ったパンケーキを注文した。
「翼さま、私、デートって初めてなのです」
「初めて?本当に?」
「えぇ、だって学校に行く頃にはもう、目が見えなくなってきていたので・・・」
「あぁ、そうか・・・それでは若い女の子が当たり前に楽しむ様なことはしてきていないんだね?」
「はい。目が見えなくなるのと競争する様に勉強していましたから・・・」
「そうか、だからそんなに優秀なのだね?」
「いえ、これは天照さまのお陰だと思います」
「天照さまの?それはどういうこと?」
「私、五歳の時に神さまからのお告げがあったのです。『アナスターシャは物理を勉強して世界のために役立てなさい』って」
「それが天照さまだったと?」
「はい。先日、月の都でお会いした、小さな天照さまと同じお声でした」
「そ、そうか・・・そんな仕込みをしていたのか・・・」
「仕込み?」
「あ、い、いや、こちらの話だよ・・・」
むむむ。天照さまはこんな事前工作もするのか・・・油断ならないな・・・
「それからは小学生だというのに、数学や物理の教科書の内容がスラスラと頭に入っていったのです」
「そうか、それでずっと勉強に没頭していたんだね?」
「あと・・・」
「あと?」
「恥ずかしいのですが・・・翼さまのお姿を夢に見る様になりました」
「え?僕の姿?」
「はい。初めはお告げをくださった神さまのお姿だと思っていたのです。でも、前に翼さまが新奈さまとお二人でテレビ出演されたのを観て、夢に見るお方は翼さまだと分かって驚いたのです」
「では、本当に僕が夢に出ていたんだね。もしかするとそれは、千五百年前の記憶かも知れないね」
「アネモネさまが仰っていましたね・・・あ!そう言えば、異次元空間移動装置を創られたのですよね?」
「あ。アナ、その話は外では不味いな」
「あ!ごめんなさい。極秘なのですね?」
「二人きりの時に話すよ」
「二人きり・・・」
アナの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
「失礼します、お待たせ致しました!パンケーキと珈琲をお持ちしました」
店員の女性が、注文したものを静かにテーブルへ並べていく。
「ごゆっくりどうぞ!」
「ありがとう」
店員が僕の顔を見て、真っ赤な顔をして下がっていった。
「まぁ!美味しそう!」
「アナは甘いものは好きかい?」
「はい。大好きです!」
「勉強していると甘いものが欲しくなるでしょう?」
「はい。そうなのです。よくチョコレートを食べながら勉強しています」
「それ、僕も全く一緒だよ。研究に没頭していると結衣が横に来て、チョコレートを口に入れてくれるんだ。僕は結衣が横に来ると条件反射の様に口を開く様になってしまったよ」
「ふふっ、素敵なご夫婦ですね!」
ふたりでパンケーキを口に運ぶ。口の中に甘さが広がると、ふたりは幸せそうな笑顔で見つめ合った。アナは僕の顔を見ては真っ赤になっていた。
「アナは本当に男性慣れしていないみたいだね」
「はい。男性とお付き合いするどころか、お話ししたこともないのです」
「それは・・・大変な箱入り娘だね」
「世間知らずなだけです」
「そんな女性が、妻を沢山持つ男に嫁ぐのって・・・どうなんだろうね」
「私はそんなこと気にしません。翼さまは才能に溢れた素晴らしいお方です。沢山の妻が居て当たり前です」
「いや、人間の世界では一夫多妻制はかなりの少数派だけどね」
「いいえ、翼さまに妻が私ひとりだけだったら、つり合いが取れません。それにまだ、記憶が戻っていませんが、アネモネさま達と姉妹であったなら、きっと仲良く楽しく、暮らせると思うのです」
やはり、瞳を見ながら話をすると全然違うものだな。アナの嬉しそうな気持が直に伝わってくる様だ。アナは可愛くて控えめで、気遣いができて・・・あ。やっぱり陽菜お母さまに似ているんだ。
それにこうして二人きりで向かい合い、その姿を改めて見ると、大変な美人であり、プロポーションも抜群だ。胸は新奈と同じくらい、ウエストが細くて足が長い。完璧な九頭身だ。
「アナはモデルみたいにプロポーションが美しいね。顔も美人だし・・・」
「え?私なんて・・・」
「君が私なんて、と言ったら世の女性たちはみんな怒ると思うよ?」
「そ、そうですか?」
「うん。アナはとても美しい女性だ。心もきれいだし、人の上に立つこともできる人だね」
「そんなに褒められるなんて・・・」
「アナは物理以外ではどんなことが好きなのかな?趣味とかはある?」
「そ、それが・・・勉強しかしてこなかったので・・・物理は好きですが・・・あ!私、子供の頃、まだ目が見えている時は星を見るのが好きでした。父に連れられてオーロラを見に行ったこともあるのです。あの美しい夜空は忘れられません」
「オーロラか。僕も見てみたいな。あれも地磁気と関りがあるんだよね」
「はい。そうですね」
「では今度、アナがお父さまに連れて行ってもらったところへ行ってみようか」
「本当ですか!嬉しい!」
アナは満面の笑みとなった。あぁ・・・この笑顔だけでも十分に愛する理由になるな・・・
それからカフェを出て、二人は腕を組み、寄り添って歩いた。
歩きながら、アナに聞かれるままにロシア語で反重力装置や異次元空間移動装置の理論について語り合った。アナは興味津々で、食い気味に質問をぶつけてきた。
この調子ならば、地磁気の発生装置も早期に完成させられるかも知れない。僕にとってもアナは必要な女性となりそうだ。
「アナ、今後、僕の研究室へ通ってもらえないかな?」
「喜んで!いつでも参ります」
「あ!でも、大学の勉強もあるよね?」
「それなら気にしないでください。私は翼さまのために地球物理学を学びたかっただけなのですから、翼さまと一緒に研究ができるなら、大学なんていつ辞めてしまっても良いのです」
「そうだな・・・でも、新奈もまだ大学に通っているからな・・・アナ、本当に良いの?」
「はい。私の人生は翼さまのものです」
「アナ、それは言い過ぎだよ。アナの人生はアナのもの。僕のものではないよ。でも、アナの本当にしたいことが、僕と一緒に研究することだと言ってくれるなら、一緒に地磁気の発生装置を創りたいな」
「私・・・小さな頃から目の病気と闘いながら勉強しかしていなくて、友達も作れなかったのです。でも、神さまのお告げと、夢で見られる翼さまのお姿だけが心の拠りどころだったのです」
「翼さまに逢えるとは思っていなかったのですが、こうして逢うことができて、しかも翼さまのお役に立てる日が来るなんて・・・本当に夢の様です。是非、一緒に研究をさせてください!」
あぁ・・・そんなに無我夢中になって言われたら僕の気持ちだって動かずにはいられないよ。
「アナ、そんなに真っ直ぐに見つめられて懇願されたら・・・」
「されたら?」
アナが無意識に上目使いに僕を見上げた。
「アナを・・・愛してしまうよ・・・」
「私を?本当に?」
あぁ・・・もう降参するしかない。こんなに可愛い女性を放ってはおけないよ。たった半日で落ちてしまうなんて・・・僕ってかなりちょろいよな・・・これって駄目だろう。
「アナ、二人きりになれるところへ行こうか」
「え?二人きり?」
僕は赤い顔をしたアナの手を引いて、裏通りへ入ると人目が無いことを確認して、月の都へ飛んだ。
「シュンッ!」
「ここは?あ!山の上ですか?凄くきれいな景色!」
「ここは月の都にある山の頂上だよ」
「あ。あそこにお城が見えます!」
「アナ。君は本当に僕の妻になるということで良いの?」
「はい。翼さまを愛しています」
アナはその美しい瞳で僕を真っ直ぐに見つめて来る。
「僕も・・・さっき恋に落ちたよ・・・アナを愛しているよ」
「本当で・・・」
僕はアナを抱き寄せると、アナの言葉を遮る様に唇を重ねた。
アナは驚きながらも瞳を閉じてキスに応じた。その数秒後、
「う!あ、あぁ・・・」
アナが苦しみ始め、その場にうずくまりそうになったのを抱いて支えた。アナは僕にしがみつきながら僕の顔を見上げて驚いた顔をした。
「あ、あなた様は!」
「君は夢月かい?」
「はい。あ!あぁ・・・」
アナはそのまま意識を失ってしまった。僕は念動力でアナを持ち上げると、抱き直して僕の部屋へと飛んだ。アナをベッドに寝かせ、毛布を掛けるとそのままベッドの端に座ってアナを見守った。
アナは小さな寝息を立てて眠っている。寝顔も美しいな・・・
一時間ほど経つとアナは目を覚ました。
「う、うーん。あ。翼さま!わ、私・・・」
「アナ。昔の記憶が戻ったのではないかな?」
「あ。はい。私は、暁月夜お母さまの娘、夢月でした。主人はあなた様です。翼さま」
アナは恥じらいながらスラスラと日本語で話した。
「僕が夢月の主人であったことも思い出したのだね?」
「はい。私は翼さまの子を授かりました」
「僕にとっては、まだ先の話なのだけどね」
「え?先の話?」
「うん。僕はまだ、生まれたばかりの夢月にしか会っていないんだよ」
「そうなのですか・・・不思議ですね。私は遠い昔に翼さまと同じ時を過ごした記憶があるというのに・・・」
「では、僕とセックスした記憶もあるのだね?」
「え?あ!キャー!」
アナは恥ずかしかったのか、毛布を頭から被ってしまった。僕はゆっくりと毛布を引っ張り、アナの顔を見つめた。
「アナ。僕と結婚してくれますか?」
「翼さま・・・また私と同じ時を過ごしてくださるのですね・・・ありがとう御座います」
「今度は五百年近くだからかなり長いのだけど・・・」
「嬉しいです」
「その間に、夢月に会いに行ったりもするのだけど、良いかな?」
「それも・・・嬉しいです」
「では、アナのご両親にご挨拶へ伺おうか」
「え?今からですか?」
「そう。良いかな?」
「はい」
「では、行こう」
「シュンッ!」
「うわぁ!」
クレムリン宮殿にある大統領の官邸、その中のサロンに飛んだ。アナの両親は突然現れた僕たちに飛び上がる程、驚いていた。
「突然に失礼致します。アナスターシャのご両親でいらっしゃいますか?」
「はい。私はアナの父、イゴール ヴォルコフで御座います。こちらは妻のイゾルーダです」
「初めまして、私は天照 翼です」
「翼さま・・・初めてお目に掛かります。先日は中国の侵攻からロシアをお守りくださり、ありがとう御座いました」
「良いのです。それよりも今日はお願いがありまして、伺いました」
「はい。どんなことでもお応え致す所存で御座います」
「アナスターシャを私の妻に迎えたいのです。お許し頂けますでしょうか?」
「わ、我が娘を神さまの妻に・・・」
「まぁ!アナ!夢が叶ったのね!おめでとう!」
「お嬢さま!おめでとう御座います」
「ありがとう!」
「それと・・・アナは先ほど、大昔の記憶を取り戻しました。彼女は千五百年前、天照 月夜見の娘だったのです」
「な、なんと!アナが神さまの娘ですと!?」
「はい。そのために彼女の身体は遺伝子レベルで変調が起こり、これから十代後半の若さになり、完全な健康体となるのです。勿論、目の病気も完治します。そして五百年の寿命となったのです」
「寿命が五百年?そ、そんなに長く生き続けるのですか」
「はい。それが神のお役目なのです」
「神・・・娘が神に・・・」
アナのお父さんは相当なショックを受けた様で、何やらぶつぶつと呟いていた。
「アナ、ここで神の能力を見せて差し上げて」
「え?私にできるのですか?」
「千五百年前を思い出してみて。できる筈だよ」
「やってみます」
僕が二メートル程、宙に浮かぶと、アナもゆっくりと浮かび始めた。
「凄い!お嬢さま!」
「アナ!本当に神さまになったのね!」
「はい。お父さま、お母さま。私、翼さまの妻になります」
「そうか・・・おめでとう。アナ」
「おめでとう!アナ。幸せにね!」
アナの両親もダーリャも、そしてアナも笑顔で大粒の涙を流していた。
お読みいただきまして、ありがとうございました!