29.翼のお役目
中国のロシア侵攻を止め、アナスターシャたちをクレムリンへ送り届けた。
クレムリン宮殿の上空に到着すると、アナスターシャとお付きの女性と庭園へ出た。
「翼さま、ありがとうございました。またお会いできるでしょうか?」
「えぇ、アナスターシャが勉強している物理学の話を聞けませんでしたからね。今度、是非、聞かせてください」
「はい!喜んで!私も翼さまにお聞きしたいことがあるのです」
「分かりました。またお会いしましょう」
アナスターシャと大統領親衛隊を乗せた小型船は、クレムリン宮殿の玄関へ転移させた。
そして月の都は東京へと瞬間移動して戻った。
「皆、ご苦労さま。これで一旦は落ち着くことだろう」
「月夜見さま、地球の変革は思いの外、スムーズに進んだと感じるのです。もっと抵抗があってもおかしくないのでは?と思ってしまうのですが・・・」
「陽菜、それは私が初めに地球へ降り立った時、国連の場で脅しをかけたからじゃないかな?」
「そうですね。王だろうと大統領だろうと、いつでも月夜見さまの目の前に引きずり出されるのを見せられたら悪いことはできないわね。それに原子力発電所を宇宙の彼方まで飛ばしたことで、本物の力を見せつけられてしまったのですものね」
「琴葉、それではまるで私が、悪魔か魔王の様な恐怖の対象であるかの様に聞こえるね」
「悪魔も神も、人間にとっての恐怖としては同じではありませんか?恐怖という二文字は、どちらも「おそれる」と読みます。悪魔を恐れ、神に対しては畏怖の念を持つのですから」
「それはもっともだね。それでも、二十年前に人間の行いを見守っていると言っただけではあまり変化は起きなかった。だが、ロシアの大統領を異世界送りの見せしめにし、翼が行動を起こしてくれたことでやっと大国が動き出したのだからね」
「人間は脅すだけでは駄目ですね。翼がオービタルリングで電気を与え、交通システムを整え、人間にとってのメリットを見せることで漸く、認めてもらえた様なものでしょう」
「そうだね、舞依。結局は翼の功績ということだね」
「そんな・・・お父さま。僕は僕の勝手でやりたいことをしただけです」
「謙遜することはないよ。翼は自信を持ってこの改革を進めると良い。もう少しで地球の環境は劇的に改善することだろう」
「本当に良かったわ。翼が頑張ったお陰ね」
「お母さま・・・」
皆が笑顔で安堵の表情となっていた中、アネモネだけ少し様子が変だった。
「アネモネ、どうしたの?ずっと機嫌が悪い様ね」
「望、機嫌が悪い訳ではないわ・・・予想外なことが起こって混乱しただけよ」
「予想外?アナスターシャのこと?」
「えぇ・・・」
「アナスターシャがどうしたと言うんだい?」
「翼、あなた気がつかなかったの?」
「え?何を?」
「はぁ・・・望も新奈も、結衣もなの?」
「え?分からないわ。アネモネには何か分かったの?」
「あの娘は、暁月夜お母さまの娘、夢月よ・・・」
「えーっ!」
「え?暁月夜?それって、陽菜のことか!」
「え?アナスターシャは私の千五百年前の娘なのですか?」
「はい。あれは私たちの妹、七女の夢月です」
「翼の妻になるのは、私たち四人だけだと思っていたのに・・・夢月がこんな風に現れたと言うことは、宇月と雨月も現れて、皆、翼の妻になるということでしょう?」
「そ、それは・・・」
「天照さま!そうなのですか?」
お父さんは琴葉お母さまに抱かれている天照さまに詰め寄った。
「翼、夢月と地磁気の発生装置の開発をしなさい。そうすれば分かりますよ」
「地磁気の発生装置?そう言えば、アナスターシャは物理学を専攻していると言っていましたね・・・」
「夢月と宇月、雨月は陽菜お母さま、紗良お母さま、詩織お母さまの二人目の子だったね」
「そうよ。翼が初めに千五百年前の世界に来て、帰る直前に生まれた子たちよ」
「あの・・・まさか、その三人とも僕は子を作るのかい?」
「えぇ、勿論よ。十五年後ですけれどね」
「あぁ・・・それ、知りたくなかったな・・・」
「どうして?神星には始めに二十九の国を興すのよ?王や女王になるための子は、まだ必要なのよ」
「そ、そうか・・・」
「アネモネは夢月たちが生まれたのが、私たちとは十五年の差があったから、もう現世では現れないと思っていたのね?」
「えぇ、そうね」
「でも、お母さま達も妻は八人だったのだから、私たちだって八人になってもおかしくはないんじゃない?」
「新奈。よくそんな悠長なことを言っていられるわね?妻が増えたら翼と過ごす夜が減ってしまうのよ?」
「あ、あぁ・・・そうね。でも、それだけでしょう?」
「新奈は良いの?」
「まぁ、大丈夫かしら?」
「あら。そう?」
「それなら、新奈が翼と過ごす夜を私に譲って頂戴」
「え?それは嫌よ!」
「ほら、嫌なんじゃない!」
「うーん。まぁ・・・そうね・・・そう言われてしまうとね」
「まぁまぁ、皆、もしかしてだけど、あなた達にも何かお役目というものがあるのではなくて?」
「琴葉お母さま・・・天照さま、そうなのですか?」
『私はもう眠る時間です・・・』
「あ!ずるい!」
「・・・」
天照さまは眠ってしまわれた。今は話す気がない、ということの様だ。
「分かったわ。今夜は順番をずらしてアネモネが翼と過ごすといいわ」
「え?望、良いの?」
「えぇ、良いわよ。アネモネは神星と地球を行ったり来たりで不利ですものね」
「嬉しい!ありがとう!望!」
「アネモネの機嫌が直って良かったわ」
三人共優しいな。アネモネには陽翔お兄さまという旦那も居るというのに、それを突っ込むこともなく順番を代わってあげるなんて・・・
「でも、これであと三人妻が増える可能性は高くなったわね」
「出会ったからって、結婚するとは限らないのでは?」
「アナスターシャはもう、翼にぞっこんだったわ」
「そうなの?」
「翼、気付かなかったの?そんなことでは駄目よ。これからはもっと気にしてね」
「そ、そうか・・・分かったよ。アネモネ」
「では、天照さまも眠ってしまったからね。私たちは帰るよ」
「お父さま。ありがとうございました」
「うん。翼も大変だったね。いや、これからが大変かな?」
「え?まだ何かあるのですか?」
『アネモネのご機嫌を取るのが・・・だよ』
お父さんは、最後に念話でこそっと伝えてきた。
「あぁ、そういうことですか・・・」
「では、瑞希。また来るからね」
「月夜見さま、今日はありがとうございました。次のお越しをお待ちしております」
「シュンッ!」
「さぁ、後は中国とパキスタンがどう出てくるかだね」
「国が亡ぶ様な道を選んだりはしないわよね?」
「それはないでしょう。ロシアの時の様に大人しくなるのではないかしら?」
「そうだと良いのだけどね。徹、日本から連絡を取って、どんな援助が必要か聞いてもらえるかな?」
「分かった。原子力発電所の撤去などは頼んでも良いのかな?」
「勿論だよ。核関連の施設や兵器工場は優先的に撤去を手伝うよ」
「うん。頼むよ。でも、ロシアのお姫さまを嫁にするのが先なのかな?」
「それはいいんだよ!」
「ところでお兄さま、アナスターシャの目は治せないのかしら?」
「え?あの病気は治療法が見つかっていないんだ。難しいのではないかな?」
「でも、望お姉ちゃんの白血病も治したわよね?」
「そうね。あれだって普通は簡単には治せない病気よね」
「あぁ、そうか。網膜色素変性症は遺伝子治療が研究されているのだったな。遺伝子の修復を試みればあるいは・・・」
「やってみる価値はありそうね」
「でも、私の時みたいに病気を治してもらったら、余計に好きになってしまうけれどね」
「ちょっと、翼。こっちに来て!」
「あ、はい」
不味い、アネモネが怒っている。僕はすごすごとアネモネに付いていった。
僕の部屋に入ると、例によってドアを閉じると同時に僕はドアに押し付けられ唇を奪われた。そこからはアネモネのしたい様に身を任せた。
一通り熱い時間を過ごすとベッドでアネモネを腕枕して抱きしめた。
「アネモネ。これ以上、僕に妻が増えたら嫌なのかい?」
「それは嫌よ。あなたと愛し合う時間が減ってしまうのだから・・・」
「嬉しいことを言ってくれるね」
「もう、休憩は終わりで良いかしら?」
「え?もう?」
「今日は休ませてあげない!」
「うわっ!」
その一か月後、中国では民主的な選挙が行われ、新たな国家主席が選出され、新政府は新平和条約を批准することとなった。その後、中国新政府からの要請を受け、原子力発電所、火力発電所の撤去計画が作られた。
パキスタンも謝罪し、再度、交通システムのリース契約を結んだ。その際、中国が罰則金の肩代わりをして謝罪した。
そして最後に残った北朝鮮も後ろ盾となる中国が新平和条約を結んだため、抵抗を止めて全ての核と兵器を放棄し、新平和条約を批准することとなった。
一通りの後片付けが済み、僕はアナスターシャに連絡を取った。時差を考えて現地の八時に念話で呼び掛けた。
『アナスターシャ!聞こえるかい?』
『あ!つ、翼さま?翼さまなのですか?お、おはようございます!』
『もう、起きていたかな?』
『はい。今、朝食を頂いたところです』
『これから月の都へ来られるかな?』
『え?またそちらへ行けるのですか?』
『今の服装のまま呼んでも大丈夫かな?』
『あ。そ、それは・・・あの十分だけ待って頂けますか?』
『分かった。十分後にここへ転移させるからね』
『はい!』
朝食後に家族でお茶を頂いていたアナスターシャは突然、席を立って叫ぶ様に言った。
「お父さま、お母さま、大変です。翼さまが十分後に月の都へ私を召喚なさると!」
「え?アナ。何かしたのか?」
「いいえ、お父さま、私が学んでいる物理のことでお話がしたいと言われていたのです。今、急に念話で呼び掛けがあり、すぐに飛ぶ様です」
「アナ、お話は良いから早く着替えないと!」
「そうなのです、お母さま!ダーリャ!着替えをお手伝い頂ける?」
「はい!お嬢さま!急ぎましょう!」
アナスターシャは疲れることも厭わず、透視の能力を使い廊下を走って自室へ戻り、着替えを始めた。
ダーリャの意見で中世の貴族が着る様なドレスを意識した、ブルーとホワイトのダンス用のドレスを引っ張り出して着替えた。ダーリャがいつもの様に髪にブルーのリボンを編み込み、アクセサリーを身に着けた。
『アナスターシャ、そろそろ良いかな?』
『はい。翼さま』
「ダーリャ。呼ばれたわ!行ってくるわね!」
「お嬢さま、楽しんでいらしてください!」
二人は顔を見合わせ、微笑んだ。
「シュンッ!」
『やぁ、おはよう。アナスターシャ』
『おはようございます。お久しぶりです。翼さま』
『アナスターシャ。挨拶が固いね。若者らしく砕けた話し方で構わないよ』
『ありがとうございます。では、私のことはアナとお呼びください』
『アナか。呼び易くて良いね。それにしても・・・この城を意識した衣装なのかな?とても綺麗だね』
『まぁ!ありがとうございます!』
『さぁ、座って。お茶はそこにあるよ。お付きの女性は呼ばなくても大丈夫だったかな?』
『ダーリャですね。はい。ひとりで大丈夫です』
『いざとなれば透視の能力で見ることもできるのだものね?』
『はい。そうです』
『アナ。今日は改めて、僕の妻を紹介するよ。初めだけでも顔を見てくれるかな?』
『かしこまりました』
『では、こちらから・・・望、新奈、結衣だ。望は一歳年上、新奈と結衣は僕らと同じ歳だ。望は一ノ瀬電機という主にオービタルリングからの受電装置とケーブルレスの家電を作っている会社の社長令嬢でもあるよ』
『望です。アナ、よろしくね』
『はい。望さま、よろしくお願いいたします』
『新奈は主にアーティスト活動をしているんだ。オービタルリングや低軌道エレベーターを建造している神代重工の社長令嬢でもある』
『アナ、ニーナよ。仲良くしましょう!』
『はい。ニーナさま、ありがとうございます』
『結衣は一ノ瀬電機の製品を開発している技術者でもある。そして一人息子の蓮の母だ』
『アナ、結衣です。よろしくね』
『結衣さま、ありがとうございます』
『そこに浮いているのが蓮だよ』
蓮はフワフワと浮いて、初めは遠巻きにアナスターシャを観察していたが、自分が紹介されると、ススッと近寄って行きアナの膝の上に座った。
『まぁ!可愛い!私はアナよ。よろしくお願いしますね!』
『僕は蓮。変わった言葉だね!でも念話で話せば分かるよ!』
『最後はアネモネだ。彼女は異世界の神星に在る国、グースベリー王国の王女でもあるよ。彼女は二歳年下だよ』
『アネモネです。アナ、よろしく』
『アネモネさま・・・大人っぽいのですね・・・よろしくお願いいたします』
『早速なんだけど、アナ。君が学んでいる物理学のことを聞いても良いかな?』
『はい。何でもお答えします』
『物理学の中でも特に何を勉強しているの?』
『地球物理学です。地磁気を人工的に発生させ、補う装置ができないか研究しています』
『おぉ!僕は今、それを設計しているんだよ』
『はい。テレビのインタビュー番組でそうおっしゃっているのを聞いて驚いていました。それだけでなく、反重力装置やオービタルリング、低軌道エレベーター、交通システム。それらを全て翼さま一人で設計されたのですよね?』
『えぇ、そうです』
『素晴らしい才能で御座いますね・・・私など足元にも及びません』
『そんなことはないでしょう?アナ、今できている地磁気の発生装置の設計図と理論について意見をもらえないかな?』
僕はサロンの大型モニターに自室のパソコンからの映像を映し出し、基本設計と理論を説明していった。アナは透視の能力でモニターを見つめている様だ。真剣な表情で僕の説明を聞いている。
『翼さま、では、これはまだ完成していないのですね?』
『そうなんだ。地磁気はただ出力を強くすれば良いというものではない。オービタルリングからの送電に影響を与えてしまうからね』
『オービタルリングからの送電範囲の外で発生させたいのですね?』
『うん。それが理想かな。でもね、どう計算しても必要な磁気が発生させられないんだ』
『基本は超電導コイルや空芯コイル、電磁石を使って発生させるのですよね?』
『そうだね。でも、どれにも限界はあるんだ。求める出力は得られない』
『翼、神星には地磁気の発生装置はあるじゃない。何故、それを参考にしないの?』
『お母さま、僕は自分で発明してみたいのです。コピーするだけならば誰でもできますからね』
『そうだったわ。あなたは発明家だものね』
『でも、あれって不思議よね?人工の機械装置なのに、月夜見さま達の力で補っているのだから』
『え?お父さま達が装置を補っている?』
『あら?翼は知らなかったの?月夜見さまと八人の妻たちが地磁気の発生装置に力を与えるために五百年の寿命となっているのよ?』
『お父さま達が五百年に渡って、地磁気の発生装置に力を与えている?』
『翼さま、それって電磁石を複数使い、それを神さま同士で結び付けて磁気を増幅しているのでは?』
『え!・・・あ!』
僕は雷に打たれた様なショックを受け、暫し放心状態に陥った。
『翼さま?大丈夫ですか?』
『翼!どうしたの?大丈夫?』
妻たちが慌てて集まり、手を握ったり肩を抱いたりしてくれた。
『あ、あぁ・・・いや・・・ちょっと、ショックを受けたというか・・・』
『その原理ならば何とかなりそうなの?』
『うん、そもそも僕たちのいわゆる神の能力というものは、科学的には何も解明されていないものだ。そしてその力は原子力発電所の様な大質量のものを太陽の軌道まで転移させてしまう程のエネルギーを持っているんだ。それは地磁気の電磁石の出力を増幅させるくらい、造作もないことだろうね』
『だけどね。お父さま達はそれがお役目で、五百年の寿命を授かっているのでしょう?僕らにその寿命はないからね』
『ちょっと待って!』
『アネモネ。どうしたんだい?』
『天照さまは、アナの記憶を思い出させてみたら?とおっしゃったわ・・・』
『え?それって、私たちにも同じお役目が発動するってこと?』
『新奈、十分にあり得るでしょう?だって、翼と妻が八人揃えば良いのでしょう?もう四人居て五人目の候補が出てきたのよ?』
『え?でも・・・私の記憶では、千五百年前の月夜見お父さまの娘は八人よ?その内の光月は・・・』
『そうね、翼の妻ではないわね。でも、ここに居るわ』
皆が瑞希お母さまの顔を見つめた。
『えっと・・・私?』
お母さんはもじもじしながら、皆を見回した。
『別に必ずしも翼の妻でなくとも良いのでは?存在していて力を持っていれば良いのでしょう?』
『望、私もそう思うわ。あとは、宇月と雨月が見つかれば八人揃うのよね』
『いや、待ってくれ。例え八人揃ったとしても、それを何で繋ぐのかが分からないよ』
『それは・・・例えば宝石とか・・・電磁石も石ですから・・・』
『あぁ、そうね。八人の妻たちは天照さまから与えられた、大きな石が付いたネックレスを常に身に着けているのよ』
『初めにオービタルリングのステーションの小部屋にある装置で、天照さまと月夜見さま、それに妻八人で、その宝石を身に着けて認証作業の様なことをしたと聞いたわ』
『なるほど、五百年に一度、神が入れ替わって、その装置を継続して守っているのですね?』
「シュンッ!」
「うわぁ!」
そこへ小さな天照さまがひとりで出現した。
『翼、答えは出た様ですね』
『え?それが正解なのですか?』
『そうです。地球の地磁気発生装置は、これから翼と夢月で造り、五百年に渡って、翼、璃月、羽月、月花、月代、光月、宇月、夢月、雨月と私の十人で継続して守っていくのですよ』
『え?では、僕たちも五百年の寿命となるのですか?』
『これから、其方たちの鍵を発動させましょう』
そう言うと天照さまはふわふわと浮遊しながら、僕から順番に頭に触れていった。天照さまに触れられた瞬間、身体に微弱な電気が走った様な感覚があった。
『天照さま。ではアナスターシャは妻に迎える必要があるのですね?』
『はい。でも瑞希は母のままで構いませんよ。ただし、あと宇月と雨月を探しに行かねばなりませんね・・・』
『えー!あと二人、嫁探しをするのですか?何か手掛かりはないのですか?』
『翼の好みの女性を探せば、見つかることでしょう。では・・・』
「シュンッ!」
「あ!天照さま!そんな・・・」
『ね、ねぇ・・・私たち、寿命が五百年になってしまったの?』
『その様だね。それに・・・』
僕はアナを見つめた。
『あ、あの・・・翼さま?さっきのお話は・・・私は一体?』
『あぁ、急なことで混乱するよね。僕の父、月夜見は千五百年前にさっき現れた始祖の天照さまに生み出されたんだ。その時に八人の妻も同時に生み出され、その時の娘たち八人が現代に転生し、僕の妻になっているんだよ』
『私もその時の娘の生まれ変わりなのですか?』
『そういうことの様だよ』
『えぇ、あなたは陽菜お母さまの娘、七女の夢月よ』
『アネモネさま。私もアネモネさま達の姉妹なのですか?』
『えぇ、そうよ。さっき、天照さまに触れられたから、あなたにも神の力が備わり、五百年の寿命となったのよ』
『私が神に?そして五百年の寿命?』
『そう。そして、翼の五人目の妻となるのよ』
『え?私が翼さまの妻に?』
『アナ、急なことで申し訳ないのだけど・・・』
『そんな・・・申し訳ないなんて・・・でも、わ、私で良いのでしょうか?』
アナは震えている様だ。
『アナ。今日はこんなことになるとは思っていなかったんだ。なし崩し的に結婚しないといけないみたいな展開になってしまって、本当に申し訳なく思っています。きっと、アナも混乱していると思うから、この話は日を改めてさせて頂きます』
『私からも謝罪するわ。アナの気持ちを無視して頭の上で話が進んでしまって混乱しているわよね』
『翼さま、お義母さま。わ、私は・・・翼さまをお慕いしております。ですからこのお話は夢の様で・・・いえ、う、嬉しいことなので御座います』
『え?いいの?』
『勿論です。それよりも翼さまの方が・・・私なんて・・・』
『アナ!自分を卑下しては駄目よ!』
『アネモネさま・・・』
『あなたはまだ、記憶が戻っていないからそうなのよ。翼に記憶を戻してもらいなさい。千五百年前、あなたは翼の子を産んでいるのよ』
『千五百年前にも翼さまはいらっしゃったのですね?』
『違うわ。今、ここに居る翼が、翼の創った異次元空間移動装置に乗って、千五百年前の世界に飛び、千五百年前の私たちと愛し合って子を成したのよ』
『異次元空間移動装置!まさか!』
『あ。そっちに食い付くのね・・・』
『アナ、ちょっと情報量が多過ぎて混乱するでしょう?今日はこのくらいにして、今度、二人の時間を作りませんか?』
『え?翼さまと二人で?も、勿論、構いません!』
『では、アナ。また呼び掛けるから時間を作ってくれるかな?今日はこれで家に送るからね』
『はい。翼さま、皆さま、ありがとうございました』
「シュンッ!」
大変だ!アナを嫁にするだけでなく、寿命が五百年になってしまった!
お読みいただきまして、ありがとうございました!