29.子作り指南
僕の話が終わると、お爺さんが厳しい表情で舞台の中央へ進み出た。
「皆の者。暁月である。久しいな。私はもう引退しておるのだが、最後に一言だけ言わせて欲しい。皆にはもう十分に月夜見の有能さは伝わっていると思う。私から見ても月夜見は既に私の能力を遥かに上回っておるのだ」
「月夜見はこちらの年齢では四歳ではあるが、人間たちを正しく導くことができる者であると思っている。皆の者、月夜見の言葉に耳を傾け、各国の繁栄に繋げて行って欲しい」
「おぉーっ!」
「月夜見さまー!」
「救世主さまー!」
「なお、月夜見は成人すれば当然、嫁を娶ることとなろう。どの国のどの姫君なのか、またそういった身分にも拘らないのか。まだ分らんことだ」
「これから月夜見は其方たちの国を巡ることとなろうが、あまり強引に娘を月夜見の嫁にと押すことのない様に頼むぞ。無論、月夜見が望むのであれば構わないのだがな」
「ははーっ!」
「是非、我が国の姫を嫁に!」
「娘をお願いします!」
皆、聞いちゃいないな・・・
「父上。ありがとう御座いました。では、これにて閉会とする。この後、下着の購入を希望する者は、採寸と試着の部屋を準備してあるので、そちらへ進んでくれ。皆の者、ご苦労であった」
「ははーっ!」
「ありがとう御座いました」
その後、全ての女性がブラジャーを買い求め、更にオリヴィア母さまが着ていたドレスの注文も殺到したとのことだった。
無事に全て終了し、帰りの船で僕はオリヴィア母さまに声を掛けた。
「オリヴィア母さま。そのドレスを着たお姿は想像以上にお美しいですね」
「まぁ!ありがとうございます!嬉しい!」
ぎゅーっと抱きしめられた。
「月夜見。私の妻を口説かないでくれるか」
「えへへ」
「月夜見。今日の演説は素晴らしかったな」
「お爺さま。ありがとう御座います。それで最後のあれは何でしょう?そんなに嫁を薦められるものなのですか?」
「あぁ、それはそれは大変だと思うぞ。全ての国に必ず王女は複数居るからな。ひとりと言わず二人でも三人でももらってくれと迫られることは間違いないからな。少し釘を刺しておいたのだよ」
「そうなのですね。お気遣いを頂き、ありがとう御座いました」
ちょっと怖いが各国を回って指導することは必要だからな。
世界会議の後、一か月が経過した。
家族計画の第二弾で五人のお母さま方が妊活に挑んだ。結果は全員が妊娠した。
僕としても驚いている。
でも冷静に考えれば卵管に排卵していることを目視で確認してからすぐに性交しているのだから、これで妊娠しなかったら何か別の問題を疑わねばならなくなってしまう。
最早これは地球の水準よりも高レベルなことをしているのだ。
でもまだ本人たちに妊娠の事実を伝えていない。実は隙を見てはお腹を透視して妊娠を確認しておいたのだ。面白いので家族全員を集めた場で検診をした。
「では、これから妊娠しているか検診をして行きます。初めに言っておきますが、妊娠しているとしても、子はまだ一センチメートルに満たない豆粒の様な大きさです。簡単に潰れてしまいますので急に立ち上がったり、飛び跳ねたりは絶対にしない様にお願いします。よろしいですか?」
「はい。分りました」
「では、マリー母さまから診ていきます。ふむ、ふむ。ん!これは。妊娠していますね。おめでとうございます!」
「うわぁーっ!おめでとうございます!」
「お母さま、おめでとうございます!」
「次はシルヴィア母さまです。ふん。ふん。さて?ん!はい。妊娠しています!おめでとうございます!」
「うわぁ!シルヴィア母さまも!おめでとうございます!」
「お母さま、弟ですよね!おめでとうございます!」
「望月、まだ分かりませんよ!」
「次はジュリア母さまです。さてさて、ううん。ん?おぉ!妊娠しています!おめでとうございます!」
「お母さま!私に弟か妹ができるのですね!嬉しい!」
「次はシャーロット母さまです。おや?これは・・・うん。妊娠しています!おめでとうございます!」
「お母さまもですか!おめでとうございます!」
「シャーロット母さま、良かったですね。おめでとうございます!」
「最後はオリヴィア母さまです。むむ。これはーどうかな・・・うん。妊娠しています!おめでとうございます!」
「うわぁーっ!オリヴィア母さまも!おめでとうございます!」
「お母さま。本当に良かったですね。おめでとうございます!」
「これで、七人全員妊娠しましたね。計画通りに上手くいって良かったです。おめでとうございます!」
「月夜見さま、本当にありがとうございました」
「月夜見。ありがとう。感謝するよ」
「お父さま。本当に良かったです。これも投資を頂いたお陰です」
「そう言えばルチア母さまは妊娠五か月に入っています。もしかすると性別が分かるかもしれませんので診てみましょうか」
「はい。お願い致します」
子宮を透視して胎児を凝視する。妊娠二十週位では余程生育が良くないと超音波診断器で見た場合は鮮明さが足りずに性別が判断できない場合が多い。でも透視だと素晴らしく鮮明に見えるから胎児の向きがこちらを向いてくれれば完璧に判断できる。
「あ!付いています!ルチア母さま。男の子です。おめでとうございます!」
「嬉しい!ありがとうございます!」
「お母さま!男の子なのですね!私に弟ができるのですね!」
紗月姉さまがぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。良かったな。
ルチア母さまとメリナ母さまの時はグリーンゼリーが無かったし卵管を透視して排卵を確認できることに気付いていなかった。だからこれは結構マグレなのだ。
こうなるとメリナ母さまが本当に心配だ。これこそ神のみぞ知るだよ。でも神も分からないのだからね。おかしな話だ。
そうこうしている内に世界各国から指導の依頼が届いていた。僕は少し前に本職人のパトリシアに一枚の紙に描いた基礎体温表を大量に印刷してくれるように頼んでおいた。
指導を希望する国に出向き、午前中九時から三時間掛けて指導を行う。基本貴族は全員参加で、更に詳細に指導を受けたい者は必ず夫婦で参加することを義務付けた。
昼食を挟んで午後は神宮で宮司に対して指導を行い、今後仕事量を減らしていき週一日は神宮を閉めて休みとする様に指導を行う。
指導の希望日を伝えて来た国から向かうこととなった。
流石に早かったのは、既に意識改革が進んでいた月の都のお膝下、オリヴィア母さまの母国カンパニュラ王国だ。
妊娠中の夫人を瞬間移動させても大丈夫なのかお爺さんに聞いてみたのだが、問題ないとのことだった。でもオリヴィア母さまは妊娠初期なので大事を取って船で向かった。
中庭へ降りると王と王妃が出迎えてくれた。
「月夜見さま、本日は早速お越し頂き、ありがとうございます」
「えぇ、今日はよろしくお願いします」
「お父さま、お母さま、先日はありがとうございました」
「オリヴィア。良く来たな」
「今日は大広間の方に受講希望者を集めております。こちらへどうぞ」
大広間に着くと数え切れない程の人が集まっていた。まずは女性ひとりにつき一枚の基礎体温表を配ってもらった。
まず始めの一時間は前置きとして、生理と妊娠のしくみを解説し、この世界の今までの間違いや問題点を知ってもらった。
次の一時間で妊娠し易くなる性交のタイミングと男の子を授かるための技術的な方法を解説。最後の一時間で基礎体温表の付け方と排卵日の見極め方、生理用品の正しい使い方の説明、ビデを導入することを推奨し、最後に質疑応答で終了となった。
締めの挨拶では、この国の王女であるオリヴィア母さまが、私の指導により三十一歳で三人目の子を妊娠したことを報告すると皆が祝福し、希望の笑顔に満ち溢れたのだった。
この説明だけで全てを理解しすぐに妊娠できる人は多くないかも知れないが、元々この世界では十五歳で結婚してすぐに妊活できるのだ。
今回、三十歳を過ぎてもチャレンジできることが分かっただけでも二、三人生む内にひとりでも男の子が生まれれば今よりはかなり改善できる筈だ。
二か国目はネモフィラ王国だった。流石に僕のお爺さんの国なのだから国民への対応も早かった様だ。
お母さまと瞬間移動でお母さまの部屋へと飛んだ。今回、マリー母さまは大事を取り宮殿に残って頂いた。
「お母さま、僕がやることは同じ内容の繰り返しとなります。お母さまはお昼まで、ソニアに乗って楽しんで来てください」
「え?自分の息子が大切なお話をしているのに、そんなことできる訳がありません」
「お母さま。僕はお母さまにそうして頂きたいのですよ。これは僕の願いなのです」
「そ、そうですか?本当に良いのですか?」
「えぇ、是非、そうして頂きたいのです」
「分かりました。ではお言葉に甘えて出掛けて来ます」
「えぇ、楽しんで来てください」
僕は乗馬服に着替えたお母さまを見送ってサロンへと向かった。
「おぉ、月夜見さま、よくぞお出でくださいました」
「おはようございます。今日はお願い致します」
「月夜見さま、お一人で御座いますか?」
「お母さまと来ましたが、お母さまには私からお願いしまして、ソニアと走りに行って頂いています」
「え?そんな失礼なことを・・・」
「いいえ、そうではないのです。マリーお母さまはこの程、三人目の子を妊娠しました。実はお母さま以外の七人のお母さまが今、全員妊娠されているのです」
「な、なんと!マリーが。あの子は確か三十五歳ですぞ!本当に妊娠したのですか!」
「えぇ、本当です。私の指示通りにしたらすぐに妊娠されましたよ」
「本当にお導きの通りなのですね。ありがとうございます!」
「はい。ですから妊娠されていないのは私のお母さまだけなのです」
「何故、アルメリアだけが妊娠できないのですか?」
「いいえ、妊娠できないのではありません。私がさせていないのです。暁月お爺さまの言いつけで、私が来年五歳になりましたら成人するまで、お母さまと一緒にこのネモフィラ王国で暮らすことになっているのです。今、お母さまが妊娠してしまうと月宮殿から離れられなくなってしまいます」
「ですから、妊娠はしないで頂いているのです。ひとりだけ妊娠できなくて少し寂しい思いもされているのではないかと思い、今日は大好きなソニアとの時間を作って差し上げたかったのですよ」
「娘にその様なご配慮を!おぉ、神よ!ありがとうございます!」
「お母さまは私の愛する女性です。これくらい当たり前のことです。では参りましょう」
「は、はい。よろしくお願いいたします」
特に問題もなく、三時間の講習は終わった。お母さまは時間一杯、ソニアと領地の中を駆け巡っていた様だ。昼食を挟んで午後は月影姉さまの神宮へ行くので、お母さまには今度は僕が戻るまで、厩でソニアの世話をしてやってくれとお願いした。
「月影姉さま。お元気ですか?」
「お兄さま!私も月の都の神宮へ行きましたから久しぶりでもないのですよね」
「あの時はお話する時間もありませんでしたからね。ところで、お姉さまにはあの話は分かりましたか?」
「えぇ、とても良く分かりました」
「それならば良かったです。こちらで何か困っていることはありませんか?」
「そうですね。まだ生理でやってくる患者は多いですが、まだあの本が出回ってはおりませんので仕方がありません。今は私の方であの本を見せながら一人ひとり説明しているところです」
「そうですか。流石、お姉さまは優秀ですね。今はまだ大変でしょうが徐々に仕事は減って来ると思います。来年、僕とお母さまがここで暮らす頃には、週に一日は神宮を閉めてお姉さまがお休みを取れる様にしましょう」
「そうしたら僕と一緒に街へ買い物に行くのも良いですし、一緒にお母さまから乗馬を教わりましょうか」
「本当ですか!」
お姉さまに抱きつかれてしまう。
「嬉しい!楽しみです」
「お姉さま、この神宮ではビデを設置することになっていますか?」
「はい。お父さまから全ての神宮に通達があり、神宮の全てのトイレに設置して外側には公衆トイレも作ることになっています」
「それは良かった。他に今、困っていることは御座いませんか?」
「はい。今は大丈夫です。本当にありがとうございます」
「では、困ったことがあったらお爺さまに話してすぐに僕に連絡してください」
「本当に来てくれるのですか?」
「えぇ、瞬間移動できるのですからお姉さまの寝室へ飛んで来ますよ」
「嬉しいです。ありがとうございます」
月影姉さまは可愛い女性だ。姉さま達の中でもつい贔屓してしまうな。
お読みいただきまして、ありがとうございました!