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27.神の裁き

 月の都は中国が進軍しようとしている先、アナスターシャたちの上空へ出現した。


 テレビの生放送にも突然現れた月の都が映し出された。

「み、皆さま!つ、月の都が出現しました!天照さまが来てくださったのです!」

「こ、これで、ロシアの方々は助かるのでしょうか!」


『さぁ、庭園にある小型船に分乗し、艦船、航空機、全ての兵器を集めてしまいましょう。あの娘を死なせてはなりませんよ。翼』

『はい。天照さま』


 僕らは各々、小型船に乗り込むと、担当分けした地域へと瞬間移動して行った。

結衣と蓮、葉留と徹はお留守番だ。月の都の山の上から監視していてもらい、兵士たちが国境を越えようとしたら全員空中に浮かして足止めする様に頼んだ。


 そして、それぞれの地域で軍艦や潜水艦、戦闘機や爆撃機、それにミサイルを次々と指定した砂漠地帯へ転移させていった。


 僕とお父さん、それに琴葉お母さまに抱かれた天照さまの三人は、核兵器を集め始めた。結衣は月の都から見える範囲に集まっている軍隊の兵器を戦車など大きなものから転移させていった。


 すると兵士たちが月の都へ目掛けて、一斉に地対空ミサイルを発射した。その数は優に三百基を超えている。

「結衣お姉ちゃん。大丈夫?」

「葉留ちゃん、あれを宇宙へ飛ばせば良いのよね?」

「おいおい!そんな悠長に話している場合じゃないでしょ!」

「徹さん。大丈夫よ。落ち着いて!ね?結衣お姉ちゃん!」


「シュンッ!」

 月の都まであと数百メートルのところまで迫って来ていたミサイル群を結衣は十把一絡じっぱひとからげにして宇宙の彼方へと消し去った。


「ふー、助かった・・・」

「ね?大丈夫でしょ?」

「あ!また、なんか来たぞ!」

「ん?あれは何?」


 小さな物体が無数に兵士の間から飛び上がって来た。おびただしい数だ。

「あれは・・・ドローンだね・・・爆発物を搭載しているのだろうね」

「ミサイルが届く前に消し飛ばされているというのにあんなにゆっくり飛んで来るもので何ができるというのでしょうね?」


「戦車も装甲車もミサイルも無くなってしまったのだから、ある物全てを使っているのだろうね。なんだかちょっと哀れに思えてくるよ」

「それにしても・・・神をも恐れぬ・・・とはこのことね!」

「仕方がないよ。命じられて仕方なくやっているのだろうからね」

「では、あれも宇宙へ飛ばしてしまいましょう」


 AIが搭載されたドローンは何十、何百という単位で編隊を組み、何か巨大な物体に見える様な状態で月の都へと迫って来ていた。


「シュンッ!」

「あぁ・・・消えちゃった・・・」

「葉留、何だか残念そうだね。あれは兵器なんだよ?」

「そうね。なんだか小さいのが集まって一生懸命飛んでいるみたいだったから、可哀そうに思えてしまったわ」


「これも戦争なんだね・・・だけど、彼らにはあと自動小銃とかバズーカ砲くらいしか残っていないのではないかな?」

「兵士だけは大勢残っているわね・・・既に戦意は喪失しているみたいだけど」

「だって、ここから歩いてハバロフスクまでは行けないからね。とは言え戻ることも難しいしね」


「えぇ、弾薬どころか食料を積んだ車さえ、結衣お姉ちゃんが飛ばしてしまったのだから」

「あら?いけなかったかしら?どれに食料が積まれているかなんて分からなかったから」

「良いんだよ。仕方がないさ。戦争なんだからね」


 それから、小一時間程で全ての兵器が砂漠へと集められた。かなりの数だがロシアの時と比べればまだ少ない。


『月夜見、どう決着をつけますか?』

『そうですね。まず、中国の主席は異世界送りですね。兵士たちも目を覚まさせる必要があるでしょう。その後、世界へこのことを知らせます』

『良いでしょう。翼はアナスターシャを保護しに向かいなさい』

『はい。行って参ります』


『さて、まずは集めた兵器を全て太陽の軌道まで飛ばしてしまいましょう』

「シュンッ!」

 お父さんは砂漠に集められた艦船や航空機、戦車、トラック、ミサイル、核兵器を一瞬で宇宙まで転移させ、跡形もなく消し去った。


 次に砂漠に取り残され呆然としていた兵士を月の都のある国境まで転移させると、その場に集合していた一万人の兵士と共に地上千メートルの高さまで運んで逆さ吊りにした。

合計では五万人は居るだろうか?恐怖で叫ぶ者、気を失いかける者、泣き出す者と様々だ。


『中国の兵士たちよ。今、手にしている武器を全て捨てなさい。捨てない者は宇宙へと飛ばし、一瞬のうちに蒸発させます』


 その声を頭の中で聞いた兵士は逆さまの状態で銃や手榴弾しゅりゅうだん、ロケット砲などを空中へ放棄した。それらがバラバラと地面へ向けて落下していく。地上に落ちる前に全て宇宙へと転移させ、消し去った。


『よろしい。では其方そなたたちには神を殺そうとしたことへの報いを受けて頂きましょう』

 お父さんはそう言うと、兵士たちを千メートル上空から落とした。


 兵士たちは自由落下して行く。叫び声をあげる者も居たが、大半は気を失っていた様だ。そして地上十メートルのところで北京の天安門広場の地上へ全員を転移させた。


 気絶したままの者が大半なのだが、意識を保てた者は一様にきつねにつままれた様な顔をして、あたりを見回していた。


「さて、国家最高指導者とやらを裁いてしまおうか」

 ワン 梓豪ズーハオの意識に入り、事前に調べて居場所を確認しておいた家族たちと共に天安門の上空に転移させ宙に張り付ける様に浮かべた。


『中国最高指導者、ワンよ。つい先日、水を与えたのも束の間、恩をあだで返すとはこのことですね。さぁ、あなた方が見る母国もこれで最後となります。三分だけ差し上げよう。その目に焼き付けると良い』

『あぁ・・・い、いや、こ、これは・・・わ、私は・・・国民のためを思って・・・』

『世界を・・・地球の環境を思うことは無かったのですね?地球には人間だけでなく、多くの生物が生きています。人間だけのものではないのです。ましてや一国の意向で好きにできる訳がないではありませんか』


『わ、私を、家族をどうしようと言うのだ!』

『かつてのロシアの大統領と同じですよ。この地球を汚し続けた報いを受けて頂きます』

『な、なんだと!このままで済むと思うなよ!』

『ふむ。この期に及んで私を脅すのですか・・・』


 その時、琴葉お母さまに抱かれていた天照さまが首をもたげ、南西の方角を見上げた。

『月夜見、ミサイルがまだ有った様です。大きなミサイルがパキスタンから発射されました。恐らく中国の部隊がそこに隠していたのでしょう。東京へ向けて飛んでいますね』

『全く懲りないのだな・・・』

『月夜見、こちらへ転移させますから受け止めてください』

『はい』


「シュンッ!」

「ドドドドーッ!」

 大陸弾道ミサイルが突然現れた。お父さんはそれを念動力で動きを抑え込み、ワンの目の前へ水平に静止させた。ロケット燃料の燃焼で大変な炎と煙が辺り一面に立ち込めた。


其方そなたが言った、このままでは済まさないとはこれのことですか?』

『ひーっ!ば、化け物!』

『ほぉ、今度は私を化け物呼ばわりですか。もう十分ですね』

「シュンッ!」

 ミサイルが突然消えた。お父さんは太陽の軌道まで転移させたのだろう。


『では、中国の国家最高指導者だった人。さようなら』

『お、おい!私たちをどう・・・』

「シュンッ!」

 空中に浮かんでいた家族は突然消えてしまった。


『世界の皆さん。今、中国の国家最高指導者であった男とその家族は、異世界の人の住まない大地へと旅立ちました。これからは平和な星となるでしょう』


『その前に、中国の暴挙に手を貸した国。パキスタンにも責任を取って頂きましょう。新平和条約に違反をしたパキスタンへの電力供給は即座に停止します』


『交通システムも順次、自動回収されます。再び条約を批准するためには条約に基づいた賠償金を支払って頂きます』


 僕はお父さんの氷の様に冷たい声を聞きながら月の都から身ひとつでアナスターシャの元へと降りて行った。


 アナスターシャの乗る小型船にはお付きの女性が僕の姿を見てアナスターシャに伝えていた。


 アナスターシャは背格好が新奈に似ている。美しく長いブロンドの髪を後ろで青いリボンと共に編み込んでいる。肌が透き通る様に白い。美しい娘だ。でも瞳は閉じている。盲目の姫と呼ばれているのだったな・・・


 そして、ロシア語で話し掛けて来た。

「あなたさまは天照 翼さまですね?」

「はい。天照 翼です」

「来てくださったのですね・・・?」

「私が来ると分かっていたのですか?」

「いいえ、来てくださることを祈っていたのです」


 何だろう?僕のことを知っているのかな?いや、歌のプロモーションのニュース番組で観たのだろう。


「この度はロシアをお救い下さり、ありがとう存じます。わたくしは、ロシア連邦大統領、イゴール ヴォルコフの娘、アナスターシャ ヴォルコフで御座います」

「アナスターシャ。何故、あなたは身の危険をおかしてまで、一万の兵の前に立ちはだかったのですか?」


「それは勿論、ロシアの民を守りたいからです。それに中国の方たちに、ロシアと同じてつを踏んで欲しくなかったのです」

「あなたがそこに立つことで彼らが踏みとどまると思われたのですか?」

「いいえ。私に彼らを止めることなどできないことは分かっていました。でも何もしないままではいられなかったのです」


「アナスターシャ、あなたは優しく勇気のある人なのですね」

「いいえ、私は・・・無知で無謀な親不孝者です」

「両親が止めるのも聞かずに飛び出して来た?」

「はい。神さまは全てお見通しなので御座いますね・・・」

 アナスターシャは頬が赤くなり、両手で自分の頬に触れた。


「アナスターシャ、疲れているでしょう?月の都で休憩して行かれませんか?」

「え?神さまの住まう月の都へ?」

「お付きの方たちもずっと緊張していてお疲れだと思いますよ」

「そんな・・・よろしいのですか?」


 アナスターシャは僕の顔に真直ぐに顔を向けている。なんだろう?気のせいかな・・・アナスターシャは僕が見えているみたいな素振りをするな?


 僕は一応、天照さまにお伺いを立てておくことにした。

『天照さま。アナスターシャたちは疲れている様です。月の都で送りがてら休憩させてあげたいのですが、連れて行っても構いませんか?』

『構いませんよ。ただし、お付きの者たちは庭園に居て頂きますが・・・』

『はい。分かりました。ありがとうございます』


『アナスターシャ。では、参りましょうか。一瞬で移動しますよ』

『え?』

「シュンッ!」


 月の都の庭園に小型船が転移した。船の扉を開いたアナスターシャと大統領親衛隊の者たちは、船から降りて月の都を物珍しそうに眺めていた。

アナスターシャには、お付きの女性が付き添っている。彼女に月の都の景色を説明している様だ。


 僕は一度、皆が居るサロンへ戻った。

「お父さま、アナスターシャたちを保護しました。疲れている様なのでこのまま月の都で送って行きましょう」

「そうだね。エリー、ロシア語は話せるのだっけ?」

「はい。月夜見さま。地球の言語は全てプログラムされております」


「では親衛隊の者たちにはお茶と軽食を用意し、本国に送るまで庭園で休む様に言ってくれるかな?そしてアナスターシャとお付きの女性はサロンへ案内して」

「かしこまりました」


 ワゴンにお茶や水、軽食を載せてエリーは庭園へ出て行った。そして十分後には、アナスターシャとお付きの女性を連れて戻って来た。アナスターシャはお付きの女性に手を引かれ、白いつえを突いている。


『私は天照です。あなたはアナスターシャ ヴォルコフ殿ですか?』

『はい。神さま。わたくしは、イゴール ヴォルコフの娘、アナスターシャ ヴォルコフで御座います。この度はロシアをお救いくださり、ありがとう存じます。父に代わりまして御礼申し上げます』


 やはりそうだ。お父さんは念話でしか話していない。声を発していないのだから、お父さんがどこに座っているのか分からないはずだ。それなのにアナスターシャはお父さんに顔を向けて返答している。見えているとしか思えないな・・・


『良いのですよ、アナスターシャ。ところであなたは目が見えない様ですね』

『はい。五歳の頃から徐々に見えなくなり、今ではほとんど見えない状態です』

網膜色素変性症もうまくしきそへんせいしょうですか?』

『その通りです。本当に神さまは何でもお見通しなので御座いますね』


『アナスターシャは今、何歳なのですか?』

『はい。私は二十歳で御座います』

『翼と同じなのですね』

『え?翼さまも二十歳でいらっしゃるのですか?』


『アナスターシャは本当にお姫さまの様な人ね』

『あぁ、紹介していなかったね。私の妻で翼の母の瑞希です。でも紹介しても顔が見えないのでは・・・』

『はい。お声を聴き、お顔に触れさせて頂いてお相手を認識している次第ですので・・・』


 あれ?やっぱり見えないのか・・・ではさっきのは、たまたまお父さんの方を向いただけなのかな?

『そうか。では、翼の顔だけでも認識してもらってはどうかな?』


『え?翼さまのお顔に?私が?』

 アナスターシャの透き通る様な白い肌が一気にピンク色に染まった。

新奈や望、結衣とアネモネがざわついたのを感じた。


『僕で良ければ触れて頂いても構いませんよ』

『よ、よろしいのでしょうか・・・』

 お付きの女性が真っ赤な顔をして、こそこそと何やらアナスターシャに吹き込んでいた。

『そ、それでは・・・す、少しだけ・・・よろしいでしょうか?』

『どうぞ』


 そう言って、僕はアナスターシャの目の前に進み、少し膝を曲げて手が顔に届き易い様にしてあげた。アナスターシャはおずおずと手を伸ばし、僕の頬に両手で触れた。

「あ!」


 彼女は何かに驚く様な声を上げ、よろけた。僕は咄嗟に彼女の腰に手を添えて支えた。

『す、すみません!私ったら・・・』

『大丈夫ですか?』

『あの・・・もう少しだけ!あと少しだけ・・・触れても良いでしょうか?』

 アナスターシャは何か必死だ。なんだろう?


『構いませんよ』

 今度はゆっくりと顔の輪郭を確かめる様に触れていった。鼻や唇も順番に触れていった。

一頻ひとしきり触れて何か分かったのか、満足したのか知らないが、彼女は僕の顔に触れていた両手を胸の前で組み、祈る様なポーズで動かなくなった。


 お付きの女性が彼女の肩を抱く様に支え、数歩下がった。

『さぁ、疲れたでしょう。座ってお茶にしましょう』

 アナスターシャにお母さんが優しく声を掛けた。

『ありがとう存じます』


 アナスターシャは真っ赤な顔をしたままうつむいて、お付きの女性に支えられながらソファに座った。


『お付きの方も一緒に座って休んでください』

『い、いえ、私は・・・』

『あなたも疲れているでしょう?それでは姫さまを支えられませんよ?』

『ほ、本当によろしいのでしょうか・・・』

『お座りなさい』

『は、はい・・・』


 お付きの女性も真っ赤な顔になっている。まぁ、彼女にはお父さんがはっきりと見えているのだからな。魅了されない訳がない。


『アナスターシャ、現在のロシアの経済は如何ですか?』

『はい。お陰さまを持ちまして、なんとか安定して参りました。幸い国土は広いもので食料の自給自足は目途が付いております』

『その他の産業は?』

『はい。金やニッケルの輸出を主力としております』


『原油や液化天然ガスは売っていないのですよね?』

『はい』

『それは良かった。かつての西側諸国と言われた国々とも今では良好な関係になっているのですね?』

『はい。全ては天照さまのお導きをたまわった結果で御座います』


『アナスターシャ、お付きの方も。お菓子をどうぞ。お茶も飲んで!』

『あ、ありがとうございます』

 アナスターシャは紅茶を一口飲み、焼き菓子を口に運んだ。


『あ。美味しい!』

『それは良かった。もっと食べてね。疲れているでしょう?』

『はい。実は今朝から何も食べていなかったのです・・・』

『まぁ、可哀そうに。とても頑張ったのね』

『私なんて・・・私には・・・何もできないのです』

 アナスターシャは急に思い詰めた表情となってうつむいてしまった。


『いいえ、あなたの行動は世界が見守っていました。勿論ロシア国民もね。勇敢なあなたの姿を見て、国民は勇気をもらったと思いますよ』

『翼さま。ありがとうございます・・・』


『アナスターシャは今、学生ですか?』

『はい。ロモノーソフモスクワ州立大学の学生です』

『何を専攻しているのですか?』

『物理学部です』

「物理!?」

 僕は思わず反応して大きな声を出してしまった・・・


『翼さまは反重力装置を発明されたのですよね!』

『え、えぇ・・・でも・・・物理を専攻って?目が見えないのに?どうやって勉強を?』

『あ!そ、それは・・・』

 むむ・・・これは何か隠しているな?やっぱり見えているのではないのかな?


『アナスターシャ。実はあなたは目が見えるのではありませんか?』

『・・・』

 するとお付きの女性がアナスターシャに何か耳打ちした。彼女はそれにうなずいていた。


『翼さまは全てお見通しなのですね・・・信じて頂けるかどうか分からないのですが・・・目の病気は本当で目は見えないのです・・・ですが・・・何故か本当に見たいものは頭に浮かぶ様に見ることができるのです』


『それって・・・透視能力?』

『そうとしか思えないな、それなら念話もできるのでは?』

『お父さま。そうですね・・・』

 今は、僕らの念話能力で話し掛け、アナスターシャの心の声を聞いている。まぁ、僕はロシア語が分かるから直に声を聞いてもいるのだけど・・・


『アナスターシャ。君には神の能力があるのかも知れないね。念話というものを試してみたいのだけど良いかな?』

『私に神の能力が?そんなことはないと思いますが・・・翼さまがおっしゃるのであれば・・・』

『では、僕がアナスターシャに念話で話し掛けるからね。聞こえたら声に出さずに頭の中で僕に返事をする様に話してくれるかな?』

『はい。やってみます』


『アナスターシャ。僕の声が頭の中で聞こえるかい?』

『は、はい!聞こえます!翼さま!』

『うわ!念話もできるんだ!』

 念話ができるなら空中浮遊もできるかな?


『アナスターシャ、空中浮遊をしてみようか。座ったまま自分の身体が宙に浮かぶイメージをしてみて』

『はい。やってみます』

『・・・』

 彼女の身体は宙に浮くことは無かった。顔だけは一生懸命に難しい顔をしているが・・・


「うーん。空中浮遊はできない様ですね・・・」

「天照さま、彼女はどうなのでしょうか?」

「翼が彼女の記憶を思い出させてあげたら良いのではありませんか?」

「はぁ?」

 天照さまの言葉にアネモネが素っ頓狂な声を上げて反応した。


「翼!これ以上、妻を増やしたいの?」

「い、いや、僕はそんなことは考えていないよ」

「アネモネ、落ち着いて。まだアナスターシャが翼の妻候補となった訳ではないのだから」

「お義母さま!記憶を思い出させるということは、キスやセックスをしろということですよ?」

「あぁ、まぁ、そうね」


『あの・・・私・・・何か不味いことを・・・』

 アナスターシャには日本語で話している僕らの会話は理解できていない。でも僕らが何かもめていることは察した様だ。


『あーいや、アナスターシャ。何でもないのです。君に透視や念話の能力があることに驚いたのですよ』

『あの・・・この能力はおかしいことなのでしょうか?』

『おかしくはないよ。でも珍しいし、特別なことだと思うよ。ところで透視の能力はいつでも発動して見ているのかな?』

『いいえ、これを続けるととても疲れるのです。今は、大学の物理の講義の時だけ使っています』


『それだと周りから奇異な目で見られるのでは?』

『えぇ、でも既に私のことは皆、特別な存在として捉えてくれていますので・・・』

『そうか・・・アナスターシャ。今日は疲れているだろうから、また今度、話を聞かせてもらえるかな?』


『え?また翼さまにお会いできるのですか?』

『えぇ、こうして念話で呼び掛けますよ』

『嬉しい!本当ですか?』


「ほら!ご覧なさい!もう翼にぞっこんではありませんか!」

「そうね・・・彼女にはもう、翼しか見えていないわね」

「仕方がないわよ・・・翼なんだもの・・・」

「本当に五人目になるのかしら・・・」

「お父さま!モテモテですね!」


 おいおい、蓮まで何を言っているのだか・・・参ったな・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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