26.最後の足搔き
琴葉お母さまは天照さまを出産する準備に入った。
幸子お母さまと紗良お母さま、それに桜お母さまも寄り添い、その時に備えた。
僕らはお父さんが迎えに来てくれて家族全員で神星の月の都へと飛んだ。アネモネもグースベリーから飛んできた。
サロンに集まり、侍女が出してくれたお茶を飲みながら雑談が始まった。
「翼。いらっしゃい。皆も。地球は大変な様ね」
「そうですね。幸子お母さま。あとは中国の出方を窺うしかありません」
「中国は水さえ何とかなれば、あとはエネルギー問題だけだものね」
「水は海水をろ過して飲み水に利用している様ですが、作物の分まで回らない様です。元々、人口が増え過ぎだったのです」
「それでも日本の様に超高齢化社会となって人口は頭打ちにはなっているのよね?」
「舞依お母さま。そうなのです。それでも国土の砂漠化が進んでしまって食料事情も悪化しつつあるのです」
「エネルギー問題はどうするつもりなのかしら?」
「原子力発電を増やしたくても僕らが怖くてできないでいるのです。結局、火力発電に頼っていますから、原油や天然ガスが欲しい筈です」
「どうやって手に入れようとするのかしらね?やはり力尽くかしら?」
「はい。それを懸念して常に監視をしているところです」
「翼も大変ね。何か協力できると良いのだけど・・・」
「舞依お母さま。ありがとうございます。でも大丈夫です」
「まぁ!頼もしいわね」
そこへ小白が背中にフクロウを乗せてサロンへ入ってきた。
「あ。天照さま」
「琴葉。ご苦労ですね。明朝、私の新しい身体が生まれるでしょう」
「明朝なのですね・・・」
「今夜、私は千五百年前の世界へ旅立ちます」
「神星のオービタルリングはいつ頃建造されたのですか?」
「今から二千年前の時代にイノベーターが飛び、テラフォーミングを始めています」
「いつ頃から、神星に人を送るのですか?」
「翼の子が生まれた二十年後には移住しますよ。その頃には二十九の国の城や民衆の住む家が造られ始めているのです」
「二十九?三十か国ではないのですか?」
「アスチルベの島には月の都だけが在ったのです。アスチルベ王国を創ったのはかなり後のことです」
「そうでしたね」
「二十九の国の始めの王は誰がなるのですか?」
「それは月夜見の子たちです」
「えぇ、私はネモフィラ王国の女王になったわ」
「え?望がネモフィラ王国の初代女王?」
「そうよ。結衣はイベリス王国よね?」
「そうね」
「まぁ!結衣がイベリスの初代女王だったの!」
幸子お母さまは、嬉々として結衣を抱きしめた。
「そうなんだ。新奈とアネモネは?」
「私はカンパニュラ王国よ。アネモネはグースベリーよね」
「あぁ、やっぱりアネモネはグースベリーなんだね?」
「えぇ、だから物心ついた頃には、私にとってグースベリーは何故か勝手知ったる国だったの」
「翼。其方の異次元空間移動装置を返しておきましょう」
「シュンッ!」
サロンの外に僕が造った小型船の形をした、異次元空間移動装置が現れた。見た目は何も変わっていない。
「自動で発電し、充電する機能を付けておきましたよ。それともう一度注意しておきますが、翼は未来へ行ってはなりません。過去も千五百年前の世界で妻たちと共に生きられる時代までとしてください」
「はい、心得ています」
「天照さま、それは何故なのですか?」
お父さんは理由が分からない様で天照さまへ質問した。
「同じ時に同一人物が現れ、後からその場に現れた者がその時代に干渉し未来を変えてしまうと、どちらか一方が消滅するのです」
「それは怖いことですね」
「それと、他の者が誤って使わない様に管理も徹底しなさい」
「はい。分かりました」
「同じ時代の神星と地球の行き来は自由です。アネモネの送り迎えに使うでしょうから」
「はい。ありがとうございます」
それを聞いてアネモネが嬉しそうに笑った。
「月夜見。他の者も。最後に何か聞いておきたいことはありますか?」
そう聞かれて皆は一瞬考え込んだ。そしてお父さんが口を開いた。
「地球のことなのですが、中国の動向が気になります。最終的にどう導くことが良いのでしょう?」
「私は人間を導くことはしません。其方たちがそれをしたいならば、自分で考えることです」
「やはりそうなのですね・・・分かりました」
「では、これで・・・琴葉、頼みましたよ」
「かしこまりました」
「バサッ!」
フクロウは羽ばたくと宙に浮き、サロンの外へと飛んで行って見えなくなった。
「瑞希。今日は泊っていくだろう?」
「そうですね・・・翼、どうしましょうか?」
「お母さま、琴葉お母さまの出産をお手伝いされた方が良いでしょう。それに天照さまの生まれてすぐのお姿が拝見できるのですから・・・残りますよ」
「そうね!天照さまの赤ちゃん姿なんて千五百年に一度しか拝見できないのよね?」
「そうだわ!是非、お会いしておかないと!」
「ふふっ、そうだよね。僕らは一度、会っているけどね」
その時、サロンの真ん中で寝そべっていた小白が頭をもたげ、もの言いたげにお父さんを見つめた。
『ん?小白。どうしたんだい?』
『つくよみ・・・もう・・・おわかれ』
『え?小白!まさか!寿命なのかい?』
『いままで・・・ありがとう』
『え?そんな・・・突然過ぎるよ!小白。待ってくれ!』
『きっと・・・また・・・あえる』
そう言うと小白は目を瞑り、永遠の眠りについた。
「小白!」
「そんな!あぁ、小白・・・」
「小白!こはくー!」
お父さんは小白の首に抱きつき、膝をついて涙を流した。舞依お母さまも琴葉お母さまもその隣に寄り添い、一緒に泣いていた。
「小白は・・・三十五年も生きたんだ。大変な長命だったね」
「生まれてからずっとあなたと暮らせて、きっと幸せだったと思うわ」
「舞依。そうだね。ただ、小白の子供を残せなかったのが残念かな・・・」
「狼ですものね。夫婦で飼うのは難しいわね」
「来世では子供も残せると良いな」
「えぇ、そうね」
「月夜見さま!生まれます!」
サロンの外にエミリーが走って来るなり叫んだ。
「あ!リリーの仔か!すぐに向かうよ」
お父さんは小白を宙に浮かせると、厩舎へ瞬間移動した。
「シュンッ!」
小白をいつもの寝床へ一旦寝かせると、リリーの馬房へ向かった。リリーは琴葉お母さまの馬だったソニアの孫だ。舞依お母さまの馬だったセレーネの孫のハリーとの仔を宿したのだ。
馬房ではアミーとスヴェンがリリーに付いていた。エミリーとアミーは四十歳、スヴェンは四十一歳になっており、子供も二人ずつ、孫は三人居る。馬の出産ももう手慣れたものだ。
エミリーも加わったところでリリーのお産が始まった。
リリーを見守って数十分経過したところで、真っ白な牡の仔馬が生まれた。
リリーが羊膜を食い破ると仔馬は直ぐに立とうとする。わなわなと震える足でなんとか立ち上がると、直ぐにリリーの元へとヨタヨタと進み、乳に吸い付いた。
「無事に生まれて良かった。エミリー、アミー、スヴェン。ありがとう」
「月夜見さま。勿体ないお言葉です」
スヴェンの後ろでは、彼らの跡継ぎの息子と娘が一部始終を見守っていた様だ。
しばらくリリーの乳に吸い付いていた仔馬は、落ち着いたのか周りを見渡すと、お父さんのところへ歩み寄って、首を摺り寄せた。
「おや。人懐っこい仔だね」
『つくよみ・・・』
『え?私を知っているのかい』
『まぁくん・・・また・・・あえた』
『まさか?小白なの?』
『こはく・・・また・・・まぁくん・・・いっしょ』
「小白!お前、今度は馬に生まれ変わったのか!」
お父さんは小白の首にしがみ付いて頬を擦り付けた。
「え?月夜見さま?」
エミリーたちは何が起こったのか分からずポカンとしている。
「あ、あぁ、エミリー。この仔は小白の生まれ変わりだ」
「え?小白?小白は死んだのですか?」
「え?あ!そうか。ついさっきサロンで亡くなったんだよ。今はいつもの寝床に寝かせているよ」
「そうだったのですか!小白が・・・でも、もう生まれ変わったのですね!」
「それなら、悲しくはないですね!」
「あぁ、そうだね。悲しんでいる暇がなかったよ!」
早速、小白を連れ、テクテクと歩いてサロンへ向かった。途中、狼の小白の亡骸を馬に生まれ変わった小白がペロペロと舐めて別れを惜しんだ。
「皆、聞いてくれ!小白がこの仔馬に生まれ変わったんだ!」
「え?もう?」
「そうなんだ。驚くよね!でも本当だよ。皆、話し掛けてご覧よ」
『小白?あなた小白なの?』
『ことは・・・ぼく・・・こはく』
『まぁ!私のことが分かるなんて!本当に小白なのね!』
『こはく』
『凄いわ。また一緒に暮らせるのね!』
『まい・・・また・・・いっしょ』
『嬉しい!』
「シュンッ!」
舞依は瞬間移動して来て小白の首にしがみついた。
それから皆で山の麓へ行き、狼の小白の亡骸を埋葬した。
それを仔馬に生まれ変わった小白が、その青くつぶらな瞳でじっと見つめていた。
翌朝、陽が昇る前に琴葉お母さまの陣痛が始まり、明るくなる頃、天照さまを出産した。
前回と同じ、青い瞳とプラチナシルバーの髪、見た目には女の子に見える身体の天照さまが生まれた。
幸子お母さまと紗良お母さま、それにお母さんでテキパキと処置をし、天照さまは琴葉お母さまの乳に吸い付いていた。
『琴葉、ご苦労でしたね』
『天照さま。無事ご生誕されましたこと、心よりお喜び申し上げます』
『月夜見、しばらく世話になります』
『はい。ゆっくりしていってください』
『私はまだ、身体が出来きっていない。眠らせて頂きますよ』
そう言って、天照さまは琴葉お母さまの腕の中で眠ってしまわれた。
「眠ってしまいましたね・・・」
「可愛い・・・っていうか・・・とても美しい赤ちゃんですね!」
「アネモネ。そうだね。赤ちゃんなのに美しいという言葉がピッタリだね」
「あら?翼の赤ちゃんの時にとても似ているわよ?」
「え?お母さま、そうなのですか?」
「それはそうよ。私は天照さまから生まれたのよ?そしてお父さまは月夜見さまなのだから、似ているに決まっているでしょう?」
「まぁ!翼の赤ちゃんの時の姿って、こんなに美しかったのね!」
「さぁ、琴葉は疲れているのだから休ませてあげないと。私たちは帰りましょう」
「そうですね。では、異次元空間移動装置で帰りましょう。アネモネは一人で帰れるね?」
「えぇ、大丈夫です」
「ちょっと怖いわ。ちゃんと帰れるのですよね?お兄さま」
「葉留、僕が信じられないのかい?大丈夫だよ」
「私は信じているわ。葉留ちゃん、大丈夫よ」
「では、お父さま。僕たちは帰ります」
「うん。気をつけて、中国の状況で何かあったらすぐに知らせるのだよ」
「はい。では」
僕は地球の月の都の座標をセットした。時代は現代の同時間だから変える必要はない。
スタートボタンを押すと、低い電子音が響いた。
「シュイーン!」
「シュンッ!」
小型船が消えるとその場に青い光の粒が無数に淡く光り、消えていった。
「凄いわね。あれで地球との行き来ができるだけでなく、過去にも飛べるのね」
「うん。我が子ながら驚くよ。翼は天才だね」
「シュンッ!」
「あ!月の都の庭だわ!」
「無事に帰ったのね」
「それはそうだよ。大丈夫に決まっているじゃないか!」
「てへっ!疑ってごめんなさい!お兄さま!」
葉留はアニメの主人公の様な可愛いポーズで笑顔を作った。まぁ、可愛いけどさ・・・
それから二週間後の朝、朝食が終わる頃にエリーが食堂に入ってきて言った。
「翼さま、中国の方で動きがある様です。今、国営放送で臨時の特別番組が始まりました」
「そうか。ではサロンのモニターに映してくれるかな?」
「かしこまりました」
サロンに皆で移り、モニターへ国営テレビの放送を映した。そこでは中国のロシア侵攻のニュースが特別番組で放送されていた。
中国は他国と隔絶され、衛星の情報も使えなくなったため、自前で電波塔を建て自国内だけの放送網を構築し、テレビ放送を継続している。台湾ではその放送を傍受できるため、台湾経由で日本でもその放送が観られるのだ。
中国の国家最高指導者である、王 梓豪が天安門で演説をしている映像だ。
「我々は追い詰められた。それは他国の神とやらが現れ、勝手に世界を創り変えてしまったからだ」
「我々は何も悪くない。真面目によく働く国民は世界の工場として尽くしてきた。しかし世界から無下に切り離されたのだ」
「だが、我々は負けない。我が国は強固な国だ。脅しに屈することは決してないのだ。このまま指をくわえて見ているだけではない。我々には力がある!今こそ、行動を起こす時だ!」
「うぉー!」
何万という夥しい数の軍人が集まった天安門広場で、軍人たちは唸る様な雄叫びをあげた。その声は地響きの様な波動となって何キロ先までも届いていることだろう。
「我が国の天然資源は枯渇し掛かっている。このままでは電力を失ってしまうのだ。隣国でかつての友好国であったロシアは今、西側諸国の傀儡となってしまった」
「今こそ、彼らを救い出す時だ。再びロシアに自由をもたらし、我々と共に再び繁栄の道を進むのだ!」
「うぉー!」
軍人たちは増々興奮し、声が大きくなっている。
演説の映像から切り替わり、日本の特別番組では、中国軍のロシアへの侵攻の様子を映し出していた。それはオービタルリングの監視衛星機能から撮影した映像だ。
男性キャスターと女性アナウンサー、それに中国の情勢に詳しい学者が、映像を観ながら状況を説明していく。
「一週間前からロシアのハバロフスク近郊の中国との国境付近に、中国陸軍の部隊が集まり始めているそうですね」
「現在、どのくらいの部隊が集まっているのでしょう?」
「そうですね。二十個大隊は既に待機状態です。兵士の数はおよそ一万人に達します」
「そんなに!」
「それだけではありません。戦車やミサイルを搭載した車両も数え切れない程です」
「中国は本気で侵攻するつもりなのでしょうか?ロシアにはもう、何も兵器は残っていないのですよ?」
「そうですね。戦車どころか兵士も居ないのです。ハバロフスクの住民たちは避難を開始している様です」
「ところで、中国の狙いは何なのでしょうか?」
「それは天然ガスですね。恐らくサハリンの液化天然ガスを狙っているのだと思います」
「それだけなのですか?」
「いいえ、ロシアに侵攻し、ロシアを解放するという名目で実権を握り、原油や天然ガスを我が物にしようとしているのは明白です」
「清の時代の領土を取り返そうとしているのかも知れません」
「あぁ、サハリンのある樺太島やハバロフスク、ウラジオストクは1860年の北京条約でロシア帝国に割譲されるまでは清王朝の領土だったのですからね」
「ずっと領土を取り戻す機会を窺っていたのでしょうか?」
「でも、戦争にはなりませんよね?ロシアには戦える人も、国を守れる軍も無いのですから」
「そうですね。一方的に侵略し、反抗する者は武力で抑え込む気なのでしょう」
「しかし、そんなことをすれば天照さまだって黙っていないでしょう?」
「はい。天照さまに縋る他はないと思われます」
「天照さまはきっと、ロシア国民を守ってくださいますよね?」
「はい。そうでなければロシアから武器を奪い取った意味がありません。そして問題はそれだけではないのです」
「それはどんなことでしょうか?」
「中国は既に多くの核兵器を保有していますし、それを搭載できる極超音速ミサイルも持っているのです」
「まさか、それを日本へ向けていると?」
「勿論です。天照さまは日本を創った神さまですし、今の国連や安全保障理事会を主導しているのも日本なのですから・・・」
「では、再び日本に核が?」
「無い、とは言えません・・・」
「そんな・・・」
「首相官邸では、既に神代重工と綿密に連携し、オービタルリングから中国軍の動きを監視しています」
「でも、日本にも迎撃システムは無いのですよね?」
「えぇ、今は全ての武器を放棄していますから」
「では、ロシアのことは日本も他人事ではないのですね?」
「その通りです」
月の都のサロンで皆は深刻な顔となった。
「この放送は危機感や不安を無駄に煽っている様ね」
「お母さま、そうですね。まぁ、現状を分析して伝えているだけではあるのですけれどね」
「暗に翼に助けを求めていますね」
「そうだね。望。でも、それは当然だよね。戦争を止めろと言って新平和条約で武器を放棄させたのだから、我々には彼らを守る義務があるよね」
「それにしても中国はどういうつもりなのでしょう?勝てる気でいるのでしょうか?」
「窮鼠猫を噛む。というやつなのでしょう・・・」
「追い詰められれば、強い相手にでも反撃するしかない。玉砕も覚悟の上なのだろう。歴史を振り返っても戦争の始まりは、追い詰められた者の暴発で始まるものだよね」
「翼、どうするのですか?」
「結衣。ロシアの時と同じかな?まずは武器を全て取り上げるしかないだろうね」
「今度は私たちも手伝いますね!」
「うん。ありがとう。新奈、では神代重工へ連絡を取って、中国軍の艦船やミサイルの位置の正確なデータをもらってくれるかな?」
「はい。直ぐに!」
「お父さまの助けも借りようか」
「アネモネも呼ぶのでしょう?」
「そうだね。お父さまに連れて来て頂こう」
「ロシアの時と一緒ね?月夜見さまへ連絡するわ」
お母さまは真剣な表情で静かに言った。
「葉留、徹に来てもらおうと思うんだ。連絡を取ってくれるかな?暫く、行動を共にしてもらおう」
「もう、話してあるわ。徹さんはいつでも来られる様に準備してあるそうよ」
「流石、葉留だね」
「任せておいて!」
葉留は興奮気味にドヤ顔で言った。まぁ、戦争が起こりそうになっているのだから無理もないな。
それから数時間後、月の都には徹やお父さま達が皆、集まった。琴葉お母さまと生まれたばかりの天照さまも来たのには驚いた。
「琴葉お母さまと天照さまもお出でになったのですか!」
『翼、今回は気を抜くのではありませんよ』
『天照さま!何かあるのですか?』
『ロシアの時は様子見でした。ですが、中国は本気だということです』
『本気・・・』
『翼、知っていると思うけど、極超音速ミサイルには、ロケットで地球周回軌道まで上げてから切り離すものとスクラムジェットエンジンで低空をマッハ5以上の速さで飛んで来るものもあるんだ。僕らの索敵能力でも追うのは難しいのだよ』
『お父さま。それではどうやって止めるのですか!』
『新奈。落ち着いて。オービタルリングからの監視で全ての艦船や航空機、それに潜水艦まで位置は把握されているだろう?』
『はい。先程、オービタルリングの監視機能をここのモニターに繋ぎました』
『うん。まず、それらはここに居る皆で手分けして北京郊外の砂漠化した土地へ転移させよう』
『そして、核兵器は私と月夜見、そして翼で集めるとしよう』
天照さまは、そう言うと琴葉お母さまの腕から浮き上がり、お父さんの頭に手を触れた。そして次は僕のところへとフワフワと飛んで来ると、僕の頭に手を触れた。
すると、頭の中に中国全土の地図が頭に浮かび、その所々に青く点の様に光るものが見えた。
『その青い光が核兵器です。撃たれる前に回収してしまいましょう』
『なるほど。場所さえ分かれば、回収は造作もないですね!』
その時、モニターに映していた国営放送が緊急ニュースを流した。
「皆さま、今、中国軍が侵攻を開始しました。あと少しで国境を越えようとしています」
「あ!更にニュースが入りました!」
「中国軍が進む先、ロシア国境に数台の小型船が待ち受けている様です。現地ハバロフスクの放送局からの生中継です」
映像に移っているのは、国境のゲートの向こう側、地上十メートル位の高さに十台程の小型船が空中で静止している。その内の中央の船は扉を開いており、一人の若い女性が立ち、両腕を水平に広げている。これ以上は先に進ませないというポーズに見える。
「あの方はどなたでしょうか?一体、何をしているのでしょう?」
「はい。あのお方は、ロシアの現大統領イゴール ヴォルコフ氏の娘、アナスターシャ ヴォルコフさまです。周辺に居るのは大統領親衛隊ですね」
「大統領の娘!それが何故、一人で中国の大部隊の前に立ちはだかっているのでしょう?」
「話し合いで解決しようとしているのでしょうか?危険ですね・・・」
「アナスターシャさまはロシアの盲目の姫として有名なお方です」
「え?目が見えないのですか?それで大丈夫なのでしょうか?」
『月夜見、翼、見ている場合ではないですね。私たちも飛びますよ』
「シュンッ!」
次の瞬間、月の都は中国とロシアの国境の上に飛んだ。
お読みいただきまして、ありがとうございました!