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21.プロモーションの開始

 カミングアウトも終わり、天ヶ瀬芸能事務所へ打ち合わせに行く日となった。


 月の都では四姉妹がウエディングドレスを着て、天照さまから頂いた宝石を身に着け、準備を進めた。ウエディングドレスはアネモネのものだけデザインが違うが色は皆、純白なので大きな違いはない。


 久しぶりに三人のウエディングドレス姿を見たら目頭が熱くなってしまった。

僕の異変に気付いた結衣が横に来て声を掛けてくれた。

「翼?どうしたの?」

「いや、皆があまりにも綺麗で・・・」

「まぁ!・・・翼ったら・・・」


 僕は結衣を抱きしめた。すると新奈と望も僕のところに来てくれたので、順番に抱きしめた。

「新奈。凄く綺麗だよ」

「翼、ありがとう!」


「望。とても綺麗だ」

「ありがとう」


「翼は優しいのね」

「アネモネ。ちょっと複雑だけど、綺麗だよ」

「そうね。ありがとう」


 やはり、陽翔お兄さまとの結婚式の姿を思い出してしまい、人の嫁を横取りした様な気持ちになってしまうのだ。


 そんな僕を横目で見ていた新奈が、頃合いを見てマネージャーの麻里江に連絡を取り、瞬間移動するタイミングを確認した。

「もしもし麻里江?そちらの準備はどうかしら?担当者は揃ったの?うん。うん。そう、分かったわ。では三分後にそちらへ飛ぶわね」


「皆、向こうは準備ができたって。三分後に飛ぶわよ」

「えぇ、準備はできているわ」


「あれ?蓮は?蓮!どこ?」

「はーい。お父さまー!」

「蓮、行くよ。おいで」

 僕は蓮を抱いて新奈に合図を送った。


「では飛ぶわよ」

「シュンッ!」


「おぉーっ!」

「社長室に居た人たちの驚きの声で、こちらも驚いてしまった」


 天ヶ瀬芸能事務所の方は、美歌社長と元社長、重役たちと衣装製作を担当するスタッフたちが居た。


「翼、皆、こちらが天ケ瀬芸能事務所の元社長の天ケ瀬 孝さん。そちらが現社長の天ケ瀬 美歌さんです。あとこちらの方々が衣装担当のスタッフよ」

「天照さま。私は天ケ瀬 孝と申します。先日の放送を拝見させて頂きました。我々、国民の未来をあれほどまでにお考え頂いていること、深く感銘致しました。我々にできることでしたら、何でもさせて頂きますので、何なりとお申し付けください」


「天ケ瀬さん、ありがとう御座います。私の妻の新奈がお世話になっているにも関わらず、ご挨拶に来られなかったことをお詫び致します」

「そんなこと!滅相も御座いません」

 元社長は、六十歳代後半位だろうか?でも流石に芸能事務所のオーナーだけあって、見た目が若々しい。


「それと、こちらが前世で神楽 天舞音だった、アネモネです」

「社長。ご無沙汰しています。お会いするのは十九年ぶりですね。最後は病院の病室でしたね」

「お、おぉ・・・ほ、本当に天舞音なのかい?」

 社長はおっかなびっくりといった感じで、アネモネに歩み寄った。


「私の姿があまりにも変わってしまっているから分からないですよね・・・社長と最後に会った時、社長は私に言ったのですよ・・・人は生まれ変わる。だから何度生まれ変わっても、俺は天舞音を歌手デビューさせてやる。って・・・それなのに、こんなに早く引退して会社を美歌に任せるなんて!」


「あぁ・・・そうか!・・・そうだったね。そんなこと・・・俺は言ったんだ・・・そうだったよ。それなのに・・・すまない」

 元社長は肩を落とし、涙をこぼした。


 アネモネは元社長に歩み寄り、ハグをして背中をぽんぽんと叩いた。

「いいの。こうして再び会えたのですから・・・またお世話になりますね」

「あぁ、何でも言ってくれ、天舞音のためならば何でもするよ」


「美歌!会いたかったわ。私の可愛い美歌。今は社長なのですって?頑張っているのね」

「天舞音お姉ちゃん!うわーん!うぇっ、うぇーん」


 美歌社長は何かが切れてしまったかの様にアネモネに抱きつき、子供の様に大泣きを始めてしまった。

アネモネは美歌社長をしっかりと抱き留め、背中をさすりながら言った。


「また、あなた達親子に会えるなんてね・・・そしてまた歌うことができるのね?」

「えぇ、私、天舞音お姉ちゃんの歌、ずっと聞き続けていたの。またお姉ちゃんの歌が・・・それも新曲が聞けるなんて・・・楽しみだわ!」

 美歌社長は涙でぐしょぐしょの顔で笑った。


「美歌、私も嬉しいわ。あなたと歌の仕事ができる日が来るなんて・・・でも、美歌、今の私はアネモネなの。地球人でもないのよ。定期的に地球には来るけれどね」

「そうね。アネモネさまなのよね?女神さまだもの・・・何て美しい髪色!それに瞳の色も!」

「アネモネって呼んでくれて良いのよ」


「そうね。二人だけの時はそう呼ばせて頂くわ。でも仕事中はやっぱり、アネモネさまと呼ぶわね」

「えぇ、分かったわ。あ。皆さん、ごめんなさい。私的なことで時間を頂いてしまって」

「アネモネ、構わないよ」


「あ、あの・・・そ、そちらのお子さまは?」

「あぁ・・・こちらの紹介がまだでしたね。すみません」


「こちらから、一ノ瀬電機の社長令嬢、一ノ瀬 望、そして元九十九家電の社長令嬢、九十九 結衣とその息子の九十九 蓮です」

「翼さまのお子さまなのですね」

 その時、僕の腕の中を脱出した蓮がふわふわと宙を飛んで、お父さんの特大パネルの前へ行った。


「お父さま。お爺さまの写真です!大きいですね!あ!こっちにはお婆さまたちも居ますよ!」

「そうだね、蓮!」


「まぁ!何て可愛いのでしょう!天使だわ!」

「どうしましょう!天使よ!私、天使を見ているわ!」

 皆、宙を飛ぶ蓮を見て、プチパニックになっている。まぁ、仕方がない。蓮は可愛いからね。


 冷静な新奈が話を元に戻してくれた。

「麻里江、今日は何をどこまで決めるのかしら?」

「はい。まずは衣装についてイメージを固めましょう。その後で時間があれば、新曲の打ち合わせもしたいと存じます」


「分かりました。ではこのまま四人の写真を撮ってしまいましょうか。サイズも測りますか?」

「はい。イメージ用に写真を撮らせて頂きたいです。それと衣装のサイズも測らせて頂ければと」


 衣装担当者が写真を撮り始めた。四人一緒の写真と一人ずつの写真、それにバストアップの写真とティアラやネックレス、イヤリングなどアクセサリーも一つひとつ写真に収めていた。ついでなのか趣味なのか、蓮の写真も撮っていた。


「衣装なのですが、やはり女神ですので純白が良いでしょうか?」

「そうですね。下手に色を使うと安っぽいアイドルみたいになってしまいますから・・・」

「えぇ、年齢的にも見た目的にもあまり可愛い雰囲気にしてしまうとアイドルっぽくなってしまいますね」


「そうすると、やはりカラーは純白でシックなイメージになりましょうか?」

「はい。スカートが広がり過ぎないデザインが良いですね」

「あの・・・天照さまが降臨された際、船から身一つで空中を降りて来られましたね。あの様な演出をされる予定は御座いますか?」

 スタイリストが船の翼の上に女神八人が並んでいる写真パネルを見ながら言った。


「あぁ、あり得ますね。それはスカートが風でなびくことを心配されているのですか?」

「はい。素材が軽いと風でめくれあがってしまいますので・・・」

「その心配は不要です。あれは髪やドレスに念動力を掛け、風になびかない様にしているのです」

「空を飛びながらその様なことまで!」

「はい。簡単なことです」


「分かりました。それでしたらデザインの自由度が増しますね。あと、歌う時にダンスはどの程度取り入れるのでしょう?」

「ティアラが落ちてしまう様な、大きく動くダンスは入れられないですね」

「それはそうですね。アイドルではないのですから、あまり動くことは考えなくて良いでしょう」


「基本的に肌の露出は少な目にしてください」

「それは長袖でスカートの丈も長めということですね?」

「そうです。世界中を廻りますので、気候と宗教の問題に対応しないといけないのです」

「あぁ、なるほど!」


「胸元もあまり深く開け過ぎない様にご注意ください。アクセサリーは引き立つように、でも下品にならない様に・・・」

「かしこまりました。では、いくつかデザインを作成致しまして、一度、御覧頂きます」


「あ、あの・・・蓮さまのお召し物はご用意した方が良いでしょうか?」

「あぁ、そうですね。お願いします。でも背中に羽は不要ですよ」

「あぁ・・・そ、そうですね・・・はい。かしこまりました」

「では、よろしくお願いします」

 やっぱり、蓮の衣装には羽を付けたかったみたいだ。とても残念そうな顔になった。


 それから隣の部屋へ移って衣装の採寸をした。蓮も測った様だ。

採寸が終わると衣装担当者たちは僕らに深々と頭を下げて退出して行った。


 麻里江が珈琲を淹れてくれて、ゆったりとソファに座って話をした。

「今後のプロモーションはどの様に進めましょうか?」

「そうね。普通のアーティストではないから、曲が売れる様にPR活動をするのとは違うと思うの。でも世界に広めるためにはやはりプロモーションは必要よね?」

「そうね。CDを買ってもらいたい訳ではないものね」


「CDや動画を販売する訳ではないのですか?」

「そうよ。新奈個人も含めて今後の活動は全て無償で行うわ。そして、できるだけ動画を一人でも多くの人に観てもらいたいの」

「歌を売るというよりも動画なのですね?」

「そう。特にアネモネのソロとグループの動画ね」


「新奈もソロ曲は出すのよね?新奈はいいの?」

「麻里江。今回はアネモネが主役なのよ」

「そうなのですね」

「それならネットの媒体ばいたいで配信するのが良さそうですね」


「では、曲と衣装が出来たら動画の撮影ですね」

「CDやDVDも欲しい人は居るでしょうから、売れるのなら販売して構わないですよ。ネットの動画サイトも同じですが、天ケ瀬さんの方で必要な経費と利益を取って頂いて、残りはどう使うか後で考えましょう」


「あとは・・・他国に出向いた時、どの様な演出をしたら良いか、相談に乗って頂きたいですね」

「コンサートとかライブみたいなこともされるのですか?」

「はい。そうですね。例えば、原発を消した跡地に降り立ち、そこで歌を披露するくらいのイメージでしょうか?」


「できるだけその国に負担や迷惑が掛からない様にしたいのです」

「あぁ、なるほど。事前準備はなしでライブを行う感じですね」

「そうですね」

「かしこまりました。ではいくつかプランを練っておきます」


「アネモネさま。曲の方は何曲かできているのですか?」

「えぇ、美歌。そうね。ソロ二曲とグループ曲二曲はできているわ。ソロ曲は二曲できているから新奈が気に入ったなら一曲提供するわ」

「え?もうそんなに作ったの!」

「天舞音は、特に作詞が得意だったものな。もちろん、曲の方も良い曲が多いのだけどね」


「一度、聞かせましょうか?」

「え?良いのですか?」

「えぇ、キーボードのあるスタジオが空いているなら」

「麻里江、確認してくれる?」

「はい!すぐに!」


 マネージャーの麻里江はスタジオ管理者へ内線を掛けて確認している。

「今、第一スタジオは空いているかしら?えぇ、えぇ、そう。確認して・・・一時間なら?」

 麻里江が新奈に向かって問いかける様な顔をしている。

「えぇ、一時間で良いわ」

「では、その一時間抑えて。社長の名前でね。すぐに行くわ」


「第一スタジオが一時間取れました」

「そこならば分かるわ。すぐに移動しましょう。飛ぶわよ」

「シュンッ!」


「うわぁ!」

 元社長が驚いて大きな声を上げた。

「大丈夫ですか?瞬間移動といっても何も感じないでしょう?」

「そ、そうですね。驚きました!」

 美歌社長も麻里江も目を丸くして驚いている。


「さぁ、では始めましょうか」

 そう言って、アネモネはさっさとキーボードの椅子に座り、電源を入れた。

「アネモネ。弾けるの?」

「ふふっ。身体に染み着いているみたいね。葉留のピアノを弾かせてもらったら以前の様に弾けたわ」


 そう言いながら、ピアノの調律をするかの様にメロディを弾いて見せた。

皆は、壁際に並んだソファに座って聞くことにした。


「では、私のソロの曲から歌うわね」

 そう言って、すぐに歌い出した。美しいピアノの旋律に載せて、アネモネは美しい声で歌った。


 その曲はバラードだった。ゆったりとしたテンポで始まり、美しいメロディラインに懐かしい故郷や愛しい人との未来に向けた希望を歌に綴っていた。そして後半の盛り上がりが素晴らしかった。


 スタジオに居た皆が感動し、涙を流していた。特に魅了が効いてしまう、元社長や美歌社長、麻里江はもう号泣に近い程、泣いている。


 でも、魅了が効かなくとも素晴らしい歌であることに間違いはない。僕も感動し、涙が溢れた。あ。僕は魅了されていたのだった・・・


 他の曲も次々に歌っていく。最後にもう一曲あるというソロ曲を歌ったのだが、そちらはポップ調だった。新奈がその曲をとても気に入って、すぐに歌ってみた。

「あぁ、この曲は新奈の方が似合うわね」

「えぇ、私、ソロはこの曲を歌いたいわ」


 結局、新奈とアネモネが歌うソロ二曲と四人で歌うグループ曲二曲、全てアネモネが作ったもので決定した。


 レコーディングは二週間後にこのスタジオで行い、バンドはいつも新奈のツアーで演奏しているバンドとオーケストラを用意してもらうこととなった。


「さぁ、では今日はこれで終了だね」

「あ、あの・・・アネモネさま、この後、家に夕食でも食べに寄って頂けませんか?」

「え?社長の家に?前のままなのですか?」

「えぇ、何も変わっていませんよ」


「アネモネ、行っておいでよ。帰りは瞬間移動で月の都へ飛べば良いのだから」

「翼、行って来ても良いのですか?」

「うん。社長のお宅の中だけでしょう?問題ないよ」

「ホント?嬉しい!美歌、それじゃぁ、行くわ!」


「やった!」

「もう、行っても良いの?一緒に瞬間移動しましょう」

「え?家の場所が分かるのですか?」

「だって、昔よく行ったじゃない。家の中も変わらないのなら居間の様子は頭に浮かぶから飛べるわよ?」

「え?それじゃぁ・・・お願いできる?」


「いいわ。翼。では夜に帰るわね。ちょっと遅くなるかも」

「分かった。ゆっくりしておいで。帰る時は念話で知らせて」

「はい。では美歌、社長、飛ぶわね」

「はい」

「シュンッ!」


「では、僕たちも帰ろうか」

「そうですね。麻里江。ではまたね!」

「はい。お疲れさまでした!」

「シュンッ!」


「あ。お兄さま、お姉ちゃんたちもお帰りなさい」

「葉留ちゃん、ただいま!」

「アネモネが作った歌はどうだった?」

「えぇ、とても良かったわ!」


「私はもう、四曲とも聞いていたから・・・そうよね。どれも良い歌よね」

「二週間後にはレコーディングなの。練習しなくちゃね」

「私、自信ないわ」

「結衣、合わせるだけで良いのだから大丈夫よ」


「結衣。頑張って。望もね」

「翼、私、できるかしら?」

「僕が応援しているからね」

「翼。ぎゅってして?」

「こうかい?」

 僕は結衣を抱きしめた。


「あぁ・・・何だか頑張れる気がしてきたわ!」

「翼、私も!」

「はいはい」

 今度は望だ。


「望。頑張れ!」

「あぁ・・・満たされるわ・・・うん。頑張るね」

「ちょっと、私も!」

 新奈までやって来た。


「新奈もかい?いいよ」

「あぁ・・・幸せ!」

「ふふっ、良かった」


「あら?アネモネは?」

「天ヶ瀬芸能事務所の社長の家に招かれて行ったよ」

「前世で親しかったのよね?」

「その様だね」




 アネモネは天ヶ瀬芸能事務所の社長宅で夕食を共にしていた。

「美歌、この家は変わらないわね。時間が巻き戻ったみたいだわ」

「嬉しい。天舞音お姉ちゃんが帰って来たのね」

「うーん。でもやっぱり。アネモネと呼んで欲しいわ。天舞音はもう過去なの。思い出したくないことまで思い出してしまうから・・・」


「あ。ごめんなさい。お姉ちゃん」

「美歌、良いのよ。もう済んだことだわ」

「アネモネ。神の星では幸せに暮らしているのかい?」

「えぇ、とっても。こう見えても王女なのよ。賢い弟と私を愛してくれる旦那さまも居るわ」


「そうか。それを聞いて安心したよ」

「ごめんなさい。前世では沢山、心配を掛けましたね」

「良いんだ。済んだことだよ。それに今のアネモネが幸せならそれで良いんだ」


「それにしても神の力って凄いのね。家まで瞬間移動でひとっ飛びなのですもの!」

「うん。身体には特に何も感じないのだね」

「そうね。神の力で凄いのは人の心が読めてしまうの。だから神の前では気をつけてね」

「そうか、下手なことは言えない。じゃなくて考えるだけでも駄目なんだね?」


「でも、彼らに対して悪い考えを持つことなんてあり得ないのではないかしら?」

「そうね。新奈もとっても良い娘だし、他の二人も美しく優しそうだった」

「そして翼さまだね。何でも発明できてしまうのだね。そしていつも第一に人間のことを考えてくれている。ありがたいね」

「えぇ、悪く思うことなんてあり得ないわ」


「そうだ。アネモネ。お酒は飲めるのかい?」

「そう言えば、まだ十九歳なのでしたっけ?」

「えぇ、でも神星では十五歳で成人し、結婚するの。お酒も飲めるからもう四年前から飲んでいるわ」


「お酒は何があるのかしら?」

「私の国では、ビールとワインね。ワインがとても美味しいのよ。でも地球に来てからは日本酒ばかり飲んでいるけど」

「あぁ、そうだね。日本酒が好きだったね」


「では、日本酒で乾杯しようか」

 夕食は出前のお寿司だった。日本酒は長野の純米大吟醸の冷酒だ。

「まぁ!これ長野のお酒じゃない!しかも私が好きな銘柄だわ!」

「天舞音が好きでよく飲んでいたね。それで私も好きになってね。もうずっとこれだよ・・・よし!乾杯だ」


「アネモネに乾杯!」

「かんぱーい!」

「キンッ!」

「あぁ~美味しい!最高!」

「それは良かった」


「社長、今度、奥さまのお墓参りに行きたいわ」

「おぉ、ありがとう。是非、お願いするよ。雪子も喜ぶよ」

「もう何年になるの?」

「去年二十三回忌だったんだ。雪子が死んでからもうそんなに経つのだね」


「そうね。私が死んでからも十九年経っているのですもの」

「そうか・・・あれから十九年か」

「自分で自分が死んでからの年月を語っているのって不思議!」

「普通はあり得ないことだね」

「本当に変わった体験をさせてもらっているわ」


「アネモネ、とても幸せそうだ。良かったよ」

「えぇ、翼がね。本当に素晴らしい人なの・・・私の千五百年の人生で一番幸せよ」

「そうか・・・神さまなのだからね・・・」

「えぇ、あの天照さまのご子息さまですもの・・・素晴らしいお方に決まっているわ」


「美歌は相当に天照さまが好きなのね?今日、社長室のパネルを見て驚いちゃったわ!」

「えぇ、もう心から尊敬しているし、お慕いしているわ」

「ねぇ、美歌。結婚は?」

「私は良いの。天照さまを想っているだけで幸せだから」


「今度、連れて来るわ。美歌、ハグしてもらいなさいな」

「え?天照さまにハグ?む、無理よ!絶対に気を失ってしまうわ」

「良いじゃない。抱かれたまま意識を失ったって!」

「嫌よ。折角、逢えるのだったら、そのお姿をしっかりと脳裏に焼き付けないと!気絶なんてしたくないわ!」


「ふふっ、可愛いわね、美歌。それなら一度だけでも抱いてもらえば?」

「まぁ!なんてことを!そんな大それたこと!絶対駄目よ!」

「あら。堅いのね・・・」


「相手は神さまなのよ。簡単に手が届かないと思うから良いのよ!」

「そういうものなのね?」

「えぇ、そうよ。私は写真だけでも満足なの。もし、一度でも間近でお逢いできるなら、それだけで大満足よ」

「分かったわ」


「それじゃぁ、天照さまと逢える日を楽しみにしていてね」

「えぇ、でも本当に逢えたら幸せ過ぎて、その後の人生が怖いわ」

「もう、美歌ったら大袈裟ね!」

「だって・・・あんなに美しいのよ・・・」


「確かにそうね。本当に美しいわ。でも翼もなかなかのものでしょう?」

「えぇ、流石、天照さまのご子息さまだわ。アネモネが羨ましいわ」

「翼なら頼めば抱いてくれるわよ?」

「だ、か、ら。神さまにそんなことをお願いしたりしません!」

「はいはい」


 アネモネは懐かしい友人たちとのひと時を楽しんだのだった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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