19.天舞音の故郷
長野の蕎麦屋で昼食だ。テーブルに僕たちのざる蕎麦が運ばれてきた。
一人ずつのお盆にざるに盛られた蕎麦とつゆの器、それに薬味の乗った小皿が並べられている。そして目を見張ったのは、生山葵とおろし金が乗った皿があった。自分で山葵をすりおろすスタイルの様だ。
「お待たせしました。ざる蕎麦をお持ちしました」
「あの・・・あそこの貼り紙のことなのですが、今では長野産の蕎麦は希少なのですか?」
「えぇ、国の指導でここ長野市では蕎麦の生産量を減らしているのです」
「では今、蕎麦を多く生産しているのはどちらなのですか?」
「元々、生産量が多かったのは北海道です。今は北海道だけと言って良いくらいなのです」
「そうだったのですね。それで長野市は今、何を多く作っているのですか?」
「今はきのこ類ですね。しめじ、エノキ、エリンギとか、あとはネクタリンやあんず、プルーンかしらね」
「え?長野と言えば林檎なのではありませんか?」
「林檎は元々青森が長野の三倍の生産量で日本一だったのです。林檎も国の指導で青森がそのほとんどを生産することになったのです」
「あぁ、過剰に生産することがない様に調整しているのですね」
「そうみたいですね。でもその土地に合ったものを生産して国が全て買い取ってくれるのだから無駄がなくて良いって、皆が言っていますよ」
「そうですか、それならば良かった」
『どうやら農業政策は上手くいっているみたいだね』
『でも長野の林檎がなくなるのは少しショックだわ。私、長野のふじっていう品種の林檎を使ったアップルパイが大好きだったのに・・・』
『そうだったの・・・でも全く無くなってしまう訳でもないでしょう?』
『そうね。残っていると良いのだけど・・・』
『あ。ごめんなさい。蓮が待っていたわね。さぁ、食べましょう』
『うん。食べようか』
『薬味は何を入れるのが良いの?』
『そうね。葱と海苔は定番よね。でも長野では何といってもこの生山葵よ。蓮はまだ無理でしょうけど、山葵は絶対に試してみてね。つゆに溶かすのではなく、蕎麦にそのまま乗せて食べるのよ』
そう言いながら三人はまず、生山葵をすりおろし始めた。
『そう言えば、長野は山葵も有名だよね?』
『えぇ、そうよ』
僕はつゆの器に葱を入れ、山葵を一つまみ蕎麦に乗せ、つゆに半分ほど浸してからすすった。
「ずずーっ!」
「うん!美味しい!」
「あぁ・・・これよ!これが食べたかったの!美味しい!」
「えぇ、本当に美味しいわ!」
「ぼくもおそば好き!」
「蓮も好きなのね?良かった!」
「この山葵の新鮮な香り!凄く蕎麦を引き立てているね!」
「本当に!山葵の美味しさを改めて知ったわ」
「そうでしょう。蕎麦は長野で食べるに限るわ」
その時、お店の女将さんが声を掛けてきた。
「あの・・・日本語のお上手な外人さんですねぇ・・・」
「あ!」
『しまった。蕎麦の美味しさに感動して、思わず声に出して話してしまった!』
『本当ね!』
「え、えぇ、皆、日本が大好きなのですよ」
「そうですか・・・それはまぁ、良かったわ」
「あの、この山葵はどこのものなのですか?」
「これは安曇野の生山葵ですよ」
「あぁ、松本の近くの。新鮮で美味しいですね」
「この二十年で蕎麦や山葵だけではなく、全ての作物が美味しくなったって、皆、話していますよ」
「それはどうしてですか?」
「山の緑が、自然が戻ったからでしょう。人が決まった場所に住み、自然を回復させたから土壌が豊かになったのですよ。これも全て天照さまのお陰です」
「そ、そうですか・・・」
思わぬところで名前が出て驚いてしまった。
蕎麦を食べ終わり、女将さんにお礼を言って代金を支払った。
再び四人で善光寺への参道を歩いた。途中、おやきや牛乳パンを売っている店を見つけ、アネモネは飛びついて買っていた。蓮にはソフトクリームを買った。食べながら歩いて善光寺に着いた。
「あぁ、良かった。善光寺は変わっていないわ」
「そうでしょう。こういったお寺や神社はそのまま残っているんじゃない?」
「いや、聞いた話では天照大神をお祀りしている神社は大変に栄えているらしいけど、そうでない神社は廃業するところが後を絶たないそうだよ」
「そもそも日本には神社が多過ぎるのではないかしら?」
「アネモネ。そうだね。日本には八百万の神という考え方があるからね」
「翼、それってなあに?」
「結衣、日本は古来から海や山の神から始まって、川、湖、池、大樹などの自然物は勿論のこと、自然現象や人、動物、終いには道端の岩や石にさえ、神が宿っていると言って神格化し、崇め奉ったんだ。それらを総称して八百万の神と言うんだよ」
「それで神社や祠が至る所に在るのね」
「でも、本物の天照さまが降臨されたことで、皆の信仰の対象が天照さまに一極集中してしまったのね」
「天照さまをお祀りしていない神社はたまったものではないよね」
「そうね。天照さまが実在したからと言って、他の八百万の神が居なくなった訳ではないのにね」
「まぁ、何でもかんでも神にしてきてしまったことにも問題はあるのだろうけれどね」
「結局、人間は何でも良いから神さまに頼りたいのかしら?」
「神さまは頼るだけではないと思うんだ。感謝を捧げるためでもあるよね」
「私ね、前世では神さまなんて居ないって思っていたわ・・・」
アネモネの表情は曇り、呟く様に言った。
「アネモネの前世は辛いことが多かったのかな?」
「そうね。よく二十八歳まで生きられたと思うわ」
「どんなことがあったのかは聞かないよ」
「えぇ、とても話せることではないわ・・・例えあなたでもね・・・もう、いいわ。他へ行きましょう」
「そうだね。他は何が見たいのかな?」
「ここから山間の谷を西へ向かうと「鬼の無い里」と書いて鬼無里村というところへ出るの、更にその先の山を越えると北アルプスが見えるのよ。私、その景色が大好きなの」
「分かった。では行ってみようか」
船の乗り場から小型船に乗り、白馬を目指して飛んだ。ものの数分でアネモネが言っていた鬼無里村の上空に達したが、そこに村は無かった。ここに住んでいた人たちはどこか大きな町へ移転させられたのだろう。
既に人が住んでいた形跡が無くなっていた。かろうじて道路の跡は見えるのだが、電柱も川に掛かる橋も人が住んでいた住居も村役場も全てきれいに撤去されている様だ。
そして、空からでも熊、鹿、猪、猿の姿が見えた。村は完全に自然に還っていた。
「凄いわ。村が全て無くなっている。ここまで徹底して自然を復元していたなんて!」
「そうだね。逆にこうまでしないと人間は自分の生息域を勝手に広げて行ってしまうんだろうね」
「やればできるってことね」
「でも、山の中に一人で暮らすお年寄りとかって居るんじゃない?」
「アネモネ。それは許されていないんだ。行政が管理していて強制的にコミュニティーに収容している筈だよ」
「強制?それだとその人にとっては、不幸なのではないかしら?」
「ある意味ではそうだろう。でも別の側面では幸せなことだとも言えるよ」
「えぇ、私もそういう人のその後みたいな話をテレビで追跡取材している番組を見たわ。強制移転させられた人は、初めは酷いことをすると言って恨んでいたそうだけど、新しいコミュニティーに住んでみたら、ここは天国だって話していたわ」
「それはまた随分と調子のいい人ね・・・でも・・・そうか、人間なんてそんなものかも知れないわね」
そんな話をしていると目の前に山が迫って来た。その山を登り切った時、目の前に白馬村とその先の北アルプスが広がった。
「うわぁ!きれい!何て高い山々なんでしょう!」
「ね!きれいでしょう?こうして少し高いところから見るから更に開けて見えて美しいわ」
「アネモネはこの景色が好きなんだね」
「えぇ、今日はこれが見たかったの」
「では、しばらくここに停止して景色を楽しもうか」
「あれ?ここには村が残っている様だね。コミュニティーが新しくできているみたいだ」
「恐らくここには有名なスキー場があるからだと思うわ」
「あぁ・・・長野では、今から四十四年前にオリンピックも開催されたみたいだね」
「えぇ、私が三歳の時ね。ここにジャンプ台があったの。私は両親と見に来ていたわ」
「へぇ、そうなんだ・・・その時のことを覚えているの?」
「そうね。私が唯一、まだ幸せだった時だったから・・・うっすらとだけど覚えているわ」
「だから、この景色が好きなんだね」
「えぇ、きっとそうね。でも今のこの景色の方が美しいと思うわ。ねぇ、ここでソロ曲のイメージを掴みたいの。少しこのままここに居させてもらっても良いかしら?」
「勿論だよ。ゆっくり眺めると良いよ」
アネモネは優しい表情になり、たまに自分の膝を手でたたいてリズムに乗る様な仕草をしていた。
「お母さま。もう五月になるのに、なんであのお山には雪があるの?」
「そうね。不思議ね。どうしてだと思う?」
「うーん。きっとあの山が高いから?」
「蓮、あの山々は三千メートル近い高さがあるんだ。富士山に近い高さだね。高いところは気温が低いんだよ。今は温暖化も落ち着いてきているから、夏でも雪が溶けないのではないかな?」
「お父さま、夏でも雪が溶けないのですか!」
「そうだよ。あの山の頂上はとっても寒いんだよ」
「寒いところは嫌いです」
「そうか、蓮は寒いところが苦手なんだね」
「お母さまのところが良いです」
そう言って、蓮は結衣の胸に顔を埋めて眠る体制に入った。結衣はそんな蓮を愛おしそうに抱きしめた。
その姿を見て、アネモネは一層笑顔になった。
「翼、もういいわ。そろそろ帰りましょう」
「もういいのかい?」
「帰りも景色を見ながら飛んでもらえる?」
「あぁ、構わないよ。ではゆっくり目で飛んで行こうか」
「ありがとう」
そう言ってアネモネは僕の肩に寄り掛かり、右手を繋いだ。
「アネモネ。今世は幸せになれそうかい?」
「えぇ、きっとね。翼も月翔も夕月も居る。それに姉妹も一緒なのよ」
「そうだね」
『ねぇ、アネモネ』
『あら、どうしたの?内緒話なの?』
『うん。光月のことなんだけど・・・』
『今、どこに転生しているかってこと?』
『うん』
『翼はもう、気付いているのでしょう?』
『うん。僕のお母さまだよね?』
『えぇ、天照さまは私たち皆に教えたわよ?』
『え?皆、知っているの?お母さまも?』
『あ。葉留は知らないわね。でも瑞希お義母さまの記憶は呼び覚ましてはいないの』
『あぁ、そうなんだ』
『だって、翼とセックスして子を四人も産んだと聞いただけで凄くショックを受けていたのよ。そのシーンを思い出させたらどうなるか分からないわ』
『そうだね。お母さまの前世は日本の弁護士だったんだ。倫理観とか諸々ショックが大き過ぎるね』
『そうね。記憶は戻さない方が賢明ね』
『そうか。では自分が光月で、僕とそうなったことは知っているんだね』
『でも、そのことに触れる必要はないわ。葉留にも言わないでいい。翼と葉留は瑞希お義母さまがそのことを知っていることも、光月が瑞希お義母さまであることも知らないで良いの』
『うん。そうだね。そうしよう。アネモネ。ありがとう』
そして、夕食前に月の都へ戻って来た。
「翼、結衣、蓮、アネモネ、お帰りなさい!」
「アネモネ、良い曲はできそうからしら?」
「えぇ、見たかった景色が思い出以上に美しくなっていたの!」
「楽しかったのね?良かったわ」
「はい。瑞希お義母さま。蓮や結衣も一緒で、美味しいものも食べられて楽しかったのです」
「お蕎麦と生山葵を買ってきたから明日のお昼にでも召し上がれ」
「わぁ!嬉しい!」
「おや、それは長野産の蕎麦なのかい?」
「はい。お爺さま。今では長野産の蕎麦は希少だそうです。それと安曇野産の生山葵も買ってきました」
「おぉ、それは楽しみだね」
「お爺さん、良かったですね。お蕎麦大好きですものね」
「このお蕎麦、本当に美味しいんですよ!」
「それは嬉しいな。ありがとう!」
夕食も皆で和気あいあいと楽しく過ごした。
夕食が終わるとアネモネは曲作りをすると言って、一人庭へ出て行った。
「今日一日、アネモネはどうだった?」
「はい。お父さま。とても落ち着いていて、故郷を楽しんでいました。それに地球の改革のことも凄く勉強していて驚きました」
「そうか。彼女はグースベリーで初めて会った時もとても大人びていたんだ。きっと過去の様々な人生経験が彼女を大人にしているのだろうね」
「はい、辛い経験も多い様です」
「それは翼が支えていってあげなさい」
「はい。そのつもりです」
「翼、相談があるのだけど」
「新奈、どうしたの?」
「女神デビューの話なんだけど、まず私がカミングアウトするのよね?」
「そうだね。その後で四姉妹デビューだね」
「そのカミングアウトなのだけど、記者会見といった形が良いのかしら、それともこちらが一方的に伝えるだけにする?」
「翼、それなのだけど、新奈を一人で矢面に晒す様なことは感心しないな」
「お父さま。ではどうするのが良いのでしょうか?」
「翼が新奈と一緒に記者会見すべきでしょう」
「僕も?しかも記者会見ですか?それでは根掘り葉掘り聞かれてしまうではありませんか!」
「答えて良いことだけ答えれば良いのさ。どちらにしてもそれを新奈に任せてはいけないよ」
「では、お父さまは僕が地球で、天照さまの息子として名乗っても良いとおっしゃるのですね?」
「うん。新奈たちが娘として名乗り出るのに翼だけが表に出ないのは不自然だよ」
「それはそうですね」
「でも、記者会見をするにしても報道機関を限定した方が良いでしょう。そして質問の内容も事前に制限しておくのです」
「お母さま、その報道機関はどこが良いのでしょうか?」
「まず榊首相に話をし、首相から国営放送に通達してもらうのです」
「流石、瑞希だ。榊首相なら、翼と葉留で話はできるね?念のため、瑞希も一緒に話して欲しいな」
「分かりました」
「では、私は帰るよ。瑞希。また来るからね」
「はい。月夜見さま。お待ちしております」
「シュンッ!」
「では明日、学校で榊君に話すわ」
「それ、僕も立ち会うよ」
「あ、そうだわ。翼が帰っていることを榊君や神宮寺君に話していなかったわ」
「それじゃ、サプライズになるね」
「では、明日。人目のないところへ二人を呼び出して、そこに翼が現れるって設定にしましょうか」
「新奈お姉ちゃん、それなら私が二人を呼び出すわ。そして私が念話で呼ぶから、二人は瞬間移動で現れて驚かせてあげて」
「それは良いね。それじゃぁ頼むよ、葉留」
「分かったわ」
翌日、大学で葉留はいつもの様に徹と待ち合わせしていた。
「徹さん!おはよう!」
「おはよう!葉留」
「徹さん、今日、どこかで時間を作って欲しいの」
「いいよ。どうしたんだい?」
「おはよう!お二人さん!」
「新奈お姉ちゃん。今、徹さんに話していたのよ」
「そう。榊君、後で話があるの。よろしくね」
「あぁ、構わないけど?」
「神宮寺君は丁度、私たちの講義が終わった頃に来るらしいわ。葉留ちゃん、後で連絡するわね」
「はい。お姉ちゃん」
新奈たちは待ち合わせ場所に集まった。そして誰も居ない場所を探し始めた。
そして鍵の掛かった今日使われない教室を見つけた。
「ここにしましょう」
「鍵はどうするんだい?」
「鍵なんて要らないわ。周りに誰も居ないわね?」
「お姉ちゃん、今なら大丈夫よ」
「シュンッ!」
「うわっ!」
「い、今の何?どうしたんだ?」
「ここは?どうなってんの?」
「しっ!静かに!」
「シュンッ!」
「うわぁ!つ、翼!」
「お、お前!帰っていたのか!」
「徹、巧。久しぶりだね!数日前に帰ったんだ」
「そ、それで、どこへ行っていたんだ?」
「うん。千五百年前の世界だよ」
「せ、千五百年前の世界?」
「うん。今日はその話をしに来たんだ。まぁ、座ってくれよ」
五人は少し離れた位置にそれぞれ座った。
「千五百年前、僕の父とその妻八人の女神が誕生したんだ。その初めの娘が五人居たんだけど、その五人姉妹の生まれ変わりが、新奈、結衣、望だった。それは知っているよね?」
「え?五人姉妹だったんだな?」
「そうなんだ。そして今度、僕と僕の妻たちの存在を公表しようと思うんだ」
「え?公表する?何故?」
「そう思うよね・・・徹。今、世界はひとつになれたと思うかい?」
「いいや。全然だな」
「そうだろう?月の都が地球に来て二十年。黙ってその存在を示し続けているだけでは限界がある様だ」
「なるほど・・・何か活動を開始するんだね」
「うん。僕の父は、神の星から黙って地球を見守る立場だ。でも僕はこの地球で暮らして行く。だから僕が地球の神として名乗り出て、女神たちと共に地球の人間がひとつになれる様に導きたいんだ」
「うん。それには完全に同意するよ」
「それで、どうやって導くんだ?」
「力での変更はしたくないんだ」
「翼のことだ。そう言うと思ったよ。大体、神が強硬なことをするとは思えないしね」
「うん。そうだね。それで実は、もう一人妻をもらったんだ」
「え?四人目?」
「そう。四人目。それも千五百年前の五人姉妹の一人だ」
「え?どこの誰だい?」
「徹たちは知らないよ。神星のある国の王女に転生していたんだ」
「え?それなら、五人目もあり得るのか?五人姉妹なんだよな?」
「いや、五人姉妹の五人目は無いんだ」
「そうなのか?どこに居るか分かっているのか?」
「うん。分かっているよ。でも僕と結婚は無いんだ」
「そうか。それは決まっているんだな?それで?その四人目がカギになるのか?」
「流石、徹。鋭いな」
「ふふん。任せておけ!」
「実は四人目の女神には魅了の能力があるんだ」
「魅了?ってなんだ?」
「人を魅了する・・・って意味の魅了?つまり洗脳みたいなものかな?」
「流石、巧だね」
「ふふん。科学者を舐めてもらっては困るな・・・」
「そう。人を魅了し、神を信じさせ、導くんだ。専制君主制の国や独裁者に支配された国民たちを魅了して、国に反旗を翻させるんだ」
「でも、どうやってそれらの国民を魅了するんだ?」
「歌だよ」
「歌?」
「そう。四姉妹で女神デビューし、歌を歌ってもらうんだ。それを全世界に配信する。その映像の女神を見て歌を聞いただけで人は魅了されるんだ」
「そ、そんなことが!凄いな!」
「うん。それでね。徹に頼みがある」
「え?俺に?」
「正確に言うと徹のお父さんにだけど」
「あぁ、総理大臣にってことか。親父に何をさせるんだい?」
「いや、国営放送を使って僕と新奈が神の子であることをカミングアウトしたいんだ」
「あぁ、初めの一歩ってやつだね」
「うん。首相から言われたら放送局も信じてくれるだろう?それに首相には事前に何をするのか伝えておきたいんだ」
「あぁ、それは知っていた方が良いだろうな。各国から問い合わせも入るだろうし。それで、国営放送にというのは何故だい?」
「カミングアウトの方法は対談形式にして、今、伝えられることだけに限定したいんだ」
「あぁ、民間の放送局では根掘り葉掘り聞かれたり、興味本位でおかしな方向に話を持って行かれ兼ねないからな」
「そうなんだ。あくまでもこちら主導でやりたいんだよ」
「分かった。まずは親父と相談する時間を作れば良いんだな?」
「うん。頼むよ。僕はいつでも構わないから」
「分かった。日時が決まったら連絡するよ」
「ありがとう」
「それにしても、一年間も千五百年前の世界で何をしていたんだ?」
「そうだよ!それに異次元空間移動装置を創ったのだろう!?実に興味深い!是非、話を聞かせてくれ!」
「うん。その辺は今度、飲みながらでもゆっくり話そうか」
「そう言えば、飲み会なんてやったことないもんな!楽しみにしているよ」
そして女神のデビュー計画は始まるのだった。
お読みいただきまして、ありがとうございました!