16.神デビュー計画
僕は新奈の言葉に大いにショックを受け、放心状態になってしまった。
新奈は小型船のパネルに触れ、何かを入力していた。
「シュンッ!」
次の瞬間、小型船は瞬間移動した。
「あれ?ここは見覚えがあるな・・・」
「私の実家よ」
「実家?新奈の家?どうして?」
「いいから」
新奈は僕を抱きしめると瞬間移動した。
「シュンッ!」
そこは新奈の部屋だった。新奈は携帯端末を手早く操作している。
「翼、ごめんなさい。混乱させてしまったわね。このまま事務所へは行けないと思ったの。少し、ここで休憩してから行きましょう。麻里江には少し遅れるってメッセージを送ったわ」
「う、うん」
「翼、さっき私が言ったことだけど・・・翼や葉留ちゃんが悪いってことじゃないの」
「うん。でも普通ではないのだね・・・」
「そうね。だから葉留ちゃんは翼を諦められないと思うわ」
「でも、僕の合意なしで勝手にできることではないよね」
「えぇ、翼の意識がしっかりしているなら大丈夫でしょうね」
「そうか、酔っていたり寝ぼけていたりしたら危ないってことだね?」
「うん」
「翼、おかしなことを言うけど、翼が嫌でないなら葉留ちゃんを満足させるために、一度だけお相手するって手もあるのかも知れないけど・・・」
「えーっ!嫌だよ!」
「そう。それを聞いてほっとしたわ。でも千五百年前の私たちは翼が現れなければ、弟と子を作ることになっていたのよ。神の世界とか中世の貴族社会で言えば、それほどおかしなことでもないのよね」
「そうか。千五百年前の新奈たちと僕と葉留の関係は同じなんだね」
「そうよ。天照さまが直接産んだ二人の神の子供なのよ」
「でも、できるだけ避けたいな」
「そうしてもらえると嬉しいわ」
新奈は僕を抱きしめてキスをしてくれた。
「翼、もう大丈夫かしら?」
「うん。大丈夫だよ。事務所へ行こうか」
「えぇ」
「シュンッ!」
僕らは小型船の中へ戻って来た。
「では、改めて事務所へ向かうわね」
「うん。頼むよ」
それから十分も掛からずに新奈の所属する芸能事務所に到着した。
そこは都心の真ん中にある大きな自社ビルだった。
「こんなに大きなビルなの?」
「えぇ、この中には沢山のスタジオやホール、劇場もあるの」
「ちょっと想像していたのと違うな・・・こんな立派な会社だったとは・・・」
「さぁ、エントランスに着いたわ」
芸能事務所だけあってセキュリティが厳しい様だ。警備員が多く立ち並び、警戒している。だが僕らの乗って来た小型船の神代重工の名とロゴマークを見て警戒が解かれたのを感じた。
「新奈はいつもこの船でここへ来ているのかい?」
「えぇ、そうよ。それで私だとすぐに分かるのよ」
「今回、僕は初顔だよね?大丈夫なのかな?」
「受付で生体ICチップをスキャンして本人確認を取るの。それに私が居るから大丈夫」
「あぁ、なるほど。では大丈夫だね」
小型船から降り、エントランスから受付へ向かうとエレベーターホールから新奈のマネージャーの麻里江がやって来た。
「新奈!」
「あぁ!麻里江!遅くなってごめんなさい」
「大丈夫よ。社長が待っているわ」
「え?社長が?」
「だって新奈から折り入って話がある。なんて言われたから重大なことだと思ったの」
新奈のマネージャーの麻里江は、新奈と話しながら僕の顔をジッと見つめ、何かにハッと気付いて瞳を大きく見開き叫ぶ様に言った。
「あら?まぁ!あなたは!何年か前に新奈を学校へ迎えに行った時に会った人ね?」
「麻里江。こちらは翼よ」
「九十九 翼です」
「え?まさか?新奈・・・結婚?」
麻里江は新奈のすぐ横に来て、声を押し殺して言った。
「ふふっ」
「まぁ!本当なの?大変!」
「麻里江、こんなところで話すことではないでしょう?」
「あ!そ、そうね。社長室へ行きましょう」
「社長室?私、初めてだわ」
「あら?新奈は社長室には行ったことがなかったかしら?」
「えぇ、会議室で話したことはあったけれど、社長室に呼ばれたことはないわね」
「そう。ちょっとびっくりするけど・・・」
「びっくりする?なぁに?超豪華なのかしら?」
「それなら神代重工の社長令嬢の新奈は驚かないでしょう?」
「そうね。何かしら?」
僕ら三人は社長室があるという最上階へ向かった。
エレベーターは外側がガラス張りになっていて東京の景色が見えた。
「こうして見ると高層ビルは幾らか減った様だね」
「そうね。東京の建物は飽和状態だったから、大分間引かれてスッキリしたわね」
古いビルディングは解体され、東京ではビルそのものの数が減っていた。残ったビルの間をすり抜ける様に無数の小型船が飛び交っていた。
僕がその景色を無言で見つめていると麻里江が背中に向かって話し掛けてきた。
「翼君は今、どこの大学へ行っているの?やっぱり東大なのかしら?」
「麻里江、翼は大学には行っていないの」
「え?だってあの高校は超進学校よね?」
「ふふっ、その辺の話も後でしましょうね」
「さぁ、着いたわ。この廊下の奥よ」
麻里江が先導して歩き、社長室の扉の前で止まった。
「トントン」
「社長、新奈をお連れしました」
「入って頂戴」
扉が開かれ、中に入るとその奥に立っていたのは女性だった。三十歳代くらいだろうか?大変に美しく、とても若く見える。こんなに若い人が社長だなんて・・・
「うわぁ!」
新奈が何かを見つけて驚きの声を上げた。
その声に驚き、新奈が見つめる壁の方を見ると、そこには特大パネルの写真が飾られていた。そこに写っていたのは天照さま。つまりお父さんが地球に降臨した時の写真だった。その正反対の壁には船の翼の上にお父さまの両側に立ち並ぶお母さま達の写真だ。
それだけでなく何枚ものお父さまの写真があちこちに飾られていた。
「こ、これは・・・」
「ちょっと驚いたわね」
「ね、びっくりしたでしょう?」
麻里江が嬉しそうに微笑みながら言った。
「驚いたかしら?」
「はい。社長。天照さまのファンなのですか?」
「えぇ、もう!私の神さまよ!」
僕は驚いてしまって、というか、ちょっとドン引きになってしまった。
社長の服装は真っ白なスーツなのだが、襟や袖にブルーのラインがアクセントとして入っている。もしかしてお父さまの衣装をオマージュしているのだろうか・・・
「あら?こちらの方は?」
「社長、こちらは九十九 翼さん」
「九十九 翼です」
「あら?・・・あらあらあら?・・・ちょっと・・・まぁ!あなた!まさか!」
「え?」
「あなた、まさか・・・天照さまのご子息さまなんじゃ?」
「え?」
「あらまぁ・・・」
簡単にバレてしまい僕も新奈も言葉に詰まった。社長は僕を穴が開くほど見つめてくる。
「バレてしまいましたか。はい。私は天照 翼です」
「本当なの!?」
社長は口に両手を当てて叫んだ。
「う、う、うそ!嘘でしょう!?」
麻里江は狼狽え声が上ずっている。
「社長。本当です。翼は天照さまの息子です」
「え?では、新奈と三年間、同じ高校に通っていたの?」
麻里江は我に返って聞き返してきた。
「えぇ、そうです」
「あ、あ、天照さまの・・・息子・・・」
社長はまだ放心状態が続いている。
「社長?まだ翼に自己紹介されていませんよ?」
「あ!わ、私としたことが!な、何て失礼なことを!ど、どうか、お許しを!」
「大丈夫ですよ」
「あ、あの・・・わ、私は・・・天ヶ瀬芸能事務所社長、天ケ瀬美歌と申します。天照さまのご子息さまにお目通りできましたこと、光栄に存じます!」
社長は深々と頭を下げた。
「あの、これらの写真は・・・父のファン。と、いうことなのですか?」
「ファン?い、いえ・・・ファンなんて、そんなおこがましいこと!私は天照さまを心から尊敬し、崇拝する信者で御座います!」
「あ、あぁ・・・信者・・・そうですか・・・」
「お、恐れながら・・・翼さまは、な、何故、新奈と?」
「あの、そろそろ座ってお話ししませんか?」
「あ!まぁ!何てこと!私としたことが!も、申し訳御座いません!た、大変失礼致しました!」
「あぁ、良いのです。気にしないでください。突然、訪問してしまって驚かれたことでしょうから・・・」
「ま、まぁ!・・・何て、お優しい・・・あ!いけない・・・さ、さぁ、どうぞこちらへお掛けくださいませ!」
僕と新奈は応接セットのソファへ案内された。大きな窓の向こうには東京タワーが見える。もう電波塔としての役目は終わっているのだが、東京のシンボルとして残されている。
僕と新奈の対面に社長と麻里江が座った。麻里江が珈琲を淹れてくれた。
「今日、二人でこちらを訪問したのは、今まで隠していたことを公表したいのです。その事前の報告と今後のことを打ち合わせするためです」
「隠していたこと?」
「はい。私と新奈は三年前に結婚していました」
「え?新奈が天照さまのご子息さまと結婚!」
「はい。それだけでは御座いません。実は新奈も神・・・女神だったのです」
「は?新奈が神だった?」
「えぇ、新奈は今から千五百年前の世界で天照さまの娘として生まれたのです。そして何度も転生して今の新奈が居るのです。私と結婚し、お父さまが新奈に触れ、過去の記憶を呼び覚ますと女神の力が甦ったのです」
「女神の力が?新奈、それはどんな力なの?」
「そうですね。例えばこうやって空中を浮遊するとか・・・」
そう言って座った姿勢のまま一メートルほど浮き上がって見せた。
「それとか瞬間移動する。とか?」
「シュンッ!」
「あ!消えた!」
「シュンッ!」
「うわぁ!ほ、本当なのね!」
「新奈が女神さまで、天照さまのご子息さまと結婚!」
社長も麻里江も驚きと興奮に包まれ頬を紅潮させている。
「え?新奈、あなたいつも実家へ帰っているわよね?」
「えぇ、実家を経由して月の都へ転移しているの」
「転移?」
「えぇ、今は翼と月の都に住んでいるのよ。でも、あそこには瞬間移動でないと入れないの。ここからでも瞬間移動はできるのだけど、急に消えたり現れたりしたら皆、驚くでしょう?だから月の都から一度実家へ転移して、そこから小型船で普通の人間の様に通っているのよ」
「まぁ!そうだったの!」
「それでね。翼の妻で女神なのは私だけではないの」
「あぁ!天照さまにも八人の女神さまがいらっしゃいましたね」
「えぇ、本当は九人なのですけれど・・・」
「え?九人?では地球に降臨された時のあの写真の女神さま以外にも、もうお一人いらっしゃるのですね?」
「えぇ、それが私の母です」
「そうなのですね!では、翼さまには何人の奥さまがいらっしゃるのですか?」
「新奈の他に三人居ます」
「その内の二人は、麻里江は会ったことがあるわ」
「あ!翼さまと一緒に居た、あの飛び切り美しいお二人のこと?」
「えぇ、そうよ」
「あの娘たちも?だって同じ高校へ通っていたのよね?」
「そう。そして偶然にも三人とも翼を愛したのよ」
「私の四人の妻は、皆、千五百年前のお父さまの娘だったのです。何か運命的な繋がりがあり、魅かれ合ったのでしょう」
「まぁ!素敵!」
社長の目がうっとりしている。やっぱり単に美しい男性が好きなだけなんじゃ・・・
「それで、新奈・・・あ!どうしましょう?これからも新奈って呼んでも良いのかしら?それとも女神さまと?」
「麻里江、止めてよ!新奈で良いわ」
「本当?良かった!」
麻里江は表情の豊かな人だ。見ていて面白いし可愛らしい。
「さっき、公表のための・・・っておっしゃいましたね。新奈が女神で、天照さまのご子息さまと結婚したことを公表するのですか?」
「はい。そうなのです」
「結婚は三年前のことでしたね?何故、公表は今なのでしょうか?」
「社長、今、世界で進められているプロジェクトは、全て翼が始めたことなの。反重力装置も宇宙船もオービタルリングも全て翼が創り出したものなのよ」
「え?あれを全て翼さまが!?」
「そして、妻となった私たちが、神代重工や一ノ瀬電機の社長の娘だったから、それらの会社が中心となってプロジェクトを立ち上げたのよ」
「そう言えば、天羽化学や神宮寺建設も入っていて、全てのCMに新奈が使われているわね」
「その二社は私たちの高校のクラスメイトの親が経営している会社なのよ」
「では、そのプロジェクトには天照さまも関わっておいでなのですか?」
「父は関わっておりません。国連での演説でもお話ししたと思いますが、父は人間の行いを手出しせずに見守っているのです」
「はい。そうおっしゃっておられました・・・」
「でも私は、この地球で生きて行くので、黙って見ていることはできなかったのです。それで、私個人として地球を救うためにこのプロジェクトを立ち上げたのです。勿論、それは父の許しを得ています」
「まぁ!素晴らしい!翼さまは私たちを救ってくださる救世主なのですね?」
「救世主は大袈裟ですね。私は発案して技術提供しているだけです。実際にプロジェクトを実行しているのは日本の皆さんですよ」
「それでも、プロジェクトがなかったら地球は滅んでしまうのでしょう?やはり救世主ですよ!」
「そうですか?それで今回、新奈たち女神の存在を公表する理由なのですが、未だに地球の人間たちはひとつになれていません」
「はい。おっしゃる通りだと思います」
「ですが、力を使って強制的に考えを変えさせたくはないのです。でも、今まで月の都が空に浮かび、神が存在していることを黙って示しただけでは、このまま変わらないかも知れないのです」
「そうですね。未だに自国の利益を手放したくない国や独裁者が利権にしがみついて、日本や国連からの呼び掛けに応じていない国が御座いますね」
「はい。それで北風作戦ではなく、春の日差し作戦で行こうと・・・」
「あぁ、優しく接し、自ら心を開かせるということですね?」
「えぇ、女神の存在を公表し、各国を回って歌などを披露しようかと」
「歌で人々に親しみを持ってもらうのですね?」
「そうなのです。極めて平和的なアプローチをし、まずは民の心を掌握したい。そしてゆっくりと民意によって国を変えて行ってもらいたいと考えているのです」
「素晴らしい!もしやその、プロデュースを私共に?」
「えぇ、新奈が信頼しているこちらにお願い出来ればと・・・」
「まぁ!私、感動致しました!」
社長は急に立ち上がり、胸の前で両手を組んで、お父さんの写真に向かって微笑んだ。
うーん。ちょっとだけ面倒くさい人かも・・・
「それで、新奈。歌は四人で歌うの?」
「それなのだけど、四人姉妹のひとりが、実は歌手の生まれ変わりだったの」
「え?前世が歌手で女神に生まれ変わったのですか?」
「えーと。地球ではなくて、神星にあるひとつの国の王女として転生したの。だけど、千五百年前の世界では、神の娘だったのよ」
「歌手で、王女で、女神なのね・・・凄いじゃない!」
「神楽天舞音って、いう人なのだけど・・・」
「え!?うちに所属していた歌手よ!私はまだ子供だったのだけど、家によく遊びに来ていたの。私、天舞音お姉ちゃんって、懐いていてね・・・沢山、可愛がってもらったわ・・・それなのに、若くして乳癌で亡くなってしまったの・・・」
「それなら、また会えますね。彼女は女神だった時と神楽天舞音の人生の記憶を取り戻していますから」
「それは本当なのですか!天舞音お姉ちゃんにまた会えるのですか?!」
社長は既に涙をぽろぽろ流し始めた。
「はい。会えますよ。でも、姿は全く違います。歳も今、十九歳ですよ」
「あれ?社長って・・・」
『新奈、社長って今、何歳なの?』
『歳は知らないわ。私が聞くわね』
「社長、社長って今、何歳なのですか?」
「え?私?三十六歳よ」
「三十六歳でこれだけの会社の社長なのですか」
「いえ、父が遊びたいから社長やってくれって、六年前に交代させられたのです」
「では、先代の社長である、お父さまは神楽天舞音をよく知っているのですね?」
「えぇ、それはもう!そうだわ!父も喜ぶと思うわ!」
「神楽さまは、神の星の王女さまなのですよね?地球に来ることはできるのですか?」
「はい。父の力で、こちらと向こうの世界は行き来ができますから」
「あの、天舞音お姉ちゃんの今の名前を教えて頂けますか?」
「はい。アネモネ グースベリー王女です」
「アネモネ・・・まぁ・・・なんて美しい名前なんでしょう・・・アネモネ王女!」
「あぁ、それで、アネモネは自分の歌は自分で作りたいと言っているのです。近々、月の都へ来て、地球の現状を見て歌を作ると言っています」
「そうですね。彼女はとても素敵な歌を多く残していますね。また彼女の歌が聞けるなんて・・・夢の様だわ!」
「私とアネモネはソロで一曲ずつ出したいの。そして姉妹四人で歌う曲を何曲か作りたいのです」
「新奈とアネモネさまだけソロ曲を出すのですね?他のお二方はよろしいのですか?」
「他の二人はお付き合いで出るのですよ」
「そうなのですね。でも四人の方が華やかで結構ですね」
「グループ曲はメインのボーカルを私とアネモネが担当して、あと二人はコーラス程度が良いかしら」
「そうだね。立ち位置は向かって左から、望、アネモネ、新奈、結衣だね」
「えぇ、それが良いわ」
「衣装はどんなものが良いでしょう?」
「女神らしいというか清楚で神秘的で美しい・・・」
「そうですわね!やはり純白がベースなのでしょうね・・・天女のイメージでしょうか?」
「そうね。天女だと身体の線が出過ぎてしまうと思うから、それよりはプリンセスラインのドレスで良いと思うわ」
「デザイナーにすぐ取り掛からせますね」
「アクセサリーはどうしましょうか?」
「あぁ、それは天照さまがご用意くださるとのことなので・・・あ。でも衣装と合わせるのが難しくなるかしらね?」
「では、アクセサリーが届いてからウエディングドレスと合わせた姿を見てもらって、そこからデザインを起こしたら良いのでは?」
「それは素晴らしいアイデアです。とてもイメージが湧き易いと思いますわ」
「では、アネモネが地球に来て、アクセサリーが届きましたらまた伺います」
「はい。その時にはデザイナーと作詞家、作曲家にも同席して頂きましょう」
「えぇ、そうですね。では、よろしくお願いいたします」
「次回からはここへ瞬間移動で来ても良いかしら?」
「勿論です!」
「あぁ、本格的に活動を開始する時には、父も挨拶に伺うそうです」
「え!天照さまが!?ど、ど、どうしましょう!」
「社長、気を失わない様にあの写真を見つめて、見慣れておかないとね?」
「そんな!あのお方を見慣れることなんて・・・できる筈が御座いません!」
「そう言えば、この写真から二十一年経っているのですよね?」
「でも、お父さまのお姿は全く変わっていませんよ」
「え?二十年以上経っているのに?あの時、私は高校一年生でテレビで天照さまのお姿を拝見して心を奪われたのです・・・あれから私はこんなに歳を取ってしまったのに」
「天照さまは歳を取らないのです。あのお姿のままなのですよ」
「あぁ・・・神さま!それでこそ神さまなのですね・・・あら?それなら新奈も歳を取らないの?」
「いいえ、私や翼は歳を取ります。社長や麻里江と同じ様に地球で生きて、死んで行きます」
「そうなのですね・・・あぁ・・・天照さま・・・」
『新奈、社長は何か自分の世界に入って行った様だから、そろそろ』
『えぇ、そうね。帰りましょう』
「社長、麻里江。今日はこの辺で失礼しますね」
「あ!もう?」
「えぇ、また来ますね」
「あ、新奈、それじゃぁ、明日のスケジュールはそのままでも良いのね?」
「えぇ、いつも通りよ」
「今日はありがとうございました。今後もよろしくお願いします」
「こちらこそ、女神さまのプロデュース、私の全てを懸けまして取り組ませて頂きます」
「ありがとうございます」
そして、新奈と小型船に乗り、新奈の実家へと戻り、そこから瞬間移動で月の都へと帰って来た。
「シュンッ!」
「あら、お帰りなさい!話は上手くいったのかしら?」
「お母さま。ただいま。えぇ、社長さんがとても良い人で・・・」
「何か含みがあるわね・・・」
「ふふっ、お父さまの大ファンだったのです。社長室にお父さまと八人の女神の巨大パネルがあってびっくりしました」
「まぁ!月夜見さまのファン?それは実際に会ったら気絶するでしょうね」
「えぇ、間違いないと思います」
「月夜見さまに事前に言っておかないと・・・」
「社長にも気を失わない様に気をつけてとは言っておきましたが・・・」
「あぁ、新奈。さっき、天照さまからアクセサリーが届いたわよ」
「天照さまが持って来られたのですか?」
「そんな訳ないでしょう?サロンのテーブルに出現したのよ」
「あ。本当だ、箱が四つありますね。それにしても箱が大きいですね」
それは、超豪華な宝石箱で箱にも宝石があしらわれていた。
「アネモネも揃ってから皆で見ましょうか」
「そうですね」
「そう言えば、アネモネは明日から来るそうよ。月夜見さまから連絡があったわ」
「そうですか・・・」
いよいよアネモネの登場だ。不安な気持ちと心の奥底では待ち望む気持ちが交錯した。
お読みいただきまして、ありがとうございました!