表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
287/329

15.帰還後の混乱

 現代に戻り最初の夕食の時間となった。食堂には笑顔の家族が揃った。


 お爺さんが買ってきてくれたシャンパンで乾杯することになった。

エリーがテーブルを回って、シャンパングラスにシャンパンを注いでくれた。


「翼、よく無事で帰って来てくれたな。私はもう死ぬまでに翼に会えないのかと思ったよ」

「お爺さま。ご心配をお掛けしてすみませんでした」

「翼。無事に帰って来てくれたのだから良いのよ」

「お婆さま、ありがとうございます」


「さぁ、翼の帰りを祝って、乾杯しましょう」

「乾杯!」

「かんぱーい!」

「キンッ!」

 隣同士の人とグラスを合わせ心地よい音が響いた。


 蓮は子供らしくオレンジジュースを飲んでいる。その笑顔を見ていたらとても落ち着いた気持になれた。


 まずはスライスしたバゲットに乗った、チーズやサーモンのディップのオードブルに手を伸ばす。続いてスープとサラダを食べた。


 どれも千五百年前の世界には存在しなかったものばかりだ。どの味も懐かしい。

「翼、どれも味が濃く感じるのでは?美味しく感じる?」

「そうだね。多分、舌が驚いているというか、はっきりと感じ取れていない感じだな。美味しいのは美味しいと思うよ」


「そうよね。塩と醤油と味噌しか味がなかったのだから・・・」

「それにしても時代が違うと食べるものもこんなに違うのだね」

「翼が醤油と味噌を作るまでは、食事なんて義務で食べている様なものだったわね」

「えぇ、何も嬉しくなかったわ。ただ、お腹が空くから食べるだけって感じね」


「翼は何で、醬油や味噌の作り方を知っていたの?」

「あぁ、それは農業分野の勉強をした時に得た知識だね。それからついでの様に脱線して、料理本なんかも読んでいたんだ」

「それで、あんなにレシピが増えたのね・・・」

「そうね。あれから食事が楽しみになったのよね」


「これからは、翼が行く度に調味料もレシピも増えていくのよね?」

「えぇ、作物も花も増えていくわ」

「それって、歴史に手を加えていることにならないのかしら?」

「お義母さま。あくまでも神の屋敷の中だけのことなのです。下界には伝えていませんし、神星へ移り住みますから」


「あぁ、そういうことなのね。つまり、神星は民も食文化も全部、翼が創ったってことになるのね?」

「はい。そうなのです」

「まぁ!大変なことね。ひとつの惑星の成り立ちを創っていくなんて!」

「あぁ・・・そういうことなのか。僕は自分の身の回りに起こっていることだけしか見ていないからな・・・そんな大それたこととは感じていないのだけど」


「それが神の行う、創造というものなのでしょうね」

「創造!そんなことなのか・・・」

「翼って凄いわ!」

「お兄さま・・・お兄さまが本当の神さまなのですね・・・」

 あ。不味い・・・葉留の目つきが明らかにおかしい。こ、これは話題を変えなくては!


「あ、あのさ。皆の神デビューの話なのだけど、どういう展開をしていくの?」

「それは何も決まっていないわ。天照さまが思い付きの様に提案されただけだから」

「そうなの。初めはアネモネと新奈だけの話だったのに、その場で望と私まで巻き込まれてしまって・・・」


「巻き込まれたって?・・・でも良いと思うよ。アネモネだけとか新奈とのデュオよりも四人組の方が華やかで良いな」

「翼は、どう売っていくのが良いと思う?」

「そうだね・・・まずは新奈がカミングアウトするところから始めれば?」

「私が?アネモネじゃなく?」


「うん。だって新奈は既に世界的に名が通ったアーティストなんだから。君が実は神の娘でしたってカミングアウトして、更にあと三人居ますって紹介していく感じかな」

「その神の娘というところなのだけど・・・それだと私の実の両親は?」

「あぁ、そうだね・・・ご両親をないがしろにはできないね・・・ではさ。千五百年前の記憶が天照さまによって呼びまされたって設定にしたら?」


「あぁ、千五百年前に神だった。それが天照さまによって記憶が呼び覚まされ、神として降臨した・・・って感じ?」

「うん。女神の降臨か・・・良いね!それで行こう!」

「でも、私と天照さまの接点は?」

「あ。そうか・・・そうだな・・・それは神の息子と結婚したって言ってしまえば良いよ」


「え?それ言っちゃうの?」

「新奈って、アイドル路線じゃないでしょ?結婚していることがバレたら不味いの?」

「あぁ!それは大丈夫ね。え?望と結衣とアネモネも翼の妻と言う設定?」

「うん。だって、お父さまも八人の女神と一緒に地球へ降臨したでしょう?」

「そうね!それなら今後は隠さなくてもいいのね!それは良いことだわ!」

 二人で盛り上がっていたら結衣が声を掛けてきた。


「ねぇ、そろそろメインの料理を出しても良いかしら?」

「あ。結衣。ごめんね。蓮も待たせてしまったね。先にご飯を食べてしまおうか」


 結衣とエリーが皆に、オムライスとハンバーグがワンプレートに乗ったメインディッシュが配膳された。


「うわぁ!良い匂い!美味しそう!」

「わーい!ハンバーグとオムライスだ!」

「翼と蓮の反応が一緒ね!可愛いわ!」

「ふふっ。本当ね。研究ばかりで大人になり切れない子供の様ね」

「お母さま!子供の前で子ども扱いは困ります!」

 僕はプリプリと怒った顔をお母さんに向けた。


「あら、そうだったわね。ごめんなさい!そうよね・・・五百人も子を授けたのですものね!」

「その話題もNGです!」

「まぁ!それも駄目なのね・・・」

 お母さんは茶目っ気タップリな顔で微笑んでいる。


「久々の好物なんですから、ゆっくり味わいたいのですが!?」

「はい。そうですね。ゆっくり召し上がれ」

「ハンバーグもオムライスも美味しいね!」

「そう?良かった!」

 結衣は満面の笑みを返してくれた。


「お母さま!美味しいです!」

「まぁ!蓮。ありがとう!沢山食べてね!」

「はい!」


 デザートには望が作ったケーキだ。

「今日は翼がケーキを食べるのが久々だから、王道のイチゴのショートケーキよ」

「わぁー!美味しそう!」

 翼と蓮が同時に同じことを言った。

「まぁ!親子ね!」


「あぁ・・・美味しい。こういう甘いものを一年間食べていなかったからね・・・」

「それは特別美味しく感じるでしょうね」

「うん。本当に美味しいよ。望、ありがとう!」

「どういたしまして!喜んでもらえて嬉しいわ!」


 食事が終わり、サロンでくつろぎながら神デビューの話を再開した。

エリーが紅茶を淹れてくれた。


「さっきの神デビューの話だけど、天照さまの意図としては、まだ新平和条約に調印していない国、翼の交通システムを導入していない国を引き入れる。ってことよね?」

「そうね。アネモネの魅了の能力で、まずはそういう国の国民を魅了して、民意を変えさせるってことらしいけど・・・」


「そう簡単に行くかしらね?」

 葉留は怪訝な顔をしてつぶやいた。

「そう言えば、歌を歌うのだよね?何故、葉留が入らないのかな?」

「お兄さま。私は徹さんを国会議員に導くのです。私が神の娘だと公表してしまったら、私の主人の徹さんは国会議員になれなくなってしまうわ」


「あぁ、神の力を使って当選したとか言われてしまうのか・・・」

「えぇ、私はこのままで良いわ」


「それでは、どう売って行くかだね。まず、芸能事務所はどうする?」

「私の所属事務所を変えてしまうということかしら?」

「では、変えないとして、その事務所は神をプロデュースできるのかな?」

「逆に神をプロデュースしたことがある事務所なんて、ある訳がないわ」


「それもそうだね。では、その事務所は新奈が神と知ったらどうするかな?」

「それも、初めてのことだから分からないわ」

「そうか・・・新奈はその事務所のマネージャーとか社長は信頼できる?」

「それは勿論、信頼できるわ。それに日本の芸能界は数年前に大きく変わったわ」


「変わった?」

「えぇ、税制が変わったでしょう?それまで芸能の仕事だけで稼げない人は多かったの。その人たちはアルバイトとかをしながら活動していたのだけど、そういう中途半端ではやっていけなくなってしまったから、皆、きちんと就職したのよ。つまり、芸能人は激減したの。それで芸能事務所も再編され、大きな事務所三社に統合されたの」


「そうなんだ。では今、芸能活動ができているのは、それだけで食べて行ける人、いわゆる売れている人だけなんだね?」

「まぁ、そういうことね。そして私の所属事務所が一番大きな会社になっているのよ」

「なんだ、そうなのか。ではそのままで良さそうだね」


「では、どうしようか?まずは新奈からマネージャーとか社長に話して、乗って来たらアネモネや望、結衣を連れて行こうか」

「姉妹四人で行く時には、お父さまにも同行して頂きたいわ」

「あぁ、そうだね。その時はお願いするよ」


「それなら明日にでもマネージャーの麻里江まりえと話すわ。翼、明日一緒に来てくれない?」

「うん。構わないよ」

「良かった!」


「そう言えば、アネモネは神楽天舞音かぐらあまねだったのよね?」

「お義母さま、そうですね」

「私、彼女の歌、好きだったわ」

「翼、神楽天舞音はシンガーソングライターだったの。それで今回、彼女が歌う曲も自分で作りたいって言っているのよ」


「へぇ・・・自分で歌を作るんだ。凄いね」

「それで彼女は、現在の地球や日本を知らないから、地球に来て今の日本を見て曲を作りたいのですって」


「え?では、アネモネは地球に来るのかい?」

「えぇ、アネモネはこの月の都に滞在して曲作りをする予定よ」

「お、お母さま!ここにアネモネが・・・来るのですか?」


「翼、また彼女に溺れるのが怖いのでしょう?」

 新奈は間髪入れずに翼に詰め寄った。

「え?い、いや・・・それは・・・」

「別に溺れても良いのよ。仕方がないわ」

「え?そんな・・・」

 新奈は突き放すでも呆れているでもなく、翼に寄り添う気持ちでそう言った。


「翼。私たちも解っているわ。アネモネに魅了の力がある限り、仕方のないことよ。それでも、私たちの姉妹だから・・・」

「ねぇ・・・望、新奈、結衣」

「なぁに?」

「何かしら?」

「どうしたの?」


「君たちはアネモネに溺れる僕をどう思うの?」

「そうね・・・少しは嫉妬もあるけど・・・私は翼に愛されている実感があるから大丈夫かな・・・」

 望は長女らしく、しっかりしたことを言うのだな・・・


「私もよ。翼と私の関係はふたりだけのものだから・・・他の姉妹はまた別のことね」

 新奈はやはり、新奈だ。芯がしっかりしているし、自分というものを持っている。


「えぇ、私もよ。翼がアネモネだけを相手にして、私たちを放置する様なことをしない限りは、夜のことは人それぞれで違うことだから・・・気にしない様にするだけよ」

 結衣は相変わらず、優しい人だ。やっぱり安心するな・・・


「そうか・・・皆、ありがとう。僕を愛してくれて・・・」


「あー!もう!お兄さまばっかり!ずるいわ!」

 葉留は両手を強く握りしめ、自分の膝を叩く様にして大きな声を上げた。

「え?葉留?」

「何故、お兄さまはそんなにも皆に愛されるの?」

「突然どうしたの?・・・葉留?」

 お母さんも驚いている・・・


「お兄さまは、小さな時から頭が良くて、何でも作れて!いつもみんなの人気者だわ。皆、お兄さまばかりちやほやして・・・」


「でも、私はいつも一人でこの月の都でやることもなく、幼稚園も小学校にも行かないで、お兄さまだけを見ていたわ・・・」


「それなのに・・・大人になったら、他人の中を見過ぎるって!私だって・・・お兄さまが大好きなのに・・・」

 葉留は涙をぽろぽろこぼしながら自分の部屋へ走って行ってしまった。

「葉留!」


「あぁ・・・あのことね」

 お母さんがぽつりとつぶやいた。

「お母さま。あのことって?葉留は一体、どうしたのですか?」


「半年前、天照さまが翼の居場所を教えてくれることになって、天照さまの月の都へ行くことになったの。その時、葉留はお留守番を命ぜられてね・・・葉留は他人の中を見過ぎているって、叱られたのよ・・・」


「あの子にはとてもショックだったのだと思うわ・・・」

「あぁ・・・僕の責任ですね・・・僕は自分の勝手で勉強と研究に明け暮れて、葉留をずっと放っておいたんだ・・・兄らしいことを何もしていない」


「僕は葉留にどれ程、寂しい思いをさせていたのだろうか・・・」

 これには誰もフォローの言葉を掛けられなかった。


「どうしよう・・・葉留のところへ行ってなぐさめてやった方が良いよね?」

「駄目よ!」

「新奈?」

「駄目・・・そんな気がする・・・」


「え?さっきの話と関係が?」

「分からないけれど・・・言いたくないけど・・・駄目。行かないで」

「そうね。新奈の言う通りよ。翼。今は何もできないわ」

「望まで?」

「翼、私たちを信じて。もう寝ましょう。さぁ、蓮!お父さまと寝んねしよう!」


「わーい!お父さまと寝るの?」

「そうよ。行きましょう!さ、翼」

「う、うん。それじゃ、おやすみ」


「えぇ、おやすみなさい。今日は疲れたでしょう?ゆっくり休んでね」

「蓮、お父さまと眠れて良かったわね!翼、おやすみなさい。また明日、話しましょう」

「翼。結衣や私たちを信じて。また明日ね。おやすみなさい」

 皆に見送られて、僕は蓮と結衣と寝室へ向かった。


 結衣の部屋へ入り、三人でお風呂に入った。蓮は嬉しくて大はしゃぎだった。

僕は久々に結衣の裸を見て真っ赤な顔になった。


「お父さま!顔が真っ赤だよ!」

「そうね。お父さま、どうしたのかしらね?」

「え?うん・・・久しぶりだから、ちょっと恥ずかしいのかな?」

「まぁ!翼ったら・・・」


 二人にからかわれながらも、葉留のことで少し気分は落ち気味だった。それからベッドに移り、三人で川の字になって話をした。


「結衣、葉留のことだけど・・・」

「葉留ちゃんに聞かれても良いことを話してね」

 結衣は笑顔でそう言った。

「あ・・・そうか・・・やっぱりいいや」


 しばらくすると、蓮は僕の右手の人差し指をキュッと掴んだまま、小さな寝息を立て始めた。

「蓮、可愛いね」

「えぇ、翼が戻って来るのを指折り数えて待っていたのよ」

「これからは気をつけないとね」

「うん。翼、お帰りなさい」


 結衣は枕に頭を乗せ、こちらに顔を向けて笑顔で言った。僕は黙って結衣と蓮を念動力で少し持ち上げると、二人の位置を入れ替えた。


 そして結衣を抱きしめ、耳元で囁く様に言った。

「結衣。長く待たせてごめんね。ただいま」

「翼・・・すごく、凄く怖かった・・・あなたが帰らなかったらと考えたら、何度も泣きそうになったけど・・・蓮が居るから・・・蓮の前では泣けなかったの・・・」

「結衣。ごめん。本当に・・・そして、蓮を守ってくれてありがとう。愛しているよ」


「翼。帰って来てくれて良かった・・・愛しているわ」

「結衣・・・結衣・・・君は優しくて・・・美しい・・・」

 僕は結衣の寝巻を脱がして再び抱きしめた。


「あぁ・・・暖かい・・・翼の温もりが帰って来たんだわ・・・」

 結衣の瞳から涙が一筋流れた。


 僕は結衣の身体のどこかに変化がないかを探すかの様に隅々まで確認していった。そしてふたりは一年ぶりにひとつになり、お互いを深く抱きしめ合った。


「あぁ・・・翼が、翼が私のところへ帰って来たわ・・・」

「結衣・・・君は・・・最高だよ」

 ふたりとも身体よりも感情の起伏が盛り上がってしまい、あっという間に果ててしまった。


 そのまま抱きしめ合ったまま話をした。

「翼・・・素敵だったわ・・・」

「うん。結衣の中に戻って来られたんだね」

「ふふっ。その言い方、私が翼を生んだみたいじゃない?」

「あぁ、そうか。変だね・・・こうして結衣とひとつになっていると心が安らぐんだ」


「それは嬉しいわ」

「うん。本当だよ。本当に安心できる・・・」

「ねぇ、翼。私たちが神の娘として表に出ると、しばらくは子が作れないのではなくて?」

「あ。そうだね・・・活動次第ではそうなるかも知れないね」


「私、すぐ二人目が欲しかったのだけどな・・・」

「でも、僕はもうしばらく、結衣とセックスがしたい」

「そうね。一年していなかったのですものね。二人目は延期しましょう」


「では、そろそろ二回目に入っても良いかな?」

「今夜は何回するの?」

「疲れて眠るまで・・・」

「翼って、本当に好きなのね?」


「違うよ。結衣を愛しているからだよ」

「そう?ありがとう」

 そして、夜更よふけまで愛し合ったのだった。




 朝食の時、葉留はいつも通りだった。特に何か言われることもなく、僕も声は掛けなかった。


 葉留は結局、東大の経済学部に入った。徹と一緒に大学生活を送るためだ。そして、望は既に大学を卒業している。計画では大学の卒業の目途が立ったところで子を作る予定だったのだが、計画は大きく狂ってしまった。


 今朝、望は一ノ瀬電機へ出社し、新奈と葉留は東大へ登校する。結衣は蓮の世話をしながら、研究室で新製品の研究開発を続けている。


 今日は、新奈の大学の講義が終わる時間に待ち合わせし、芸能事務所へ話をしに行くことになった。新奈は神代重工へ入るので就職活動はないし、神の力を得てから勉強は楽勝なので、卒業の目途は立っている。比較的時間に余裕があるから芸能活動も積極的にこなしているそうだ。


 校門のところで新奈を待った。やがて新奈が出て来ると同時くらいに神代重工の小型船が僕らに近付いた。

「丁度のタイミングで船が来たね」

「さっき、講義が終わった時点で呼んでおいたのよ。便利でしょう?」

「うん。それに他人が一緒に乗らないから安全だね」

「そうなの。早いし、安全だし言うことないわ」


 二人が乗り込むと行き先を指定済みだったのか自動的に飛んで行った。

「新奈。昨日のことだけど・・・」

「葉留ちゃんのこと?」

「うん」

「あれは、翼を誘い出す演技よ」


「僕を誘い出す?」

「そう。お涙頂戴で翼を部屋へ誘って、入って来たら襲い掛かるって計画ね」

「襲い掛かる!本当に?」

「えぇ、葉留ちゃんはね、昨日の昼間からどうやって翼と寝るか考えていたのよ」


「どうして分かったの?」

「それは勿論、葉留ちゃんの心を読んでいたからよ」

「え?どうして?」

「だって、葉留ちゃんに翼が戸惑っている話をしたら、翼を受け入れたい様なことを言っていたの。でもそれは伊豆へ行った時のことで、今は徹が居るから大丈夫。って言ったのだけど目は本気だったわ。それで気になって、その後も意識に入って探っていたのよ」


「そうなんだ・・・本気だったのか・・・でもどうして?」

「やっぱり、月の都でずっと翼しか見ていなかったからじゃない?そして翼は私たちと次々に恋をした。そんなにモテる男なんだって知ったら、なおのこと欲しくなる。そんな感じかな?」


「それに千五百年前の世界で翼が多くの巫女に子を授けた話や羽月の話も知っている。それで増々、火が付いたところにアネモネまでが翼のモノになるって聞いたら、我慢できなくなったのかも」


「でもさ。僕と葉留は兄弟なんだよ?」

「翼。瑞希お義母さまは、天照さまから直接生まれた人よ。その子供である翼と葉留ちゃんは、生殖能力とか性の意識も少し、変わっていると思うのよ」


「え?僕は変わっているの?」

「やっぱり・・・あのね、翼。日本人の普通の人なら、複数の女性と結婚なんて全く考えないし、何百人という女性に子を授けることも普通はできないわ」

「え?あ!や、やっぱり・・・そうなのかな?」


「そうよ。葉留ちゃんにしても榊くんとのこと、思い出してみて?いくら能力があるからって、勝手に意識に入り込んで生活の全てを見張り続けるって・・・それに翼に対する気持ちもそうよ。普通という言葉からはかけ離れているのよ・・・」


「あ、そ、そう・・・だよね・・・そうか。そうなんだね・・・」

「ごめんね。翼。翼を混乱させたくて言っているのではないの。だけどこのままでは・・・」

「う、うん。そうだよね。確かに・・・僕は普通ではないのだね・・・葉留も・・・」

「翼!ごめんなさい。大丈夫?」


 僕は普通じゃない?僕は種馬?葉留もおかしい?

お読みいただきまして、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ