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12.充電器の送付

 翼が行方不明になってから九か月が経過した。


 月の都では、琴葉と月夜見がふたりの夜を過ごしていた。

「月夜見さま。スパークリングワインをお持ちしました」

「ありがとう」


「スパンッ!」

 月夜見がワインのコルク栓を抜いた。イタリアで購入したヴェネツィアングラスのシャンパングラスに注ぐと乾杯した。

「乾杯!」

「キンッ!」


「あぁ・・・やはりルピナス王国のスパークリングワインは美味しいね」

「えぇ、とっても」

「ところで琴葉・・・そろそろだよね?」

「えぇ、今夜だと思うわ」

「二回目だものね・・・」

「えぇ、やはり特別なのね・・・今日は朝からそれを感じていたわ」


 今夜、天照さまの身体を琴葉の子宮に授かるのだ。

二度目とは言え、今度は分かった上ですることだから緊張する。それを和らげるためにお酒を飲むのだ。


「琴葉、身体に変化はあるの?」

「そうね。身体が熱くなっていて、気持ちが高ぶってきているわ」

「そうだね。もう瞳が前の時の様になっているよ」

「それって、どんな感じなの?」


「うん。何か魅了されるというか、引き込まれる感じかな・・・」

「それってアネモネみたいね」

「あぁ、確かに。前世の記憶が蘇った後のアネモネは目つきが全然違っていたね」

「月夜見さまも危ないのでは?あのはストロベリーブロンドの髪だしね」


「ふふっ。確かに危ないね。あの娘は美しいだけでなく、大変な色香があるよ・・・近付かない様にしないとね」

「あら、やっぱり・・・」

「私は手を出さないよ」

「お願いしますよ」


「ところで月夜見さま。天照さまのことですけれど」

「うん?何だい?」

 琴葉は月夜見のグラスにスパークリングワインを注ぎながら言った。


「ひとつ気になったのですけれど・・・天照さまは千五百年前に行ってしまいますよね?」

「その様だね」

「でも、その先にも天照さまは存在するのではありませんか?その天照さまはどうなってしまうのでしょう?」

「それはやはり、消滅するのではないかな?」


「消滅?死んでしまうのですか?」

「うん。だって同じ時代に同じ人間が二人存在することはできないと思うんだ。そして、自分の人生を戻って繰り返そうというのだから、それ以前の自分は消滅するということだろうね」

「そうですね。そうでないと行く意味がありませんね」


「では、天照さまは千五百年生きて、生まれ変わると直ぐにまた千五百年前へ帰って行くということでしょうか?」

「あぁ、そうか・・・同じ人生をループし続けるということか・・・」

「それって、途方もないことではありませんか?」

「それが本当だとしたらそうだね」


「でも新しく生まれてくる天照さまも今までの記憶は引き継いでいるのですよね?」

「前回はそうだったね。だから永遠に生き続けているのと同じことになるのだからね・・・やはり、天照さまの持つお役目とか運命には驚くばかりだね」


「天照さまに比べたら、私たちのお役目なんてまだ小さいものなのね」

「天照さまこそが、本物の神さまなのだね・・・」

「えぇ・・・」


「月夜見さま・・・」

「あ。琴葉・・・何だか・・・つやっぽいね」

「私・・・もう・・・」

「うん。おいで」


 それからふたりは、前の時と同様に尋常ではない快感に襲われ、長い時間を掛けてお互いをいつくしみ、深く繋がった。


「あぁ・・・月夜見さま・・・私、このセックスが一番好きです・・・」

「僕もだよ。体中の細胞が快感に震えているよ・・・」

「これって、お役目に対するご褒美なのでは?」

「そうだね。これは異次元の快感だものね・・・」


 真夜中を過ぎた頃、月夜見は琴葉の中で果て、ふたりは夢の様な世界の中でまどろんだ。

そして、一週間後。琴葉は天照さまを身籠った。




 それから三か月後。翼が行方不明となってから一年が経過した。


『瑞希、聞こえるかい?』

『はい!月夜見さま』

『天照さまから招集が掛かったよ』

『今直ぐですか?』


『いや、明日だ。明日の朝、こちらに来られるかな?』

『はい。皆に都合を付けさせます』

『では、十時にサロンに集まってもらえるかな?』

『かしこまりました』


 瑞希は直ぐに娘たちへ一斉に念話で伝えた。

『望、新奈、結衣、葉留。天照さまから招集が掛かったわ。明日の十時に出発するから都合を付けて頂戴』

『お義母さま!いよいよ明日なのですね!』

『分かりました。明日は歌のレッスンだけだからキャンセルします』

『嬉しい!やっと翼が帰ってくるのですね!』


『お母さま。私も行って良いのですか?』

『葉留。来るなとは言われていないわ。大丈夫でしょう』

『そう。良かった!』


『お父さま、帰って来るの?』

『そうよ。蓮。お父さまはもう直ぐ帰って来るわ!』

『やったー!』

『蓮、良かったわね!』


 その日の夕食の席は賑やかだった。皆、笑顔で明るい話題が続いた。

「ねぇ、翼は帰って来て最初に何を食べたいって言うかしら?」

「そうねぇ、千五百年前の食事から考えたら味の濃いものかしら?」

「翼が醤油と味噌を作ってからは、質素な和食と言った感じの食事だったわよね」

「そうだったわね。その前の食事って言ったら・・・」

「まるで原始人ね」


「あはははっ!新奈。原始人は言い過ぎじゃない?」

「だけど、美味しくなかったことは認めるわ」

「翼が醤油と味噌を作ってくれてからは食事が楽しくなったわね」

「そうね。でも翼にしてみたらまだ物足りなかったのでしょうね」


「それならやっぱり洋食が食べたいかしらね?」

「でも、一年間、質素な食事をしていて、急に洋食の様な濃い味のものを食べて美味しいと感じるかしらね?」


「それはどちらでも良いのよ。食べたいものが食べられたら、それで帰って来たって気持ちになれるでしょう?」

「結衣の言う通りね!翼が食べたいものを用意してあげたいわね」

「そうね。何でも作れる様に食材を用意しておきましょう」


「蓮はお父様が帰って来たら何をしたい?」

「タイムマシンに乗せてもらう!」

「え?」

 蓮の言葉を聞いて皆が凍り付いた。


「蓮、タイムマシンは誰でも乗れるものではないのよ」

「お母さま、僕は乗れないの?」

「そうね。お父さまみたいに帰れなくなっても良いの?」

「嫌!でも、僕はきっと上手くできるよ!」


「まぁ!自信家ね!」

「蓮、自信を持つのは良いことよ!」

「蓮!カッコ良いわ!」

「へへっ。僕ね、お父さまみたいに色んなものを発明するよ!」

「お母さん、楽しみだわ!」


「翼が帰って最初の夜は結衣と蓮が一緒に眠ると良いわ」

「え?新奈。良いの?」

「勿論!こんな時は自分の子と一緒に居たいものじゃないかしら?」

「えぇ、そうだと思うわ。蓮を抱きしめたら翼はもう無茶をしなくなると思うの」

「そうね。それは期待したいわね」


「明日、帰って来る訳ではないのよね?翼が帰って行った時のことを覚えているかしら?」

「お義母さま。確か、充電器が届いて直ぐに充電を始めたのです。それはその日のうちに終わったのだけど、私たちとの別れを惜しんでそれから五泊してから帰ったわ」

「それって、五人の娘と一人ずつ夜を過ごしてからってこと?」

「そうです」


「私、その時のことを思い出すと泣いてしまうわ」

「私も・・・凄く泣いたの・・・」

「それは皆、同じよ。朝は目を真っ赤にしていたわ」

「天照さまが意地悪なのよ!」


「意地悪?」

「あ、そうだったわ!お義母さま。天照さまったら翼が帰る直前になって言ったの」

「え?何て?」

「今後は定期的に来れば良い・・・って!」


「皆、キョトンとしたわ」

「そうね。あの時の私たちには、何が何だか分からなかったわね」

「それで、翼はそれを聞いて何て言ったの?」

「来て良いのですか?って!笑顔で言ったわ。それで私たちもまた来てくれるんだって分かったの」

「それは嬉しかったでしょうね」


「それはもう・・・それで皆、また泣いて・・・」

「そう、大変だったわ」

「それからは翼が来るのが待ち遠しくてね」

「そう。カレンダーを作ったのよね?」


「そうそう!翼カレンダー!毎日×を付けて次に翼が来る日を待ったわね」

「今度はこちらがカレンダーに印を付けましょう!あと六日ね!」


 そして楽しい夕食は終わり、結衣はベッドで蓮を抱きしめ、翼お父さまの話をしながら眠りについた。




 翌朝、皆は早く起きて準備をした。十時前にはサロンに集合し、笑顔で話していた。


『皆、準備はできているかな?』

『月夜見さま。もう皆、揃っています』

『では、転移させるよ』

『はい』


「シュンッ!」


 転移した先はアスチルベ王国の月の都。今回はサロンではなく庭園に転移した。

周りを見渡すと、月夜見の子供たち三十二人とアネモネが揃っていた。


「うわぁ!皆、来ていたんですね!」

「葉留!久しぶり!」

「また、歌を聞かせてよ!」

「いいですよ!凛月りつきお兄さま。でも、各国には既にカラオケはあるのですよね?」


「うん。翼が作ってくれた装置があるからね、城の皆も楽しんでいるよ」

「それは良かったわ」


 そこへフクロウが飛んで来た。バサバサッと羽ばたくと小白の背中に乗った。

『皆の者。集まった様ですね』

「はい。天照さま。皆、揃いました」


『月夜見。何故、こんなに大勢集めたのか不思議なのではありませんか?』

「はい。どうしてなのか全く分かりません。翼が帰って来てから時間をさかのぼって充電器を送れば済む話ですよね?」


『それでは味気ないではありませんか』

「え?天照さまがその様なことを気にされるので?」

『いえ、実はあの装置無しに時を超えて物が送れるのかを試してみたかったのです。それでやってみたら出来たので、その通りにやるだけなのです』


「え?翼の異次元空間移動装置が無くても千五百年前に充電器を送れるのですか?」

『送れます。ただ、私一人の力では送れませんでした』

「天照さまのお力でも時を超えることはできないのですね?」

『そうです。それで力のある者たちにこれだけ集まってもらったのです』


「この人数が居れば送れるのですね」

『送れます。まずは、璃月、羽月、月花、月代、光月は道先案内人です』

「あぁ、翼が居る場所をイメージできるからですね?」

「あ、あの・・・私は記憶が戻っていないので、翼の居場所は分からないのですが?」


『瑞希は五人姉妹として一緒に力を発揮するだけで良いのです。残りの四人が行き先を示します』

「そういうものなのですね・・・分かりました」

「あの・・・僕の方が場所はイメージできると思うのですが?」


『あぁ、其方は月翔つきとでしたね。羽月に記憶を引き出されてしまったのですね。ですが、充電器を押し出す力として人数が重要なのです。そちらの人数が欠けるのも困りますので、月夜見の子供たちの輪に入りなさい』

「承知いたしました」


『まずは充電器をここに転移させます』

「シュンッ!」


 銀色に光る箱型の装置が現れた。大きさは電子レンジくらいで装置に繋ぐコードが二本出ている。


『この充電器を取り囲む様に娘たちと月夜見と葉留、それに我が円になります』

「私と葉留と天照さまも入るのですね。八人で充電器を囲むのですね」

『そうです。その周りを月夜見の妻八人が囲み、送り出す力を加えます』

「あぁ、また八人なのですね?」


『そして、月夜見の子供たちは年上の子から八人ずつの円で囲み、更に力を加えます』

「つまり、八人の輪を六つ重ねるのですね?」

『えぇ、何せ千五百年前ですからね。並のエネルギー量では、これだけの質量の物を送り出せないのです』


「天照さま、八という数字に何か意味はあるのですか?」

『八という数字は森羅万象しんらばんしょうであり、宇宙の成り立ちを象徴します。八人で八角形を作り、それを重ねることで皆の力を増幅させることができるのですよ』

「それ程までに力が必要なのですね・・・ということは、人間を送ることなど到底できないのですね?」


『生きている状態で送ることは不可能でしょう』

「分かりました。では皆、天照さまがおっしゃった通りにこの充電器を取り囲んで円になろう」

「はい!」


 まずは望たちが充電器の周りに立ち、そこへ葉留と月夜見が加わった。天照さまは充電器の上に浮かんで皆の位置を確認している。その外側を月夜見の妻たちが囲む様に立った。

そのまた外側を凛月りつきから年の順に八人ずつ、四つの八角形を重ねていった。


『皆、隣の者と手を繋ぎ等間隔に並びなさい』

「はい」


 皆が周りを見ながら間隔を調整した。中心の八人はかなり密着した状態だ。それから輪の外側になるに連れ、輪は大きくなっていき、繋いだ手は伸びている。

フクロウの姿の天照さまは一度、空へ浮かび上がり、上空から六つの輪の状態を確認した。


『良いでしょう。さぁ、始めましょう』

 そう言ってフクロウは上空に留まり、月夜見と望の間には人間の姿の天照さまが出現した。


「シュンッ!」

「うわぁ!あ、天照さま!」

「私の姿を見るのは初めてですね」

「は、はい・・・」

 月夜見は驚いて天照さまを見つめている。


「千五百年前の天照さまと同じお顔なのですね」

 望が穏やかに声を掛けた。

「同一人物ですからね・・・では充電器に接している璃月たちは、翼の元へこの充電器を届けるイメージを持つのです。その外の輪の者は内側の者を助ける様に力を預けていってください」


「どのくらいの時間でしょうか?一瞬に力を込めるのか、それとも力を充電していくイメージでしょうか?」

「充電していくイメージで構いません。力が必要量に達した時点で転移しますよ」

「分かりました」


「では、始めてください」

「・・・」

 皆、集中して力を出していった。声を出す者は居らず、黙って集中していた。


 一分を経過しただろうか。うっすらと青い光が中心の八人を覆い始めた。

何人かがその光に気付いて顔を上げた瞬間だった。


 ぱぁっと強い光に包まれ充電器が消えた・・・

「シュンッ!」

「成功しましたね」

「充電器は翼の元へ届いたのですか?」

「羽月。其方、向こうで見ていたではありませんか」

「あ!そうでした!ちゃんと届きましたね」

 アネモネは美しくつやっぽい笑顔で答えた。


「成功したんだね?」

「これで翼は帰って来られるんだ!」

「良かった!」

 子供たちは皆、喜びの声を上げた。望、新奈、結衣、瑞希も笑顔だった。


「あと五日後にはここへ帰って来ますよ」

「ここへ?地球ではなく、ここに戻るのですか?」

「えぇ、私が装置にここの座標を設定しましたからね。再び五日後にここに集まりましょう」

「はい。ありがとうございます!天照さま!」


「あぁ、羽月。其方、記憶が戻って困っている様ですね」

「天照さま。アネモネに記憶を戻したのは、何かお役目があるのでしょうか?」

「お役目という程のものではありません。羽月には人間を魅了する力があるのです」


「人間を魅了する・・・それがどんなお役目に使えるのでしょう?」

「月夜見。地球の人間はまだ、ひとつになれていないでしょう?翼の進めるプロジェクトに賛同していない国もあると思います」

「それをアネモネの人を魅了する力で惹きつけるということですか?」

「簡単に言えばそうですね」


「アネモネを神として人前に出す。ということでしょうか?」

「そうです。神の娘として」

「でも、魅了って男性だけで良いのですか?」

 望は訳が分からないという顔で天照さまに問い掛けた。


「璃月。魅了は男性だけに効くのではありません。女性も魅了するのですよ」

「あぁ!そう言えば、千五百年前に巫女を・・・」

「お姉さま!ここで話すことではないでしょう!」

 羽月は真っ赤な顔をしていきり立った。

「あ。羽月、ごめんね・・・つい」


「でも、人間の前に姿を見せるだけで良いのですか?何かさせるのですか?」

 陽翔はるとが心配そうに割り込んできた。

「月花とセットで出すのですよ。歌を歌わせるのです。世界中の人間が聞き、魅了され、虜になることでしょう」

「それで、国が動かせるのでしょうか?」

「国のいしづえは人間。民ではないのですか?」


「あぁ、まずは民の心を掴んで民意で国を動かそうというのですね」

「上手くいくのか分かりませんが、とりあえず平和的な手段ではありますね」

「そうでしょう?月花、其方がプロデュースなさい。まずは月花と二人で歌うものと羽月一人で歌うものの二曲を用意するのです」


「ドレスも神らしくて美しいものを作らないといけませんね」

「宝石も必要ですね。それは私が用意しましょう」


「天照さま。それだとアネモネは良いとしても、新奈も普通の人間ではないと思われてしまいますね」

「良いではありませんか。これからは地球も当たり前に神が存在する世界になるべきなのですよ」

「あぁ、なるほど。ただ黙ってプレッシャーを掛けるよりも良いのかも知れないね」


「え?私、神デビューするのですか?」

 新奈は困惑の表情になった。

「嫌なのですか?」

「それなら望と結衣も一緒が良いです。四人姉妹で売っていきましょうよ」

「え?私も?私、蓮が居るのよ?」


「子が居るかどうかは関係ないでしょう?」

「そうだよ。結衣。君は美しい女性だ。女神としても打ってつけだよ」

「お父さま!そんな・・・」

 結衣は蓮を抱いて困った顔をしている。


「私もってことなの?」

「望は一ノ瀬電機を背負う立場でもあるから、宣伝になって良いでしょう?」

「で、でも!神の娘だと言って人前に出てしまったら、普通の暮らしができなくなってしまいますよね?」


「普通の暮らし?其方は既に、普通の結婚はしていないし、プロジェクトを支える一人なのですよ?どこが普通の暮らしなのですか?」

「あ。まぁ・・・それは・・・そうでしたね・・・」

 天照さまに突っ込まれ、望はぐうの音も出なくなった。


「でも翼は?翼は神として表には立たないのかしら?」

「翼はそういうタイプではないだろう」

「えーっ!お父さま!それならば私は絶対、そんなタイプではありませんよ?」

「結衣は可愛いから大丈夫!」

 月夜見は満面の笑みで根拠のないおかしな返事を返した。


「えーそんな・・・」

「結衣。こうなったら、やるしかないよ!望もね。アネモネもよ?」

「私が?地球へ行くのですか?地球のことなんて何も分からないのに・・・」


「あぁ、忘れていましたよ。羽月にはアネモネに転生する直前の地球での記憶も戻しておきましょうか」

「え?私、地球人だったのですか?」

「そうです。其方は歌手だったのですよ」

「え!歌手?!」

 皆が驚いて一斉に声を上げた。


 天照さまはアネモネに近寄り、アネモネの頭に手を触れた。

「あ、あぁ・・・う、うぅ・・・」

 アネモネはその場でしゃがみこんでしまった。陽翔が駆け寄り、アネモネを抱きかかえた。

「アネモネ!大丈夫かい?」

 アネモネは数分間混乱していたが、やがて記憶の整理がついたのかゆっくりと顔を上げた。


「あ、お、思い出したわ・・・私・・・私の名前は・・・神楽天舞音かぐらあまね。歌手でした。二十八歳の時、乳癌にゅうがんで死んだのです」

「神楽天舞音?私、知っているわ!とっても歌が上手いアーティストだったのよね」


「え?私を知っているの?私が生きていた時、新奈はまだ生まれていないでしょう?」

「私も今は、アーティストですもの。先輩のことは知っています。それにヒット曲も沢山あるじゃないですか!」


「そうね。ヒットした曲はあるわ・・・あ!グースベリー王城のカラオケセットに私のCDが有ったわ!」

「それなら練習できるわね?」

「いえ、もう無意識のうちに自分の曲を選んで歌っていたわ」

「そうなんです。アネモネは初めから凄く上手で驚いたのです!」


「それはご本人なのですからね!それなら直ぐに歌えるわね。アネモネのシングル曲はどんなジャンルが良いかしら?」

「それって、私が作っても良いのかしら?」

「あ!そうでしたね。神楽天舞音はシンガーソングライターでしたね」

「えぇ、久々に自分で作ってみたいわ。でも。今の地球の・・・日本の姿を見てから作りたいかな・・・」


「それならば、翼が戻ったら羽月はしばらく地球に行って、翼に案内してもらったら良いでしょう」

「そうですね。私たちの月の都に滞在すれば良いわ」

「分かりました。瑞希お義母さま。よろしくお願いいたします」


「あら、アネモネ。お義母さまと呼んでくれるのね?」

「えぇ。これからはお義母さまとお呼びします」


「では、皆の者。五日後の十時にここへ集まるがよい」

「はい。天照さま。かしこまりました」


 そして皆、五日後の翼の帰還を楽しみに、それぞれの国へと帰って行った。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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