11.アネモネという娘
私たちは、天照さまの月の都から戻された。
「シュンッ!」
「あ!お母さま!」
葉留が蓮を抱っこしたまま笑顔になった。
「お兄さまの行き先は分かったのですか?」
「えぇ、分かったわ。天照さまのお役目で千五百年前の世界へ行っていたの」
「千五百年前の世界へ?それで、いつ帰って来るのですか?」
「それが、あと半年後なの」
「え?半年後!一年も行ったままなのですか!」
「そうなの。私たちに子を授けてくれているのよ」
「千五百年前のお姉さまたちに子を?」
「えぇ、それに大勢の巫女たちにもね」
「えーっ!・・・一体、どうして!」
葉留は訳が分からないと言った顔で困惑しながらも興奮している。
「それって何人くらいの子を作ったのですか?」
「そうね・・・恐らく五百人は授けたのではないかしら?」
「ご、五百人!・・・お兄さまって・・・種馬?」
葉留は可愛い顔をして、下品な言葉をサラッと口にした。
「ち、違うわ!翼は神星の民の生みの親なのよ」
「それがお役目?」
「そう」
「信じられない・・・」
葉留は驚愕の表情を浮かべて言葉を失った。
こうして翼の行き先は判明したのだった。だが問題は残った。瑞希お母さまとアネモネが大きなショックを受けてしまったのだ。
瑞希お母さまは自分の息子が千五百年前の自分と四人も子を作ったという事実が呑み込めないでいる。アネモネは愛する翼との唯一の息子が転生して今の夫になっていたのだ。動揺しない方がどうかしている。
アネモネを望、新奈と結衣が心配そうに囲んでいる。アスチルベ王国の月の都に戻って直ぐに、四人は山の上へと飛んだのだ。
二つの月を見上げながらアネモネは悲痛な顔をしていた。
「アネモネ。大丈夫なの?」
「お姉さま・・・私・・・やっぱり・・・翼さまが・・・」
望の心配した問い掛けにアネモネは涙を零し、言葉を詰まらせた。
新奈と結衣はアネモネをフォローする様に声を掛けた。
「そうよね・・・それは仕方がないわ・・・」
「アネモネの気持ちは分かるわ。でも、陽翔お兄さまに罪は無いのよね・・・」
「そうなのです。出会った瞬間に惹かれたのが元親子だったからだなんて・・・勘違いにも程があります」
「でも、さっきは別れないって、言っていたわよね?」
「だって・・・別れるなんて・・・あり得ないことでしょう?」
「あぁ、神星の世界観の中ではそうかも知れないわね。これが地球ならば離婚は珍しくもないのだけど・・・」
「それにしてもそんな理由で離婚するなんてこと、あり得ないわね」
「本当に別れたいの?」
「いいえ。陽翔さまと別れたくはないわ・・・でも・・・」
「翼とまた会ったら辛くなる。ってことね」
新奈はアネモネの心を見透かす様に言った。
「羽月お姉さまはどうして、月翔と夕月しか作らなかったの?」
「月花・・・それは・・・少しでも長い時間、翼さまと愛し合いたかったの」
「愛し合う・・・って、セックスしたかったからなの?」
「・・・」
アネモネは頬を赤くして俯いた。
「まぁ!呆れた!でも、そこまで好きだったのね・・・」
「ねぇ、私たち千五百年前のこととは思えないくらい、あの時代のことを鮮明に思い出しているわよね?」
「えぇ、翼のことも子供のこともね。まるでふたつの人生が繋がっているかの様な感覚ね」
「では、羽月だって翼とセックスしていたことを昨日のことの様に思い出しているのでしょう?それって忘れられる訳ないわ!」
「天照さまは瑞希お母さまの記憶は戻さなかったのに、何故、アネモネの記憶は戻してしまったのかしら?」
「そうね。しかも陽翔お兄さまが月翔の生まれ変わりであることまで、わざわざ伝えていたわ」
「そうね。不自然・・・というか意図的ってこと?」
「そうよ!アネモネがこうして苦しむことは分かっていた筈よね?」
「そうだわ。何故かしら?」
「ねぇ、アネモネはまだ陽翔お兄さまの子は宿していないのよね?」
「はい。まだです」
「陽翔お兄さまが月翔の生まれ変わりと知って、アネモネはセックスできるの?」
「それは・・・できると思います。私・・・おかしいのです」
「おかしい?」
「何が?」
「あ!そ、それは・・・言えません」
「言えない?どういうこと?」
「私・・・ちょっと変わっているのです・・・」
「ねぇ、それが原因なんじゃない?」
「え?望、どういうこと?」
「結衣。その変わっているということが原因でこれから何かが起こるのよ。天照さまから見たら、それが必要だからアネモネの記憶を蘇らせたのではないかしら?」
「なるほど。天照さまは先に起こることが分かっていて、私たちを導いていらっしゃるから」
「新奈、そうね。きっとそうだわ」
「え?怖いわ・・・私、どうなってしまうの?」
「それなら言いなさい。あなたの何が変わっているの?」
「そ、それは・・・」
アネモネは俯いて考え込んでしまった。
「そ、それじゃぁ・・・姉妹だけの秘密にしてくれますか?」
「勿論よ。ね?みんな?」
「えぇ、誰にも言わないわ」
「約束するわ。アネモネ」
皆、笑顔でアネモネに優しく話し掛けた。
「あ、あの・・・私、セックスが好き過ぎて止められなくなってしまうのです」
「え?」
「セ、セックスが好き?」
「止められなくなる?どういうこと?」
「じ、実は・・・翼さまが千五百年前の世界に居た時、毎日セックスしていたのです。一緒に眠る晩は朝まで休むことなく・・・それに、巫女とも・・・」
「毎日!それも巫女とも?」
「朝まで?」
「そんなに?男でも女でも良いの?」
「だから・・・私・・・おかしいって・・・」
「え?今もなの?」
「いいえ、今日までセックスが好きだなんてことはなかったのです。でも、記憶が戻った今は・・・」
「今は、したい・・・ってこと?」
「えぇ・・・すっかり前の感覚が戻ってしまっているみたい・・・どうしましょう?」
「それって翼が戻って来たら?」
「私、居ても立っても居られなくなって、翼さまの元へ飛んで行ってしまうと思います」
「そして、朝まで求めてしまうの?」
「はい。きっと、そうなるかと・・・」
アネモネは頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに言った。
「えーっ!」
三人は声を揃えて驚いた。
「嘘でしょう?」
「翼はそれに応えると思う?」
「今まではそうでした」
「翼が?」
「翼って・・・」
「種馬?」
「ちょっと!」
「だって!」
望と新奈が漫才の様なやり取りを始めてしまった。それくらい動揺している。
「翼さまは言っていました。私に見つめられると我慢できなくなるって・・・おかしくなるって」
「ねぇ・・・ちょっと待って。天照さまがそれを仕組んだとしたら?」
「翼とアネモネの子が必要だってこと?」
「それ、不倫だから!駄目でしょ!」
望はプリプリ怒っている。
「うん。それはそうよ。でもそうでなければ何故?」
「そうよね。アネモネと翼がセックスに溺れたら・・・」
「私たちの仲を壊そうとしている・・・とか?」
「え?それが一体、何になるというの?」
「うーん。そうね・・・分からないわ」
「考えても仕方がないか・・・」
「でも・・・アネモネは翼とセックスしたいのでしょう?」
「えぇ、もう既にしたくて仕方がないわ・・・」
「もう!なんてことを言うの!」
「だから、私・・・おかしいって言ったのに・・・」
「あぁ、そうだったわね。ごめんなさい。つい、焼きもちを焼いてしまったわ」
「でも、私たちだって、翼とは・・・ねぇ?」
「そうね。アネモネの気持ちは分るわ。でも、毎日ってことはないけれどね」
「あ!でも、翼は帰って来たら地球で暮らすのよ?アネモネは神星のグースベリー王国でしょう?簡単には会えないわよ?」
「あ!そうでした!そんな・・・どうしよう!」
「どうしよう!って!アネモネ。あなた、翼とやる気満々じゃない!」
「やる気って・・・新奈・・・」
「あ!私としたことが・・・おほほほ」
もう、姉妹でとりとめもないおかしな会話をしている。
「私って、地球には行けないのですか?」
「この星と地球を行き来できるのは、お父さまだけよ」
「あ!違うわ。翼が帰って来れば、翼が造った異次元空間移動装置で簡単に行き来できる様になる筈よ」
「あら、そうね。それがあったわ」
「では翼さまはこちらに来られるのですね?」
アネモネは、ぱぁっと明るい表情となった。
「来るのは可能かも知れないけど、グースベリー王城に来たら陽翔お兄さまと鉢合わせしてしまうじゃない!」
「王城で逢うことはないでしょう・・・どこか外で・・・」
「ちょっと、もう本気で翼とセックスすることを考えているわね?」
「あ!ごめんなさい・・・みんな、嫌よね?」
「うーん。千五百年前の記憶で言えば、嫌な訳はないわ。私たちは翼に平等に愛されていたのだから。でも、こちらの世界では、私たち三人は翼の妻で、アネモネには他の主人が居るのよ。それをどうぞセックスしてください。とは言い難いわね」
「それはそうですよね・・・」
「アネモネは陽翔お兄さまを裏切ることになるって気持ちは無いの?」
「ふたりとも愛しているもの・・・それを言ったら翼さまだって、複数の女性を同時に愛しているのだし・・・」
「た、確かに。それを言ってしまったら身も蓋もないわね・・・」
「これは・・・認めるしかないのかしら?」
「でも、アネモネ。もし翼の子を身籠ったら陽翔お兄さまに真実を話すの?」
「そうね・・・どうしましょう・・・」
「それは、よく考えておいた方が良いわね」
「でも、話すとすれば千五百年前の前世で自分の子だったということも話す必要があるわね」
「そうね。それは避けて通れない話でしょう」
「それだったら、陽翔お兄さまとの子ができる前に、話しておいた方が良いと思うわ。その前に翼と関係を持ったら、それこそ泥沼に陥ってしまうわ」
「璃月お姉さま。その通りですね・・・」
「璃月って・・・もう、混乱するわね・・・話すならこれからお父さまにグースベリー王城へ送ってもらう時に、お父さまに同席して頂いて話をした方が良いと思うわ」
「それは翼を愛していることも伝えるってこと?」
「当然ね。だって我慢できないのでしょう?」
「はい・・・きっと・・・」
「それだと、今の話をお父さまに話すってこと?」
「全てを話す必要はないでしょう?翼を愛しているという話だけで含まれるのではなくて?」
「え?望、普通は含まないわよ。結婚している訳じゃないのだし。ねぇ?結衣」
「そうね。それにお父さまはそういう話では察しが悪いかと・・・」
「あぁ!」
四人共に共感の声を上げた。
「では、話さないと駄目ね」
「え?私がおかしいってことを全てお父さまに話すのですか?」
「それが原因なのだから仕方がないわ。ね。新奈」
「そうね。それを話さないとお父さまのことだから「それならたまに翼がグースベリー王国へ行って顔を合わせたら良いよ」とか言い出すと思うわ」
「そうなるわよね。アネモネにとってもそれじゃ、駄目でしょう?」
「では、お父さまに打ち明けます」
「お父さまだけではなくて、全員に知ってもらうべきよ」
「全員に?」
「だって、私たちも関係しているのよ。そうなれば琴葉お母さま、桜お母さま、幸子お母さまは勿論、アネモネのお母さまの舞依お母さまと陽翔お兄さまのお母さまの陽菜お母さまもだし、翼のお母さまもでしょ?」
「そうね。どうせ横の繋がりで伝わるのだから、皆に知ってもらった方が良いわ。その方がどうしたら良いか良い案が出るかも知れないしね」
「そうですか・・・そうですね・・・」
アネモネは急に心配になったのか明らかに気落ちした。
「兎に角、サロンに行って話してしまいましょう」
「では、行くわよ」
「シュンッ!」
四人はサロンに飛ぶと侍女に席を外してもらった。
「お父さま、お母さま方、アネモネのことでお話があります」
「アネモネのこと?まさか・・・」
陽菜お母さまは、陽翔お兄さまとのことを心配したのか顔色が変わった。
「陽菜、落ち着いて!」
「あ。はい・・・月夜見さま・・・」
アネモネは明らかに顔色が悪い。少し俯きながらぽつぽつと話し始めた。
「あ、あの・・・私・・・少しおかしくて・・・」
「おかしい?前世を知って何か問題が起こったのかい?」
「はい。お父さま。私、前世で・・・セックスばかりしていたのです。その・・・翼さまとも・・・毎日・・・それだけでなく、巫女とも・・・」
「え?でも翼との子は二人だけだったのだよね?」
「えぇ、それは・・・子を身籠るとセックスができなくなるから・・・」
「えーっ!」
お母さま方が全員、驚きの声を上げた。
「昨日まではそんなことは無かったのです。でも先程、記憶を戻されてからは・・・」
「翼が恋しいと?」
瑞希が目をぱちくりさせながら聞き返した。
「はい。このままでは翼さまが戻ったら、私も翼さまもまた前世の続きの様に溺れてしまいそうです」
「そ、それって陽翔と別れたいってことなの?」
「アネモネ!」
陽菜と舞依が狼狽えている。
「それはないのです。陽翔さまは今まで通り愛しています。自分の子だった記憶による弊害はありません」
「あぁ、翼も愛してしまうから不倫になるという話かな?」
そこへ望が助け舟を出す様に助言した。
「お父さま。私たちもアネモネも前世の記憶があまりにも鮮明で、翼との人生が続いている様に感じてしまうのです。だからアネモネが翼を断ち切れないことは仕方がありません」
「なるほど」
「それよりも気になるのは、そうなることが分かっているのに、今世で翼と夫婦になっていないアネモネの記憶を戻した天照さまには、その先に必要なものが見えていらっしゃるのではないかと・・・」
「あぁ、そうか。そうだね。瑞希の記憶は戻さなかったのに、アネモネには陽翔が前世の子であることまで、わざわざ伝えていたね」
「月夜見さま・・・アネモネと翼に何か起こるのでしょうか?」
「瑞希、何もないとは思えないね・・・子を作ってその子が何かのお役目を担うとか?」
「陽翔はどうなるのですか?」
「陽菜。そうだね・・・こうなってしまうと、陽翔だけに事実を伝えないのも不自然だね」
「陽翔はこの事実を知っても大丈夫でしょうか?」
「陽翔はまだ若いから、万が一のことになってもやり直しはできるだろう」
「お父さま・・・申し訳ございません」
「アネモネが謝ることではないよ。これは神の一家の持つ、お役目とか宿命の様なものだろう。兎に角、これから陽翔のところへ皆で行こうか」
「はい」
『陽翔。聞こえるかい?』
『はい。お父さま』
『今からアネモネとそちらへ飛ぶよ』
『はい。お待ちしています』
「シュンッ!」
「うわっ!皆さん、お揃いで!どうされたのですか?」
「うん。陽翔に話さないといけないことがあってね。良いかな?」
月夜見は陽翔に娘たちから聞いた話を全て伝えた。陽翔は最後まで顔色を変えずに聞いていた。
「なるほど・・・これではっきりと分かりました」
「え?私のことをどう思っておいでだったのですか?」
「アネモネと結婚して初夜を迎えた晩、僕は夢を見たんだ。でもそれは夢ではなかったってことだね」
「どんな夢だったのですか?」
「僕が子供の頃の夢だ。子供の頃と言っても今の両親ではなくてね。お父さまは翼でお母さまは、葉留と同じ顔だったけど、アネモネだって気付いたんだ」
「それで、翼とアネモネは僕が居る時でも毎日、セックスしていたよ。巫女ともね。何でこんな変な夢を見るのだろうって思ったけど、そんな夢の話をアネモネに話すことはできないと思ってね」
「でも、それが本当の記憶で、アネモネが僕の母ならば納得がいくよ。僕は初めてアネモネと会った時から、可愛くて変な娘だと思ったけど、愛おしくて僕が守らなければならない人だと思ったんだ。それは母への愛だったんだね」
「あぁ・・・陽翔さま・・・」
アネモネはとめどなく涙を流している。
「陽翔、これからあなたはアネモネとのことをどうするのですか?いえ、どうしたいですか?」
「お母さま。どうするも何も今まで通りです。僕は母でもあるアネモネを・・・どこかおかしなところがある彼女を・・・愛おしく想う気持ちは変わりませんから」
「でも、陽翔・・・アネモネは翼のことを忘れられないのですよ?」
「えぇ、翼は偉大な人間で神です。その人が僕の前世の父だなんて、嬉しいことです」
「陽翔。翼が半年後に戻って来た後も、アネモネが翼との関係を望んだらどうする?」
「お父さま。アネモネはそれを抑えられないでしょうね。でも・・・なんでしょう?子供の時からずっと、毎日見せられてきたからか、不思議と嫌な感じはしませんね」
「え?翼とアネモネがセックスしても良いって言うの?」
「お母さまだって、九人の妻の一人じゃありませんか?その逆の関係なだけでしょう?」
「それはまぁ・・・だけど一般的ではない気もするけれど・・・それに重婚って感じになるわよね?」
「アネモネに一般的な話をしても合わないと思いますし、神星と地球で世界が違うのですから。アネモネには神星と地球に一人ずつ夫が居ると思えば良いのではありませんか?」
「陽翔さま・・・こんなおかしな私を許すとおっしゃるのですか?」
「そうだね。おかしなアネモネが好きだし、守りたいんだ」
「陽翔!」
アネモネは陽翔をきつく抱きしめた。
「それ、お母さんの目線でしょ?今、陽翔って言ったし・・・」
「あ。だって・・・」
「もう・・・可愛いな・・・」
「陽翔さま・・・」
「何だか心配は要らないみたいだね。皆、帰ろうか?」
「お父さま。ひとつ確認しておきたいことがございます」
「望。何だい?」
「翼が帰って来たら、翼に異次元空間移動装置で地球と神星を行き来することをお許しになりますか?」
「それは翼がアネモネに逢いに来ることを許すかということだね?陽翔、どうする?」
「勿論、いつでもアネモネの部屋へ来てくれて構いませんよ」
「望、新奈、結衣は良いのかい?」
「私たちにも止める権利はないと思っています」
「それならば自由にさせるよ。陽菜、舞依、瑞希。それで良いかな?」
「はい。子供たちがそれで良いと言うのであれば」
「分かった。では、私たちは帰ろう。陽翔、アネモネ。仲良くね」
「アネモネ。セックスは程々にして頂戴ね」
「お母さま・・・」
舞依に釘を刺される様なことを言われ、アネモネは困惑した。
「シュンッ!」
月の都へ戻って来た。
「瑞希、望、新奈、結衣。まずは翼の無事と居場所が分かって良かった。後のことは帰って来てから考えよう」
「はい。月夜見さま」
「では、今夜と明日は、私は瑞希のところへ行くからね」
「はい。行ってらっしゃいませ」
「望。翼の行き先が分かって良かったわ」
「はい。お母さま」
「新奈、あまり先のことは考えないでね」
「はい。お母さま。ありがとうございます」
「結衣。蓮をしっかり守ってね」
「はい。お母さま。大丈夫です」
「では、地球へ飛ぶよ」
「はい」
「シュンッ!」
「ふぅ・・・今日は色々あったね」
「はい。月夜見さま」
「今夜は夕食を早目にして、皆、早く休もうか」
「そうですね」
「望、新奈、結衣。ショックだっただろう?大丈夫かい?」
「はい。お父さま。あと半年も待たなければならないのですね」
「でも、何も分からないままよりは、ずっと良いです」
「そうね。それよりもアネモネのことの方がショックかしら・・・」
「君たちはアネモネを受け入れるのだね?」
「はい。姉妹ですから・・・」
「でも、あまり翼に執着する様なら怒りますけど」
「ふふっ。そうだね。皆で仲良くできると良いね」
「新奈。神代重工のプロジェクトは翼があと半年居なくても大丈夫なのかしら?」
「はい。お義母さま。低軌道エレベーターの建設が始まりますが、基礎プランは仕上がっていますから、私が会議に出るだけで大丈夫です」
「では、各々がやるべきことをして翼が戻るのを待ちましょう」
「はい。天照さまが何を仕組んでいるのかは分かりませんが、翼が帰って来ることが分かっただけでも良かったです」
「結衣。天照さまのされることに悪い事はないだろうから、気にしなくても良いよ」
「そうですね。お父さま。それは気にせず、翼の帰りを待ちます!」
瑞希は月夜見に抱かれ、心を落ち着けて眠りに落ちた。娘たちも半年振りに不安から解放され熟睡することができた様だ。
三人の娘は千五百年前の世界に行った翼と楽しい思い出を作っている夢を見た。
お読みいただきまして、ありがとうございました!