10.翼の行き先
ここは現代の日本。東京湾上空に浮かぶ月の都だ。
翼が行方不明となって半年が経った。
新奈が仕事から帰り、夕食の時間となった。だが空気は重く、誰も口を開かない。
蓮は元気だ。空中を飛び回り、皆に愛嬌を振り撒いている。その笑顔に皆はかろうじて救われていた。
「今日で丁度、半年ね・・・」
「そうね。もう半年経ってしまったのね・・・」
「翼は無事なのかしら?」
「それは無事に決まっているわ。きっと帰る手段が見つからないのよ」
「それって、こうして待っているだけでは駄目なのではないかしら?」
「望、ではどうしたら良いの?」
「新奈、それが分かれば苦労しないわ」
娘たちの不毛な議論を断ち切る様に瑞希が声を上げた。
「そうね。やっぱり天照さまを頼るしかないのではないかしら?」
「お義母さま。前に伺っても教えてくれなかったではありませんか」
「あの時はそうね。でも、あれから半年経っているのだから、状況は変わっていると思うの」
「そうね・・・聞いてみる価値はあるわね」
「明日、月夜見さまがいらっしゃるので、お願いしてみましょう」
「良かった。私、明日はオフなの」
「それなら私も学校サボるわ」
「望、大丈夫なの?」
「うん。明日は一限しかないから大丈夫」
「翼が居ない間も私たちは自分のやるべきことをしっかり進めていないといけないのよ」
「うん。結衣。分かっているわ」
「新奈も望も。そして結衣も頑張っているわ。大丈夫よ」
皆、何かに集中していないと気が抜けた瞬間に不安に陥り、泣き出してしまいそうになるのだ。互いに励まし合い、支え合って何とか時を過ごしていた。
翌日の午前中、月の都にお父さまが現れた。
「シュンッ!」
「月夜見さま。お待ちしていました」
「瑞希、元気だったかい?」
「はい。でも娘たちがそろそろ限界だと思うのです」
「もう半年経つのだものね」
「はい。それで半年が経ち、何か状況が変わってはいないかと・・・天照さまにご相談したらそろそろ何か教えて頂けるのではないかと・・・そう皆で話していたのです」
「そうか・・・皆もずっと耐えているのだからね・・・」
「今日は三人共ここに居るのですよ」
「うむ・・・天照さまにお伺いしてみようか・・・」
「はい。是非、お願い致します」
「では、直ぐに神星へ行こうか」
『望、新奈、結衣、蓮、葉留。神星へ行きますよ。準備して!』
『はい。お義母さま、直ぐに!』
五分もしないうちにサロンに皆が集まった。
「皆、もう半年経ってしまったね。辛かっただろう?」
「お父さま!」
結衣は涙を流して月夜見さまに縋りついた。
「結衣。可哀そうに・・・」
月夜見はそう呟いて結衣を抱きしめた。
「さぁ、神星へ飛ぶよ」
「はい!」
「シュンッ!」
神星の月の都へ飛んだ。サロンに皆で出現すると、お父さまの妻、八人が待ち受けていた。
「結衣!」
「お母さま!」
「新奈!大丈夫?」
「お母さま・・・まだ帰って来ないのです」
「望。大丈夫なの?」
「はい。何とか助け合っています」
幸子、桜、琴葉がそれぞれの子を気遣い、抱きしめた。
侍女たちがお茶を淹れてくれた。結衣たちは自分の母親の隣に座り、手を握り合って話していた。
そこへ庭から小白がゆっくりと入ってきた。その背中には、白い大きなフクロウが乗っていた。
「あ。天照さま。わざわざ来てくださったということは?」
『そうです。其方たちにお話しする時が来たということです』
小白はサロンの中央に寝そべり、フクロウ姿の天照さまはこちらに向き直って話した。
「え?では、翼のことを天照さまは何かご存じなのですか?」
『知っているも何も、翼を行かせたのはこの私なのですから・・・』
「え?天照さまが!」
「では、翼は無事なのですね?」
「えぇ、勿論、無事ですよ」
琴葉や幸子が矢継ぎ早に天照さまに畳み掛ける。娘のために必死の形相だ。
「翼はどこに居るのですか?」
『それは、ここではお話しできません。私の月の都へ行きましょう』
「天照さまの月の都へ?ここでは話せないのですか?」
『其方たちは他人の意識に入って情報を得ることを知ってしまいました。この会話を誰が聞いているか分からないのですよ』
「人の意識に入ってはいけないのですか?」
葉留はキョトンとした顔で聞き返した。
『其方は、普段から他人の中を見過ぎています。少し、自重なさい』
「す、すみません・・・」
天照さまに叱責され、珍しく葉留がしゅんとしている。
「あぁ、天照さまの月の都とアルカディアへは念話が通じないのでしたね」
『えぇ、私の月の都へは外から意識を繋ぐことも念話も透視もできません』
「その天照さまの月の都に私たちが行っても良いのですか?」
『秘密保持のためです。私が其方たちを私のサロンへと転移させます。その部屋の中以外は見せませんけれど』
「今すぐに行くのですか?」
『そうですね・・・羽月を呼んでください』
「羽月?・・・あ。アネモネのことですか?」
『そうです。それと葉留。あなたは連れて行けません。ここに残ってください』
「えーっ!私は行けないのですか!?」
『ここで蓮のお守りをしていなさい』
「は、はい・・・」
葉留は真っ赤な顔をして我慢している。
「天照さま。アネモネだけを呼ぶのですか?夫の陽翔は呼ばない方が良いのでしょうか?」
『えぇ、羽月だけを呼んでください』
「では迎えに行って参りますので、しばらくお待ちください」
『陽翔、聞こえるかい?』
『あ!お父さま!どうされたのですか?』
『今、そちらへ行くよ。今、どこに居るのかな?』
『ではサロンでお待ちしています』
「シュンッ!」
お父さまはグースベリー王城のサロンへ飛んだ。
「お父さま。お久しぶりです」
「お義父さま。ご無沙汰致しております」
アネモネはピンク色のお姫さま然としたドレスを着て美しい所作で挨拶した。ストロベリーブロンドの美しく長い髪が印象的だ。アネモネは月夜見さまを目の前にしても至って冷静だった。とても大人びて見える。
「陽翔、アネモネ。久しぶりだね。半年前から翼が居なくなっていることは知っているね?」
「はい。勿論です。見つかったのですか?」
「それをこれから天照さまにお伺いするのだけど、アネモネを連れて来て欲しいと言われたんだ」
「天照さまにですか?」
「そうなんだ。アネモネというより羽月を、と言われたんだ。アネモネは遠い前世で僕たちの娘だったからね。何か今回のことも関係があるのかも知れないね」
「アネモネだけですか?どこへ行くのですか?」
「うん。アネモネだけ来て欲しいんだ。天照さまの月の都だよ」
「天照さまの月の都?」
「そうだよ」
「分りました。アネモネ、一人で大丈夫かい?」
「お父さまもお母さまも一緒なのですから大丈夫です」
「うん。では、気をつけて行ってくるのだよ」
「陽翔、終わったら私が連れ帰るから心配は要らないよ」
「はい。お父さま。アネモネをお願いします」
「では、陽翔さま。行って参ります」
「アネモネ、気をつけて。待っているよ」
「では陽翔、また後で話そう」
「シュンッ!」
月の都のサロンへ到着した。
「あ!璃月お姉さま、月花に月代も・・・お久しぶり!」
「羽月・・・って、あなた、今はアネモネでしょう?」
「あ。望お姉さま。私、お姉さまたちを見ると、何故か昔の姿が浮かんでしまうの」
『さぁ、では行きますよ』
「あ!天照さま!お願いします」
「シュンッ!」
お父さまと九人のお母さま、望、新奈、結衣とアネモネの十四人は、天照さまの住まう月の都にある、天照さまのサロンへと転移した。
天照さまのサロンは自分たちの月の都のサロンと特に変わったところはなかった。拍子抜けして、きょろきょろと見渡していると、ソファーに座る様に促された。
どう見ても日本人の若い巫女姿の娘たちが、お茶を振る舞ってくれた。そして天照さまはフクロウのままだ。本当の姿は見せてはくれない様だ。
『そろそろ真実を話す時が来た様です』
「真実?」
お母さまが怪訝な顔をして呟く様に言った。
『月夜見。其方、この神星にオービタルリングと低軌道エレベーター、それに地磁気を発生させる装置が千五百年前からあると知って不思議には思わなかったのですか?』
「え?・・・あ!そうですね。そんな昔にその様なものがあるのはおかしいですね。確かイノベーターの技術が飛躍的に発展したのもここ二百年位とおっしゃっていましたね」
『えぇ、その状況で千五百年前にそれらがある訳がないのです』
「では、どうやって?」
『翼が創り出した異次元空間移動装置で過去へ送り、イノベーター達が設置して、人が住める環境を整えた上で、私たちが地球から転移して暮らし始めたのです』
「では、イノベーターが創り出したものではなかったのですか?」
『そうです。翼が創ったのです』
「どうしてそれを翼が?」
『私がそうなる様に仕向けたからです』
「では、あの天才的なもの作りの才能は、天照さまが与えたものなのですか?」
『そうですね。ただ、私は少しだけ操作したに過ぎません。能力は月夜見と瑞希、そして璃月が与えたのです』
「瑞希が?瑞希にその様な能力があるのですか?」
『瑞希は私が生み出した人間ですからね』
「え?天照さまが私を生んだのですか?では、アルカディアの両親は?」
『その母親が子を産む瞬間に瑞希と入れ替えたのです。その時の子は、ここで私の侍女になっていますよ』
「わ、私は・・・天照さまの子・・・だから両親と合わなかったのですね・・・」
「瑞希!大丈夫?しっかり!」
瑞希は頭が回らなくなったのかボーっとしてしまっている。月夜見さまが隣から抱きかかえる様に支えた。
「やっぱり、私も影響を与えていたのですね・・・」
『璃月、其方にはセックスした相手の脳を活性化させる力を与えたのですよ』
「それで、翼は異次元空間移動装置を創り出すことができたのですね?」
『そうです』
「それで、その装置で翼はどこへ行っているのですか?」
『では、それを教えましょう』
フクロウはバサッと一度大きく羽ばたくと、ふわっと空中に浮かび、そこから滑空する様に飛んで、望、新奈、結衣、アネモネの頭に次々と翼で触れていった。
すると四人は頭を抱え、混乱する様にうめき声をあげた。
「あ、あぁ・・・」
「うぅ、あ・・・」
「な、なに・・・これ・・・」
「頭に・・・映像が流れてくる・・・」
「あ!こ、これは・・・千五百年前の私・・・」
「あ!あれは、お父さま・・・お母さまのお顔が・・・」
「わ、私・・・あ、お、思い出したわ・・・」
「あ!翼!」
四人はそれぞれ、頭に浮かぶ映像を見て、混乱しながらも徐々に記憶と繋がってくる。
そして、十分程度で落ち着きを取り戻した。
「お父さま・・・お母さま・・・」
「望、どうしたの?何か分かったの?」
「あ、あの・・・月夜見さまと天満月お母さまは、今のお父さまとお母さまと同じお顔です。でもそれ以外の七人のお母さま方のお顔は全て、今の瑞希お母さまと同じお顔です」
「え?私の顔?」
『それはそうです。月夜見と天満月は、千五百年に一度、私の身体を生むお役目のために、同じ顔になるのです。前に言いましたね。そしてそれ以外に私が子を産むと今の瑞希の顔になるのです』
「だから、七人とも同じ顔なのですね・・・」
「そして私の顔は、月葉お姉さまと同じ顔、そして他の娘は皆、葉留ちゃんと同じ顔。弟たちは翼と同じ顔です」
「あぁ、私と瑞希の顔と同じだからか・・・」
「そして、私が十七歳の時に翼が未来から船に乗って現れました」
「え?翼は千五百年前に行っているの?」
「はい。そこで私たちと一年間暮らしました」
「一年!どうしてそんなに長く?」
「船の電気が無くなって帰れなくなったのです。そして充電器が届いたのが一年後だったのです」
「その充電器は誰がどうやって送ったのですか?」
「それは分かりません。突然、充電器が現れたのです。そしてそれで船に充電し、翼は帰って行ったのです」
「天照さま。おかしいではありませんか!翼が帰って来て、その後にその装置でオービタルリングを送ったのですよね?それならば、もっと早く充電器を翼の元へ届けられる筈ではありませんか!」
『えぇ、そうです。ですが、翼にはもうひとつお役目があるのですよ』
天照さまは、望を見つめて頷いた。望に話せと促したのだ。
「はい。翼は私たちと巫女たちに子を授け、言葉を教え、味噌や醤油の作り方を教えてくれました」
「え?その一年間はお役目でそこへ留まるのですか?」
『そうです。この神星の始祖の民は、月夜見と其方たち妻の子と翼が成した子たちで形成されているのです。そして翼がその始祖の民たちに現代の日本語を教えたから、この星の言語は全て現代の日本語となったのです』
「翼がこの星の民を作った・・・」
「本当なのですか?」
『えぇ、アスチルベ王国の味噌と醤油の工場も翼が作ったものが受け継がれているのです。月光照國の月宮殿の料理が和食なのも、翼が書いたレシピが受け継がれているからなのですよ。今度、調理場へ行って見て御覧なさい。翼が書いたレシピが残っている筈です』
「そ、そんなことって・・・」
皆、驚き過ぎて言葉が出なくなってしまい、皆、それぞれに何かを思い出そうとしている。
「私、翼との子を授かったわ」
「私もよ。翼とのことは全て鮮明に思い出したわ・・・素敵な思い出だった」
「本当ね。私たちにとって翼は救世主だった。そして外の世界を教えてくれて、進むべき道を示してくれたわ」
望、新奈、結衣はそれぞれに翼との思い出を噛みしめ、幸せそうに微笑んだ。
だが、アネモネだけは、真っ赤な顔をして両腕を胸で交差させ、自分の肩を抱きしめる様にしてうずくまったまま黙っていた。
『翼には到着した際に、一年後に戻れること、お役目を受けて欲しいこと、三人の妻たちはここでの記憶を取り戻し、翼の居場所を思い出すことを告げていたのです』
「あぁ、だから翼は私たち姉妹を公平に扱い、それぞれに素敵な思い出を残してくれたのね・・・」
「そうだわ。翼は今の私たちと千五百年前の私たちを同一人物として扱ってくれたのよ。本当に素敵な思い出ばかり・・・子供たちも素晴らしい子に育ったもの」
「あぁ・・・でも、これでは翼にすぐに帰って来てとは言えないわ・・・」
「そうね。私たちのために一年間、尽くしてくれたのですもの・・・」
「それにこの星の人口増加の手助けをしてくれたのです。文化の発展も・・・」
「ねぇ・・・光月は誰に転生しているのかしら?」
『それは、光月ですから・・・そこに居るではありませんか』
皆、一斉に瑞希お母さまを見た。
「え?私?」
「えーっ!そんな・・・」
皆が驚いている中、アネモネだけは冷静だった。
「私は・・・分かっていました・・・でもそれは言ってはいけないかなと思って・・・」
「アネモネ。そうね。あなたは私たちのこともすぐに姉妹だと分かっていたわね」
「えぇ、だって、私たちは皆、翼さまの子を産んでいるのですから・・・」
「わ、私が・・・翼の子を・・・産んだの?」
瑞希お母さまは真っ青な顔になってお父さまの腕の中で震え出した。
『瑞希。其方を混乱させたくないので、其方の記憶は戻していないのです。翼は翼のままですが、千五百年前の其方は、今の其方とは身体も心も違う人間なのですよ』
『翼も光月が、其方だとは知らないのです』
「そ、そう・・・ですね」
『人間は心や性格が近しい者同士の魂が惹きつけ合って家族になることが多いのです。生まれ変わってもまた家族になることは多くあり、その際、再び夫婦になることもあれば、次は親子や兄弟に生まれ変わることもあるのです。普通は前世の記憶などありませんから、問題にならないだけなのです』
「あぁ、そうですね。望、新奈や結衣はまた、夫婦になれたから記憶が戻っても問題ないのですね」
「でも、アネモネは?今世で翼と夫婦にはなっていないけれど・・・大丈夫?」
「そうね、お姉さまは随分と翼に入れ込んでいたものね」
望と新奈にそう言われ、アネモネは明らかに動揺していた。
「えぇ、私は・・・翼さまを・・・心から・・・心から愛しておりました・・・」
アネモネはぽろぽろと涙を零し、小さな肩を震わせていた。
「アネモネ・・・記憶が戻ってしまって大丈夫かい?辛いだろう?」
「お父さま。わ、私は大丈夫です。陽翔さまを・・・翼さまと同じくらい愛しておりますから」
そう言いながらもアネモネの涙は止まらず、表情は憂いに満ちていた。前世の母、三日月であった舞依がアネモネに寄り添い支えた。
『羽月。他の娘もそうですが、今回は千五百年前の記憶だけを戻しました。月夜見たちはすぐ前の記憶だけに留めています。それは混乱を最小限にしたかったからです』
「だから千五百年分の全ての記憶が戻っていないのですね」
『そうです。そして羽月。其方の今の主人は千五百年前の息子です』
「え?陽翔さまが月翔の生まれ変わり?・・・あぁ!だから陽翔さまに出会った瞬間に何かを感じて、結婚すると思ってしまったのね・・・」
『そうです。千五百年前の息子と知ってどうですか?別れますか?』
「いいえ。陽翔さまは愛しいお方です。別れたりはしません」
『それで良いのです』
その場の空気が微妙な感じになってしまった。皆、アネモネに気を遣っている。
「天照さま。それで翼へどうやって充電器を届けるのですか?」
『それは半年後に伝えます。充電器はイノベーターに造らせます。それと月夜見、琴葉。二人には頼みがあります』
「私と琴葉に?何でしょうか?」
『今から三か月後に私の生まれ変わりを授かってください』
「え?千五百年に一度ではなかったのですか?」
『まだ、分からないのですか?』
「え?」
お父さまは何も気付かない様だ。すると琴葉お母さまが、ハッと何かに気付いた。
「あぁ!そうなのですね!道理で!」
「琴葉、何か分かったの?」
「月夜見さま。天照さまは未来が分かっているのでは?って、よく話していたではありませんか!」
「あぁ!そうか!そういうことか!天照さまは翼のタイムマシンで千五百年前に飛んだから、これまでのことを全て前もって知っていたのですね?」
『そういうことです。そしてこの時代の私が居なくなってしまうので、二人には私を産んで欲しいのです』
「では、三か月後ということは、七か月で生まれるから、十か月後に天照さまは千五百年前の世界へ行くのですね?」
『そうです』
「むむ。では次に生まれる天照さまは、未来のことは分からなくなるのですね?」
『いいえ。翼が作ったタイムマシンがありますから分かりますよ』
「え?でもそれなら翼だって未来へ飛べますよね?」
『いいえ。翼には未来へは行かせません』
「まぁ、その方が良いですね。普通の人間が未来など知らない方が良いのです」
『でも、翼には過去には行くことを許します』
「え?過去へ?」
「お父さま。翼は一年で現代へ帰ってしまうのですが、その後も定期的に千五百年前の世界へ来てくれたのです」
「え?では君たちを置き去りにした訳ではなかったのだね?」
「えぇ、お父さまが瑞希お母さまに逢いに来る様に、翼も私たちに逢いに来てくれたのです」
「ねぇ、ちょっと。翼って、あなた達と何人子を作ったの?」
「私は四人産みました」
「私も四人です」
「私も!」
「・・・」
「アネモネは?」
「私は・・・月翔と娘の夕月の二人だけです」
「二人だけ?アネモネだけ?何故?」
「それは・・・言えません・・・」
アネモネの顔は悲痛な顔になっていた。誰もそれ以上、突っ込むことができなかった。
「あ、あの・・・それで・・・私は?」
「光月も四人産みましたよ」
「私が四人!翼の子を・・・」
「瑞希!君とは関係ないんだよ。気にしてはいけないよ。翼は光月が誰に生まれ変わっているか知らないのですよね?」
『えぇ、知りません。私は教えていませんから』
天照さまは冷静に答えた。望たちは少し気まずそうにしている。
「私たちも翼には光月が誰に転生したかは知らないと言っておきます」
「そうね。そうしましょう」
「でも、瑞希お母さま。光月は私たちと同様に、本当に幸せな人生を過ごしたのですよ」
「そう・・・それならば良かったわ」
瑞希お母さまはぎこちない笑顔を作り、何とか正気を保っているという感じだった。
『さぁ、今日はこのくらいにしておきましょう・・・では月の都へお戻りなさい』
「シュンッ!」
本当に驚くことばかり聞かされたが、翼の無事と居場所は判明した。
お読みいただきまして、ありがとうございました!