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1.消えた翼

 翼が居なくなった研究室へ結衣がひとり現れた。


「シュンッ!」


「・・・あら?翼?・・・誰も居ないわ・・・あ。船が無い!」


「どこかに行ったのかしら?・・・まさか・・・タイムマシンが完成してどこかへ行ったってこと?」

 結衣の表情は見る見るうちに曇っていった。


「え?でも完成したなら、まずは私たちにそれを伝えるはずよね?」


「あ。馬鹿ね。翼に呼び掛けて聞けば良いんだわ」

 結衣はそれに気付いてひとり微笑んだ。


『翼!翼!聞こえる?』

『・・・』


『あら?聞こえないの?どこに居るの?翼!』

『・・・』

『翼・・・どうしよう!念話も通じない・・・ホントに?翼!翼!』


「あぁ・・・翼・・・どこへ行っちゃったの?翼・・・」

 結衣はつぶやきながら、そこにポツンと置いてあったパイプ椅子に座って呆然とした。


 結衣は口をきつく結び真剣な表情のまま、しばらく考え込んでいたが、やがて何かを思い立ち重い腰を上げた。


『お義母さま!聞こえますか?』

『結衣?どうしたの?』

『翼が・・・翼が居なくなってしまったのです』

『翼が?どういうこと?』


『お義母さま。神代重工の翼の研究室へ来てください』

『分かったわ。蓮はお母さんとエリーに任せるわね』


「シュンッ!」

「結衣。どういうことなの?」

「お義母さま。見てください。ここにあったタイムマシンごと翼が居なくなっていたのです。念話で呼びかけても応えないのです」

「念話が通じない?そんなこと・・・」


『翼!聞こえる?翼!』

『・・・』


「本当だわ。呼び掛けても応答が無いわね・・・では翼の意識に入ってみましょう」

「・・・」

 お義母さまは目を閉じたまま、眉間にしわを寄せている。

「お義母さま。如何ですか?」

「おかしいわね。意識に入れないわ・・・こんなことってあるのかしら?」


「新奈と望も呼んでみましょう」

『新奈!望!翼が大変なの!研究室に来てもらえないかしら?』

『結衣。翼が大変?すぐに飛ぶわ』

『結衣。何があったの?今、行くわね』


「シュンッ!」

「シュンッ!」


「結衣!どうしたの?」

「何があったの?」

 新奈は何か企業のCMの撮影だったのだろう、へんてこな衣装を着ていた。望は大学に居たのかリュックを背負って飛んで来た。


「新奈、望・・・翼が居なくなってしまったの」

「翼が居なくなった?どういうことなの?」

「タイムマシンが完成したのかも知れないのだけど、そのタイムマシンごと消えてしまったの」

「あぁ、それならそのタイムマシンの試験をしているのでは?すぐに帰って来るんじゃない?」


「新奈・・・そうね。それなら良いのだけど・・・でも、念話も通じないし、意識にも入れないの」

「それって・・・もしかして過去とか未来とかに行っているってことかしら?異次元に行ったとしても神星ならば念話は繋がるものね」

「あ!そうね。神星なら念話は繋がるし、意識にも入れるわね。では、過去か未来へ行ったってことなのね・・・」


「でも、どうして私たちに何も言わずに飛んだのかしら?」

「そうなの。それが分からないのよね」

「きっと、完成して嬉しくて、すぐに試してみたくなったのよ!」

「そうかも知れないわね・・・」

「すぐに帰ってくると良いのだけど・・・」


 皆、笑顔になったり、心配顔になったり忙しかった。その時、お義母さまが重い口を開いた。


「月夜見さまを呼びましょう・・・」

「そうですね。お父さまなら何か分かるかも知れませんね」

「あ。葉留ちゃんも呼んだ方が良いのでは?」

「そうね。呼んでおきましょう」


『葉留』

『なーに?お母さま』

『緊急なの。今、時間あるかしら?』

『えぇ、構わないけど・・・』

『では、すぐに来て頂戴。転移させるわよ』

『え?何かあったの?』


「シュンッ!」

「お母さま!あ!お姉さま達も・・・どうしたのですか?」

 葉留は高校に居たのか、制服姿のままカバンを持って飛んで来た。


「葉留、翼がタイムマシンを完成させたらしいの。装置ごと居なくなってしまったのよ。念話も通じないの」

「え?念話も?」

 葉留は顔面蒼白になった。その顔を見て、結衣たち三人は更に心配になっていった。

「今、お父さまも呼ぶわ」


『月夜見さま!月夜見さま!』

『瑞希かい?慌ててどうしたの?』

『翼が・・・翼が居なくなってしまったのです!』

『居なくなった?どういうこと?』


『どうやら、異次元空間移動装置が完成した様なのです。その装置ごと居なくなっていて、念話も通じないのです』

『分かった。今、神代重工の研究室に居るのだね?すぐに行くよ』

『はい。そうです。お待ちしています』


「シュンッ!」

「月夜見さま・・・」

 お父さんはお義母さまの肩を抱いて優しく声を掛けた。


「瑞希、落ち着いて。皆も心配だろうけれど、翼のことだからきっと大丈夫だよ。恐らくすぐに帰って来るのではないかな?」

「えぇ、そうだと良いのですが・・・」


「月夜見さま。念話が通じず意識も繋がらないということは、神星へ飛んだのではなく、地球上で過去か未来へ行ったのでしょうか?」

「うーん。僕は科学者ではないからな・・・でもそうだね・・・異次元である神星と地球の間では、時間は同時に流れていて念話も通じる。それが通じないということは、やはり、時間軸が違うからということになるのかな?」


「天照さまに聞いてみようか?」

「そうですね。天照さまならご存じかも知れませんね」


「シュンッ!」

 お父さまは、クララを転移させた。


「クララ、天照さまに伺いたいことがあるんだ。繋いでくれるかな?」

「かしこまりました。少々、お待ちください」

「・・・」

「月夜見さま。お呼びしましたが、お出になりません」

「天照さまもか・・・」


 これには皆、黙り込んでしまった。研究室には重い空気が流れた。


「そうだな・・・一度、神星から呼び掛けてみようか・・・結衣、蓮は?」

「はい。お父さま。蓮は月の都で、お婆さまとエリーが見てくれています」

「そうか。では月の都へ寄って、蓮も連れて行こう」


「シュンッ!」

 お父さまは全員を連れて一度月の都へ飛び、蓮を私が抱くと神星の月の都へ飛んだ。


「結衣!蓮!」

「お母さま!」

 幸子お母さまが駆け寄り、結衣を抱きしめた。どうやら何かあったのだと察知したお母さま方は、お父さまの意識に入って私たちを見ていた様だ。蓮は私の腕から逃れ、サロンの中を飛び始めた。


「新奈!大丈夫?」

「えぇ、お母さま。翼のことだから何でもない顔をして帰って来ると思うのですが・・・」

 桜お母さまも新奈を抱きしめて心配そうな顔になっていた。


「ところで、新奈。そのへんてこりんな格好は何なのかしら?」

「あ!お母さま、これはコマーシャルの撮影をしていたのです」

「え?抜けて来てしまったの?大丈夫?」

「あぁ、それなら丁度、撮影が終わったところだったから大丈夫です。この衣装は後で送り返しておきますから」


「望・・・大丈夫よ。心配しないで・・・」

 琴葉お母さまが望を包み込むように抱きしめた。

「お母さま・・・私・・・どうしましょう」

 望は涙をこぼしている。


「望。どうしたの?何かあったの?」

「私、あの装置を完成させる手助けをしてしまったのです。それがこんなことになるなんて・・・」


「望。そうだとしても・・・翼はあなたに感謝していると思うわ。あなたのせいなんてことはないわ」

「そうよ、望。翼は装置が完成できるのは望のお陰だって、望にとても感謝していたわ」

「結衣・・・そうなの?」

「えぇ、本当に嬉しそうだったわ・・・」


「月夜見さま。翼がどこへ行ったのかは分からないのですか?」

「うん。念話や意識が繋がらないことから考えると、この世界ではない様なんだ」

「では、地球の過去か未来である可能性が高いのですね?」

「そうだと思うよ」


「でも、何故、誰にも何も言わずに行ってしまったのでしょうか?」

「そうだね。翼ならまずは完成したことを伝えると思うし、天照さまに見てもらうのではないかと思うんだ」

「天照さまにも言っていないのでしょうか?」

「天照さまに聞きたいのだけど、応えてくれないんだよ」


「そう言えば、昨日からフクロウを見ませんね」

「そうなんだ。だからクララに言って呼び掛けてもらったのだけど、応答が無いんだ」

「それって・・・天照さまが関わっているってことは?」

「うーん。分からないね。そうかも知れないし関係ないかも知れない」


「では今、私たちができることはないのですね?」

「そうだね。翼の帰りを待つしかないね」

「この神星の世界で呼び掛けてみて通じないのであれば、待つしかありませんね」


『つばさーっ!返事して!』

『つばさーっ!どこに居るの?』

『つばさ!早く帰って来て!』

『・・・』


「あぁ・・・返事が無いわ・・・」

「本当にどこに行ったのかしら?」

「蓮!あなた・・・分からないわよね・・・」

「おかあたま!」


 サロンを飛び回った後、幸子お母さまに抱かれていた蓮は、結衣のところへ戻るとその胸に抱かれ、幸せそうに無邪気に笑った。


「やはり、待つしかないのかしら・・・」

「瑞希、こちらでは天照さまに呼び掛け続けるし、翼の兄弟や私の兄弟たちにも翼への呼び掛けをしてもらうよ」

「はい。お願いします」


「結衣、必ず翼は帰って来るわ。信じて待つのよ」

「はい。お母さま」


「新奈。あなたにはやらなければならないことがあるはず。それをしっかりやっていれば翼は帰って来るわ」

「はい。そうですね・・・お母さま」


「望、あなたのせいではないわ。それは確かよ。あなたも新奈と同様に自分のやるべきことをしっかりやるのよ。翼が帰って来た時に恥ずかしくない様にね」

「はい。お母さま。そう致します」


「では、地球へ送るよ」

「はい。お願いします」

「シュンッ!」


「月夜見さま。大丈夫でしょうか?」

「うーん。そうだね・・・でも、翼だからね。あの子が大きな失敗をするとは思えないな」

「そうですね。でも、ちょっと出来過ぎるとは思いませんでしたか?」

「それは・・・確かにそうだね」


「瑞希の子だからかな?葉留も力は弱いけれど、何か出来が違う感じがするね」

「えぇ、とてもそう思うのです。やはり瑞希に何かあるのではと考えてしまいます」

「琴葉がそう感じるのであれば、何かあるのではと思えてくるね」

「いずれにしても、無事に戻ってくれると良いのですが・・・」

「そうだね」




 その夜、結衣の部屋に三人が集まっていた。

蓮を寝かしつけてから結衣のベッドに三人で一緒に入り、結衣を真ん中にして川の字になって手を握りあった。


「結衣。大丈夫?」

「大丈夫な訳がないわ・・・でも、私はしっかりしないと・・・蓮が居るのだから」

「そうね。母はしっかりしないと・・・なのね」

「心配なのは望の方よ。大丈夫?」


「う、う、うぅ・・・わ、わたし・・・私・・・」

 望は大粒の涙をこぼした。

「泣かないで、望・・・私も泣きたくなってしまうわ・・・」

 結衣は必至で涙をこらえている。


「そうよ。望。まだ帰って来ないと決まった訳ではないのだから・・・」

 新奈は必死に元気を保とうとしていた。

「どこへ行ったのかは分からないけど、行った先で面白いことがあって、数日掛かるのかも知れないでしょ?」

「それなら良いのだけど・・・」


 望は不安そうな顔で力なくつぶやいた。そしてすぐに悪い方向へ落ちていく。


「行った先でタイムマシンが壊れて帰れない・・・なんてことは?」

「望!縁起でもないこと言わないで!」

「そうよ。それは言っては駄目!」

「ごめんなさい・・・不安で不安で・・・」


 望は涙が止まらなくなっている。結衣は望に振り返り、望を抱きしめた。

「そうね。不安になるのは仕方がないわ。今夜はね・・・」


 新奈は結衣の背中に抱きつき、三人は身体を寄せ合って不安に耐えていた。


「翼って、研究に没頭すると周りが見えなくなるわよね」

「そうね。もの作りのことばかり考えていたもの」

「今日もタイムマシンが完成して嬉しくて、試験をすることに夢中になってしまったのではないかしら?」

「きっとそうよ。それで、少し遠いところへ行ったのではないかしら?」


「もしかして、過去とか未来へ飛ぶのって時間が掛かるのかも知れないわよね?」

「あぁ、なるほど!瞬間移動とは違うのかも!」

「きっとそうよ。片道だけでも数日掛かるのかも知れないわ」

「えぇ。そう思ってのんびり構えていましょう」

「そうね・・・」


「ちょっと、望。折角、良い方向に考えているんだから、そこは同調してよね?」

「あ。ごめん・・・そうよね。きっと大丈夫ね」

「ねぇ新奈、今日の仕事は大丈夫だったの?途中じゃなかったの?」

「うん。挨拶もできずに飛んで来ちゃったけど、撮影は終わっていたから大丈夫。さっき、マネージャーには確認しておいたわ」


「望は?学校に居たのよね?」

「私は講義ひとつサボってしまったわね。でも大丈夫よ。美樹に聞くから」

「葉留ちゃん、珍しく黙り込んでいたわね。相当ショックだったのかしら・・・」

「そうね。二人きりの兄弟だものね」


「翼が言っていたの。神星の他の兄弟は皆、四人兄弟なのだけど、僕らだけ二人兄弟で、その上、僕が研究ばかりしていたから葉留にはとても寂しい思いをさせていたんだって」

「あ。そうか。葉留ちゃんにとってはたった一人の兄弟なのね・・・」

「それはショックよね。私たちと同じなのよ」


「私たちは三人で支え合うことができるのだから、もっとしっかりしないと!」

「そうね・・・そうだわ!」

「望も大丈夫そうね?」

「えぇ、もう大丈夫。結衣、新奈、ありがとう。私、今も前世でも年上なのに・・・ごめんなさい」


「いいのよ。これから支え合っていきましょう」

「うん」

「分かったわ」

 そして三人は、明け方になってようやく眠りについたのだった。




 翌朝、何とか平静を装った家族は静かに朝食を頂いていた。

「結衣、新奈。翼の神代重工での会議の予定はどうなっているか分かる?」

「えぇ、お義母さま。プロジェクトは一年後に予定されている低軌道エレベーターの建設開始までは全て計画通りに進んでいるので、週に一度の定期報告会だけです」


「基本的にはプロジェクトの進捗報告を聞くだけなので、私が代理で出席します」

「そう。結衣が出てくれるのね?それで翼のことはどう説明するの?」

「一応、体調不良と伝えておきます」

「そうね。それが良いわね」


「結衣は会議の内容は分かるのね?」

「はい。いつも後ろで聞いていましたし、会議の資料は私が作る方が多かったので、内容は全て把握しています」

「技術的な質問が出た時は対処できるの?」

「はい。翼が資料を全てパソコンにまとめてくれていますから、私でもできます」


「流石ね。では結衣、お願いね。蓮の面倒なら私とお母さんとエリーで見るから」

「はい。ありがとうございます」

「結衣。他人行儀ね。お礼なんて言わないで。蓮の面倒を見るのは私たちの楽しみでもあるのですからね」

「はい。お義母さま」


「ねぇ、榊君と神宮寺君には誰が伝える?」

「神宮寺君は美樹と一緒に今日、学校で話すわ」

「榊君は私と同じ講義があるから、私が話しておくわ」

「そう、お願いね。表向きは体調不良ということになっていると伝えてね」

「分かったわ」


「でも、お父さまには私から言っておくわね。会議に結衣が出ることも」

「新奈、そうしてくれると助かるわ」

「私もお父さまには伝えておくわ」

「望、もう大丈夫なのね」

「えぇ、結衣、新奈。ありがとう。昨夜、色々話せたから落ち着いたわ」


「それなら良かったわ」

「結衣。あなた強くなったわね。お母さんになったから、かしらね?」

「はい。お義母さま。蓮のためにも泣いてばかりは居られませんから」

「そうね。私もそうでなければならないわね。結衣を見習うわ」




 望は大学に着くなり、美樹と巧を呼び出した。

三人は人通りのない通路の脇で、顔を寄せ合ってひそひそと話をした。


「望、何かあったの?顔色が悪いわ」

「それが・・・翼が行方不明なの・・・」

「え?翼君が?」

「翼が?どういうことですか!」


「これは極秘よ。翼は異次元空間移動装置を完成させたらしいの。そしてその装置ごと研究室から消えてしまったの」

「えーっ!嘘でしょう?異次元空間移動装置?そんなものを完成させたというのですか?」

「前々から研究を続けていたのよ。昨日、どうやら完成したらしいの」

「え?でも翼君とは、どこに居ても念話で話せるのではなかったの?」


「えぇ、同じ時間軸に居るならば、神星の世界でも念話は通じるわ。でも通じないの。そうなると時間軸が異なる過去か未来へ飛んだ可能性があるのよ」

「翼は飛ぶ前に、どこへ行くかを誰かに言っていなかったのですか?」

 美樹先輩も巧も顔が青くなっている。


「そうなの。だから皆、それが不思議なの。黙って行くなんて・・・」

「あぁ、でも完成した嬉しさで、すぐに試験飛行したかったのかもな!」

「うん。それではないかって、皆で話しているわ」

「全く・・・人騒がせな奴だな。いつも人を驚かせてばかり・・・」

「そうね・・・そうだったわね・・・」


「あいつは真の科学者ではないな。慎重さが足りないんだ・・・」

 巧は悔しそうな顔で吐き出す様につぶやいた。

「望。あなた、大丈夫なの?」

「大丈夫な訳、ないじゃない・・・」

「そうね・・・でも望、あなたは一人じゃないわ。結衣や新奈も居るじゃない!」

「えぇ、そうね。昨夜も三人一緒に寝ながら励まし合ったの。何とか頑張るわ」


「そうよ。私たちだって力になるわ。何でも言ってね」

「えぇ、ありがとう。美樹」

「科学者で力になれることがあれば何でも言ってください!」

「ありがとう。巧君」




 廊下の片隅で新奈は徹を捕まえた。

「榊君、ちょっといいかしら?」

「どうした?何かあったのか?」

「それが・・・翼が居なくなってしまったの・・・」

「翼が?それはどういうことだい?」


「翼は極秘に研究していた異次元空間移動装置を完成させたらしいのよ。その装置と共に研究室から消えてしまったの」

「消えた?異次元に飛んだってこと?」

「そうね。異次元か、または地球上の過去か未来へ飛んだのかも知れない」


「連絡がつかないってこと?」

「そうなの。神星の様な同じ時間軸ならば異世界でも念話は通じるわ。でも過去や未来の様に時間軸が異なると念話は通じない様なの」

「過去か未来へ飛んだというのか・・・」

「その可能性が高いみたいなの」


「でも、すぐに帰って来るかも知れないのだろう?」

「えぇ、それはそうよ。でももう丸一日、連絡が途絶えているわ」

「うーん。そうか・・・でも、あいつのことだから飛んだ先で新たな発見でもして時間を食っているのじゃないかな?それとかさ、あいつお人好しだから、何かに巻き込まれて時間が掛かっているだけかも」


「あぁ!そうね。そうかも知れないわ!確かに翼は困っている人を放っておけない人ね」

「そうさ。大丈夫だよ。片付いたらすぐに帰って来るさ」

「そうね・・・そうだわ。榊君、ありがとう!」

「良いってことよ。俺たちの仲じゃないか」

 二人は無理に元気を出し、明るく笑ったのだった。


 そして、それから一週間、二週間経っても翼は帰って来なかった・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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