34.地球の変革
結婚から二年が経過した。僕は二十歳になった。
この二年で日本では色々なことが進み、変わった。オービタルリングはまだ完成はしていないが一部の機能が稼働している。
日本への送電と通信、気象、放送、交通システム、地球と宇宙の観測用の衛星の役目を果たす装置が稼働している。
これを機に地球周辺にあった全ての衛星、宇宙ステーションの残骸やあらゆるデブリが一掃された。というか、僕が勝手にデブリを太陽の軌道へ転移させ焼却処分したのだ。
当然、その所有国からクレームはあったが、新平和条約を締結すれば必要な情報は無料で提供されると、クレームを一蹴した。
日本の家や建物には二階に玄関や居住者専用の入り口、それに宅配用の自動受取り装置やゴミの自動回収装置などが設置された。既に日本のほとんどの地域で新しい交通システムが導入されていた。
最早、地上を走行する自動車はほとんど存在しない。地上を走ることを許されるのは、農業用の作業車くらいで、それも農地の中だけだ。
新しい交通システムは運転士も居らず、専用アプリで事前に行き先を指定しておくか、船に乗ってから音声またはタッチパネルで行き先を指定すれば、あっという間に目的地まで運んでくれる。待ち時間が少しくらいあっても所要時間が大幅に短縮されるので国民は皆、満足した。
日本は他国に未来の理想像を示すため、国が主導して強制的に変革して行った。
二年前に行われた国民投票で若者の圧倒的な支持により、この改革は断行されることとなり、最早、日本は資本主義の国ではなくなったのだ。
まず、農業、畜産、漁業、林業は国営となった。過剰に作りフードロスを生まないよう、全て計画的に生産し、備蓄・供給された。目指したのは輸入に頼らない自給自足だ。
電力、上下水道、通信、医療、交通システム等の社会基盤も全て国営化された。
工業製品や衣料品、娯楽に関わるものは今まで通り自由だが、生存競争により自然淘汰が進んだ。
住宅についても建設場所や使用する建築材料に厳しい環境基準が設けられた。過疎化が進んだ地方の村は国が土地ごと買い上げ、古い家屋を処分し自然に戻した。
高齢者の中には住み慣れた土地に住み続けることに拘る者も居たが、これからを支える若者に地球環境を整える権利があることを盾に強制的に転居させたのだ。
その代わり高齢者は各地域でコミュニティを形成し、まとまって暮らすことで医療や福祉の提供を受け易くなったし、趣味で畑や園芸をできる土地も用意した。
都市部でも古い建物や家が密集している町は強制的に新しい街へ転居させた。高層のビルやマンションは築四十年で取り壊されることが義務付けられ、環境に配慮した低層住宅を緑の中に点在させた街を幾つも建設していった。
これから人口は減って行く。日本の人口は既に一億人を割っている。居住地域を山や川、海の自然災害が及ぶ地域から離れた場所に限定し、その他の地域は農地とするか緑地化された。
金融や税金のシステムも大きく変わった。貨幣と銀行が無くなったのだ。
その代わりとして十歳以上の日本国民には右手に直径一ミリメートル、長さ三ミリメートルのマイクロチップが埋め込まれた。
このマイクロチップは財布であり、身分証明書であり、生体モニターでもある。
お店での買い物や交通システムの利用も右手をかざすだけで決済ができる。ネットでの買い物は個人番号と携帯端末でのマイクロチップ認証で決済するのだ。クレジットカードやキャッシュレス決済も無くなった。お金に関わる手数料ビジネスは絶滅したのだ。
政府財務省のシステムに登録された個人番号とマイクロチップの情報で、給与、納税、買い物などが自動決済される。更に法人の収支データもあらゆる情報が連携し、全て自動で収支決済されるのだ。もう個人も法人も脱税はできない。税理士や会計士は職を失った。
また、家族を含めた個人間での金銭の授受が禁止されたため、借金もできなければ、詐欺や強盗も不可能となった。相続も限定的な財産しか認められないのだ。
病気や障害で働けない者や生活困窮者は、政府財務省の出先機関に申し出ることにより仕事が斡旋されるか、生活保護プログラムにより保護されることとなる。
今ではどんな仕事に就いても同じ生活水準が保障されているので、本当にやりたい仕事ができる様になったのだ。自ずと就業率は上がり、生活保護に頼る人は減った。
教育と福祉については今までと比べて大きく充実した。学校は全て国営となり、大学まで給食を含めて全て無料だ。専門学校は無くなり、大学の専門科目が充実して、自分の将来希望する職業の専門分野を学べる様になった。
健康保険は無くなり医療は全て無料。また、マイクロチップには生体モニターの機能があり、常に体温、脈拍、血圧、血液成分に腫瘍マーカーもある。生命に危険が迫った場合は、呼んでもいないのに救急艇が飛んで来て病院へ搬送される。
年金は生活保護プログラムでカバーされるのでお金を支払うことはなくなった。
最後は葬儀も格差は無く、国営葬祭場で誰でも同じ葬儀を無料で行うことができる。全国民が平等の扱いを受け、同レベルの生活が保障されるのだ。
そして大きく変わったのが刑務所だ。犯罪者を収監する刑務所が農業工場となった。
農業工場は室内で栽培される農作物を生産している。堅牢な建物の中で外界とは完全に隔絶された空間となっている。
犯罪者はその農業工場に収容され、罪の大きさによって収容年数が決まる。傷害や殺人、放火それに強姦など大きな犯罪の場合は終身刑となる。死刑は廃止されたが、恩赦は一切無い。終身刑は文字通り、生涯外には出られないのだ。
終身刑の受刑者が収容される農業工場は全く自由が無い。監視する刑務官も居らず、全て無人のAI管理だ。食事は人間が必要とする最低限のカロリー分の食事しか与えられないし、娯楽も一切認められていない。
受刑者は首輪を着けられ、その首輪には生体管理機能と指示命令の伝達用のスピーカーとマイクが内蔵されている。更に電気ショックを与える機能もある。今までの服役より格段に厳しいものとなっているのだ。
精神鑑定で精神異常が確認されても無罪にはならず、同じ刑に服することとなる。野菜の栽培は精神病治療にも寄与すると考えるのだ。
ただ、犯罪者の数は激減している。まず交通事故が無くなったし、マイクロチップの利用で、現金や銀行が無くなったことでお金に関わる犯罪が起こせなくなったのだ。
格差是正の税制により生活困窮者も無くなり、やけを起こして犯罪に走る者が減ったからだ。
学校や職場ではAIでの監視が強化され、会話や行動からいじめやパワハラ、セクハラなど直ぐに感知される。加害者は七日間の更生プログラムを強制的に受けさせられる。
ある日学校や職場へ向かおうとして家から船に乗ると、目的地には連れて行ってくれずに更生施設へ強制連行されてしまうのだ。
犯罪者も同じだ。自家用車は存在しない。マイクロチップで犯罪者が特定され、移動のために船に乗るとあっという間に警察へ自動転送されてしまうのだ。犯罪者の検挙率は、ほぼ百パーセントになった。
その他では、タバコの栽培が禁止された。農業は全て国営となり計画的に必要な作物を必要なだけ作るのだ。タバコの様な有害なものを国が作る訳にはいかないということだ。
麻薬の類も厳格に禁止された。新世界平和条約で犯罪者の引渡し協定があるので、麻薬を日本へ輸入した者、輸出した者、使った者も皆、逮捕され終身刑となる。
動物園や水族館の様な生物の展示施設は廃止され、ペットの飼育も禁止された。動物園の動物たちは野生に帰る訓練を経て元の生息地に放たれた。ペットは全個体去勢が義務付けられ、今、飼育しているペットが最後の飼育となる。ペット産業も無くなるのだ。
芸術産業は作品の高額取引が無くなったため、売買の裾野が広がり手軽に芸術作品に触れられる様になった。ただ、誰でも芸術家として暮らせる訳ではない。作品が売れず、生活保護を求めた場合は、強制的に就職させられる。芸能界も同じ扱いだ。
宗教については自由だ。それを奪おうとする方が危険だからだ。ただし、扱いとしては法人と同じだ。宗教法人とて今までの様な免税はない。
そこは平等を重んじるのだと説明した。それでも抵抗する宗教法人はあったが、その本拠地の上空に月の都を滞空させ無言の圧力を加えると、あえなく納税に応じた。
そもそも天照さまが出現してからは、天照さまをお祀りしていない神社や寺、宗教は見向きもされなくなった。現金がなくなったため、お賽銭はお布施として電子決済するしかなくなったし、沢山のお布施や献金を集めたところでごっそりと税金でもっていかれてしまうので解散する宗教法人も多かった。
宝くじやギャンブル、パチンコなども禁止となった。娯楽が減るとの反発もあったが、やはり金儲けを娯楽と位置付けることはできない。スポーツやゲーム、芸術や趣味の世界を広げてもらいたいのだ。
そこで、各地に広大な自然公園が多く作られた。その中にジョギングコースやサイクリング、乗馬コースを作り、街中での自転車走行や乗馬は禁止された。公園の中には全てのオリンピック種目の競技ができる試合会場や練習施設も建てられた。
街では新しい交通システムに置き換わってから、急ピッチで旧インフラの撤去が進んでいる。
発電所、電柱、電波塔、鉄道、高速道路、信号機、横断歩道、自動車の充電スタンド、道の駅とかドライブインみたいな店も無くなっていった。それらは新しい資源となり、再利用されていく。
僕はお願いして新たな条例を作ってもらった。それは夜のネオンサインや電飾を使用した看板の禁止だ。電気を有効利用しようというのが建前だが、本音では夜を暗くしたいのだ。星が見える様に。それは地球の大気がどれだけきれいになったのかを測る上でも重要なことだ。
更にお父さんにお願いして日本人全員に念話を送ってもらった。
その内容は、日本は積極的に環境改善の改革を進めた。これを喜び、停止した原子力発電所や核廃棄物を廃棄して差し上げる。というものだ。
実際には僕が月の都を原子力発電所の上空に転移させ、発電所を太陽の軌道まで転移させ処分していった。そして日本から原子力発電所や核燃料の再処理施設は無くなった。
これで日本の風景は一変した。原風景というものが特に地方で復元されていった。
夜の無駄なライトアップや看板も無くなり、暗い夜が戻った。晴れた夜には沢山の星が見える様になったのだ。
僕の家族の話をしよう。新奈は大活躍していた。新国際連合の地球環境保全大使に任命され、アーティスト活動の傍ら、環境保護活動に従事した。
神代重工のテレビCMにも出演し、プロジェクトの進行を紹介している。
先日は家族とプロジェクトメンバー、それにCMの制作スタッフと大型宇宙輸送船に乗って、オービタルリングのステーションへ行った。
そこでオービタルリングと低軌道エレベーターの役割と建設の進捗を説明し、地上のテレビ局と中継を繋いで、Ninaのライブを宇宙から生中継した。
碧く美しい地球、深淵なる宇宙をバックにNinaがバラードを熱唱した。初めて宇宙から美しい地球の姿を見た、徹、葉留、巧、美樹先輩も大興奮だった。
新奈はアーティスト活動で発電所の跡地にできた公園でライブを開催したり、東大主催で開かれた環境保全技術セミナーのプロデューサーを務めたりもした。
結衣は一年前に長男を出産した。名前は蓮。幸子お母さまと紗良お母さまが来てくれて、お母さんも立ち会って無事出産した。
蓮はプラチナシルバーの髪と青い瞳で僕に似ている。やはり神の生まれ変わりの様で、僕と同じ程度の力を持っている様だ。一歳になったばかりだが、もう歩くし飛ぶし、会話もできる。
結衣は冷媒ガスを使わない冷蔵庫と水を使わない洗濯機を開発した。一ノ瀬電機で望と一緒に極秘プロジェクトとして製品化を進め、大々的に発売された。
その新製品紹介のCMキャラクターにも新奈が使われた。今ではテレビで新奈の姿を観ない日はない程、露出が増えている。
月の都の食堂で夕食を頂いていると新奈が帰って来た。
「シュンッ!」
「ただいま!」
「新奈。お帰りなさい!」
「お帰り、今日は早かったね!」
「えぇ、こんなに早く帰れたのは久しぶりね!」
蓮が宙に浮いて新奈に飛び着いていく。
「ニーナかあさま!」
「蓮!ただいま!会いたかったわ!」
「蓮は本当に新奈が好きなのね」
「嬉しいわ!」
蓮は新奈に抱かれ満足げに微笑んでいる。蓮は新奈が居ない時、テレビでCMや歌番組で新奈を見かけると大興奮してテレビに釘付けになるのだ。余程、新奈が好きらしい。
でも、望のことも大好きなのだ。望にとっても大学や一ノ瀬電機の仕事で忙しい中で蓮は癒しであり、アイドルなのだ。
「まぁ!蓮。私と新奈とどっちが好きなの?」
蓮は新奈と望の顔を見比べると・・・
「どっちもしゅき!」
「まぁ!上手ね!」
結衣はすっかり落ち着いた。彼女は新しい家族を得て不安が遠のいたのだろう。いつも柔和な笑顔を浮かべ、幸せそうに蓮の相手をしていた。
僕は、そんな結衣を見ては癒され、新奈や望の頑張りを見ては触発されて、自分の研究に力を注いだ。
異次元空間移動装置の製造は広い部屋が必要だったので神代重工の研究所を借りていた。大型宇宙輸送船の発着場となっている元自衛隊の演習場の施設の中だ。
大きな格納庫と同じくらいの大きさの建物を一棟丸ごと借りている。
新奈のお父さんはここを何に使うのか一切聞かずに、僕の求めに応じて用意してくれたのだ。
僕は毎日、朝食後にこの研究室へ瞬間移動し、一日中装置の建造をして、夕食前に月の都へ戻る生活を続けていた。お昼は結衣が瞬間移動して届けてくれる。結衣が来たのがお昼休みの合図だ。
今日はサンドウィッチと珈琲、それにドーナツを用意してくれた。完成間際の異次元空間移動装置を眺めつつ、ふたりで一緒にサンドウィッチを食べ、珈琲を飲みながら話した。
「翼、何だか大分、形になってきた様に見えるのだけど・・・」
「そうだね。もう少しで完成かな」
「でもこれは、外観は普通の小型船よね?」
「そうだね。反重力装置の付いた小型船をそのまま使っているんだ。この中に異次元空間への移動装置を組み込んであるんだよ」
「では、これに乗って異世界へ飛んで行くのね?」
「そうだね。過去とか未来へも行けるよ。設定によってはこの中に置いた物だけを転送することもできるんだ」
「それにしても、タイムマシンまで創ってしまうなんて・・・翼は本当に天才なのね」
「いや、これは望のお陰なんだ。僕ひとりでは完成できなかっただろうね」
「望が?望がアイデアをくれたの?」
「あ!い、いや・・・アイデアというか・・・きっかけをね・・・そう!きっかけをくれたんだ」
「そうなのね。きっと望も喜んでいるわね」
「うん。望には感謝しているよ」
それから数日後、異次元空間移動装置は完成した。季節は初夏になっていた。
「さてと、完成はしたものの、試験はどうしようかな・・・」
僕はひとりごとを呟いた。
「シュンッ!」
「うわ!」
研究室に誰かが瞬間移動して来た。その人は・・・
「お父さま?い、いや・・・琴葉お母さま?」
その人の姿は、お父さまと琴葉お母さまにとても良く似ていて、男性にも女性にも見える人だった。プラチナシルバーの髪は腰まで伸び、白い絹の衣を纏っていた。
「翼。私は天照です。私と直に会うのは初めてですね」
「え?始祖の天照さま?」
「そうです。翼。とうとう異次元空間移動装置が完成したのですね」
「え?ご存じだったのですか?」
「えぇ、見守っていましたよ。素晴らしい才能ですね」
「ありがとうございます。でもまだ試験をしていませんので、本当に成功したのかは分からないのです」
「では、試験をしてみましょう。これは物だけを転移させることができるのでしょう?」
「はい。そういう設定をすれば物だけを送ることもできます」
「では、神星の私の月の都へ、そこにある椅子でも送って確認してみましょう」
「分りました。では、そのパイプ椅子を中に入れて椅子だけを送る設定をします」
僕はパイプ椅子を船の中に入れ、座席に座ってコントロールパネルに設定入力を始めると、天照さまが隣に座った。横に座られただけで、そのオーラを感じて緊張してしまう。
「座標は私が入力しましょう」
「はい。では、ここへ入力してください」
天照さまは、何も見ずに三次元の三つの座標を入力していった。僕はその数字を見ても当然ながら、どの辺のことなのか分からない。
「さて、ではお願いします」
「天照さま。成功したかは、どうやって確認するのですか?」
「翼がこの装置で椅子を転移させた後、私が見に行って私の指定した座標に届いていたら、私がこの椅子を持ってここへ瞬間移動で戻って来ますよ」
「あぁ!それならすぐに成功したかが分かりますね!」
「えぇ、いきなり人を転移させる訳ではありませんから危険もありません」
「では、一分後に転移する様に設定しました」
僕らは小型船から降りると五メートル程離れて見守った。一分が経過すると、小型船からは「シュイーン!」という電子音が小さく響いた。そして次の瞬間、
「シュンッ!」
小型船の中に見えていたパイプ椅子が消え、青い光の粒が無数に光って消えていった。
「椅子が消えましたね。では、確認して来ましょう」
「シュンッ!」
天照さまも消えてしまった。だが、その数十秒後、
「シュンッ!」
天照さまはパイプ椅子を持って現れた。
「翼、成功していましたよ」
「本当ですか!やった!」
「おめでとう!翼」
「天照さま、ありがとうございます!」
「翼はこの装置をどんなことに使うつもりなのですか?」
「はい。万が一、地球の磁場が消えるとか逆転現象が起きた際に人間を神星へ避難させたいのです」
「なるほど。それを私や月夜見の力を借りずにこの装置で可能にしたかったのですね?」
「はい。そうです」
「そうですか・・・では、過去や未来を見に行きたいという訳ではないのですね?」
「過去・・・ですか?あ!そう言えば・・・」
「過去に何かあるのですか?」
「あの、お聞きして良いか分からないのですが・・・」
天照さまは僕の不安と緊張を察知したかのように柔らかな微笑を湛えている。
「これだけの装置を完成させたのです。褒美としてどの様な質問でも答えましょう」
「ありがとうございます。あの・・・僕の三人の妻なのですが・・・何故か三人共、千五百年前のお父さまとお母さま方の娘だったのです。これは偶然ではないと思うのですが、何故こうなったのでしょうか?」
「ふむ・・・そのことですか・・・それなら、その目で確かめに行っては如何ですか?」
「この目で?僕が千五百年前に飛ぶということですか?」
「えぇ、そうです。そこは神星ではありません。その時代はまだ日本に居ましたから。座標なら分かりますから、年号と座標を入力して差し上げますよ」
「え?行ったら分かるのですか?」
「分かります。行くのが怖いですか?」
「いえ、そんなことは・・・折角これを完成させたのですから・・・そうですね。試しに行ってみましょうか」
「では、年号と座標を入力しますね」
天照さまは、またしても迷わずにスラスラと入力していった。
「さぁ、ではお行きなさい」
「はい。行って参ります!」
天照さまは微笑を浮かべながら小さく手を振った。その顔はやはり琴葉お母さまそっくりだなとぼんやり考えた時「シュイーン!」という電子音が小さく響いた。
「シュンッ!」
実験室から翼を乗せた小型船が消え、青い光の粒が無数に輝き、そして消えていった。
それを見届けた天照さまもその場から消えた。
お読みいただきまして、ありがとうございました!




