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33.結婚式と初夜

 結婚式は食事と歓談が終わり、ダンスの時間となった。


 まずは僕が新奈たちと踊る。

「新奈、ウエディングドレスだから、少し踊り難いでしょう?」

「そうね。でも大きく動けば大丈夫」

「流石、新奈だ。今日も素敵だね」

「翼も素敵!王子さまみたいよ」

「新奈は本当に美しいよ」


「そう?でも桜お母さまと比べたらどうかしら?」

「勿論、新奈の方が美しいよ」

「まぁ!それはちょっと贔屓目ひいきめというものじゃないかしら?桜お母さまは大変な美しさよ?」

「そうだね。だけど新奈も大変美しいんだよ」

「嬉しいわ!」


 新奈とのダンスが終わると桜お母さまが新奈に近付き、新奈を抱きしめた。


「新奈、おめでとう。幸せそうな良い笑顔をしているわ」

「お母さま。ありがとうございます」

「翼と幸せにね」

「はい」


 新奈の次は望の番だ。新奈と桜お母さまが話している隣で、望は琴葉お母さまと笑顔で話をしていた様だ。

「望。琴葉お母さまと話していた様だね」

「えぇ、子供はどうするのか聞かれたの」

「あぁ、結衣が妊娠しているからだね」

「そうね。私は大学の卒業が決まり次第、作るって伝えたわ」


「望、今夜は望と眠ろうと思うんだ。良いかな?」

「新奈や結衣でなくて良いの?」

「新奈は明日、仕事で朝が早いのだそうだよ。明日なら翌日ゆっくりできるからって。結衣は日中、いつでも僕と一緒だし、妊娠中だから後で構わないって、それに昨夜は結衣と眠ったしね」

「ホント?嬉しい!」


「結婚式を挙げた夜に初夜を迎えられるのね?」

「それって、初体験の新婚カップルが初夜って言うのでは?」

「結婚して初めての夜、って意味でも良いと思うの」

「気持ちの上では確かにそうだね」


「眠れなくなりそうだけど・・・」

 僕は望の耳元で囁いた。

「あ。ダメよ。耳元でそんな・・・」

「ふふっ。でも本当に寝かさないけれどね」

「嬉しい・・・」

 望はつやっぽい顔を僕に向け、微笑んだ。


 ダンスが終わると琴葉お母さまは望を抱きしめた。結衣は幸子お母さまと手を繋いで、話し込んでいた。僕は結衣の前に進み右手を差し出した。


「結衣。僕と踊って頂けますか?」

「あ。翼。喜んで!」


「お母さま。翼と踊ってきます」

「えぇ、楽しんで!」

「はい!」


「結衣、幸子お母さまととても仲良くなったんだね」

「えぇ、向こうの月の都で一晩一緒に眠ったでしょう?その時ね、お母さまは私を抱きしめてくれて、沢山、お話ししたの」

「それからもよく話しているの?」

「えぇ、一人で眠る時なんかに念話でお話ししているわ」


「どんなことを話しているの?」

「そうね。静月しづきお姉さまが嫁いだマグノリア王国や千隼ちはやお兄さまのフロックス王国の話を聞いたわ。私からは最近の地球の話を教えているの」

「もう本当の親子みたいだね」

「そうなの。とても自然に親子の様に話しているわ」

「では、寂しくなることもないね」


「えぇ、夜一人の時は、静月お姉さまの意識に入って、向こうの生活を見せてもらったりしているの。楽しくて寝不足になってしまうくらいよ」

「おやおや、お腹の子のためにもちゃんと寝てくださいね」

「はーい。大切にしないとね」

「うん。お願いします。奥さん」


「ふふっ。私、翼の奥さんになったのね」

「うん。明日、区役所に婚姻届けを出しに行こうね」

「えぇ、楽しみだわ。翼が、九十九 翼になるのね?」

「はい。九十九 翼です!」

「ふふっ」


 結衣とのダンスが終わると、幸子お母さまが足早に駆け寄り、結衣を抱きしめた。

「結衣。素敵だったわよ。結婚おめでとう!」

「お母さま。ありがとうございます。お母さまもこれからお父さまと踊るのでしょう?」

「えぇ、踊るわよ」


「お母さまとお父さまのダンス。素敵でしょうね!楽しみ!」

「ふふっ。見ていてね」

「はい。お母さま!」


 僕らのダンスが終わると、次にお父さまとお母さまがダンスを始めた。お母さま、琴葉お母さま、桜お母さま、幸子お母さまの順に踊った。桜お母さまとのダンスでは、皆、あまりの美しさに言葉を失い、女性たちは頬を赤く染めて、ただ見つめるだけだった。


 その後、皆の番だ。早苗お母さんとお父さん、徹と葉留、美樹先輩と巧、それに彼らの両親も恥ずかしがりながら踊りだした。僕は菜乃葉と七海ともダンスを教えながら踊った。葉留は遥馬に教えた。


 巧は美樹先輩に上手くリードされ、運動音痴と言いながらも形にはなっていた。皆、慣れないことに戸惑いながらも数曲踊ると笑顔になり、お城の舞踏会を楽しんでいた。


「結衣。私と一曲踊ろうか?」

「え?お父さまと?よろしいのですか?」

「勿論だよ。娘の結婚式なのだからね。父親にも娘と踊る権利があると思うんだ」

「はい。お父さま」

 お父さまが結衣とダンスを始めた。お父さまは結衣の身体を気遣ってゆっくりとリードした。


「結衣。今日の君はとても素敵だよ。今は幸せかい?」

「ありがとうございます。お父さま。幸子お母さまも居てくださいますから。もう寂しくありません」

「それは良かった。困った時はいつでも私に話し掛けてくれて良いのですからね」

「はい。お父さま。嬉しいです」


 続けてお父さまは新奈と踊った。

「新奈。今日の君は輝いているね」

「本当ですか?お父さま」

「うん。とても素敵だよ」

「ありがとうございます」


「新奈はもう私の顔を見ても緊張しなくなったみたいですね」

「はい。前世の記憶が戻ったからだと思います。今は本当にお父さまだと感じていますから」

「それは嬉しいな。こんなに素敵な女の子が私の娘だなんて」


「まぁ!それは私もです。こんなに美しい方が私のお父さまだなんて!」

「ふふっ。新奈、困ったことがあったらいつでも話し掛けてきて良いのですからね」

「はい。お父さま。ありがとうございます」


 最後に望がお父さまと踊った。

「結婚おめでとう。今日の望はいつもに増して美しいね」

「まぁ!お父さまったら。嬉しいです!」

「望も私に緊張しなくなったみたいだね」

「はい。記憶が戻ってお父さまだと分かっているからです」


「嬉しいよ。こんなに可愛い娘が増えたのだからね」

「私もです。夢の様に美しいお父さまができたのですから!」

「望も言うね」

「だって、本当のことです。私、今、気を失わない様に必死なんです!」

「そうか。嬉しいよ。望。幸せにね」

「はい。お父さま」


 そして結婚式は和やかなうちに幕を閉じ、出席者を自宅へと転移させていった。

月の都のサロンには、お父さまとお母さま達、葉留と僕と妻たちが残った。


「翼。良い結婚式だったね」

「はい。お父さま。ありがとうございます」

「結衣、新奈、望。翼の妻に、また私たちの娘となってくれてありがとう」

「お父さま。ありがとうございます」

 結衣、新奈、望は並んで貴族の様に美しいカーテシーを決めた。三人のティアラがキラキラと輝いていた。


「さぁ、それでは私たちはこれで失礼するよ」

「月夜見さま。今日はありがとうございました」

「瑞希、また九日後にね」

「お父さま、ありがとうございました」

「翼、プロジェクトの方、大変だろうけれどあまり根を詰め過ぎないようにね」

「はい。お父さま」


「では、また」

「シュンッ!」


「さぁ、皆、着替えてきなさい。お茶にしましょう」

「はい。お母さま」

 各々の部屋へ戻って部屋着に着替えると、サロンに集まった。


「結衣、疲れていないかい?」

「大丈夫よ。向こうの世界へ行ってから、何だかとても体調が良いの。悪阻つわりも全然ないのよ」

「結衣。それは神の力のお陰よ。新奈、望。これからは生理痛も無くなると思うわ」

「お義母さまもそうだったのですか?」


「えぇ、そうよ。前世の記憶と力が蘇ってからは病気もしないの」

「それなら結衣の出産は安心ね」

「そうね。何も不安はないわ。きっと元気な男の子が生まれるわ」

「え?まだ三か月目でしょ?男の子って、もう分かるの?」

「そんな気がするだけよ」

「あぁ、そっか」




 その夜、望との初夜を迎えた。

まだ、荷物が少ない望の部屋のベッドに座ってふたりで話した。


「翼、私、あなたの奥さんになれたの?」

「そうだよ。望は今日から僕の奥さんになったんだ」

「本当なのね?」

「本当さ。不安なの?」


「ううん。確かめたかったの。だって・・・私は一度、全てを諦めたから・・・」

「大丈夫。望には今、僕は勿論のこと、結衣と新奈という姉妹も居て、神の力まで得たのだからね」

「翼に命を助けられて、それだけでなく、こんなにも沢山のものをもらうなんて、幸せ過ぎて怖いわ」


「それは嬉しいってことで良いのだよね?」

「えぇ、嬉しい・・・本当に嬉しいの」

 望はとめどなく涙をこぼした。僕は望の肩を抱いて手を握った。


「望。今日は結婚式をした嬉しい日だよ。もっと笑顔を見せて」

「あ。ごめんなさい。とても感動してしまって・・・」

 僕は望を抱き寄せてキスをした。望はそれに応えているうちに燃え上がってきた様だ。


 いつもの様にふたりは燃え上がり、溺れる様なセックスを始めてしまう。

「あぁ・・・なんだか、今日はいつにも増して・・・」

「そうね。凄く感じるわ・・・」

「あ。こ、これは・・・あ!」

「翼・・・いったの?」


「ち、違うよ・・・回路が・・・回路が完成したんだ!」

「回路?あぁ、いつも言っている今、研究しているものね?完成したの?頭の中で?」

「そうだよ。基幹システムの回路が全て完成した。望とセックスする度に難解な回路の一部ずつが浮かんできていたんだ。僕はそれを記憶してはパソコンに記録してきたんだ」

「それが完成したのね?それはどんなものを創ろうとしているの?」


「異次元空間移動装置だよ」

「異次元・・・空間移動装置?それって・・・」

「うん。神星の世界へ行ける装置だよ」

「もしかして、過去とか未来へも?」

「そうだね」


「え?要はタイムマシンってこと?そんなものが出来たの?」

「うん。ありがとう!望。全て君のお陰だ!君が居なかったら完成できなかったかも知れないよ」

「そう・・・では、私が翼の役に立ったのね?」


「役に立ったなんてものじゃないよ。望にどれだけ感謝すれば良いか・・・本当にありがとう!望!愛してる!」

「嬉しい!翼の役に立てるなんて!私、自分の命を救ってくれた翼にどうしたら恩返しができるのだろうって、いつも考えていたの」


「望・・・命を救ったなんて・・・そんなこと気にしなくて良いんだ」

「でも、事実だもの。私は本当に救われたの。結衣だってそうでしょう?よく二人で話をするの。どうしたらこの恩にむくいることができるのかしら、って」


「そうか・・・でも望。それならこれで十分にお返しをしてもらったよ。ありがとう」

「あぁ、良かった!嬉しい!今日は素晴らしい日だわ」

「うん。本当に今日は素晴らしい日だ・・・あぁ・・・望・・・」

 僕はそう言いながら望のふたつの胸の谷間に顔を埋めた。


「あ!翼・・・まだ・・・続くのね・・・」

「うん。まだ、途中だった・・・ごめんね。中断してしまって。僕はもっともっと望に溺れたいんだ・・・」

「私もよ・・・翼・・・」

 そしてふたりは朝方まで溺れ続けた・・・




 翌日、僕は結衣と一緒に区役所へ出掛け、婚姻届けを提出した。今の結城家の住所の中に九十九 翼と結衣の世帯ができた。実際にふたりが暮らすのは月の都だが、研究室は変わらずに結城家の地下の部屋を使うのだ。


 そこで結衣は冷蔵庫と洗濯機の開発を、僕は異次元空間移動装置を造り始めた。


 結婚二日目の夜は新奈の部屋で過ごす。食後に風呂に入ってから新奈の部屋へ瞬間移動した。

「シュンッ!」


「翼。いらっしゃい」

「新奈、今日も美しいね。仕事はどうだった?」

「えぇ、四月にデビューすることが決まったの。デビュー曲も仕上がったわ」

「そうか、いよいよだね。早くデビュー曲を聞きたいな」


「明日の午後からレッスンなの。自分で納得できたら初めに翼に聞いてもらうわね」

「うん。楽しみにしているよ。ところでアーティスト名は?」

「Ninaよ。アルファベットで、N.i.n.a.」

「Ninaか。良いね!全く違う名前だったらどうしようと思っていたんだ」


「そういう案もあったのだけど、モデルの時は本名だったから、そのまま新奈を使ったの」

「そうか。良かった。頑張ってね」

 僕はそう言いながら新奈にキスをした。


 新奈は嬉しそうに微笑んでキスに応え、抱きついてきた。そのままセックスを始めた。僕は新奈の服を全て脱がすと全身を確認する様に見ていった。


「なぁに?そんなに見つめて・・・」

「いや、改めて見ると、本当に美しい身体をしているな・・・と思ってさ」

「恥ずかしいわ・・・」

「でも、結婚とかデビューを前にして色々、努力したのでしょ?受験もあったのに大変だったね」


「受験は事前に翼にしっかり見てもらっていたから大丈夫だったわ。それにね、それ程、特別なことはしていないの」

「え?何もしていないことはないでしょう?」

「それは食事の量とか、内容には気をつけるし、基本的なトレーニングはしているけど、モデルなら誰でもやっていることくらいよ」


「あとね。前世の記憶が戻って、力が使える様になってからは、肌の調子は勿論、身体の全てが元気だわ」

「やっぱり、影響はあるのだね。本当に綺麗だ・・・」

「あ。翼・・・」

 そしてふたりに火が点き互いに夢中になった。




 一度、落ち着いてふたりでまったりとしていた。

「ねぇ、翼。あなたってセックスが上手よね?」

「え?上手?そうかい?でも君が初めてだったんだよ?」

「そうね。嬉しかったわ・・・」


「望の十九歳の誕生日からは三人とほぼ毎日していたでしょ?」

「まぁ・・・そうだね。順番にね」

「普通はそんなにしないのではないかしら?そして三人を比べながらセックスしているうちに相手に合わせた方法を学習したのでは?」


「あぁ・・・そう・・・かも知れないね。特に学ぼうとした訳ではないけれど・・・」

「翼のことだもの、無意識のうちに相手のことを考えて良くしていこうと思うはずよ」

「そう・・・だね」

「だから、上手なのよ。だって私、いかされっぱなしだもの・・・」


「それは嬉しい。と捉えてよろしいのでしょうか?」

「勿論!嬉しいわ。とても充実するの。何もかも頑張れる気がするわ」

「そうだね。新奈はこれから大学、芸能活動、プロジェクトの推進と大忙しだものね」

「えぇ、そのパワーの源が翼とのセックスなの」


「それは良かった。でも三日に一度で大丈夫?」

「それくらいが丁度良いの。三日に一度、思いっ切り癒されて、パワーをもらえるの!」

「それで・・・今日はもう十分かな?」

「まだ足りないわ・・・つ、ば、さ。・・・お、ね、が、い」

 新奈は僕の耳元で甘い声で囁いた。


「あぁ・・・なんて可愛いんだ!新奈!」

「がばっ!」

「きゃーっ!」

「朝まで寝かさないぞ!」

「嬉しい!明日は午後からだから朝まで愛して!」

 新奈のお望み通りに朝まで愛し続けた。




 結婚三日目の夜、新婚初夜の最後は結衣だ。月の都の結衣の部屋は、既に結城家から全て引っ越し済みだ。


「結衣。考えたのだけど、月の都に僕の部屋って必要ないのではないかな?」

「あぁ、私たち妻の部屋を渡り歩くから?」

「その表現って・・・まぁ、事実ではあるのだけどね」

「でも一人になりたい時だってあるのではないかしら?」


「一人になりたい?そんなことってあるのかな?僕は三人の誰かとは必ず一緒に眠りたいと思うけど・・・」

「それなら、私たちは嬉しいわ」

「今は結衣とは一緒に眠るだけだけどね」

「ごめんね。今は私とはセックスできないものね?」


「あ。そういう意味じゃないよ」

「何かできることをしましょうか」

「え?いいってば」

「私がしたいの」


 そう言って結衣は僕の服を脱がし始めた。なんだかんだ言って、本当は結衣と愛し合いたいと思っている自分が居るのだ。結衣に任せて僕はされるがまま快感に浸っていった。


 すると頭にぼんやりと結衣の顔が浮かんできた。でも結衣と思ったのに結衣の顔ではない。どちらかというと葉留に似ている。


 あれ?変だな。僕はおかしくなってしまったのか?その顔は葉留の顔なのだ。でも、これはやっぱり結衣だ。何故、そう思うのだろう?


 頭の中の結衣は、天女が着るころもというのがしっくりくる様な白い布をまとっている。僕は眠っていて、気がついたら結衣が僕に覆い被さって微笑んでいるのだ。


「ばさ・・・つばさ・・・翼!」

「あ。え?・・・ここは?」

「翼。どうしたの?意識を失っていたの?」

「え?僕、どうなっていた?」


「え?あ、あのね・・・私が・・・」

「え?」

 僕は自分の下半身を見ると、裸のままだった。

「あ。僕は・・・」

「えぇ・・・それでその後、意識を失っているみたいに反応が無かったの。驚いたわ」


「そ、そうなのか・・・何か夢の様な幻覚を見ていた様だ」

「幻覚?どんな?」

「そ、それが・・・顔は葉留なのだけど、僕はそれが結衣だと認識しているんだ。その人が、僕が寝ている間に僕の布団に入ってきて、覆い被さってきたんだ」

「それが私・・・なのね?」


「う、うん。何故か分からないけれど、僕はそれが結衣だと思ったんだ」

「あのね・・・私の千五百年前のお母さま、星月夜ほしづきよお母さまの顔は、今の幸子お母さまではなくて、翼のお母さまの顔なの。この前、それを言って良いのか迷ってしまって言えなかったの」

「え?千五百年前のお母さまが僕のお母さまとお同じ顔?」

「えぇ、そうなの。混乱するでしょう?」


「うん。混乱する。どういうことだろうか?」

「分からないわよね。でも翼のお母さまやお父さまにお話ししてもきっと、分からないでしょう?」

「そうだろうね。そうか。それは話しても仕方がないか・・・」


「ねぇ、私がしたこと・・・駄目だった?」

「そんなこと・・・結衣。ありがとう。嬉しいよ。結衣。今日は朝までずっと君を抱きしめていたいな」

「ホント?それなら服を脱ぐわ」

「そうだね。裸でお互いの肌の温もりを感じたいね」


 ふたりは抱き合って、お互いの肌を重ねた。

「あぁ・・・暖かい。結衣。愛しているよ」

「翼・・・幸せ・・・私・・・幸せよ」

 結衣は涙を流している。


「結衣。どうしたの?泣くなんて・・・」

「翼。私を離さないで・・・お願い・・・」

 結衣は僕の背中に回した腕に力を入れてしがみ付いて来る。


「結衣。君を離す訳がないじゃないか。こうして抱きしめて・・・絶対に離さないよ。安心して」

「うん。分かってる・・・分かっているのに・・・何故か不安になるの・・・」


「何だろう。これは前世で何かあったのだろうか?」

「そこまではっきりと思い出せないのが歯がゆいわ」

「何か思い出す手立てはないものだろうか・・・」

「でも、思い出したくないことだから、もやの中に包まれているのかも知れない・・・」

「それも十分に考えられることだね・・・」


「今は、あまり深く考えないでおこうよ」

「うん。そうよね・・・今、こんなに幸せなのですもの」

「結衣。愛しているよ」

「翼。私も愛しています」


 僕は結衣を抱きしめたまま眠り、夢を見た。

さっきの幻覚の続きだった。葉留に似た顔をした結衣は僕の布団に入ってきて僕に抱きつき言った。

「私を忘れないで・・・」


 その言葉にドキッとして目が覚めた。

目の前には裸の結衣が僕の腕の中で小さな寝息を立てて眠っていた。


 僕は安堵し、結衣の背中を撫でて結衣の存在を確かめた。

もう間違いない。結衣とは前世で何かあったのだ。でも今、こうして結衣を抱きしめている。


 そして結衣のお腹には新しい命が宿っているのだ。もう大丈夫。きっと・・・

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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