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26.家族計画第二弾

 お母さま方の家族計画第二弾も進んでいる。


 マリー母さま、シルヴィア母さま、ジュリア母さま、シャーロット母さま、オリヴィア母さまの順に次の排卵日から計画を実行していこうと考えている。


 だが問題もある。五人から話を聞いたところ、シルヴィア母さまとジュリア母さまは、性交で絶頂感を感じたことが無いそうだ。それでなくとも男の子を生み分けられる確率は高くないのに、それも無いとなるとかなり厳しい。


 何か良い手はないものだろうか。基礎体温表をつけて僕が指導すれば妊娠自体はし易くなる。だからって男の子が生まれるまで何人でも産めば良い。などと言える訳もない。困ったな。


 地球での産み分けで確実なのは遠心分離機を使った人工授精だ。でも一般的ではない。女の子だけに遺伝する疾患を持った人が対象だ。


 一般的にはグリーンゼリーを使うのだ。女性器の中は雑菌から身を守るために弱酸性に保たれている。男の子ができるY精子はこの酸性に弱い。でも性交で絶頂感に達すると女性器の中は酸性が弱まり、Y精子が活発に動けるようになる。でもこの絶頂感というのは曖昧で感じない人も多い。だから女性器の中を弱アルカリ性にするグリーンゼリーが有効なのだ。


 婦人科では不妊治療もやっていた。なかなか子が授からない人にとって産み分けは切実な問題なのだ。それでこの手の知識には詳しくなった。ただ、このゼリーを使った産み分け方法は科学的に有効性を証明されたものではない。


 でもこの手の研究は協力してくれる被験者もそうはおらず証明は難しい。それでも産み分けに挑戦したい夫婦は多く、この方法は重宝されているのだ。


 僕がグリーンゼリーを作ることができれば良いのだが、何分身体の中に入れるものだ。安全性を確保しなければならないし、そもそも成分などの知識も無い。

なんとか手に入れられないだろうか・・・


 そうだ!地球から引き寄せるか?舞依のブラジャーだって引き寄せることができたのだから。


 いや、病院のどこにあるか分からないものは引き寄せ様がない。大体そうやって無断で引き寄せたら窃盗だ。犯罪だよね。まぁ、絶対にバレないけれど。


 あ。そうか。無断で引き寄せたら犯罪だけど頼んでお金を払えば購入だよな。

それ、できないものかな?うーん。電話とかで話ができないから頼むことができないか。


 ん?電話はないけど、手紙のやりとりならどうかな?大学の同期で同じ婦人科の医局に居た山本ならずっと仲が良かったし、何度か家に泊ったこともある。そこへ手紙とお金を入れた鞄を送る。どうかな?


 いや、日本のお金が無いじゃないか!うーん。お金か・・・


 あ!それならこの世界の金貨を送れば、金であれば貴金属店で換金できるはずだ。換金したお金でグリーンゼリーを購入し、鞄に入れてもらえば良いのだ。


 どうだろう。やってみる価値はあるだろうか?ダメもとでやってみようか。

まずは手紙を書きながら整理しよう。




 拝啓 山本 拓也様


 ご無沙汰しています。私は、碧井 正道です。


 山本。何故、自分の部屋に知らない鞄が現れ、その中に見知らぬ金貨とこんな手紙が入っているのか。しかもそれが死んだ人間からの手紙であることに驚かれていることでしょう。


 山本も知っている通り、私は、橘 舞依の死に絶望し、あの日。自殺をしました。

そして何故か、地球ではない別の世界に生まれ変わったのです。しかも地球で二十五年間生きた記憶を持ったままに。


 今、こちらの世界に生まれて四年近くが経ったのですが、地球の記憶と医師の知識があるためにこちらでも医者の様なことをしています。


 そして、こちらの世界では医療の知識というものが全く無いのです。医療器具もありません。その代わりに僕には地球でいうところの超能力があります。この鞄も念動力でそちらの世界に飛ばしたのです。


 今、こちらで困っていることは人口が増えないことで、その中でも男性の比率と出生率が著しく低いのです。そこで男の子の産み分けに使う、グリーンゼリーが欲しいのです。


 突然、無理なお願いをして申し訳ないのですが、鞄に一緒に入れておいた金貨を貴金属店に持込み換金して頂いて、そのお金で買えるだけのグリーンゼリーを購入し、鞄に入れ、この鞄が現れた場所に置いてもらいたいのです。


 七日後に私が能力を使って鞄をこちらの世界に引き寄せます。本当にできるかどうかはまだ判らないのですが、この鞄がそちらに届いているのだとすれば、引き寄せることもきっとできる筈なのです。


 突然で信じられない話だとは思いますが、何とかお願いしたいのです。


 何卒、よろしくお願いいたします。


 敬具




 僕は手紙を書き終えるとお父さんに相談し、男の子を授かるための投資として、大金貨一枚を出して頂いた。


 そして、やや大きめの革の鞄を用意してもらい、その中に手紙と大金貨を入れた。

自分の部屋へ戻ると、まずはひとりで精神を集中させた。山本の家の間取りを思い出す。失敗したくない。じっくりとどんな部屋だったのかを思い出す。


 山本の家はマンションだった。2DKの間取りで玄関を入ると、そこは八畳位のダイニングキッチンだった。


 玄関を入って右側には洗面所と風呂、トイレが並んでおり、廊下を奥に歩いて右奥の部屋は十畳程の寝室だ。左側が居間で十二畳程の広さがあった。


 居間の中央には三人掛けのソファとテーブルがあり、その正面の壁側にはやけに大きな液晶テレビがあった。ソファから見て右側には一間半の掃き出しの窓があり、ベランダに繋がっていた。


 いつも明るい日差しが入り、冬でも日中は暖房を入れずとも温かかった。その反対の壁にはSF宇宙物のアニメ映画のポスターが貼ってあった。


 あぁ、そうだ。そのポスターには地球と宇宙に浮かぶ低軌道エレベーターが描かれていたのだ。それを見た記憶があったからグラジオラス王国の御柱みはしらを見た時にすぐに低軌道エレベーターのイメージが浮かんだのだ。


 よし、ここまで鮮明に浮かんだのであれば大丈夫だろう。そのテーブルに鞄を転送しよう。意識を集中させ、あたかも自分がそのソファに座り、目の前のテーブルへこの鞄が現れる様子を強くイメージした。


「シュンッ!」

 目の前から鞄が消えた。


 成功したのだろうか?確かめる術はない。自分がそこへ瞬間移動してみない限りね。

鞄と大金貨だけならば失敗してもお父さんに謝るだけで済むが、自分で飛んで失敗したらお母さんや皆が悲しむし、今この世界で進めていることがとん挫し、大変な迷惑が掛かってしまう。


 それだけはできない。だから鞄だけにしたのだ。今回は失敗しても仕方がない。


 大体、山本がまだあのマンションに住んでいるかも分からないのだからな。

でも、あのマンションは賃貸ではなく購入したものだ。簡単に引越しはしないだろう。結婚している可能性はどうだろう?僕が死んだ時と転生が繋がっているならば、もうすぐ二十九歳だ。山本も同期だから同じだ。


 医師は大抵、忙し過ぎて結婚は遅くなるものだ。見合いでもしない限りはね。くそ真面目な山本のことだ、まだ独身の可能性はあるよな。

まぁ、七日後に引き寄せてみれば成功したかどうか分かるのだ。今、考えても仕方がないな。




 本は順調に増刷を続け、できたものから神宮へ納品してもらい代金も支払っている。

生理用品もあと一か月もすれば製品として販売を開始するだろう。ブラジャーも新しい工房が一か所稼働を開始すると聞いた。既に店では販売を開始しているそうだ。


 ビデも増産を続けている。あと一か月程で世界各国の要人を招くことになる。今のところ、どの試みも順調に進んでいる。


 メリナ母さまの赤ちゃんは心臓が鼓動を始め、ルチア母さまの赤ちゃんと共に順調だ。


 今日は神宮へ行って生理以外の病気の現状を把握しておこうと思う。

「お父さま、お母さま、今日は神宮へ行き、一日朧月おぼろづき伯母さまに付いて、神宮へ診察に来られる患者の病気の種類などを見てきたいと思います」

「うむ。そうか、頼んだぞ」

「はい。行って参ります」

「シュンッ!」


 神宮へ飛ぶと巫女を見つけて声を掛ける。

「朧月伯母さまはもう診察に当たられているのですか?」

「はい。診察室にいらっしゃいます」

「分かりました。行ってみます」


 いきなり診察室に顔を出すと女性の診察中の場合もある。手前で止まり、壁を透視して診察室の中の様子を伺う。すると丁度入れ代わりの時なのか伯母さんだけしか居なかった。


「おはようございます。伯母さま。月夜見です」

「まぁ!月夜見さま。おはようございます。今日はどうされたのですか?」

「えぇ、一日空いたので伯母さまに付いて、どんな患者さんが来てどの様な治療をされているのか、現状を見させて頂きたいと思いまして」

「分かりました。ゆっくりと見て行ってくださいませ」


「次の方、よろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ」

「ゴホッ、ゴホッ!あ!も、もしや、神さまでいらっしゃいますか?」


「えぇ、そうです。月夜見さまですよ。でも今は気にせずに診察を受けてください。それで、今日はどの様な症状で来られたのですか?」

「は、はい。あの、咳が治まらず、息も苦しいのです・・・ゴホッ」

「あなたは先週も同じ症状で治療をしましたよね?」


「はい、治療頂いて大分楽になったのですが・・・ゴホッ、また徐々に悪くなってきたのです。ゴホッ」

「そうですか、それならば数日ここに逗留とうりゅうして治療を続けましょう」


「いえ、ここに居る訳には・・・ゴホッ・・・参りません。仕事は休めませんので。ゴホッ、今も無理を言って抜けさせて頂いているのです。ゴホッ、す、数日休むとなれば仕事を失ってしまいます。ゴホッ、ゴホッ!」


 ふむ。どうしたのだろう?風邪かな?それとも気管支炎?喘息ぜんそくかもな。いや、肺炎では?僕の専門は婦人科と産科だけでなく、舞依の病気の関係で呼吸器科も専門だ。


 ちょっと透視してみるか。その女性の肺の中を見て行くと全体的に白い影が見える。肺胞はいほうの組織が炎症を起こしている。肺炎で中程度の悪化具合だ。ここが地球なら絶対入院だな。


「前回はどの様な治療をされましたか?」

「はい。胸に治癒の力を当て、呼吸が楽になるのを確認したのですが」

「なるほど。その方は肺炎になっています。そうですね、このまま仕事を続けていれば一週間もしない内に亡くなるでしょう」


「え!私は一週間で死ぬのですか?ゴホッ!」

「えぇ、だって今、呼吸が凄く苦しいでしょう?咳も沢山でているではありませんか」

「は、はい。そうです。ゴホッ、ゴホッ!」


「伯母さま、肺炎は完全に炎症を治癒させないと、また悪化してしまうのです。そして、今はかなり悪い状況です」

「そうですね。やはり、逗留せねばなりませんね」

「でも、ゴホッ、仕事が無くなれば、ゴホッ、生きてはいけません!ゴホッ、ゴホッ!」


「そうですね。難しい問題です。では、私が治療をしてみましょうか」

「え!神さまが治してくださるのですか?ゴホッ!」

「やってみましょう」


「そこの寝台に仰向けに横になってください」

「はい。ゴホッ!ゴホッ!」

 僕は椅子の上に膝立ちして、女性の胸に手をかざし、治癒の力を掛けた。肺を透視していると、少しずつ霧が晴れて行く様に肺胞の炎症が消えて行く。


 恐らく伯母さんの治癒能力では一回の治癒では炎症を消し切れないのだ。その辺は力の大きさの差ということなのかな?だから本来は逗留させて数日間で治していくものなのだろうな。


 よし、これで完璧に炎症は消えた。あぁ、この能力が地球であったなら。と何度も思ってしまう。


「どうですか?もう大丈夫だと思うのですが」

「はい。今まで苦しかったのが嘘の様です。普通に息ができる様になりました」

「それは良かった。咳も止まりましたね。本当は今日一日くらいは寝ていて欲しいのですが。仕事に戻らねばならないなら、帰ってからしっかりと食べて早めに休んでください」

「分かりました。ありがとうございました!」

 女性は笑顔で帰って行った。


「月夜見さま。私の力が及ばすに、お力をお借りすることとなり申し訳ございません」

「いえ、それは違いますよ。伯母さまは正しく診断されて、逗留して完全に治すことを薦めたのです。本来、あの様な人は今の様にすぐに治してしまってはかえって無理をさせてしまうだけなのです」


「きちんと数日掛けて病気と向き合うことも必要なのですよ。ですが、それを言っても聞かなかったでしょう。なにせ生活がかっているのですからね」


「だからと言って仕事が休めないならば死になさい。とは申せませんから・・・あの人は運が良かったのです。今日たまたま私がここに居たのですからね」

「おっしゃる通りだと思います。月夜見さまは本当に全てを見通されるのですね」

 うん。確かに肺の中まで見通していましたからね。ある意味ではその通りですが。


「やはり、肺炎は多いのですか?」

「そうですね。月に数名は居ります」

「今後も肺炎については、神宮に逗留させて数日掛けて治癒させるのが良いと思いますよ。今日は特別です」

「はい。かしこまりました」


 そうして一日、診療に付き合ってみた。何か日本の地方都市の町医者になった気分だ。

様々な病気や怪我の人が次から次へと訪れる。医師は臨機応変に対応する。


 患者は口々に思い込みや勝手なことを言いたいだけ言って最後には何とかしろとか助けてくれとか・・・人間ってどこでも同じなのだな。


 ここはちょっと忙しいけれど、やっぱり医師の仕事って良いと思う。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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