31.望の前世と姉妹たち
お父さんがアルカディアからカラオケの機械を転移させてくれた。
葉留と新奈で何曲か歌い、見本を見せた後に弟たちに歌わせてみた。
橙華、柊花と流架は、張り切って練習を始めた。他の兄弟たちも興味津々だ。
「お父さま。地球の文化を神星に取り入れてもよろしいのですか?」
「翼。そこなのだけどね。子供たちは既に翼を通じて地球の文化に触れてしまっているからね。環境を壊すものでないならば、認めていくしかないのではないかな?」
「そうですね。特に教育や娯楽については、こちらの世界でも広めていかなければならないでしょう」
「そうだね。良いものとそうでないものを見極めながら、徐々に導入していこうと思っているよ」
「地球で用意するものがあれば言ってください。こちら向けのカラオケマシンを僕が作っても良いですよ」
「あぁ、そうだね。ダンスホールとカラオケは必要かも知れないね。では翼、頼んでも良いかな?」
「お任せください。ダンス音楽の再生機とカラオケマシンを作ります」
その日は、一日カラオケ大会となった。いつの間にかサロンの前には月の都の住民たちが集まり、物珍しそうに眺め、葉留や新奈の歌に聞き惚れ、涙を流していた。
こうして、神星にもカラオケ文化が根付くことになるのだった。
一日中カラオケに付き合った夜、望の部屋に泊った。
「望も歌は上手いんだね」
「それなりに友達付き合いでカラオケには行っていたから」
「美樹先輩も上手いの?」
「えぇ、彼女も上手よ。今度一緒に行く?」
「うん。これから機会はいくらでもあるでしょう」
「そうね」
「ねぇ、翼。結衣と新奈は前世で姉妹だったし、神さまだった。もし、私だけ違ったら・・・」
「望。僕はそんな心配はしていないよ。それにそれを確かめるためにここへ来たのだからね」
「確かめる?どうやって?」
「これからいつも通りにキスして、セックスするんだ」
「それで分かるの?」
「どうやら、それが引き金になることが多いらしいんだ。結衣はキスだけだった。新奈はセックスで絶頂を迎えた時だったよ」
「私は・・・どうなのかしら?え?でもそれなら今までだって、この二年で何度もしてきたでしょ?」
「うん。お父さまが言うには、地球では前世の記憶を取り戻し難いのではないかって、言っていたよ」
「あぁ、それで今回、私たちも招待されたのね?」
「うん。そういうこと」
「でも、何だか怖いわ。私だけ何も起きなかったらどうしよう?」
「望。地球では、三人の中でセックスの最中に一番、普通でなかったのは君なんだ。君が前世持ちでない訳がないじゃないか」
「あ。だから今朝、私に「望は大丈夫」って言ってくれたのね」
「そうさ」
「では、望。いつもの様に・・・」
「はい」
僕は望を抱きしめてキスをした。すると・・・
「あ!あぁ・・・な、何?・・・あ!・・・あら?其方は?確か・・・あぁ・・・」
望は僕の腕の中で気を失ってしまった。
もう、慌てることはない。一時間待てば良いのだ。キスをしただけだから、そのままベッドに寝かせ、望の可愛い寝顔を眺めていた。
僕が頬に触れたり、キスをして一時間過ごしていたら望は目を覚ました。
「あ。望。気がついた?」
「翼・・・わたし・・・」
「前世の記憶は思い出したかな?」
「そうね・・・でも思い出したことは少ないわ。あまりはっきりとは思い出せないみたい・・・」
「君の名前と両親の名前は分かる?」
「えぇ、それは分かるわ。私の名は璃月。父は月夜見。母は天満月。そうだわ。私の前世のお父さまとお母さまは、今のお義父さまと琴葉お母さまと同じ顔だわ!」
「そうか。やはりそうなんだね。結衣と新奈と望は三人共、千五百年前のお父さまの子だったんだ」
「良かった!私だけ仲間外れじゃなかったのね!」
「そうだね。三人は姉妹だったんだ」
「やはり、これは何か出来過ぎている感じがするね」
「え?何か仕組まれているってことなの?」
「うん。僕たちは意図的に出会わされていると感じるよ。明日、お父さまに話してみよう」
それから力の発動を確認してみたが、望は結衣と新奈と同じ力を持っていた。
「望。眠れそうかい?」
「いいえ。色々考えてしまって眠れないわ」
「では、続きをしようか?」
「嬉しい!」
僕たちは愛し合った。いつもの様に異常な程の快感に襲われ、僕の脳は冴え渡り、新たな回路が脳に浮かぶ。僕はそれを記憶しながら望に溺れていく。
「あぁ・・・望。君はどうして・・・」
「翼。気持ち良いのね?」
「あぁ、それにしてもどうしてなんだろう・・・」
「私もよ。前世の記憶が戻っても変わらないのね・・・」
そして望の中に果ててもそのままふたりは離れずにいる。
「新奈や結衣とはこうはならないの?」
「うん。ここまでではないかな」
「そんなに?」
「そんなに。だよ。明らかに違うんだ」
「どうしてなのかしら?」
「分からないね。でもこれはお父さまには聞けないな」
「そうね。ふたりのセックスの内容を人に話すのは・・・無理ね」
「ふふっ。話す訳ないさ。ふたりだけの秘密だ」
「ねぇ、もっと欲しいわ」
「ぼくも・・・」
そして、朝方まで二人はお互いの身体に溺れ合った。
朝を迎え、お父さまとお母さま、それに琴葉お母さまに念話で呼び掛け、望の部屋に来てもらった。
「お父さま、お母さま。琴葉お母さま。朝早くにすみません。望もお父さまの子であったことが分かったのです」
「望も?」
「私が呼ばれたということは?」
「そうです。望の千五百年前の名は、璃月です」
「あぁ、家系図によると僕と天満月の子だね」
「私の子・・・璃月・・・なのですね?」
「はい。お母さまは、あの時と変わらぬお姿です・・・お父さまも・・・」
「望、こちらへ」
琴葉お母さまが望を呼び、抱きしめた。
「お母さま・・・」
「望、あなたは今、幸せなのかしら?」
「はい。翼と一緒に生きて行けることが嬉しいのです」
「そう。良かったわ。翼を離しては駄目よ」
「はい。お母さま」
「望。おいで」
お父さまが望を抱きしめた。
「お父さま」
「望。前世のことで何か覚えていることはあるかな?」
「お父さまとお母さまのお顔と名前、それに・・・あと何か大切なことがあった筈なのですが・・・」
「そうね。千五百年も前のことですからね。私もはっきりと思い出せないの」
「はい。お母さま。頭の中に靄がかかった様になっていて、よく見えないのです」
「私と同じね。でもこれをきっかけにして、思い出すことがあるかも知れないわね」
「はい。そうですね。お母さま」
「望。もう念話はできるのでしょう?」
「はい」
「では、いつでも私に話し掛けてきて頂戴ね」
「はい。お母さま」
「朝食の時に皆に紹介しようね」
食堂に皆が集まり、朝食を頂いた。
「皆、昨夜分かったのだけど、望も私の千五百年前の娘であったことが分かったんだ。母親は琴葉だ。昔の名前は、琴葉は天満月、望は璃月という名だよ」
「良かった!望もなのね!」
「良かったわ!私たちは前世の姉妹なのね」
「うん。嬉しいわ!」
「お父さま。これって少しというか、明らかにおかしいと思いませんか?」
「そうだね。地球に千五百年前の私の娘が転生していても何もおかしくはないけれど、そのうちの三人が揃って翼の周囲に居て、三人共に翼の婚約者になるなんてね」
「何か仕組まれている様に思うのですが?」
「仕組まれている・・・勿論、私は知らないし、その様な操作はできないけれど・・・」
「始祖の天照さまならば、如何でしょうか?」
「ふむ。そうかも知れないね。そうだとしたら、何か必要があってそう仕組まれたのだろうね」
「その理由を尋ねることはできますか?」
「可能だよ。そこに居る天照さまの遣いであるフクロウに尋ねれば良いだけだよ。でも教えてくれるとは思えないな」
既にフクロウは首を百八十度回転させ、こちらを見ようとしない。
「これは駄目な様ですね・・・前にもこの様なことはあったのですか?」
「そうだね。天照さまは先のことをご存じの様だけど、私たちにはほとんど教えてくれないんだ」
「自分たちで考えて行動しなさい。という意味でしょうか?」
「そうだね。でも今回の様に考えても分からないことも、私たちに知られて都合が悪い事案の場合は教えてくれないんだ」
「僕らに知られて都合が悪いこと?」
「例えば、これから起こることを先に知られ、それを回避されると未来が変わってしまって困る。そんな感じかな」
「つまり、天照さまの計画通りに僕らは動かされている。ということですか?」
「全てではないと思うけれど、そんなこともあるみたいだね」
「そうですか。ではお父さまの前世の娘、三人と僕が結婚することは必然だったのでしょうか?」
「確かに出来過ぎてはいるものね。もしかしたら三人ではないのかも知れないよね?」
「え?」
僕と結衣、新奈、望が一斉に声を上げ、お父さまに向き直った。
「千五百年前、私には八人の妻が居た。家系図には、あと五人の娘が居た記録があるからね」
「あと五人!」
僕たちは絶句して黙り込んでしまった。すると琴葉お母さまが口を開いた。
「三人は皆、力が強い様ね。それならば残りの五人も既に何かしら能力が現れているかも知れないわね」
「そうだね。私の妻たちは、力を授かってから身長が大きくなって揃ったよね。子供たちも大きくなっているみたいだ」
「そう言えば、私たちの身長は三人共百七十五センチメートルで揃っているわ!」
「学校や翼の周りで三人と同じ様に背が高くて美しい娘は居るのかしら?」
「うーん。目立って大きな娘は、もう他には居ないかな?」
結衣、新奈と望もお互いに顔を見合わせて確認する様に頷いた。
「そうね。私たちの周辺には、その様な娘は居ないわね。ただ、モデル仲間には当然居るわ。でも、翼と関わることが無いと思うの」
「そうね、翼は大学に行かないし、神代重工の社屋にも行かない。社員とも接触しない様にしているから、出会いは極端に少なくなると思うの」
「では、今、そういう対象が居ないなら、もう現れないかも知れないのね」
「それもあり得るね」
「まぁ、現れたら困るのかと言われたら、困りはしないのだけど」
「そうね。妻が三人から八人に増えても私たちの気持ちは変わらないものね」
「翼、良かったわね。妻が何人になっても構わないって!」
「お母さま。僕はそんなに妻をもらう気はありませんよ」
「翼、月夜見さまも、ずっとそう言っていて、結局九人の妻を迎えたのよ」
「琴葉。余計なことは言わなくて良いのですよ」
「あら、ごめんなさい!」
「そうよね。自分でそのつもりはなくても、向こうから現れて、しかも状況的に無視できないとか、拒否できない。ってことは起こるものなのよね」
「お母さま。それって・・・」
「そうね。私のことよ。だって月夜見さまにとっては、お役目の八人の妻を迎えたところで、嫁探しは終わっていたのよ。それなのに私が現れて、状況的に断り難くなってしまったっていうのが事実ですからね」
「お父さまは、お母さまと仕方なく結婚したのですか?」
「葉留。仕方ない、なんてことはないよ。瑞希は素敵な女性だからね」
「まぁ!月夜見さまったら・・・」
「お母さま、嬉しそう!」
「葉留。お母さんをからかわないで」
「はーい」
「もしかして、僕にもお父さまの様なお役目があるのでしょうか?」
「それがお役目なのかどうかは分からないけれど、地球を救うという大きなことを自ら始めているよね?」
「あ。そうでした。でも、それが始祖の天照さまに仕組まれていたってことがあるのでしょうか?」
「うーん。そうは考え難いのだけど・・・ないとも言い切れないよね」
「でも、翼。仕組まれていたかどうかには関係なく、あなたがそれをやりたくてしていることでしょう?」
「お母さま。それはそうです。誰かに頼まれた記憶はありません。自分でそうしたくてしているのです」
「それなら良いではありませんか。今まで通り、自分の信じたことをすれば良いのです」
「はい。お母さま。そうですね」
そうだった。天照さまに頼まれたことなどないのだ。初めからもの作りが好きで自分で考えて始めたことだった。
「あまり気にするのは良くないですね」
「そうだよ。もしかしたら本当に偶然に三人揃っただけなのかも知れないしね」
「でも、私たちは姉妹だと分かって嬉しいわ」
「そうね。今まで以上に仲良くなれるし、協力していけるわ」
「姉妹で一人の男性に嫁ぐのって、蒼羽お兄さまへ嫁いだ、双子のアリーチェお義姉さまとクラリーチェお義姉さまみたいね」
「そうね、琴乃。結婚は色々な形があって良いのよ」
「私も早く結婚したいわ・・・」
「琴乃にはまだ、ちょっと早いわね」
朝食後、僕は結衣たちと四人で山の頂上へ飛んだ。
「皆、自分の力であの山の頂上まで飛んでみよう」
「え?一人で?怖いわ!」
「大丈夫。僕が付いているからね。高く飛ぶ必要はないんだ。二メートルくらいの高さで山肌をなぞる様に昇って行くだけだよ」
「分かった。やってみるわ」
皆、飛ぶというイメージがそうなのか、飛行機の様に両手を広げて、滑る様に滑空していった。
「皆、それって飛行機のイメージなわけ?」
僕は垂直に立ったまま、腕組みをして皆の前を後ろ向きに飛んだ。
「飛行機?違うわ。ピーター・パンよ」
「あぁ、なるほど・・・人が身体ひとつで空を飛ぶのって、あのイメージになるのか」
「そうでしょう?」
「そう考えたら怖くなくなったわ!楽しい!」
「そうね。これって、人が見ていないところだったら楽ができるわね」
「どんなところのこと?」
「例えば階段とか」
「そうね!」
「さぁ、山頂に着いたね」
「もう、この景色も見納めなのね」
「新奈、二度と来ないみたいな言い方だね」
「え?また来られるのかしら?」
「来られるでしょう。だって家族なのだもの。たまには会わないと」
「例えば、来年のお正月とかさ。こちらの世界にはお正月は無いのだけど、お父さまやお母さま達はお節料理も好きなんだよ。お母さまが毎年、お節料理を用意しているんだよ」
「そうなのね!是非、また来たいわ!」
「そうだね。だからさ。また来る機会はあるよ」
「そうね。私の子にも会って頂きたいもの」
「結衣。必ず僕らの子を見せに来ようね」
「それまでは、この美しい月も今日が見納めなのね」
「あぁ、ずっと見ていたいわ・・・」
「望はそんなに気に入ったのかい?」
「はっきりしないのだけど、恐らく前世の記憶なのだと思うの。きっと前世の私はあの月を眺めることが大好きだったのだと思うわ」
「それなら私もそう!ここに初めて来た時、驚きよりも懐かしさを感じたわ」
「徹は馴染めない感じだったよね」
「そうね、初めて見たら違和感しかないのではないかしら」
「私たちにとっては故郷の景色なのね」
「その月を翼と見られるなんて・・・」
「結衣、泣いているの?」
「そう言う新奈だって泣いてるじゃない!」
「あ。望も・・・皆、そんなに懐かしいんだね」
「ううん。翼と一緒なのが嬉しいのよ」
僕は涙を流す三人をひとりずつ抱きしめていった。
「翼、ここに連れて来てくれて、ありがとう!」
結衣は僕をきゅっと抱きしめて感謝を伝えてくれた。
「私、翼と出会えたことに感謝するわ。本当に幸せよ」
新奈は涙を零しながら僕にしがみついてきた。
「翼・・・私ね、思い出せないことがあるの。とても大切なことの様な気がするのだけど、思い出せなくて・・・」
「望、あまり気にしない方が良いよ。どちらにしても千五百年前のことなのだからね」
「そうね。今の私たちには関係ないことよね」
「うん。そうだよ」
「皆と姉妹で、揃って翼のお嫁さんになれることが嬉しいわ」
「うん。僕もだよ。望。ありがとう」
僕たちはその後も一時間以上、月を眺めて過ごした。屋敷に戻ると、お父さまが出掛けるところだった。
「お父さま、どちらへ?」
「あぁ、翼、急用ができたんだ。地球に戻るのは夕方でも良いかな?」
「はい。構いません」
「では、戻ってから話すよ」
「シュンッ!」
「お父さまはどちらへ行かれたのですか?」
「グースベリー王国よ。陽翔から呼ばれたの」
「何かあったのですか?」
「アネモネが前世の記憶を取り戻したそうよ」
「え?前世の記憶を?」
それから、三十分もしないうちにお父さまから僕たちに念話が届いた。
『今からここへ来て欲しい人を転移させるよ』
『はい』
「シュンッ!」
そこは、グースベリー王城のサロンだった。
王と王妃、アネモネとその両親、陽翔が居た。呼ばれたのはお母さま達全員と僕と結衣、新奈、望だった。
「皆、昨夜、アネモネは前世の記憶を取り戻した。前世の名前は羽月、父は月夜見、母は三日月ということだよ」
「三日月?月夜見さま、どなたのことでしょうか?」
その時、アネモネは舞依に駆け寄った。
「お母さま。三日月お母さま!私です。羽月です」
「私が三日月?あなたが私の娘?」
舞依お母さまは少し戸惑いながら、アネモネの差し出す手を取った。するとその瞬間、目を見開いた。
「あ!そうね。あなたは私の娘だわ!羽月ね」
「アネモネ、どうして舞依が前世のお母さまだって分かったのかな?」
「はい。お父さま、容姿は変わっていらっしゃいますが中身は同じです。感じるのです」
「今の二人は瞳や髪の色が同じだから、似ている様に見えてしまって混乱するね」
その時、アネモネはこちらへ振り向いて驚いた表情をした。
「あ!璃月お姉さま、月花と月代も居るの?」
「え?私たちが分かるのですか?」
新奈が驚いた顔で答えた。
「それに璃月お姉さまと・・・」
「えぇ、長女が璃月お姉さま、次女が私、三女が月花、四女が月代、五女が光月です」
「アネモネはそんなにはっきりと思い出せているんだね」
「はい。お父さま。でも今、思い出せるのはそれくらいでしょうか・・・」
「それだけ分かっただけでも凄いよ。家系図には名前しか書いていないから、誰が年長なのか、何歳まで生きたのか、どこへ嫁に行ったのか、何も分からないんだ」
「そうですね・・・私が今、見ているのは幼少期の記憶の様です。はっきりと分かるのは、親と姉妹の顔と名前くらいです」
「でも、アネモネは特別なのかも・・・これから力が使える様になって来たら、更に記憶が戻ることもあるかも知れないね」
「そうね。また何か思い出したら、念話で教えてくれるかしら?」
「はい。お母さま」
「では、陽翔。アネモネの力の訓練は瞬間移動を最後にするのだよ」
「はい。お父さま」
「アネモネ。何かあったらいつでも呼んでくれて構わないからね」
「お父さま。ありがとうございます」
「あ、あの!天照さま。む、娘は・・・天照さまの娘になったので御座いますか?」
「あぁ。ハリソン殿。アネモネは千五百年前の前世で、私の娘だったのです。その記憶が蘇ったので、その記憶が私を父親と認識してしまうのですよ。現在の父親はハリソン殿で何も変わりませんよ」
「そ、そうでしたか・・・」
「ただ、そのせいで私たちと同じ力も備わってしまったのです。慣れるまでは少し戸惑われることもあるでしょう」
「力が・・・では神となったのですね」
「力が備わっただけです。神と思う必要はありませんよ」
「ははーっ!」
「では、私たちはこれで失礼します」
「シュンッ!」
僕たちは月の都へ戻って来た。
「ねぇ、これで翼の奥さんは八人にはならないことが分かったわね」
「新奈、そうね。八人姉妹全員が翼の奥さんになる訳ではなかったのね」
「そうだね。少し安心したかな・・・」
「さぁ、では君たちも地球へ帰ろうか」
「はい。お父さま」
そして、三人の婚約者は前世の記憶と力を取り戻して地球へ帰った。
お読みいただきまして、ありがとうございました!