30.結衣と新奈の前世
お父さんと陽菜お母さまのダンスが終わると僕たちの出番だ。
「では、誰から踊る?」
「新奈でお願いします」
「そうね。新奈が先に踊って頂戴」
「え?いいの?」
「そうだね。では新奈、踊りましょうか?」
「はい。喜んで!」
僕たちは葉留と徹と共に、ダンスフロアへと進み、踊り始めた。望と結衣は歌で一仕事を終えた新奈を労う気持ちなのだろう。
踊り出すと新奈は音楽に乗るのが上手かった。僕はほとんどリードする必要なく、新奈に合わせるだけで良かった。
「新奈、流石だ。上手だね」
「翼のリードが上手いからよ」
「それにしても新奈。今日の歌は素敵だったよ。感動して涙が出てしまったよ」
「本当に?嬉しいわ」
「大学生になったらデビューするのだよね。あれならきっと上手くいくよ」
「そうだと良いのだけど・・・ちょっと不安だわ」
「新奈なら大丈夫だよ。応援しているよ」
「ありがとう。翼。あなたにそう言ってもらえると自信が持てる気がするわ」
「今日、気がついたのだけど、新奈って桜お母さまに似ている気がするよ」
「え?桜お母さま?あんなに美しい人に?」
「顔の美しさなら負けていないよ。でもそういうことじゃなくてさ、何て言うか・・・雰囲気かな?心が強くて真っすぐで格好良い。でも乙女なところもあって。って感じかな?」
「褒められているのかしら?なんだか嬉しいわ!」
「うん。新奈はもっと自信を持って良いと思うよ」
「分かった!ありがとう!翼」
そして、次は望と踊った。
「翼。この世界は夢の世界の様ね。何もかもが美しいわ」
「そうだね。自然のままに暮らせる様に創られているからかな」
「地球もこんな風に平和で美しい世界になるのかしら?」
「そうしたいものだね」
「翼なら、きっと実現するのでしょうね・・・楽しみだわ」
「僕一人の力ではできないけれど、実現させて神星が保険ではなくならないといけないね」
「それなら、私。結衣と同じで早く子供が欲しいわ!」
「え?望も?でも大学はあと三年あるからね」
「そうね。卒業の目途がついたらすぐに作りたいわ」
「分かった。楽しみだね」
「ところで翼、今、お義父さまと踊っているのは・・・」
「琴葉お母さまだよ」
「琴葉お母さま・・・あの方って凄く綺麗ね。引き込まれる様な何かを感じるの」
「そうかい?まぁ、確かに美しい人だよね。でも僕のお母さまにも似ていると思うんだよね」
「あ!そうね。確かに似ているわ。でも姉妹ではないのよね?」
「違うよ。お母さまは今、三十四歳。琴葉お母さまは五十三歳だからね」
「ご!ごじゅうさんさい?嘘でしょう?」
「あれ?僕、言っていなかったっけ?お父さまとお母さま方は、寿命が五百年なんだ。だから四百五十歳位まではあの姿のままだそうだよ。僕のお母さまは普通の人間の寿命と同じなんだけどね」
「信じられない・・・でもそれが神さまの証なのね・・・」
「証と言うか、特別なお役目があってそうなっているんだよ」
「そうなのね。その神秘さに惹かれるのかしら・・・」
「そうなのかな・・・」
そして最後に結衣と踊った。
「結衣。ゆっくり踊るからね。他の人と同じ様に動く必要はないよ」
「えぇ、ありがとう。ゆっくりでも楽しいわ」
「そうだね。こんな機会はそうあることではないからね」
「あら。ねぇ、あの女性って双子なのかしら?」
「あぁ、蒼羽お兄さまの奥さまで、アリーチェとクラリーチェだよ」
「双子の姉妹を二人ともお嫁さんにしたのね」
「うん。二人から愛されて、どちらかを選ぶことができなかったそうだよ」
「結婚の制度が無くて良かったわね」
「そうだね」
その時、結衣が何かに視線を奪われた。
「あ!まただわ」
「どうしたの?」
「あのね。幸子お母さまと目が合うと何か気になると言うか引き込まれてしまうの」
「あぁ、小白が結衣は幸子お母さまの子だって言っていたね。明日にでも話す時間をもらおうか?」
「うん。でも何も確証がないし、何を話したら良いのか分からないのだけれど・・・」
「小白がそう言っていたって、話すだけでも良いのではないかな?それで何かを変えるということでもないのだしね」
「そうね・・・」
「それよりも、今はこのお城でのダンスを楽しもうよ」
「えぇ、そうね。貴重な体験なのですものね」
「うん。結衣も王女さまの様に美しいよ」
「私が?うーん。私はともかく、翼は王子さまにしか見えないわ!」
「いーや。結衣も素敵な王女さまだよ」
「あ!新奈がビデオを撮っているみたいだね」
「新奈が踊っている時は私が撮っていたわ」
「葉留と新奈の歌も撮ってあるの?」
「えぇ、撮ってあるわ」
「ねぇ、後で兄弟と一人ずつ写真を撮っても良いかしら?」
「あぁ、そうだね。このダンスが終わったら、皆のところを回って撮っていこう」
そして、ダンスが終わり兄弟を見つけては携帯端末で写真を撮っていった。
「それってお父さまが撮る写真というものかい?」
「凛月お兄さま。そうですよ」
「カメラってやつの形が違うのだね?」
「そうですね。これはカメラの機能が備わった電話ですからね」
「電話?」
「僕らでいうところの念話を機械で実現したものです」
「あぁ、なるほど。地球では力がなくても技術が発達しているからそういうものがあるのだったね」
「えぇ、何でも技術が進んでいるのです」
「では、写真ができたら送ってくれるかい?」
「えぇ、送りますよ」
「それとさ。あの歌う機械は手に入らないかな?」
「お父さまなら如何様にもできると思いますが?」
「そうか。聞いてみるよ」
「皆、カラオケが気になっている様ですね」
「うん。娯楽としては良いと思わないか?」
「そうですね」
「娯楽と言えば、学校での体育祭はもう取り入れているよ」
「え?こちらの学校でも体育祭を始めたのですか?」
「僕らの兄弟が居る国には導入済みだよ」
「凄いな。それなら、チェスとか将棋、リバーシなんかのボードゲームがあっても良いかも知れないですね」
「それは興味深いな。是非、教えてくれよ」
「分りました。こちらの世界でも作れるものですから、今度、お送りしますね」
「楽しみにしているよ」
兄弟たちと写真を撮りながら楽しく歓談していたら、あっという間に結婚式はお開きになってしまった。兄弟たちは皆、伴侶と共に瞬間移動で国へ帰って行った。僕らは大型船に乗って月の都へ帰った。
こちらの世界に来ることは、そうあることではないので三泊四日の旅となっている。それに僕の婚約者に前世の記憶や力があるのかを確かめるためでもあるのだ。
月の都に戻り、賑やかな夕食の後、僕は結衣の部屋で過ごした。予め僕らの部屋は三部屋で良いと言ってあったのだ。
葉留と徹の部屋は別々に用意したが、恐らく一部屋は不要だろう。お母さまが一緒に寝ることを許可してしまった様なものだからね。
「結衣。疲れたのではないかな?大丈夫かい?」
「そうね。気が張っていたから分からなかったけど、こうして落ち着くと少し疲れたかも」
「おいで。治癒を掛けてあげるから」
ベッドに入ってきた結衣を抱きしめると治癒を掛けた。すると力が反発して押し戻されてしまう。
「あぁ、そうだった。結衣にはもう力があるから治癒を掛けられないんだね」
「そうなのね」
「でも抱きしめてキスをすれば、疲れは軽減するのではないかな?」
「えぇ、きっとそうだわ。お願い」
僕は結衣を優しく抱きしめてキスをした。すると結衣は目を見開き、驚いた顔をした。
「そ、其方は・・・あ!まさか・・・あぁ・・・」
結衣はそう言って、そのまま意識を失ってしまった。
「其方?え?結衣!大丈夫?」
『お、お父さま。お母さま!大変です!結衣が!』
『え?結衣が?』
「シュンッ!」
「シュンッ!」
すぐにお父さんとお母さんが瞬間移動して来てくれた。
「翼、結衣がどうしたの?」
「大丈夫かい?」
「今、キスをしたら・・・結衣が結衣ではなくなって、そのまま気を失ってしまったのです」
「それは・・・前世の記憶を取り戻したに違いないね」
「どうしたら良いですか?」
「恐らく一時間もすれば目が覚めると思う。その間に記憶が整理されて目覚めた時には前世と今世の記憶の両方が備わっている筈だよ」
「では、このまま寝かせて待っていれば良いのですね」
「でも、前世で辛い記憶があった場合には取り乱すこともあるから気をつけるのだよ」
「はい。分かりました」
「では、一時間したらまたここへ来るよ」
「はい。結衣が目覚めたらお知らせします」
それから丁度、一時間経ったところで結衣は目覚めた。
「翼・・・私・・・」
「結衣。気を失っていたんだ。大丈夫かい?」
「えぇ、大丈夫よ」
「今、お父さま達を呼ぶね」
『お父さま、お母さま。結衣が目覚めました』
『すぐに行くよ』
「シュンッ」
二人は一緒に居た様で瞬時に飛んで来てくれた。
「結衣。気分はどう?」
「はい。お義母さま。とてもすっきりしています」
「前世の記憶を取り戻したかな」
「はい。思い出した私の名前は、月代。お父さまは月夜見、お母さまは星月夜です」
「え?私?」
「月夜見さま。それって、千五百年前の月夜見さまではありませんか?」
「あぁ!そうか。家系図を見てみよう」
「シュンッ!」
お父さんは手元に家系図を出現させ、ページをめくっていった。
「あ。あった。そうだね。千五百年前の私と私の妻の星月夜の娘に月代という名があるね」
「では結衣は前世で私の娘だったのだね」
「星月夜さまは、今のどなたに当たるのでしょう?」
「お母さま。それは恐らく幸子お母さまです。今日、小白に結衣は幸子の子だと言われたのです」
「はい。幸子お母さまにお会いしてから何かあると感じていたのです」
「そうだったのか。私と幸子の子だったのですね。それならば今まで通り、お父さま、お母さまと呼んでくれたら良いですね」
「はい。お父さま。お懐かしゅうございます」
「おいで」
お父さんは結衣を抱きしめた。結衣はとめどなく涙を零した。
『幸子、ここに来てくれるかな?』
『月夜見さま。すぐに伺います』
「シュンッ!」
「月夜見さま。どうされたのですか?」
「幸子。結衣が前世の記憶を取り戻したんだ。彼女は千五百年前の私と幸子の娘だったんだ」
「え?やはり私の娘だったのですね?」
「うん。この家系図にある私の妻、星月夜が君で、その娘の月代が結衣だったんだ」
「そう。月代。私の娘・・・」
「お母さま・・・」
「結衣。でも、あなたの記憶にある私の顔は今とは違うのでしょう?」
「はい。違います。でもお父さまは全く同じです」
「今日、あなたに初めて会って何か気になって、思い出せない何かがある、そう思っていたの。私の娘だったのね」
「お母さま・・・」
結衣は幸子と抱き合った。そのふたりを見ていてふと思った。
「何だか、結衣と幸子お母さまって性格とか雰囲気なんかが似ていますね。今日、新奈が桜お母さまと凄く似ているなって感じたのです」
「あぁ・・・確かに!そうかも知れないね」
「言われてみると・・・もしかするかも知れないね」
「結衣。あなた念話はできるのよね?」
「はい。お母さま」
「それならば今後、困ったことや聞きたいことがあったら、いつでも私を頼って聞いてくれたら嬉しいわ」
「はい。お母さま。ありがとうございます」
「結衣。幸子お母さまは、もう何度も出産に立ち会っているんだ。結衣の出産もお願いすると良いね」
「そうね。是非、私が結衣の赤ちゃんを取り上げたいわ」
「お母さま。お願いします」
結衣はそう言って笑顔になった。
「結衣。今夜は翼と眠るわよね?」
「はい」
「では、明日は私と一緒に眠らない?」
「良いのですか?」
「えぇ、私がそうしたいの。翼。良いかしら?」
「勿論です。結衣。お母さまに甘えておいで」
「はい。ありがとうございます」
「結衣、他に思い出したことはあるかい?」
「それが、自分の名前や両親の顔は浮かぶのだけど、それ以外は白い靄の中みたいではっきりと思い出せないの」
「やはり、千五百年前だと時間が立ち過ぎているからなのかな?」
「そうなのかしらね」
それから朝まで結衣を抱きしめて眠った。
翌朝、朝食時に皆に発表した。
「皆、昨夜判明したのだけど、結衣は、私と幸子の千五百年前の娘だったことが分かったんだ」
「え!凄い!」
「え?それなら結衣お姉さまは、私のお姉さまなのね?」
「柊咲、まぁ、そんなところかな?」
「それなら、静月お姉さまと千隼お兄さまの妹ですね?」
「そうとも言うかな・・・」
「それなら、私も結衣お姉さまみたいに胸が大きくなるかしら?」
「これ!柊咲。姉妹とは言っても肉体的には関係はないのですからね!」
「柊咲。君は幸子の娘なのだから・・・大丈夫だよ」
「月夜見さま!」
「ふふっ、女の子には大事なことだよね?」
「はい。お父さま!」
柊咲は笑顔になった。
朝食後、僕たちは小型船を借り、お弁当を持って出掛けることにした。
イキシア王国の北限のサンクチュアリとフロックス王国のサバンナのサンクチュアリを訪れた。どちらも船に乗ったまま、動物たちをビデオ撮影していった。
「本当に地球の保険の星なのね・・・」
「これを見たら地球の政治家や独裁者も震え上がることだろうに」
「でも、地球の環境が守られて、人間の絶滅が回避できたなら、この星の人たちはどうなってしまうの?」
「ここはこのままだよ。地球だって環境が守られたらそれで安心という訳ではないんだ。突如として伝染病や天災で死滅することもあり得るのだからね。保険は常に用意しなければならないんだよ」
「そうだな。それにこの星の人間にだって人生はあるんだ。ここはここで確立した世界なのだから、このまま存続しなければならないよ」
それから、お父さまから教えてもらった景色の良い場所を数か所周り、お弁当を食べた。
「それにしても、あの月は美しいですね」
「本当に!ずっと眺めていたいわ」
「そうかい?僕は少し怖いな」
「徹さん。月が怖いの?」
「だって、大き過ぎて・・・今にも落ちて来そうな感じがするんだ」
「あれ?そう感じるのは徹だけか・・・他の皆はそうは感じないかな?」
「えぇ、美しいわ」
「そうね。怖いなんて思わないわ」
「私も。懐かしさを感じるくらいよ」
「あぁ、結衣は前世の記憶が戻ったからね」
やはり、新奈と望も神であった前世持ちで間違いないのだろう。この月を見ても普通で居られるのだからな。
お弁当を食べたその後も、夕方まで観光をして月の都へ戻った。
今夜は新奈の部屋で夜を過ごす。
「新奈。こちらの世界はどうだい?」
「とても美しい世界ね。自然は勿論だけど、人の心もきれいなのだと思うわ」
「では、こちらで暮らしたくなったかな?」
「いいえ。私には地球で果たすべき責務があると思うの。自分がやるべきことをするわ」
「新奈。君は素晴らしい人だ。君と一緒に生きて行けるなんて、僕は幸せだよ」
「翼。私はあなたが居るから頑張れるのよ。あなた無しには生きられないわ」
「新奈。愛しているよ・・・」
「私もよ。翼。愛してる」
ふたりは深いキスをし、そのまま愛し合った。新奈はいつもより明らかに興奮していた。僕もそれに応え、激しく深く愛し合った。
新奈は僕の上で高まっていき絶頂を迎えた。
「あぁ・・・翼・・・あ!」
がくんと力が抜けた新奈は僕の胸に突っ伏すと目を見開いた。
「そ、其方は?あ!其方は!あ!あぁ・・・」
「新奈!大丈夫?」
「あ。気を失ってしまった・・・これは・・・」
もう夜も遅い。お父さまたちを呼ぶのはやめておこう。きっと新奈も一時間したら目が覚めるだろう。僕は新奈を風呂へ運び、身体をきれいに洗ってベッドへ戻した。
ベッドで眠っている新奈の顔をしげしげと眺め、手で頬を撫でていると新奈はゆっくりと目を開いた。
「あ!・・・翼」
「新奈なんだね。さっき、新奈は別人になって気を失ってしまったんだ」
「そうなのね・・・私ね。前世の記憶を取り戻したみたいなの」
「やはりそうなんだね。それで新奈の前世は?」
「私のお父さまは月夜見。お母さまは夕月夜。私の名は月花よ。とてもとても古い昔の記憶みたい」
「あ!それって、結衣と同じだね。家系図の千五百年前の記録に夕月夜と月花という名があったよ」
「えぇ、その時の私のお母さまは確かに今の桜お母さまで間違いないわ。顔は違うのだけど雰囲気と言うか、中身が桜お母さまそのものなの」
「やっぱりそうだったんだ。新奈って桜お母さまと似ているなって、思ったのは間違いではなかったんだね」
「うん。あの素敵な人の娘だったなんて・・・とっても嬉しいわ」
「明日の朝食の時に皆に伝えよう。あ!そうだ。それなら、新奈も力が使えるのではないかな?」
「そうなの?」
「うん。念話で話し掛けるから、頭の中で応えてみて」
「分かった。やってみるわ」
『新奈!聞こえるかい?』
『わ!凄い。頭の中に声が響くのね!』
『やっぱりできるのだね。では明日起きたら少し力を使ってみようか』
『はい。ご指導、お願いします!』
「では、私と結衣は千五百年前に姉妹だったのね。そうなると望のことが心配だわ。もし、望だけ力が無かったら・・・」
「そうだね。でもね。望が一番、力があると思うんだ。大丈夫だよ」
「そうなの?でも、そうなら良かったわ」
「それで、名前や両親の顔以外に思い出したことはあるかい?」
「それが・・・頭の中が靄に包まれた様になっていてよく思い出せないの」
「やはりそうか。結衣と同じだね。その記憶が古過ぎるからみたいだね」
「そうなのね」
「さぁ、そろそろ眠ろうか?」
「私、興奮していて眠れないかも!」
「それなら、さっきの続きをしようか?」
「うん!来て!」
結局、朝方まで愛し合ってしまった。
少し、寝不足の朝を迎え、食堂に向かう前に念動力、空中浮遊、透視、治癒の力を確認した。全て問題なくできてしまった。
食卓に着く前にお父さんとお母さん、それに桜お母さまに声を掛けた。
「お父さま、お母さま、桜お母さま。おはようございます。少しよろしいですか?」
「おはよう。翼、どうしたんだい?」
「昨夜、新奈が前世の記憶を取り戻したのです。力も備わりました」
「それは、神であったということだね?」
「はい。新奈の前世の名は、月花。父の名は月夜見。母の名は夕月夜だったそうです」
「夕月夜、月花・・・それは千五百年前の桜の名・・・かな?」
「千五百年前の私の娘・・・なのですか?」
「その様だね」
「新奈。いらっしゃい」
「はい・・・お、お母さま」
桜お母さまは新奈を包む様に抱きしめた。新奈は少し赤い顔をした。
「緊張しているのね。私が怖い?」
「そ、そんなことありません」
「桜お母さま。新奈は桜お母さまにとても良く似ていると思います」
「そう。月花がどんな娘だったのか覚えていないのだけど・・・でもそうね。新奈とは、気が合いそうな気がするわ」
「はい。私もお母さまとは通じ合える気がします」
「新奈、おめでとう!あなたも力を授かったのね・・・」
望はそう言いながら、少しだけ寂しそうな表情をした。
「望、君は大丈夫だよ」
「翼・・・ありがとう・・・」
「さぁ、皆、朝食にしようか」
「はい」
僕たちは皆、食卓に着いて食事を始めた。桜お母さまの娘の萩乃が新奈に声を掛ける。
「お母さま。私ね。新奈お姉さまってお母さまみたいだなって思っていたの」
「まぁ!萩乃。そうなの?どんなところが?」
「新奈お姉さまって、格好良いのよ。立ち姿がお母さまと重なるの」
「え?そうなのかしら・・・」
新奈が恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑った。
「そうね。新奈は凛としていて美しいわ。昨日の舞台での歌も堂々としていて格好良かったわ」
「お母さま。ありがとうございます」
「後で、結婚式に参列できなかったこの子たちに歌を聞かせてあげて欲しいのだけど?」
「はい。喜んで」
「やったー!」
「カラオケね!」
「そうだね。今日は皆でカラオケをしようか」
「え?お父さま。よろしいのですか?」
「あぁ、良いとも」
そして朝食後、カラオケのレッスンが始まった。
お読みいただきまして、ありがとうございました!