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29.異世界の結婚式

 神星の兄弟、陽翔はるととアネモネの結婚式のため、神星を訪問する日となった。


 月の都に結衣、新奈、望、徹を集めた。

「シュンッ!」

「待たせたかな?」

「お父さま。もう皆、揃っています」


 お母さんも含めて、女性五人はモデルの様なスタイリッシュな服装だ。訪問着と言っていたのだが、ファッション雑誌から抜け出してきた様な格好良さだった。お母さんだけはショートパンツだが、娘たちは皆ミニスカートに膝丈のブーツだ。


 上半身はセーターやベスト、ジャケットを上手く組み合わせ、お洒落にまとめていた。これらの衣装は新奈がコーディネートしたものだ。皆、可愛く、美しい。


「皆、何だかとっても決まっているね。瑞希も綺麗だよ」

「まぁ!嬉しい!」

「ふふっ。良かったですね。お母さま」

「えぇ、そうね。新奈にお礼を言わないといけないわ。新奈、ありがとう!」

「いいえ。お義母さまが美しいから引き立つのです。良かったわ!」


 お母さんは人間と同じ寿命だが、三十四歳とは思えない若々しさだ。恐らく力があるせいなのだろう。


「さぁ、行こうか」

「月夜見さま。このままグースベリーの王城へ飛ぶのですか?」

「いや、一旦、月の都へ行って船で妻たちと一緒に王城へ飛ぶよ」

「分りました」

「では、飛ぶよ」


「シュンッ!」

「あ!瑞希!翼!葉留も!久しぶりね!」

 出現した目の前には琴葉お母さまが笑顔で立っていた。

「琴葉!」


「元気だった?」

「えぇ、ご無沙汰しています!」

 二人は抱き合って喜んでいた。その周りを見渡すと、あと七人のお母さまたちが並んでいた。


「翼。大変な活躍の様ね」

「舞依お母さま。地球を救いたいですから」

「そうね。私たちも喜んでいるのよ。あなたの活躍に期待しているわ」

「はい。ありがとうございます」


「翼、とても美しいお嬢さんを三人ももらうのね?」

「えぇ、花音お母さま。皆、素敵な女性なのです」

「皆、大切にしているのね。素晴らしいわ」

「ありがとうございます」


「望・・・信じられる?お義父さまの奥さま方の美しさ・・・」

「えぇ、新奈。信じられない程に美しいわ。私たちと同じくらいの年齢に見えるわ」

「私、ここに居ても良いのかしら・・・」

「結衣。そう思ってしまうわよね・・・」


 三人は、お母さま達のあまりの美しさに固まってしまっていた。その三人を見兼ねた幸子お母さまが声を掛けた。


「皆、如何にも地球から来た。って感じね。可愛くて、とても格好良いわね」

「あ!・・・」

 幸子お母さまが皆に声を掛けると、結衣が固まってしまった。

「あら?」

 結衣は幸子お母さまの顔を見つめたまま動かなくなってしまった。


「あなたは結衣さんね。どうしたのかしら?私の顔に何か付いているの?」

「あ!い、いいえ。失礼致しました」

 幸子お母さまが結衣の肩に手を掛けた。


「あら。あなた・・・結衣さん。妊娠しているのね。でもまだ、とても小さいわ。大事にするのよ」

「はい。お母さま・・・」

「え?今、なんて?」


「え?あ。すみません。何でもないのです・・・」

 結衣は少しぼんやりしている。


「葉留。あなた、綺麗になったのね。もう婚約者が居るのですって?それも首相の息子の」

「桜お母さま。そうなのです。こちらが徹さんです。良いお相手は早めに抑えておかないと、と思って」


「あなたはしっかりしているわね。そうね。確かに良い男の様ね」

「そうでしょう?自慢の主人になるわ」

「えぇ、あなたが付いていれば大丈夫ね」

 徹は桜お母さまに品定めする様に見つめられると真っ赤な顔になり、身動きひとつできなくなった。


「お父さま。小白は居ないのですか?」

「あぁ、居るよ。もう歳でね。最近はいつも庭で昼寝をしているよ」


「会って来ても良いですか?」

「勿論、良いよ。でもあと三十分くらいで、グースベリーへ飛ぶからね」

「はい。分かりました。皆、小白を紹介するよ」

「小白?」


「うん。可愛い奴なんだ。こっちだよ」

 皆を連れて庭園へ出た。


「うわぁー素敵な庭園!」

「なんて美しい景色なんでしょう!」

「山や川、それに池や畑まで。人も沢山、暮らしているのですね!」

「そうだよ。ここは神に仕える人々が暮らす楽園なんだ」

「素敵ね!」


「こはくーっ!」

 僕の呼び声に反応し、花壇の向こうで白銀のモフモフしたやつが立ち上がった。

「あ!あそこに居た!皆、こっちだよ」


「あ!もしかして狼なの?」

「そうだよ。北極狼の小白だよ」

「狼を飼っているの?凄く大きい!大丈夫なの?」

「望。この子はね、お父さまが五歳の時に怪我をしていたところを拾ったんだ。僕らは念話の能力で動物とも話ができるから大丈夫なんだ」


『小白!久しぶりだね!元気だった?』

『つばさ・・・げんき』

『あ!私にも聞こえるわ』

『小白。彼女は結衣だよ。僕の奥さんになるんだ』

「くんくん」

 小白は結衣の匂いを嗅いでいる。


『ゆい こども いる』

『小白。凄いね。そんなことが分かるんだね』

「くんくん」

『ゆい さちこのこ?』

『え?幸子?結衣が幸子お母さまの子だって?』


『翼。私ね。さっき、幸子お母さまに会った時、私のお母さまだと思ってしまったの』

『本当に?それで何かぎこちなかったのか?』

『どういうことかしら』

『うーん。分からないけど、もしかしたら前世に関係があるのかも知れないね』


「おーい。翼お兄さま!」

「あ!弟たちだ」

 屋敷から十六人の兄弟がぞろぞろとでてきた。


「翼お兄さま、葉留お姉さま。やっとお会いできましたね」

「皆、大きくなったね。こちらは僕の婚約者の結衣、新奈、望だよ。そちらは葉留の婚約者で徹だ」

「名前だけでも紹介しましょうか?」

「そうだね。奏良そら、紹介してくれるかな?」


「僕は十男の奏良です。こちらから、十女の萩乃はぎの、十一女の琴乃ことの、十二女の柊花しゅうか、十三女の柊咲ひさき、十四女の涼楓すずか、十五女の陽麻里ひまり、十六女の詩音しおん、ここまでが十歳」


「そして、九歳、十七女の橙華とうか、十一男の賢剛けんごう、十二男の玲司れいじ、十三男の雄迅ゆうじん、十四男の皇幹こうき、十五男の岳登がくと、十六男の流架るかに十七男の疾風はやてです」


「いつも地球の様子は見せてもらっています。地球は大変そうですね」

賢剛けんごう、そう見えるかい?」

「人間関係が大変そうです」

「私、カラオケに行ってみたいわ!新奈お姉さまも葉留お姉さまも歌が凄くお上手だから!」

橙華とうかは歌が好きなのね?」


「こちらの世界には歌の文化はまだ無いから歌ったことはないの。でもお姉さま達の様に歌ってみたいわ」

「では、時間があったら練習してみましょうか?」

「え!良いのですか!」


「あ!それなら私も歌いたいです!」

「僕も・・・」

「まぁ!柊花しゅうか流架るかも歌が好きなのね。分かったわ」

 葉留はそう二人に声を掛け、流架の頭を撫でた。


「お姉さま!」

 流架は葉留にがばっと抱きついた。

「ちょっと、流架!葉留お姉さまに抱きつくなんて!」

「いいでしょう?」

「いいわよ。流架。可愛いわね」

「えへっ」

 流架は葉留の胸に顔を埋めてご満悦だ。それを見て徹が真っ赤な顔になった。


「ちょ、ちょっと・・・葉留!」

「あら、徹さん。焼きもち焼いているの?」

「い、いや・・・それは・・・」

「流架はまだ九歳の子供なのよ、別にいいでしょう?」

「う。うん。まぁ・・・」


「さっき、徹さんだって桜お母さまを見て真っ赤な顔をしていたじゃない」

「えーっ!だってそれは・・・葉留!」

「葉留、大人げないな・・・」

「あら、お兄さま。私はまだ結婚もできない子供ですけど?」

「ふぅ。まったく・・・」


 その時、月の都の大地が海上から浮上し、空へ上昇し始めた。

「皆、あの山の上に行って浮上する様を眺めてみようか」

「えぇ、見てみたいわ」


 僕は、皆を二メートル程浮かすと、そのままゆっくりと山頂へ向かって飛んで行った。

皆、きょろきょろと周囲を見回し、笑顔になった。


「あ!あれって、うまやね。馬が沢山居るわ」

「うん。この月の都の周囲に乗馬用の遊歩道があるんだよ。乗ってみるかい?」

「え?乗馬ができるの?一度、やってみたかったの!」

「新奈は乗馬がしたいんだね。分かったよ」


 そして山をゆっくりと昇って行き、山頂に皆を降ろした。

「うわぁー大地が上昇して行くぞ!」

「海が見えるわ!きれいな海!」

「あ。あれは大陸なの?大地と離れて行くわ」

「望、あれはアスチルベ王国の大地だ。でも日本の様な島国で大陸ではないんだ」


「あの鳥居は?神社があるのかしら?」

「あれはね、神宮といって、神の住む月の都と人間界を繋ぐ場所だ。あそこには僕らの家族が巫女として派遣され、人間の病気を治療しているんだよ」

「神社と病院の役割を持っているのね」

「うん。ここの神宮には孤児院と学校、それに漢方薬の研究所と工場も備えているよ」

「人間のためになることをしているから、神はうやまわれるのね」


「あ!あれ!あれを見て!」

 新奈が空を見上げて叫ぶ様に言った。その指差す先には月が浮かんでいた。

「月が・・・ふたつあるわ!」

「ひとつには土星みたいな輪もあるね」

「しかもふたつの月がお互いに回転しているわ!」


「なんて美しいのでしょう・・・」

「だけどさ。大き過ぎないか?どうして落ちて来ないんだ?」

「徹。不思議だろう?」

「不思議なんてものじゃない!違和感でしかないよ!」

「でもきれいじゃない!」


「そ、そりゃぁ、きれいだけどさ・・・」

「まぁ、これも慣れだよ。ここは異世界なんだからさ」

「あ!そうか異世界か・・・地球と同じ銀河の中ではないのだったな」

「そういうことだよ」


『皆、そろそろ出発するから戻っておいで』

『はーい!お父さま!』

 お父さまの念話の呼び掛けに弟たちが合唱する様に声を揃えた。


「ふふっ、何だか面白い」

「あぁ、結衣にも聞こえていたんだね」

「えぇ、頭の中に皆の声が響いて不思議な感じね」


「さぁ、新奈、望。出発だってさ」

「はい。お城へ行くのね」

「あそこに見える屋敷へ瞬間移動するよ」

「シュンッ!」


「なんだか、瞬間移動にも慣れて来たな。特に驚かなくなったよ」

「そうね。身体には何も感じないものね」

「屋敷の裏側が船着き場になっているんだ、そちらへ行こうか」


 カバンを持って屋敷の裏側へ行くと、目の前に巨大船が出現した。

「うわぁー!」

「徹さん、大丈夫よ」


 徹が一人、大声を上げたが新奈たちは驚き過ぎて声も出せなかった様だ。

結衣は僕が手を引き、見せない様にしていたので、徹の声に少し驚いてしまった。徹にも言っておけば良かった・・・


「こんなに大きな船が浮いているわ!」

「新奈。ついこの前、僕が造った月光号を見たばかりでしょう?」

「あ!そうだったわ!でもあれは大き過ぎて船という感じがしないのよね」

「あぁ、そういうものかな・・・」


「さぁ、皆、乗ってくれるかな。乗ってもすぐに着いてしまうけれどね」

「すぐに着く?ここから近い国なの?」

「結衣。この船ごと瞬間移動させてしまうんだよ。次に移動したら王城の上に出現するんだ」


「シュンッ!」

「さぁ、着いたよ」

「え?もう?」

「昇降機で降りるよ」


「昇降機?」

「徹さん。エレベーターのことよ」

「あぁ、そうなの?」

「こっちよ」


「葉留。この船に乗るのは初めてだよね?」

「この身体で乗るのはね。でもお父さまの意識に入って、あちこちに行っているから、どこでも知っているわ」

「うわ!世界的なストーカーだな!」

「失礼ね。ちょっと好奇心が旺盛なだけよ」


「徹。いいかい。もう君にプライベートは無いも同然だからね」

「良いんだ。僕は葉留に全て任せているからね。それがとても楽なんだよ」

「徹がそれで良いなら良かったよ」


「そうでないと葉留ちゃんのご主人は務まらないわね」

「それは私と徹さんがお似合い。ってことね?」

「そうだよ。葉留。理想のお相手が見つかって良かったね。さぁ、降りようか」




 大型船から昇降機でグースベリー王城の庭園に降りると、王家の者たちが勢揃いして待ち受けていた。


「天照さま、ようこそお越しくださいました。本日、この喜ばしい日を迎えられましたこと、恐悦至極きょうえつしごくに存じます」

「ジェイムズ殿、パトリツィア殿。良き日となりましたね」

「ありがとう存じます。さぁ、中へお入りください」


 結婚式が開かれる大広間の上の階にあるという小広間に通された。


 天照家の家族が多過ぎて、サロンには入り切れないからだ。この結婚式に参列する成人した兄弟だけで十七人居り、その伴侶が二十人だ。それにお父さんと妻九人で四十七人にもなってしまうのだ。


 既に兄弟たちは到着していた。僕らが部屋に入って来るのを見ると、皆、お父さまやお母さま達ではなく、僕らのところへ集まって来た。


「翼!よく来たね!」

凛月りつきお兄さま!お久しぶりです」

「オービタルリングの建造が始まっているのだね」

「えぇ、全てのプロジェクトが始動しています。五年後の日本は大きく変わっていますよ」

「頑張っているな。翼は凄いよ!」


「まぁ!素敵な婚約者ね。三人共揃って、可愛く美しいのね。その珍しい衣装もとても素敵だわ」

月葉つきはお姉さま。僕としても自慢の婚約者たちですから」

「今日の衣装を是非、参考にさせて頂きたいわ!」

「気に入られたなら、お送りしますよ」

「翼!ホントに?ありがとう!」


「お姉さま達全員にお送りしますね」

「ありがとう!翼!楽しみだわ!」

「え?月音さまもあれを着るのですか?」

「ファビアン。私が着ては駄目なの?似合わないかしら?」


「いえ、似合い過ぎて困ります。これ以上可愛くなったら、僕はもう・・・」

「ちょっと、月音。そういうのは城に帰ってからふたりでやって頂戴」

 お姉さまたちは皆、新奈たちの衣装を興味津々に見つめていた。


「皆さま、そろそろお召し替えをお願い致します」

 男女に分かれて着替えに向かった。


 女性の着替え室では、また新奈たちに注目が集まった。皆が新奈たちを取り囲んであれこれ質問している。その姿を見ていた幸子お母さまがぼんやりとしていた。


「幸子。どうかしたの?」

「琴葉・・・うん、あの結衣ってを見ていると何か忘れている様な、何か思い出しそうで思い出せない、もどかしい気持ちになるの」

「まぁ・・・何かしら?後でもっとお話ししてみたら?」

「そうね・・・」




 そして結婚式は始まった。大広間に通され、壇上にはお父さまとお母さま達が並んだ。

お相手側は国王と王妃、アネモネの両親のハリソン王子とマティルデ王女が並んだ。


 宰相さいしょうから紹介され、白い燕尾服を着た陽翔はるととやはり純白のドレスを着たアネモネが登場した。


「まぁ!なんて美しいお姫さまなの!」

「あの美しい髪!地球ではそうは見られない色よね。ウェーブのせいでより輝いて見えるのね」

「でも、ストロベリーブロンドは、お義父さまの奥さまにも多くない?」

「そうね。三人いらっしゃるわ。この世界には多いのかしら?」


「あれはお父さまの好みなの」

「葉留ちゃん、そうなの?」

「え?じゃぁ、翼もあの色が好きなのかしら?」


「新奈、僕は女性の髪の色にこだわりはないよ」

「良かった!ストロベリーブロンドにしてくれって言われたらどうしようかと思ったわ」

「そんなこと言わないよ」


 まずは結婚の宣言からだ。お父さんが壇上中央に立つと会場は静まり返った。

お父さんの横に陽翔兄さんとアネモネが並び立った。


「皆さん、本日は私の息子、陽翔とアネモネ王女の結婚式に参列頂き、ありがとうございます」


「ここに陽翔とアネモネの結婚を認めます」


「わぁーっ!アネモネ王女、おめでとうございます!」

「陽翔さま、おめでとうございます!」


 アネモネは壇上で参列者に向かって頭を下げ、スカートをつまみ上げて美しいカーテシーを決めた。その姿は十六歳とは思えない程に大人の淑女だった。


 会場の祝福の声が収まってきた時、宰相から葉留と新奈が紹介された。

「皆さま、陽翔さまからのご依頼で、陽翔さまの妹君、葉留さまと新奈さまより、歌の贈り物が御座います」

「歌の贈り物?」

「歌って何?」

 神星では歌の文化が無いので、会場の貴族たちは困惑した表情となりざわついた。


 葉留と新奈が壇上へ向かうと、頼んでおいた音楽の再生装置が運ばれてきた。

マイクを繋げて電源を入れると葉留はマイクをトントンと叩いて確認した。


「陽翔お兄さま、アネモネ。お二人の幸せを願って歌わせて頂きます」


 音楽が流れ出すと貴族たちは更に驚き、動揺した。オーケストラが演奏していないのに音楽が聞こえてきたのだから驚くのも無理はない。選曲は英語の歌だと皆、分からないので日本のアーティストの恋の歌を選んだ様だ。


 葉留が歌い出すと、ざわついていた会場は静まり返り、葉留の歌声に引き込まれていった。男性陣は皆、口をポカンと開けたまま呆気あっけに取られ、女性陣は胸の前で手を組み、涙ぐんで聞いていた。


 アネモネも同様に感動している様子だ。ふと隣の徹を見ると、ビデオカメラで撮影しながら号泣していた。

それ程までに神々しい姿に見えるのだろう。それにお城の大広間の構造上、葉留の美しいソプラノの歌声が教会の様に響き渡るから尚更だ。


 歌い終わると、大きな拍手と歓声が響いた。壇上でスカートをつまみ上げ、深々と頭を下げる葉留は天使の様に美しかった。


 続いて新奈の番だ。少し緊張した顔をしているが、モデルで人前に出ることに慣れているし、歌のレッスンも積んでいる。大学生になったらデビューすることも決まっているので、これは良い練習になるのではなかろうか。新奈は自分が好きな日本の歌姫と呼ばれるアーティストの曲を選んだ。


 葉留に負けない声量と迫力で聞く者を圧倒した。葉留の歌で泣かなかった人も新奈の歌声でノックアウトされ、涙をこぼした。僕も涙が溢れてきてしまった。新奈が歌い終わると数秒間の静寂があり、その後、爆発的な歓声と拍手が起こった。


 新奈はビクッと身体を硬直させたがすぐに気を取り直し、葉留に見習って挨拶をした。すると葉留が新奈に駆け寄り声を掛けると、二人で並んで再び挨拶をした。五分間は拍手が鳴り止まなかった。


 アネモネが二人に駆け寄りひとりずつ抱きしめた。そして、葉留と新奈と笑顔で一言二言、言葉を交わしていた。

「葉留さま。美しい歌声。素晴らしかったです!ありがとうございます」

「おめでとう。アネモネ。幸せになってね」

「新奈さま。心が震え感動しました!ありがとうございます」

「アネモネ。おめでとう。お幸せに!」


「新奈さま。またお会いする機会がある様な気がします」

「え?そうなのですか?」

「えぇ、きっとそうなります」

 アネモネの意味深な言葉に戸惑いながら新奈は葉留と壇上から降りた。


 そしてダンスの時間となった。オーケストラの楽団が入場し、音楽がかなでられた。壇上から降りる階段の前で陽翔が待ち受け、アネモネをエスコートして大広間の中央へ進んだ。


 主役の二人は優雅に美しく踊った。それを見て新奈たちは感動していた。

「あぁ、これがお城の舞踏会なのね・・・素敵!」

「本当に!夢を見ている様だわ。見て!あの貴族の衣装を!」

「そうね。映画で見た中世の貴族そのものね」

「映画の撮影に紛れ込んだみたいだわ!」


「それにしても、アネモネって美しいわね」

「アネモネって花の名前よね?花の様に華やかな女性ね」

「ねぇ、次は私たちも踊るのでしょう?凄く緊張するわ」

「そうね。私、翼の足を踏んでしまいそうだわ」


「お姉さま達、次はお父さまが踊るのよ。私たちはその次ね」

「そうなのね」


 主役のダンスが終わると、お父さんと新郎の母、陽菜お母さまがダンスを始めた。

お父さんが踊り出すと、それを見ていた貴族のご婦人たちが次々と失神して運び出されていった。


「な、なんて美しいのかしら・・・」

「私も意識を保つので精一杯だわ・・・」

「わ、私、目を閉じていてもいいかしら・・・」

「結衣、危ないから僕に掴まっていて」


「お父さまが踊ると必ずこうなってしまうの。仕方がないわ」

「葉留ちゃんは大丈夫なのね?」

「私は見慣れていますからね。それに父親なのですから」

「そ、それはそうよね。ごめんなさい。変なことを言ってしまったわ」


 翼とのダンスが迫って来て、結衣、新奈、望は緊張の度合いを高めるのだった。

お読みいただきまして、ありがとうございました!

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