28.結衣の妊娠
新奈たちの受験も終わり、卒業の目途が立ったので僕と結衣は子を作ることにした。
結衣とは卒業と同時に結婚し、僕は戸籍上、九十九 翼となる。
卒業まで二か月だ。今、妊娠しても卒業式の時にはまだお腹は目立たない。
結衣がどうしてもそうしたいと懇願するので僕も同意したのだ。
「結衣。確かに排卵している様だね。本当に受精させて構わないんだね?」
「はい。お願いします。私はこの日を待ち続けていたの」
「うん。分かったよ」
結衣は始めて間もないうちに絶頂を迎え、明らかにいつもと違う様子だった。
「翼。もう大丈夫だと思う」
「うん」
ふたりは深く愛し合い。やがて果てた。
結衣は僕にしがみ付く様に抱きつき、離れまいと必死な様に見えた。
「結衣。大丈夫?何かいつもと違うね」
「うん。なんかね、ずっと夢見ていたことが叶ったのが嬉しくて・・・」
「もう妊娠したみたいな言い方だね・・・」
「分かるの。きっと・・・必ず、授かるわ」
「何だか、不思議な感じだね」
「えぇ、とっても不思議。これが何かは分からないけれど・・・」
「結衣。愛しているよ」
「翼。愛しています。一生あなたの傍を離れないわ」
「うん。僕も結衣にずっと一緒に居て欲しい」
ふたりはきつく抱きしめ合ったままキスをし、そのまま眠りに落ちた。
その二週間後の朝、異変は起きた。
『翼!翼!』
うん?これは結衣の声だ。常に結衣、新奈、望とは意識を繋げているから強く念じれば僕に伝わる。でもこれはいつもと違う。明らかに念話の様にはっきりと声が聞こえるのだ。
『結衣?どうしたの?自分の部屋かい?』
『えぇ、今、目が覚めたところなの』
『結衣。これは念話じゃないかな?どうして結衣が念話を?』
『今、ここに来られる?』
『分かった。そちらへ飛ぶよ』
「シュンッ!」
「翼!おはよう!」
「おはよう!結衣」
「翼。私、きっと妊娠したと思うわ」
「え?あ。じゃぁ、ちょっと診察してみようか・・・」
僕は結衣の子宮を透視した。そこには着床した受精卵が胎芽に成長していた。
「結衣。おめでとう。妊娠しているよ。でもまだ二週間だね。やっと着床が完了して結衣の身体と繋がったところかな?でもどうして分かったの?さっきも念話みたいに話せたし・・・」
「翼、私ね。夜明けにあなたの子と私の身体が繋がったのが分かったの。それで目が覚めたのだけど、すぐに頭が混乱して意識を失う様に眠ってしまったわ」
「でもさっき、目が覚めたらすごくすっきりしていて、何か力がみなぎってくる感じがしたの」
「え?それって・・・どこかで聞いたことがある様な・・・」
「結衣、ちょっと念話で話してみようか」
「え?念話?どうやるの?」
「頭の中で僕を意識して、声に出さずに話し掛けてみて」
「分かったわ。やってみるわね」
『翼!聞こえるかしら?』
『うわ!聞こえるよ!やっぱりこれは念話だね』
『え?できているのね?』
『うん。それじゃ、空中浮遊は?いつも僕が身体を浮かせるみたいに自分でやってみて』
『え?そんなこと、できるかしら?』
すると結衣は少し難しい顔をしたと思ったら、ゆっくりと浮遊し始めた。
「うわ!結衣!できてるよ!」
「本当!できちゃったわ!」
「これは大変だ!お父さまとお母さまに知らせないと!」
「大変なことなの?」
「それはそうだよ!」
「でも、これってあなたの子を授かったからじゃない?この子の力なのでは?」
「え?そんなこと聞いたことないよ!」
『お父さま!お母さま!大変です。すぐ来てください!』
『翼?こんなに早くどうしたの?』
『翼。何かあったのかい?』
『結衣が、結衣が大変なんです!』
「シュンッ!」
「シュンッ!」
「翼!結衣がどうしたの?」
「一体どうしたというんだい?」
「お父さま、お母さま。急にすみません。実は結衣が妊娠したのですが、力が使える様になっているのです」
「妊娠!?」
「力が使えるって?」
「翼。まだ高校を卒業していないのに妊娠ですって?」
「お母さま。結衣は前々から子供を欲しがっていたのです。今からなら卒業まで一か月と少しですし、卒業式でお腹も目立ちませんから」
「それは二人が決めたことなのだから構わないよ。それより力が使えるってどういうことかな?」
「あぁ、お父さま。まず、念話ができます。それにさっきは空中浮遊もできました」
「それは何故だか理由は分かるのかな?」
「あの・・・夜中に翼の子が私の身体に繋がったのだと思います。それで目が覚めたのですが、その瞬間は頭が混乱してすぐに気を失ってしまったのです。そして朝、目覚めたら頭がすっきりしていて、力がみなぎる様な感じがしたのです。それで翼を呼んだら頭の中で会話ができたのです」
「そうか。では私たちとも念話で話してみようか?」
『結衣。聞こえるかい?』
『はい。お義父さま。聞こえます』
『本当だわ!結衣、念話ができる様になったのね!』
『はい。お義母さま』
「本当だね。では空中浮遊をしてみてくれるかな?」
「はい」
結衣はその場で天井近くまですすっと浮かび上がり、ゆっくりと降りてきた。
「力の強さを見てみようか」
お父さんはそう言って、結衣の肩に手を当てた。治癒の力を掛けて反発する力を見ているのだろう。
「うん。これは・・・翼と変わらないくらいの力があるね。葉留よりもずっと強い」
「え?葉留よりも強い・・・僕と同じ?」
「結衣。今朝目覚めたら前世の記憶が蘇っていなかったかな?」
「前世の記憶・・・私・・・前から翼を知っていたみたいです。でもぼんやりしていてはっきり分からないのです」
「そうか。かなり昔に異世界で神だったのだろうね。あまりに古い記憶ではっきりしないのだろう」
「琴葉の時の感じなのですね?」
「そうだね。琴葉が天満月だった、千五百年前の記憶がはっきりしないのと同じなのではないかな?」
「でも、力は戻ったのですね。でもきっかけは何だったのでしょう?」
「結衣の言う通りならば、翼の血が子を通して結衣に入ったからではないかな?」
「それは初めて聞きますね」
「え?普通は何がきっかけで前世の記憶や力が戻るのですか?」
「え?そ、それは・・・」
お母さんは真っ赤な顔になった。
「それはね。キスだけとか、セックスしてとか、セックスで絶頂を迎えた瞬間とかだったな。人によって違うのだけど、要するに粘膜とか体液の交わりがカギなのかな?」
「月夜見さま!」
「あ。え?これ言っては駄目だった?瑞希はキスだけだったよね?」
「もう!月夜見さまったら!」
「うわぁーお母さま!真っ赤だ!」
「翼!お母さんをからかわないで!」
「あ!そうか!お父さま。望とセックスすると僕の頭が凄く冴えるんです。望も初めての時に何か別人になった様な感じがありました」
「それでは、望も神だったのかもしれないね。その後、変化はないのかい?」
「確認はしていないですね。でも僕としては新しい研究が進んでいて助かっているのです」
「そうか。もしかしたら地球では記憶や力を取り戻し難いのかも知れないね」
「では神星でそういうことをしたら、すぐに記憶と力を取り戻すかも知れないのですね?」
「はっきりとそうだとは言えないけれど、可能性はあるかも知れないよ。行ってみるかい?」
「え?僕だけでなく、結衣たちを連れて行っても良いのですか?」
「丁度、もうすぐ陽菜の息子の陽翔とアネモネの結婚式があるんだ。皆、出席したらどうかな?」
「え?異世界の結婚式?私も行けるのですか?」
「結衣。行ってみたいかい?」
「それは勿論!中世の貴族社会みたいな世界なのですよね?新奈や望だって行きたいに決まっています」
「分かったよ。それならば葉留のお相手も連れて行こうか」
「徹もですか?」
「葉留だけ婚約者を伴わないのは変でしょう?葉留は結婚するアネモネと同い年だ。それに徹君は首相の息子なんだ。向こうの世界に照らし合わせれば王子みたいなものだろう?」
「王子・・・ぷっ!徹が王子?ちょっと品性が・・・まぁ、でも彼にも向こうの世界を見てもらうのは良いかも知れません」
「翼、娘たちにドレスを用意しなければならないわね」
「翼と徹君にはタキシードと燕尾服で良いかな」
「葉留の分も併せて用意しておきますね」
「それでは、娘たちに宝石が必要になるね。日本で買うと金額的に問題があるかな・・・翼、結衣たち三人の宝石を私が用意しても構わないかな?」
「それは勿論、構いません。僕に選べるとも思えませんので。あ。でもお金ならお支払いできます」
「翼。これは結婚のお祝いとして受け取って欲しいな」
「お母さま。よろしいのでしょうか?」
「翼。良いのよ。頂いておきなさい」
「はい。お父さま。ありがとうございます」
善は急げとなり、その数日後。もう卒業まで学校に登校する日が少なくなっていたある日、お母さんと葉留、新奈、結衣、望と徹で買い物に出掛けた。
その店は青山にある高級なブティックで、ウエディングドレスも扱っている。
「今日は訪問着と結婚式に出席するドレスを用意しましょう。訪問着については好きな色やデザインで選べば良いと思うけど、結婚式のドレスは胸元が開いたもので宝石が見えるデザインを選ぶのよ」
「え?そんな宝石は持っていないのですが・・・」
「新奈、結衣、望。宝石は月夜見さまが、あなた達の結婚祝いにご用意くださいます」
「え?天照さまが私たちに宝石を?」
「えぇ、遠慮なく頂きなさい。それでね、私の推測だと三人共にブルーサファイアとダイヤモンドを使ったものになると思うわ」
「お母さま。何故、お分かりになるのですか?」
「翼の瞳の色に合わせるに決まっているわ」
「あぁ、なるほど・・・」
「では、きっと私のもそうですね」
「えぇ、葉留。そうなると思うわ」
「それならば、ドレスはブルー、ホワイト、シルバー、ピンク辺りが合うかしらね」
それからドレス選びに三時間以上掛かってしまった。皆、ひとつ気に入ると、僕にこれはどうかと聞いて来る。だけど、どれも良いに決まっている。だって着る人が美しいのだから。
徹も葉留に付きっきりでドレス選びに夢中だ。
結局はお母さんが、異世界に無い生地とかデザインのものを皆にアドバイスして決めていった。そして、お母さんもドレスを一着、注文していた。試着したお母さんに新奈が感嘆の声を上げる。
「お義母さま!なんて若々しくてお美しいのでしょう!」
「新奈。そう見える?」
僕もお母さんの美しさには驚いた。
「えぇ、お母さま。まだまだお綺麗ですね。いつもそういう恰好をしていたら良いのに」
「まぁ!翼。ありがとう。そうしたい気持ちもあるのだけど、流石に動き難いのよね」
「それならば、お父さまがいらっしゃる時だけでもそうしてください」
「考えておくわ」
次に僕と徹のタキシードと燕尾服を作りに仕立屋へ入った。
ここでは徹にはお母さんと葉留が、僕には新奈と望がついて自動的に色やデザインが決められて行った。
結衣は妊娠初期でもあるので、椅子に座ってお茶を飲みながら、たまに笑顔で口出しをしていた。
それから靴屋とカバン店に寄って買い物を済ませた。買い物を済ませた僕たちはカフェに入って休憩した。奥にある四人席ふたつに座り、こそこそと話した。
「それにしても、私たちが異世界へ行って、お城で神さまと王女さまの結婚式に参列するなんて・・・夢みたいだわ」
「そうね、望。お城での結婚式なんて日本ではあり得ないものね!」
「あぁ、そうだわ。向こうの結婚式ではダンスを踊るのは当たり前なのだけど、皆、踊れるのかしら?」
「え?それって、ソーシャルダンスっていうものですか?」
「そうね。でも地球の様に色々なダンスはないの。ワルツが踊れたら大丈夫ね」
「どうしよう。踊ったことがないわ!」
「でも、翼とお城でワルツが踊れるのね!素敵!」
「え?俺も踊らないといけないのかな?」
「そうよ。徹さん!練習しましょう!」
「そうね。月の都のサロンで練習しましょう。結衣はゆっくり踊れば良いわ。無理をしてはダメよ」
「はい。お義母さま」
「それと、新奈と望には、もうひとつ目的があるわ」
「え?何でしょうか?」
「翼。説明して頂戴」
「あぁ、皆、異世界の神は、生まれ変わってもその力を維持しているんだ。人間として生まれ変わっても記憶が封じられているだけで、何かをきっかけとして記憶の封印が解かれて前世を思い出し、神の力が使える様になったりするんだ」
「へぇ、凄いのね」
「それでね。結衣が妊娠したことは皆、聞いたと思うのだけど、結衣の身体に僕の子を通して血が流れたことで結衣の封印が解かれたみたいなんだ」
「え?結衣は前世で神だったの?」
「そうなんだよ。今では念話、念動力、空中浮遊、透視に治癒能力も発現しているんだ。お父さまに診てもらったら僕と同程度の力があるそうだよ」
「え?それじゃ、結衣も瞬間移動ができるの?」
「今は力の制御の練習中なんだ。上手く使える様になったら瞬間移動もやってみる予定だよ」
「では、前世の記憶も思い出したの?」
「それは、はっきりしないの。でも多分、翼と関わっていたのは分かるのだけど」
「それでね。お父さまが地球では記憶が戻り難いのではないかと言うんだ。望も明らかに何かありそうだから向こうの世界で確認したいんだ」
「私も?そうね・・・確かに、翼と・・・あ!何でもない!」
「なぁ、その記憶を取り戻すってどうすればできるんだ?」
「徹さん!」
「え?聞いては駄目だった?」
「あぁ、いや、力がある者とキスとかセックスをきっかけに取り戻すことができるらしい」
「あ!そ、そうなのか・・・」
徹が真っ赤な顔をしている。
「ちょっと、葉留!もしかしてもう経験済みなの?」
「いいえ、まだしていないわ。ね。徹さん?」
「はい!まだです!」
「翼、私とは・・・何も無いわよね・・・私はただの人間なのね・・・」
「新奈。そんなこと気にしないで。それにまだ分からないしね。望もね」
「うん。そうだけど・・・でも結衣はやっぱり、特別だったんだわ・・・」
「新奈。私とあなたで変わることなんてないわ。気にしないで」
「あ。ごめんなさい。私ったら・・・」
そうか、もし結衣だけでなく望も神の生まれ変わりだとしたら、新奈は取り残された様な気がしてしまうのかな。これは確かめるのが少し怖くなってきたな。
それからは進学も決まったので、暇さえあれば月の都へ集まりダンスの特訓をした。
僕と葉留は踊れるので、葉留は徹に付きっきりで指導をする。僕はお母さんとアンドロイドのエリーの三人で、結衣、新奈、望にマンツーマンで教えた。
結衣はお母さんにお願いし、力を入れずに軽く流すだけで良いと教えた。
新奈と望には僕とエリーで交代しながら教えた。新奈は歌もダンスも習っているからすぐに覚えた。望もジャンルは違うがダンス部だったのでリズムに乗るのは得意だった。
徹も運動神経が良いし葉留の教え方が良かったのかすぐに踊れる様になり、神星に行く数日前には皆、本番の時のドレスを着て踊った。
「皆、素敵だね。とても良く似合っているよ」
「翼も素敵!ちょっと素敵過ぎて、直視できないわ」
「新奈。何を言っているの。君も美し過ぎるよ」
「シュンッ!」
「あ!月夜見さま!」
「あ!お父さま!」
「お義父さま!」
「あ、お、おとうさ・・ま」
「おと、お義父、さま・・・」
皆、まだお父さんに慣れない様だ。緊張して声が上ずってしまう。
「皆、久しぶりだね。明後日は神星に出発だね。今日はプレゼントを持ってきたよ」
「葉留。婚約おめでとう。ネックレスだよ」
「お父さま!ありがとうございます!」
葉留はお父さんに飛び着いて頬にキスをしていた。
「さぁ、結衣。これをどうぞ。もうすぐ結婚だね。妊娠もおめでとう。赤ちゃんを大事にしてくださいね」
「はい。お義父さま。ありがとうございます」
「望。これをあなたに。婚約おめでとう。翼を頼みますね」
「は、はい。お、お義父さま。あ、ありがとうございます」
「新奈。これをあなたに。婚約おめでとう。焦らないでも大丈夫ですよ」
「は、はい!お義父さま。ありがとうございます」
「さぁ、皆、頂いた宝石を身に着けて鏡で見て御覧なさい」
「シュンッ!」
お母さまが自分の部屋から姿見の鏡を転移させた。
「うわぁ!素敵!お父さま!ありがとう!」
「うん。葉留。とても似合っているね」
「こ、これ!ネックレスだけじゃないわ!イヤリングと指輪もある!」
「そ、それも・・・こんな素敵でお高そうな宝石、見たこともないわ!」
「わ、私・・・宝石に完全に負けているのではないかしら・・・大丈夫かな?」
「皆、何をこそこそ言っているのですか?あなた達は翼の妻になるのでしょう?これくらいの宝石に負けていては翼の隣に立てませんよ?」
「は、はい!お義父さま!」
「す、すみません!」
「私が間違っていました!」
「良いのですよ。でも鏡の前に立って御覧なさい。あなた達はとても美しい。大丈夫ですよ」
「皆、本当に綺麗だよ。宝石が君たちを引き立ててくれるんだ。宝石を身に着けるのが当たり前だと思えば良いんだよ」
「翼、ありがとう!自信を持つわ」
「あぁ、そうだ。新奈。君にお願いがあるのだけど。良いかな?」
「はい。お義父さま。どんなことでしょうか」
「陽翔とアネモネの結婚式の席で、一曲歌ってもらえないかな?」
「え?私がお城の結婚式で、神さまや王さま、お姫さまの前で歌うのですか?」
「うん。子供たちがね、新奈が来るって知ったら是非、歌を聞いてみたいって言うんだ」
「私が歌うことを知っているのですか?」
「そうなんだ。私も不思議に思って聞いてみたら、カラオケで歌っているのを翼の意識に入って見ていたみたいだよ」
「まぁ!なんてこと!」
「それなら私も歌うわ。新奈お姉ちゃん、一曲ずつ歌いましょうよ」
「え?葉留ちゃんも歌ってくれるの!それなら・・・分かりました」
「お姉ちゃん、私が曲の再生装置を持って行くわ。歌う曲の音源をUSBメモリに保存して持ってきてくれる?」
「えぇ、分かったわ」
「なぁ、翼、それってビデオカメラを持って行って撮影しては駄目かな?」
「あぁ、構わないけれど、動画を公に出しては駄目だよ?」
「そんなことしないよ。僕が家で葉留の歌う姿をエンドレスで観るんだ」
「徹さん!それはそれで十分に恥ずかしいわ!」
「え?でもいつでも葉留を見ていたいから・・・」
「もう!徹さんったら、甘えん坊なんだから・・・」
「ちょっと、そういうのは他所でやってくれないか?」
「翼。携帯端末は持って行っても良いの?」
「構わないけれど、ネットは繋がらないよ?」
「写真を撮りたいだけよ」
「あぁ、カメラ代わりということだね。問題ないよ」
「では、翼、明後日の朝十時にここへ皆を集めておいてくれるかな?」
「はい。お父さま」
皆、ドレス姿のまま、家に転送した。
「シュンッ!」
「お父さま、お母さま。ただいま帰りました」
「な、何?新奈!どうしたの!そのドレスは!」
「明後日から異世界へ行くでしょ?結婚式に出席するためのドレスよ。それにこの宝石は天照さまからの贈り物なの」
「まぁ!な、な、何て大きな宝石!これは何の石なの?」
「ブルーサファイアとダイヤモンドだそうよ」
「こんな大きなものは見たことがないわ!何千万円かするわよ!」
「そ、そんなに?」
「このドレスだって!百万円では買えないわね」
「これはお義母さまが買ってくださったの。でも妹の葉留ちゃんと私たち三人皆によ」
「何て経済力なのかしら・・・それとも資産とか財産?」
「ちょっと、お母さま。お金のことばかり言うなんて失礼よ!相手は神さまなのよ?」
「あ!そ、そうだったわね・・・私としたことが・・・ほほほっ!」
「それにしても素晴らしいね。美しいよ。新奈。幸せそうだね」
「えぇ、お父さま。私、とっても幸せよ」
社長令嬢とは言え、日本の家庭なんてこんなものだろう・・・
お読みいただきまして、ありがとうございました!